日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 137

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二千十二年七月一日、六角庁舎から二人の正妃に関する公式発表が行われ、そのニュースはたちどころに世界を駆け巡った。

当然、ビッグニュースには違いない。

自然過剰に反応してしまう国も少なく無いが、敵襲を控えてそのいずれもが戦時に等しい。

何が起きても不思議は無いほどの状況が眼前にあるのである。

尤も、この件に関しては既に一部で囁かれて来ており、中でもNBSのビルなどはサロンの動きからその匂いだけは嗅ぎとっていた上に、例のご婦人方が王の居間でしきりに集会を開き、大問題として扱っている件まで耳にしてしまっている。

キッチンのお二人にそれとなく当たってみたところ、共に無言で頬を染めておいでのところをみても、彼女たちが未だに乙女のままだと言う話は事実なのだろう。

この意味に限れば、あの方は未だにお二人を娶ってはおられないことになるのである。

無論この憶測を記事にするつもりは無く、ジャーナリストとしては問題ありだと言われてしまうかも知れないが、近しい友人としては、これをゴシップとして流すことより、問題の解決に手を貸すことの方がよほど大切なことに感じてしまっており、次席のジョンなどに知れれば即座に大騒ぎだろう。

しかし、実に不思議な話ではある。

ある意味、陛下らしいと思ってひとしお微笑ましいものがあったが、個人としても事実関係については興味が無いことも無い。

だが、その友人は現在非常な繁忙の中にある。

已む無く突然の朝駆けを試み、朝食の席に割り込んで直接本音を聞いてみることにしたが、初々しい乙女の顔が揃っていることもあってか、そのお応えもあまりはかばかしいものとは言えない。

質問の内容そのものは否定しないが理由を問われても良く判らんとの仰せで、あまつさえ二人の乙女が共々に、そのことが無くとも愛情に変わりが無い以上さしたる問題では無いと仰るのである。

まあ、ご当人が揃って納得しておいでなら、それこそ他人の私がとやかく言うことではない。

話の様子では、サロンのうるさがたからさまざまな対応策が出ていることも事実らしく、そこに話題が及ぶと二人の乙女が耳たぶまで真っ赤に染めてらっしゃるくらいで、その内容に興味が湧かないことも無いが、これ以上深追いするのは、それこそ大きなお世話だと言うことになる。

あとは、ご成婚の記念イベントが最大の目玉になるが、その件は全くの未定だと仰り、取りも直さず、敵襲が遠くないことを益々強く想起させるばかりだ。

一番肝心な索敵行の成果に関してはこれと言うお話もなく、とうから捕捉中の敵艦は予想以上に接近してきてはいるものの、これは構造から言っても成層圏にまで下りてくることは不可能だろうが、一方の恐るべき戦艦が未だに行方知れずのままだ。

それこそ、いつなんどき敵襲を受けても不思議は無い状況がそのまま続いていることになり、その点に付いては陛下の索敵行以外に実効ある対抗策などある筈も無く、あとは敵機が成層圏に近づくのを待って精一杯の迎撃を試みるより他は無い。

米英仏に至っては戦術核の使用さえ躊躇わないとしており、この星の自然環境が途方も無く汚れてしまうことさえあり得る状況だが、それでなお核使用に対する非難の声など上がっては来ないのだ。

とにもかくにも可能な限りの防空網を張り巡らせて待つほかは無く、事前交渉の余地さえ与えず問答無用で攻撃してくる相手を前にしながら、それ以外にどうすることも出来ないでいるのである。

一秒の後れが十億人の犠牲に通じると言う者までおり、発見が遅れればその分だけ損害が拡大してしまうことだけは事実で、この意味でも、陛下の索敵行に一途に縋る気持ちは各国共に切実なものがあり、各国当局はその吉報を固唾(かたず)を呑んで待ち望んでいるのが実態なのだ。

結局それ以上の情報は得られないまま、程なく年若い友人の出撃を見送ることになったが、それがれっきとした索敵行である以上、直後にも敵に遭遇してしまうかもしれず、そうなればそこは間違いなく戦場だ。

そう考えれば、この方は現に日々闘っておられるのだ。

しかも、一旦出撃なさったあとはお帰りがあるまで殆ど音信不通になってしまう以上、そのひとつひとつが永久(とわ)の別れになってしまうかもしれず、妃たちが、日々どんなお気持ちで見送ってらっしゃるのかを改めて想わざるを得ない。

