日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 005

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NBS側としても、俄然秋津州軍の取材に励む。

さすがに航空機内の取材に関してだけは、許された時間が限られてはいたが、おおよそのことは明らかになった。

今回投入された全兵力は一個小隊、兵員千人、これは通常の兵制上の小隊単位に比べ圧倒的に多い。

降りてきたのは「SS六-一」と呼ぶ兵員輸送機であり、一個小隊の兵員の他に乗員は二十名とされた。

又、小隊単位の兵装として取材を許されたものの一つに「D二」と呼ばれるものがあった。

椎の実型の形状を持つその「兵器」は、薄い暗褐色を呈し、直径三センチ、長さ六センチほどの大きさのもので、一個小隊あたり十万機が配備されていると言う。

ほかに「G四」と呼ばれる超小型のものが一千万機備わり、形状だけは「D二」と相似形であったが、サイズが極めて小さく直径一ミリ長さ二ミリほどでしかない。

驚くべきことに、この「D二」「G四」は、ともに自律的な飛行が可能であると言う。

上空で待機していた他の一機は兵站補給専用の意味合いを持ち、名称は「SS六-二」、諸々の設備機材を搭載し乗員は二百名、この二機編成の「小隊」が秋津州軍の最小単位なのだ。

主として機外で活動する戦闘員が千人、機内に残って兵站援護にあたる兵力が二百二十人、それに十万の「D二」、一千万の「G四」と言う陣容であり、ほかに重火器類の装備などは一切見当たらない。

これを機会に国王専用機でさえ取材を許されたが、やはり円盤型の形状を持ち、その径八メートル、高さは三メートルほどで比較的ずんぐりとしており、その搭乗定員数は十二名ほどだとされ、挙句全機種とも滑走路を必要とせず垂直離発着を常とし、かつ水中での運行まで可能にしていると言う。

なお、航続距離、高高度上昇能力、最高速度、旋回能力、動力源、「D二」「G四」以外の搭載兵器、通信技術等のデータまではさすがに公開されることはなかった。

尤も、何れの国家といえども、これ等のデータについて全ての真実を開示するような例は無く、これとてもメディア側に特段のストレスを与えるほどのものでは無かったであろう。

それどころか、その後も秋津州は極めて親和的な姿勢を示し、これ等ハイレベルの軍事機密を除いては、撮影禁止場所などというものは一切存在せず、遂には国王自身の居室にまでカメラが入るまでになったのだ。

住民個々のプライバシーさえ尊重すれば、いずれの場所も立ち入り可能であり、加えて食事についても、殆ど違和感の無い食材の入手が可能なことが明らかになるに及んで、メディア側はそれまで全くの無償であった種々の費用についても負担することを申し出た。

彼らにしても、いよいよ永続的に新島に滞在して支局を運営する方針を固めたものであろう。

当然、通貨の交換レート問題が大きく浮上することになったが、これも又国民議会の「金融・通貨制度」に関する論議に俟つほかはなかったのである。


一方で、秋津州側が矢継ぎ早にカードをめくってくる為に、大統領のマシーンの間では「秋津州脅威論」が高まり、より有効な戦略が論議され始めていた。

幸い相手側に米国に対する警戒感や嫌悪感は一切見当たらず、唯一滞在を許されているメディアにしても米国系のNBSである。

加えて、その扱いには好意すら感じるほどであり、ワシントンとしても積極的にそのルートを活かすべきであろう。

また、そのためにも秋津州国王を公式に招待すべしとの声があがり、早速その打診をすることとなった。

ワシントンは実効的な動きを見せ始めたのである。

とにもかくにも、かの国には、高度の軍事機密を除けば、国内事情について秘匿しようとする意図が、全くと言って良いほど感じられないのだ。

さまざまに無償のサポートを享受しながら、独占的な取材を許されたかたちのメディアは、当然この国に対しては好感を抱かざるを得ず、ある意味バイアスの掛かった情報を発信していくことになるのも無理からぬことであった。

