日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 160

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一方六角庁舎においては同日夕刻、新田源一による記者会見が触れ出されたのだが、件(くだん)の漂流民の到着から既に半日近くが経過していたこともあり、世界は噂の胆沢城に重大な変化が起きつつあることを察知してしまっていると言って良い。

現に日本の人工衛星から送られてくる映像が、一部とは言えその姿を鮮明に切り取ってしまっており、多くのメディアがそれを既成の事実と捉え、臨時ニュースまで流してしまっているほどだ。

しかもこの八雲島には日頃から膨大な報道陣が常駐しており、さしもの大会場も溢れんばかりであったが、やがて土竜庵の主が国王の代弁者の立場を以て登壇し、用意のメモを淡々と読み上げたことによって、話題の漂流民たちが悉く胆沢城内に引き取られた事実が改めて公式のものとなり、やがてその人数が端数(はすう)に至るまで公表されるに及び、ジャーナリストの中にはそこにこそ問題意識を抱く者も少なく無いのである。

一つには、それが十二万八千七百五十二人もの多くを数えていたにもかかわらず、国王が胆沢城内に土地を与えるとしている対象があくまで一個人とされていたからだ。

しかも、その一個人たるや、彼等の統治者にしてローマ皇帝の称号を具える僅か十五歳の少女だとされた上、与えられた土地が五百四十ヘクタールに過ぎず、そこには多数の高層集合住宅の備えまであるとは言うものの、現に多くの漂流民が船上生活を余儀無くされていると聞くに至っては、自然義憤に駆られる者も少なくない。

事実、十三万に迫る人間の多くが、極めて狭隘な領域に詰め込まれてしまっているのである。

記者たちにして見れば、いくら衣食住が確保されていると言われても、劣悪極まりない生活環境を連想してしまうのも無理からぬことであり、殊に船上生活者には教育まで施そうとしているとする新田の発言など、全く顧みられることは無かったと言って良い。

記者たちの抱く強固な先入観が、それに合致しない情報を受け付けようとはしないのだ。

何と言っても、秋津州の立つ位置が圧倒的な勝者以外の何者でも無いと言う現実が眼前にあり、しかもこの勝者は、かつてこの者たちの攻撃によって大損害を蒙っていると言うのである。

普通そこに報復と言う想いが生じないことの方が余ほど不自然であり、記者たちの脳裏をかすめるものも尋常なものでは無いのだろう。

自然、会場には徒(ただ)ならぬ雰囲気が漂っているが、新田の口調はその後も極めて事務的なものであり続け、その延長線上で秋津州の意図がいよいよ鮮明なものとなって行った。

詰まるところ、敗者自身の自由選択制による丹後、但馬、若狭の部分割譲のことなのだが、無論それらの惑星は全て国王の荘園とされているものばかりだ。

しかも、その場合割譲の対象となる面積はいずれも二百万平方キロに及ぶと言うのだから、面積だけを取れば過剰と言って良いほどのものであり、挙句今では漂流民自身がそれを実地に検分する機会を得て、基本的な判断材料に事欠くことが無いばかりか、既にその選定作業にまで踏み込んでいるのだと言う。

結局、他の惑星に移住させることによって人類社会から切り離してしまうことが、秋津州の既定方針と見るよりほかはないのである。

件(くだん)のヤマト合意によって、漂流民への対応一切が秋津州に一任された結果だとは言うものの、冷然たる新田の口振りから復讐の匂いを嗅ぎ取る者も少なく無いだけに、漂流民の置かれている状況をそのまま楽観視してしまえる者など皆無であり、自然、会場からは非難めいた声が揚がり始める。

事実、丹波に残る選択肢が与えられない以上自由選択制と言っても名ばかりであり、結局非情な遺棄政策そのものではないかとして声を荒げる者まであって、一時会場が騒然としたほどだったが、やがて胆沢城の現地映像が多数配布されるに及び、記者たちの舌鋒は俄然別のところに向かうことになった。

取材のための現地入りを求める声が激しく飛び交うまでになったのだ。

実際この丹波には他にも多数の難民キャンプが現存し、少なく見積もっても三千万を超える人々が日々死と隣り合わせの状況にあり、現に発生している人道問題の悲惨さに言及する者も出て、そのあたりのことをモニターするためにも現地取材は不可欠だとする声で溢れたのだ。

だが、壇上の新田に動じるところは全く無い。

取材のためとは言え多数の人間がその地へ入るとなれば、感染症に倒れる漂流民が続出する懸念があるとして、各種の予防接種の必要性を理路整然と説いた上、そのことに目鼻がつくまでの現地取材は厳に規制を受けるものとされ、その解除の時期が明らかにされぬままに会見は終了してしまうのである。

無論会見の模様は配布された現地映像と共に直ちに世界へと発信され、しかもその現地映像はあどけない乳幼児の姿まで多数捉えていたこともあり、少なくともこの漂流民に対して憐憫の情を垂れて見せるだけのゆとりを持つ者の胸には、何ものかが灼熱の楔(くさび)となって打ち込まれたことだろう。

当然、各地のジャーナリストの胸にも明々と火が灯されてしまうのだが、一方に独自の解釈を以て国王の真意を汲み取ることを得ているジャーナリストもいなかったわけではない。

代表例を挙げるとすれば、それは言うまでも無くNBS支局長のビルであったろう。

現に彼はヤマトサロンにおいて、おぼろげながら事前に漂流民到着の報に出会ってしまっていた上に、新田夫人からはある種の示唆まで受けるに至っており、問題の会見場には部下だけを向かわせ、自らは専らアリアドネと呼ばれることの多い人物と二人だけで会っていたのである。

無論、己れの解釈の当否を確かめる為であったのだが、会見の申し入れをその相手が軽々と受けてくれたことによって、既にそれだけで己れの解釈に自信を深めることを得ていたほどだ。

何しろ、凄まじい繁忙の中にある筈の人物がいきなりのアポに軽々と応じてくれたことになり、如何に新田夫人の口添えがあったとは言え、彼女の方こそこの会談を望ましく思っていたことに確信を持てたのだ。