だが、この方は王たるものの務めを果たすべくひたすら征くのである。

ご本人に言わせれば、「如何にもしてただ国を守るのみ」と言うことになるのだろうが、それがこれほど長期間にわたってしまっている状況を思えば、その不屈の精神力には畏敬の念さえ覚えるほどだ。

もしこれが自分だったらその精神が到底耐えられない筈で、妃たちにしても、泣けるものなら思い切り泣いてしまいたいところだろうが、聞けば、最悪の場合でも、王の妻として恥ずかしくない死に方を念頭に置いて行動するだけだと仰り、その点では既に達観しておられるようだ。

丹後か但馬への避難と言う話もいっとき出ていたようだが、王妃たる者が揃って逃げ出したりすれば、一瞬でパニックになってしまうことだけは確かだろう。

その後も強引に取材を続けた結果、近頃のヤマトサロンに新たなメンバーが加わったことだけは確報を得ることが出来た。

何せ、私は出入り自由なのだ。

髪も瞳もブラックで一際目立つその美女の姿だけは、とうに視野に入れていたのである。

今までその正体までは掴めずにいたのだが、その女性こそ例の田中氏が電光石火で入籍を済ませた佐和子夫人だとの仰せで、田中氏自身そのことで近頃大忙しだった気配でもあり、秋桜エリアの新居が落ち着き次第早速取材をさせていただくことにしよう。

彼女がヤマトサロンの主要メンバーの一人となることが確実である以上、その思想信条は陛下に対してもそれなりの影響力を秘めており、その意味でのニュースバリューは決して低いものでは無いからだ。

だが、他社と同様我が社の日本支社の者も、咲子妃の母親に突撃取材を敢行してあえなく玉砕してしまっている通り、彼女たちの口の固さはとみに有名で、一見口の軽そうに見える久我夫人でさえ、王家の身内のつもりでいる手前、身内の恥を表に出すなど考えられない状況なのである。


一方でタイラーも得難い情報源の訪れを得ていた。

無論、いつもの女神さまだ。

いよいよ、例の件について魔王の意図するところを耳にすることが出来る。

二人の美姫を同時に得た上に、我が国ほどの大国が歴然と風下に立つことを申し入れている以上、あの男の機嫌が悪かろう筈が無いのである。

承る前から胸が弾んでくるほどだ。

ところが、話は妙な展開を見せつつある。

なんと、「他国の軍を指揮するつもりは無い。」との仰せだ。

但し、秋津州軍の作戦内容は開示してやっても良いと仰り、そのために我が軍の制服組を秋津州国防軍の中枢近くに常駐させる件も、やぶさかでは無いとの仰せだ。

詰まり、こちらの希望が通ったことになる。

どうせ、問題の異星人は独力で立ち向かえる相手ではないのだ。

少なくとも敵戦艦の接近情報だけは最速で入手出来る道理であり、こちらとしては秋津州軍の作戦計画さえ洩らしていただければそれに倣うほかは無く、いくら指揮はしないと仰っても結果は同じことだろう。

既に、この一の荘の総司令部の中にそこそこの部屋の用意もおありのようで、そうとなれば数日の内に我が軍の中枢が揃って入れる筈で、早速、マイティ・ヘクサゴンの兵部(ひょうぶ)の連中と正式な打ち合わせに入ることにしよう。

突然の敵襲を思えば、ことは急ぐのだ。

しかも、ときにとって、一旦火の消えた「荒野の薔薇作戦」までが眼前で息を吹き返そうとしている。

祝賀の使節派遣など一切無用との仰せではあるが、それは既に一際麗々しく本国を出発してしまっており、一行が到着して祝意を述べることに少なくとも障害などはあるまい。

殆どの他国の場合も似たようなものであり、これを機に魔王に訪米を請うて見るのも一興だろう。


七月二十日は、例によって建国記念日である。

王も近衛軍も早朝から出撃してしまって留守だったが、二人の王妃が馬上颯爽と国旗掲揚の指揮を執り、万雷の拍手を浴びながら式典に幕を下ろした。

二人共将官級の正装に帯剣姿で秋津州の留守を守る姿勢を一際鮮明にしており、ハーフドームの中からも大いに涙を誘うことになったが、いずれの胸をよぎるものも例外なく強大な敵の襲来なのである。

