日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 170

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「田中の言うことにゃ、秋桜海の深いところじゃテストまで済ませたって話だ。」

無論珊瑚の繁殖能力に関する実地テストのことなのだが、深海でのそれに関してもとうに確認済みであるらしい。

「じゃ、深いところなんか、もう相当浅くなっちゃってるわけか。」

「いや、未だそこまでは行ってねえ。正式にゴーサインが出てから、ひっそりと始めるんだとさ。」

全てが日本国のために企図されていることである以上、この場合のゴーサインには国井総理の裏判が不可欠なのである。

「へええ。」

「始まったら早いぜえ。」

膨大なアンコウが一気に投入され、例の天狗珊瑚が無限に増殖してくれる筈であり、その天辺(てっぺん)が海面に到達するまでに一月(ひとつき)と掛からない筈なのだ。

「そうなの。」

「そいでもって、水深五十メートルほどのところで一旦ストップだ。」

アンコウに給餌作業を休止させることになる。

「え、なんで。」

「日秋両国が非常事態宣言を発して秋桜海全域から避難命令を出すのさ。」

そのときは、秋桜海の深度は全域にわたって五十メートルを超えることはないのである。

「秋桜海全部が危険海域になっちゃうのね。」

「だから、その領域内は港湾だろうが公海だろうが全力を挙げて船の排除を行うことになる。」

全ての船の脱出には普通なら三十六時間は見ておく必要があると聞くが、その手助けのために秋津州の特殊部隊が大活躍をしてくれる筈だ。

「そっかあ。そのあとで防波堤を築くことになるのよね。」

外洋からの進入を物理的に阻むためでもあるのだが、その構築に要する時間にしても概ね二時間程度と聞いており、いずれにしても恐るべきスピードだと言うほかはない。

「ご名答。」

「それで海ん中の仕事が再開されるわけか。」

日本政府としては、原加盟国としてIMO(国際海事機関)にも通告をすべきだろうが、通告を受けたからと言って彼等(IMO)が何ごとかを成せると言うわけではない。

何せ・・・

「そのあとは、もう半日も掛からんだろう。」

なのである。

IMOの連中など、僅かな情報を元にして対策会議を開いてるうちにことが終わってしまっているに違いない。

「あっと言う間に石灰岩の陸地が出来上がっちゃうのかあ。」

「予定通りに行きゃあな。」

「あっ、そうだ。」

「んっ。」

「予定通りに行った場合だけど、一時的ではあっても秋桜海の水位は上がっちゃうわけよね。」

「うん、今んところ三メートルほどの上昇を見込んでるようだが、それも最後の五分か十分で済むって話だ。」

「沿岸の蒙る水害の方はどうなの。」

「いい質問でげすな、奥さま。」

「沿岸や川沿いに冠水しちゃうところが出ちゃうんじゃないの。」

「結論から申しますと、その心配はございません。何せ、該当する領域に海抜六メートル未満の低地は、一般の海浜と港湾の海沿いぐらいにしか存在しませんから。」

「あらま、地球時代のゼロメートル地帯なんて無いんだ。」

「まあ、はっきり言えば同じ港湾でも、低めの岸壁とか桟橋なんかが僅かに水をかぶる程度で、一般の私有地で冠水するケースは無いと言う前提だ。」

「へええ、そうなんだ。」

「第一、港湾も何も、海が全部陸地になっちゃうんだからな。」

「港湾の岸壁の上も桟橋の上も全部珊瑚がびっしりなのね。」

「低いところはな。」

「じゃ、一部なんだ。」

「海水浴場の砂浜だって全部そうなる。」

「あっちゃあ。」

「ゼロメートル地帯の件にしたってだなあ、地球時代の東京なんて相当部分が江戸時代以降に無理矢理埋め立てた場所ばっかりだから、必然的に広い範囲が低地になっちゃってたが、今の敷島の場合そう言う場所ははじめっから無いんだ。」

