日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 163

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年の瀬も押し詰まったある日、新田源一からローマ人に関するメッセージが発せられると聞き、局面が局面であったから、自然大きな波紋を呼ぶこととなり、勢い満場は固唾(かたず)をのんで主役の登場を待つ運びとなったのである。

やがて時が来て、熱い視線を浴びて登壇した新田は、用意のメモを淡々と読み上げて行く。

「ローマ人の移住先については、その国家意思の決定を待っているところだが、遺憾ながら今以てその報に接することが出来ない。従って、なお幾分の時間を要する前提で対応を考慮しているところである。」

当然、会場はざわめいた。

土竜庵の総帥が『国家意思』の決定を待っていると発言しているのであり、言い換えれば秋津州がかつての交戦相手を国家と看做していると宣言したに等しいだけに、何よりも先ず「国土」の問題を脳裏に浮かべる者が殆どだ。

いざ国家が存立しようとすれば必然的にそれを要し、経緯から見てそれは、十五歳の少女が胆沢城に所有すると言う噂の私有地に他ならない以上、僅か五百四十ヘクタールに過ぎないことになってしまう。

尤も、国土が狭小だからと言って、それだけで国際法上の正当性が問われるようなことは起こり得ず、ましてそれは地球時代のモナコ公国やバチカン市国の国土よりは確実に広いのだから、それはそれでいいとしても、新田の発言自体は現下の国際情勢から言っても軽いものとは言い得ず、とりわけ「国家承認」をポイントとする質問の嵐を浴びたが、発言の趣旨が揺らぐことはないまま会見が進行し、やがて彼等は思わぬ人物の登場を迎えることになった。

ビジネススーツに身を固めて登壇したその人物は、明晰な日本語で津田由紀枝と名乗りながらローマ帝国の広報担当官と紹介されたが、その実態は例の珠玉の三日間の最終日に皇帝の侍女に加えられた内の一人であり、しかもその発言は満足な枕一つ無しに一気に核心に入ったと言って良い。

彼女は、近代的な意味合いでと断った上でローマ帝国の国旗の件に触れ、その意匠のサンプルを提示して見せた上、秋津州の協力を得て各国当局へも既に公告を進めているとしたのである。

無論、金地に双頭の黒鷲であり、このようなシチュエーションで公表される以上、その意匠はほどなく世界で最も有名なものの一つになってしまうだろうが、それを国旗であるとしている以上、その国家の存在を公式に主張していることに通じるから、「建国宣言か。」と言う当然の質問が出たが、津田は「我が国は既に悠久の営みを続けて来ている国家でございます。」と応えて見せることを以て、改まった建国宣言など論外だと言う意思を強く滲ませるにとどめた。

詰まり、その国は大昔から存在しているのだから、今更建国宣言などする必要が無いと言ってることになり、ただ近代的な意味合いでの「国旗」を公表しているに過ぎないと言うことになる。

続いて、玉垣島南方の海上において、全長五百キロに迫る自国籍船を八雲の郷暦日の一月二日正午から就航させると言ったから、俄然会場が沸き立ち、その船についての質問が殺到するに及び、現在丹後の洋上にあるとするその「船影」が公開されたのだが、それが例の鯛焼き型の大島(だいとう)だったから尚更大騒ぎだ。

なんにせよ、船舶としては驚くほどの大きさである。

「甲板(かんぱん)」の広さが五万平方キロに達するとされ、事実なら地球時代の九州をはるかに超える面積であり、そのことだけでも途方も無い話だった上に、船影を捉えたとする映像には多数の山や川や湖があり、なかんずく相当規模の耕作地らしきものまで見えていて、船と呼ぶには程遠い代物だ。

拡大映像によれば、一応赤や青の航海灯まで具えているようだが、無論ものの役に立つとは思えない上に、鯛の頭にあたるあたりには円形の水路に囲まれた巨大な目玉まで付いており、そこなどは見事な原生林で覆われていることが窺えるほどで、どう見ても鯛焼きの格好をした自然の大島(だいとう)と言うほかは無い。

目玉の付近に巨大な秋津州国旗が翻っているのも、デスティネーションフラッグ(寄港先の国旗)のつもりなのだろうし、何よりも、尾鰭(おびれ)らしきところには金地に双頭の黒鷲旗が躍っていて、ローマ帝国の国籍を一際大声で主張している風情だが、それ無しに外洋に出て行けば、海賊船と看做されてしまっても文句を言えない国際環境が人類社会にはある。

また、船主(ふなぬし)は皇帝個人、船舶保険の引き受け手が大和商事の保険部門だとされた上、その予定航路の多くが秋津州の排他的経済水域であることから、秋津州当局が既往の海上交通管制域を大幅に拡大することによって、該当する一帯についても航行情報提供を行うと共に管制の任に就くと言う。

殊に該当日の前日の正午以降、その海域に接近する船舶には漏れなく水先案内人が乗船して航路の安全を期すことになると言い、その任に就く者だけでも五千を超える人数が準備中とされたが、さまざまの質疑が飛び交う過程で、津田は、その巨船にローマ人が大挙して「乗船」することまで窺わせており、取りも直さず、ローマ人がその船上で暮らす意思を示したことになるのだろうが、肝心の現地取材に関しては許可が下りる気配も無いことから、秋津州国王とその側近以外、いかなる外国人もその地へ足を踏み入れることが許されないと言う事態が延々と続くことに変わりは無いのである。

結局、国内の実情を公開して見せる意思が示されない以上、それは相も変わらず分厚いカーテンで目隠しをされたままだと言うことになり、諸外国の当局にとっても全く得体の知れない相手を、「国家」として承認するにはためらいがあって当然だろう。

何せ、一旦承認してしまえば、おいそれと取り消すことは許されないのだ。

だが、その「国」の広報官のスタンスに揺るぎはない。

今後は津田自身が六角庁舎に常駐することを以て、適宜(てきぎ)に会見を行う可能性を示唆してはいたものの、他の惑星に移住させられてしまうことについては一切の論評を控えたまま、やがて会見の幕が下ろされてしまうのである。


二千十三年の元旦、土竜庵では新田夫妻が訪客の訪れを今や遅しと待ち構えている。

何しろ、その訪客がそこの掘り炬燵で元旦の屠蘇(とそ)を寿ぐのは恒例のことになっており、その人は本来服喪中であるとは言うものの、その来訪については確認が取れていることもあって、初日の出の昇り切る前から準備を整えていたのだ。

