日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 167

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「累積でも、とうとう赤字になっちゃったって聞いたけど。」

「僅かだけどな。」

「それだけ民放に公告を打ってたのよねえ。じゃ、公共放送はどうすんのよ、あのままでおいとくの。」

「まさか。真っ先に民営化さ。」

多くの場合、日本における公共放送の存在意義は既に失われてしまっており、一刻も早く民営化を実行すべきなのである。

「やっぱりね。」

「なにせ、民放より毒を撒き散らしてたからな。社会正義が聞いて呆れるよ。」

「それなのに、公共放送だから嘘は言わないって思っちゃうヒトがいっぱいいるもんねえ。」

「それをいいことに情報を捻じ曲げるんだから一番タチが悪いわな。」

「秋津州戦争が終わって、中朝の対日姿勢が逆転してからは、多少遠慮してるみたいだけどね。」

当時、「眞相はかうだ、の眞相」なる特番を組んで、敗戦後GHQに強制されて変造情報を垂れ流していた事実を明らかにし、全ての責めは強制した側にあるとする論陣を張ったほどだ。

「今だって、遠慮しながら微妙に味付けしてやがる。」

「結局、内部に特殊な考え方をするヒトがいっぱいいるんでしょうね。」

「うん、日本は弱体化した方がいいんだって思い込んじゃってるようなヤツが大勢いて、少なくとも軍事的には弱いままでいた方が平和だなんてとちくるっちゃってるしな。」

「日本に軍隊は不要だって言ってるヒトもいるわよ。」

「ひでえのにかかると、それこそが世界平和に貢献する近道だなんて言いやがる。」

国井内閣が粛々と改正した現憲法において、日本の国防部隊が軍を名乗ることを許されたばかりなのである。

「でも、そう言うヒトって各省庁にもいっぱいいるわよ。現にあたしの前の上司なんかもその口だったもの。」

無論、妻が退官する前の話なのだ。

「うんうん、日本が力を持っちゃうと平和に対する脅威になっちゃうって信じ込んでるんだな、こいつ等。」

「あんたが、モスクワに乗り込んで北方領土を奪還して来たときなんか、その上司大騒ぎだったんだから。勿論否定的な意味でよ。」

「へええ・・・、自国の領土を取り戻すことの何処が不満なんだろ。」

「そんな強引なことしてたら戦争になっちゃう。新田のバカは平和を破壊するつもりか、なんて言ってたわ。もう、腹が立って腹が立って・・・。」

「それで、おまえ黙って聞いてたのか。」

「自国領土を武力占領されちゃってる時点で既に戦争状態でしょって言ってやったわよ。」

問題の北方領土が旧ソ連に不法に占領され、その地で生まれ育った日本人が悉く逐われたままである以上、戦争状態にあると言うほかは無いだろう。

「あははは、わざわざ破壊しなくったって、とっくに戦争状態だよな。」

実際、現地の日本人は、財産はおろか、多数の命までが奪われてしまっているのである。

「あの人たちって、最初っから感覚がずれちゃってるのよね。」

「うん、とにかく日本は力を持つとロクなことをしねえって思い込んじゃってるんだ。」

「ヘンな先生に教わったことだけで大人になっちゃって、現実を見ようとしないヒトが多過ぎるものね。」

「まあ、敗戦でそれまでのエラい人たちが揃って公職追放になっちゃって、帝大の先生なんかも大幅に入れ替えられちゃったからなあ。」

全て占領軍の統治下で強制されたことなのである。

「その流れが未だに続いちゃってるんだもんね。」

「連中の中でも悪質なヤツなんか、てめえの出世を担保に敵側の宣伝戦に積極的に加担する始末だ。実際は嘘の歴史だって知っててやりやがるんだから一番タチが悪い。」

近代史ばかりか、古代史にまで奇妙な解釈を加える例が多いのだ。

「結局、そう言うあっち系の先生に教わって来たヒトが教師になって子供たちを教える番になっちゃったんだもんねえ。」

「何の因果か、戦前の日本は世にも希なるごろつき国家だったって思っちゃってる時点で、既にずれちゃってるわけだ。」

「公職追放でまともな考えの人がばたばた首になっちゃって、そう言うヘンテコな考えの人ばっかり登用されちゃったのよね。」

「GHQの中の実務集団がそっち系の連中でいっぱいだったからな。」

ソ連(ロシア)にしてみれば、西方(古くはフランス、新しくはドイツ)の脅威を控え、東方の脅威であった日本を徹底的に無力化しておきたかったのだろうが、現に「そっち系の連中」がコミンテルンに使嗾(しそう)されていた事実が、近年になって益々明らかにされているのである。

尤も、数年後には日本でもアメリカでも、その強烈な揺り戻しが「赤狩り」と言う動きを伴ってやってくることになるのだ。

「それで日本は日の丸まで取り上げられちゃった。」

「日の丸の掲揚なんざとんでもねえってな。」

「まったく・・・、日の丸に何の罪があるって言うのよ。意匠が気に入らないって言うんなら、デザイン変更を日本人が自分で考えればいいことじゃない。」

「連中は、何が何でも日本をごろつき国家だとしときたかったんだろうよ。」

無論、日本人の精神を打ちのめしてしまうためだ。

極悪非道の行為を為したと思わせとけば、日本人は以後敢闘精神を持つことが困難となり、そう言う日本に対しては、どんなに無理難題をぶつけても抵抗しなくなることを期待したのだろうが、その目論見(連合国側の)は現に半ば成功したと言って良い。

「そのごろつき国家の象徴が日の丸だって教え込んじゃったわけだ。」

「日の丸は悪の象徴なんだとよ。」

「でも、日の丸を禁止されちゃったその当座、日本の外洋船の国旗なんかどうしてたのかしら。」

心の拠り所だった日の丸の使用が禁じられて、船乗りたちも揃って歯噛みしていた時代だったのだが、国籍識別旗を掲げないまま外洋に出てゆけば海賊船と看做されてしまうのだから、ことは容易では無いのである。