「そうだったんだあ。」

「それに、各河川の中流にゃ、でっかい用水池がいっぱい出来てるから、最終段階になったらそこから猛烈な勢いで吸い上げた水を、例のSDがばんばん運び出してくれらあ。」

但し、河川の逆流現象が起きてしまうことまでは避けられまい。

「じゃ、川の増水は相当緩和されるのね。」

「上流で大雨が降って、増水しそうな場合なんかも柔軟に対応出来るしな。」

「潮の干満なんかどうすんのよ。」

「そんなの最初っから織り込み済みに決まってるだろうが。」

「へええ・・・。それは判ったけど、漁港と漁場を失う漁業関係の人たちはどうするつもりよ。」

日本の東海岸の港湾は全て消滅し、少なくとも、その沿岸漁業に関しては壊滅してしまうのである。

「うん、そのあたりが一番の問題だ。」

「ちゃんと手当て出来るんでしょうね。」

「あのなあ、俺が日本の漁協と特別のパイプを持ってることを忘れちゃいませんかてんだ。」

「あ、今まで、秋津州沿岸の漁獲割り当てで・・・・。」

その漁獲割り当てに際して、日本の漁協に格別の配慮を加え続けて来たのは誰あろうこの俺なのだ。

「そうだ、それだよ。漁協との付き合いには相当深いものがあると考えてくれよ。だから充分話し合いが出来る素地があるし、新たな漁港や漁場についても彼等が泣くような対応なんか絶対しないよ。長期的には反って喜んでもらえるほどの対応まで考えてるんだから。」

「ほんとに、だいじょぶなの。」

「公式にはあくまで自然災害で、それも文句無しの激甚指定になる筈だから、公的補償も大威張りで出せるようにするし、何と言っても肝心の敷島特会が爆発的に潤うんだ。」

「あ、日本はもの凄い規模の官有地を手にすることになるのよね。しかも最終的には豊富な地下資源まで・・・。」

「膨大な地下資源だって話だ。」

オイルや鉄鉱石は勿論、その他もろもろの地下資源が眠ってる筈だが、やがてその全てが敷島特会の貴重な財源と化す筈だ。

「しかも、広大な官有地が・・・。」

手に入るのである。

「うん、当初は西側の半分だけだが、ゆくゆくは全部日本領にしちゃうつもりだから、相当広い官有地だ。」

「もの凄い面積になるわね。」

「その官有地のインフラ整備は無償で秋津州が引き受けるし、基本的なインフラの建設なんか、前以て設計図を描いとくことだって出来るんだから、最終的な据え付け作業が済みさえすれば、そのあとはもうあっという間だろうさ。」

「最終的な据え付け作業って・・・。」

「だから、山も川もある緑の大地に総どっかえしちゃう話を言ってるのさ、」

「その場合、山林や河川の管理一つとっても相当なものになっちゃうわよね。」

「だいじょぶ。」

「あ、それも陛下が・・・。」

「あははは・・・。」

「でも防波堤のセットのときって、考えただけでタイヘンそう。」

「誰がよ。」

「被災者のほうよ。」

「確かにな。でも漁船にしても商船にしても完璧に避難させて見せるさ。日本側から特別の資格を付与された水先案内人だけでも二万人以上用意するんだから、只の一隻も座礁事故なんか起こさせやしねえし、万一取り残されちゃった船が出ても全部空中を運んでやれるしさ。」

「船の繋留地の手当てはどうするつもり。」

当該領域から排除される船舶は、小型のものも含めれば万を越えることになるだろう。

「海軍や海保の艦船用には南北の防波堤の外側に臨時の港湾基地を複数用意しとくし、無論民間船の分も充分だ。巨大タンカーまで繋留可能なものを用意するつもりだし、航行の続行を望む船は当然そのまま外洋を航行させる。」

「へええ・・・。」

「第一、防波堤のセットは非常事態宣言が出てからになるんだから、その時点では秋桜海は全部航行不能の危険水域になっちゃったって知れ渡ってるんだし、ぎりぎりになってから慌てふためくようなケースなんて先ず起こらねえ筈だ。」