おさなごたちは別室で安らかな寝息を立てている頃合だが、待ち人は宮島でのセレモニーを終えてやって来て、遅参を詫びながら気さくに箸を取ってくれようとしている。

「申し訳ありません。奥つ城(おくつき:墓所)の掃除をしておりまして、思わぬ遅参をしてしまいました。」

宮島には、一族の墓所があるのだ。

「丁度三ケ月でございますな。」

咲子とローズが米国の地で露と散ってから、ようやく三月(みつき)の時が流れようとしているのである。

「たった十八と二十(はたち)でございました。」

国王は杯を置いて天井を見上げている。

「実にさようでございましたなあ。」

「ここだから申し上げてしまいますが、戦(いくさ)の始末に目処(めど)が立った今、この胸の憤懣を何処にぶつけてよいやら途惑う毎日でございます。」

その人は奥歯を噛み締めるような表情を浮かべているが、要するに全て愚痴であり、この人の口からそれらしいことを耳にするのは初めてのことなのだ。

「お察し致します。」

「真人(まひと)の墓前では、つい死児(しじ)の齢(よわい)を数えてしまいました。お笑い下さい。」

その顔はひたすら淋しげである。

「笑うなどと、とんでもない。」

横で妻が涙を拭ってひっそりと合掌している。

「しかし、これでようやく準備が整いました。」

その人は、思い直したようにきっぱりと言い切った。

「ほう、丹後の方も終わりましたか。」

「はい、予定外のものまで取り揃えましたから、思いのほか手間取りはしましたが。」

「田中が騒いでた件ですな。」

「実際に役に立つかどうかは判りませんが、取り合えず全て用意だけはさせていただきました。」

「申し訳ありませんな。」

田中の粗雑な具申をご採用になったことになるのだ。

「いえ、田中君の仰せの趣もよくよく考えてみれば、成り行き次第では有効な手段になるやも知れません。」

「これはこれは・・・、あいつが聞いたらいっぺんに天狗になりますぞ。」

「尤も、一切が無駄に終わったとしても悔いはございません。」

「いえ、ご苦労を無駄に致さぬよう誓って最善を尽くす所存でございます。」

「・・・。」

国王は僅かに頬を崩しただけで何も言わない。

「しかし、大仕事だったでしょうに。」

「具体的な資料も窓の月に送らせてありますから、のちほどじっくりご検証下さい。」

「ありがとう存じます。」

「いえ。かえって気が紛れて助かりました。」

「それはそうと、ローマ人たちは大分同情を買っておりますな。」

「そのようですな。」

「殊に中露台などからは、ご意向を伺うべく何度も打診の連絡が入っておりますが。」

無論、ローマ帝国の承認に関する魔王のご意向をである。

「・・・・。」

「彼らも必死なのでしょうが。」

「・・・。」

国王は無言のまま杯を干したが、その視線の先は何処か遠くに向かっているようだ。

「いずれに致しましても、全て順調に運んでおりますようで。」

「一寸先は闇と申しますから。」

「早速、国井総理との直接会談をセット致しましょう。」

今後のことに関しては、当然ながら日秋両国間で細部を詰めて置く必要が無いわけではないのである。

「いえ、わたくしの意とするところは既にあなたや岡部氏に充分ご理解を願ってる筈ですから、どうぞよろしいようにお運びを願います。」

少なくとも、日秋共同作業については全権を委譲されたことにはなるのだろう。

「承知しました。岡部もさぞ張り切ることでございましょう。」

余談だが、この頃の岡部夫人は既に日本への帰化を果たし、米国籍からは公式に離脱してしまっている。

「なにごとも、相手のある話しでございますから。」

「そこのところは、心得ておるつもりです。」

「これは、失礼を申し上げました。」

「いえいえ、とんでもない。ところで、件(くだん)の若狭の工事の方は如何でしょう。」

無論若狭とは新たに領有なさった惑星の名前だが、そこで行われている壮大な工事のことを指しての質問であり、かつて実見して来たこともあって、単なる話の接ぎ穂としてでは無く本心から興味深い話柄であったのだ。

「遅くも今月いっぱいには目処が立つ状況です。」

「では、それも予定通りの進捗状況と言っても差し支えはございませんな。」

「現地に土竜庵を作りましたので、近々にもご招待申し上げるつもりでおります。」

「ほほう、囲炉裏を囲んで一杯やれそうなお話ですな。」

「現地の地酒も来年には飲めるようになるでしょう。」

和やかな歓談が続く中、国王は居住まいを正した。

「そろそろ、おいとまを頂戴したいのですが、奥さん、恐縮ですが味噌汁をいっぱい頂戴できませんか。」

「あら、すぐにお持ち致しますわ。」

細君が素っ飛んで行って汁椀を捧げて来る。

「ううむ、やはり奥さんの味噌汁は最高ですなあ。」

国王はお椀を片手に嬉しそうに目を細めている。

「あら、お喜びいただけてとてもうれしゅうございますわ。」

細君も実に嬉しそうな表情だが、亭主の方は又しても固い話に戻ろうとする。

「ところで、馬酔木の湖(あしびのうみ)の埋め立て工事の方は、どのようなご日程をお考えでしょうか。」

例の奥津日子(おきつひこ)の移設工事の話なのである。

「準備は悉皆(しっかい)出来ておりますので、これもオレンジプランの成り行き次第でタイミングを考慮すべきものと考えております。」

少なくとも、そのプランの障害になってしまう事だけは避けようとの意味なのか、或いは又その進捗を後押しすることを願ってのご発言なのか、恐らくその両方であったに違いない。

「なるほど、全てオレンジプランの進捗如何にかかっていると仰るわけですな。」

「ある程度見通しが立った時点で、国井総理には改めてご挨拶させていただくつもりでおりますので、くれぐれもよろしくとお伝え置き願います。」

国王は、いつもより早めに杯を置いて飄然と去った。

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  1. 2009/02/04(水) 09:41:57|
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自立国家の建設 164

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見送りを終えて掘り炬燵に戻ると、妻の方は一際深刻そうな顔色だ。