「なんだ、知らなかったのか。日の丸の代わりにスケジャップ旗って言うヤツを揚げさせられてたんだ。確か赤と青の二色旗だった筈だ。」

「それも占領軍の命令よね。」

「当然強制だ。その他にも日本は飛行機を一切作っちゃならねえって命令されてたぜ。」

くどいようだが、当時の日本は敗戦国として占領統治されていたのだ。

「民需用の飛行機、一つも作らせてもらえなかったし・・・。優秀な航空機の技術系譜を根絶やしにしたかったのかしら。」

日本のその技術が世界一だったとまで言うつもりはないが、少なくとも当時は他の列強国のそれに対抗し得るほどのものだったことだけは間違いない。

「それもこれも、愚民化政策の典型だろうよ。」

「ほんと、そう考えるとやつらのやることは徹底してたみたいね。」

この場合の「やつら」とは、無論占領軍のことである。

「結局、占領下の日本では、徹底した情報統制の元で暗黒の統治が行われていたことになる。」

「ほんと、教育行政なんて暗黒としか言いようが無いわよね。」

「あっち系の学童を大量生産させようとしたわけさ。」

「現に大量生産されちゃって、その後、そっち系のやつらが最大の拠点にしてたのが国鉄で、どうにもこうにも始末がつかないから苦労して民営化したんだもんね。」

無論、問題はそんな単純なものではないとは言うものの、国鉄の巨大労組の存在が企業統治の上で大きな障害となって、信じ難いほどの赤字を垂れ流し続けたことだけは動かしようのない事実だろう。

民間企業ならとうの昔に潰れていた筈だが、何せ親方日の丸だ。

まったく腹立たしいことに、そいつらの残した悪弊は、その後も巨大な負債となって全国民の肩の上にのしかかっているのである。

「うん、今じゃ、社会保険庁と公共放送がそいつらの拠点だろうよ。」

尤も、社会保険庁では今や百万体のヒト型ロボットがその実務をこなすまでになって来ており、その手の職員たちのサボタージュに怯える必要がなくなりつつある上に、過去において業務上の犯罪的行為に手を染めた人間が悉くあぶりだされてしまっており、時効によって刑事罰の対象にはならなくとも、そのことが原因で大量の職員が職を逐われつつあるのだが、言うまでも無く全て自業自得なのだ。

「陛下のご協力で社会保険庁は始末がつきそうだからいいようなものの、公共放送は未だ手付かずだもんね。そう言う手合いが今でも公共放送を仕切ってるかと思うといやんなるわ。」

「今んところ少し大人しくして見せてるが、あいつらが巣食ってる以上どうにもならねえ。」

とにかく、「あいつら」にとって「親方日の丸」と言う環境が、最強の武器として機能してしまうのである。

「問題は中にいる人間なんだから、その人たちだけ辞めさせちゃうわけにはいかないのかしら。」

「今の法体系じゃ無理だろうな。だから民営化させちゃうんだ。純然たる商売になりゃスポンサーさまの仰ることに逆らえば成り立たなくなるからな。それでもって必要なら新たな公共放送を別に作る。」

「あらあら・・・。」

「なんだったら、そのことの資金は全額こっちで負担したっていいんだ。」

「あ、秋桜資金・・・・。」

秋桜資金は岡部と連名の私有財産の形式だとは言うものの、元々公のために費消されるべき性格を持たせており、この意味では、年金会計の大穴を埋めるためにも、国井内閣の要請があり次第いつでも出動が可能なのである。

「そうだ。岡部なんざハナっからそのつもりさ。」

「今度は採用基準なんかもまともになるんでしょ。」

無論、新たに設立される公共放送の人員採用基準のことだ。

「当たりめえだ。今までみてえなヘンな左巻きの外国人なんか一人もいれるもんか。」

「じゃ、マスコミ対策はもうオッケーかしら。」

「ま、これからが勝負だな。」

「だって、民間放送の方はとっくにだいじょぶなんでしょ。」

「いまんとこ、口出しは控えてるけどな。」

ビッグスポンサーとしての口出しのことである。

尤も、実際に口出しはしなくても、メディア側が勝手に自己規制してしまっているのが実情だろう。

「ところで、テレビの親会社になってる新聞社なんかはどうなのよ。」

「お、鋭い質問だな。」

「あはっ。」

「何を隠そう、今じゃ秋津州の大和商事系新聞が、印刷を日本の新聞社に分散して委託してるんだ。」

日本で輪転機から刷りあがってくると、待ち構えてたポッドが颯爽と秋津州に運んでしまうのだが、最も遠距離の任那でさえ運搬に三十分とかからない上に、同じ秋津州でも任那版などは時差の関係で締切時間に大幅な違いがあり、日本の新聞印刷会社のタイムシェアリングの上でも大きな意味を持ち始めているところに持って来て、ちょっとやそっとの部数ではないのである。

外注分だけで六千万部もあると言うのだから、印刷の委託を受ける各新聞社においては生産性向上の意味合いも含め、用紙やインクなどの入手の時点で発生するスケールメリットの巨大さが、到底無視出来ないものになってしまっている筈だ。

「あらそうなの。」

「それも、日本全体の発行部数よりでかいんだぞ。」

「へええ・・・。」

「今じゃ、その委託を止められちゃうと潰れちまう新聞社まであるって話だ。」

潰れちまうのは無論日本側の新聞社の方なのだが、例え潰れるまでには至らなくとも他社との競争の上で大きな痛手になることは避けられないから、その委託印刷の受注にかけては各社とも目の色を変えてしまうほどであり、その点でも秋津州の影響力は既に地を覆うほどのものになってしまっていると言って良い。

しかも、日本の新聞の広告主としても秋津州商事が巨大な存在である以上、自然、秋津州の意に染まぬような記事など自己規制の対象になってしまう。

「じゃ、テレビも新聞も、その手の援護射撃って、少なくとも陛下の方はオッケーなのよね。」

「国家レベルの話だから、国家レベルで要請すればいいのさ。勿論秘密裏にな。」

「そっか、要するに日本の総理大臣が要請した範囲で協力してくれるわけね。」

「それが陛下の思想信条に反しない限りだ。」

「陛下と国井さんじゃ反するわけがないでしょ。」

「尤も、陛下は事実を捻じ曲げた報道をお嫌いになるだけで、事実の報道にまで横槍を入れるような方じゃないけどな。」

メディア側の情報操作に待ったを掛けるだけの話なのだ。

「当然よ。」

妻は昂然と眉を挙げて言うが、何しろ、ヤマトサロンはあの方のファンクラブに等しいのである。

「ところで、その陛下の方の話は何処行っちゃったんだあ。」

「あらら。」

「確か女の尻を追っ掛け回す話じゃなかったっけか。」

「そうそう、その話よ。」

「おまえが余分な話を持ち出すからだ。」

「あら、ほんと。」

妻はほんのりと頬を染めている。

「あははは。」

「あ、そうそう。そう言えば、例の「任那御別宅のおん方」ってのはどうなってんのよ。」

日本でごく一部の業界紙が報じたと言うゴシップの真偽のほどを気にしてるらしいが、そもそもが戦略管制室から小耳に挟んだだけの話であり、大規模メディアにおいては未だ話題にもなっていないと言う。