第一、新田夫人と言い、アリアドネと言い、秋津州の意に反するような動きなどする筈が無い上に、アリアドネに至っては大和商事の特別顧問を兼ね、しかも彼女が直接経営に携わる秋津州商事などは、世界のマスメディアに対して今なお群を抜く広告主の地位を占めているのである。

そのアリアドネが、漂流民たちに同情が集まることを疎ましく思うどころか、その結果秋津州の方針が広く非難を浴びることになったとしても、マスメディアに対して広告主としての影響力を行使しないことまで言明して見せるのだ。

その意とするところは既に明らかであったろう。

どう考えても、信ずるに足るあの親友が、特別のシグナルを送って来ていることになるのである。

その細部までは確信出来ないにせよ、あの若者が漂流民たちに対する同情論を喚起したいと願っていることだけは確かであり、そうである以上、その世論を利して何事かをなそうとしているのだろうが、無論、その何事かは国際社会が受け入れ難いような「非常のこと」ではあるのだろう。

いずれにせよ、それを企図している人物があの若者である限り、そのことが哀れな貧窮民たちにとって幸せな未来に繋がることだけは確信出来ているのだ。

その結果ビルは猛然と動いた。

彼等が他の惑星に遺棄されてしまうことの哀れさを強調する論説を展開し、そのためにNBSの巨大ネットを総動員して見せたのだが、その結果、様子を見ていた他のビッグメディアも一斉にそれに倣うまでになるのだ。

そのいずれの論調も秋津州の方針を批判的に捉えるものばかりであり、殊に白人国家群のメディアの示した反応には相当厳しいものが少なくなかったのだが、かと言ってこの場合の秋津州が丹波社会の安全保障に深く貢献してくれたことだけは事実であり、諸外国の当局筋からは、それに対する感謝と賞賛のメッセージこそあれ、非難めいた声明など一言も聞こえて来ることは無かったと言って良い。


また、新田が会見場で轟々たる非難の嵐を浴びていたその頃、一方の国王の方は、はるかな丹後の地において獅子奮迅の働きを見せていたのである。

それは、言い切ってしまえば例の通りの土木工事に過ぎない以上、如何に壮大なものであったにせよ、本来この男にとってはいつものことであって取り立てて言うほどのことでは無い上に、事前に充分に準備されていたことでもあり、その作業振りにはかなり手馴れたものがあると言って良い。

何しろ、あの「佐渡の鯛焼き」をわざわざ丹後に運び入れてまでその改造に着手した結果、巨大な鯛がみるみるうちに三枚におろされ、それを又三枚づつの薄切りとなし、都合九枚もの鯛焼きを拵えた上で、その裏表に壮大な加工を施しつつあったのだ。

もともと三百キロもの厚みを持っていた筈の鯛であり、それが九枚に薄切りにされたことによって、それぞれの厚みが三万メートル程度になったことになるのだが、それが更に大幅に手を加えられつつあることになる。

それだけでも大工事だ。

主たる作業場は丹後の大海の只中であったが、ドリフターはおろか丹後の陸上からも大量の資材が運び込まれ、作業場付近の海底にまで手が加えられつつある今、それは丹後の各地に大砂塵を巻き上げながら、貴重な自然を蹂躙しつつ進められているのである。

しかも、それは鯛焼きだけにとどまらない。

丹波の衛星となっていたその他の巨岩に付いても同様であり、しかも丹後の中の既存の島にまで手を加えつつあるのである。

国王は、有数の穀倉地帯であるその島を指して奥津日子(おきつひこ)と称しているようだが、島とは言いながら大陸と称しても無理の無いほどの大島(だいとう)であり、八百万平方キロを超える面積を誇っており、それを地球時代の陸地に比定すれば、豪州とニュージーランドを併せたものよりなお広大だ。

いずれにせよ途方も無い大規模工事であり、国王は膨大な秋津州軍を総動員するほどの勢いで額に汗していたことになるのだが、その悉くが遠く離れた惑星で行われていることであるだけに、その事を知る者は王の周囲の中でもほんの数人だけであったろう。

尤も、耳にしてはいても、あくまで最悪の場合に備えるリスクヘッジの一環と捉える者が殆どであり、現に東京の岡部などは、国王が大切な家族を失って未だ二月(ふたつき)にしかならないことの方を余ほど重いものと捉えており、その心情を推し量るあまり酒の量ばかりか体重まで減らしてしまっているとされ、美貌の細君にひどく気を揉ませているほどなのだ。

また田中盛重の方はこのところ秋桜エリヤにいることがめっきりと増え、プロジェクトAティームの一員として神妙な顔付きでデスクに向かいながら、その関心の多くは策定中の国家的大事業の方に向かっており、ヤマトサロンに頻繁に顔を出している新妻から、国王の前途について多少の不安材料が齎されることがあっても、少なくともその作業に関しては楽観しきってしまっており、ひたすら日本の未来について考えさせられる日々を送っているのである。

無論、人類社会の一員としての未来像であり、言い換えればこの世界の中で我が日本が如何に振舞うべきかを自らに問うていると言って良い。

何しろ、世界経済は又しても激浪の海の中にある。

対異星人戦争が泡のように消えてしまったあと、殊に大和文化圏の外側では烈風が吹き荒れてしまっており、直接の要因は戦争景気が吹き飛んでしまったことにあるとは言うものの、最大の要因は全く別のところにあるとする声しきりなのだ。

思い起こせば、かつて人類が丹波に居を移すにあたり、世界の先進国はあるいきさつから打ち揃って巨額の公債を発行するに至ったが、その全てが秋津州に依頼した膨大なインフラ建設の対価である以上、その交付先も無論秋津州以外に無いのである。

詰まり、秋津州に対して巨額の負債を負っていることになり、しかも、特殊な状況下だったとは言いながら、その全てが秋津州円建てであったことが、のちに最大の悲喜劇を齎すことになってしまった。

何しろ、ドルはもとよりユーロもポンドも秋津州円に対して暴落に次ぐ暴落を重ねて来ており、かつての先進国群にとって、その利払いや償還による負担が際限も無く膨らみつつある上に、そのことが一層市場の嫌気を呼び起こし、それが更なる暴落を招くと言う悪しき循環に陥ってしまっていたのだ。