「やっぱり元気無いみたいねえ。お酒もすすまないみたいだし。」

「俺は、オトコとして一皮剥けたと見るけどな。」

苦難を乗り越えて一段と成長したと見るのである。

「男って、これだから駄目なのよねえ。」

妻はこっちの目の奥を覗き込むようにしながら、まともに浴びせかけてくるが、我が妻ながらその表情は常に千変万化して実に美しい。

子供を二人も産み、しかも三十七歳の今になってなお、かつてのミス外務省の容貌は依然衰えを見せず、惚れた欲目とは言いながら非の打ち所が無いと言って良いほどだ。

「何がだ。」

「だって、あなた、副交感神経の機能不全の疑いがあるって言ってたじゃない。」

国王の健康状態の話なのである。

「こら、それを口にするんじゃない。」

「バカねえ、よそで話す筈無いじゃない。中途半端にみどりさんの耳に入ったりしたらそれこそことだわよ。」

「ワシントンの耳に入れば国益が損なわれる。」

この場合の国益の意味は単純なものとは言い難いが、それもこれも、新田の胸中で日秋両国の国益が渾然一体のものとなってしまっているからに他ならないのだ。

「みどりさんに隠し続けるわけにも行かないし・・・。」

「最近は体調も悪くないみたいだからな。」

ヤマトサロンの主宰者たるその人物は、王家を襲った大いなる不幸の後、衝撃のあまり体調を崩して入院さえしていたのだが、幸いにも大事には至らず無事に退院を果たした上、近頃では稼業に精を出していると耳にしているのである。

「今日は来れるみたいだから、ちゃんと話しとかなくちゃ。」

午後からは恒例の賀詞交歓会が形を変えて催される予定だが、その後の時間帯にはサロンの顔合わせ総会のようなものがある筈だ。

「判ってるとは思うが、くれぐれも外へは漏れないようにな。」

「無理でしょうね。」

「みどりママに国益を説いてもしようがないか。」

「そうでもないわよ。陛下が迷惑するって言えば判ってはくれるわ。」

「判ってはもらえても、大声で突撃しちゃうからなあ。」

典型的な直情径行型なのである。

「それが人情ってもんよ。」

「何せ、裏も表も無い人だもんな。」

苦笑するよりほかは無い。

「人情に篤いって言ってもらいたいわね。」

「判った、判った。」

「確か、ことの起こりは岡部さんが秋元女史から聞いた話だったわよね。」

無論、国王の健康問題にかかわる一件のことである。

「うん、宇宙空間での活動が長期化しちゃった結果、ホルモンのバランスが微妙に崩れてるらしい。」

過酷な戦時体制が一年近く続いてしまったことは確かだが、かと言って生身の体である以上、少々の体調不良ぐらい誰にでも起きがちなことであって、そこまで大騒ぎするほどのこととも思えない。

まして、自分や岡部が密かに危惧していたものと比べればまだしもなのである。

「あら、ダイアンから聞いた話だと、ちょっと違うみたいよ。」

「何処が違うんだ。」

「ううん、うまく言えないんだけど、要するにあれよ。」

「あれか。」

例によって例の通りだから、すぐにぴんときた。

「うん、男のあれよ。」

「要するに、おまえらがいつも問題にする、あっちの方が淡白過ぎるって言う件だよな。」

「そ、陛下はそれを無理矢理抑え付けてらっしゃって、そのことが災いして、ホルモンのバランスを崩しちゃってるんだって。」

「秋元女史がそう言ってるのか。」

女帝は十数人の配下を引き連れたまま絶えず総理官邸に詰めてくれているが、配下共々その身分は民間のボランティアのままであり、内閣官房戦略管制室次長岡部大樹の私設秘書の建前を採る以上人事院の監査対象にも含まれず、その意味では極めて異質な存在だと言うほかはないが、果たしつつある任務はと言えば無論尋常なものではない。

