日本大好きじいさんの落書き帳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告|
  3. トラックバック(-)|
  4. コメント(-)

自立国家の建設 069

 ◆ 目次ページに戻る

又、東京では岡部大樹が国内の治安対策に勤しみ、殊に不逞外国人の検束を積極的に推し進めその容疑者の退去強制に精を出していた。

摘発を受けて強制送還された者の累計は既に百万に迫る勢いで、彼等の設けていたアジトにしても、その大部分が壊滅したと見られるまでになった。

今まで多くの不逞外国人が、これ等のアジトを足掛かりに不法に稼いでいたことは明らかで、今後国内に足掛かりを持てなくなれば、不法行為を目的に入国して来ても日干しになるほかは無いのである。

この国がれっきとした法治国家であることを、「事実」を以て知らしめない限り、不逞外国人の跋扈を許す循環構造を断つことなど永遠に出来はしない。

従来のような手ぬるい対応を続けていては、不適切に居留する異邦人が益々増加してしまうことは目に見えており、このままでは治安の回復など到底望めないとして当然の処置を採ったに過ぎないのだが、かと言って従来の手ぬるさと比べれば当然そのギャップは大きい。

しかも、メディアの反応は当局に対して冷ややかなものが目立ち、不法行為を為したかどで検挙された外国人を、さも「弱者」ででもあるかのように言いさす論調が際立ち、その「弱者」を冷酷に切り捨てるような行為は非人道的だと言い募るものまで見受けられる。

それらの論説は、脱法者をさも「被害者」ででもあるかのように巧妙に匂わせるところに優れて特徴があり、決して断定まではしていない。

ただ、視聴者の多くが勘違いをしてしまう可能性は否定出来ないのである。

メディアが実施したと称する世論調査においても、当局は少しやりすぎではないかと言う意見が過半を占めると報じられ始め、報道画面などには、幼い異邦人が実に哀れな表情で数多く登場し、心優しい日本人の涙を誘う。

「無力」な「弱者」が、日本の公権力によって冷酷に扱われる構図ばかりが強調され、洪水のように映し出されるのである。

しかし、外国人である以上、その哀れなおさなごの幸福な人生を担保すべきは、本人が帰属する国籍国の政府であるべきなのだ。

その本来の当事国政府が動く気配は一向に無いにも拘らず、全く不思議なことに、そのことに正面から触れようとする報道などついぞ見掛けることは無い。

まるで世界中の可哀そうな人を救うのは、全て日本政府であるべきだと叫んでいるようだ。


同時に日本のメディアが騒がしく報じているのは、竹島近海で発生した騒乱についてである。

その多くが小型航空機を以てその近隣海上を飛び回り、やかましいほどに報道したため、日本国民の関心が、以前とは比べ物にならないほど高まったことは確かだ。

この問題に関する故事来歴に触れるテレビ報道も姿を見せ始め、ようやく『李承晩ライン』についても知る人が増え始める中、日本政府が近隣漁協に出漁の自粛を求めたこともあり、漁船に限っては付近に接近する船影は見当たらず、表面上は依然平穏を保っている。

この自粛措置一つとっても、益々不透明感を増して来ている半島情勢が眼前に有り、そのことに鑑みての政治判断だとも言われたが、依然として韓国情勢に好転する気配は全く無く、国際人権救援機構の報告では、治安の悪化はとどまるところを知らず、その人口も著しく減少しつつあると言う。

韓国各地にあった外国公館も米国のもの以外ほぼ無人となり、外国人観光客など無論一人もいない筈だ。

既に韓国政府を名乗る団体が各地に消長し、互いに激しくあい争っており、最早青瓦台の住人を統一政権とは言い難い状況だと言う。

無残な流血の噂が乱れ飛び、出国した難民は数知れず、北部朝鮮側が受け入れたものだけでも二千万と言う信じ難い数字まで出て来ており、話半分に聞いても、秋津州側の負担は口にするのも恐ろしいほどのものだろう。

北部朝鮮には食糧を含む膨大な生活物資の搬入が続き、大規模な集合住宅が次々と姿を見せており、これ等膨大な韓国難民の衣食住を賄っているのは、誰が見ても秋津州以外には無いのである。