但し、日本だけはとうの昔に全額の償還を終えてしまっていることから、為替変動による差損に限れば僅かなもので済んでおり、その点米英仏独加豪などのケースとは全く対照的だとされ、そのことが日本円に対しても自国通貨の暴落を極大化させてしまったとされている。

詰まり、米英仏独加豪などが枕を並べて討ち死にの呈なのだ。

秋津州が登場する以前の為替水準など既に遠い夢と化してしまっている上に、同時にそれらの国々では際限も無いインフレーションに見舞われてしまっており、富の偏在はいよいよ際立つばかりだ。

一例を挙げれば一方にGDPと言う経済指標があり、それが国内総生産を意味する以上、国家の経済規模を示す指標として取り扱われ、往々にして国力そのものに繋がるとされることが少なくないのだが、秋津州の登場する以前の一世紀近い間、米国のそれは常に圧倒的なものであり続けて来た。

秋津州戦争勃発の直前に限っても、当時IMF(国際通貨基金)から公表された購買力平価ベースの数値では、世界のGDP総額の内で米国の占める割合は実に二十パーセントを超えてしまっていた筈なのである。

ところが、現在の景況はどうだ。

著名なアナリストが口々に唱える数値が揃って異常なものばかりであり、今年度の統計が定まった暁には、米国のそれは六パーセントにまで低迷してしまうと言い、表立って公表されてはいないにせよ、あのCIAの分析結果ですら、七パーセントを超えることは不可能だとしているほどなのだ。

しかも、一方で秋津州のそれが四十パーセントに迫る勢いを示し、同じく日本のそれも二十パーセントに達するとする予測まで声高に喧伝される始末であり、その者たちの分析によれば、日本は殆どの資源を自給し得る能力を具えてしまっている上に、他に先駆けて圧倒的なインフラを完成させてしまっていたことが、何にも勝る強みだ言うことになるらしいのだが、その日本の輸出産業が、秋津州と言う巨大市場を得て絶好調だと言うのである。

一例を挙げれば、秋津州国内の新車販売台数が今年だけでも既に四千万台に乗ったとされ、しかもその八割を日本車が占めてしまっており、家電分野にしても日本製品が席捲する事態を迎えてしまっているほどだ。

農産物に限れば秋津州国内では大和商事が例の逆ザヤ政策を採ってはいるものの、日本の農産物が高級食材として秋津州の国内市場に歓迎される事態であり、日本の水産品にしても又同様だ。

一方で秋津州自身は膨大な農産物を各荘園から搬入し、高コストの国内産と抱き合わせることによって、日本以外の国々へ売りさばくという不思議な構図が定着してしまっており、原油や諸々の鉱物資源にしても同様なのだが、無論最大の高収益商品は種々のPMEに他ならない。

日本の自動車メーカーなどは、当初三十万円ほどで仕入れていたPMEを今では三百万円ほどで仕入れ、三千万円ほどの大衆車に搭載して販売している状況だが、何せ一連のインフレによって、東京ではラーメン一杯が六千円から一万円もするご時世なのである。

ちなみに、この時代も世界的な店舗展開を行っていることで有名なハンバーガーチェーンがあり、その代表的なハンバーガーが全世界でほぼ同一品質のものが売られていることから、その価格が国際的な経済指標として用いられることが少なく無いのだが、直近のニュースによれば、その価格が近頃驚くべき変遷を辿っているとされており、秋津州の首邑におけるそれが二円五十銭であることに引き比べ、東京でのそれが二千五百円、ニューヨークでのそれが二千五百ドルであると言い、パリにおいても二千五百ユーロに達してしまったと言うから驚きだ。

一概には言えないにせよ、東京では十倍ほどの値上がりで済んでいるのに引き比べ、ニューヨークでのそれなどは一昔前の一千倍にもなってしまっており、その原因の多くが対秋津州債務の巨大さにあるとされているのである。

ところが、日本は世界に先駆けて新領土のインフラ整備に成功したことによって、強大な国際競争力に伴う膨大な利益を得ている上に、インフレ効果もあって巨額の財政赤字を見事に解決して見せたばかりか、対秋津州債務からもとうに開放されてしまっている。

その意味では、旧先進国の中では唯一日本だけがこの混乱期を有利な態勢で乗り越えつつあるとされ、既に東京政府は懸案の年金問題を処理するに当たって、百万体を超える高機能ヒト型ロボットを一気に導入してその透明性を高める事を得て、その点での信頼回復を実現しつつあることに加え、そのロボット群の導入コストはほぼ無償に近いとされており、内政面でさまざまな課題を果たしつつある今、田中盛重たちの次なる作業も猛然と進捗する筈なのだ。

国井総理は、この激動の中にあってこそ第二の維新を行うべきだとしており、大車輪の動きを見せ始めていると言って良いのだが、その激動のうねりが全世界を覆うほどのものであるだけに、一歩誤れば国家の破綻に繋がることが目に見えており、そうである以上国民の意識も秋津州以前のものと同じものである筈は無い。

現に、破綻してしまった小国が既に複数に上っている事態が眼前にあり、破綻を懸念されるケースなど枚挙に暇が無いほどで、現実の世界は文字通りの大転換期を迎えてしまっていると言って良い。

昨今喧伝されている今期のGDP数値に照らせば、中でもアフリカ先進諸国十二カ国の躍進振りは目覚ましく、その合計値が世界の十二パーセントに達し、比較的インドが好調で六パーセント、中国が四パーセント、ロシアが三パーセントだとされ、欧州連合に至ってはその合計値が高々六パーセントに留まるとされているだけに、その落ち込みは一際深刻であり、現にあの栄光の英国海軍が、折角地球から持ち込んだ軽空母艦隊の運用まで諦めざるを得ない状況に追い込まれてしまっているのである。

無論、英連邦内の豪州やカナダの苦境など構っている余裕は全く無い上に、それどころか大和文化圏への輸出の途が閉ざされれば、英国自身が一瞬にして崩壊してしまうと囁かれているほどだ。