「らしいわ。」

「ほんとかな、それ。」

そんなことってあるのかい。

「あたしは信じる。」

「じゃ、なんだ、陛下が女の尻を追い回すようになれば治るって言うのか。」

「うん。」

「ふうむ。」

「ここ一年、忙し過ぎたのよ。」

「じゃ、今後は体があくようんなるから解消するだろ。」

「バカねえ、あの方の性格なのよ。暇んなったからって解決する問題じゃないわ。」

「おまえ、言ってることが無茶苦茶だとは思わねえか。」

「あはは、ほんと。」

「いい加減、ほっといてやれよ。」

「ほっとけないわよ。」

「じゃ、どうするって言うんだ。」

「ううん、難しいわよねえ。」

「あはは、やっぱり手がねえんじゃねえか。」

「よしっ、本気で考えてみるか。」

「こら、余計なことするんじゃねえぞ。にきび面(づら)の中学生じゃねえんだからな。」

現にその人は、去年の九月に満二十七歳の誕生日を迎え、とうに堂々たる成年の域に達している筈なのである。

「あら、余計なことかしら。」

「ま、おまえが陛下の為にならんことをするとも思えんが。」

「当たり前じゃないの。バカにしないでよ。」

「あはは。」

「笑ってる場合じゃないでしょ。」

「それもそうだ。」

「ううん・・・・、あのご様子だと、咲子ちゃんたちのご不幸がよほどこたえてらっしゃるみたいだし。」

「未だ三ヶ月しか経ってねえんだぞ。」

「判ってるわよ。」

「それに、お姫たちは結局バージンのままで終わっちゃったんだろ。」

「うん・・・・。」

改めて涙を拭っている。

「陛下は特別義理堅いからなあ。」

「バカ、義理の問題じゃないでしょ。」

濡れた目を吊り上げて許すまじき剣幕なのだ。

「あ、悪かったよ。」

「まったくっ・・・・、無神経なんだからっ・・・・。」

「・・・。」

「人の情(じょう)ってものが判らないのっ。」

「いや、だって・・・、世の中には女の尻を追っ掛けまわさないオトコだっていないわけじゃねえだろう。」

失言を取り返すためには軌道修正が必要だ。

「程度の問題よ。」

「あ・・・、うん。」

「とにかく、ストイック過ぎるのよ。」

「それは認めるよ。」

「田中君に言って、夜遊びに誘ってもらおうかしら。」

「こら、田中んところはまるっきりの新婚だぞ。」

「あら、佐和子ちゃんに泣かれちゃうわよね。」

佐和子は田中夫人の名前である。

「まったく・・・、そんなことばかり考えてると疲れちゃうぞ。」

「そんなことって・・・、大事なことよ。」

「いや・・・、大事じゃないとは言ってねえよ。」

「あなたは言葉の使い方が雑なのよ。」

「うんうん、判った。それとな、田中は今忙しい最中だからな。」

「そうらしいわね。」

「知ってたか。」

「だって、毎日遅くまでデスクにかじりついてるって聞いたわよ。」

「近頃じゃあ別件だってあるんだ。」

「へええ。」

「なんでも、例のダンサーからご指名の電話があったらしいぜ。」

「なんだってえ・・・、あの野郎、もう浮気しようってのかあ。」

妻は噴火寸前だ。

どうやら、表現方法を間違えてしまったらしい。

「待て、待て、慌てんな。」

「なによ。」

「そうじゃあねえんだ、あっちは数少ない顔馴染みのあいつを拝み倒して、何とか言う上院議員を引き合わせたいんだとよ。」

陛下のお供とは言え、何度もベリーダンスを見に行っていたのは田中ぐらいのものなのである。

「なに、それ。」

「議員外交を望んでるに決まってるだろうが。」

「へええ・・・。」

「それでな、一度顔合わせをさせてみたんだが、どうもこれがツボにはまってきてるんだよ。」

その相手と顔合わせをさせてみたところ、思惑通りにことが運んでいると言う。

「だって、田中君は未だぺえぺえなのよ。」

「うん、だから、少々無責任なことを口走っちゃっても、あとで何とでもなるんだ。」

「向こうは、もっと上の相手と話ししたいんでしょ。」

「そら、そうだ。だけど、こっちは田中しか出さねえ。」

「会いたいって泣き付いて来てるのはあっちの方だもんね。」

藁(わら)にも縋る想いでいるのだろう。

「会えば、向こうはいろいろと泣き言を並べるわな。」

「ふんふん。」

「田中もにこにこしながら、優しく聞いてやるのよ。」

「聞いてやるだけなのね。」

「匂いぐらいは嗅がせてやることになるだろうな。」

「どうせ、うしろで糸を引いてるのはあんたなんでしょ。」

「んにゃ、オレより相葉さんと岡部だ。」

相葉幸太郎は言わずと知れた前内閣官房副長官だが、現在は前職を離れ、総理特使としてプロジェクトAティームの総指揮を採っており、以前と比べればかなり自由度の高い動きを見せるに至っているのだ。

「じゃ、総理もご存知なのね。」

「知らねえことになってらあ。」

「そっか。」

「それにな。田中たちは元々とんでもなくでかい仕事に入ってるんだ。」

「へええ・・・。」

「以前な・・・。」

「うん。」

「以前、日本人が全員秋桜島で暮らさざるを得なくなっちゃうケースを想定してたことがあったろう。」

「あ、丹波の新領土の分割の話で収まりがつかなくなっちゃってた頃の話ね。」

地球から脱出するにあたって、各国間のせめぎあいが激化してそれぞれの行き場が定まらなかったのだ。

「そうだ。そんときに、新規に建国する予定だった秋桜国の法体系とか税制とか、大騒ぎで造ってたことは知ってるよな。」

新国家の制度設計だったのだから、それはそれで膨大な作業だったのである。

「なに言ってんのよ、あたしだっていっしょけんめいだったんだから。」

「そう言やあ、そうだったな。」

「まったく・・・、人のことをお茶汲みかなんかだと思ってんだから。」

「うん、まあ、それはそれとしてだなあ。そんときの案が改めて再浮上して来てるんだ。」

「あ、チラッと聞いた。日本の社会制度を全部ご破算にして作り直す考えがあるって・・・。」

「そうだ、そのために新しい枠組みを用意しなきゃならなくなったんだが、俺たちの作ってあったモデルをベースに今大忙しでやっつけてるんだよ。既存の国際条約との整合性であっちゃこっちゃ引っ掛かっちゃってはいるけどな。」

「へええ、じゃ、今になってあれが役に立ったんだ。」

「役に立ったどころか、殆どあれの焼き直しだ。」

「あらまあ・・・。」

「どっちへ転んでも、このまま行けば驚天動地の大変革になっちゃうだろうよ。」

この場合の「どっちへ転んでも」は、その制度案が枝葉末節において大幅に書き直されたとしても、と言う意味なのである。

「第二の維新だって聞いたけど。」

「秋桜維新とか呼んでるヤツもいるようだが、ま、革命的であることに違いはねえ。」

国家のグランドデザインが大幅に書き直されることになる以上、悲喜交々の大騒動が勃発することは避けられまい。

「ちょっと待ってよ。ええと確かあのときの案じゃ憲法は作らないわ、国会は一院制だわ、とにかくかなり大胆な案を作ってたわよねえ。」

「中途半端な憲法なら、いっそ無いほうがいいのさ。」

「じゃ、実現したら、日本に憲法はなくなっちゃうんだ。」

「別に不自由はねえだろう。」

「そういや、イギリスなんかも憲法ないのよね。」

「どうしても憲法が欲しいって言うんなら、あとからじっくり作りゃいい。新規に作るんなら、いつだって作れらあ。」

「憲法制定の手続き規定だけは、ちゃんと作っといたものね。」

「うん。」

「いろんな法律もけっこう簡素化しちゃったわよね。」

「当然だろ。」

「今から思えば、随分忙しい想いさせられたもんね。」

「あんときゃあ、日本人の生き残りのためにみんな必死だったものなあ。」

陛下の直轄領の中に緊急の避難場所を定め、必死の想いで最悪の事態に備えていたのである。

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  1. 2009/02/11(水) 00:37:17|
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自立国家の建設 165

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「あたしね。」

妻は如何にも意味ありげな目付きである。

「んっ。」

「あの頃、とっても感動したことがあったのよ。」

「ほほう。」

「あたしがね、あんたんところへお茶淹れて持ってったときにね・・・。」

「ふむふむ。」

いきなり、何を言い出すんだこいつは・・・・。

「あんたが陛下と国井さんと三人で話してたときよ。」

現総理の国井さんが、一敗地にまみれて野党の座に甘んじていた頃のことだ。

「おまえがオレのパンツ洗濯してくれたころのことだな。」

「まじめに聞いてくれなくちゃいやだから。」

多少頬を染めてはいるが、その表情は真剣そのものなのである。

「まじめに聞いてるよ。」

思わず座りなおしてしまったくらいだ。

「そんとき、あんた、演説ぶってたのよね。」

「ほう・・・。」

「確かね。ええと・・・、法令で禁じられてないことなら何をしても許されると思うような社会であってはならないって、あんたエラい勢いで熱弁ふるってたわ。」

「うんうん。」

「それでね、国民の行動を隅から隅まで全部法令で規制しようったって、どだい無理な話なんだから、法令で規定し切れない部分は道徳を以て律すべきだとかなんとかって、大威張りでやっつけてたわ。」