「あ、防波堤が出来ちゃってからじゃ、外洋に出ることすら出来なくなっちゃうんだから、漁船の船主や乗組員で避難命令に興味の無い人なんて一人もいない筈だわね。」

「その後、公式に激甚指定がなされた直後に、各漁協と打ち合わせに入るつもりさ。」

「そこまで考えてるのね。」

「何せ、陛下が折角用意してくれたんだからな。」

膨大な資材をである。

「そっか・・・。」

「ま、漁民は勿論、それ以外でも住居を引き払って移住を希望するケースも出るだろうが、不動産がこの騒ぎで値下がりしちゃってても、以前の高値レンジで買い取ることになるな。」

「すごい補償額になっちゃうわね。」

「漁船だってローンの都合やなんかで一旦手放して清算したい人も出るだろうけど、新品扱いで買い取る方針だし、漁業補償なんか最低でも五年分はみとくつもりだから、ざっと十兆(日本円)ぐらいの予算でいるんだとさ。」

田中の試算である。

「へええ・・・・。」

「尤も、その予算だって九割以上は公金じゃあねえ。」

「え・・・。」

「秋津州財団から非課税で拠出されるんだとよ。」

これも、田中の腹案から出たことなのである。

「なんで。」

「本来の評価基準から見たら十倍以上の補償をしてやるからさ。」

「じゃ、焼け太りになっちゃう人がいっぱい出ちゃうじゃない。」

「だから、全部公金で補償してたら、ブーイングが出ちゃうだろがあ。」

「あ、それで秋津州財団が出て来るのか。」

「日本人に取っちゃ、その分は公金じゃねえからな。」

尤も、秋津州側から見れば公金でないこともない。

「それで結局十倍補償・・・。」

「そう言うこった。」

「あらあら、そんなにもらえれば反って大喜びしちゃうケースも出るわよね。」

「それに、昔っからそこに住んでた人間なんて一人もいねえんだ。」

全て地球から移住して間が無い人間ばかりなのである。

「そっか、未だ地域にあんまり愛着が湧いてない時期だわよねえ。」

「だから、やるなら早い方がいいんだ。」

「あっ、そ。」

「田中がそう言ってるんだからしょうがあるめえ。」

「ふうん・・・。」

「しかも、その名もずばりのオレンジプランだってんだから、岡部なんざそのネーミングを聞いただけで躍り上がって大喜びだわ。」

「人のことより、あんたはどうなのよ。」

「俺だって悪い気はしねえよ。考えてみただけでも、わくわくして来るくれえだ。」

「何考えてるのよ、正直に仰いよ。」

「いや、話した通りだよ。食糧安保の観点から国際競争力のある農業を目指してるだけさ。」

仮に、全世界から孤立してしまっても困らないだけの食料生産能力を確保しておきたいのである。

「うそよ。二人のルーズベルトに散々手玉に取られた分、そっくりお返ししてやろうってハラなんでしょ。」

きっと、従兄弟同士の大統領、セオドア・ルーズベルト(第二十六代)とフランクリン・ルーズベルト(第三十二代)のことを言ってるつもりなのだろう。

「いや、敵さんが日本にやってくれたようなひでえことなんか絶対やらないよ。ちっとばかりワシントンに礼儀作法ってもんを教えてやりたいだけなんだから。」

「それが本音なのね。」

「悪いか。」

「まったく、子供みたい。」

「なんとでも言ってくれ。」

「みどりママが聞いたら確実に潰れるわね、オレンジプラン。」

「なんだと。」

「戦争になっちゃうかも知れないって言えば一発よ。」

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  1. 2009/04/01(水) 09:37:01|
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自立国家の建設 171

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「おい、勘違いすんなよ、誰も戦争んなるまで締め上げるなんて言ってねえだろう。第一、相手側にとっちゃプラスになることばかりなんだぞ。実際取り上げるんじゃなくて与えるんだから、そこんとこが戦前のワシントンのやり方とは根本的に違うんだ。」