「そっちの方面はお前らのほうがよっぽど詳しい筈だろ。」

「三十路(みそじ)だって話だったけど・・・・・、ほんとのところはどうなのかしらねえ。」

ほんとのところとは年齢のことでは無い筈だ。

「俺は信じてねえけどな。」

あの方の来し方を見るにつけ、とても考えられない。

「まるっきり脈は無いのかしらねえ。」

「そんなの俺が知るわけねえだろ。」

「よしっ、みどりママに相談してみよっと。」

何しろ、みどりママが大声で主張すれば陛下が追認してしまうケースが多く、それが王家の家庭内のことに限られるとは言うものの、その影響は小さくないのである。

「こらこら、あんまり大袈裟にするんじゃねえぞ。」

「なによ。これはヤマトサロンの問題よ。オトコどもが口を挟むことじゃないわ。」

「これだもんなあ。」

ヤマトサロンの稜々たる治外法権の壁は、相も変わらず微動だにしていないのである。

「確か山川さんって言ったかしら、いい人だといいんだけど。」

「あのなあ、オレ等オトコどもの口から言わせてもらえば、例のダンサーの方がよっぽど効き目があると思うんだけどなあ。」

直接には一度しか見ていないにせよ、その妖艶さには絶対的なものさえ感じさせられたほどであり、それに匹敵すると思えるほどのものと言えば、自分の知る限り一部の女優を除けば、ローマ帝国の例の妖怪ぐらいのものだろう。

「あ、あれはダメ、ぜったいダメ。」

言下に却下されてしまった。

「だって、陛下の性的情動を刺激して差し上げたいんだろ。」

「最低っ。」

凄い目で睨まれてしまった。

「なんでだよ。」

「女は男の道具じゃないって言ってんのっ。」

「おまえらの言うことは良く判らん。」

いくら綺麗事並べたところで目的どころか手段だって同じじゃねえか。

「ま、永遠に判らないでしょうね。」

「でも、あのダンサーはほんとに抜群だぜ。」

「あなたっ。」

音階が一オクターブ上がってしまっている。

「あわわわ。」

「承知しないからっ。」

「悪かったっ、この通りだっ。」

もう、謝ってしまう外は無い。

「もうっ・・・、みんなに言い付けてあげるからねっ。」

この場合の「みんな」とは、当然ヤマトサロンの猛者(もさ)たちのことだ。

「ほんと悪かったっ、この通り反省するからさ。」

言い付けられたりしたら、いつもの総攻撃を喰らうに決まっている。

「まったくオトコってっ・・・・。」

「そうは言うけど、陛下だってオトコの一人だぜ。」

「あの方だけは別よ。」

「判った、判った。」

議論の余地は無いのである。

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  1. 2009/03/04(水) 09:22:18|
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自立国家の建設 168

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「ところで、田中君が忙しいってことは判ったんだけど、騒いでたとか、オレンジプランとかって何のことよ。まさか、さっきの秋桜維新(こすもすいしん)のことじゃないんでしょ。」

少なくとも、妻にとっては初耳の話なのだ。

「うん、まったく別の話だ。」

「だからあ、どんな話なのよ。」

「一言や二言じゃ言えねえよ。」

「ふうん、ややこしい話なのね。」

「およそのことは岡部からも聞いてるし、関連映像だって見てないわけじゃないんだが・・・・、そう言やあ窓の月に転送したって仰ってたな。」

数分後、夫婦の目の前で窓の月が起動し、情報伝達装置としての機能を鮮やかに発揮し始めており、そのモニタには波間に浮かぶ離島が映し出され、すぐさま音声が反応して全てを補足してくれている上、その俯瞰図(ふかんず)で内部構造まで見ることが出来ているのだから、その離島が人工的に加工された代物だと判るのである。

「これって丹後の海よね。」

「そのようだな。」

「これが田中君のオレンジプランなの。」

「ネタの一つだよ。」

「ふうん。」

「ま、よく見てみろよ。」

「これなんて、まるで富士山の裾野部分だけ残して、その上の方を全部切って捨てたようなカタチね。」

俯瞰図として描かれている形状がである。

仮に高さと底辺の直径が同等の直円錐があったとして、その中間当たりに水平に包丁を入れて切り飛ばし、下側だけ残したような形だと言って良いが、無論裾野の一番下あたりはそれ以上の広がりを見せている。

「うん、五合目あたりに包丁を入れたのやら、七合目あたりで切ったのやら、いろんなのが揃ってるみたいだな。」

相変わらず窓の月は便利極まりない機能を発揮してくれており、疑問に音声が反応して補足を加えながら、鮮やかに映像が切り替わって行き、やがて多様の大きさのものが数多く登場して来るに至った。

「ほんと、大小取り混ぜていろんなのが揃ってるみたいね。」

「ざっくり言って大中小に分けられるようだねえ。」

「LMSサイズってとこかしら、差し詰め大きいのはL球(えるだま)かしらね。」

「あはは、そうすっとちっちゃいのはS球(えすだま)だな。」

「ひょろっとしてるのも平べったいのもあって、高さも千差万別だわね。」

「最大のものだと三万メートルはあるかな。」

無論、図面上の底辺から頭頂部までの高さがである。

「頭頂部の面積はどのくらいになるのかしら。」

実物は、その部分だけが海面から顔を出すことになる筈だ。

「うん、おまえの言うL球で行けば、概ね百五十平方キロほどだろう。」

「じゃ、M球が百平方キロで、S球が五十平方キロってとこかしら。」

仮に地球時代の三宅島に例をとれば、概ね五十五平方キロほどだったのだから、そこから類推しても凡そのところは見当がつく。

「そんなとこだろう。」

「あら、中にはラクダみたいに二こぶ繋がってるのもあるのね。」

無論、図面上の話である。

「これだと、海ん中で二つの島が少し離れて並ぶことになるな。」

「差し詰めダブルのM球だわね。」

「これが田中プランの味噌んなる筈だ。」

「でも、こんなもの、なんで騒ぐのかしら。」

騒いだ張本人は無論田中である。

「おいおい、俯瞰図を良く見てみろよ。」

「え・・・。」

「ほら、中に空洞が出来てるだろ。」

その空洞の上限は、多くの場合頭頂部から見れば二千メートルも下側に位置していることになっており、一部の空洞に至ってはそれが五千メートルにも達している上、数ある島の中には、下限の位置が二万メートルを超えている空洞まで散見されるのである。