一方の米国にしても一朝秋津州資金の支援を失うようなことがあれば、英国以上の惨状が眼前にあるとする説まで飛び交っているだけに、世界の激変振りは最早筆舌に尽くし難い。

WTO(世界貿易機関)などは既に地球時代から有名無実化してしまっている上、丹波移住に伴い利害関係国の立場が激変してしまったことに端を発し、各国が個別に結んだ筈のFTA(自由貿易協定)まで破棄されるケースが目立ち始めており、ワシントン条約はおろか、OPEC(石油輸出国機構)やIWC(国際捕鯨委員会)の例を引くまでも無く、国際間の通商貿易に関係する旧秩序など、実質的には既にその殆どが崩壊して、言わば白紙に戻ってしまっていると言っても過言では無いのである。

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  1. 2009/01/07(水) 23:43:10|
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自立国家の建設 161

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いずれにせよ、やがては秩序の再構築が求められる時代が来るのだろうが、今はそれどころの騒ぎでは無い。

現状は各国が生き残りを賭けて必死に競い合っている状況であり、それはそれぞれの個人レベルにおいても斉しく言えることなのである。

秋津州国内においても自己実現を期して膨大な外国人が懸命に競い合っており、見渡せばジェシカ・ペースと言う一米国人にしてもそれは同様であり、只々待ち続けて既に五ヶ月の余も時を費やしてしまっているだけに、その胸中は察するに余りある。

待ち人は絶えず戦場に身を置いていると耳にして来ており、そのことを以て唯一の慰めとはしていたのだろうが、その間の四ヶ月ほどはじっと耐えたと言って良い。

ひたすら待ったのである。

日本語会話とダンスのレッスンに明け暮れる毎日であり、たまに着飾って街に出ることはあっても、ほかにはこれと言ってすることが無いのだ。

バックダンサーを勤めるべく配備されていた数人の女たちは、己れとの人間関係に蹉跌を生じて持ち場を離れてしまっており、豪華なスィートで過ごす日々は文字通りの孤独である。

やがて、聞こえて来るニュースで、異星人の攻撃が回避されたことを知った。

永らく喧伝されて来た宇宙戦争は、その待ち人の奮闘の結果行われないことが確定したのだと言う。

しかし、指揮官のタイラーは只々待てと言うばかりだ。

全ては自ら望んだ任務だとは言いながら、無聊(ぶりょう)をかこつ中でその胸中にはさまざまな嵐が吹き抜けて行ったことだろう。

大和商事からは例の誕生祝い以来音沙汰無しであり、窓の月を用いて見通しを尋ねて見ても、待ち人は相変わらず繁忙の極みにあると言われるばかりだ。

それはそうだろう。

通常のニュースを見ていれば、そのくらいのことは子供にでも判るのである。

ヒトをバカにするのもいい加減にしろと言いたくなるが、愚痴を聞いてくれる相手すらいないのだ。

身の回りの全てが膠着する中で女は動いた。

指揮官に一時帰国の申し出をしたのである。

そして許可が出て幾たびか母国の地を訪れるようになり、その結果、その身にもようやく変化の風が吹き始めていると言って良い。

無論、女は今も傭兵の身であり、しかもこの作戦には莫大な公金が投じられているのだ。

持ち場を離れることに障害が無いわけでは無かったが、実際には指揮官から制止命令を受けるどころか、そこそこの活動資金まで受け続けていたこともあって、谷間の百合と呼ばれる己れの立場に危機感は薄い。

むしろ問題は大和商事の迫水弥寿子(やすこ)の方だと感じており、万一ノーを突きつけられれば諦める覚悟でいたようだが、問い合わせたところ迫水にその気配は全く無く、それもこれも獲物の多忙によるものと解釈するより無かったろう。

結局、指揮官から母国での滞在期間を三日以内に制限されただけで、女はレディと窓の月を携えたまま数回にわたって帰国を果たしており、その目的にしてもストレス解消と言う側面も無いではなかったが、その本筋はかつて辛酸を舐めさせられた母国に錦を飾ろうとするところにあり、それはそれで致し方の無い面も無いとは言えまい。

実際女は口にするのも憚られるような少女時代を送って来ており、その胸はひどく痛めつけられてしまっていたのである。

自業自得と言う見方も成り立たないではないが、その胸に毒の矢を放つ者は無数にあった筈であり、女にして見れば立つ位置が変わった今こそ一矢を報いたい。

何とかして、溜飲を下げたいのである。

真っ先に的に掛けたい標的はとうに定まっており、その所在確認や身辺調査にしても然るべき業者からその報告まで手にしているのだが、折りも折り最初の帰国時に、ある人物に出会うことによってその後思わぬ展開になり始めていたのだ。

その男の名はジェフリー・コーエン、アポの電話に接した際、大規模なファンドを率いていると聞き、周囲に尋ねて見ると驚いたことにホテルの若手従業員ですらその名を聞き知っており、そればかりか実に評判が良いのである。

彼のファンドは驚くような高配当を常に謳い、現にそれを実現し続けていることで有名だと言い、誰に聞いても、その辺に転がってるファンド・マネージャーとは別格の存在らしい。

しかもそのファンドに投資しようとする場合厳格な審査を要し、その排他性こそが独特のステイタスの源となっている上、一旦顧客となればさまざまな意味で特権的なもてなしを享受出来るのだと言う。

その上、コーエン自身が只の人ではなかった。

屈指の大富豪であると同時に著名な慈善事業家であり、自然政財界に縦横の人脈を誇り、SEC(米証券取引委員会)の幹部連とも深い付き合いだと言うのだから、何処から見ても証券界の重鎮と言って良いほどの人物なのだ。

女は、ニューヨーク滞在中も、ワシントンの払いだとは言いながら一泊数百万ドルのスィートに逗留している上、自身そこそこの資産を持つ身であるだけに、てっきり投資を勧められるものと思ったようだが、いざ会って見ると、これが意外なことに、週百万ドルの報酬を以て顧問契約を結びたいと言う話なのである。