「別に威張っちゃいねえよ。」

「あんとき、国井さんも言ってたわよね。」

「おう。」

「法令に書いてあろうが無かろうが、やっちゃいけないことはやっちゃいけないんだって。あたしもそれ聞いてほんとにその通りだと思ったんだけど、あんたそのあとで日本には恥の文化ってえものがあるんだって・・・。」

「そんなこともあったなあ。」

「あたし、あんたのことをあのとき見直したのよね。」

流石に真っ赤になっているが、その表情は清々しい。

実はそれまで手も握ったことの無い女が、こっちの下着を進んで洗濯してくれたのが丁度その頃のことであり、どう言う心境の変化があったのか今の今まで謎だったのだが、なるほどそう言うことだったのか。

「オレだって、おまえが突然やって来て掃除したり、パンツ洗ったりしてくれたときゃあ、なんていったら良いか、ほんとに嬉しかったさ。」

何せ、相手は有名なミス外務省で、しかも一回り以上も歳が違ってしまっていたのである。

「うふふふ・・・。あたしだって、嫌いなヒトの下着になんか触りたくも無いわよ。」

「そりゃあそうだ。」

「まあ、あたしにして見りゃあ、あれがプロポーズの返事だったってわけよ。」

「あれっ、プロポーズなんてしたっけか。」

「あ、そう言うこと言っちゃうんだ。」

「う・・・。」

「だって、あんとき頭ごなしに出張のお供を命じたのは何処のどいつよ。」

妻も秋津州商事の社員として、配下の列に加わっていたのだ。

「あれれえ、自分から秘書役を買って出てたのはおまえの方だろうが。」

妻が官を辞して、いわゆる土竜庵グループに属して以来一貫してそうだった筈だ。

「でも、はるばる仙台までついてったらお墓参りだって言うし、いきなりご両親に紹介されちゃうし、あたし、とっても面食らっちゃったんだから。」

仙台の実家は弟夫婦が継いでくれている。

「うん・・・。」

「あれがプロポーズじゃないって言うの。」

なんと言われようと、こっちに下心があったことは確かなのだ。

「謝った。」

「恥の文化よね。」

「潔(いさぎよ)く兜を脱ぐよ。」

「仙台出張だ、一泊のつもりで用意しろって、それしか言わないんだもの、こっちは黙って従うしか無いじゃない。」

「そりゃそうだ。」

あのときは、国交省地方整備局の人間と現地で会う約束だったのだが、先方の都合で急遽取り止めになっちゃったばかりか、その連絡を受けたのが仙台で降りてからのことでもあり、日本へは当分戻れそうも無い見通しでもあったから、ついでに実家へ顔を出したまでのことなのだが妻はそれを知らない。

「おまけに、現地の一泊ってあんたの実家なんだもの、普通だったらパワハラで訴えてるところだわ。」

実際には仙台の駅近くに待ち合わせ場所も兼ねてホテルを押さえてあり、それもこれも妻が自ら手配したのだから、当然、部屋も別々だった筈だ。

「訴えなかったじゃねえか。」

実家からホテルまでタクシーで十五分も見とけば良かった筈なのだが、次の朝聞いてみると、うちのおふくろがかなり強引だったことは否めない。

おふくろにして見ればいい年した倅が始めて連れて来た女性のことでもあり、いくら部下だと言われても素直に信じる筈も無く、今更ホテルなんて水臭いと言い張ってとうとうタクシーを呼ばせなかったものらしく、結局そのときの妻は、若い頃の自分が使ってた部屋で一夜を明かした筈なのだ。

「それより、あの夜、あんたどこにいたのよ。」

「酔っ払って居間で寝ちゃっただけだ。」

父や弟と飲み明かしも同然だったのだ。

「あんたのお母さんは優しくしてくれたけど・・・、あたし、心細かったんだから・・・。」

「あ、悪かった。ほんと謝る。」

考えてみりゃあ、可哀そうなことをしたもんだ。

「それに、あの晩、あたしお母さんに頼まれちゃったのよね。」

「え・・・・。」

「うちの息子をよろしくって。」

「へええ、初めて聞いた。」

「息子はあの通りカドの多い人間だから辛いこともあるだろうけど、今後何があってもこのうちを実家だと思いなさいって言われちゃったのよ。」

「そうか、おまえが身内を持たない人間だってことは言ってあったからな。」

「いーい、あのときから、あたしはお母さんの娘にしてもらってるんだからね。」

「うう、こええ。」

現実におふくろは、妻の最大の理解者であり続けているのである。

「そう、怖いのよ。判った。」

「判ってるよ。」

「よしっ、お母さんに免じて許してやろう。」

「ありがとうございます、奥さま。」

「とにかく、このことを一生忘れないように。」

「ははあっ。」

掘り炬燵のお膳の上に両手をついて大仰に頭を下げて見せたのである。

「ああ、すっきりした。」

妻は、まるで花が咲いたような顔色だ。

「オレもすっきりしたよ。」

「なんでよ。」

「いや、おまえがなんで面倒見てくれる気になったのか、ずっと謎だったからだよ。」

「おほほほ、お母さんに感謝しなさいよ。」

「ううむ、それも味気ねえ話だなあ。」

「おほほほっ・・・。」

勝ち誇っていやがる。

「まあ、いいか。」

「そうよ。あんたにして見れば結果オーライだったんでしょ。」

「うん、いきさつはどうあれ、今じゃ何処へ出たって立派なお女房さまだ。」

「うふっ・・・。」

「どうせなら、もうちょっと早く一緒んなってれば、もう一人ぐらい頑張れたかも知れないねえ。」

子供のことである。

「ううん、どうだったかしらねえ。若い頃のわたしって、男のヒトに負けないようにって必死に肩肘張っちゃってたから。」

綺麗なだけでまったく可愛げのない女だったと耳にしているのだ。

「じゃ、タイミングぴたりだったっつうことか。」

「少なくとも、あの秋津州戦争の前だったらとてもそんな気にはなれなかったと思うわ。」

実際、あの大戦の幕引きをプロデュースして以来、新田源一と言う男の存在感が一変してしまったと言って良い。

「そりゃ、そうだろう。」

「考えてみると、あんた、あの頃にはもう国井さんとつるんでたのよね。」

妻の言う「あの頃」とは、退官のやむなきに至った問題の「あの頃」のことなのだろう。

「おいおい、いきなり人聞きの悪いこと言い出すなよ。」

「だって、事実そうじゃない。」

「まあ、否定はしねえよ。」

厳密に言えば、国井官房長官がこっちの官舎まで出向いて来て以来と言うべきか、その後頻繁なやり取りが始まったのだ。

「じゃ、総理もあの頃の案に絡んでたんだ。」

「絡むも何も、そもそも国井さんが言いだしっぺなんだからな。」

聞けば、現総理にとっては古くからの持論だったのである。

「へええ・・・、じゃ、元々国井さんの腹案から来てるのね。」

「ま、オレと岡部のも絡んでるけどな。」

最終的には、国井相葉コンビと新田岡部コンビの大同団結だったのだが、現在はそこに、例のブルドックこと安田啓一官房長官が積極的に名を連ねるに至り、相互の意思の疎通も万全と言って良いほどだ。