「じゃ、与えるだけで奪うことはしないのね。」

「そうだ。次の一手にゃ例の債権の放棄まで考えてるんだ。これ以上のプレゼントなんて滅多にあるもんじゃあねえ。」

「例の債権って何よ。」

「二千九年の五月に、やっこさんたちが雁首(がんくび)揃えて秋津州へ交付した公債だよ。」

NATO先進諸国群が揃ってワシントンに右へ倣えをしたのだが、その諸国群の中には、不本意な政策判断を強いられたとしてワシントンにつばを吐く高官まで出ていると言う。

「あ、新領土のインフラ建設の対価ね。」

「全部秋津州円建てのやつだ。」

元々、五年物、十年物、十五年物と言うふうに分割されて発行に至ったものだったが、その後発生した激烈な為替変動により、今では債務国側の負担ばかりが際限も無いほどに膨らんでしまっており、彼等の景気の足を引っ張る元凶の一つになってしまっているのである。

「それを全部棒引きにしてやろうって言うの。」

「全部だなんてとんでもねえ。そんなことしたら付け上がる一方だろ。」

「じゃ・・・。」

「取りあえず、目先の五年物に限定して考えてるところだ。」

「ええと、五年物って言うと、確か来年の春に償還期限が来ちゃう分よね。」

その償還に充てるために、米英仏独加豪等は例外なく莫大な借金をする羽目になるのだから、その時期が近づくにつれ、マーケットがどういう反応を示すかは言うまでも無いことなのである。

