日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 123

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さて、この頃の丹波では地球の「その後」に関してもさまざまに情報が氾濫し、その地は既に人類の生存には適さない状況にあることが明らかにされつつある。

自然その映像にしてもブラウン管を通して多くの人々が頻繁に目にした筈であり、彼等の全てが、その故郷の地が既に激変してしまっている光景を視覚的に受け止めたことにはなるのだろう。

何せそこには一木一草見ることは無く、大アマゾンを始め、かつては名だたる森林地帯だった領域でさえ全て枯れ果ててしまっており、その荒涼たる風景が庶民に与えた衝撃は相当なものがあったに違いない。

それこそ白骨のような枯れ木が延々と続き、その地に再び緑が復活するまでには、気の遠くなるほどの時間を必要としていることを物語っていたからだ。

地表を動き回る生物の姿は全く認められず、大型動物の死骸が諸方に朽ち果てようとしており、空を飛ぶ鳥の姿さえ全く見掛けることが無いのである。

辛うじて生き延びることを得たのは洞窟の暗闇に棲む小動物や苔くらいのもので、それでさえ明るい陽の光を一瞬でも浴びればそれで最期だ。

元々地盤が脆弱だった地域が緑を失って益々脆弱化が進み、各地で大規模な地滑りや崩落が相次ぎ、大洪水の爪痕までそちこちに見受けられ、山川の形状が激変してしまっている風景まで目に写るのだ。

大気中のオゾン層は悉く破壊され尽くし、回復するにはどれほどの期間を要するかも不明とされ、その間はUVC紫外線と言う死に神が絶えず地表を直撃し続け、暗闇で僅かに生き延びることを得たものたちにしても、生物である限りそれを浴びれば全て一瞬で死滅してしまうのである。

そこへ持って来て、諸方に従来から噴火する火山の姿があり、しかも延々と燃え広がる山火事がある。

枯れ木や枯れ草が益々延焼の火の手を煽り、各地の巨大都市もその多くが既に燃え尽きていたとは言え、一部には未だに燃え続けているものがあり、延焼を食い止めようとする者が存在しない以上、いずれその炎は地表の多くを燃やし尽くしてしまうことだろう。

それらの炎が大気中の酸素濃度を急速に減少させつつある上に、酸素発生型の光合成をなすべき生物が存在しない以上、結果は知れている。

地球は既に低地においてさえ一般の人間の必要とする酸素濃度を失いつつあり、そのこと一つとっても、人類の住処(すみか)としては既に滅んでしまったと言うべきだ。

いずれにしても遠からず地表の多くが砂漠と化す運命にある以上、その表層部が再び養分を取り戻すためには、プレートテクニクス理論に則って全ての大陸が大移動を続け、その地表にも大変化を齎してくれるまで待たねばならぬと唱える者さえいる上に、一部に至っては、数億年後の地球では酸素を不要とする生物ばかりが、大手を振って闊歩しているかもしれないと指摘しているほどなのだ。

さまざまな説があるにせよ、各国当局が公式に認めている説においては、人類の生存に適するまでに地球の自然が回復するのは、少なくとも何十世代も後のこととされていることがひとしお重大だったろう。

秋津州財団の研究員にしても再三地球に飛んでいるが、主要各国が揃って秋津州に請願し「地球探索」のための調査団を派遣したこともあり、今やこの推測の正当性が各国政府によって公式に裏付けられたことにより、そのことを疑う者は先ず希なのである。

だが、ごく一部とは言いながらそのことに懐疑的な論をなすものもおり、中には全面的に否定的な立場に立つ者もいないわけでは無い。

現在、齎されている地球の映像情報なども全て捏造だと主張する者もおり、メディアの中にさえそのような論をなす例があり、ましてイエローペーパーと呼ばれるモノの中などにはとんでもない奇論を展開するケースが目立ち、その者等の見解では、地球はいまだに健全な自然環境を保持していることになっており、全ての発端は意図的に企てられた謀略に起因すると決め付けた上、その謀略の張本人があたかも秋津州国王ででもあるかのように匂わすのである。

現に全人類が丹波と言うこの惑星に移住を果たした今、一人秋津州国王ばかりが絶対の権力を益々確固たるものとし、世界に覇を唱えているではないかと力説するのだ。

詰まり、今次の移住騒動で唯一最大の受益者こそ国王であって、そのために企図された謀略であったと示唆するのである。

無論これ等の奇論もあくまでレアケースであって、殆どの場合正統な議論と見る者はいないが、中にはそれらの動きに対し、激しい反応を見せる人間もいなかったわけではない。

本来なら、財団研究所の常任研究員、松川徳治氏などその最たるものだったとしても不思議は無いだろう。

そもそも今回のガンマ線バースト騒動においては、その学術的考査を行って最初に発表した者こそこの松川博士その人であって、そのいきさつから言っても、少なくとも反論の機会を欲したことだけは確かだろうが、かと言って学会の専門誌の紙面を用いるには、相手側の論理があまりに正当性に欠けるばかりか、それらのメディアは極めて娯楽性の高い雑誌ばかりなのである。

少なくとも、学究の徒たる者がまともに相手にするような代物で無いことだけは確かで、無論博士自身は沈黙しているが、一方に当然沈黙しない者もいた。

ヤマトサロンにおいてなどは、国王が卑劣な謀略の張本人とされたことには、並み居るメンバーが斉しく憤りをあらわにしており、殊に、近頃その内部で久我妙子(こがたえこ)と呼ばれつつある女性などは、かなり激昂して田中盛重に詰め寄ったと言われている。

彼女達は、国王がその後の地球の姿にも存分に接する機会を持ち、当然豊富なデータの蓄積もありながら、我関せずと言う態度であり続けていることに批判的なのであり、言ってみれば、このような故無き誹謗中傷を受けてなお沈黙している国王の姿勢に対して不満を抱いていることになる。

この点においては、新参者の久我妙子女史の抱く不満が最も甚だしいとされているが、この女性とは無論かつてのタエコ嬢のことであり、今やサロンにおいても国王陛下の義兄の暗黙の配偶者として遇されており、国王との個人的交友にしても昨日や今日のことでは無い。

しかも、その性格から言っても元々遠慮などするタイプとは程遠く、田中盛重などでは到底太刀打ち出来ない上に、新田から見ても大いに苦手とする人物でもあり、近頃ではある意味ヤマトサロンに旋風を巻き起こしていると言って良いほどだ。

尤も、その歯に衣着せぬ物言い一つとっても、全ては秋津州王家に対する強烈な身びいきから来ているものばかりであり、それが高じてひいきの引き倒しになってしまう場面も無いではないが、みどりなどから見ればときに頼もしい味方にもなり得る存在なのである。


暦は巡り二千十一年の十一月二十二日に至り、磐余の池の宮島においてある催しがあり、その参加者はと言えばヤマトサロンのメンバーばかりだとは言いながら、新田や田中を始め普段は滅多に顔を見せない久我正嘉氏まで顔を揃えたと言うから驚きだ。

無論、国王を中心に特別の故人を偲ぶための集いなのだが、とにもかくにも、国王が何よりも大切な家族を奪われてしまってからまる三年の年月(としつき)が流れたことになる。

又この日は、奇しくもローズ・ラブ・ヒューイットの十八歳の誕生日にあたるのだが、国王の周辺ではこの日は暗黙の物忌みの日として斉しく認知されてきており、その誕生祝いの宴は少なくともその日には開かれることはなかったとされている。

そして数日が経ち師走の声を聞く頃、王宮の二番区域において改めて祝宴が催されることになったのだが、もう一人の王家の住人横山咲子嬢が来る十五日に二十歳の誕生日を迎えるに当たり、ローズ譲のそれと合同で祝うことになったと言うのである。

新田自身がその妻から耳にしているところでは、その実施について最も声高に主張していたのは久我夫人だったとは言うが、どう表現しようと、その主催者はヤマトサロンそのものだと言って良い。

ヤマトサロン自体、こと王家の家庭的な行事に限れば、その圧倒的な影響力は覆うべくも無いと囁かれるほどで、その宴に改めて出席の義務を負わされた格好の国王も一言の苦情も出さなかったと言う。

近頃では、王家のこのありさまがNBSを始め各メディアの取り上げるところとなり、各界の微苦笑を誘うに至っており、さしもの覇王が家庭内においては、すっかり尻に布かれてしまっているとする論調が盛んだ。

とにもかくにも、このヤマトサロンには多種多様の女性たちが結集していることになるが、殊に久我夫人などは王家のキッチンにまで始終顔を出し、二人の「側室」から親身に和風料理を学んでいるとされ、美少女たちとも濃密な人間関係を築きつつあると言う。

いずれにしても、サロンの中で久我夫人の天真爛漫で恬淡たる性向が好意を以て受け入れられ、今や押しも押されぬ主要メンバーの一人と看做されていることだけは確かなのである。


やがて二千十二年の正月を迎え、八雲の郷はこの一の荘でさえ少なからぬ積雪を見ており、ましてや北方に連なる山並の頂(いただき)辺りなどはとうに真っ白に染まり、きたるべき春を悠然と待ち構えている風情だ。

例によって、除雪作業の為に相当規模の国軍が出動しており、午後に開かれる賀詞交歓会の来客たちからも、さぞかし感謝されることにはなるのだろう。

土竜庵には例年通り若者が訪れ、その膝の上では三歳になったばかりの源太郎がはしゃいでおり、ここ数年のあれこれを思えば、亭主の新田にとっては久方振りに訪れたのどやかな新春と言って良いほどで、心づくしの手料理をいそいそと運ぶ妻の体内では新しい命がすくすくと育ちつつある上、聞けば岡部のところも又同様だと言う。

昨今では、大和文化圏以外でさえその経済活動が活気を取り戻しつつあるとされ、その復興も予想を覆すほど順調に運んでいると見ており、ヤマトサロンの勢いが増して、その声が聊か耳に障ることを除けば殆ど事も無い正月の筈だったのだ。

新田からすれば、人類が未曾有の大災害を蒙ったとは言いながら、全てにおいて順風満帆だったと言って良いのである。

ところが、ある話をきっかけに事態が一変してしまった。

本来若者との酒盛りは一際美味な雪見酒を味わえる絶好の好機だったものが、思いもよらぬ情報に接し、又しても、大きな屈託を抱えることになってしまったのである。

情報源は無論若者だが、そのときは、どうやら二人切りになるのをお待ちになっておられたものらしく、妻が席を立つのを見計らってからひっそりと仰せになったのだ。

未だ不確定要素が多いこともあり秘中の秘との仰せだったが、こっちは、それを聞いた途端顔色を変えてしまうほど衝撃的な内容であり、情け無いことにその後の雪見酒が満足に喉を通らなくなってしまったほどだ。

ご自身は平然と酒盃を傾けながら仰せになるのだが、話の中身は尋常ではない。

何と、重大な脅威となり得る者が暗黒の彼方を航行中であるらしい。

それも単に航行中なだけならまだしも、現在この丹波との距離を毎秒三万キロも狭めつつあり、そのままで進んだ場合、一年以内でこの丹波に限り無く接近することになると言う。

しかも、古ぼけたその船が、十一年前にこの星を襲った連中と同じ意匠の紋章を掲げていることから、同一の種族と看做していると仰るのだ。

眼前の窓の月に映し出されたその紋章は、今なお世界各地で用いられている「双頭の鷲」の一つと思われ、不鮮明ながら右足にハンマー、左足に王冠を握っており、自分の知る限りでは、コンスタンティノポリス総主教庁のものに最も類似していると思わせるものであった。

しかもその船は全長六百キロメートルもあろうかと言う途方もないモノで、その巨大さから見ても宇宙空間で組み立てられたものであるらしい。

また、その構造から言っても、地上で完成させたモノとは到底思えないと仰るのだ。

何せ、船体後部の中心部には言わば巨大なシャフトのようなものがあって、それを軸に常時回転し続ける部分を具えており、他の船体部分とは隔絶された居住空間を成していると言う。

半径五十キロメートルもある回転部分だけで前後に百キロメートルもの幅を持ち、そこには当然遠心力が働いており、大量の土砂は勿論森や湖まで存在し、人工太陽が複数輝いて盛んに光合成が行われていると言い、結局その部分には大気は勿論大地と空があることになる。

しかも、その人工の大地に立って上空を見上げれば、はるか五万メートルに迫る高さの大空があると言うから驚きだ。

結局、擬似重力を発生させて言わば宇宙コロニーとでも言うべきモノを形成し、そこには多数の生物が「生活」をしていると言う。

「彼等」はその空間で精妙なリサイクル機能を働かせ、巨大な冷却装置まで機能させているらしく、それらの動力源にしてもいわゆるPMEタイプのものを用いており、どうみても継続的な生存条件を確保しているとしか思えないと仰る。

又、船体の前部には複数の小型船を格納しており、それを言わば地上とのシャトル便として使用している筈だと仰るが、いざともなれば、それが恐るべき攻撃部隊として機能することになるのだろう。

現に、その小型機の多くは前年この星を襲った異星人の搭乗機に酷似しており、その意味でも前回の敵との同一性が裏付けられると言うから一大事だ。

そもそも前回は、地上付近にまで降下してきた巨大な母艦らしきものがあり、若者はその中に潜入して果敢に闘った結果ようやく撃退する事を得たのだが、その恐るべき艦影は今は一向に見当たらず、その母艦こそ言わば敵の戦艦と看做しておられることもあって鋭意探索中だと仰る。

何よりも、その恐るべき戦艦が船腹に掲げていたのがこの「双頭の鷲」だったのであり、艦影は全く異なるとは言え、同一の紋章を掲げた巨大宇宙船が現在も猛烈なスピードで接近中であることは確かで、その発見にしてもかなり偶発的なものではあったらしいが、それが、ご自身死を覚悟させられたほどの攻撃を受けた相手である以上、最大最強の敵の襲来と看做さざるを得ず、一際重視なさるのも当然だ。

前回の攻撃時にも相当な物資を略奪して行ったことも事実であり、自然、敵にとっての攻撃目標が丹波全域になることが予想される以上、その意味では我々人類が勝手に定めている国境線など、何の意味も持たないことだけは確かだろう。