その結果、少なくとも一般大衆の好感度ばかりは依然として高まって行くに違いない。

何しろ、今回出現した怪力無双の空飛ぶ兵士とまるでUFOのような航空機の与えたインパクトには凄まじいものがあり、各国の当局筋は当然深刻に受け止めたのだが、それに引き替え一般大衆の反応はまったく対照的で、単にその好奇心を煽ろうとするかのような報道にも誘導され、警戒心を持つどころか、かえって支持層を広げてしまったかのようであった。

特に米国においては、大衆レベルの圧倒的な親秋津州論とは大きく食い違い、大統領のマシーンの描く戦略絵図が大幅な変更を余儀なくされるに至り、そのための判断材料や影響力の不足があせりと苛立ちを生んで、その空気の中からは、秋津州に対する否定的な議論が数多く行われるまでになって来ていた。

しかし、現地メディアにとっての行動規範はまた別モノであり、クルーは勇躍して取材を続けることになる。

そのクルーにしても、最近では、日本文化に対する理解度や日本語の会話能力を基準として選抜・構成されるようになって来ており、その興味も自然秋津州文化の特殊性に向かって行った。

まず、秋津州には警察、裁判所、監獄が無い。

何故無いのか。

無くても問題は無いのか。

取材を進めるにつれ、その疑問を解く鍵として、「若衆宿(わかしゅやど)」と呼ばれる独特の制度に突き当たったのである。

それは、ある一定の年限や規範によって、全ての男子が参加する組織或いは制度とでも言うべきものであるらしい。

まず三個村のそれぞれが個別にこれを持つ。

各村では男子は六歳になると、すべからくこの組織の言わば幼年部に参加し、十二歳で少年部、十六歳で青年部へと進む。

幼年部のものは、少年部の指揮指導を受け、少年部は青年部の指揮指導を受ける。

少年部(十二歳)に参加した時点で、最早幼童としての扱いは受けられず、例外なく夜間は若衆宿と呼ばれる共同の場所で過ごすことになる。

村毎に複数ある若衆宿は、村役と呼ばれる長老たちが無償でその施設を提供する決まりだが、その役割も長老たちの持ち回りになることが多いという。

若衆宿は、それぞれの「宿」単位で徹底した団体行動を基本とし、その内部での序列はそれぞれその構成員の互選で決まると言うのだが、権力闘争なぞは先ず起こらず、幼年期からの不断の団体活動の中でそれぞれの役回りが自然に固まって行くと言う。

そして年長者が順々に「宿」を卒業して行くたびに、これまたごくごく自然な形で新たな指導者たるべき者が推戴されていく。

先達(せんだつ)から連綿として受け継がれてきた若衆宿の理念や徳目が、彼等の厳然たる行動規範となる自然の「慣習法」を形成し、そのことが、民意の収斂していくさまをそのまま物語っているように思えてまことに興味深いと言う。

稀れにこの徳目から逸脱するものが現れた場合、その者を裁く時も又若衆宿の合議による。

万一、「慣習法に背いた犯罪人」と認定されて裁かれた場合、その身柄は、その家族や親族が預かることになるのだと言う。

その上、家族や親族までが村内で人交わりの制限を受け、物心両面に亘って影響を受けることとなり、過去においては、そのために一家心中に及ぶ事例まであったと言う。

また、限られた村社会の中では、見知らぬよそ者の存在など有り得ぬことで、ときに不審なものが村内をうろつき回れば、すぐさま若衆宿が自警団に早変わりする。

若衆宿を卒業したあとの者や一般の女性の行為を、「犯罪行為」と認定したり裁いたりするのは村役であり、この場合においても「罪有り」とされれば若衆宿で裁かれた場合と同様の処置を受ける。