「でも、あんときの話じゃ、中央省庁なんて大蔵、内務、外務、ええとそれから国防と、精々四つぐらいしか考えて無かったわよね。」

「そうだ、あとは全部地方分権だ。」

「行政区画も全国を八ブロックに分けてたわよね。」

新規に建国する筈だった秋桜国においては、中央四省庁と地方八ブロック制が、押しも押されもせぬマスタープランだったのである。

「うん、ハナっから都道府県は置かねえつもりだった。」

「今度の場合はどうなるの。」

日本の現在進行形の改革プランのことを言っている。

「いま、詰めてるところだが、恐らく八ブロックかそこいらでまとまる感じかな。」

「当然、都道府県はなくなっちゃうのよね。」

「ああ。」

「やるなら早いほうがいいわよね。」

「その通りだ。あとになればなるほど難しくなるからな。」

現在の日本では、そちこちの県に合従連衡の動きがあるため境界線が流動的であるとは言うものの、都道府県制が曲がりなりにも定着しかかっている状況なのである。

「税源と権限は徹底して現地ブロックに委譲しちゃうんでしょ。」

「当然だ。二重行政の弊害を徹底的に排除する気だ。」

「だよね。」

「とにかく総理がその伝で行くと言ってる以上、とんでもねえ行財政改革をやっつけるつもりでいるんだから、税制にしたって秋津州に右へ倣えしちゃうかも知れねえ。」

「二十パーセントの消費税だけかあ。」

「登録税と関税のほかに酒税と煙草税ぐらいは残すかも知れねえが、極端な話、秋津州と併合しちゃっても齟齬を来さねえようなところにまで持って行くハラだ。」

「併合しちゃうの。」

「いや、言葉のあやだ。」

「なんか、怪しい。」

「いやほんと、併合までは考えてねえよ。」

「ほんとかな。」

「都合で秋桜だけ日本領にしちゃうってえ手も考えねえわけじゃあねえが、先の話だ。」

「へええ・・・。」

「とにかく、両国間における最大の問題点は税制のギャップにあるんだ。」

「ほんと、そうよね。」

「秋津州が現状維持で行く以上、こっちから合わせるしかねえだろう。」

「遅かれ早かれ足並みを揃える必要はあるものね。」

日秋両国を一つの経済ブロックとして見た場合、その点のアンバランスがさまざまな悪影響を齎しつつあるのである。

「まあ、前からの懸案だったからな。」

「そうすっと、日本は所得税も固定資産税も無し、贈与税も相続税も無しになっちゃうのかあ。」

「秋津州みてえに、世界中から金持ちが集まってくらあ。」

やりよう次第で前代未聞の景気浮揚を目にすることになるだろう。

「でも、それで、歳入が不足しないのかしら。」

「そのための行財政改革だろ。お役人さまは中央地方併せて従来の三割ぐれえに減らしちまうってんだから、お題目みてえに口先だけで叫んで来たヤツとはレベルが違うぜえ。」

最終的に十年は掛かるだろうが、とにもかくにも大幅な減員を念頭において策定中であり、軍や警察関係においてすら増員せずに済ませる予定でいるが、それもこれも官邸の戦略管制室及び国家警務隊の特殊部隊が治安維持機能を強力に下支えしてくれてることが大きい。

「但し、お役人の中途退官、退職勧奨は無くなるのよね。」

「そうだ。優秀な官僚には末永く働いてもらわにゃならん。また、そうでなきゃあ官庁に人材が集まらなくなっちまわあ。」

「その代わり、各省庁が天下り用にごっちゃり持ってるヘンテコな特殊法人なんて、綺麗サッパリ大掃除しちゃうのよね。」

「ああ、そう言うところへは公金はびた一文入れねえようにするから、消えてなくなるほかはねえだろう。そいつ等が開けちまった大穴のことも否応無く表面化しちまうだろうからこの際全部整理して、とにかく、高コスト体質を徹底的にぶっこわすんだ。」

「びた一文って言ったって、間接的に流れちゃう公金まで止められるかしら。」

公共事業を受注する関連業界から、問題の特殊法人がキックバックを吸い上げると言う巧妙極まりない仕組みが出来上がってしまっていることを指摘しているのである。

一見して公金とは見えないようにしてしまう仕組みなのだが、要は官民連携してのマネーロンダリングと言うべきものなのだ。

「それも政治主導でやるさ。」

現在の国井政権下では大分下火になってはいるようだが、放って置けば役所のくせにあの手この手で公金使って商売みたいなことまでやり始め、殆どの業務を癒着の象徴みたいなファミリー企業に法外な高値で下請けに出しておいて、自分たちは大勢して左団扇でふんぞり返っている例が多いのだ。

当然、大赤字が出るが、それを埋めるのは全部公金だから自分たちの懐は痛まない。

元々彼等は儲ける為に商売をやるんじゃなくて、身内の連中の働き口を確保しようとしてるだけなのだから、それも当然の帰結なのだが、土台、役所に商売をやらせる時点で既に大間違いなのである。