無論、秋津州は密かに臨戦態勢であり、我が日本にとっても最大級の重大事項であることに変わりは無く、ことは深刻なのだ。

陛下は、敵の中に相当数の触手を潜入させて諜報に専念してらっしゃり、その異星人の個体数にしても五万から十万程度と見ておられるようで、その生体の画像データもこの目で見せていただいたが、驚いたことにその外見は純白の肌を具えたヒト(ホモ・サピエンス・サピエンス)に異ならない。

外見上、白人系ではあるが、我々「人類」と全く同じ「生物」だったのだ。

過去の戦闘の結果保存されていた微小な生体サンプルの提供を受けて、我が日本でも今後分析を進めるつもりだが、陛下のお話によると、あろうことかそのDNAはコーカソイドのものであると言い、少なくとも生物学的には我々人類と全く同種同類の「生き物」であることだけは動かないと言う。

しかも、その「異星人」たちの言語は古風なギリシャ語に似ているらしく、その会話の多くを分析中だと言うが、その航行先も意図するところも今以て不透明のままだ。

ただ、過去においてその種族がこの丹波を一方的に襲った実績を持つ以上、その目指すところに無関心ではおられず、当然の疑問についても思い切ってお尋ねをしてみた。

「しかし陛下、十一年前の話ならいざ知らず、現在のお力をお持ちになる以上、殲滅するのは容易いのではありませんか。」

聞き及ぶ範囲では、過去の激戦時には、若者の「特殊能力」は現在のそれとは比較にならないほど軽少なものでしか無かったが、現在の能力を以てすれば手も無く殲滅し得る筈だと思ったのだ。

敵を捕捉した以上、それこそ、一瞬で粉砕してしまうことさえ可能な筈なのである。

「それはそうなのですが・・・・・。」

若者は一瞬絶句したが、そのときの若者の表情は、一生忘れられないほど苦渋に満ちたものであったのだ。

何と敵の船には、どう見ても戦闘員とは思えない女性たちばかりか、驚くべきことに万に迫る子供たちの姿まで見えていると仰りながら唇をかんでいらっしゃる。

一瞬で察せざるを得ない。

今や万夫不当を以て鳴り響いているこの勇者が、非戦闘員、まして頑是無い幼児など決して殺せないことをだ。

思えば、これこそがこの若者の最大の弱点なのであり、決して他に知られてはならないと改めて思い極めたのである。

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  1. 2008/05/07(水) 20:56:37|
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自立国家の建設 124

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その後の数日間はデータの山にまるで埋もれるようにして過ごしたが、少なくともその間、敵艦の進路に変化は見られず、しかもさらに百億キロ近くも距離を詰めて来ているとされ、今も着々と近づきつつあることが確かめられたのである。

国井総理や相葉副長官ともひっそりと協議中だが、何しろ全てにわたって不確定要素が多過ぎて対応策など無論定まる筈も無い。

陛下ご自身も、今回捕捉した連中が十一年前の敵の一党であれば、明白に降伏して来ない限り依然として敵であるとのご認識だが、現実問題これほどの強敵があっさりと降伏するなどあり得ないのだ。

結局、目的地がこの丹波であればその意図は明らかだろう。

岡部とも窓の月を用いて頻繁に意見交換の機会を得て、各地の地下シェルターの準備の話題から、ついには戦時体制のあれこれにまで踏み込んだが、いずれにしても材料不足で如何ともし難いのである。

敷島特会の存在が財政面を大きく支えてくれてるとは言え、このままで事態が進行してしまえば確実に金融不安を引き起こすと予測し、一旦そうなってしまってからでは、金融政策面での舵取りも一段と厳しいものになると嘆くことしきりだが、実際に異星人の襲撃を受けてしまえば、折角傷口の塞がったばかりのマーケットが大混乱に陥ってしまうことだけは避けられない。

何せ、大和文化圏の外を見れば、ようやく復興の緒に就いたばかりだと見る向きが少なく無い上に、食糧の増産一つ取ってもまだまだ充分とは言えないのだ。

岡部からすれば、一刻も早い先制攻撃によって早期に決着をつけてもらいたいところだったろうが、こっちとしては若者の真意が判るだけに、なおのこと屈託は深い。

その思いを想って、胸の中は嵐が吹いているほどなのである。

いずれにしても日本政府を通して米国政府にも伝え、七カ国協議のテーブルに乗せて情報の共有化を図ることにしたが、何せ相手は若者ですら悪戦苦闘したほどの相手のことでもあり、一般の国々からすれば、それはもう圧倒的な攻撃力を保持しているものと見るほかは無い。

しかも、前回の戦闘時には若者自身が未だ幼く、自然その特殊能力にしても未成熟だったところに持って来て、相手は直径五百キロもあろうかと言う円盤型の艦(ふね)に膨大な戦闘爆撃機を搭載して来襲したと言うのである。

その巨艦が富士山数万個分にも当たろうかと言うほどの代物である以上、その巨大な質量が、未だ幼かった特殊能力の限界を超えていたのも無理は無い。

その上、相手はD二にも似た武器を使用していたとされ、弾速こそD二より劣るとは言いながら、質量だけは四倍ほどもあり、未だD二もG四も持たなかった秋津州軍に対しては圧倒的な威力を発揮したのも当然だったろう。

その恐るべき飛翔体を、陛下ご自身は「タカミムスビ(高御産巣日神)の矢」と呼んでいたと言うが、変幻自在の自律飛行を可能としていたらしく、命中率に至ってはほとんど百発百中だったと言い、無論通常の砲弾のように打ちっ放しになるものでは無く、同じものが何度も繰り返し飛来して我が方の兵を瞬時に破砕してしまう。

しかも、この「タカミムスビの矢」たるや、ご自身が認識し得るものに限っては、何度も暗黒の彼方へ追いやってしまわれたそうだが、それでなお別のものが次々と飛来して攻撃してくるのである。

旧式のヒューマノイド兵などではまったく太刀打ち出来ず、脆弱な秋津州軍は散々に打ち破られて思うさま劫掠を許してしまったほどなのだ。

血を吐くような難戦に懲りた若者が、この「タカミムスビの矢」を参考にしてやがて最強の常備軍を建設するに至るのだが、それから数えて優に十一年の歳月が過ぎようとしている今、敵方の武備にしても進歩してない筈は無いだろう。

今となっては、途方も無い威力を持つ兵器を具えていたとしても何の不思議も無いのである。

重厚な軍歴を誇る安田官房長官の分析によれば、「敵の兵器が一切進化してなかった場合ですら、国家警務隊(秋桜隊)の持つ例の特殊戦力を除けば、日本軍は敵すること能わず。」とまで、言い切ってしまっているほどだ。

タカミムスビの矢を搭載した戦闘爆撃機が超高空を飛行しながら攻撃してくれば、どう考えても防ぐ術(すべ)は無いと言うのである。

あの米軍ですら、このタカミムスビの矢には敵することは出来ず、超高空からマッハ二十を超える高速で襲われれば短時間で制空権を失い、膨大な海上勢力もほとんど海の藻屑となってしまう筈だと言う。

人類が現状の兵器を以て闘う前提に立てば、実に恐るべき戦闘能力と言って良い。

しかも、肝心のその戦艦の所在を今以て捕捉出来ないでいるのだ。

そうである以上、その最大の脅威がいつなんどき急襲してくるか判らない上に、その兵装もまったく不明のままだ。

発見すら出来ない以上、どうすることも出来ないのである。

開戦を控えて敵の実戦部隊を捕捉出来ないでいると言うこの現実は文字通り致命的ですらあり、これも偏に若者の特殊な索敵能力に頼るほかは無い以上、先進各国の秋津州依存の傾向はいよいよ強まるばかりだろう。

現実に双頭の鷲を掲げた巨艦が、秒速三万キロもの猛スピードで今も刻々と接近中であることだけは確かなのだ。

とにもかくにも、少なくとも我々人類にとって共通の脅威であることだけは確実だとして、七カ国協議の議論も一刻も早く迎撃の構えを採るべしと言う方向が定まり、早くも一部に、丹波防衛軍の総帥を若者に擬して発言する者まで現れた。

既に、人類は強大な異文明との軍事衝突を確実に予感したと言って良い。

尤も、捕捉中の敵艦との距離は未だ八千億キロの余もあるとされており、いずれの国家も自力では偵察部隊の派出すら適わない。

何せ、丹波の属するこの惑星系においても、主恒星との間には平均して一億五千万キロほどと、かつての地球時代のそれと同等の距離があるのだが、問題の敵との距離は実にその五千倍にも及ぶのだ。

仮に各国が最速の有人宇宙船を飛ばしてみたところで、そこには、搭乗員が船内で何世代も過ごさざるを得ないほどの距離があるのである。

自然各国は八雲の郷に多くを派遣して、偵察行動に当たっては国王陛下に随伴することを請い願い、鋭意敵情報の収集に励むことになる。

その数も既に万を越えたとされ、それぞれが秋津州ビルの自国代表部を拠点としているようだが、米国などは元々膨大な駐在員を置いているところに、さらに千余の人員を派遣して来ており、あのタイラーも今頃さぞてんてこ舞いのことだろう。

若者が索敵行に出る際などは百を越えるSS六が帯同し、数千の外国人が随伴しようとするため、とにかくそれだけでも大騒動なのだ。

無論、重装備の彼等の全てが数千億キロの彼方にまで瞬時に移動して行くのである。

その甲斐あってか、やがて数多くの信ずべき情報を得た各国当局は、事態の容易ならざることを否応無く認識させられた結果、二月の下旬に至り安保理において正式に国連軍の創設が決議されるに至った。

総司令官の座には例によって米軍の将星が座ることも固まり、臨時総司令部がNewワシントンの一郭に置かれることになったと言う。

その妥当性はどうあれ、少なくともそれは名目上は丹波防衛軍と呼ぶべきものだった筈だが、如何せん先立つものが足りない。

各国共に巨額の戦時公債を発行して急場を凌ごうとはするのだが、とにかく軍を維持するだけのカネが無いのである。

日本政府は、米国の数百倍にも達する拠出を一旦行った上に、いざともなれば国家警務隊はおろか国防軍の全てを投入する覚悟を固めてはいるが、何しろ予算不足で主要国の合同演習を行うにも四苦八苦のありさまだ。

新田は秋桜資金を投入する覚悟を固め、女帝に運用の手仕舞いを申し入れようとしたところに国王から二十兆円にも及ぶ拠出計画の話が飛び出し、これが秋津州円建てであったことからやがて大喝采を浴びることになった。

何せ、日本円にすれば、六千兆円にも及ぶと言う途方も無い額なのである。

壇上から発表する機会を得た新田の映像は瞬時に世界を駆け巡り、秋津州の執政官としての名望はいよいよ高まった。

当然であったろう。

何しろ、その新田の管理下で、巨額の資金が参軍する国家の全てに怒涛の如く配分されて行くのだ。

それも、べらぼうな金額なのである。

七カ国協議の構成国なども、通常の軍事予算の数年分にも匹敵するほどのものを一挙に手中にすることを得た上、その後の拠出の見通しに関しても確実視されるに至り、皮肉なことに、これが壮大な戦争景気を呼び込むことになった。

各国当局はその資金を裏付けとしてそれぞれの軍を整備拡張し、それに伴い種々の軍需物資を大量に発注するに及び、やがて四月の声を聞く頃には、世界各地で膨大な実需が発生して多様な生産ラインが轟然と稼動し始めたのだ。

無論、そのことによって齎される経済的波及効果は際限も無いほどのものであり、若者の直轄領に限らず、殊に日米両国などでは、既にあらゆるマーケットが沸騰し始めているとされ、当然、庶民レベルですらそのこと(敵襲)を知ることになり、ヤマトサロンなどでも俄然議論の対象となり始めた。

筆頭格のみどりママの場合、言うまでも無くひたすら非戦論一辺倒だ。

ごく単純な戦争反対論なのである。

鹿島夫人や加納夫人は軍人の妻として直接的な議論には加わってはいないにせよ、内心は明らかに抗戦論であり、久我夫人はもとより、ダイアンや菜穂子などはキャサリンの理論的援護を受けて最初から歴然たる抗戦論だ。

それも徹底抗戦論であり、闘わずして屈服するくらいなら死んだ方が増しだと言う声さえ出ていると言う。

現にその相手は、こっちが如何に戦争に反対していようと、問答無用で攻撃してくると言うのである。

そうである以上、防戦せざるを得ないと力説して已まない。

しかも、前例から見て相手は明らかな無差別攻撃を加えてくる連中であり、降伏したからと言って女子供が無事に済む保障など何処にも無いのである。

このような敵襲が眼前にあると見られる以上、この徹底抗戦論も当然と言えば当然の議論だったろうが、如何せん一人みどりママがひるまない。

丹波か但馬への疎開移住の可能性を重く見て強硬な非戦論を繰り広げ、ひたすら殺し合いは嫌だと叫ぶばかりだ。

若い側室たちはと言えばこれまた全く対照的で、ただ一筋に陛下を信じていると言い、その家族である以上運命共同体だとして、とかくの議論は無用と見ているかのようでさえあり、やがてみどり一人が孤立しかねない状況になった。

何せ、何もせずにひたすら逃げようと言い続けるのだから無理も無い。

ダイアンなどは、じゃあ逃げ込んだ先を再び襲われたらどうするんだと言い、みどりママはそのときは又逃げればいいと言う。

結局、いつかは逃げる先が無くなってしまうことは明らかで、闘わない方針でいる以上そのときは降伏するより手は無くなるのだが、みどりママにしても降服する気は無いのである。

しかも、逃亡するにしても、王家の周辺の人間だけならいざ知らず、人類の全てを漏れなく移動させるにはその準備に膨大な時間を要することは明らかで、今回のような緊急時には到底間に合わない。

詰まり、みどりママの議論で行くとなると、いざとなったら他の者たちを見捨てて自分たちだけが安全なところへ逃げ込むことになってしまう。

そのためみどりママの議論はいよいよ敗北せざるを得ず、その声も細る一方だ。

その後、事態を重く見た女帝の指示があったものらしく、四月の下旬に至って迫水秘書官を通してある情報がひっそりとサロンに届いた。

あくまで王家の内部情報としての扱いだったが、それは、みどりママですらその主張を一変するに足るほどの内容を含んでいたのだ。

一言で言って、王家の特殊能力を以てすれば、敵の船を数億光年の彼方にまで瞬時に移動させてしまうことはおろか、木っ端微塵に粉砕してしまうことすら可能とされたのである。