「あら、ほんと、それも中で幾つにも分かれてるみたい。」

要するに、多層構造になっているのだ。

「おいおい、その空洞の中身が肝心じゃないか。」

「あらら、オイルって書いてあるわ。」

「そうだ、オイル・・・、原油だよ。」

「あ、じゃあオイルの備蓄用なのね。」

「そうだ、壮大な備蓄タンクの話だ。それも大小取り混ぜて五百個は下るまい。」

この分では、その頭頂部の面積を併せただけで、地球時代の四国どころか九州を超えるほどのものになってしまうかもしれない。

「話によっちゃ、これを丹後から運んで来てもらうわけね。」

「普通に宇宙を運んで来たら、破裂しちゃうけどな。」

「え、なんで。」

「内圧が高すぎるからさ。」

「あ・・・、じゃ大量に封入しちゃうわけかあ。」

無論封入するのは膨大なオイルに他ならないが、その多くは佐渡産のものを使う予定だと耳にしている。

「容器の内外を大量のベイダインで補強なさったらしいが、それでも丹波に持ってくるとなったら、一瞬で移動して、一瞬で海中に沈めてしまう必要があるだろうな。」

「そうか、宇宙どころか高空に置いただけでも、気圧の関係で一発で破裂しちゃうってわけか。」

「まあ、丹波の海に沈めてから封入する手も無いわけじゃねえが、それじゃあ手間あ喰って仕方がねえ。」

俯瞰図では採油用と封入用のパイプが地下に向かって複数伸びており、封入用のものが数段太くなっているとは言うものの、丹後の海で作業する場合一定の海域で集中的に行えることに引き比べ、こっちへ運んで来てからではそうは行かなくなってしまうのである。

「なるほど、こんなにたくさんあったら、事前に用意しとくしかないわよねえ。」

現に、五百個もあることになっているのだ。

「ゴーサインが出次第、封入作業の一斉開始だろう。」

「それで、一瞬で移動して、一瞬で海中に沈めちゃうのね。」

「陛下にしか出来ない芸当だが、仕事としちゃあそこんとこが一番難しい場面だ。」

「そこまでは判ったけど、これを何に使おうって言うのよ。」

「ま、一言で言っちゃえば、外交上の取引材料にしようってハラだ。」

「あ、そうか。喉から手が出るくらいの国ばっかりだもんね。」

「殊にワシントンだろう。」

「そりゃそうね、任那からのパイプラインで全需要の半分近くいっちゃってるらしいし、残りの相当部分も秋津州からタンカーが出てるんじゃ、夜もおちおち眠れないでしょ。」

一説によれば、秋津州産のものだけでその国の全需要の八割を占めていると耳にするほどだ。

「陛下に蛇口を閉められたら一巻の終わりさ。」

「アメリカじゃ備蓄分が二千万バレルも無いって言うし、石油の一滴は血の一滴って標語まで作って騒いでるらしいわね。」

地球時代の合衆国の備蓄量は官民併せれば十六億バレルを超えていた筈なのだから、最早比べるべくも無いだろう。

しかもその国では、国内の油田は全て先細りだと言われ始めている上、近頃では全油井がフル稼働で生産しても国内需要の一割にも満たないとまで囁かれているのである。

「大統領閣下の執務室に掛けてあるかも知れねえな。」

その標語がである。

「でも、不思議よねえ。戦前の日本はその蛇口をアメリカさんに思いっ切り閉められちゃったのよね。」

今の敷島と違って、地球時代の日本の産油量は殆どゼロだったのだ。

「オイルだけじゃねえ。鉄もだ。アブラと鉄が手に入らなくなりゃあ、あとは滅ぶしかねえ。」

だからこそ、死中に活を求めて対米戦に打って出たのである。

「少なくとも、近代国家としては成り立たなくなっちゃうわよね。」

「だからこそ、アブラは外交上のツールとしてとりわけ威力があるんだってことよ。」

一方にPMEと言うものが登場した今となっても、航空機の殆どが石油燃料を必要としていることもあり、しかも暖房用燃料として、かつ多様の化学製品の原材料としても軽んずることは出来ない以上、石油は国家の命運を左右する戦略物資そのものであり続けていることになる。

「じゃ、田中君のプランも満更悪くないってことになるじゃない。」

「ふふん、相手によりけりだ。」

「プレゼントの相手はアメリカだけなんでしょ。」

「バカ言え。そんなことしたら、ほかの国からブーイングの嵐だろう。」

「じゃ、どうすんのよ。」

「最終的にはアメリカさんと水面下で基本合意を形成することになるんだろうが、その前にほかの国とやり始める筈だ。」

この場合のほかの国としては、英仏独中露印イランやアフリカ先進国群などの名が脳裏に浮かぶが、岡部などは日本の対トルコ外交戦略を優先課題の一つに掲げているほどであり、今次のローマ人問題を踏まえればそのことの重要性も無視すべきではないだろう。

何せ、現トルコ共和国はローマ人をその故地から駆逐したオスマン帝国の系譜を引いており、逐われた側のローマ人がこの人類社会に戻って来た上に、そのバックには秋津州がついていると言うのだから、トルコ側にとってことは容易ならざる事態なのである。