契約金の二千万ドルの授受を前提に、その本社ビルには直ちに専用のオフィスと秘書が用意され、しかも実際に出勤する必要は全く無いとされた上に、外部から直接問い合わせがあった場合にだけ、顧問契約の実在性を肯定してくれさえすればそれで良いと言う。

信じ難いほどの好条件なのだが、何しろ、女はかつての吹けば飛んでしまうような貧寒たる不良少女では無い。

今では、秋津州国王の専属ダンサーとしての存在性を密かに囁かれるに至っており、現に国王との親密な関係にまで言及して、そのことを以て稀に見る情報源と捉える業界もあり、その典型がコーエンの身を置く世界である。

国王の政治行動はおろか、その出荷情報が、穀物や鉱物資源は言うに及ばず、PME等の工業製品においても市場の注目を浴びるものであるだけに、この契約は投資家にとっても小さな材料である筈が無いのだ。

このような状況下で為された申し入れである以上、要は広告塔として名前を貸せと言う話であり、たったそれだけのことで黙って毎週百万ドルもいただける上に、日陰の身が有名企業の顧問の肩書きを大威張りでぶら下げて歩けるようになるのだから、その点に限れば決して悪い話では無いのだが、現実には二の足を踏まざるを得ない事情が一方にある。

待ち人に対する接遇に関しては出勤する必要が無い以上問題は無い筈だが、ワシントンの立場に立てば二重契約の謗りは免れない上に、己れには汚れ切った過去まであり、それも一度や二度のことでは無い。

度重なる窃盗や売春の検挙歴が消えてなくなってくれるわけも無く、一たびそのことが喧伝されるような事態になれば、そのファンドの信頼性が大きくダメージを受けることによって、巨額の賠償を請求されてしまうことさえ予想されるのだから、よほどのバカでも無い限り慎重にならざるを得ないのである。

現に、女は顧問契約に付いては頑なに固辞してしまっている。

表向きの理由は、ある方の逆鱗に触れる恐れありとしたが、コーエンから見れば、そのある方が誰のことを指しているかは言うまでも無いことなのだから、このことが女の価値を一層高める効果を発揮した筈であり、ここにも強かな女の計算が働いていたことになるのだ。

いずれにしても、女は契約を固辞した。

固辞はしたが、コーエンとの交友は続いており、無論それは双方の利益に繋がるからに他ならない。

少なくとも、コーエンが秋津州との接点があるかの如く装うことは可能であり、たったそれだけのことでファンドの信頼性が飛躍的に向上し、いよいよ投資家の投資意欲を掻き立てることになる。

何しろ、女が帰国を報じるたびにその初老の男は必ず訪ねて来るのである。

ときには、豪華なリムジンが迎えに来るが、その場合の行き先は著名人の集まるパーティ会場に限られており、コーエンのエスコートを受けながら絢爛たる夜会服姿を人目に晒す機会が増え、ほどなく社交界において独特のステイタスを得るに至った。

あの秋津州国王にとって特別な存在であると言う囁きが広まったせいもあったろうが、かつて田中盛重が裸足で駆け出すと評したほどの艶(あで)やかさがあるだけに、たちまちにして引く手あまたの状況になったのだ。

自然、貴顕紳士の集うパーティからも直接招待状が舞い込むようになり、遂には格別に意義深い人物とも親しく顔を合わせるまでになったのである。

その人物とはパーティ会場で三度ほど邂逅を果たし、一度などはワシントンのオフィスに招かれて話し込む機会まで持つに至っている。

ジェームズ・リヴィングストンと言う人物なのだが、その後改めて彼の秘書から連絡が入ったのは十二月初頭のことで、任那の自室で過ごす女の胸は相当ときめいたようだが、かと言ってリヴィングストンが妻に先立たれた独身者であったからではない。

その男が次期上院多数党院内総務の呼び声が高いことを知り、その政治権力が己れの計画にとって黄金の鍵を握っていることを意識していたからに他ならないのだ。

米国の上院議員は各州から二名づつ選出される制度であって、しかもこの男の選挙区は因縁浅からぬアリゾナであり、その州の名は女にとっては哀しくも切ないふるさとの名だったのだ。

ちなみに、かつて十三歳の少女の胸に毒の矢を放った上院議員がいたと述べたことがあるが、それはこのリヴィングストンから見れば積年の政敵に当たり、その意味では敵の敵は味方だと捉えていたことにもなるのである。

尤も、現実に狙いを定めている標的は連邦議会にでは無く、そのアリゾナのメサ市にいる。

警察権力を盾に十三歳の少女を強姦した卑劣極まりない人物であり、その犯罪自体は今更立証は困難ではあろうが、その警官は今でものうのうとメサ市警に勤務していると言い、しかも調査会社によれば、そこの市長はリヴィングストンの政敵にとっては典型的な腰巾着だと言うではないか。

少なくとも、己れの利害がリヴィングストンのそれと衝突することは無いだろう。

現に、その上院議員は己れの話に積極的に耳を傾けてくれていたのだ。

既に、議員のオフィスとの間でさまざまな遣り取りが交わされ、議員とは近々アリゾナの地元オフィスで会う約束もある。

費用はあっち持ちで、新しいアリゾナを案内してくれるのだそうだ。

今のアリゾナにはあのグランドキャニオンの雄姿こそ無いが、幼馴染みの悪友たちがいる筈であり、中には会って見たいと思う者もいないわけではないのだから、その点楽しみで無いことも無い。

その意味では議員の誘いは渡りに船だと言って良いが、そう言う状況下で受けた連絡のことでもあり、しかも、標的の悪事を暴くために連邦警察まで動いていると言うのだから、女の胸がときめくのも当然のことではあったのだ。


尤も、指揮官であるタイラーは当然渋い顔である。

女の行動の全貌を知っているわけではないが、女が本国の社交界で華麗な姿を見せ始めていることは承知しており、どう考えても、本来の作戦に齟齬を来す可能性は否定出来ないから、任那の一の荘で過ごす女の元へシグナルを発することになる。