結局、若者がこの敵を楽々と屠るに足る打撃力を持つことが明らかにされたことになり、正直なものでヤマトサロンのムードは見事に一変してしまった。

みどりママですら一刻も早い攻撃を望むに至り、敵の襲来を漫然と待ち受けるのは如何にも愚策であるとした上、肝心の敵の戦艦の所在が掴めないままではあるにせよ、とにかく、現に捕捉中の船だけでも先制攻撃を掛けるべきだと主張し、みどりなどは若者に早期の攻撃を直接説いたようが、肝心の若者が煮え切らない。

一向に攻撃を開始する気配も見せずに、ただ黙々と索敵行動に専念するばかりだ。

その間も敵との距離は日々刻々と狭まりつつあり、メディアも寄ると触ると宇宙戦争の話題で持ち切りだが、少なくとも大国と呼ばれる国々の場合ですら、庶民に対しては自国の防衛能力が敵の攻撃力に比して悲劇的なほど脆弱だとまでは伝えられてはいないのだ。

だが、各国の政府当局だけは、来襲しつつある異星人が容易ならざる強敵であることを認識しており、秋津州ビルには諸外国の要人が数多く訪れていると聞く。

王宮のサロンにおいても、みどりママが金切り声を上げる場面まであると言うが、国王が攻撃を躊躇する真の理由を知らされないままに、眼前に迫り来る大戦争を前にして議論が沸騰するばかりでどうすることも出来ないのである。


やがて六月の声を聞き、各国の戦備がいよいよ整い始めたとする報道で溢れかえる中、国際社会の裏舞台でもさまざまなすり合わせ作業が行われ、秋津州ビルではさまざまな多国籍会議が頻繁に催されるまでになった。

それら多様の会議も大半は今次の丹波防衛戦に関わるものばかりであり、各国の安全保障担当閣僚や制服組のトップクラスまで集めるものも見受けられ、八雲の郷の一の荘は既に丹波防衛軍の一大拠点の観を呈し始めており、その実質的総帥のお乗り出しを切望する論調が巷を席捲してしまっているほどだ。

実質的総帥とは、何れにおいても秋津州国王その人を指しており、無論例外などは見受けられない。

全人類が文字通り斉しく共通の敵を持ったことにより、有史以来未曾有の協調体制を布かざるを得なくなった今、それが戦時体制である以上統御すべき指導者は欠かせないと叫ぶメディアまで出て、その論調に従えば、「丹波防衛軍」を一糸乱れず統御し得る者こそその座に就くべしとしており、それこそ国王以外に適格者がいる筈は無いと言う。

過去においてその敵を現に撃退した実績を持つ以上、その論も、それはそれで、理屈としては真実であったろうが、肝心の秋津州は今以て国連に非加盟のままであり、自然国連軍には加わってもいないのだ。

尤も、覇王自身は国連軍に加わろうと加わるまいと、無類の敢闘精神を発揮して敢然と闘うに違いないと見られており、そうである以上、丹波防衛軍を強力にリードする者は若者以外に無いとする声は圧倒的でさえあり、現に、新田のところへは、その手の打診が多数舞い込んで来ており、その真意は別にして日本政府を通じてアクションを起こそうとする例も無いではない。

甚だしい例では、丹波世界の秩序構築に当たっては欠くべからざる条件だと前打って、長らくほこりを被っていた「秋津州憲章」なるものまで担ぎ出して来るやからもおり、見てみればカビの生えた国連憲章の焼き直しで、その中身の最大の特徴たるや、敵国条項の完全削除と日秋両国の常任理事国入りである。

極端な例では、有事の際の常任理事国を秋津州一国に限定するとする案まで実在し、その場合に構築されることになる秋津州連邦と言う名の世界政府の中では、秋津州だけが拒否権を持つと謳い揚げ、それによって初めて指揮系統の統一が敵うと言い、それ無くしては世界の安寧秩序を保持することは最早不可能だとまで言い騒ぐのだ。

このケースでは、文字通り国王が世界の王となって全ての指揮を執ることになるのだと言う。

殊に南方海上に散在する小国の場合など、この案に相乗りして国民の一部を鬼界が島の地下施設に避難させて欲しいとまで言い出す始末なのだが、無論そこは紛れも無い秋津州領であり、戦争が起きたからと言っていちいち逃げ込まれたのでは、逃げ込む方は良いだろうが、逃げ込まれる方は堪ったものでは無いのである。

果ては、日本からまで団体で押しかけて来るありさまで、会ってみると実に意気軒昂たるものがあり、リーダー格の予備役少佐などは数千人規模の義勇軍を募って参軍する意向を示し、武器一式と演習用の土地だけは現状の日本国内では確保出来ないことから、是非とも支援を請いたいと言い出す始末だ。

詰まり、広大な土地を租借して国王から頂戴した武器を以て武装した上、その地に盤踞したいと願っていることになる。

その資金も二十億は集める自信があるとは言うが、話どおり三千人の兵を集め得たとして、どの程度の予算を見込んでいるものか、その点一つ取っても甚だ心許ない。

想定されている戦いが惑星間戦争のことでもあり、他国領土に進駐して行かない限り、現実問題既存の戦時国際法違反を云々されることは無く、雑多な私服を用いることも可能とは言いながら、兵士の給与や食費などをどう捉えているのか。

仮に三千人の兵を三百日維持するとして、猛烈な軍事教練を前提にしている以上、兵士の給与だけでも百億ほどは用意してかかる必要がある上、一人あたりの食費関連が一日千五百円(日本円)と見て、それだけで既に十三億五千万も掛かるのだ。

しかも、その闘いが果たして何年続くものやら、闘いには常に相手がある以上、それこそやってみなければ判らないのである。

仮に兵営ぐらいは支援してやったにしても、駐屯中は寝具や備品、風呂やトイレも必要であり、医療費一つ取っても莫大な経費を覚悟せねばならず、車両や通信関連にも最低限のものは用意しなければならぬだろう。

まして実戦ともなれば、戦況に応じて当然転戦を強いられるが、その移動手段の問題もある上に、戦死者はおろか膨大な傷病者の対応まで考えて置く必要があり、最初から出来る話では無いのである。

祖国防衛のためには野に臥し山に隠れ、泥水を啜り草の根を齧ってでも戦い抜くとは言うものの、何せ典型的な近代戦争なのである。

その気概だけは買うにしても、遺憾ながら所詮机上の空論でしか無い。

安田官房長官から直接説得してもらって、ようやくお引き取りを願ったが、とにかく、えらい騒ぎなのだ。

国王が世界に独裁権を揮うような秋津州連邦案などは、若者の真意を知る以上無論一顧だにしていないが、相変わらず種々雑多な遊説の徒が押しかけて来る。

何せ若者は、常々「人は斉しく社会の中に棲み、それぞれの歩調でそれぞれの方向へその社会を方向付けようと努力するものであって、それを全て強制的に同一のものにしてしまおうとするなど正気の沙汰ではない。」と語っているほどで、しかも、大規模な社会に対する「統治」になど自信を持てる筈も無く、独裁権を持つ秋津州憲章など所詮受ける筈も無いのである。

だが、一方で若者の真意をさまざまに忖度するものもまた少なくない。

無論、その場合の多くは例によってスーパーパワーの謀略の匂いを嗅ぎ分けたと主張し、あらゆる動乱は大規模であればあるほど魔王の利益を際限もなく増大させる筈だと言い、魔王は、世界の秩序が液状化するさまを横目で眺めながらほくそえんでいるとまで主張するのである。

新田にしてみても、旧秩序を全て一旦破壊することによって、完全な新秩序を打ち立てることが初めて可能になると考えないではないが、いざこうなってみると全人類にとっての「究極の秩序」が果たしてどのような姿をしているものか、確たる自信など持てる筈も無いのだ。

だが、一方で、人間個々の持つ貪欲なまでの向上心や競争心は依然として健在だ。

国際社会、殊に当局筋の抱く先行き不透明感が拡大傾向にありながら、現に、マーケット自体は圧倒的な戦争景気に沸いてしまっており、世界経済は既に往年の繁栄を取り戻しつつあるとする向きまで出始めているほどだ。

米国の失業率なども劇的に減少していることも事実で、しかも大和文化圏のマーケットにも積極的に参入を果たす勢いを示し始めており、日本の西方に位置するEU諸国にしても、その経済活動をようやく活発なものに変えつつある。

米国は勿論、英仏独露中の企業なども大和文化圏への参入を目指して盛んに接触を求めて来る中、東京の岡部との意見交換も回を重ね、その傍らにいる女帝の思惑も今では一層強く嗅ぎ分けられるまでになったが、相変わらずこちらの方の意向は、王家の世継ぎ誕生をひたすら最優先課題としていて最早苦笑してしまうより無いが、かと言って、妻の菜穂子なども負けず劣らずの体たらくである以上、あまり人のことばかりは言えない。

妻に、何でそこまでこだわるのか聞いてみたところ、本人は日本の国益のためだと理路整然と主張し、それどころか王家の持つ特殊な能力の受益者は人類全てにわたる筈だとして、そのことが絶えてしまう事は断じて見過ごせないとまで言い募るのである。

結局、あのヤマトサロンに集う女性軍は、私の見るところ、理屈はどうあれ、女性問題におけるあの若者の行儀の良さに本能的に好感を抱きつつ、一方でついついお節介なやり手婆あの心境になってしまうに違いない。

しかし、そのことをあからさまに指摘しようものなら結果は知れているだろう。

たちまち、猛烈な集中砲火を浴びるに決まっており、相手が相手であるだけに、それだけは厳に慎まなければならないが、現にそう言う連中に取り囲まれてしまっているあの若者の境遇にも、心から同情を寄せざるを得ないのである。

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  1. 2008/05/14(水) 15:03:44|
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自立国家の建設 125

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その日の田中盛重は喧騒渦巻く大東京にその足を踏み入れたことで、どこか胸躍るような気分を味わっていたと言って良い。

何しろ、久し振りに見る首都東京は従来の倍ほどの面積を誇りつつ見事に完成しており、しかも全ての街路が驚くほど広々としていて、裏通りですら大型車両の擦れ違い走行を楽々と許すものばかりで、従前のような狭い裏路地など始めから存在すらしていないのである。

このこと一つ取っても極めて画期的なことであり、元々敷島の全てが官有地で一人の地権者も存在しなかったことに加え、全て更地からの建設であったためにあらゆるインフラが余裕を持って建設されており、過去の満州国建設の例を引くまでも無く、国土建設の青写真を自由に描けることの有利さを今さらながら思わざるを得ない。

ときにあたって秋津州からさまざまな恩沢を蒙ったことも事実だが、新田さんや岡部先輩たちが血の汗を流しながら日夜奮闘した結果でもあるのだ。

今回の入京にしても、その岡部先輩からのお呼び出しに応えたものであって、用件は例によっての見合い話であり、時節柄不適当だとする声も全く無かったわけではないが、実際には未曾有の大戦争を控えて逆に結婚を急ぐ動きも少なくないのである。

とにもかくにも、日にちまで指定して飛んで来いとの仰せだったこともあり、大きな声では言えないが相手が相手だ、どのみち逃げ回るわけにもいかず、おそるおそる顔を出すと、たちまち明日には見合いの席に出ろと頭ごなしの仰せで、いつもなら若干の反発を覚えるところなのだが、今度ばかりは微妙に心が動いてしまっている。

何しろ先輩がうちの親共から押し付けられた見合い写真のお相手が、ほっぺたを抓ってみたくなるほどの美貌の持主で、見合い写真など、どうせ相当修整されているだろうとは思いつつも、ついつい惹かれてしまう自分がそこにいる。

事前に耳にした大まかなプロフィルからしても、さほど裕福とも思えない平凡な家庭に育ったごく普通の娘さんであり、特段の閨閥などその匂いさえ感じられないのである。

しかも先方はこの私を良く知っていると言い、その上でのこの話だとも聞いた。

そう聞けば、思い当たる節も無いではない。

何と、以前家庭教師代わりに高校受験の手ほどきをしてやった近所の娘さんなのである。

色白で目のくりっとした可憐な少女を思い浮かべながら、不覚にも胸のうちが思いのほかに華やいでしまっており、正直なもので明日は全てこの先輩の筋書きに乗ってみる気になってしまっている。

その筋書きにある見合いの席にしてもこのホテルの一階だと言う話で、まして先輩が用意してくれた今宵のねぐらはその最上階の一室であって、しかも、先ほど招じ入れられたこの部屋の直ぐそばだと仰る。

その室内は思っていた以上に豪勢なもので、いずれも高級感溢れる調度類に目をやっていたが、数人の人声と共に運び込まれて来たものには今さらながら目を見張った。

無論、次室で厳しくチェックを受けたのだろうが、三台のワゴンにてんこ盛りの酒肴の数々だったのだ。

何せ大富豪の奥さまが巣作りなさったこの場所は、官邸からも程近い高級ホテルのスィートのことでもあり、当然居心地が悪かろう筈も無く、勿体無くもその奥さまの酌まで頂戴しながら気楽な酒盛りが始まり、気がつけば、くつろぎきった心にも任せ、肴代わりについ持論を持ち出してしまっていたのである。

言ってみれば日本の国連脱退に伴う秋津州連邦設立論なのだが、それは当初日本と秋津州だけで構成し、それぞれが既存の国家体制を維持したまま強固に連携を組むと言うほどの内容だ。

ここ数年のいきさつから言って、日秋両国はさまざまな意味で飛び抜けた勝ち組となってしまっており、その勝ち組同士が言わば連合国を名乗って、独自の国際組織を立ち上げた上で、それを国際間における中心的存在にまで育て上げようとするものだ。