現地の外国メディアによると、この分では秋津州国王が破産してしまうと言い、これ以上の受け入れは止めるべきだと言い騒いでいるが、難民の流入は一向に収まりそうに無いと言う。

中には、日を追って増加していると言う報道まで出て来る始末だ。

既に北部朝鮮の各地では露天の市場以外にも、大規模集合住宅の一階にさまざまの店舗が数多く出店し、活発に営業を始めていると言われ、これ等の小規模な商売をしているのは全て半島人ばかりだと言う。

その上外資系の企業も相当数が立ち上がり、大規模な雇用が勢いづいてきていると言う見方もあり、有り余る電力がそれを下支えしていることも事実だが、それらの活動を最も大きく担保しているのは、秋津州国王に他ならないのである。

いずれにせよ、少なくともその地における復興事業が、比較的安定的な環境の中で進んでいることだけは事実なのだろう。

その後、北部朝鮮の臨時首相が再三訪秋し、新田との間で調整が進み、一千億ドルもの支援を携え胸を張って帰国して行った。

北部朝鮮に対する秋津州の「意思」は世界に喧伝され、そのニュースは、一層の外資の参入を呼び込むことに大きく貢献する筈だ。

巨額の外貨の威力もさることながら、秋津州の翼下に確実に抱かれている「実績」を、世界にアピール出来たことが、何にも増して大きな効果を生むことだろう。

北部朝鮮国内では、自国民だけでなく、膨大な同胞難民たちに対しても手厚く手当てが行われ、本格的な個人消費にも火がつき、大規模な設備投資でさえゆるやかに動き出した。

これまで、その国の内閣は、まるで秋津州国王の任命によるもののように振舞って来ており、如何に混乱期とは言いながら、その根拠としては如何にも薄弱だと評されて来ていたが、ようやく暫定憲法が改正され大統領制の導入の方向が固まり、本格的な総選挙のための準備も進んでいると言う。

ごく大雑把な民・刑法も定まり、不動産の個人所有が公式に認められる見通しが立ったことにより、民間の経済活動が一段と熱を帯びて行くさまが目に見えるようだ。

膨大な資金が国庫に入ったことにより、さまざまな行政組織と国軍の整備が本格化して行き、国家の再建事業が急ピッチで進む筈だと盛んに報じられてもいる。

復興資金の貸し出しを名目とする政府系の金融機関も設立され、新たに複数の建設業者が名乗りをあげたと言う。

日本製の土木建設用重機などは中古品のマーケットでさえ、在庫が底をつくほどの需要を発生させてもいる。

さまざまな生活物資の生産ラインが産声を上げ、被占領当時多くの民衆の飢えを救った鯨肉なども缶詰製品として華々しく甦ったと聞こえて来る中、それが大量に出回るまでになり、生産が追いつかないほどの活況を呈していると言う。

話題になったものの一つに、建設中の国軍に、近頃流入した韓国難民の中からも大量の志願兵を編入したことがあった。

一度解体された北部朝鮮軍からも当然大量の志願があり、その総数は優に十万を数え、休戦ラインの守備もとうに秋津州軍と交替していたほどだ。

広大な休戦ラインに埋設された膨大な地雷が、秋津州軍の手によって極めて短時間の内に撤去され、張り巡らされていた鉄条網なども今はすっかり姿を消した。

その南側一帯(韓国側)からは、米軍の配備は数年も前から廃されており、韓国軍が単独で警戒している状況でありながら、休戦ラインを挟む軍事衝突など一度も発生していないと言う。

もっとも、現実の北部朝鮮軍は軽装備のものばかりで占められ、近代的な兵装を持つ南韓軍から見ればほとんど丸腰同然なのだ。

外国メディアの報じるところによれば、北部朝鮮軍の背後に控える秋津州駐屯軍の影が、別して優れた抑止効果を発揮して、現場では微妙に緊張緩和が進み、最近では南北の兵士同士の間ではおおっぴらな交流が始まっているほどだと言う。

現地韓国軍に対する兵站補給が滞り、食糧さえ満足にいきわたらなくなって来ていることに引き比べ、一方の北側の駐屯地には、皮肉にも潤沢な食糧を用意した食堂や豊富な物資を具えた休憩所が設けられ、そこには多数の電話設備まで備わっているのである。