いま秋津州の王妃が剣を取り、女の身ながら命を懸けて国を守る意思を示しており、秋津州の意思はあまねく世界に轟いた筈だ。

しかし、扈従していたのは僅かなかんなぎだけであり、その全てが凛然と馬上にあったとは言え、事前に囁かれた大軍団の登場も無く、上空の馬酔木の龍(あしびのりゅう)が多少の彩りを添えてくれはしたものの、多くを期待したメディアにとっては食い足りないものが残ったろう。

少なくとも軍事力として地上を行進して見せてくれたのは女性ばかりであり、その中に一人の男性の姿も見ることはなかったのだ。

無論、カメラの放列がその模様を悉く捉え続けており、一方でその映像を複雑な想いで見ているものもいなかったわけではない。

殊に、任那で時を過ごすジェシカ・ペースと山川真奈美などはその典型と言って良かったろう。


やがて、八月も中旬に至り新田家と岡部家にそれぞれ長女の出生と言う慶事があり、田中盛重も新妻の請いを容れて東京で簡素な披露宴を持った。

八雲の郷の一の荘には国連軍の実質的な司令部が成立して、既に立見大将の身近にあり、世界経済が戦争景気で沸騰を続ける中、七カ国協議の席上では例の「秋津州超国家論」が音量を増し、近未来の世界政府構想をぶち上げてみせるものまで出たが、無論、秋津州の王に動じるところは無い。

日々、粛々と索敵行を繰り返すばかりだ。

一方、王家の極めて家庭的な問題も一向に解消される気配も無く、ヤマトサロンの苛立ちは高まるばかりであり、みどりママや久我夫人が妃たちのナイティなどにしきりに口を挟んだりしているが、当の妃たちは従前通りのパジャマ姿を通していて、盛んに持ち込まれる妖艶なデザインのそれなどには見向きもしない。

妃たちがその主張の拠り所として、国王のお気に召すものが可憐なデザインのパジャマであると言い張る以上、流石のみどりも如何ともし難いのである。


さて、九月の十日は問題のジェシカ・ペースにとっては二十一歳の誕生日だ。

彼女は、既に任那の秋津州ロイヤルホテルに引き移り、その最上階のスィーツでひたすら獲物の到来を待ち受けており、その日々は期待の連続だったことは確かだ。

女は足摺りする想いで待っているのである。

しかも、タイラー言うところの男を引きつけて已まない女であり、その道では千軍万馬のキャリアを具え、サロンからは反感を込めて最終兵器と呼ばれているくらいで、その意味ではプロ中のプロと言って良い。

妖艶に装いを凝らし、一たび街に出れば、その姿は多くの男たちの熱い視線を集めるが、本人としては無論満たされる筈も無い。

狙う獲物は只一人であり、既に迎撃態勢は整った。

万全なのだ。

ボスに頼んだものも全部揃ったし、専用のリムジンでさえ難無く与えられていて、その意味に限れば文句の無い日々だけど、肝心のあの方のおいでが無い。

一度も無いのである。

その間、あの方はお妃を二人もお持ちになり、しかも恐ろしい異星人との戦闘に備えてとんでもないほどお忙しいらしい。

ニュースなんかで見てると、来る日も来る日も、あのUFOみたいな戦闘機に乗って出撃して行ってるらしいし、お忙しいことも嘘じゃないみたいだ。

とにかく今は人類全部が戦争中なのだ。

でも考えてみると、もう三ヶ月近くもお会いしていないのである。

あたしの魔法の杖は、いったいどう言うおつもりなんだろう。

いくら戦争だからって、一度くらい来れない筈は無いじゃないの。

お使いの方の言う通りにしている以上、もう篭の鳥もおんなじなんだし、それにこっちはそんなに贅沢を言ってるわけじゃないんだから。

散々警察のお世話になったような女が王妃だなんて最初から諦めてるし、そのこともあの秘書にちゃんと言ってあるのに、それでもおいでが無いなんて、そんなに奥さまが怖いのかしら。

でも、ボスの口振りじゃその奥さまたちが未だヴァージンのままらしいって言うけど、そんなことってあるのかしらねえ。

もしそれがほんとだとしたら、やっぱりあの方はあたしのことを本気で思ってくれてるに違いない。

現にあの秘書の方の口振りなんかでは、あたしさえ本気で望んでいさえすれば、絶対望みが叶うんだって話だったし、あのレディのことだけは引っ掛かるけど、それを成功させないと、あの秘書さんが応援してくれなくなっちゃうだろうし、ほんとそのことだけは頭が痛いのよ。