現に、その件に絡んで駐秋トルコ代表部から盛んなアプローチが始まってしまってるくらいなのだ。

「え・・・。」

「ま、殊にロンドンとやり取りすることになるだろうな。」

地球時代とこと違い海外に石油利権を持たない英国も、米国ほどではないにせよ、その需給を逼迫させていることに違いは無い。

しかも、日本にとって今の英国は欧州先進国群の中で地理的にもっとも近い存在であり、言わば西方の隣国だと言って良い。

「あ・・・・。」

「それも、ひそひそとな。」

「でも・・・・。」

今の日本は昔と違いその点の防諜機能は完璧に近いのだが、ロンドンにはワシントンの耳目が大量に存在してしまっている筈であり、妻はそれを言いたいのだろう。

「うん、どんなに小声で話してもワシントンの耳には轟音になって届くだろうよ。」

「あらま・・・、それじゃ置いてけぼりにされたワシントンが怒り狂うでしょうね。」

「少なくとも、ロンドンに対して不信感を募らせることだけは確かだろうな。」

「米英を離間させちゃおうってのかあ。」

「とにかく、その点でもガラガラポンをやるしかあるめえ。」

「ふんふん、それからいろいろ始まるわけね。」

「暫く経ってから第二の大和合意として取り纏めを図る必要があるだろうな。」

公式な国際的合意を取り纏めるのである。

「あら、また世界会議みたいなことをやらかすつもりなの。」

「やるしかあるめえ。」

「そこのテーブルで、オイルの取り分を巡って大騒ぎが始まるわけか。」

「量もそうだが、どの国がどの場所にセットを望むかの調整だ。いらねえって言う国は出て来ねえだろうからな。」

「どっちにしても、丹波の海にセットするときは大忙しになっちゃうわね。」

忙しい思いをするのは無論陛下だ。

「忙しいこともそうなんだが、同じ海でも地殻の厚みが問題なんだ。」

「え・・・。」

「セットするときゃ、大抵海底の岩盤を深く掘っておいてからになるんだから、地殻の薄いところじゃ危なっかしくって仕方がねえ。」

「あ、そうか。下手なところを掘り過ぎると海底火山になっちゃうか。」

「な・・・、漁業権や海底ケーブルのことだってあるし、何処でもいいってわけにゃあ行かねえんだよ。」

「じゃあ、どうしても下さいって言ったら、相手国の陸上に乗せてやりゃいいでしょうに。」

「さっき言ったばかりだろ、上空五千メートルぐらいになっただけで気圧が極端に低くなっちゃうんだぞ。」

「あ、そうか。破裂しちゃうのか。」

「陸上でこんなもんが破裂したひにゃあ、とんでもねえ大災害だぜ。」

「そりゃ、そうね。」

「随伴ガスに引火しちゃうだろうから、あっと言う間に火の海になっちまわあ。」

「もう、判ったわよ。」

「百歩譲って陸上に大穴を掘って埋め込んでやるって手も無いじゃあねえが、途轍もなくでかい穴になっちゃうぜえ。」

頭頂部に比して裾野の部分が大きく広がっているのである。

「だよね。」

「だから、これほどの規模のものだと、もう海ん中しかねえだろうが。」

「だったら、例のSDで十杯ぐらいプレゼントしてやりゃいいじゃないの。あれって、高さが精々八十メートルぐらいだって言うから陸(おか)の上に置いとけるでしょ。」

「それっぽっちじゃ相手さんが喜ばねえ。」

少なくとも、米国を初めとする大消費国にとってはたいした量にはならないのである。

「そっか、相手が喜ばなきゃあ、責め手にはならないか。」

「そう言うこった。」

「それなら、相手さんの陸地に穴を掘って直接原油を封入してやれば良いじゃない。」

相手の陸地の地下に直接備蓄タンクを造成すればいいと言う。

「バカ、それじゃあ途方も無く手間喰っちゃうじゃねえか。」

「あ、そっか。」

「五ヶ所や六ヶ所の話じゃねえんだからな。」

「それは判ったけど、こっちは何を要求しようって言うのよ。」

当然、見返りを求めての駆け引きになる。

「うん、田中の言い分だと広大な農地だ。」

「あら、今だって充分広いじゃない。」

地球時代と比べれば相当な広さなのだ。

「しかし、日本が開放経済政策を採ろうとする以上、平場(ひらば)の国際競争力と言う話になりゃあ、まるっきり勝てねえだろうが。」

殊に途上国との間には、穀物の出荷価格の点で雲泥の差がついてしまっているのである。

尤も、国内需要を上回るほどの生産量を確保している国など、日秋を除けば未だ数えるほどでしか無いのだが、悲惨なことに、多くの途上国が自国民が飢えるのを承知で、外貨獲得の必要から輸出を続けてしまっているのが実情だ。

「農家への補助金無しには、とても無理でしょうね。」

無論、日本の農産物の国際競争力の話である。

「今は未だ低コストの秋津州人が日本の農業の多くを支えていて、しかも秋津州が大量に買ってくれてるからいいが、そうでなけりゃあ成り立たねえ話だ。」

コメは勿論、小麦、大豆、とうもろこしまで輸出していると言う現実がある。

「たくさん作っても海外に買ってくれる相手がいなきゃあ、日本国内で食べてもらうしかないのよね。」

「そう、近い将来日本人が農地を引き継いだあと、高いのを承知で自国民がばんばん買ってくれない限り、生産者は赤字どころか出荷すら危ぶまれる。」

「秋津州が買ってくれなかったら、きっと、いっぱい余っちゃうんでしょうね。」

「実際問題、たくさん作れば作るほど余計値崩れして、しまいには畑のコヤシにするしかなくなっちゃう。」

「これだけ(諸外国と)経済格差がついちゃった以上、少々の輸入関税ぐらいじゃ、途方も無く安い農産物がどんどん入って来ちゃうものねえ。」

「だから、保護関税も農家への補助金も必要ねえくらいに生産コストを下げたい。そうなれば、海外の安価な農産物と素手で渡り合えるようになるからだが、そのためにべらぼうに広大な農地の確保が喫緊の課題だって騒いだんだよ。」

田中がである。

「ふうん、じゃ、オイルと引き換えにアメリカの農地をよこせって言うつもりなの。」

「違うな。秋桜海(こすもすかい)を全部日本の農地にするから、そのことに目をつぶれって言いたいらしい。」

秋桜海(こすもすかい)とは、秋桜島と日本(敷島)の間に広がっている海のことであり、その面積は概ね二百万平方キロにも及ぶのだ。

「何よ、それ、海が農地になるわけないじゃない。」

「うん、そこが味噌だ。」

亭主のほうは盛んににやついているのである。

「味噌だけあって、だいぶしょっぱい話なのね。」

妻君はそっぽを向きながら吐き捨てるように言った。

「んにゃ、相当辛(から)い話だ。」

「勿体ぶってないで、さっさと白状しちゃいなさいよ。」

「あはは。」

「ほらあ、一人で喜んでんじゃないわよ。」

「じゃあ、そろそろ講釈に掛かるとするか。」

「まったくう。」

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  1. 2009/03/11(水) 11:57:15|
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自立国家の建設 169

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夫婦の会話に反応してか、眼前のモニタが音声と共に俄然新たなストーリーを紡ぎ始めている。