「どうだ、変わりは無いか。」

受話器の向こうから幾分不機嫌な声が響き、舞姫の顔に緊張の色が走る。

「はい、変わりありません。」

「報告漏れはないだろうな。」

「あのう、個人的な出来事に付いてはどこまで報告したらよろしいでしょうか。」

現に母国に滞在中の出来事などは、全て個人的な事柄だと言ってしまえるのだ。

「少なくとも、重要人物との接触に関しては全て報告すべきだろう。」

「でも、どなたが重要人物なのか判りませんもの。」

「おい、そう言う口を利いてると後悔する事になるぞ。」

「どう言う意味でしょうか。」

「ふふん、それが判らねえほどバカじゃあ使い物にならんだろう。」

「・・・。」

「それと、パーティなんかにふらふら出て歩くもんじゃあねえんだよ。身の程を弁えろ。」

「判りました。今後は控えるようにします。」

「判ればいいが、例のコーエンとの話はどうなった。」

「あ、顧問契約はお断りしました。」

「当然だ。上院議員の方はどうだ。」

「近々、アリゾナを案内してくれるそうです。」

「それだけか。」

「・・・。」

「おい。」

「あのう、聞いたばかりの話ですけど、何でも、FBIが動いてるそうです。」

「例の悪徳警官の話か。」

「はい。」

「事情は聞いてるから、ある程度は目を瞑っていてやるが、政治家と言うやつは政治家の論理で行動するってえことを忘れるんじゃあねえぞ。」

「え・・・。」

「わからねえのか。」

「でも・・・。」

「最後には、政治的ツールとして使い捨てにされるだけだって前から言ってるだろ。」

「(それは、おまえだって同じだろ。)でも、余罪があるらしくって、検挙出来たら、法廷で証言させてくれるって・・・・。」

「そうか、結局おまえは、直接面罵してやりたいわけだ。」

十三歳の少女を強姦した警官をだ。

「はい。」

そして思い知らせてやりたい。

「考えてみろよ。悲劇のヒロインにされてメディアが一斉に押しかけて来るぞ。」

「・・・・・。」

「おまえの過去は、あっと言う間に丸裸にされるだろうな。」

「わたしは構わないんです。」

「ばかやろう、そっちが構わなくてもこっちが構うんだよ。」

「・・・・。」

「いいか。あんまり人の足元ばかり見てやがると、こっちの忍耐にも限度があるからな。」

迫水秘書官の妹の動きを見る限り、魔王がこの毒百合をお気に召してることは間違い無いだろうし、現状では魔王に気に入られているオンナはほかに見当たらないのだ。

そこに希少価値があるからこそ、大抵のことには目を瞑ってやってるのに、このバカはそのことをこれ見よがしに振りかざして勝手なことをしようとする。

詰まり、こっちの足元を見てるのだ。

「・・・。」

「おい。」

「はい。」

「法廷に出るのだけは絶対に許さんからな。」

「どうしても駄目ですか。」

「そのことを帳消しにするぐらいの戦果がありゃあ話は別だ。」

「判りました。」

「どう判ったんだ。」

「近々、陛下がおもどりのようですから、直接お願いして見ます。」

「なにっ。」

「ですから、何か手柄になるような情報を下さいって・・・。」

「おまえ、そんなことが出来るのか。」

「はい。」

「自信があるんだな。」

「もちろん。」

「う・・・。」

どうやら、形勢が逆転してしまったようである。

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  1. 2009/01/14(水) 13:22:34|
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自立国家の建設 162

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さて、唐突だが暦をヤマト合意が為された頃に戻させていただこう。

その頃、山川真奈美と言う日本人に思いもよらぬ大金が転がり込んでいたからであり、全ては彼女の財政状況に配慮した人工知能の判断ではあったが、あろうことか百万円と言う巨額の臨時ボーナスが支給されたのである。

百万と言っても無論秋津州円であり、日本円に換算すれば十億に垂んとするものだったから、受け取った当人ですら茫然としてしまったほどだったが、多いからと言って邪魔になるものではない。

無論使い道は腐るほどにあったのだが、女は先ず借財を整理することを優先させたようだ。

かつて日本で作ってしまった例の借財のことであり、その性質上金利が途方も無いものに膨らんでしまってはいたものの、それが日本円建てである以上、例え債権者の言うがままに支払ったとしても今となってはたかが知れていると言って良い。

ただ、長期にわたって放置して来たと言う経緯もあり、女はその処理に万全を期すことを望んだものと見え、ある日本人女性に連絡を取って全てを依頼している。

その日本人は、かつての離婚係争の折りに女の信頼を一度も裏切らなかった弁護士だったのだが、この依頼に関しても適確に動き、かつ誠実に処理してくれたから、日本での債務は全て解消することを得た。

その上、秋津州におけるカード債務など論外なほどの資産まで残すことを得ており、それもこれも特別賞与あってのことなのだ。

例によって本人は全て社主の個人的想いから出たものと解釈しており、その点胸の中を一際甘い嵐が吹き荒れていた筈だが、「禍福は糾(あざな)える縄の如し」とはよく言ったもので、直ぐに別の問題が持ち上がってしまっており、異星人到着の大ニュースが流れる中で、いっぺんに肝を冷やす羽目に立ち至っていたのである。

それと言うのも、あの前夫に所在を知られてしまったからであり、そればかりか、突然勤務先へ電話を掛けて来たのだから最も恐れていた事態だと言って良い。

それもこれも、日本の業界誌に女の記事が載ってしまったからであり、無名の日本人女性があの大和商事に勤務していて、しかも日本人として唯一社主秘書室と言う部署にいることに特段の話題性を求めた結果ではあったのだろうが、女にしてみれば取材一つ受けた覚えは無い。

当時名指しの電話があったことを思い出しはしたが、その相手は東京工業品取引所の関係者であるかのような口振りで、大和商事の取り扱い品目の確認とも取れる言い回しをしながら、女の国籍にもさりげなく触れて来ていたのだ。