あの様子じゃ最低でも一回は成功させないといけないみたいだし、とても大事なことだって言われちゃったけど、成功したあとで「それ」がほかのオンナに使われちゃうことが一番嫌なのだ。

いくらお世継ぎが欲しいからって、上手くやればあたしが産めるかも知れないんだし、そんな必要なんて無い筈なのよ。

いや、絶対あたしが産むんだ。

それにそうなったらあの方はあたしの魔法の杖に決まりだから、もう殆ど怖いモノなんかなくなっちゃうだろうし、そう思っただけでぞくぞくしてきちゃう。

とにかく、あの方の子供が欲しくて欲しくてたまらない。

その子がお世継ぎになったりしたら、世界はもうあたしのものもおんなじなのだ。

そのためにも、あの方にだけは嫌われるわけにはいかない。

あんまりのんびりし過ぎてぶくぶく太っちゃってもいけないし、あの方と上手にお話するためにも、ダンスだけじゃなくて日本語のレッスンだって絶対欠かしちゃいけないのよねえ。

あたしだって、そのくらい判ってるんだから。

ダンスのレッスンを終えてから汗を流し、午後の日本語のレッスンのことを思いながらランチを摂っているところに、豪華なバースディプレゼントが届いた。

バースディカードもなんにも無くて、あの秘書の名前だけだったけど、本当の贈り主はあの方に決まってるんだし、それにダイヤをいっぱいちりばめたこのピアスとブローチのセットなんか、きっと三百万ドル(日本円で九百万ほど)は固いわね。

何しろ、今の米ドルはやたら安くなっちゃってるんだから、場合によっちゃもっとするかもしれない。

第一、あの大富豪がわざわざイミテーションなんて使う筈が無いんだから、やっぱりあの方は、本当はここに来たいのに戦争で忙しくて来れないだけなんだわ。

きっとそうに違いないと胸の中で叫んでしまっていたのである。


尤も、この任那には、人工知能が特段の注意を払う女性がもう一人暮らしている。

それも、主が珍しくそれらしい意思表示をしてくれた貴重な女性なのである。

その女性は今日も大和商事ビルの最上階にあって、ひとしお堅実な仕事振りを見せてはいるが、実際は胸の中に大風が吹いており、国王婚姻のニュースに接してからはなおのこと悶々としていた。

そして密かに哀しい呟きを洩らすのである。

もともと、何一つ約束があるわけでも無く、思えば単にこの部署に抜擢されただけなのだ。

それこそ食事に誘われるどころか、手一つ握ってもらったことも無い。

結局自分が勝手に夢を見ているだけなんだとは思うものの、ときに胸の中が掻き毟られるような気がして、自室でひっそりと涙を拭うことも度々なのである。

朝が来ると、もう綺麗サッパリ諦めようと思うのだが、胸の中のもう一人の自分がそれを許してはくれないのだ。

おめでたいニュースが流れてから一度だけおいでになられたので、そのお祝いも滞りなく申し上げることは出来たけど、その後もいろいろなことが重なり、その想いが揺さぶられてしまっている。

何しろ、宿舎までとても豪華なものに変更になったのである。

ちょっと変わった家具もあるけど、とにかく五部屋もあって一人暮らしには勿体無いほどの広さなのだ。

しかも、今度は専用の乾燥機までついていて、コインランドリーに出向く必要も無くなったし、その他の設備面でも格段の差があり、ベッドなどは不自然なほどの大きさで、自然その意味するところも夢想せざるを得ない。

その上、社命で派遣されてきたと言うお掃除係りの少女までいて、聞けば任那の農村出身の十六歳で、赤いほっぺを輝かせながら全て私の希望に沿って動いてくれると言う。

勝手に部屋をいじられるのも嫌だからとりあえずご辞退したものの、これにはかなり驚いてしまい、その後注意して見てみたけど、例の二課のヒトたちだってこんな扱いなど受けてはいないらしい。