我ながら粗雑な議論であることも充分弁えており、聞き手がこの人ではなおのこと厳しいご批判を頂戴せざるを得ないだろう。

調子に乗ってひとしきり論じると、案の定、鋭い鏃(やじり)がうなりを生じて飛んできた。

「それ、おまえが考えたのか。」

「そうですよ。」

「嘘をつけ。秋桜ネットワークの面々の中にも同じようなことを言って回る人間が大勢いるぜ。」

鋭い鏃が胸元深く突き立った気がした。

「あは、ばれましたか。」

無念にも、たった一矢(ひとや)で討ち死にしてしまったことにはなるが、それもこれも最初から覚悟の上で喋りたてたのだから致し方も無い。

「あのな、その考えもわからぬじゃねえが、強固に連携を組むも何もそんなこたあとっくのとうに実現しちゃってるじゃねえか。」

「でも、国連から抜ければ、その瞬間に敵国条項に拘束される謂われだけは無くなるんですよ。」

くどいようだが国連憲章の敵国条項には、「米英仏中露の五カ国だけは、いずれも単独で、日本やドイツなどの行為を国連憲章違反だと随意に認定した上、誰憚ること無く一方的に軍事攻撃を行って良い。」と謳ってある。

詰まり、戦勝国連合五カ国のうち仮に一カ国、例えば中国なら中国がこの日本の振る舞いを国連憲章に反すると『認定』しただけで、問答無用で核ミサイルの雨を降らせることが出来ることになり、そうされてもこの日本は、少なくともこの敵国条項が生きている限り、反撃するどころか、苦情を言う資格すら持たないことになり、現実の日本は、そう言う国連憲章を全て受け入れた上で国連に加盟していることになる。

その国連憲章そのものを改正すれば良いではないかと言う人もいるが、国際条約の最たるものとして世界中の国々が批准してしまっている以上、たった一文字変更するにも全世界の国々が揃って国内手続きを済ませる必要があり、一口に改正すると言っても容易ではないのだ。

まして、改正案を現実のものとするためには、国連の制度上、戦勝国(米英仏中露)の全てが、少なくとも拒否権を発動しないことを以て最低条件としているのである。

そもそも日本などが望む敵国条項削除案は彼等戦勝国の既得権を奪うことに直結しており、しかも彼等の全てがそれぞれ単独で完全な拒否権を持つ以上、その実現の困難さは思うだに絶望的だと言って良い。

「たしかにそれはあるな。だが、丹波に移ってからは戦勝国(米英仏中露)の連中だって、それを理由に日本をどうこうするなんざ考えても見ねえだろうよ。」

現に秋津州国籍の戦略型潜水艦が、極北の海から北半球の全域に常時睨みを利かせており、それらの艦(ふね)は全て核ミサイルを装備していると見られている上、秋桜の地において実質的にその指揮を執っているのは、他ならぬ加納少将だとされているのである。

自らの手足をがんじがらめにしていた風変わりな憲法もとうに無く、他国から見たこの日本は、少なくとも外見上は、一方的に核攻撃を受けて黙って引っ込んでる国家ではなくなったことになる。

「そりゃ、そうでしょうが・・・」

「が、なんだ。」

「いえ、でも、日秋両国が連邦の中で言わば常任理事国として振舞えるわけですし。」

「それがどうした。」

「ですから、敵国条項なんか書いてない秋津州憲章を基本にして行動出来るんですよ。」

「おれも何通りかの憲章案を読んで見たが、要は国連憲章の二番煎じじゃねえか。」

無論その全てが、少なくとも敵国条項だけは削除してあった筈だ。

「はい。」

「まあ、そのことだけをとやかく言うつもりはねえが、あの陛下がそんなもんに振り向いてくれるとは思えねえ。」

「そうなんですよ、この前もちらっとお話してみたんですが、笑ってらっしゃるばかりで・・・。」

「そうだろう、あの方のお考えでは、わざわざ手足を縛られるなんて到底あり得ねえ。」

問題の秋津州憲章もれっきとした多国間条約である以上、締結した場合、当然その条文に拘束されるのである。

折角持ち得た完璧なフリーハンドをわざわざ縛ってしまうなど、誰にしても好まないことは明らかだろう。

まして秋津州は、いかなる多国間連合にも加盟することなく完全な一国孤立主義を貫いたとしても、殆ど痛痒を感じないで済むだけの国情を既に持ってしまっているのだ。

無論その「国情」の第一は、真実の国民が若者以外に一人も存在してないことだろう。

「それは判るんですが、諸外国の参加を促す意味でも成文化されたルールが無いと。」

「ふふん、結局本音はそれかい。」

「え。」

「詰まり、国連に代わる世界規模の組織として考えてるわけだ。」

「え・・・、はい。」

「あのアホくさい国連を消滅させたいわけだよな。」

「当たり前じゃないですか。」

「消滅させるに当たって、新たな枠組みを事前に用意しとくってえことだ。」

「だって、この憲章の旗のもとに世界中が集まっちゃえば、所詮戦勝国連合でしかない国連なんて自然消滅しか無いでしょ。」

くどいようだが、国際連合( United Nations )とは日本では意識的に誤訳が流布されたものであって、字義的にも内容的にも本来は第二次大戦の「戦勝国連合」そのものなのだ。

現に漢字圏の台湾や中国では、この「United Nations」には「联合国(連合国)」を宛てており、実態は、その「戦勝国連合」に敗戦国である日本があとから頼み込んでようやく入れてもらっているに過ぎない。

無論、その方がトータルでは日本の国益に適うと当時の日本政府が判断したからに他ならないのだが、かと言ってそう言う「国連」の決定に、今後日本自身の「軍事行動」の是非を無条件に委ねようと言い募るやからなどは、筆者の感受性から見れば最早狂ったとしか思えないのである。

如何なる国家であれ、自国の軍事行動の是非は、あくまで自国の「トータルでの」国益をこそ唯一の判断基準となすべきだと信じて疑わないからなのだが、少なくとも現今においては、客観的に「侵略行為」と看做されてしまうような軍事行動など、「トータルでの」国益に適わないことは言うまでもない。

「大筋は反対しねえが、それもこれも陛下次第ってことになるわけだから所詮夢物語さ。」

確かに、最大の目玉である秋津州が参画していなければ、苦労して大舞台を作って見せたところで客を呼べないのである。

結局、自分の粗雑な議論はここで潰えざるを得ないのだ。

「やっぱり無理でしょうかねえ。」

「こっちに都合のいいことばかり考えてると疲れるばかりだぞ。」

「えへへ。」

「それより、場合によっちゃもっと大変なことが起きちゃうかも知れねえ。」

人の悪い先輩の頬は崩れっぱなしだ。

「え。」

「未だ気がつかねえのか。」

「どう言うことですか。」

「ご退位だよ。」

「陛下のですか、まさかあ。」

「まあ、世が治まればの話だろうがな。」

「しかし、後継者が・・・」

「うん、それだ。」

「え。」

「あははは。」

先輩は大口を開けて笑っている。

「なんなんすか、意地悪しないで教えてくださいよ。」

「あのなあ、例えば国家がなくなれば後継者もくそもねえだろう。」

「無くなればって、秋津州がですかあ。」

「なにも、ご自分の為に国家主権が欲しかったわけじゃねえんだぜ。」

「あ。」

「な。」

「ご一族を保護するために・・・。」

そのご一族は既に一人もいないのだ。

尤も、その事実を知る者は未だ数えるほどでしか無い。

「ふふん。」

「それじゃあ、この先どう言うことになっちゃうんでしょう。」

「さあなあ、それこそ、こっちの方が聞きてえくらいだよ。」

口ではそう言いながら、にやにや笑っているのである。

「しかし、これ(退位)ばかりはお諌めしなければなりません。」

つい、大見得を切ってしまっていたのである。

向こう正面の奥さまの視線が心なし頬に痛い。

何せこの奥様は、今やあのヤマトサロンの重鎮中の重鎮だ。

「何故だよ。」

「だって・・・」

「日本の足場を強化する為だろうが。」

「は、はい。」

「それこそ身勝手な話だな。」

「それはそうなんですが・・・」

「仮に秋津州って言う国家が消滅したって、あの方はれっきとした日本人なんだからな。ちっともこまりゃあしねえやな。」

事実なのである。

不思議なことに若者は秋津州の国王でありつつも、例の大帰化決議によって合法的に日本国民の一人となってしまっており、現に敷島と言う日本の領土内に住民登録まで済ませてあるのだ。

そうである以上、一たびその人を滅ぼそうとする相手が出現し、しかもその敵が他国の政府若しくはそれに準ずるほどの相手であった場合、日本政府はその日本国民を断じて守るべき義務を負う。

尤も、義務を負っているからと言って、常にそれが叶うかどうかは又別の問題ではある。

「しかし・・・」

「その上、荘園の隠し沢があるし、遊び場所にも不自由しねえと来てらあ。」

「・・・。」

「近頃じゃ、馬酔木の湖(あしびのうみ)に絶妙のおもちゃまでお持ちだって言うじゃあねえか。」

ここで言う馬酔木の湖とは、馬酔木の山斎(あしびのしま)の西側一帯を大きく占めている湾のことなのだが、高空から見れば完全に内海(うちうみ)の観を呈しており、その巨大さは、地球上のオーストラリア大陸をそっくりそこに浮かべても余りあるほどのものであり、そうである以上、それは湾とは言いながら既に堂々たる海洋だと言って良い。

かつて陛下が世界に示した丹波の大縮尺海図があったが、その湾はある意味奇妙な特徴を持っていた。

第一に、その西端に開いた唯一の湾口が極端に狭く、そのことを以てこの馬酔木の湖は国際法上からもれっきとした「内水」と看做されており、今では内陸に散在する多くの湖沼群と全く同等の扱いを受けるに至っているほどだ。

尤も、湾口が狭いと言っても、あくまで湾の規模に比しての話であり、概ね五百キロほどの幅はあることから、如何なる巨船であろうと物理的には航行を許すのだが、国際法上の内水であるため他国の船舶の侵入を一切許さなくとも、非難を受ける謂れは無いのである。

そしてその馬酔木の湖には数隻の巨船が浮かんでいると報じられ、それぞれが千メートルもの長さを持つことが近頃話題の一つに上がっており、その船主(ふなぬし)がどなたかは今さら言うまでも無いことなのだ。

「はい、私も二度ばかりお供しましたが、あのばかでかい船も元々はクジラ獲りに使ってたものらしいですよ。」

「捕鯨母船だよな。」

かつてローズが但馬の海で目撃したあの空飛ぶ巨船なのである。

「今は捕鯨船としては操業してませんけどね。」

「丹波では全面的に中断してらっしゃるからな。」

「だって、丹後や但馬のクジラだけで充分ですから。」

「こないだ公表なさった映像を見ると、なかなか変わった船もお持ちのようだが。」

「ああ、大和(やまと)のことですね。」

船名も既に報道されていた筈で、機密でもなんでもないことなのだ。

「うん、それだよ。」

「捕鯨船よりふた回りは大きいですけど、要はクルーザーのようなもんですわ。尤も、大分前に竣工してたみたいですがね。」

「相当豪華な設備が揃ってるって話だが。」

「いえ、あの大きさから言ったら、たいしたことは無かったですよ。でかいパーティールームとかプールとかはありますけど、身内用のものは別にして客室みたいなのは精々五百室くらいのもんですから。」

通常世界の豪華客船を想えば、それこそ数千の客室を具えていても不思議はないほどの威容であり、結局、先輩の言う「おもちゃ」とは、この点を指して言っていることになるのだろう。

「報道だと、大規模な医療設備があるって言うな。」

専任の医療関係者は勿論、数百にも及ぶと言う女性乗組員の存在まで目にしているのだ。

「はい、強いて言えば娯楽室と、あとはでっかい倉庫ばっかりでした。」

「おめえ、なんか聞いてねえのか。」

「え。」

「例えば、どなたかをご招待なさりたいご希望とか。」

「あ。」

「心当たりがあるんだな。」

「そう言えば、異星人騒ぎが起こる前だったか、ご皇室の皆さまを・・・。」

「やはりな。」

詰まり、洋上の迎賓館と言うことになる。

「この騒ぎさえ無けりゃ、今頃実現してたかも判りませんね。」

「ひょっとしたら、日本人秋津州一郎氏個人としての形式になってたかもなあ。」

「しかし、それじゃあ困っちゃいますよ。」

「ふふん。」

「第一、秋津州軍はどうすんですか。」

「あっさり消滅させちゃうか、若しくは立見大将に国家元首を名乗らせるってえ手もありかな。誰も文句は言えねえだろう。」

「じゃ、陛下ご自身は・・・」

「日本人秋津州一郎氏として生きる。」

尤も、仮に陛下が表面上一日本人としてお暮らしになるとしても、秋津州という国家が存続する場合、依然としてその国家の唯一無二の潜在的主権者であり続けることに変わりは無い。

何せ、マイティ・ヘクサゴンに「命令」を伝えさえすれば良いのだ。

但し、それはあくまで非公式なものであって、国際法上の整合性だけは失われてしまうが、その場合でも、秋津州の新たな国家元首が、若者の意思をそのまま国家の意思であると認めれば結果は同じことだ。

これ以上無いほど完璧な傀儡国家が、見事に一つ完成するだけの話なのである。

「う・・・。」

「あっはっはっはっ、ちょっとおどかし過ぎたかな。」

「まったく、人が悪いんだから。」

「わりい、わりい。」

「まったく・・・・、若いもんをからかっちゃいけませんよ。」

いましも隣室から戻って見えた夫人が上品に笑ってらっしゃるが、この方はいつお会いしてもほんとにお美しい。

その隣室では、あのメアリーおばさんが大二郎ちゃんのお相手をしてやってるらしく、先ほども元気一杯の男の子の声が聞こえたばかりだ。

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  1. 2008/05/18(日) 15:21:05|
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自立国家の建設 126