このような風土の中では、警察や裁判所、或は監獄などと言うものは必要とされないのであろう。

また、子供たちは幼年期からの団体行動の中で早くから自立心の成育が促され、自らの属する若衆宿の公共性を自然に自覚するようになる。

幼い者が「個」としての我意を通したい場合に、いや応無く「宿」の都合との釣り合いを考えるようになるのだと言う。

「個」としての我意と「公」の利益と、どの辺で折り合いをつけるべきかを考え、思慮に余れば先達に相談する。

自侭(じまま)な行いは自然に抑制されるようになり、優先すべきは所属する「公」としての若衆宿と村の利益であることが、重要な行動規範としてそれぞれの「個」の内部に醸成されてくる。

幼い頃から郷党に守られ育まれ、長じては年少のものを保護教導し、時には郷党の運命を左右するほどの決断を迫られることですら起こり得るのである。

やがてそのことが、一人一人の心の中に強固な郷党意識と、「公」に対する痛烈なまでの誇りと責任感を形成して行く。

その結果、「公」の名誉と利益を損なってまで、「個」としての我意を通そうとする者なぞ先ずいないのだと言う。

ごくまれに、年長者がどう導いても「宿」という社会に調和出来ない者も出るが、その者は一種の「犯罪人」、若しくは「重度の精神性疾患」とみなされ、社会から隔離してしまうことも出てくる。

一人前の人間とはみなされず、その発言には誰もまともには耳をかさないことは当然だが、当人或いは親族の家の中に座敷牢を作り、「村」と言う「公」から許されるまでその中で暮らすことになると言う。

つまり、「犯罪人」に関わる物心両面のコストは、その家族や近い親族が負担することになるのだ。

尤も座敷牢などと言っても、実際に鍵をかけて物理的に閉じ込めることは少ないようだが、本人にしても家族や親族に迷惑をかけてまで脱走することは無いし、また、脱走して見たところで、狭い村社会ではほかに行くところなぞ無いのである。

一旦、村同士で何らかの紛争が起きれば、それぞれの村の村役同士が話し合って解決していくことになるのだが、稀に紛争がこじれて難しい局面になると、国王が間に入ることによって、今まで意地を張り合っていた者同士が自然に譲歩するようになる。

ほとんどの場合、王はにこにこ笑っているだけでけりが付いてしまうと言う。

それと言うのも、王自身に全く私心が無いことが誰の目にも明らかで、また、王は双方の内実事情を知り尽くしているため、当事者同士が恥ずかしくなってしまうことが多いようだ。

また、この国の特徴を、「恥」と言う概念を特別重いものとするところにおいて、古来の日本文化をそのまま引き継いでいると評するクルーも多い。

折りも折り、「公」の受けた恥を最も重しとしていることを鮮やかに象徴するような出来事があったのだ。

NBSのあるクルーが現地取材の最中に、たかだか十二歳の村民に殴打された事件である。

無論NBSはその経緯に付いても詳しく報じたが、結局被害者たる記者が少年の村の批評をするにあたって、著しく配慮を欠いた言動があったことが明らかになり、後日NBS側が公式に謝罪するに及びけりがついたと言う。

その記者は、無意識だったとは言いながら、その少年の村を辱めるような行為を働いてしまっていたことが判明したのである。

後追い報道によれば、少年はことが大きく報道されるに及び、「宿」に迷惑をかけたことを恥じ自ら座敷牢に入って謹慎していたものが、やがて自村の受けた「辱め」をその場で雪いだものとされ、当人の属する若衆宿においてはこれを不問に付したばかりか、非公式とは言いながら、かえって称揚さえしたらしい。

何はともあれ、十二歳の少年が自ら恥じ入り、自ら謹慎したと言うのだ。

まして、この国の村落では互いに見知らぬ人間は存在しない。

全員が顔見知りなのである。

顔見知りどころか、それぞれが産声を上げたころからの付き合いだ。

それほど濃密な人間関係に基づく村社会では、名誉にしても恥にしても、その情報は社会全体が共有することになりがちで、ほとんど隠しようが無い。

常にみんなが知ってしまうのである。

そのためもあって、「恥」はなおさら重いものとなってしまう。

この出来事が、NBSにとっても良い戒めとなったことは確かなのである。

秋津州とは、こういう村々を以て構成される邦だ。


このような邦の中で、少年は各地の若衆宿を転々として経巡って行く。

滞在先での朝は早く、中央から届くわずかな書類に目を通し署名する。

まれに中央の執務室に戻ることもあるようだが、大体において昼は村人と共に汗をかき、夜はその地の若衆宿で同世代の者たちと過ごすことになる。

いずれにしても、全ての村にとって王は頼りがいのある身近で親しい存在であり、村民との強固な紐帯は長い年月に亘る若衆宿での共同生活が基盤となっていることも確かだろう。