「ほら、ちょっと見てみろよ。」

「なにこれ、ただの室内プールじゃない。」

それは満々と水を湛えた大型のプールだったのだが、プール全体が十メートル以上の水深を持つもののようであり、しかも、異様なことに天井ばかりか水中の横壁にまで多数のライトが灯っていて、水の底まで見通すことが出来ているのだ。

「もう暫く見てみろよ。」

程なく直径十メートルほどの透明な円筒が空中を運ばれて来て、プールの真ん中辺に縦に沈められて直立させられ、円筒の上部は煙突のように水面から四メートルほども突き出しているものの、当然ながら円筒の中の水面はプールの水面と同等の高さを保っている。

「何が始まるって言うのよ。」

「黙ってもう少し見ていろよ。」

やがて数人の兵士がプールに入り、その円筒を前後左右に揺すぶろうと試みるのだがびくともしない。

「あら、じゃ、プールの底に接着しちゃったってわけ。」

「そうだ。円筒の底にベイダインを塗布してあったんだが、要はこれで円筒の中と外を物理的に隔離したことになる。」

「あら、そう。」

「ベイダインの接着力は強力だから、たったこれだけの作業で接着面に一切の隙間を作らないそうだ。」

「へええ。」

「詰まり、円筒の上の開口部を除けば、円筒の中と外は完璧に遮断されたことになるんだ。」

「だからあ、何が始まるって言うのよ。」

妻は大分いらついてるようだ。

「まあ、待てや。今言ったような前提を飲み込んでからじゃねえと、これからの話の筋が通らなくなっちゃうんだ。」

夫婦がごちゃごちゃ言ってる間に、画面では空中を移動して来た兵士が円筒の中に何かを放り込むのが見えたが、よく見ると提灯アンコウのような格好をした中型魚で、一メートル近い体長を持つもののようである。

しかも、そいつが泳ぎながら円筒の底に尻をなすりつけたと思ったら、ほどなくして妙なものが水底にへばりつくのが見えたが、そいつは、直径五センチ、長さ十センチほどの灰色がかった円筒形の姿で直立している上、頭頂部で複数の触手のようなものを動かしてるように見えており、要するにイソギンチャクのような外観だと言った方が早いだろう。

「わあっ、なによこれ。」

「天狗珊瑚って言うらしいぜ。」

「テングサンゴ・・・。」

「なんでも、大昔に但馬の海で発見された代物(しろもの)なんだとさ。」

「へえ・・・、なんか薄っ気味悪いカッコしてるわねえ。」

画面では、これも不細工な面構えの提灯アンコウが天狗珊瑚の触手のあたりに口を近づけて、何やら小さな物を盛んに吐き出してる模様だ。

「今ヤッコさんが吐き出してるのは、特殊なプランクトンなんだとさ。」

「あらあ、たくさん出してるみたい。」

「ほら、片っ端から食ってるだろう。」

水中カメラがアップで捉えてくれてる画面では、天狗珊瑚が触手を伸ばして盛んに捕食してる様子なのである。

「うん、食べてる、食べてる。」

「もう少し経つと面白いことが始まる筈だよ。」

「え・・・・、なになに。」

「もう少しだ。」

「あら、珊瑚の横っ腹が気持ち膨らんで来たみたいだわ。」

天狗珊瑚の横っ腹に腫瘍のようなものが膨らみ始めたのだ。

「どんどん膨らむぞ。」

「そうなの。」

「もうそろそろだ。」

「あらら、こぶが大きくなったと思ったら、今度は分離しちゃったわよ。」

分離した方は元の本体と相似形の体型を保ち、しかもその半分以下の大きさであったものがたちまち水底に張り付いたと思うと、アンコウから盛んに餌を貰いながらみるみる成長して行き、一分もしない内に本体と同等の大きさになり、これもまた分離作業を始めたものである。

話には聞いていたが、とにかく、驚くべき成長振りだ。

一方で元の本体の方も次々と分離作業を繰り返している上、提灯アンコウ自身、その後も数匹の珊瑚を生み続けたこともあり、既に円筒の底が珊瑚で一杯に成り掛けていると言って良い。

「ほら、どんどん増えてるだろう。」

「ほんと、底がいっぱいになったと思ったら、その上に積み重なりだしたみたいよ。」

そのとき、数人の兵士が新たに提灯アンコウを抱えて来て再び円筒の中に放り込むのが見えたが、五六匹はいたろうか、そいつらもすぐさま同様の作業を始めるに及び、やがて円筒の中は珊瑚で溢れんばかりの勢いになった。

水底から押し合いへしあい、隙間も無くびっしりと積み上がっているのである。

「しかし、改めて見るとすごい勢いで増えるもんだ。」

「へええ、こんなに増えるとは知らなかったんだ。」

「前に見たときゃアンコウが一匹だけだったからな。それより、そろそろ円筒の中の水が溢れるぞ。」

円筒の中の水位はどんどん上昇して、外の水面より既に四メートル近く高い位置にある。

「あらま、ほんと、こぼれ始めたわ。」

円筒の上部から勢い良く流れ出して行く。

「さて、珊瑚のやろうは何処まで増えるかな。」

「まさか、水面より上には増えないでしょ。」

「ご名答。」

「あら、珊瑚がアンコウと一緒に外にこぼれたわよ。」

「良く見てろよ。」

「あららあ、アンコウが珊瑚をつついてるみたい。」

無論、円筒の外へこぼれ出た珊瑚をだが、アンコウが素晴らしい速さで泳ぎ寄って、すかさず攻撃を始めた模様だ。

「ほら、外の珊瑚はあっと言う間に全滅させられちまったろう。」

水中カメラがアップで捉えてる映像の中では、外の珊瑚が全部が全部力無げに水底に身を横たえてしまっており、少なくとも、例の分離作業を始めるヤツなど一匹も見当たらない。