不思議なことに、和やかにそこに入る韓国軍兵士には、難民となって北方の集合住宅で暮らす親族の電話番号が与えられ、自由に通話することが出来ると言うのだ。

まして、北軍側には難民として北へ渡った若者たちが数多く配属され、かつ現地韓国軍の中に近い親族を持つ者も多い。

無論、偶然などでは無い。

それに、元はと言えば全て同胞なのだ。

両軍の緊張感が失われるのに、大した時間はかからなかったのも当然だろう。

その結果、かなり自由度の高い往来が始まってしまい、休戦ラインの認識そのものが希薄になって来ており、今では韓国側の人間が北側に流入するにあたり、板門店が最大のルートとなってしまい、やがて圧倒的な数の人間が流入し始めた。

最近では、休戦ラインを超えて北へ入った者の内、戻らない者が増えており、韓国側に継続的に居住する者は、五百万を切ってしまうのも時間の問題だろうとまで報じられるに至った。

五百万と言えば、概ね従前の十分の一なのだ。

かと言って、繰り返し北へ入ってその都度戻って来る者も多数に上るため、北のほうで無理に引き止めている訳では無い。

無論、戻って来る者たちの手には豊富な生活物資が抱えられており、韓国側にとって、北の実態についての情報が生で流入し続けることになり、遂にはそこで活発に行われている近代史に関する議論の内容についても例外では無くなった。

北部朝鮮の中で日々民衆に話題を提供している議論には、現に多くの難民たちが自らの意思で参加しているのだ。

韓国側の民衆が今まで知らされて来なかった貴重な事実が、さまざまな形で俎上に上るようになり、最近ではその「事実」の重みが南北ともにあまねく知られるようになってしまった。

今までの近代史は創作されたものであることが、韓半島全域においてさえ、相当数の人々が知り得る環境が成り立ってしまったのである。

無論、知ったからと言ってそのまま信じる者ばかりとは限らない。


年の瀬に来て秋津州財団の研究所からある発表が行われ、IPCCからも追認する動きがあった。

何と大気中の二酸化炭素やフロン、メタン等の減少傾向を確信するに至ったと言うのである。

前回の発表時にはデータが不十分であったが、ようやく財団設立一周年を迎え、そのデータも過不足無く揃ったと言うのだ。

一方のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は、地球温暖化に関する最新データの評価を行い、対応策を科学的に裏付ける上で、世界的に影響力を持つと言われる国際組織だが、そのIPCCがすかさず追認したのである。

それによると、大気中の二酸化炭素濃度などは、第二次大戦直後の310ppmにまで減少し、日々刻々とその現象が進んでいることが客観的に確かめられたとしており、本来なら400ppmほどもの汚染数値が計測されても、何の不思議も無かったと言うのだ。

劇的な改善と言って良い。

温室効果ガスと呼ばれるフロンやメタン等についても同様で、ユーモアたっぷりな報告者は、「国王陛下は、毎日大きなドライアイスを背負って、宇宙の彼方へ旅をしてらっしゃる。さぞや重いことでしょう。」と発言して大勢の記者たちの笑いを誘った。

二酸化炭素を冷却すれば、固体化してドライアイスに姿を変えるのである。

次の日の各国の紙面には、巨大なドライアイスを背負った若者のイラストが数多く登場し、この壮大な労働は全世界のために日々行われているとして、口を極めて絶賛することになったのも当然のことだったろう。

また、財団にとってのもう一つの主題は、途上国の児童に対する教育の支援にあった筈で、当然そのことに関しても触れられており、それによると、現地出向教員は全て空飛ぶ女性たちで、それぞれの現地語は勿論、その他数ヶ国語を自在に操ると言う。

これ等無休の教員は百万人にも及び、その全てが二十代前半の若々しい外見を具え、基本的に水も食糧も必要としない者たちであるとして、間接的な表現ながらこれ等膨大な要員が生身の人間ではないことを認めていたが、いずれにしても、圧倒的な数の要員を派遣してことに当たっていることには変わりは無い。