格別機密にかかわる話柄も出ず、しかもほんの二分程度の通話だったから気にも留めずにいたようだが、結局それが取材代わりの確認電話だったことになる。

いずれにしても、その情報が前夫の耳に入った結果がこの始末であり、その前歴から言っても、執拗に繰り返される恐れが高いのだから、女が最悪の事態まで思ってしまうのも無理は無い。

とにかく、普通の相手ではないのだ。

相手側の都合など委細構わず押しかけて来て、傍若無人の振る舞いに及ぶような手合いであるだけに、普通に考えれば勤務先に迷惑を掛けた挙句、良くて配置転換、悪くすれば解雇まであり得る事態なのである。

しかも、前記の記事に触発されたものか、相前後して他のメディアまで取材を申し込んでくる事態であり、その身辺は俄かに風雲急を告げ始めていると言って良い。

大和商事が世界的な規模で事業を展開する巨大商社である以上、相手がまともなメディアである限り、応分の対応が要求されるくらいのことは、その所属部署から言っても覚悟しておく必要があるのだ。

尤も、久保室長の判断が無理に取材に応える必要は無いとしており、現状ではそのいずれにも応じてはいないものの、そのこと自体がやがて少なく無い憶測記事を呼んでしまうのだから、痛し痒しと言うところではあったろう。

現に、日本では任那御別宅を守る謎の女性として、その顔写真まで掲載するメディアまで登場し、顔写真に施された目隠しはあるにしても、見る人が見れば当人を特定出来る程度のものである上に、一部の業界では「任那御別宅のおん方」と言う呼び方まで既に定着しつつあるほどだ。

同時に前夫からの電話も繰り返され、遂には任那支社の正面玄関において入館を断られたことから騒動を起こし、直ちに検挙された挙句退去強制処分を受けるに至ったが、久保室長の口吻(こうふん)が、以後その人物の入国は認められないことを示唆するばかりで、女に対する懲罰的人事など行われる気配も無い。

前夫からの電話だけは代理の女性を用いてその後も折に触れて続くのだが、少なくともそれ以上の攻撃は国境が守ってくれている上、三十歳の誕生日には久保室長を通して豪華な祝いの品まで到来し、それが和洋取り混ぜて多様のフォーマルウェアであったことから、懲罰的人事には至らないと言う確信を得るまでになっているようだ。

何はともあれ、懲罰人事さえなければ前夫の電話攻勢など恐るるに足りないのである。

しかも財政上の苦境からも脱することを得ている今、その日常の多くは従来から継続中の勉学に充てられており、国策会社の社員としての新人研修と言う一面はあるものの、雇用主に対する思慕の情がモチベーションの源泉ともなって、政治経済の分野においても長足の進歩を遂げるまでになって来ており、任那御別宅の奥の間の一件を除けば、かなりストイックな暮らしぶりだと言えなくも無い。

一方、秘書室第二課の連中などは髀肉の嘆(たん)をかこつことが益々多くなって来ており、自然櫛の歯を引くようにしてその数を減じ始め、既に全社併せても十人を数えるのがやっとと言う状況ではあったが、その陣容はいよいよ粒揃いのものとなりつつあり、その「粒揃い」の意味合いが外見上のものに偏重されているだけに、人工知能の最もよしとする事態ではあったろう。

しかも、残った女たちのモチベーションは驚くほど高く、それは人工知能の描くキャスティングの役割を果たすに十分なものであり、そのチャンスの到来をひたすら辛抱強く待つものばかりなのである。


一方、問題の胆沢城への取材許可が未だに下りてないこともあって、多くのメディアが漂流者たちの哀れさを殊更に強調する機会が増え、いたいけなローマ人の子供達の映像がテレビ画面に頻繁に登場するまでになって来ており、彼等の全てが他の惑星に遺棄されてしまうことの悲惨さをしきりに思わせてしまっている。

全ての元凶が秋津州の遺棄政策にあるとする論調が巷に溢れ、自然大衆の間にもローマ人擁護の声が上がり始めており、その柱が遺棄政策の破棄を求めるものであるだけに、とりわけ議会制民主主義を唱える国々においては、政治家たちの立つ位置も微妙に揺れ動いていると言って良い。

無論、彼等の本音は全く別のところにあり、それはジェームズ・リヴィングストンと言う人物にとっても同じことだ。

彼にとって未だ見ぬローマ人の運命などそれこそ興味の外であり、まして近頃知り合った米国人ダンサーなどただの政争の具に過ぎず、そのことのために優しげな顔を見せているだけなのだ。

自らアリゾナのガイドを買って出たのもそのためであり、数時間のガイド役を務めた後、ダンサーには秘書を付けてメサのホテルへ帰し、その部屋には例の政敵を招待してあるのだから、既に準備は万全と言って良い。

あとは秘書の報告を待つばかりだ。

その結果、重大な使命を帯びたその秘書は、今その部屋で問題の政敵と二人だけで対峙しているのである。

「リヴィングストン君は未だかね。」

顔一杯に老醜を浮かべた上院議員が不機嫌そうに言う。

「急用が出来てしまって、失礼するとのことです。」

「ふうむ、秘書だけでことを済まそうと言うのかね。」

予想が違ったようだ。

「いえ、お馴染みの女性を呼んでありますから。」

秘書が次室に続くドアを見やっている。

「昨日の電話で聞いたよ。」

しかも、その内容が尋常ではない。

だからこそ、秘書も連れずに呼び出しに応じたのである。

「しかし、十三歳の少女とはまずかったですなあ。」

「何が言いたい。」

「しかも、百ドルの約束で釣って置いて、実際払ったのは二十ドルだったと言うのでは救われませんからなあ。」

「夢でも見たんだろうよ。」

「女の排泄物まで口にされたそうですが、それも夢ですかな。」

「いい加減なことを言うな。」

「電話でも申し上げた通り、その件での証人なら他にもあると聞いとりますから。」

「・・・・。」

老人は凄まじい表情を見せた。

「何でも、ジェシカの友達だそうですよ。」

「要求を言え。」

膝の上の拳が小刻みに震えている。

「要求などと、飛んでもないことです。」

「じゃ、なんだ。」

「ただ政治家たるもの、常に正義を行うべきと思うのみです。」

正義が聞いて呆れるだろう。

「・・・。」

「では、当人をお呼びしましょう。」

秘書が立って次室のドアをノックするとジェシカが嬋娟たる姿を見せたのだが、全て打ち合わせ通りなのである。

老人は眼前に立ったジェシカをまじまじと見詰めていたが、明らかに見覚えがあると言う表情を浮かべており、その一部始終は秘書の背後に据えつけられた隠しカメラが全て捉えてしまっている。