「なんか、かわいそうみたい。」

「とにかく、外に出たヤツは徹底的に駆除されるようになってるらしい。」

「へええ・・・。」

「万一討ち洩らしたとしても、そのままじゃあ繁殖どころか、餌が満足じゃ無かったり、四・五日連続して真っ暗い中にいただけでも死滅してしまうんだとよ。」

「じゃ、光が無いと死んじゃうの。」

「そう言うこった。」

「あら、じゃ昼間でも深いところじゃ生きられないじゃない。」

深海に日の光は届かない。

「うん、だからあのアンコウの放つ光が意味を持ってくるんだ。とにかくかなりの光量らしいからな。」

「へええ、そうなんだ。」

この会話に反応してか、モニタのアンコウが提灯を下に向けて眩い光を放って見せてくれてるが、これが暗闇の中だったら驚くほどの光量を実感出来た筈だ。

「尤も、光が無くて困るのは珊瑚じゃなくて、中に寄生してる褐虫藻(かっちゅうそう)とか言うヤツらしいけどな。」

現実の珊瑚の中にも、その細胞内に大量の褐虫藻を寄生させて共生しているものが少なくないのである。

「なに、それ。」

「そいつ等は、珊瑚の体内で盛んに増殖しながら光合成(こうごうせい)をするんだとよ。」

「あ、植物なのね。」

「そうだ、だから二酸化炭素を吸収して炭水化物を合成するんだが、その炭水化物を珊瑚のヤツが必要としてるらしい。」

「そうか、その褐虫藻が光合成してくれないと珊瑚が困るわけね。」

「どうもそうらしい。田中がそう言っとった。」

「でも、提灯アンコウって、確か深海でしか生きられないんじゃなかったっけ。」

「お、良く知ってるな。」

「前にテレビで、提灯アンコウの謎の生態とか言うのを見たのよ。」

「なんだ、それでか。」

「だから、この方式って深海以外は使えないわよね。」

「普通の提灯アンコウならな。」

「え・・・・・。」

「おい・・・、まさか、本物の魚だと思ってたんじゃあるめえな。第一、今目の前で泳ぎ回ってるのは深海なんかじゃ無えよなあ。あははは。」

「あ、あたしってバカねえ。」

「こいつらは深海は勿論、浅瀬だろうがなんだろうが平気らしいし、いざとなったら空だって飛べるって話だ。」

「そう言えば、さっき空中から餌を撒いてたわ。」

天狗珊瑚の上辺が水面に到達してしまったときのことである。

「うん、器用なもんだ。」

「アンコウさんは、そのあとどうすんの。」

「仕事が終われば、さっさと撤収して行くさ。」

「どこへ。」

「早く言やあ工場だろうな。今頃は、その工場でとんでもねえ数のアンコウが出来上がってる筈だ。」

「そうなの。」

「しかも、海ん中でアンコウに補給する役割のポッドなんかも、いっぱい出来てるんだってさ。」

「陛下もたいへんねえ。」

「それより、そろそろ円筒の中を見てみろよ。」

「あ、なんか全体が白っぽくなってるわね。」

「特に下のほうなんか真っ白だろ。」

「一番上は、水面からちょこっと顔を出したあたりで増殖するのやめちゃったみたい。」

「それ以上、上へは行けねえし、水と餌が無くなりゃあ、それだけでご臨終さ。」

「ところで、このあと、どうなるわけ。」

「あらら、未だわからねえのか。この珊瑚は餌を選り好みはするが、めちゃくちゃ成長が早いから、使いようによっちゃ強力な造礁能力を発揮してくれるんだぞ。」

アンコウのくれる餌を必要とはするものの、とんでもないスピードで珊瑚礁を造成してしまうと言う意味だ。

「あ、石灰岩・・・・。」

基本的に珊瑚礁は全部石灰岩のかたまりだ。

「そうだ、珊瑚の死んだあとは一面の石灰岩さ。それも全部くっついてる状態だ。」

「そうすると円筒の中は・・・。」

「ずばり、石灰岩のかたまりさ。」

しかもそのかたまりの天辺(てっぺん)は、プールの水面から見れば四メートルも高いところにあるのだから、言ってみればプールの中に石灰岩の小島が忽然と出現したことになるのである。

「でも、プールの底から剥がれちゃったりしないの。」

「単に転がってるんじゃなくて、底に引っ付いちゃってる状態だから、ちょっとやそっとじゃ剥がれねえって話だ。無理に剥がすとプールの底のタイルが大量に剥がれちゃうかも知れねえ。」

「へえ、珊瑚ってそんなに強烈にひっつくんだ。」

「詳しいことまでは知らねえが、石灰が固まる前の溶融状態でひっつくらしい。」

「じゃ、これがもっと大きかったら戦車で体当たりしても剥がれないわけか。」

「もしこれが秋桜海いっぱいに広がってたりしたら、例え核ミサイルを撃ち込んでみたところで、大穴ぐれえは開(あ)くだろうが、深い底の方なんかびくともするもんじゃあねえ。」

「と言うと、田中君はこれで秋桜海をいっぱいにしちゃおうって言うのね。」

「早く言えばそうだ。とにかく手っ取り早く陸地を造成させたいわけだ。」

「陸地かあ・・・。」

「そうだ。傍目(はため)にゃあ、自然に珊瑚礁が出来ちゃったことになるんだ。」

「あ、ズル。」

「これくれえのズルは勘弁してくれや。」

「あれっ・・・・。」

「なんだ。」

「だって、百歩譲って仮にそれがうまく行ったからって、珊瑚は海面の上までは出ないんじゃないかしら。満潮のときでもしっかり頭を出してないと陸地としては認められないわよね。」