「それが出来なけりゃ、ほとんど絵に描いた餅になっちゃうもんね。」

「公金を公金として扱う政府にしなけりゃ、何を言ったところで絵空事にしかならねえ。」

「公金って言えば、あんたの言う私学助成禁止にはちょっと引っ掛かるものがあったんだけど。」

当時の秋桜案では、私立校への公的助成金が一切禁止になっていたのである。

「おまえらしいな。」

「だって、私立校だって大切な教育機関でしょ。」

「大切だからって、私立に公金を使っていいことにはならねえ。」

「貧乏な家の子が泣く事になるのよ。」

「公立へ行きゃいいだろ。」

「公立高に落ちた子はどうすんのよ。」

「落ちないように猛勉強するよう言ってやれよ。」

「冷たいのね。」

「猛勉強しても落ちるようなアタマじゃあ、無理して私立へ行ったってどうせついて行けねえだろうが。」

「でも、教育を受ける権利が・・・。」

「結局経済面の格差が問題だって言うんだろ。だから、誰かがその子を救うために個人的にカネを払うって言うんなら止めねえよ。但し、役所が関与しちゃならねえ。」

「・・・。」

「それに、そう言う子はゴマンといるわけだが、まさか、そんなかの一部にだけ恵んでやろうってんじゃあるめえな。」

「だから、国や自治体が・・・。」

「勘違いしちゃいけねえ。見た目に可哀そうだからって、いちいち公金使って援助してたらそのうち一般の納税者が怒り出しちゃうぞ。ものは試しに昭和憲法の第八十九条を詠(よ)んでみろよ。未だ覚えてるだろ。」

公務員として散々に暗記したのだから、今でも充分にそらんじることが出来る筈だ。

「ええと、『日本国憲法第八十九条、公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。』だったかしら。」

公の支配に属しない「教育事業」、詰まり私立校に支出してはならないのである。

「憲法に書いてあろうが無かろうがそれが鉄則だ。そこんとこを崩すと際限もねえ話になっちゃうぞ。」

悪いことに現実の日本では、莫大な公金が私立校に注入され続け、ある意味巨大利権の温床になってしまっているのである。

「それを言われると辛いわ。」

「或いは、その私立校が所轄庁の監督に完璧に服し、財産権も経営権も全面的に放棄する覚悟があるかだな。尤もそうなりゃあ私立じゃなくなっちゃうけどな。」

「もう、判ったわよ。理屈じゃ最初っから判ってるんだから。」

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  1. 2009/02/18(水) 10:17:33|
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自立国家の建設 166

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「理屈で判ってるんならその通りやりゃあいいんだ。何せ、空前の大変革なんだからな。」

一大革命と言っても良いくらいだ。

「じゃ、今度の日本案でも私学助成は禁止なのね。」

「当然だろ。そもそも中途半端に出したりするからいけねえ。最初っから一切出してなきゃ何も問題は起きねえんだ。」

「でも、ばたばた潰れちゃうわよ。」

それでなくてもこの少子化で学童数は減る一方だ。

「公金で助けてもらわなきゃ潰れるってんなら、潰れりゃいい。」

「結局出さないのね。」

「出さねえ。」

「まったく頑固ねえ。」

「いいか。博愛だとか慈善だとかってえのは公金でやるもんじゃねえんだ。」

「そっか。あんたNPOとかって聞くと、いっつもむかっ腹立ててたくらいだもんね。」

「全部がそうだとまでは言わねえが、博愛だとか慈善だとかご立派な看板立てて儲けようってハラが見え見えだわ。」

「でも、自腹でやる分にはいいんでしょ。」

「当たりめえだ。税制優遇だとか公金だとかヒトの懐をあてにするのが気に喰わねえだけだ。」

「それで儲けるから余計ハラが立つんでしょ。」

「そうだ。博愛や慈善を金儲けの道具に使いやがって。」

実際、岡部の情報が功を奏して検挙されるケースが目立っているのである。

「その上、現場で協力してくれるヒトを大勢踏み台にしちゃうんだもんねえ。」

「大勢の善意を利用して商売してやがるんだ。人間のやることじゃねえだろう。」

「ほんと、許せないわよねえ。」

「博愛だとか慈善だとかにゃ二度と公金は使わせねえし、へんてこなODAだって半分以下にしちまうさ。」

「そのくらいだから、ほかの分だって、予算、徹底的に絞っゃうんでしょ。」

「改革が実現すりゃあ、数年後にゃ相当浮いて来るぜえ。」

「その間(かん)のしのぎには、敷島特会の金庫がついてるしね。」

殊に移行期間中はさまざまに非効率な事柄が発生するとみて、それなりの出費が嵩むことも覚悟しているが、その財源は例の敷島特会に頼らざるを得まい。

「そうだ。その上でどれだけの増税を覚悟するか、それを国民に問うことになるだろうよ。」

「税収が少ないんだから、行政サービスの方も減らさなくちゃね。」

「それが嫌だったら、その分の税負担が増えても文句は言えねえだろう。なんせ、少子高齢化がこのまま進めば、福祉と医療でさすがの敷島特会も青息吐息になっちまわあ。」

「ほんと、そうだと思うわ。」

「国井さんが、せっかく目えつぶって中央地方とも財政健全化に成功したんだからな。」

「そっか、赤字が消えちゃった今こそチャンスだってわけか。」

敷島特会から膨大な資金が全国にばら撒かれた結果ではあるのだが、何をするにも先立つものが無ければ身動きが取れないと言う現実が一方にある。

「全部、いったんチャラにしちゃおうってハラだからな。」

「でも、そんなのやろうとしたら、今の日本じゃ命が幾つあってもたりないわよ。」

助成金を失って破綻する私立校の例を引くまでも無く、既得権の上にあぐらをかいていた人間が大勢泣くことになる上に、潰れた私立校の学生も行き場を失うのだから、そのこと一つとってもおおごとになるだろうが、無論そのことなどは全体から見れば氷山の一角に過ぎないのである。

「バカ言うな。国井さんは、自分の命なんざとっくに捨てて掛かってらあ。」

「へええ・・・。」

「これが出来れば、いつ死んでもいいって思ってらっしゃる筈だ。」

「きっと、議会と役人が揃って抵抗するんでしょうね。」

「うん、下手すりゃあ財界もだ。」

「となると、まるで四面楚歌よね。」

「秋桜国のときは、先に制度造りを終わらせといてから、そのあとへ日本人を呼び込む段取りだったから気が楽だったけどな。」

当時は制度造りを終え次第秋桜国を建国するつもりだったのだが、その後に日本人(避難民)の「上陸」を許し、やがて事情已む無くその地が新たな日本国とならざるを得なくなった暁には、今度は日本人の「国籍取得」を認めた上で、その意思を以て改めて改善策を練るつもりだったのだ。

「そうよね。秋桜島に生身の人間なんて一人も住んでなかったんだもんね。そこにどんな体制が出来上がってたって、あとからゲストとしてやってくる人が文句なんて言ってらんないものね。」