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「だがなあ、あながち冗談とばかりも言えねえぞ。」

先輩は、頗る糞まじめな表情を浮かべて見せるのである。

「またあ、おどかさないで下さいよ。」

「ま、ポイントは、どうしても秋津州の国権を以て守りたいとお思いになるほどのモノをお持ちになれるかどうかだな。」

この予言が外れるためには、あの若者がそれほどのモノを持てるかどうかに掛かっていると仰る。

「え。」

「判らねえかよ。」

「あ、ほんとのご家族のことですよね。」

国民を守るに際し、その意思を持つ限りにおいて、国家権力以上に合法的な機能を持つ装置などいまだに存在しないことは確かなのである。

但し、その国家が弱国であっては、守りたい国民も守れなくなってしまうだけの話だ。

くどいようだが、その国が「弱国」かどうかの基準は、何も軍事的な要素だけに限って言っているわけではない。

「ふふん。」

「じゃ、先輩も・・・」

「相変わらず鈍いなあ、おめえも。」

又しても奥さまに笑われてしまったが、結局この先輩も秋津州の既存の体制を維持したいと願ってることだけは確かなのだろう。

そのために必要なファクターは、これもまた言われるまでも無いことだ。

「判りました。今後一層奮励努力致しますです。」

自国寄りの思想信条を具える後継者の誕生を待ち望んでいるのは、何も日本だけに限らないのである。

「ふふん。」

又してもせせら笑われてしまった。

「しかし、陛下のお行儀の良さには驚かされるばかりですわ。」

無論、女性とのことを指して言ったつもりでいる。

通常、女性の協力なくして後継者の誕生なぞ望めないのは当然だが、この意味での「協力」を望んでいる女性と言うだけなら、それこそごまんといるのだ。

仮に、公募などしようものなら、あっと言う間に大量の応募が殺到すること請け合いで、現に、不謹慎にもその手の企画を立てて大規模にアンケート調査をやらかしたメディアまであり、そのメディアの言い草によれば、統計学上は世界に二億人もの希望者がいることになっちゃうらしいが、若く凛々しい君主自身の魅力もさることながら、秋津州の未来の国母と言う地位の持つ輝きが、尋常一様のものでないことだけは充分に窺える結果ではある。

一時ヤマトサロンでも大いに話題となり、二人のお嬢さまなどは、その競争者の多さに恐れをなして半べそをかいたことさえあったくらいだ。

「おめえとは違うってさ。」

「勘弁して下さいよ。」

だが、この件ばかりは、なんと言われても仕方が無い。

現に、いっとき縁遠くなった筈の例のでかぱいのアメリカ娘とも近頃交際が復活しかかっている上に、あのときのロシア嬢にしても何のかんのと言いながら再び電話を掛けて来ているありさまで、あの氷のような美貌にはいささか動揺を覚えずにはいられないからだ。

例の宇宙戦争を控えて自分の値打ちが再び急騰しているのだろうが、英中仏独などからもその手の攻撃が既に始まってしまっている気配まで感じており、この分では遠からず自分の周囲は、再び花盛りの季節を迎えてしまう予感さえする今日この頃なのだ。

「尤も、陛下がおめえとおんなじでもまた困るがな。」

「あらら、陛下だって例のベリーダンスは大好きのようですよ。」

八雲の郷の三の荘には例の秋津州ロイヤルホテルがあり、そこで世界の王を篭絡する一手段として、しきりに催される妖艶極まりないイベントのことなのである。

「そりゃそうだ、男なら嫌いなやつはいねえだろう。」

伝統ある本来のベリーダンスと言うものが果たして如何なるものであったかはさて置き、現にそこで行われるイベントに限っては、男性の本能をひたすら刺激して已まないものであり、その目的から言ってもそれも当然と言うほかは無い。

しかも、初期の頃に専らプリンシパル(主役)を務めていた年配のプロダンサーも既に交代してしまっており、近頃では全て若手ばかりで占められるに至っているのである。

「先日なんか、そんなかでもぴか一のダンサーのお酌を受けてましたし。」

確かジェシカとか言うイタリア系のアメリカ娘なのだが、数あるダンサーの中でも目下お気に入りナンバーワンであることだけは動かない。

自分の目から言えば、綺麗というよりも、顔と言い体つきと言いひたすら色っぽい女で、でかぱいのアンの口振りでは、未だはたちかそこらの小娘が、満足な日本語一つ使えないくせに、既に相当なボーナスまで手にしているらしく、笑止千万にもアン自身がかなりの敵愾心に燃えている気配まで垣間見せるのだ。

デートの最中に聞かされる身にとっては鼻白むこと甚だしいが、結局、このアンにしても本音では、出来ることならと、強国秋津州の国母の地位を望んでいることに変わりは無いのである。

あんまりむかつくから、一度、「今度陛下を紹介してやるからデートしてみたら良い。」と言ってやったことがあるが、体中整形美女のくせして小鼻をひくつかせながら身を乗り出してきて、「前金で一千万払う。」とこきやがったくらいで、現に最大の好機を掴んだジェシカ嬢のアタック振りには、もう見るからに凄まじいものがあって当然だ。

「うん、聞いてる。そのダンサー相当なものらしいからな。」

「私なんか、もうくらくらするくらいのオンナです。」

「尤も、例のサロンではえらく評判が悪いらしいな。」

奥さまはかたわらでお澄まし顔でそっぽを向いてらっしゃるが、先輩はそのお顔にわざわざ視線を走らせながらの仰せだ。

「そりゃそうですわ。なんせ毒の花の匂いをぷんぷん振り撒いて、純情な陛下を迷わせようってオンナなんですから。」

「うん、うちの奥さんなんかオンナのテキだって言ってるぜ。」

その奥さまが先輩のわき腹を小突いてらっしゃる。

「まあ、敵さんが自信を持って用意した最終兵器だって言う人もいるくらいですからねえ。」

「あははっ、最終兵器はよかったな。」

「久我夫人なんか、あんなのが来たらそれこそ床(ゆか)が腐っちゃうとか言い出してますし、みどりママも、王家のエリアには一歩も足を踏み入れさせないって言って、もうえらい剣幕ですわ。」

「そんなこと言ったって、ご当人さまがお気に入りならしょうがねえだろう。」

又しても、奥さまが先輩の横っ腹を小突いている。

それも、今回はかなり力が入っていたように見えなくもない。

「まあ、陛下もいまんところ、そこまでは行ってないんですけどね。」

「サザンクロスにご招待ってえ話も聞いてるぞ。」

陛下のデートの話なのだ。

酒席でその娘にそこへのデートをせがまれて、陛下は少なくとも拒絶はなさらなかったのである。

「あれはみどりママが強硬に言いましてぶっ壊しました。」

それを耳にしたみどりが黙っているはずも無い。

「お二人の方からは何も出なかったのか。」

この場合のお二人とは、無論咲子嬢とローズ嬢のことなのだが、近頃のヤマトサロンでは専ら姫と呼ばれることが増えて来ており、今ではあの図々しいビル支局長までが好意を込めてその呼び名を使っているくらいだ。

長らくお付きの侍女たちにかしづかれながら過ごして来ている上に、迫水秘書官からの指導の甲斐もあってか、お二人とも既に充分な気品をお持ちで、その姿が例え王のキッチンにあってさえ、流石のビルも以前のようなぞんざいな接し方だけは躊躇われるのだろう。

この点でも王家の姫君たちは益々気高くお美しいのである。

賀詞交歓会などでは綺羅星の如く居並ぶ東西のご令嬢たちだが、例えどんなに美々しく着飾っていようとも、それに匹敵するほどのお方にはついぞお目にかかったことが無いくらいで、ジェシカやアンなど無論その足元にも及ばない。

「いまんとこは・・・。」

「しかし、そいつは少しヤバいかもな。」

先輩は奥さまのお顔を見ながら仰り、奥さまは奥さまで無言で頷き返してらっしゃるところを見ると、ヤマトサロンもまた、この「最終兵器」からの防衛論争で風雲急を告げているのだろう。

「でも、あんなオンナから誘われたら、私なんかもう裸足で駆け出しちゃうかもわかりません。」

派手な厚化粧が実によく映える顔立ちで、その独特の色香は何ものにも勝ると思わせずには置かないほどのものであり、あの方が男としては珍しいほど長い空閨を守ってこられたところから見ても、惹かれるのも無理はないと思えてしまうのである。

「こらこら、おまえは明日見合いする身なんだぞ、少しは言葉を慎め。」

「えへへへっ。」

「くれぐれも明日はまじめな顔してなくちゃいかんぞ。」

「判りました。」

「わかりゃいいが、おめえと言う男は調子づくと何を言い出すか判らんからな。」

先輩は世にも苦い顔を見せており、又しても鋭い鏃が飛んできそうな気配は濃厚だ。

「ところで、例の異星人の話なんですが。」

いささか身の危険を感じたこともあり、話題を変えるには絶好の話柄だったろう。

「うん。」

「確か十一年前は、無茶苦茶な攻撃をして来たヤツ等ですよねえ。」

第一波の攻撃から数えれば、既に十二年になるとも聞いている。

「そうらしいな。」

「そうらしいなって・・・」

「何が言いたい。」

「いや、ですから当時の秋津州人は無差別攻撃って言うか、相当ひどい目に会わされたって話ですよねえ。」

当時原住民としてのキャスティングを割り振られていた者は、決して少ない数ではなかった筈で、しかもその者らは脆弱な戦闘能力しか持たなかったらしく、自然劫掠強姦はおろか破壊放火などなど相当な被害を受けてしまったと聞いているのだ。

「実際は全部ヒューマノイドだったって話だな。」

「でも、少なくとも初期の頃は知らなかった筈ですよね。」

現に、一部とは言え、若く美しい外見を具えた女性型のものなんかは、そのまま拉致されてしまったほどだ。

「だから、何を言いたいんだよ。」

「ですから、普通の生き物だと思いながら残虐行為に及んだことになるって言う話ですよ。」

「ふむ。」

「言わば、ピザ島の戦いで、侵略者たちが働いた残虐行為にも通じると思うんです。」

「だろうな。」

「そう言う連中が今も着々と接近中なわけで、こっちとしても相当な覚悟でかからなくちゃなりません。」

「そりゃそうだ。今度の敵さんもオンナ子供だからと言って、遠慮してくれるような手合いじゃ無さそうだからな。」

「とにかく相当残虐な相手らしいですよね。」

「まあ、大東亜戦の米軍なんかも東京大空襲と言わず広島・長崎と言わず、相手が女子供だからって、遠慮なんかこれっぽっちもしなかったからな。」

かたわらで奥さまがうつむいてらっしゃるが、実際、東京だけでも百回を超える空襲を受けており、中でも最大の被害を蒙ったとされる東京大空襲などはその一回だけを見ても、一度に十万に迫る非戦闘員が米軍の無差別攻撃の犠牲になっているのである。

その光景を「虐殺」と言わずして、なんと言えばいいのだろう。

「ほんと、そうですよねえ。」

「地上戦じゃ、かなりの日本人女性が米兵の毒牙にかかってるしな。」

勿論、沖縄戦のことを指して言っているに違いない。

「まあ、わが栄光の帝国陸軍のこともありますから、あまりヒトのことばかりは言えませんけどね。」

「ちょっと待て、こら。」

先輩の目が細くなって、一瞬ぎらりと光ったような気がした。

「いや、先輩の仰りたいことも判るんですよ、でも敵さんの言うことも全部が全部嘘ってわけじゃないと思うんですよ。」

秋津州戦争以前の彼等がことあるごとに非難の声をあげていた、かつての帝国陸軍が大陸で働いたとされる残虐行為のことを指して言ったつもりだったのだ。

「ふうむ。」

「でしょ。」

「やっぱり今風(いまふう)の教育を受けて来た人間だなあ。」

「あ、その点先輩だって似たようなもんじゃないすか。」

「確かにな、だがオレの場合大人になってからがおめえとは違う。」

「どう違うんすか。」

半分は酒の勢いもあっただろう。

思わず口を尖らせて抵抗してしまったのである。

「オレの場合は、一応近代史を学ぼうとする意識を持ってたっつうところが大違いなんだよ。」

「それならボクだって・・・」

「おめえのは、敵さんの拵えた近代史だろが。」

両者の奉ずる近代史観の間には、相当な開きがあったことは否めない。

「でも・・・」

「ひょっとして、本気で学んだとでも言いたいのか。」

「それなりには・・・」

「じゃあ聞くが、例えば帝国陸軍が最期の最後まで貫き通した連隊衛戍(れんたいえいじゅ)主義ってえのをどう見るよ。」

「え。」

「連隊衛戍主義だよ。」

「なんすか、それ。」

「衛戍ってえのは衛も戍も両方とも『守る』って意味だ。」

「へえ。」

「連隊と言うのは、簡単に言ってしまえば、一定の自己完結能力を具えた戦闘部隊の基本単位のことだ。」

「そのくらいは知ってますよ。」

「旧陸軍の連隊それぞれが、常に一定の兵営に駐屯して訓練を繰り返しながら秋(とき)に備えていたんだが、その連隊の兵士は、連隊区と言ってその周辺の一定の市町村から徴兵・召集されてくる決まりになってたんだ。」

「そうなんすか。」

「時期に寄っちゃ多少の例外はあるが、基本的にその区域は一定で不変だ。」

「ほう。」

「これだけ聞いたら、ぴんと来るものがあるだろ。」

「へ。」

「へ、じゃねえ。」

「はい。」

「なんにも感じねえのか。」

「そう言われても・・・」

「要するにだなあ、一つの連隊に入営する兵士の出身地が常に同一の地域に固定されてたってことを言ってるんだ。他国は知らんが、我が日本はそのへんで与太って歩いてる半端モンを手当たり次第にかき集めてくるなんてこたあ金輪際しなかったのさ。名前が同じヘータイだからって、味噌も糞も一緒にされて堪るもんかい。」