そのため、膨大な被服費を要し、財団の財政をひどく圧迫しているに違いないとする報道もある上、各地に設けた学校では秋津州の公用語を学びたいとする希望が多く、その要望にも応えているため、当然それらの教材にかかる費用も馬鹿にはならない。

秋津州の特殊なシステムといえども、湯水のようにカネが出て行ってるのは確かだろう。

湯水と言えば、当初現地では独自に井戸を掘り、学童の飲料水などを自給しようとしたが、今は全て埋め戻してしまっていると言う。

情け無いことに、井戸一つとっても深刻な争いのタネとなることが多く、時には流血を呼ぶことさえあるらしい。

聞けば、井戸と言う自分たちが持たないモノを、競合する他の部族や村落が持つことは許しがたいと言う理由で、隙あらば破壊しようとする者さえいると言うのである。

なお、現地の各学校では、武器の持ち込みだけを厳しく禁じ、授業を受ける者には全員に教材と給食を支給することにしているが、給食は保存の利くものの使用を一切排除している。

保存の利くものは、往々にして軍需物資として再利用されてしまうことから、食材一つとってもその都度天空から搬入し地上には一切在庫を置かないと言うが、現実に動乱の地域では、たった一袋の小麦粉が原因で多くの人命が失われてしまうことがあるのだろう。

この一年の間には、学校そのものが爆破されたこともあり、さまざまな流血騒ぎを経験し多数の児童が死傷したが、空飛ぶ女性教師たちは一切の実力行使を慎んでいると言う。

ひたすら負傷した児童の手当てをし、栄養の補給に努めるだけなのだ。

彼女たちが、本来、襲撃者たちを一瞬で撃破する実力を持つことが徐々に知れ渡り、最近では学校が直接襲撃を受ける事例は減少したとは言うが、悲しいことにいまだに皆無では無いと言う。

東アフリカのある国で、取材に訪れた欧州のメディアが襲撃を受け負傷者まで出したが、その際流暢な英語でインタビューに応えた女性教師がおり、その内容が報じられ大きな反響を呼んだことがある。

メディア側から見た最大の疑問は、「彼女たちが充分な戦闘能力を持ちながら、児童や顔見知りの現地人が襲われ、目の前で命を落とすのを何故黙って見ているのか。」と言うものであったらしい。

しかし、その女性教師は「現地人同士の争いに介入することは、許されてはいない。」と答え、自分たちの使命は、あくまで現地の児童たちに教育を受ける機会を与えることであって、戦闘ではないと言うのである。

現地人同士の争いの結果である以上、例え百万人の命が失われようとも、絶対に手出しを禁じた秋津州国王の意思ばかりが大きく報じられたのも当然だ。


のちになって、ある日本のメディアが直接国王にインタビューを行ったところ、「一人でも多くの児童が教育を受ける機会を得、一日も早くその国の進むべき道を自ら判断出来るようになってくれることを望んでいる。」と言うばかりであった。

何故現地の争いに介入して、秩序ある静謐を取り戻そうとしないのかと重ねて訊ねたところ、「それこそ現地の人々が決めることだろう。」と応えたと言う。

各地の勢力争いに便乗し、積極的にビジネスに結び付けようとする手合いが多いのも事実であり、その争いをことさらに煽り立ててまで商売にしようとする者を皮肉ったのではないかと解釈するものもいる。

ただ、地域によっては、明らかな非戦闘員が一方的に虐殺されているとしか思えないケースも多く、その点について更に質問すると、「胸は痛むが、中途半端な介入で根本的な解決に寄与出来る自信が無い。」と言う。

現に多数の地域で、現地の一方の当事者から軍事介入を依頼されるケースまで出ており、秋津州が全て峻拒したことも広く知られているのである。

秋津州の強大な軍事力を以て全面的に介入し、「秋津州の正義」に照らして全てを処断してしまうことは容易だが、実力行使に及べば、必ずどちらかの恨みを買ってしまう。

争いの中で、正義はそれぞれにあって、場合によっては、双方から理解を得られないことすら有り得るのである。

若き王は、『「秋津州の正義」は、あくまで秋津州の領域内で守られるべきものであって、領域外では別の正義があって然るべきだ。』とも言い、『その代わり、如何なる国の人であろうとも一旦秋津州に入れば、「秋津州の正義」に従わせるのが統治者としての責務である。』と応えたのだ。