国籍の取得が許されない間は日本人も外国人の扱いである以上、当然参政権も持たないのである。

「今度は、そうはいかねえ。」

敷島の場合は最初から日本国であり、基本的には従来の制度がそのまま継続している上、そこには大勢の日本人が棲み暮らしているからだ。

「きっと、大騒ぎになっちゃうわよね。」

「だろうな。」

「国会なんか一院制だし、定員はどの程度を考えてるのかしら。」

「いまんところ、三百。」

「ええっ、それじゃ今までの半分以下じゃない。」

七百二十二が三百になるのだから、空前の椅子取りゲームが始まることになる。

「取り敢えずは単純全国区制を採る筈だから、有権者が今までみてえにぼけっとしてると、当選するのは有名タレントと大金持ちだけになっちゃうかもな。」

何せ、全てが全国区なのだ。

無名の候補者が選挙運動を全国展開しようとすれば、膨大な選挙資金を必要とするのである。

「でも、地元への利益誘導に血道をあげる政治家は少なくなるわよね。」

「第一地元って考え方自体がなくなっちゃうだろうし、一方で大都市中心の選挙になりがちではあるがな。」

本来国会議員は、国家全体の行く末について責めを負うべき存在であって、特定地域の利益代表であってはならないのだ。

「難しいわよねえ。」

「なかなか理想通りにゃ行かねえもんさ。」

「選挙制度は議会制民主主義の基本中の基本なんだし、もうちょっと何とかならないのかしら。」

「なんせ、全国区じゃねえと選挙区割りで血の雨が降っちゃうかも知れねえからな。」

「たしかに・・・。」

「取りあえずこれでやってみて、その後改善して行くしかねえだろうが、それもこれも国会が決めることさ。」

「そう言えば、最近の国会もひどいもんだって言うし。」

「うん、一旦滅亡の淵から甦ったと思ったら、連中急に安心しちゃったらしくって、たちまち私利私欲のかたまりだわ。」

「そう言えば、中央だけじゃなくて、地方議会なんかもひどいらしいわね。」

「うん、地方もひでえもんだ。利権を巡って裏で談合を済ませてから議会に掛けるもんだから、まるっきり三文芝居みてえな茶番をあっちでもこっちでもやらかしてくれてるよ。」

「そんな議会なんて税金の無駄よねえ。」

「下手すりゃ地方議会のだらしなさなんて、中央よりひでえかも知れねえ。」

尤も、国会と違って地方議会の場合、よほどの問題でもなければマスコミも取り上げようとはしない。

「ま、それもこれも、有権者が自分たちの議会の有りように興味を示さないからなんだけど・・・。」

「結局、そこに戻って来ちゃうか。」

「第一、投票率一つとったって、異常としか言いようが無いわ。」

それほど投票率が低いのである。

「それだって、選挙に無関心でいられるだけ幸せな人生を送れてる証拠でもあるけどな。」

「そうよね、世界には、投票したくたって、出来ない国がいっぱいあるって言うのに。」

まともな公民権すら制度として認めてない国さえある。

「その通りだ。投票に行こうとしただけで射殺されちゃう国まであるって言うのになあ。」

一応制度としての選挙を認めてはいても、れっきとした国軍まで介入してしまう例さえ見受けられ、暴力的な選挙妨害など掃いて捨てるほどに存在しているのだ。

「日本人もそろそろ目覚めないとね。」

「そうだ。折角手に入れた最大の参政権を放棄しちゃってるんだからな。」

「その結果がこのありさまなのね。」

「少なくとも、そう言うやつらが政治に対して文句つけるのは筋違いだろうよ。」

「最初っからその権利を放棄しちゃってるんだものね。」

「ま、政治家も行政も腐っちまってるからなあ。」

「まったく、絶望的だって言うヒトもいるし。」

日本が大和文化圏の中で異様なほどの好景気を謳い続け、財政的にも中央地方ともに特段の余裕を持てた今、皮肉なことに眼前に横たわる利権も拡大の一途を辿っているのである。

「だからこそ、国井さんが断じて行おうとしてるのさ。」

「で、その所信をいつ表明する気なの。」

「そのために田中たちが頑張ってんじゃねえか。」

「あ、そっか。」

「なんだ、忘れてたのか。」

「しかし、プロジェクトAのメンバーだってお役人よねえ。」

「うん・・・・。」

「自分たちの首も危ないのよねえ。」

「何年かの内に、中央から地方にごっそり移行して行くことになるだろうよ。」

「いやがるヒトばっかりだわよねえ。」

「まあ、なにもかもガラガラポンになるってこった。」

「役人だけじゃなくて、政党だってそうよね。」

「なにもかもだ。」

政財官の奥深いところで大変動の音が聞こえて来るようだ。

「ふうん、タイヘンだ。」

「良い結果に繋がるかどうかは全て国民に掛かってるのさ。下手にしくじったりすりゃあ国が潰れちゃうかも知れねえんだから、中央は勿論地方だって外国人の参政権なんて認めてるヒマはねえ筈だ。」

「在日外国人は自分の国の改造をやればいいのよね。」

「ヒトの国のことより、てめえの国をなんとかすりゃいいのさ。」

「それで、陛下はなんて仰ってるの。」

「聞いてただろ、さっき任せてくれたじゃねえか。」

「あっ、そうか。」

「要は、日本人自身が日本の有りようをどう変えるかっつう問題なんだからよ。」

「そっか、陛下はそれこそ日本人の自由だって仰ってるのね。」

「そうだ。日本と言う国家をどう作り変えようが、それこそ日本国民の自由だろうぜ。」

以前と違って、ワシントンの顔色を窺う必要は無いのである。

「それが、普通なのよねえ。」

「選挙権を放棄しちゃってるようなやつらがあとんなってからぶうぶう言ったって、それこそ後の祭りよ。」

「最大の難関は、やっぱりマスコミなんでしょ。」

「うん。こう言っちゃなんだが、メディアリテラシーに乏しい人間が多過ぎるからな。」

「特にテレビが言ってることだと、無条件に受け入れちゃうヒトが多いものねえ。」

「マスコミなんて、所詮商売でやってるものなのにな。」

「でも、ここ最近はあんまり大嘘はつかないみたいね。」

「秋津州商事がビッグスポンサーになっちゃってるしな。」

「今じゃ、広告費の面では最大なんでしょ。」

「ダントツのぶっちぎりだろうよ。おかげでここ数年単年度の営業利益は赤字らしいけどな。」

無論日本の秋津州商事の話なのだが、莫大な広告宣伝費が大きく響いてしまっているのである。

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  1. 2009/02/25(水) 00:01:05|
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