先輩が皮肉を込めて言う「他国」がどこの国のことかは、今さら言うまでも無いだろう。

「あ・・・。」

「判ったか。」

「じゃ、みんな故郷が一緒ってことですか。」

「そうだ。少なくとも本籍は一緒だ。」

「そうすると、互いに血縁関係、姻戚関係が濃密で、親の代どころか、先祖代々からの知り合いばかり集まってるってことになりゃしませんか。」

「まあ、概ねそう考えていいだろうな。しかも、そう言う兵士たちが同じ釜の飯を食って共に厳しい訓練に耐え、一朝ことあれば共に戦地へ赴いて共に戦う。」

「じゃあ、出身地に残る親族や知り合いたちから見たら・・・・」

「兵士たちはみんな、郷土を守るために郷土の誇りを背負って戦っていることになる。」

「まるで地元贔屓(じもとびいき)のかたまりみたいなもんですよねえ。」

「うん、地元の高校が甲子園で闘ってるようなもんだ。」

「ですよねえ。その野球部員が全員地元の子供たちの場合なんか、ものすごい応援になりますからねえ。」

「ファインプレーや貴重なヒットでも打とうものなら、それこそ郷土の英雄だ。」

「ほんと、そうですよ。その子の親族なんか鼻高々でしょう。」

「逆に、野球部員の一部が破廉恥な不祥事を起こして出場辞退になっちゃったりしたらもうことだ。」

「悪事千里を走っちゃいますよねえ。」

「その子の親族なんか、肩身が狭いだろうねえ。」

「もう、いたたまれないでしょうね、きっと。」

「軍隊の場合はそれがもっと強く出る。」

しかも、戦勝の受益者は全国民なのだ。

地元の連隊が負けようものなら、肩身が狭いこと甚だしい。

「あ。」

「戦場で破廉恥な行為を働けば親戚一同郷土の恥だ。鼻つまみと言って良い。」

「狭い地域社会じゃあ、絶対に広まっちゃいますものねえ。」

「尤も、その行為が非難を浴びるかどうかは、全て当時の民衆の心情的規範に関わってくるがな。」

「規範が違うと・・・」

「少なくとも平時の規範とはまるっきり違う。何せ身内や知り合いの男どもが現に戦場で血みどろで戦ってるんだからな。」

「ううん。」

「まあ、そのときに生きてみなけりゃ実際の民衆の気分なんか判らねえだろうが、少なくとも戦地の男どもが勝ち残って欲しいと祈ったことだけは確かだろう。」

「それは、そうでしょうね。」

「勝ち残る為には、敵をやっつけるほかはねえんだ。味方を裏切って逃げちゃったりしたら敵前逃亡でそれこそ銃殺だ。」

「その上、故郷では親族一同が辛い想いをすることにも。」

「当時のことだ、破廉恥なことをやったら下手すりゃ孫子(まごこ)の代まで祟るだろう。」

「ほんとですね。」

「兵士の身になって考えても、身内の人間まで地域の鼻つまみになっちゃうのは死ぬほど辛い。」

「はい。」

「自分一人の問題じゃねえんだ。殊に農村地帯なんかじゃ、親戚の娘の嫁入り話にも差し支えが出て来る。」

「でしょうね。」

当時の日本においては、農村地帯の占める割合が圧倒的に大きかったことも、確かな事実なのである。

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  1. 2008/05/22(木) 15:19:20|
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自立国家の建設 127

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「判るか。」

「はい。それは判るんですが、でも、例の南京(なんきん)なんかはどうなんでしょう。」

「何がよ。」

「いや、例え南京の虐殺を否定してみたところで、少なくとも侵略ではあるでしょう。」

「侵略って・・・・、おめえ、近代史を学んだって言ったばかりじゃねえかよ。」

「でも・・・・。」

「じゃ、第二次上海(しゃんはい)事変は知ってるよな。その南京戦の直接の引き金になったヤツだぜ。」

「ええと・・・。」

「まあ、端折って言えば、中国南方の沿岸部の、上海っつうところに列強各国が租借地を持ってたんだ。」

「はい。自由と犯罪の魔都とか呼ばれてて、経済的にはびっくりするくらい繁栄してたって話ですよね。」

「パスポートもビザも要らねえし、出入国一つ取っても、まったくの自由だ。人口密度なんか恐らく世界一だったろうよ。」

「確か、日本は租借地を持ってませんでしたよね。」

「だから、列強の共同租界エリアにいたんだ。」

「日本も他国同様大勢の文民が居留して、ビジネスに精を出してた筈ですよねえ。」

「うん、少なくとも当時の日本は戦争する気は無えし、日本人居留民はトップクラスの大人数と来てる。」

「はい。」

「ただ、犯罪は多いし治安だって良い筈は無えから、日本人街を警備するための若干の軍もいたことはいたんだが、ほんの僅かでしかない。」

「そこで紛争が起きたんですよね。」

「うん、いきなり包囲されちゃったようなもんだ。」

「いきなりですか。」

「そうだ。しかも敵は日本の警備隊の何千倍とか何万倍とか、とにかく警備隊から見たらべらぼうな大軍なんだ。参軍した敵の兵力が六十万って言ったら少しはぴんと来るだろう。」

実際に戦闘局面の前面に出て来たのは選りすぐりの三十五万ほどのものだったが、陣地の後方も含めれば優に七十五万は下らないとまで言われているほどなのである。

「へえ、そんな大軍だったんですか。」

「何とか事変ってえネーミングだから、てえしたことは無えみたいに聞こえちゃうんだが、実際は飛んでもねえ大戦争だったんだよ。」

「つい小競り合いくらいに思っちゃいますよねえ。実際ボクもそうでしたから。」

「やはりな。」

「些細なことが偶発的に積み重なって起こった事件のように思ってたくらいですから。」

「ところがこれが偶発なんかじゃねえんだ。実は、こんときの敵さんは言わば乾坤一擲(けんこんいってき)の大作戦を企図したんだよ。」

「大作戦ですか。」

「何しろこの当時の独中間には軍事支援協定ってやつがあってな、ドイツを通して大量の兵器や軍需物資が国民党側へばんばん輸出されてる最中だ。しかもドイツ側は大勢の軍事参謀を派遣し続けてたし、この作戦自体がドイツ軍人の立案指導だ。」

「へええ。」

「敵さんは、近接する非武装地帯にドイツ式の要塞線「ゼークトライン」とか言うヤツを築いて、大軍を以て威迫を加えたばかりか、あまつさえ一方的に攻撃して来た。」

「ええっ、一方的にですかあ。」

「そうだ。日本軍を日本の内地から引っ張り込んで、本格的な塹壕陣地におびき寄せて致命傷になるほどの大出血を強いようと企んだんだな。」

「そうだったんですかあ。」

「何せその陣地たるや、でかいこともでかいんだが、前進壕三線に機関銃トーチカを重厚に組み合わせた本格的なヤツだ。そこで守備に就いた敵兵だけでも三十万は下らねえって代物(しろもの)だからな。」

「一応の備えをして待ち構えてる塹壕陣地だと、そこを肉薄して落とそうにも膨大な犠牲が出ちゃうってのが当時の常識だったんでしょ。」

「そうだ。半端な打撃力で攻撃しようものなら、あっちこっちのトーチカから機関銃でばりばりってやられるから下手すりゃこっちが全滅だ。尤も、そこが敵の狙い目だったんだからな。」

「敵さんもうまいことを考えましたよねえ。だってその手に乗っちゃったら日本軍は死体の山を築くことになっちゃう。」

「しかも敵さんは挑発的攻撃を止めない。」

「抗議したんでしょ。」

「協定違反だからこっちは当然抗議するが、相手は聞く耳を持たねえ。」

「相手の方が圧倒的に優勢なんだから、聞く筈無いですよね。」

「そりゃあ聞くわきゃあ無えだろう。なんてったってそもそもが、日本に致命傷になるほどの大出血を強いてやろうってんで立てた作戦なんだからな。聞くどころかこっちの内側にまで侵入して攻撃して来たんだ。日本の警備隊は必死に防戦せざるを得ないから、否が応でも戦闘開始だな。」

「日本に勝ち目は無いですよね。」

「あまりの劣勢に日本人居留民を保護するどころの騒ぎじゃねえ。」

「でしょうねえ。」

「そこで、おめえならどうするよ。」

「逃げます。もう逃げるしか無いでしょ。」

「ばかやろう。怖じ気づいて逃げ腰になろうものなら、兵隊どころか居留民まで皆殺しになっちゃうんだよ。それもものすごく残虐な殺され方だっちゅうことが鳴り響いちゃってるんだ。」

「いっぱい前例がありますからねえ。」

「そうだ。そこでどうする。」

「降参します。降参すればみんな助かる筈でしょ。」

「ばかやろう、助かると思うかよ。」

「え、だって、こっちは降伏するんですよ。それを攻撃するだなんて考えられませんけど。」

「あほ抜かせ。敵さんは日本本土にいる日本軍をおびき出したいんだぜ。遠慮なんかするもんかよ。」

「あ、そうか。」

「現地の日本人を皆殺しにすりゃあ、アタマに来た日本軍がすっとんでくらあ。」

「でも、第一そこは中国なんだから、そこへ上陸して戦争したら日本の『侵略戦争』になっちゃうじゃないですかあ。」

「なにいっ。」

「え。」

「おめえ、本気でそう思ってんのかあ。」

「え、だって・・・。」

「ようし、そんじゃ、判るように話してやる。」

「でも・・・。」

「あのなあ、この東京にもアメリカ大使館があるよなあ、かなりでかいヤツが。」

「はい。」

「そこにゃあ駐在武官だっているし、最低限の警備態勢もとられてる筈だ。」

「そりゃそうでしょう。」

「東京の治安状態が仮に最悪だったりしたら、その警備態勢だって十人やそこらじゃ済まねえことになる。」

「はい。」

「そう言う状況で、日本の正規軍がアメリカ大使館のまん前にでかい陣地を築いてだなあ、しかも攻撃を加えたらどうなるよ。」

「日本はそんなことしませんよ。」

「だから仮の話だって言ってんだろ。」

「判りました。」

「この東京は日本の領土の一部だぜ。」

「勿論。」

「そこでアメリカ大使館側が反撃したら、アメリカは日本を侵略したことになるのかよ。」

「・・・。」

「え。」

「その場合は・・・ 。」

「どうなんだよ。」

「そりゃ、侵略にはならんでしょう。」

「な、上海だって同じことだ。」

「はい・・・、でも・・・。」

「ん。」

「この直前に支那事変が起きちゃってますよね。」

有名な盧溝橋(ろこうきょう)事件は、遠く離れた北京付近で千九百三十七年の七月七日に起きており、二十八日には日中間の本格的な軍事衝突に至るのだが、先輩の言うこの第二次上海事変は、その直後の八月十三日に始まったとされているのである。

「そうだよ。」

「そうすると、もう日中戦争が始まっちゃってるじゃないですかあ。」

「んにゃ、互いに戦争だとしてないんだな、これが。双方ともに地方で起きた局地的な紛争なんだよ。」

この意味では、「日中戦争」と言う名の戦争など元々存在しないことになる。

「そりゃあ、お互い外国からの支援とか輸入とかの都合がありますからねえ。」

「判ってるじゃねえか。」

「そのくらいは・・・。」

「実態はどうあれ、互いに戦争だとしてないんだから、退去の必要もねえし、上海と言う自由都市でビジネスは続くんだよ。」

「でも、七月七日(盧溝橋事件)の時点で侵略なんじゃないですか。」

「ばかやろう。その日の(盧溝橋)事件だって、現地で演習中の日本軍にいきなり一方的に射撃を加えて来たのは間違いなく敵の方じゃねえか。」

「でも、中国の内陸で軍事演習やってる時点でおかしいじゃないですかあ。」

「あれれえ、おめえ、何にも知らねえのか。」

「え。」

「当時の列強は、中国の国内に軍隊の駐屯権も演習権も合法的に持ってたんだぜ。」

「・・・。」

「まさか、北清事変は知ってるよな。」

「はい、千九百年の義和団の乱ですよね。確か中国人が大反乱を起こして駐在外国人なんかがたくさん被害に会って、北京なんかびっしり包囲されちゃったって言う話でしょ。」

「これがれっきとした対外戦争になったってえことはどうだ。」

「あ。当時の中国政府が反乱を鎮めるどころか、逆に反乱側と手を結んで列強全部に宣戦布告しちゃったんでしたっけ。」

「そうだ。まわりじゅうお定まりの暴動の嵐だし、現地の各国大使館なんか、どれもこれも風前の灯だ。そこへ正式に宣戦布告されたんだし、各国がそれぞれ出兵して北京の大使館やなんかの自国民を救出することになった。」

「そりゃそうですよねえ。」

「北京政府は列強の連合軍に勝てるわきゃ無えから、あっと言う間にぼろ負けだ。」

実際、このときの日本軍は、その精強振りと相俟って、軍規厳正な振る舞いが際立っており、そのことで各国の賞賛を浴びたこともさまざまな記録に残されているほどだ。

何しろこの勝ち戦の中で各国の軍には頗る暴虐な行為が目立ち、殊にロシア軍に至っては将官自らが略奪行為に走ったとされているほどだが、方や日本軍にはその類(たぐい)の行為がまったく見られなかったことは記憶されて然るべきだろう。

「それで清国側は降伏したんですよね。」

「大義なき宣戦をてめえの方で発しておきながら、こんだ降伏だわ。」

「降伏するしか無かったでしょうねえ。」

「終戦処理にあたって当然賠償金なんかもいっぱい取られる。」

「そりゃしょうがないでしょ。」

「そこで問題になるのは敵さんの体質だ。」

「あ、暴動が起きても責任取らない・・・。」

「特に北京城内には外国公館がいっぱいあった。」

「北京政府は、外国公館をちゃんと保護しなくちゃならないのに・・・。」

「そうだ。下手すりゃ、今後も暴動側と一緒になって攻撃してくるかも判らん。なんせやつらの流儀はいっつも強盗強姦殺人ばかりだから、相手が外国の大使夫妻だろうが女中だろうが無残な目に会わされちゃうんだ。」