どのような「正義」を掲げた国造りをなすべきかを、自ら判断する能力こそが最大の当事者能力であり、各領域ごとにそれを持つことこそが最低限の権利でもあると言う。

結局、現地の人々に一人でも多く当事者能力を持ってもらうことが重要で、教育支援はそのためにこそ行われるべきものであり、その他のことは全て当事者次第だと言うのが国王の考え方なのだろう。

「しかし、陛下、それでは今後も大量に血が流れるではありませんか。」

正義感溢れる日本人ジャーナリストは、なかなか納得しそうに無い。

「では、私にどうせよと申すのか?」

「現地の教師たちに命じて、襲撃者を実力で排除なさればよろしいのでは?」

そうすれば、当然戦闘は避けられない。

「ふむ、争いをわたしに止めろと申すか?」

「はい、陛下にはそれだけのお力がございます。」

「何を以て力と申すのか?」

「勿論、財力と軍事力でございましょう。」

「しかし、財力や軍事力を振りかざして、他国に干渉することを侵略と申すのではないのか?」

「いえ、それも時と場合にもよるのでは無いでしょうか?」

「その、時と場合を判断するのは、何処のだれなのだ?」

「それこそ世界の世論と言うものでございましょう。」

「あははは。」

若者は大口をあけて笑った。

「お笑いになりますが、世界の常識と言うものは大切でございましょう。」

「・・・。」

若者の目が、明らかに記者を憐れんでいた。

「私どもの日本もそうなんですが、失礼ながら秋津州の常識も世界の常識とは随分違うのでは無いでしょうか?」

確かに日本も秋津州も特異な国ではある。

だが、特異性を持つ国など世界中に存在している筈だ。

「ふむ。」

「やはり、日本も秋津州も世界の常識にもっと歩み寄る努力が必要かと存じますが?」

「左様か。」

「殊に世界の常識に関し日本人に無知な者が多いのは、世界に対して恥だと思っております。」

さすがに、秋津州を名指しで批判するのは遠慮したのだろうが、若き王の反応はこの質問者の意表をつくものであったと言う。

「他国は知らぬが、我が秋津州人は自国について無知であることこそ、一番の恥としておる。」

「え?」

「例え自国の常識が他国と異なっていようと、少しも恥などではあるまい。恥どころか異なっていて当然ではないか?」

「・・・。」

「まして、無理をして他国の常識に合わせる義理などどこにもあるまい。逆にそのような行いこそが、もっとも恥ずべきことであろう。我が国では、他国と異なっていることこそ、一番誇るべきことだと考えておる。」