久保室長に伺ってみたが遠慮する必要は無いの一点張りで、特別扱いの理由にしても社命だと仰るばかりだ。

社命と言うことは、あの特大のベッドなんかもオーナー命令なのかしら。

あの長身の大富豪がおやすみになるのに、不足の無いサイズであることだけは確かなのだ。

しかも室長のプレゼント攻勢も未だに続いていて、その意味では影の贈り主の存在も未だ消えていないことになるのである。

そう考えると、少なくともあの方のご好意が失われてしまっているわけではないのだ。

あれを思いこれを思い胸の中の嵐は収まる気配もなく、煩悶が煩悶を呼んで、任那御別宅が益々秘密の場所と化してしまい、自分の恥ずかしい行為も、増えることはあっても減ることはない状況なのである。

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  1. 2008/07/02(水) 12:38:53|
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自立国家の建設 138

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その夜の土竜庵では、国王を迎えて二人だけの作戦会議がひっそりと始まっていた。

ここで言う二人とは無論新田源一と国王のことであり、そこにはいささか緊張気味に手料理を運ぶ新田夫人の姿があったが、彼女にして見ればときがときだけに、いよいよ陛下の胸の内を垣間見ることが出来ると思ったからに他ならない。

酒肴の用意を充分整えてから一旦別室に引き下がりはしたが、乳飲み子を寝かしつけながら想うことは今さらながらさまざまだ。

何しろ陛下は、最初から捕捉していらした船に関しては、ひたすら追尾するばかりで未だに攻撃の気配すらお見せにならず、そのことに対して少なからぬストレスを感じてるヒトも多いのに、その船が今現在も着々と接近中なのだ。

その船が旅立ってから百年以上経ってることも判って来てるから、最近ではその船のことをドリフター(漂流者)と呼ぶ人が増えたけど、こっちから言わせれば漂流者どころか侵略者そのものなのだ。

ドリフターの居住区域には、十万余の異星人が私たち地球人とそっくりの暦と時間単位を用いて生活していて、しかも自分たちのことをロマイオイ(ローマ人)と呼んでいるらしく、現に公用語はギリシャ語だって言うし、ローマ人って、ほんとにあのローマ人なのかしら。

実際DNA鑑定でも私たちと同じ「人類」だって言うし、だとしたら、異星人どころか地球人そのものじゃないの。

最近の話では、その「ローマ人」は壮年男性の構成比率が極端に小さくて、しかもその壮年男性の多くが戦闘員として戦艦の方に搭乗しているとされているところに持って来て、その戦艦が未だに発見すら出来ていない。

その行方が、杳として知れないのである。

尤も、見つかっていれば、ほとんどの問題はすぐに解消してしまう筈なのだ。

見つけさえすれば一瞬で粉砕しちゃうことも、当分近づけないような遠くにまで追いやってしまうことも簡単だって聞いてるけど、それが見つからないからみんな困っているのである。

居場所が知れない以上いつどこから現れるか判らない上に、丹波に接近すれば成層圏の外から無数のタカミムスビの矢を飛ばして来る筈で、各国共にそれが一番の頭痛の種なのだ。

そのタカミムスビの矢は恐らく一割も打ち落とせないだろうから、そのほとんどが地表に到達してしまうことになるし、一旦そうなっちゃったら、地表付近をマッハ二十を超える猛スピードで暴れまわる筈で、一般の国ではほとんど対抗手段が無い筈だから、結局敵のやりたい放題になっちゃって、国民が皆殺しになっちゃうと言って心配しているのである。

しかも相手にとって地上の人間は全部敵ばかりだから、それこそ見境い無しに片っ端から攻撃して来るだろうって言ってるし、一旦地表付近の闘いになっちゃったら最後、米英仏なんかが言ってる戦術核だって、まるっきり使えなくなっちゃう筈なのだ。

現在ほとんどの国が相当な避難設備を地下に設けてるらしいけど、収容能力にしたって国民の一割以下だって聞いてるし、それだっていきなり襲われれば逃げ込む隙さえ無い筈だから、日本なんか本格的な地下施設は造らないで、ひたすら迎撃あるのみだとされてるのに、不思議なことに巷では反戦運動家とか言う人たちがやたら大騒ぎらしい。

その人たちは迎撃方針を捨てて全て話し合いで解決するべきだと主張して、東京でデモ行進までやってるみたいだけど、テレビなんかでしきりに反戦を叫んでる人の見解を聞いてると、実態を誤解しちゃってるみたいでおかしな話ばかり飛び出して来るのである。