「それを、元利ともに棒引きにしてやろうって話よ。」

「あ、それって、物凄い景気浮揚策になるわよね。」

全ての当事国が財政面で劇的に救われる話であるだけに、そのニュースが流れただけで、景気上昇の機運を大いに呼び込むことに繋がるだろう。

「しかし、破産しそうんなって借金の棒引きを願うんだから、普通の感覚で行けば子々孫々まで屈辱感が残るだろうよ。」

カネと引き換えに「誇り」を失うのである。

「誇り高いアメリカ人が恵んでもらうことに反発しないかしら。」

「全て神のお恵みだって思うかもなあ。」

「日本人だったら、もの凄く傷付いちゃうわよねえ。」

「あ、その話で思い出した。」

「え・・・。」

「日露戦の戦時公債の話だ。」

「あら、また突拍子も無いことを思い出したものねえ。」

何せ日露戦は、千九百四年から翌年に掛けて戦われた大戦であり、そこから数えれば既に一世紀の余を経てしまっているのである。

「んにゃ、同じ対外公債の話だぜ。」

「あ、そうか。日本は確か当時の国家予算以上の外債を発行したんだったわよね。それでもって、大ロシア帝国の圧力をはねのけて辛くも独立を保ったんだったっけか。」

「そうだ。とにかく物凄い借金だから、その後延々と払い続けたんだが、その後どうなったか知ってるか。」

「ええと、確か昭和中期まで返済を続けて、とうとう完済したんだったわよねえ。」

実に、東京オリンピックのあとまでかかったのである。

「俺たちゃあニッポンジンなんだぜえ。」

「ほんと、借金返しながら大東亜戦を戦ってたのよねえ。」

「当時の日本人たちは、借金背負ってほんとエラかったろうなあ。」

「あっ・・・・。」

妻は目を真ん丸くして見つめてくる。

「なんだ、どうした。」

「私も今の話で思い出しちゃった。」

妻の顔に花が咲いている。

「ん・・・。」

「岡部さんがネーミングを聞いただけで躍り上がって喜んだって言うオレンジプラン。」

「ほほう・・・。」

「それも、あっちのほうのヤツ・・・・。」

「ああ、本家本元の方のオレンジプランか。」

「そう、それって、確か初代のルーズベルトの頃、あの手この手で日本をへこませようって図った作戦の名前だったわよね。」

史実なのである。

「うん、日本が日露戦に予想外の勝ちを収めちゃったからな。」

「だいたい米英から見れば、アジアにおける彼等の権益を守るって意味じゃ、言わば米英の代理戦争って側面もあったのよね。」

無論、日露戦の裏面を評してるつもりなのだろうが、当たらずといえども遠からずと言うところだろう。

「うん、ロシアの採って来る無茶苦茶な南進策は、米英のアジア権益にとっても最大級の脅威だったからな。」

現に当時のロシアは、無法に占領した満州から兵をひくどころか、余勢を駆って朝鮮半島にまで触手を伸ばし始めており、しかも露韓密約によって大韓帝国は既にロシアの走狗と化してしまっていたのである。

なんにせよ、ロシアの南下圧力はどんどん増してくる。

誰かが立ち上がって押し返さない限り、日本はもとより極東の全てがロシアのものになってしまう状況なのだが、米英にしても遠方の極東にそれに当たれるほどの軍事力を派出するまでの余裕は無い。

「だから日本を応援したのよね。」

「まあ、そう単純なもんじゃあねえが、少なくとも米英仏独露が互いに牽制しあった結果だったことは確かだろうな。」

「でも、最終的には米英は日本側だったんでしょ。」

一つには、日英同盟と言うものがある。

「敵(かな)わぬまでも、日本が大ロシアに抵抗していてくれれば、その分だけロシアの強盗のような南進策が停滞して、米英の国益に適ったってわけさ。」

「ところが案に相違して、日本がロシア艦隊を見事に全部日本海に叩き込んじゃったわけだ。」

この時、ロシアの極東配備艦隊は既に日本海軍に殲滅されてしまっているのだが、そうなる前にロシアは、はるばるバルティック艦隊を派遣して極東配備艦隊との合流を目指したのである。

「うん、当時の日本陸軍は大陸でロシア陸軍と四つに組んで闘ってる最中だ。ロシア艦隊を少しでも討ち洩らしたりすれば、そいつ等が日本海をうろつきまわって日本の補給船をどんどん沈めちまうから、大陸の日本軍はたちまち日干しにされちまうんだ。だから日本海軍はただ勝っただけじゃ使命が果たせねえ。文字通り全滅させなくちゃならねえんだからそれこそ必死だぜ。その結果、戦史にも希なパーフェクトゲームをやらかしてくれたんだから世界中が腰を抜かしたんだ。」

このときの海戦は世界の注視の下(もと)に行われており、世界は日本海軍の奇跡的な圧勝を例外無く認めるに至ったのだが、それはそうだろう。

何せ、この「日本海海戦」時、ロシアの主力艦(当時の主力艦はあくまで戦艦である)数は日本の倍であったにもかかわらず、文字通り艦隊ごと全滅してしまっていたことに引き比べ、日本側はと言えば、小型漁船に毛の生えた程度の水雷艇がたったの三艘沈んだだけだったのだ。

日本海軍の飛び抜けた操艦能力が机上の戦術を鮮やかに実現せしめ、しかも圧倒的な威力を誇る火薬を開発していたことが功を奏した結果だとは言うものの、とにもかくにもこの千九百五年の五月二十七日と言う日は、言わば日本が必死の思いで独立を保った記念すべき日であり、日本人にとって忘れてはならない日となった筈なのである。

現に、秋津州の歴史教科書には、この「五.二七(ごうてんにいなな)」が特別の項目となって掲げられており、少なくとも秋津州人である以上、年少者であっても「東郷元帥」と「五.二七」を知らぬ者など一人もいないとされているほどであり、国井政権下の日本でも、この「五.二七」がようやく国民の祝日として日の目を見ようとしている今日この頃なのだ。