また最近は、若者の成長に伴い「王の伴侶」に関しても、如何にもの動きが見られると言う。

もともと、王は老若男女に圧倒的な人気を持つことで知られているが、年頃の娘達にとってのそれはまた格別のもののようである。

自薦他薦を問わず、多くの娘たちが「王の伴侶」としての暗黙の候補者となることに誇りと喜びを感じる風潮が強く、ある村に至っては自村の娘の中で特に見目良きものを選んで、ことさらに王に近づけようとする動きが有り、他村から批難を浴びたようだが、結局はほかの村も同様の行為を始めるに及んで、今では全村の競争のようになってしまっているようだ。

だが、肝心の国王はいまだ酒ばかりを好み、特定のお相手なるものは出現してはいないようではある。

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  1. 2005/06/18(土) 21:07:33|
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自立国家の建設 006

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ところが、このような環境の中に複数の白人女性が割り込むようにして出現することになる。

彼女たちはメディア側によって新たに選抜された対国王専任のジャーナリストとされているが、揃いも揃って相当な美女揃いであり、さながら選りすぐりのピンナップガールが研を競うような華やかさであった。

その年齢層も、最年長と思われるリーダー格の女性でさえ二十八歳、あとの者は押しなべて二十歳前後に集中しており、この点から見てもメディア側若しくは米国側の底意が透けて見えるようだ。

無論、秋津州の君主は青春の真っ只中にいる。

その少年との親密な関係を専ら恣意的に結ぶ手段として、これ以上有効な方法は決して見当たらないであろう。

この者たちは女性ばかりで六人のティームを組んで国王への接近を図ることになり、昼夜を分かたず積極的にアプローチを続け、その中でリーダー格のサランダインと年若のマーベラの二人が、どうやら王の信任を勝ち得たようではある。

中でもマーベラは未だ二十一才、豊かなブロンドと澄んだブルーの瞳、そして百七十センチを僅かに超える身長と素晴らしいプロポーションの持ち主で、ティームの中でもその気品ある美貌は群を抜いており、NBSの男性クルーの間でも飛び抜けて人気の的であった。

さらに彼女は商社勤務の父を持ったことにより、十代前半には滞日生活の経験まで有り、その上帰国後は在米日系人の友人を数多く持ったこともあって、日本文化に対する理解もずば抜けている。

また、国王との会話にも常に優れた会話能力を発揮しており、作戦の鍵を握っているのは彼女かもしれないと言うサランダインの予感は、もはや確信に変わりつつあった。

国王のマーベラに対する親密な言動は、年若い国王が極めて健全な男子であることを何よりも雄弁に物語っており、また国王が時折り見せるサランダインへの心配りは、マーベラの上司としての立場を慮ってのそれであることも容易に察しがつく。

このためサランダインの作戦は、マーベラを尖兵とした集中攻撃方式に変更されることになり、この作戦変更はマーベラ自身をも喜ばせることになった。

当然、ほかのメンバーが国王の身辺に近づく機会が減り、その分だけ彼女自身の職務上の好機も増えるからであろう。

ただサランダインの気がかりは、マーベラ自身の胸のうちの変化に対するものであった。

ここ数日間の国王との親密な接触活動は、マーベラ自身の中にも大きな変化をもたらしてしまったようなのだ。

国王とのさりげない会話の中で時折り見せる恥じらいは、サランダインの目には恋する乙女のそれとしか写らないために、隠された任務の妨げとなることを密かに憂えたのである。