「うん、そこでさっきの円筒のお出ましさ。」

プールの中に直立させた透明の円筒のことを指している。

「え・・・。」

「だから、秋桜海全体を覆うほど、どでかい円筒を用意するんだとよ。」

「おほほほ。」

既に触れたが、秋桜海は、ざっと二百万平方キロもあるのである。

「そうだろう。誰でも笑うだろう。」

「あなただって笑っちゃうでしょ。」

「うん、俺も大笑いしたよ。」

「そうよねえ。」

「ところが、あの方は笑わなかったぜ。」

あの方とは、無論陛下のことに他ならない。

「うそっ。」

「田中のほら話を真剣に聞いておられるんだ。」

「へええ・・・。」

「田中はな、敷島の北端と秋桜の北端を防波堤で繋ぎ、反対側の南端の方も同様に繋いじゃえば可能だって抜かすんだよ。」

「繋ぐったって・・・。」

「例の鯛焼き型の島やなんかでびっしりと繋ぎ合わせれば、充分可能だってこきやがった。」

「げっ・・・。」

「勿論、水底もベイダインで隙間も無く接着しとくんだとさ。」

「でも、大量の・・・。」

資材が要るのである。

「さっきの話だと、全部揃えて下さったらしい。」

「あ、思いのほか手間取ったけど、全て用意したって仰ってたわよね。」

「今頃、判ったか。」

「だって、さっきは何の話か知らないで聞いてたんだから、しようが無いでしょ。」

「はい、はい。」

「そうか、秋桜海(こすもすかい)の北と南を全部塞いじゃえば出来ちゃうのか。」

「うん、西は敷島(しきしま)で東は秋桜島(こすもすじま)だから、出来ちゃうことになるわな。」

「それでもって、その中の海底で大量の珊瑚が急成長すれば、海面だって急上昇しちゃうってわけね。」

「南北の防波堤から溢れるところまで上昇しちゃうだろうな。」

「そうすると、その上昇した海面ぎりぎりまで珊瑚が成長出来る余地があるってことか。」

「そう言うことだ。」

「陛下だったら出来ちゃうかもね。」

「表面の水が渇いた後に、海抜何メートルかの陸地が造成されたことになるだろうよ。しかもそんときゃあ、西と東の半分づつに分かれてびっしりと軍が貼り付いてる。」

「え・・・・。」

「だからあ、西側半分には日本の国家警務隊の特殊部隊がびっしりだし、東側半分には秋津州軍が国旗を翻してることになるんだ。臨時の兵舎みたいなのもいっぱいおったてて、それこそ一面の軍隊になるだろうよ。」

「そうすっと、空には、SS六がいっぱいね。」

「話じゃ、地上だけで数兆のヒューマノイド兵士が駐留することになるそうだ。」

「防波堤の上はどうなっちゃうの。」

「そこなんか、最初っからびっしりと警護してるさ。」

「じゃ、誰も近づけないんだ。」

「そ、危険であることを理由にだ。」

「確かに、何が起きるか判らない状況だわね。」

「とにかく、大自然の脅威が眼前に広がってるんだ。」

「それで、軍隊・・・。」

「結局のところ、軍事的に完全占拠が成ってることを既成事実で示すんだ。その上で各国の反応を静かに待つ。」

「へええ・・・。」

「そのうち、各国から現地調査の要望が出て来るだろうから、その調査団を万全の態勢で受け入れてやるのさ。」

「あははは・・・。」

「なんだ、どうした。」

「だって、そんときは例のアンコウさんはいないんでしょ。」

「作業を終えてお引き取りになってるだろうよ。」

「だから、今更いくら調べたって、本物の珊瑚礁よねえ。」

「そうだよ。」

「海抜何メートルだかの石灰岩の陸地だわよねえ。」

「うん、どっから見ても堂々たる陸地だ。」

「ちょっと待ってよ。」

「んっ。」

「仮にそこまではうまく行ったとして、見渡す限りの石灰岩だわよねえ。」

「そうだよ。」

「殆ど、まったいらの世界なんでしょ。」

「うん、川だけはあるけど、山どころか丘すらねえ、でこぼこであばた面の石灰岩の大平原だ。」

「そんなところで農耕なんて出来るのかしら。」

「お、流石に我がお女房さまだ。」

「バカにしないでよ。」

「あはは。」

「覚えてらっしゃい。もう酒の肴なんか作ってやんないから。」

「こりゃ、降参だ。謝った。」

「わかりゃ、いいのよ。」

「じゃ、種明かしだ。田中が言うには、要は自然の陸地として一旦領土と認めさせちゃいさえすれば、あとはどうとでもなるって言うんだ。」

「あ・・・。」

「判ったか。」

「正式に領土になっちゃえば・・・。」

「そう、領土になってからなら、そこでどう言う土木工事を起こそうがその国の勝手だ。」

「そうよね。こっちには強い味方がついてるんだし、土壌を大量に運び込んだっていいんだし。」

「起伏に富んだ大地に取り替えれば、保水能力も持てて尚更結構だ。」

「そっか、表層部分だけじゃなくって、地下深くから総どっかえしちゃうって手もあるわよね。」

「幸い、秋桜海の海底は地殻の厚みが充分にあるからな。」

「じゃ、相当深いところまで掘ってもだいじょぶなのね。」

「海面から行けば、五万メートル掘っても平気らしいぜ。」

「さっきの人工島の例で行けば、頭頂部から底辺までの高さが三万メートルあってもいけるってわけね。」

「うん、海面から二万メートル掘った場合、地上に標高一万メートルの高峰が聳え立つことになっちゃうけどな。」

「そのときは、もっと深く掘ればいいのね。」

「自由自在さ。」

「その口振りじゃ、運んで来る陸地の用意も出来てるんでしょ。」

「見たわけじゃねえが、恐らく立派なヤツがな。」

「山や川や平地だってあるんでしょ。」

「なんだってあるさ。」

「地下資源もそっくり埋まってることになるのかしら。」

「当然だろ。」

「あらあら・・・。」

「最大の地下資源は膨大な地下水脈かも知れねえな。なんせ一万年も掛けて大地が溜め込んで来た貴重な水だからな。」

「生活用水に農業用水、そいでもって工業用水かあ・・・・。」

「運んで来た分に見合うだけ、同時進行でほかの海から運び出すんだってさ。」

「帳尻を合わすわけね。」

帳尻を合わせるのは、無論水だけではない。

「うん。」

「あれっ。」

「なんだ、未だ文句があんのか。」

「文句じゃ無くて、疑問って言ってもらいたいわね。」

「承知致しました。では奥様、疑問ってヤツをどうぞ。」

「それでは申し上げます、旦那様。」

「はいはい。」

「秋桜海が一面の石灰岩で埋め尽くされちゃったとき、日本の東海岸から秋桜海へ流れ込んでる川はどうなるのでしょう。河口あたりで全部糞詰まり状態になっちゃうんじゃないでしょうか。」

その手の川は大小取り混ぜて数百本もあるのである。

「お答え致します、奥さま。石灰岩のかたまりの天辺(てっぺん)が海面近くに来た頃に、水中で例のアンコウさんたちが大活躍をしてくれることでしょう。」

「はあ・・・・・・。」

「ですから、本島側の河口に繋がる川が石灰岩の方に出来上がってることになりますです。だから、さっき川だけはあるって言ったろ。」

「あ、川の形になるように、その部分の珊瑚を水中で殺しちゃうってこと。」

「左様でございます、奥さま。」

「じゃ、本島の川は石灰岩の上の川を通って、そのまま支障なく海まで流れ続けることが出来るわけね。」

「一瞬たりとも、流れが止まることはございません。当然秋桜側も同じだ。」

「そっかあ。」

「防波堤の方にもでかい水門の用意がございます。」

「あ、最終的な河口になるわけか。」

「必要の無い内は当然閉じておるわけでございます。」

「なんだ、何から何まで準備しちゃってんじゃないの。」

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  1. 2009/03/18(水) 08:47:52|
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