「日露戦って、本当は辛勝するだけでも難しいくらい、敵の方が優勢だったんでしょ。」

「そうだ。普通に見たらロシアが片手一本で勝って当然と思うほどの戦力差があったんだ。」

陸軍も海軍も、いや国力そのものに雲泥の開きがあったのである。

「本来負けるはずの無いロシアが単に負けちゃっただけじゃなくて、海軍力を見事に全部なくしちゃったわけだから、その領域から日本に対抗出来る海上勢力が突然消滅しちゃって、普通に行けば極東の海は勿論、東シナ海からインド洋にかけては、全部日本の庭みたいになっちゃうわよね。」

「うん、立地(りっち)から言えばそうなるわな。現に米英の目にはそう映った。元々本音で言やあ、日露がくんずほぐれつの死闘を繰り返して、双方ともへとへとになってくれるのが理想だったんだ。」

少なくとも、米英の狙いはその一点にあったことだけは間違いない。

実際、当時の日本は勝利したとは言え、その国力を既に使い果たしてしまっていたのである。

「ロシアを牽制する為のツールとして見ていた筈の日本が圧勝しちゃって、今度は日本が危険な仮想敵国に姿を変えちゃったわけね。」

「ルーズベルトの視界の中ではな。」

何せ日本の艦隊だけが殆ど無傷で生き残ってしまったのである。

「そこでオレンジプラン・・・・。」

無論、ワシントンの描くプランだ。

「うん、そのものずばりの対日戦争遂行計画だ。」

「そっかあ・・・・。」

「本(もと)を糺(ただ)せば、日本が日清戦に圧勝しちゃった頃に始まった対日戦争計画だったんだけどな。」

「それが、日露戦にまで勝っちゃった。」

「うん、ルーズベルトはそれで大幅に書き直す必要に迫られたっちゅうところだろう。」

当時の米国は既にメキシコの北側半分(テキサス・アリゾナ・カリフォルニア・コロラド・ニューメキシコ・ネバダ・ユタ・ワイオミング)を盗り、ハワイ王国を奪い、キューバを抑え、プエルトルコと共にフィリピン、グアムまで手にして、アジアへの足掛かりを着々と築きつつあったのだが、日露戦の結果強大な日本海軍がその針路に大きく立ちはだかる形になったのだ。

「あっちはあっちできっと必死だったんでしょうね。」

「そりゃあ、どこだって同じだ。」

既に退潮著しいスペイン・ポルトガルならいざ知らず、米英露仏独蘭などはそのいずれもが血相を変えて競い合っていたことになる。

競い合いと言えば聞こえは良いが、実際は白人列強によるアフリカ・アジア・南北アメリカ大陸への武力侵略に他ならなず、やがて、アジアにおける独立国などは、日本を除けばシャム(タイ)一国と言う事態を迎えるまでになるのだが、それらの地を奪ったのは誰あろう全て白人列強なのだ。

「それで、田中君のオレンジプラン。」

「うん、向こうさんのは War Plan Orange だが、こっちのはただのオレンジプランだ。」

戦略ではなくて、あくまで「政略」だと言いたい。

「だから岡部さんが躍り上がって喜んだのね。」

何せ、のちの大東亜戦争においては、ワシントンの描いた War Plan Orange の筋書き通りにやられてしまったと言う経緯がある。

「債権放棄を言い出したのはその岡部だぜ。」

「そっか、アブラと借金と二段構えなのか。」

「判ったか。取り上げるどころか与えるばっかりだってことが。」

「でも、せっかく漁業中心で回り始めた地域経済がご破算になっちゃうわ。」

オレンジプランが実行され秋桜海が陸地になってしまえば、少なくとも、日本の東海岸を根拠地とする漁業は一旦店じまいを余儀なくされるのである。

「うん、それなんだよな。」

「心が痛まないの。」

「だからこそ、べらぼうな予算を組んでるんだ。」

「お金の問題なの。」

「まったく・・・、おまえの言う通りだよ。」

「判ってるんなら、いい。」

「とにかく、地域住民が経済的に苦しむようなやり方だけはしないと誓うよ。」

「判ったわ。」

「それと、これは極秘中の極秘なんだが、日本側の準備が整い次第、秋桜島も日本へ割譲することになりそうだ。」

この場合の「準備」とは無論秋桜維新のことを指すが、それが成っておりさえすれば秋桜島の外資系企業にしても動揺は少ない筈であり、少なくとも急激な資本逃避が起きることだけは避けられるに違いない。