だが、マーベラにしてみれば、NBSと言う一流メディアの関連企業と契約した一民間人のつもりでおり、ジャーナリストとしての積極的な情報収集活動の結果が、幸いにも国王からの信任を得ることに繋がったと言う認識でしか無い。

国王から格別の信任を得られたことは、それこそ公私にわたって望外の喜びとなっており、若者との接触が極めて短期間であったにもかかわらず、既に輝ける未来まで夢想するに至っていたのである。

恋する乙女が胸に抱いた夢想の中では、煌びやかな舞台の上に自らがこの国の王妃となって登場してくるのだ。

自然、彼女にとっての日々は相当の部分において心楽しいものであった上に、その雇用条件も魅力的で無かったとは言い難いが、当時の秋津州はその治安についてさえ、若干の不透明感が云々されていた頃のことでもあり、その報酬にしても当然そのことが考慮された結果だと考えても、あながち不自然とばかりは言えない程度のモノだったのである。

また、乙女にとって魅力溢れる若者には、敢えて二人きりになろうとするような積極的なところは見当たらず、その言動もまことに抑制的なものではあったにせよ、乙女の恋心を受け入れてくれていることだけは確かなことに思えていた。

三つも年上の女として本能的に感じるのだ。

ただ、彼女には想像も出来ないことではあったが、若者の胸の内には必死の思いで乗り越えねばならない高いハードルがあり、それは若者個人の問題だけにはとどまらない事柄でもあった。

秋津州にとって第一級の国家機密だと言い換えても良いほどだ。

無論それは、サランダインにとっても極めて重大な情報として扱われるべきものであり、同時にワシントンへも即座に伝えられるべき事柄なのである。

サランダインの負っている任務は全力を挙げて若者に関する情報を探ることであり、そのためには為し得る限り広範な網を張り、掛かって来る獲物に応じてあらゆる手段を採る用意も出来ている。

ワシントンから降りてくる膨大な予算は、彼女の構築しつつある網の目を、途方もなく強固なものに育てつつあったのだ。

しかし、或る夜、それほどのネットワークが国王の所在を全く見失うことになる。

彼女の張り巡らせたいずれの網にもかからず、ここ数日では初めてのことでもあり、そのあせりを呼んだことも確かだ。


実は、この夜の国王は、南太平洋に浮かぶ、とある小島の上空、はるか高高度に浮かぶ国王専用機の中に在った。

そこはナウル共和国と言い、キリバスやソロモン諸島に挟まれた孤島で、その面積もおよそ二十一平方キロメートルほどと、秋津州の四百分の一ほどでしか無いまことに小さな島国だ。

枯渇寸前の燐鉱石が唯一に近い産業であり、そのためもあって長らく政情不安が続き、さまざまに変則的な事柄を生んでいる。

そのことが、若者をしてこの領域に特段の関係を保たしめるに至っており、そのこともあって今日もこの地を訪れていたことになる。

漆黒の国王専用機は、闇に紛れてひっそりとこの地に着いたのだが、しばらくして新たな乗客となった者が一人だけいたのだ。

それは、二十代後半と思しきアジア系の女性で、抜けるような白い肌と漆黒の髪を持っていた。

すらりとした長身が弾むように機内に消えて間も無く、その全裸の姿が、若き国王と共に機内のベッドにあった。

国王よりもはるかに年上に見えるこの女性は、白い裸身を奔放にくねらせ、ときに撓らせ、男の若さを全身で受け止めながら、耐えようとしてなお耐え切れぬ風情で歔欷を洩らし続ける。

長い黒髪が降りかかる美しい眉を切なげに寄せながら、鮮やかな朱唇を噛み、ときに嗚咽する。

若い獣の愛撫に応え、全身でその歓びを表現しているかのようだ。

それに引き換え若者の方は悠然たる所作を以て女体を扱い続け、まるで多くの女性遍歴を重ねて来たもののように、あらゆる手管を用いて飽くことを知らぬかのように女体を味わい尽くしていく。