「しかし・・・」

「世界の常識などと申すが、画一的な常識など何処にも存在しないではないか。そんなものが在るとするのは、それこそ大嘘であろう。」

気鋭の日本人ジャーナリストは、それ以上一言も反駁出来なかったと言う。


師走に入り、ニューヨークではひっそりと五カ国会議(日米英仏独)が開かれ、新たに議題に上ったのは下馬評通りチェルノブイリであった。

無論チェルノブイリとは、かつて旧ソビエト連邦ウクライナのチェルノブイリ近郊で稼動していた、V・I・レーニン共産主義記念チェルノブイリ原子力発電所のことである。

かつてその四号炉の爆発事故が世界を震撼させたのは、千九百八十六年の四月二十六日のことであった。

大量の放射性物質を拡散させ、毒性の高い物質が周辺地域に広く蓄積された結果、人間は勿論、家畜や自然環境を汚染し、今なお多くの犠牲を生み続けている。

しかも、被害はウクライナ国内のみに止まらない。

チェルノブイリはウクライナの東北域に存在し、北隣りのベラルーシとの国境に近接していた為、風が大量の不幸をその隣国へも運んでしまったのだ。

無論、東方で隣接するロシア領も汚染を免れることは出来ず、結局この意味での当事国は、ロシアとベラルーシ及びウクライナの三カ国と言うことになる。

いずれの当事国も、広大な汚染地域から大量の住民の立ち退きを迫られ、その対応にも苦慮するほどであった。

ましてその周辺では、いまだに新たな被害事例が発生しており、その実態にしても真に明らかにされているとは言い難い。

事故の当時、轟々たる非難を浴びるまで、クレムリンはその発生の事実すら公表せず、ひた隠しにしようとした経緯まである。

なお、ソ連崩壊後のウクライナはロシア連邦から政治的に距離を置いていたため、今次の秋露戦の直接の影響こそ蒙らなかったにせよ、事故の当時は立派なソ連領だ。

クレムリンにとっては領土内で発生した重大事故のことでもあり、数十万もの作業員を動員し、当該原子炉の建て屋を急遽コンクリートで覆った。

核のごみが舞い散る中、かなり無茶な工事をさせたものらしく、自然巨大な二次災害をも齎した上、その後「石棺」と呼ばれるようになった急拵えのこの覆いは、到底完全とは言い難い代物であって、内部からも腐食が進み長らく崩落の危機が叫ばれて来ている。

その崩落は核のごみの凄まじい放散を生むだろう。

無論被害はその地域のみにとどまらない。

しかし、ロシア政府はもとより、ウクライナ政府も、主体的に解決するカネも技術も持ち合わせてはいなかった。

結局、当事国が当事者能力を持たないままに時間だけが経過し、千九百九十七年のGセブンにおいて対策が改めて協議されることとなった。

その協議では、「石棺」の封じ込めプランが企図され、そのための資金拠出が決定を見た。

カネの出どこがはっきりしたことによって、そのプランは実効性を持つことになり、例のベクトル社が中心となって長らく進められて来たのである。

巨大な石棺の蓋を別の場所で製作し、然るのちに「石棺」の上に移動させ、全てを物理的に密封してしまおうと言う壮大なプランであったと言う。

いわゆるビッグプロジェクトの発足である。

当初、その推定予算は七億ドルとも言われたが、現在ではいったいいくら掛かるものなのか、責任ある回答をする者はいない。

最終的かつ決定的な対応策が見当たらないためだ。

ところがここに来てベクトルの急激な凋落が始まり、プランの先行きにも致命的な暗雲が立ち込めた。

ほとんど見通しが立たなくなったと言う者も出る始末で、少なくとも、根本的な解決策を練り直す必要が生じたことだけは確かだ。

まして、崩落の危機を思わせる恐怖はいや増すばかりで、それこそいつ崩れても不思議は無いのである。

そうなれば、無論大惨事は避けられない。

五カ国会議の論議の前提は、見通しの暗い資金拠出を回避し、最終的な解決策を策定することにある。

先の大戦に際し、秋津州が敵国の核兵器を地球外へ廃棄すると言う離れ業を演じて見せたことは、当然全員の記憶に新しい。

会議では、この技術の活用を暗喩する発言が相次いだが、秋津州に対し技術の情報開示を求めようとする声までは出て来ない。

単純にそれを求めても、相手が素直に承知するわけも無い。

これ以上の国家機密など滅多に無いのである。

だが、日本だけが、秋津州にそれを承知させるだけの影響力を持ち合わせているかも知れない。

米英仏独の代表は日本代表の積極発言を期待して、しきりに仄めかすのだがその期待が満たされることは無かった。

尤も、当の日本にもそれなりの都合と言うものがある。

実は、あのベクトルの突然の破綻劇に遭遇し、事態を重く見た三カ国が揃って新田の元へ駆け込んで来ていたのである。

三カ国とは、無論ロシアとベラルーシ及びウクライナのことであり、彼等が重く見た事態とは、例の一大プロジェクトが決定的な蹉跌を迎えてしまったことだ。

新田は彼等の切なる願いを受けて、既に綿密な打ち合わせを進めている。

そして事態は、新田の思惑通りに運びつつあった。

新田としては、この壮大な作業の持つ意義を、西側社会も含めた全地球規模のものとしたかったのである。

そのためには、東西の足並みが揃うことが望ましい。

ときにあたり五カ国会議が始まり、この件が主題として取り上げられることとなった。

五カ国会議のテーブルで揉んでいる間に、新田のテーブルでは実質的な段取りの概略が固まり、すかさず日本代表に指令が飛んだ。

ようやく日本代表から積極的な発言が出るに及んで、いよいよ五カ国会議の総意を以て、地球最大の汚物処理を秋津州に依頼すべしと言うことになり、再びその知らせが新田の元へ届く。