そりゃあ話し合いで解決出来ればそれに越したことは無いんだけど、じゃあ、何時(いつ)どうやって話し合いするんだって聞かれれば返答にも困るでしょうに。

中には、敵は丹波の資源を漁りに来るんだから、降伏して欲しいだけ献上すれば良いって言ってる人までいるけど、その人にしたって自分の全財産を真っ先に差し出すつもりならまだしも、自分の物は一切献上する気は無いらしいし、いざ降伏して武装解除されちゃってから、日本の領土を全部よこせって言われちゃったらどうするつもりなんだろう。

それに、降伏したら今度は異星人の支配を受ける身なんだから、その命令で徴兵された挙句、ほかの国と闘わされる羽目になっちゃうかも知れないんだし、降伏したからと言って戦争を回避したことにはならないのである。

結局、具体的な対応策なんてなんにも無いくせに、口先だけで戦争反対を叫んでるとしか思えないのだ。

戦争反対を叫んで見せれば攻撃されないとでも思ってるのかしら、ばかばかしい。

第一陛下からすれば、その相手とは十年以上も前から戦争中なんだし、一方的に襲撃して来た相手と今さら武器を捨てて話し合いだなんて、あまりに非現実過ぎてただただ笑っちゃうしかないのである。

とにかく世間にはさまざまな声があり、敵情報についても真偽ない交ぜていろんな説が飛び交ってるみたいだから、そのあたりの情報を開示するにあたっては、その真偽を確認した上で慎重に取捨選択するべきだろうし、今頃陛下と主人が額を寄せあってひそひそやってる筈だけど、酒の肴のこともあるからあんまり放っておくわけにも行かない。

台所でさっと一品用意してその部屋に戻って見ると、今しもテーブルの上に窓の月が店開きしていて、モニタに映し出されるドリフターの居住区の風景に改めて見入ってしまったのである。

陛下が潜入させたD二が捉えた映像だとは思うけど、カメラはいま雲間から下界を眺めていて、これがまた本当に鮮明な映像で、もう少し高度を下げれば、きっと大空を飛び回る鳥の姿だって見えるに違いない。

その居住区と言うのは長さ百キロの円筒形をしていて、半径が五十キロほどあるそうだから、その円筒の内周面積は概ね三万平方キロ以上になるし、しかもそれが人工太陽の制御によって昼夜のコントロールまでなされていると聞けば、これだけのものを作ったパワーには誰にしても驚嘆せざるを得ないだろう。

しかも、その七十パーセントほどが陸地を形成していると言うのだから、少なく見積もっても二万平方キロ以上の陸地があることになっちゃって、もうそれだけで相当なものなのだ。

何しろ二万平方キロと言えば、地球時代の四国全土よりまだ大きい上に、そこには山や川や湖があり、小高い丘どころか二千メートル級の山まで聳え立ち、豊かな森林地帯は勿論かなりの規模の草原まであると言うのだ。

空には雲が流れ、遠くの方では今も雨まで降らせており、山岳地帯に降った雨水もやがて伏流水や河川となって平野部へと駆け下り、遂には小さな「海」にまで流れ込む。

はるか上空に数多く輝いてる人口太陽が、その「海水」を暖めて蒸発させ、そして雲を呼んで地上に豊かな恵みを齎してくれるのだ。

その平野部には複数の都市があり、それぞれの都市は城壁こそ持たないものの、灌漑設備を縦横に巡らして農業は勿論商工業もそれなりに営まれていて、居住区の自給体制をそこそこに支えているとも聞いた。

現に眼下の牧草地ではのんびりと草を食む牛馬の群れが見えており、豚や鶏にしてもたくさん飼われている筈なのだ。

最大のエネルギー源はPME発電による「電力」であり、それらしい発電所が各所にあるって聞いたけど、一部のものは久しく停止状態にあることから、どうやら全てが順調に動いているかまでは疑わしいとも聞いてるし、いくら精妙なリサイクルシステムを持っているって言ったって、いつかは資源そのものが枯渇してしまうに違いない。

だからこそいろんな資源を奪いに来るのだろうが、前回この星から奪って行ったと言う大量の鉄鉱石なんかも、船のどこかに積み上げられてる筈だし、今度もまたいろんな資源を虎視眈々と狙っているに決まっているのだ。

とつおいつしながらモニタに見入っていると、今カメラはある都市の上空から急激にズームして地上付近を大きく映し出し、そこで暮らすローマ人の姿を数多く捉えて見せてから、やがて市街地の裏山の風景を接写し始めたが、カメラが移動するに連れて実に奇妙なものを捉えてくれたのである。