女体は幾度と無く燃え上がり、また燃え尽きて、絶え絶えの息の下から切なげに助けを求め始めた。

そしてその声がひたすら哀願の調べに変わるころ、ようやく若き獣の攻撃は已むことを得たが、不自然であったのは、そのあとの女の行動だ。

誰かがこの光景を見れば、女の行為にはかなりの違和感を感じたに違いない。

男にここまで執拗な愛撫を受け、息も絶え絶えになるまで女の歓びを味わい尽くした筈の女体なら、しばしの安息を求め、また余情を愉しむことにも多少の拘りはあって然るべきだろう。

それが、ほんの一呼吸で立ち上がり、実にきびきびとした所作を以て実に奇妙な作業を始めたのだ。

続いて自らの身仕舞いを済ませ、王の体を拭い、飲み物を用意し、そして王の身じまいの手助けまでしてのけたのである。

そこには、先程来の男女の交歓の熱気は、全くと言って良いほど残ってはいない。

女はひたすら敬虔な姿勢を保ちながら傍らの椅子に座り、六尺一本の若者はベッドでゆったりと冷酒を味わう。

「陛下、もう充分でございますわね。」

実は、女は、男子としての訓練は最早充分だと言っているのである。

「生身の女性に接したことは無いし、自分には判らん。」

要するに、つい先程まで熱く接していたこの女性は、生身の女性では無いということか。

しかも、若き君主は未だ童貞だと言うことになるであろう。

「お京。」

「はい。」

この年長の美女の名は、お京と言うようだ。

「このようなことが何の役に立つと申すか?」

「男子の生育過程で必ず必要なことでございます。まして、特別のおん方でいらせられる上は・・・」

「・・・。」

特別の存在だと極め付けられた少年は、ひどく味気ない表情を浮かべたまま黙してしまった。


ちなみに、「お京」の言う「特別の存在」とは、実にさまざまな意を含んでいる。

そもそも、秋津州の王たるべき資格としては純良なる資質を持つことは無論のこと、超長距離の空間移動能力、気嚢を持った強力な心肺機能とそこから生み出される並外れた身体能力があり、それに加えて強力な通信機能が必要とされている。

殊にこの空間移動能力と言うものは、実に不可思議なものと言うほかは無い。

その持主や成長過程によっても甚だしい差はあるものの、自分自身の肉体は勿論ほかの物体まで、手も触れずに、かつ一瞬にして移動させることの出来る能力なのである。

殊に初代の君主が持ち得たこの能力によって、古代大和の邦から他の天体に移り住んで以来、代々の王は全てこれ等の資質を持って生まれてきたとされる。

他の天体に移り住んだいきさつにしても、異常な資質を持って生まれた初代の君主が、それを知った人々から陰湿極まりない排斥を受けてのものであった。

詰まり、逐われたのである。

その人は、確かに「異形(いぎょう)の者」であったには違いないが、余程士心を得ていたものと見え、それでなお幾多の一族郎党が付き従ったとされている。

彼等の行く先は、この異形の君主が事前に発見していた他の天体であった。

そこは、少なくともこの銀河系では無い。

いわゆる系外銀河であり、無論途方も無く遠い。

そこへの移動は、異様な力によって数次に亘って行われ、家屋敷から家財道具一式、そして農耕用の牛馬や武具の端々に到るまで一瞬にして移動させられたため、彼等は自分の身に何が起きたのかさえ考えるひまもなかったろう。

周知の通り大宇宙には無数の惑星が存在するが、恒星との距離や星齢及び質量などなど、さまざまな条件によってときに相似性を帯びることがある。

当然、この太陽系第三惑星と良く似た経過を辿るものも数多く存在する筈だ。

全て貴重な偶然の賜物であり、彼等はその中の一つに移動して行ったに過ぎない。

無論その天体も地球と良く似た環境を具えており、その後、同様の条件を備えた他の天体をも発見し、いずれの天体にもたまたま知性体と呼べるものが存在しなかったために、幸運にも現在に至るまで三つの天体を総て支配してきている。