「ほんとなの、それ。」

「全て予定通りに進めばの話だ。」

「へええ・・・。」

「その結果日本は、地続きの部分だけで三百万平方キロもの領土を確保出来るようになるんだ。」

「地球時代の十倍近いわね。」

「農地基準で比べれば二百倍を目標にしてるし、個々の農地面積で言えば平均して一千倍を目指すのさ。」

その場合の新領土では、個々の農地の一区画の広さと言う点では世界一のレベルのものを企図しており、その生産性の高さを極限まで追求しようと言うのが田中の主張の本旨なのである。

「それで、どのくらい競争力がつくのかしら。」

「その時の国際経済の動向にもよるだろうが、少なくとも、保護政策を採らなくても、世界と五分に渡り合えるようにはなるだろうよ。」

平成初頭の例で言っても、経済大国である日本の農業従事者は途上国の民の数百倍もの所得を必要としており、もしそれが得られないとなれば、保護政策無くしてそもそも生業(なりわい)として成り立たないのである。

「でも、やってみなくちゃ判らないんでしょ。」

「あとは、農業技術の一層の進歩に期待するさ。」

「ふうん、期待なのね。」

「それに、秋桜島の割譲が本決まりになれば、その東海岸に例の漁協の皆さんが揃って店開き出来るしな。」

「その頃の日本本島は、北方と南方と両方に長大な海岸線を持つ事になるのね。」

「勿論、そこにも新たな沿岸漁業のチャンスがある。」

「それは、判ったわよ。でも・・・。」

「んっ・・・。」

「さっきのオイルの話だけど、そんなにばらまいちゃったらきっと暴落しちゃうわよね。」

「当然さ、だから出荷調整だ。」

「え、・・・。」

「秋津州が出荷を止めるのさ。それと秋桜海の農地が軌道に乗ったら、そっちの方も相当分が出荷調整になるだろうな。」

この場合の「そっちの方」とは無論穀物のことなのだが、但し、国王陛下の損害は甚大だろう。

「へええ・・・、そこまで考えてるんだ。」

「考えなきゃあ単なるアホだろが。」

「そりゃそうね。」

「あとは、国井さん次第さ。」

「あら、総理は反対しそうなの。」

「なんとも言えねえな。」

岡部のいる戦略管制室の司(つかさ)は例のブルドックのことでもあり、その性向から言っても大乗り気だと聞いてはいるが、現時点では、未だそのヒトの賛同を得ただけだと耳にしているのである。

「そうなんだ。」

「何せ、かなりの潔癖性だからな。」

総理は政治的に潔癖過ぎるのだ。

だから、いまだに借金抱えて貧乏暮らしを続けていると耳にするのだが、政界で頭抜けた権力を握る国井が個人的には一切貪ろうとはせず、ひたすら清貧に甘んじている姿がそこにある。

尤も、それがまた国井の個人的人気の源泉ともなっており、殊に秋桜ネットワークの面々の間に、国井への個人献金を呼び掛ける動きが活発化していると報じられているほどだ。

「ふうん・・・。」

「ま、何があってもいいように準備だけはしとくさ。」

「そう言えば陛下も、全部が無駄になっても後悔しないって仰ってたわね。」

「うん。」

陛下も仰ってる通り全て相手のある話であり、さまざまのケースに備えて胸の中の想いは火のように燃えているが、既に記念すべき元日の朝日が鮮やかに昇りきってしまっており、別室では愛児たちが勇ましく目覚めた気配がする。

妻は直ちに母の顔を取り戻して愛児のもとへと向かい、夫婦の会話にもようやくピリオドが打たれようとしていたのである。

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  1. 2009/04/22(水) 14:31:22|
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