その時点ではあくまで非公式な打診の形式ではあったが、五カ国会議側の受けた感触は決して悪いものでは無かったのである。

当然であったろう。

全て新田の描いた青写真通りなのだ。

ここで五カ国側が抱いた最大の危惧は、肝心の当事国が限り無く貧しいままであることから、その作業に要するコストと拠出方法にあった。

各国とも、議会に付さねばならないほどの巨費を想定していたのである。

だが、驚くべきことにその全額を秋津州財団が負担すると言う。

事前に知っていた日本とはこと違い、他の国々が大いに胸を撫で下ろしたのも当然だ。

かくして巨大プロジェクトは決定され、又しても「秋津州の善意」が世界の知るところとなって行く。

やがて行われた第一次作業は、事故を起こした四号炉はおろか、当時建設中であったものも含め全ての炉と建て屋が対象とされ、しかも実に呆気なく終了してしまい、作業の跡地には、最深部では五十メートルもの深さの大穴が空き、土壌はおろか全てのモノが地鳴り振動と共に消滅し、あっさりと危機は去った。

恐れていたモノそれ自体が、ものの見事に消滅してしまったのである。

第二次作業では大きく範囲を広げ、十メートルほどの深さまで地表を除去したが、実はこのときの地表にもさまざまの物が存在していた。

多数のゴーストタウンや強引に埋められた森が有り、その一帯に生きるさまざまのものがいた。

原発労働者用の集合住宅も巨大な廃墟となって残っており、事故の後始末に使用された大量の重機や車両、そしてヘリコプターまでが野ざらしにされていたが、これらのものもきれいさっぱり消え失せた。

立ち退きを勧告されながら危険区域に残っていた人間も、空飛ぶ女性兵士たちに抱きかかえられて区域外へ排除されたと言い、一連の作業によって一気に表層部分を除去された面積はまことに広大なもので、ベラルーシに至っては全国土の三十パーセントにも及んだと言う。

その後膨大な土壌が搬入され、全ての大穴を埋め尽くしてこの作業は終了し、あとは、現地政府の再調査の結果を待って、その希望によっては再開されることもあり得ると言う。

世界的に注目を浴びた大事業に要した時間は、実質一時間ほどのものでしか無く、新田から終了宣言が出されたときのプレスルームはまさに拍手の渦であった。

しかも、全てのコストが秋津州側の負担であったことから、各国メディアの論調は、秋津州国王が破産する可能性について半ば肯定するかのようであり、一部には秋津州財団に寄付を促す報道まで出たほどだ。

だが、現実の秋津州は膨大な債権こそ有していたが、対外債務を負っていると言う情報は無く、信用不安が発生する余地は全く無かったのである。

尤も、秋津州のこの特殊な技術に接したことにより、これが軍事的に用いられた場合を想定し、いざとなればニューヨークやパリやロンドンなど、ものの見事に消滅させられてしまうと恐怖した者もいないわけではない。

 ◆ 目次ページに戻る
スポンサーサイト


  1. 2006/12/29(金) 23:39:32|
  2. 妄想小説 主権国家|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:2
<<自立国家の建設 068 | ホーム | 自立国家の建設 070>>

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2007/01/16(火) 14:42:30 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

ごめんごめん

ごめんねー、何せこのあたりは百三十年も前の官僚たちが書いた報告書がほとんどで、原文は毛筆で書かれた画像なのです。
私も全部読めるわけじゃないんですが、当時の雰囲気といきさつを正確におわかりいただくために、敢えて出来るだけ原文どおりに記述してあります。
詰まり、引用している文章はホンモノばかりなのです。
なんせ、このほとんどが一次資料なもんですから・・・
それに、これから、もう少し振り仮名を書き足しますから~~^^
  1. 2007/01/17(水) 16:38:48 |
  2. URL |
  3. あんくるじいじ #-
  4. [ 編集]

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://unclejim.blog4.fc2.com/tb.php/318-aee57e51
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。