「あ、それで・・・。」

「うん、簡単に言やあ、列強は中国国内に駐屯とか演習とかの権利を条約を以て確保したんだ。国と国とが正式に結んだ約束ごとだよな。」

「なるほど。」

「盧溝橋事件にしたってだよ、合法的にそこにいる日本軍が一方的に射撃を受けたんだ。その場合、どうすりゃいいんだよ。」

「普通誰でも反撃しますよねえ。」

「ところがそんときの日本側はかなり抑制的な対応をしてる。まったく撃ち返さなかったわけじゃないがな。」

「そうなんですか。」

「そうだ、こちらから停戦交渉を持ちかけて、しかも停戦協定までいったんだ。まあ、結局は全面衝突になっちゃうけどな。」

「・・・。」

「だからな、この上海事変も日本側から見たら、一方的に喧嘩を吹っ掛けられたことになるし、少なくとも敵さんの一方的な侵略行為に見えるんだ。」

「なるほど。」

「さ、それでどうするよ。」

「え。」

「だからよ、上海で、こっちは一方的に不利な状況で、べらぼうな軍事攻勢を受けつつあるわけだ。そう言う場合おめえが日本の総責任者だったらどうすんだって聞いてんだ。」

「そうなると、救援隊を送るしかありませんよね。」

「そうだろう。そこで上陸した日本の救援部隊が十倍近い敵の大軍を押し返して、ようやく反攻に転ずることになる。このときの苛烈な塹壕戦で日本軍が発揮した無類の強さが語り草になってるくらいだ。」

「あ、敵は充分に戦備を整えて待ち構えてたわけですよね。」

「そうだ、敵さんとしちゃあ最初っからそれが作戦なんだからな。だが、それほどの敵陣を少数の我が軍が見事にぶち抜いちゃう。」

「ほう。」

「日本軍の強猛さには世界がびっくらこいたんだが、情け無えことに敵はいつもの潰走だ。」

「へええ。」

「こっちとしちゃあこれほどの攻撃を受けたんだし、徹底的に叩いとかんと、戦線を立て直して直ぐに反攻して来るに決まってるから、当然猛烈な追撃戦に移ることになる。」

「あ、その延長が南京戦に繋がるんですか。」

「うん、当時の敵の首都は三百キロ北方の南京だ。」

「はい。」

「敵の総本部も当然その南京にある。」

「・・・。」

「日本軍は途中連戦連勝で進撃してやがて南京に迫るんだが、敵は上海からずっとボロ負け続きだから、当然大量の損害を出しながら撤退に次ぐ撤退だ。」

「戦争ですよねえ。」

「そんときの敵さんが、べらぼうな戦傷兵を必死に収容しながら撤退を続けたことを思うべしだ。足腰の立たねえ戦傷兵やなんかが大勢南京にまで運ばれたことになりゃしねえか。」

「そうでしょうねえ。」

「もうじき日本軍が破竹の勢いでやってくると知った南京の敵さんは、例の通りの作戦だわ。」

「あ、お得意の焦土作戦・・・。」

「そうだ、敵さんは南京城外はるか数十キロに至るまで焼き払ったんだ。焼き払われた被害者は全て自国の民ばかりだ。」

「もうじきやってくる日本軍を困らせるためですよね。」

「日本軍に利用されるくらいならと言って、自国の民に対して略奪暴行の限りを尽くして、その辺一帯にはもう何も無い状態にしたんだ。これもいつものことで珍しくも無え話だが、とにかくあとから日本軍がやって来ても見渡す限りの焼け野原が狙い目だ。」

「確か、南京は十二月でしたっけ。」

「そうだ、第二次上海事変の勃発から数えりゃ四ヶ月経ってて、間違い無く真冬だな。」

「一面の枯れ草なんて相当燃えやすかったでしょうね。」

「その上、敵さんはどさくさに紛れて、常に大量に自国民を虐殺しちゃうことで有名だわ。」

「あ、あの一帯じゃ今でも大量に人骨が出て来るって言いますね。」

「それに南京城内にも、瀕死の状態で運び込まれた傷病兵がごまんといた筈だ。」

「日本軍が迫るとえらいさんたちはみんな逃げちゃったって言いますから、瀕死の傷病兵なんかどうなっちゃったんでしょう。」

「言うまでもねえだろう。何せ残された守備隊の総司令官まで逃げちゃったくらいだ。」

「へええ、そうなんですか。」

「それにな。一番ヤバいことが別にあるんだよ。」

「え。」

「敵さんには変わったシステムがあったんだ。」

「なんすか、それ。」

「言わば督戦隊とでも言うべきしろものだ。」

「え。」

「南京戦の攻防の局面を想像してみろ。」

「ええと、えらいさんたちがみんな逃げちゃってて、鬼のような日本軍が攻めて来てるんですよねえ。」

「そうだ。なんせ敵さんはいつも通りの負け戦だから士気なんか揚がりようが無えだろうし、守ってるのは城とは言っても中世の城壁だよ。」

「・・・。」

「日本軍がやってくると早速城外の防衛戦が始まるんだが、その戦闘で浮き足立って城内に逃げ込もうとする連中が大量に出た。それを城内から味方が撃つ。機関銃まで使ってな。」

「げっ。」

「まあ、戦争だからな、どっちにしても死屍累々だ。」

「・・・・。」

「さあ、そうやって見回してみてだなあ、それでも南京戦を日本の一方的な侵略だって言い張る気か。」

「いえ・・・・。」

「どうなんだよ。」

「今は、思いません。」

「ところで、この南京だがなあ、昔「天京」と呼ばれてたことを知ってるか。」

アルコールのまわったその口調はいよいよ滑らかだ。

「あ。」

「日本で言やあ、幕末の頃の話だが、その頃、その天京(南京)に都(みやこ)を構える皇帝が北京政府から攻撃されて、その政権が滅んだ。時まさに明治維新の直前だな。」

「太平天国・・・。」

「そうだ、それだ。この南京戦から数えて概ね七十年くらい昔の話になるかな。」

「でも、天京(南京)政府は北京政府から見たら反乱軍だったんでしょ。」

「うん、勝った方から見たら、敵はたいてい反乱軍だ。ましてこのときの北京王朝は満洲(まんじゅ:女真)であって、漢民族から見ればその名もずばりの征服王朝だ。」

「あ、清王朝のことですね。」

「だから、この天京政権は見ようによっちゃ、満洲(まんじゅ)と言う異民族の圧政を嫌って立ち上げた革命政府と言う見方だって成り立つ。」

「そうですよね。」

「まあ、それ以前にモンゴル族と言う異民族に征服されて出来た王朝が、あの元寇(げんこう)で有名な「元王朝」だってことは習ったよな。」

「はい。ジンギスカン・・・・。」

「その『元』って言う征服王朝の都も同じ北京だ。」

「・・・。」

「その元王朝に対して反乱を企てた者もこれまた大勢いる。有名どころでは白蓮教徒の乱、又の名を紅巾の乱とも言うな。奇しくもこれが太平天国と同様に一種の宗教を根っこに持つんだ。但し、決定的に違ったのはこっちの紅巾の乱の方は北京政権に勝っちゃったことだ。」

「確か日本で言えば、室町初期だったですよね。」

「うん、紅巾側の一人で貧農出の朱元璋って人がこの南京を拠点に力を付け、勝ち運にも恵まれてモンゴル王朝の「元」を打ち破って、遠く北方へ追い散らしてこの南京で「明」を建国した。」

「勝てば王朝で、負ければ反乱軍ですねえ。」

「そんなのは当たりめえの話だが、要はこの南京付近には殊に膨大な人骨が眠ってるってことを言いたかったのさ。なにせ、太平天国のときだって、北京側が南京の市民に働いたとされる虐殺行為は歴史に残るほどのものだからな。」

くどいようだが、この太平天国にからむ大虐殺から問題の南京戦までには、僅か七十年ほどの年月(としつき)しか経っていないのである。

「へええ。」

「オレなんざ、南京だったら、その周辺から例え数百万の人骨が出たって聞いても驚きゃしねえ。」

「ほんとそれじゃ、あちこち堀繰(ほっく)り返してたら出て来ない方が不思議なくらいですよねえ。」

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  1. 2008/05/25(日) 15:38:07|
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自立国家の建設 128

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「復員して来た兵士、大いに武勇談を語るっつう話もくさるほどあるぜえ。」

ヒゲ面が思いっきりほころんでいる。

「ほほう。」

「岩見重太郎とか荒木又右衛門じゃあねえが、すげえ豪傑ばっかり出てくんだな、これが。」

「あはは、みんなスーパーマンばかりですよねえ。」

「しかも、戦闘場面の大活躍ばかりか、しまいには戦地で近隣の中国娘とよろしくやったとか言う話まで尾ひれがつく。」

「あらあら。」

「これがよ、同じ部隊のほかの兵士に聞くと、まるっきり話が違ってきちゃったりするんだよな。」

「いわゆる武勇談だったってわけですか。」

「なにしろ、その兵士が単独で戦ってるわけじゃねえんだからよ。」

「はい。」

「究極の団体行動のさなかの話だ。下手に抜け出してうろつこうもんなら、命の保障どころか、仲間たちにまでえれえ迷惑をかけることになっちまうんだ。」

「え。」

「点呼に遅れたりすりゃあ、その班の全員が連帯責任だし、下手すりゃ所属の全部隊が大騒ぎだぜ。のこのこ帰ってきたら殴られるだけじゃ済まねえだろうよ。」

「なるほど、そう言うことですか。」

「脱走兵や落伍兵じゃあるめえし、単独行動なんかできっこねえんだ。」

「はい。」

「くどいようだが、長いこと同じ釜の飯を喰いながら生死を共にして来た戦友たちが常時まわりにいて、しかも、連隊はみんな故郷が一緒だと来てる。」

「連隊衛戍主義ですよね。」

「それとな、よくぼろくそに言われるこの中国戦線の話だがよ。」

「はい。」

「この中国戦線では日本軍はほとんど連戦連勝なんだ。数え方にもよるが、五十数回戦って勝てなかったなあほんの二・三回だ。」

「へええ、初めて聞きました。」

「何が言いたいかっつうとだな、軍隊ってもんはボロ負けに負けて潰走するときが一番問題なんだっつうことを言いたいわけだ。」

「あ。」

「判るか。」

「はい、統率も兵站補給も失われてる状態だってことですよね。」

「そうだ。友軍に合流出来なけりゃ、あの広い大地で永遠にさ迷い続けた挙句、下手すりゃ野垂れ死にだ。」

「悲惨ですよねえ。」

「だがな、当時の日本軍は少なくとも連敗することが無えし、常に迅速に戦線を復旧出来てるから、敗兵の収容に長い時間を要するなんてこたあ先ず無かったんだよ。」

「へええ。」

「通常は勝ち戦さばかりだから、世界一厳しいと言われた軍律もそれなりに守られていたことになる。」

「少なくとも勝ってるときの軍律違反は当然重い処罰を招きますものねえ。」

「殊に破廉恥な軍律違反は大勢の戦友たちの目があるから、先ずごまかせねえ。」

「じゃ、故郷の親族なんかが白い目で見られちゃうようなひどいことなんか、やって歩いてる暇は無かったってことになりますよねえ。」

「あたりめえだ。おめえの言い草の南京大虐殺にしたって、極東軍事法廷ですら敵さんは一人の目撃者もひねり出せなかったくらいだ。」

「確か、憶測と伝聞ばかりだったですよね。」

「その憶測と伝聞にしたって、てめえに都合の悪いことなんか言うわきゃあねえだろ。何しろアメリカさんのおかげで曲がりなりにも一応戦勝国さまだ。そんな証拠がありゃあ、なんぼでも出してこれた筈なんだ。」

「必死になって捜しまわったけど、結局発見できなかったんでしょうね、気の毒に。」

「気の毒には良かったな。あははは。」

「当時はもう、カメラなんかもいっぱいあった筈ですよね。」

「うん、少なくとも当時南京城内にいた外人さんなんかは相当持ってた筈だ。」

「あ、それで大分あとになってから、証拠写真とか言うヤツがぞろぞろ出て来たんですか。」

「ばかやろう、そんなのあ、いまだに一枚も出てきてねえや。」

「え、だって。」

「だからよう、真冬の筈の南京で半袖着てる兵隊だとか、合成されたのだとか、とにかくインチキばっかりで、大虐殺の動かぬ証拠になるようなもなあ、ただの一枚も無えって言ってんだよ。」

「そうなんですかあ。」

「あるってんなら持ってこいや。おめえの言い草だと、城内に一杯いた筈の外人さんたちが、大虐殺の証拠写真ぐれえ撮って無え筈は無えだろ。何せ、短期間に何度も何度も何十万人も虐殺しまくったって言ってるくれえなんだからな。」

「う・・・。」

「当然、撮影者と場所と日にちぐれえははっきりしてなきゃダメだぜ。」

「あ、なるほど。」

「まして、へんてこな写真持って来て、キャプションにこれが日本軍の残虐行為でございって書くのも願い下げだ。」

「そんなもの、あとでいくらでも書けますからねえ。」

「それとな、断っとくが日本軍は敵兵はいっぱい殺したぜ。南京へ向けて進撃中だってそのへんをうろついてる怪しげなヤツなんか、それこそ、ばんばんとっつかまえて来て片っ端から銃殺だ。」

「そんなあ。」

「ばかやろう、ホンモノの一般人ならみんな逃げ散ってて、戦場付近でなんかうろうろしてるもんかい。それに敵さんは形勢不利と見ると直ぐに略奪して軍服は脱いじゃうんだ。」

「でも、それじゃ大虐殺になっちゃうじゃないですかあ。」

「あれれえ、そんなこと言ってたら、こっちだってこの戦いだけで何万人も殺されてるぜえ。」

「それって戦死者ってことじゃあ・・・。」

「普通それを虐殺って呼ぶのかよ。」

「いえ・・・。」

「まあ、当時の日本軍が上海から南京にかけて、膨大な中国人さまを殺したことは間違い無えだろう。」

「はい。」

先輩の口振りでは相当な大戦争だったらしいし、その戦争に勝利するために敵に大打撃を加えたと言っているに違いない。

「あっちこっちの局面で一旦捕虜にしたものの、始末に困って殺しちゃったことも事実だろう。」

「・・・。」

「例の幕府山の件なんかも、一度に一万数千もの敵兵が一斉に降参してきたのを、一旦収容して食事まで与えて置きながら、ほとんど皆殺しにしちゃったってえのも本当の話だろうよ。」

(筆者註:幕府山とは南京城外北方の地名)

「あ、それって・・・。」

「うん、それほどの大人数を入れとく捕虜収容所なんて急に作れっこ無えし、満足な囲いすら無えくれえだから、その夜捕虜たちが闇に紛れてどんどん逃げちゃって、残った僅かの敵さんも解放してやろうとしてたのに、暴動が起きちゃったから已む無く撃ち殺したって言う話も聞いてるが、オレは怪しいもんだと思ってるぜ。」