それは、少なくとも「ローマ人」たちにとってはまったく不要の物であるばかりか、本来あってはならない筈のものなのだ。

「これは・・・。」

私も驚いたが、主人などは身を乗り出して声をあげてしまっている。

「はい。」

それは高さ三メートルほどの古色蒼然たる白木の鳥居であり、額どころか額束(がくづか)すら具えていなくて、その結界の向こう側におわす筈のものの比定こそ許してはいないが、小振りながらもその形状だけは日本の神社で見かける神明造りのものと概ね大差が無い。

(筆者註:額束(がくづか)とは鳥居の上部中央にあるもので、通常ここに神社名などを書いた額を掲げることが多い。)

カメラは鳥居をくぐって鬱蒼たる木立の中を五百メートルほども細道を登り、やがて一際開けた台地に出たが、数棟の小屋を両側に見ながらなおも行くと、それははるかな前方に忽然と姿を現した。

木立に囲まれながら鎮座していたものは、正面から見る限り横幅が百メートルを超えようかという巨岩である。

「ふーむ。これは、まるで磐座(いわくら:古代の日本において、しばしば神の御座所と看做されて崇められた巨石のこと)を見るような眺めですなあ。」

高さ二十メートルほどもあろうか、それはそちこちが苔むして、見ようによっては傲然と居座っていると言えなくもない。

「そう、私もそれを感じました。」

「何かしら、畏れさえ感じてしまいますなあ。」

「まったくです。」

「最近の発見でございますか。」

「いえ、この磐座自体はかなり以前に発見しておりまして、ご覧の通りの景観でもありますから詳しい探索は手控えておったわけですが、実は問題はこの内部にあったのです。」

「内部・・・ですか。」

今カメラは巨大な自然石の裏側に回り込み、鬱蒼たる樹間を縫うようにして進んで行き、やがて巨石の下部に口を開いた洞穴へと入って行く。

「人工の隋道かと思われます。」

「ほほう。」

その入り口に通じるように草木が踏みしめられて細い通路が出来ており、しかもその洞穴は、かなりの大柄な人間でさえ両手を広げたまま楽々と入って行けるほどの大きさを具えていたのである。

洞穴に入ると数メートル先は文字通りの暗闇であり、モニタの画面は煌々とライトが灯される中を進み、直線で五十メートルほども行っただろうか、五・六坪ほどもある石室へ行き当たって前進を止めたようだ。

天井はおろか床も壁も全て見事な平面を保った巨石であり、かなり丁寧に掘削されたものであることを物語っており、造作した者の真摯な仕事振りを想わせて已まない。

カメラはその石室の内部を舐めるように映し出していたが、やがてその突き当たりの壁際に座す一人の男性の姿を明瞭に捉えて見せた。

「つい最近の発見でございました。」

陛下が小声で注釈を加えて下さったが、今ライトに浮かび上がったのは、粗末な供物台を前にしてベッドのような形状の石に座した敝衣蓬髪(へいいほうはつ)の一老人の姿である。

深い年輪を思わせるその顔に髭は無く、その目はまったく閉じられたままで、両手を膝に置いたまま真正面を向いて身じろぎ一つしていない。

「ほほう、一見モンゴロイドと言うか日本人のようにも見えますな。」

それは、日本の田園地帯で鋤鍬を手に長年の風雪に耐え抜いて来た農夫のような風貌だと言って良い。

「かなりくたびれてはおりますが、小袖の着物に軽杉(かるさん)風の袴を着けております。」

それが事実であればそれこそ日本人独特の風俗に違いないのだが、現に足首からふくらはぎにかけて脚絆(きゃはん)を巻いてるようにも見えなくも無いのである。

「では・・・。」

今、主人が陛下の目の奥をじっと覗き込んでいる。

「はい。」

陛下も、それを日本人と認識しておいでなのだ。

「亡くなられておいでなのでしょうな。」

老人は、先ほどらい微動だにしていないのである。

「いえ、ヒューマノイドでございました。」

相変わらず陛下は、淡々とした口振りだがことは重大だ。

「えっ。」

「まったく機能を停止してしまってはおりますが。」

「ほほう。」

「エネルギー源が消耗し尽くしてしまったものと思われます。」

「なるほど。」

主人の方は、ただただ感心するばかりだ。

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  1. 2008/07/30(水) 11:31:55|
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