しかし、地球を含め四つの天体の間に横たわる気の遠くなるほどの距離のために、王たる者の空間移動の力無くしては、あの「マザー」でさえそれぞれの間を移動することは出来ない。

この三つの天体は、発見された順に「丹後」「但馬」「丹波」と、遠い故里に因んだ懐かしい名前が与えられ、そのときどきの王が父祖の地から数度に亘って移植した多種多様の生物を根付かせることにも成功し、やがて懐かしい故里と良く似た環境の小宇宙を多数形成していった。

また、遠い昔にたまたま「丹後」に不時着してきた異星人からその超絶的な文明を受け継いだことにより「マザー(当時は別の名称であったが)」と言う優れた人工知能を持つことにも成功し、その力と豊富な資源とによって精緻な工業生産ラインを多数持つに至り、さまざまな文明の利器を大量に生産することも可能とし、その後自らの文化とも融合させながら独自の進化を遂げつつ今日に至っている。

ところが、この種族はいっときは数百万にまで増殖することを得たのだが、いつしか自然の繁殖能力を衰えさせるに至り、哀れにも減少の一途を辿る事になってしまう。

そのためもあって、これまで日本への再移民が幾たびか企図され、また実行に移されたこともあったのだが、いずれにおいても完全な成功を見るまでには至らなかったと言う。

いずれにせよ絶滅の危機を前にして、せめて一族の文化だけでも子孫に引き継ぐための媒体が必要となり、それを目的としたヒューマノイドを製作し、それらに一族の生活文化を移植することによって、古来の村社会の態様を徐々に引き継がせ、変わらぬ生活様式の中で貴重な新生児を包みこむようにして育むことになる。

しかしこの努力も空しく、先先王のときには一族の子供たちは数人にまで減少してしまい、止む無く一族の精子と卵子を冷凍保存するまでになっていた為、精子を採取するための女性型ヒューマノイドに関する技術が一段と発達し、現在ではその発展型としてのお京たちのボディが存在している。

このタイプのヒューマノイドは見せかけの代謝機能を持ち、僅かであれば飲食して見せることも可能であり、外見は勿論、エックス線における静止映像においてもその正体を露呈せずに済むほどの精密な内部構造を持つが、当然肉体的に成長することまでは出来はしない。

なかでも、日本国籍を有するヒューマノイドたちの場合などは、乳児の時から外見上成長して行き成人となり、そして老成に至るまでの数十種類ものボディを用意して適時交換する必要があり、非常なコストがかかる。

そのボディは人間並みに弱く、傷つけば出血もするし、健全であっても定期的に体液の交換を受ける必要もあり、自然、維持可能な体数も限られてくる。

そのため現在その総数は七千体ほどが機能しているのみで、その殆どが秋津州の村社会を構成しているボディだ。

これ等は、限られたボディ容積にさまざまな見せかけだけのものを備える必要があるため、超小型、低出力の永久原動機を多数使用する設計にならざるを得ず、自然、完成した個体は通常の人間と大差の無いパワーしか期待出来ない。

それに引き比べ、設計上の自由度の高い兵士型の個体は、強大な戦闘能力と飛行機能を具え、ずば抜けた耐久性をも発揮するマシーンなのだ。

この男性型は「RC-M」、女性型を「RC-F」と呼び、会話能力こそ持たないものの、特異な通信機能を以って磐石の統率を受けつつ秋津州兵団の中核を成しているが、体内の見せ掛けだけのものを一切排除し、ひたすら機能面を追求して造られており、万一破壊を受けても無論出血などはしない。

また、初期のころから王の親衛隊を組織して来た個体が別に三十三体存在し、これも又さまざまに進化を遂げて今日に至っている。

この三十三体は特殊な通信機能はもとより、会話能力とそして高い瞬発力をも併せ持つが、飛行機能を持たず、その代わりさまざまな乗り物を駆って王に従う近衛軍なのだ。

これらのヒューマノイドは、総て「マザー」自身の学習の発達に連れて共に進化してきており、それは今もなお絶えざる進歩を続けていると言って良い。

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  1. 2005/06/20(月) 13:29:58|
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