「へえ、先輩の話としては意外でした。」

「ばかやろう、ヒトを見くびるんじゃねえ。」

「すいません。」

「少なくとも、捕虜たちやなんかを軍法会議や軍律会議にもかけずに殺しちゃうなんざ、まともなことだとは思って無えが、かと言ってそのときの現場指揮官やその上級指揮官の身になって考えて見たら・・・・。」

ヒゲ面が苦渋に満ちた表情で、今豪華なシャンデリアを見上げている。

「・・・。」

「自分の身に振り替えてみたとき、はっきり言って自信が無えんだよ。なんつったって自分の部下たちの糧食さえ満足じゃ無え状況だ。」

「でも、やっぱりまずいですよお。」

「その通りだ。本来やっちゃいけねえことだ。」

「ですよねえ。」

「ほかの国の軍隊の場合でも良くあることだとは言いながら、そんなことは理由にはならん。反省すべきは素直に反省するべきだと思っとる。」

「現に、敵さんの場合なんか、戦争でもないのに在留日本人をあっちこっちで殺しまくってましたからねえ。それも目を覆いたくなるよう残虐なやり方ばっかりで。」

「ほほう、それは知ってたか。」

「ボクだって、そのくらいは知ってますよ。」

「なんせ、戦争でも無いのに普通の在留邦人が被害に会った暴虐事件はそれまでにもごろごろあったからな。」

「その流れで行くと、陥落後の南京城内の掃討戦はかなり厳しかったでしょうねえ。」

「うん、残敵掃討は常に重要な作戦だ。おろそかにしてると、それこそえらいしっぺ返しを喰うことになるからな。」

「残敵掃討で思い出しましたが、城内に南京安全区国際委員会ってのがあったそうですよね。」

「うん、こいつ等も憶測と伝聞でいろんなことをしゃべってやがるよな。」

「しかし、外人さんが主導的に運営してたんですから、かなり中立的な立場に立っての証言だった筈ですよねえ。」

「なんだ、その中立って。」

「いや、ですから南京在住の外国人たちが安全区って言う中立地帯を作ってたわけでしょう。」

「そんなもなあ無え。」

先輩は実に意外なことを言う。

「え、だっていろんな資料に書いてありますよ。」

「尻に書いてあろうが、おでこに書いてあろうが、そんなもなあ無えって言ったら無えんだ。」

「だって・・・。」

「確かにおめえの言う南京安全区なんとかって名前の団体はあっただろうよ。だがな、だからと言って、それが中立を守る団体だったってことにはならねえって言ってんだよ。」

「でも・・・。」

「おめえ、まさか中立ってことがどう言うものか知らねえんじゃあるめえな。」

「でも、彼等は中立を大声で主張してた筈ですよ。」

「ほほう、でかい声で主張したら、中立だって認めてもらえんのか。初めて聞く話だな。」

「でも、その声は尊重されるべきだと思いますけど。」

「ばか言え、日本軍は十分過ぎるほど尊重してらあ。」

「だったら、彼等の見解だって尊重されるべきでしょう。」

「ふふん、ことによりけりだな。」

「どう言うことですか。」

「あのなあ、また仮にの話で恐縮だがよ。」

「・・・。」

「例えば、ドイツとフランスの中間にBと言う国があったとするわ。」

「Bですか。」

「そうだ、Bだ。B国は独仏両国に挟まれてる地形だ。」

「それでどうなるんすか。」

「うん、ドイツとフランスの仲が険悪になるんだな、これが。」

「はい。」

「それでこの場合、Bと言う国は永世中立を大声で宣言してることにしようぜ。しかもドイツもフランスもその大声を耳にしてるから、Bの声が一応届いてることになるんだが、その永世中立を独仏が承認してたかどうかは、この際大して問題じゃあ無えんだ。」

「・・・。」

「ここで、独仏戦がいまにも勃発しそうな雲行きだ。そんときのB国が負うべき責めを思ってみろよ。」

「あ、独仏どっちにも味方しちゃいけないんですよね。」

「当然だろう。なんせてめえで言い出した『中立』なんだからな。ドイツ軍がB国に侵入して来て対仏戦の橋頭堡を築いちゃうとか、通過点として利用するとかは断じて許され無え。」

「そうですよね、自分から言い出した中立なんですから。」

「だが、ドイツ軍は怒涛の如くB国に侵入してくるかも知れねえぞ。」

「う・・・。」

どっかで聞いたことのあるような話だ。

「そんとき、B国が中立って書いた看板を出して置きゃあ、ドイツ軍は黙って引き返して行ってくれるのかい。」

「いえ、・・・。」

「ちょっと余談だがなあ、二十世紀初頭に日露戦争ってえのがあったよな。」

「はい。」

「その日露戦争勃発前夜だが、朝鮮半島にも似たような話があったのを知ってるか。」

「あ、はい。」

「当時の半島は大韓帝国ってえ名前を名乗ってたんだが、それもこれもその直前に日本が血の汗を垂らして、ようやく確保してやった名前だ。」

「あ、日清戦争・・・。」

「そうだ、その日清戦争で日本が大清帝国さまを北方へ押し返した結果誕生したんだからな。」

「確かに。」

「ところがだよ、日本が少し大人しくしてたら、大清帝国さまの代わりにこんだロシア帝国さまがやってきやがった。そんときの大韓帝国さまは中立って書いた立て看板一つ出さなかったんだ。」

「・・・。」

「ロシア帝国さまは半島にどんどこどんどこ縄張りをおっぴろげて、しまいにゃあ半島の南端にまで進出してきやがった。対馬なんてもう目と鼻の先だぜ。もうじきその対馬に軍港を築くところまで行くにちげえねえ。」

ライト兄弟が記念的初飛行を行ったのは千九百三年の暮れであって、この当時は制空権と言う概念は未だ成立すらしていない。

ロシアがその強大な海軍力を以て対馬を足掛かりに制海権を確立してしまえば、少なくとも日本は西北方面への行動の自由をまったく失ってしまうのである。

「まさか、そこまでは・・・。」

無論、対馬はれっきとした日本領だ。

「やらねえ理由がどこにあるんだよ。現にロシア帝国さまは立派な前歴をお持ちだぜえ。」

「え。」

「幕末のことだが、現にその対馬を軍事占領したじゃねえかよ。」

「あ。」

思い出した。

れっきとした史実なのだ。

そのときのロシア帝国さまは、問答無用で対馬に陸戦隊を上陸させ、現地の日本人を多数殺害し、或いは捕まえて人質となし、なんと言われようと図々しく居座り続けたのである。

居座る為に、砦まがいのものまで作っちゃったほどだ。

「そんときだって、日本側は自力じゃどうにもならなくって、大英帝国さまにお願いしてやっと追っ払ってもらったくれえだ。」

その大英帝国さまが動いてくれたのにも、無論それなりの理由がある。

ロシアの対馬占領が、ときの大英帝国さまの利益に大きく反していたからだ。

「そうでした。」

「前回とは違うぜえ。ロシア帝国さまは、今度は準備万端整えて半島の南端までいらしてるんだぜ。」

「う・・・。」

「シベリアから満州まで通した鉄道を、そのまま半島を縦断させれば、日本を屈服させる準備が整うんだ。一旦そうなっちゃってからじゃ、この日本は従属を免れねえ。当時の国際常識から言って、ロシアは紛れも無え純然たる仮想敵国さまだ。」

「そりゃ、そうですよね。」

「そんでよ、そんときの大韓帝国さまのなさりようはどうよ。」

「・・・。」

「ロシアと言う仮想敵国の片棒を担いだことだけは間違い無えだろう。」

「・・・。」

「あちらさんはロシアさまに脅かされて無理矢理だったから、自分等に責任は無えって仰るが、そんな屁理屈は通らねえ。少なくとも抵抗の実(じつ)をあげようとはしてねえんだから、その時点で敵対行為と看做すのが普通だ。」

「・・・。」

「どこの味方をしようが勝手だが、必死に抵抗するどころか、愛想笑いしながら揉み手までして迎え入れた以上、日本から見りゃあ純然たる敵対行為だぜ。」

「はい。」

「我が身可愛さに日本と言う隣国の命運を賭けものにしちゃったんだから、仮にその後日本から攻め込まれて例え一千万人殺されちゃっても、少なくとも道義上はとやかく言う資格は無えだろうよ。」

「・・・。」

「いくら弱国だからって、何をしても許されるわけじゃあ無えんだ。歴然たる敵対行為を働く以上、同時に相手からも敵視されるのは覚悟の上のことじゃねえのか。」

先輩は憤懣遣る方無い様子で仰るが、酒のほうも相当効いて来ているに違いない。

「そのくらいは判りますよ。」

「判ってりゃいい。」

「ところで、さっきの独仏とB国の方の話はどうなるんです。」

B国の話がどっかへ行っちゃったのである。

「あ、そうだ。そのB国さまの話だ。」

「はい、そのB国さまの話です。」

「ドイツの空軍機がそのB国の領空を飛んで、フランスを爆撃しようとするかも知れねえ。逆もまた然りだ。」

「はい。」

「そんときのB国は永世中立を謳う以上、侵入者を一意に撃退する責めを負うんだ。両国の飛行機が自国の領空に侵入してきたら、それが百機だろうが千機だろうが問答無用で一機残らず撃墜しなきゃならねえ。」

「そうでしょうね。」

「とても敵わねえような強力な機甲兵団が大挙して進入して来た場合でも、それこそ全滅を賭してでも押し返す意思を行動を以て示さなければならん。それが独軍であっても仏軍であってもだ。」

「それは当然そうあるべきでしょうね。」

「とにかく、口先だけで百万遍中立を唱えてたって、屁のツッパリにもなりゃしねえんだ。」

「屁のツッパリですか。」

「まして、独仏戦が行われ、独仏いずれかの軍兵がB国に入り込もうとしたら、それも断固として排除するか、若しくはその武装解除に完璧を期す責めを負う。完璧を期すためには、少なくとも終戦まではきっちり禁足して見張っておかざなるめえ。B国の民衆の間にもぐりこませておいて見てみぬ振りをするなど、中立国としてはもってのほかの背信行為だ。」

「確かに、仏独戦の最中にフランス兵をかくまったり保護を加えたりしたら、ドイツから見たらその瞬間に中立じゃなくなっちゃいますよね。」

「そうだろう。中立どころか敵対行為だ。」

「はい。」

「現に永世中立を以て国是としているスイスなんかは、そのことを実効あらしむる為にずっと重武装で通して来てるし、国民皆兵制で、しかも一般家庭にまで銃を常備させて、普段から死ぬ気で軍事教練や避難訓練をやっとるくらいだ。」

「実例がありましたねえ。」

「仇やおろそかに中立を考えちゃいけねえ。中立を守ると言うことは実にそう言うことなんだぜ。」

「結局、『非武装』中立なんて物理的に成り立たないんですよね。」

「そうだ。武装を解いた瞬間に中立そのものも消えてなくなっちゃうんだ。」

「哀しいけど、それが現実なんですよね。」

「さすがに最近は、非武装中立を叫んでみせる連中は少ねえな。」

「ほんとですね。」

「然るにだなあ。」

「はい、然るに。」

「件(くだん)の南京安全区国際委員会とやらはどうだったか。」

「・・・。」

「確かに中立の立て看板だけは百万本も揚げて見せたかも知れねえが、その実態はどうだ。あろうことか、大量の敵さんの流入を許したばかりか、その中の幹部を直接匿い保護をさえ加えた。裏でつるんでやがるんだよ。」

「そうだったんですか。」

「あまつさえ、流入させた敵兵どもの助命歎願まで大威張りで出してくる始末だ。もしそいつ等が中立を叫ぶんなら、自らの背信行為を自ら認めてることになるんだ。」

「でも、人道上・・・。」

「ばかやろう、未だ戦争中だ。しかも売られた喧嘩だぜ。」

「だって、助命歎願でしょ。」

「未だわかんねえのか、戦争中だって言ってるだろがあ。うかうかしてたら、こっちにもえらい犠牲者が出ちゃうんだ。」

「・・・・。」

「この場合の敵兵どもは安全区の中に紛れ込み、降伏の意思を示すどころか、武器を携え、或いは付近に隠匿してるんだ。しかもこれが半端な人数じゃあねえ、はっきりとは言えねえが数万は固えだろう。」

「あ、・・・。」

「そいつらが死に物狂いで暴れたらどうなるよ。素手じゃねえんだぞ。」

「・・・。」

「まして、軍服なんぞ、とっくのとうに脱いじゃってるんだ。」

「・・・。」

「そいつらが本気で降伏を望むんだったら、その外人さんたちに武器を差し出してひたすら恭順の意を示すのが本当だろうぜ。」

「う・・・。」

「判ったか。その安全区国際なんとかが中立どころか敵対行為を働いてたことが。この日本じゃあ、未だに良心的な外国人グループと見てるヒトがいるようだが、考えて見りゃあとんでもねえ話なんだぜ。」

「はい。」

「しかも、その外人連中は長いこと首都南京に住んで、あっちの国とでかい商売をしてるヤツがほとんどだ。中には牧師さんもいたみてえだが、いずれにしても日本軍によりも、敵さんの方にはるかにシンパシーを感じてた筈だ。」

「日本軍はそこに攻め込んだんですから、それはそうでしょうね。」

「それでも我が軍はその団体を尊重したぜ。はらわたが煮えくり返る想いだったろうが、何せ西洋人ばかりだ、当然欧米列強の世論に配慮する必要があったからだ。」

「あ、そう考えると、この外人さんたちの母国が弱国ばかりだったら、日本軍に銃殺されててもおかしくないですよね。」

「とにかく戦場だぜ。戦場で利敵行為をはたらくやつは見つけ次第銃殺だ。こりゃあ、どこの国の軍隊だってみんなそうだろう。」

無論、平時ではなく戦時中の話なのである。

「そうですよね。」

「そう言うやつ等が憶測と伝聞だけでほざいてる事なんざ誰が信用するかよ。それこそ臍が茶を沸かすぜ。」

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  1. 2008/05/30(金) 14:34:34|
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