「忘れちゃいないようね。」

ジェシカが艶然と微笑みながら言った。

「いくらだ、いくら欲しい。」

老人の様子は常軌を逸してしまっていると言って良いが、その言動は既に全てを認めたに等しい上に、それを記録すべくカメラが回ってしまっているのだ。

「あら、いただけるの、おカネ。」

「早く言え。」

「一億。」

「よし、口座を言え。」

「但し、秋津州円よ。」

「ぐ・・・。」

秋津州円での一億は一千億ドルに匹敵するのだから、到底無理な話だ。

「あはは、冗談よ。」

「・・・。」

老人は青くなったり赤くなったりで忙しい。

「お友達を紹介して欲しいのよ。」

「誰をだ。」

「市長。それと市警のヘッド。」

「何をする気だ。」

「優秀な警官を一人クビにしてやりたいだけよ。」

「何故だ。」

「かっぱらいで捕まったあたしを強姦したのよ。それも警察の中で。」

「ほんとうか。」

「そんときのあたしは十三になったばかりで、おまけに手錠掛けられてたのよ。そんなケダモノが今でものうのうと警官やってるとしたらどうなのよ。」

「立証出来るのか。」

「出来ないから口惜しいんじゃないの。」

「そうか、それでか。」

「年金が飛んでっちゃったことを、あたしの口から知らせてやりたいだけなのよ。」

「ほんとにそれだけでいいんだな。」

「お金払ってもいいわよ。」

「・・・。」

「但し、二十ドル。」

「ぐ・・・。」

「あはは。」

女は大口を開けて笑っていたのである。

「ところで、もう一人の証人とやらはどこにいる。」

「調べてもらったわ。」

「・・・。」

老人の顔には極限の緊張感が張り付いている。

「一昨年(おととし)の暴動で死んじゃってたわ。」

丹波に移住したあとの米国は、各地で暴動の嵐に見舞われていたのだ。

無論、それは米国だけにとどまらないが。

「そうか。」

「一緒に施設を逃げ出した仲だったけど、結局何一ついいことのない人生だったみたいね。」

ジェシカが、今天井を見上げている。

「・・・。」

「せめて、祈ってやってよ。」

「判った。」


同じホテルに一泊した女は、翌朝唐突な電話を受けることとなった。

電話の相手はアリゾナ州知事本人だと言い、面会を諾するやヘリで飛んで来たものらしく、一時間もしないうちに到着した上、初対面の挨拶もそこそこに切り出された用件がこれまた珍妙なものと言うほかは無い。

どうやら州発行の借用書の引き受け手を探しているらしく、秋津州財団ニューヨーク支部の存在を念頭に、しきりに国王との接点を求めて来ており、聞けば、年が明ければ州政府の支払いを全面的に停止せざるを得なくなるほどの苦境にあると言う。

その場合債権者にはカネの代わりに借用書を渡すことになると言うが、似たような財政危機など各州で既に起きてしまっている現実があり、そのくらいのことは無知な女にも判っていたのだから、知事の哀訴に応える術(すべ)を持たないでいるのである。

しかも、知事と入れ替わりにやって来たメサ市長などは、未だ救われていると言うではないか。

何しろこのメサ市は、連邦破産法第九条に基づいて公式に破綻した結果、高コスト体質を徹底的に改めることを得つつあると言うのだが、現実に眼前でしおれている市長の話は深刻と言うほかは無い。

実際その国は、景気後退から来る税収減を受け、積み重ねられたドルの増刷が際限も無いインフレーションを招いてしまっている上、凄まじいまでの高コストを背負った製造業などは、ビッグスリーの例を引くまでも無く、既にその多くが市場から淘汰されてしまっていて既に影も形も無いと言う。

急速にスラム化が進みつつある各地には失業者が溢れかえり、暴動が頻発してその犠牲者ばかりか大量の凍死者や餓死者まで出すに至っている上、軍事面で見ても、世界の海を支配していた筈の大海軍も既にその実態を失いつつあり、海外に設けた軍港一つとっても朝鮮半島のものを残すのみとなってしまっているこんにち、その展開を物理的に阻まれてしまっており、このネイヴィ出身の市長は、国防と治安を欠けば国家の存立は期し難いと言って嘆くのである。

全く情け無いことに、多数の大艦隊が予算不足でモスボール一つ受けることも出来ずに、各軍港に徒(いたずら)に浮かべられたまま、只々朽ちて行くのを待つばかりだと聞くに至っては、さすがの女の心情にも変化の兆しが訪れて当然だったろう。

(筆者註:モスボールとは、使用を中断した兵器を、再使用に考慮して劣化対策を施した上で保管して置くことを指すのだが、軍艦などに本格的な処理を施す場合、内部に隈なく窒素を充填して完全密閉を計るなど、その作業にはそれなりのコストを要求されることになる。)

何しろ、かつて勇猛果敢を謳われた海兵隊員が、目の前で薄い白髪(しらが)を振り乱しながら力説して已まないのである。

以前白頭鷲が手乗り文鳥になったと盛んに評されたことがあったが、今度はその手乗り文鳥までが今まさに餓死しようとしていると言って嘆き、聞き様によっては餌をくれる飼い主を求めていると見えなくも無いほどなのだから、少なくとも、祖国が眼前で滅亡の瀬戸際に立っていることだけは確実に実感出来たのだ。

その後の女は警察署長の挨拶にも笑顔で応え、問題の警察官の入室は拒んだまま、その悪行(あくぎょう)を小声で告げただけで唐突に面会を打ち切ることによって、訪客たちを茫然とさせてしまうのである。

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  1. 2009/01/21(水) 17:59:54|
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