日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 082

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しかし、現実の事態に好転する兆しは全く無い。

見渡せば、各国政府はその多くが混乱の坩堝に投げ込まれてしまっている気配まであり、哀しいかな日本政府も又その例外では無かったのだ。

個人的にも重大な情報を握っている以上、国井にすれば、いまや政権奪取を云々している場合ではなく、結果として政治的空白を招く内閣不信任案の提出を執行部に見送らせ、ひたすら人類の救済を願って、再三官邸に接触を求めたがその努力も遂に報われることは無かった。

大沢首相とその側近たちは自らの政権の延命を重しとするあまり、錯綜する情報の海の中で無様に漂い続け、当初決定した筈の丹波への移住と言う選択肢一つとっても、この期に及んで揺れ動いている有様で、ガンマ線バーストの齎す破滅的な被害規模に関しても、未だに希望的観測を捨てきれない者までいると言う。

肝心の首相自身が、今こそ強力なリーダーシップを発揮すべきところなのだが、外務省、殊にアジア大洋州局との泥仕合の結果が未だに強烈な怨念となって尾を引いており、駐秋津州代表部から齎される貴重な情報ですら、内閣府の中で恣意的に変形させられてしまっている気配さえあるのだ。

ごく凡庸な首相であるにしても、気配を察し、信頼し得る側近を選び、密使として秋津州に派遣して直接情報を取るべきであったろうが、呆れたことにそれすらも行われない。

国井自身が官邸内に持つ、か細い糸を手繰って見ても、官邸はこの未曾有の非常時にあたり、的確に対処すべき機能を失ってしまっているとしか思えないのだ。

本来なら倒閣して新政権を打ち立てるべきところなのだが、大沢首相の動きを見る限り解散総選挙は免れず、その結果巨大な政治的空白期間が生まれ、ひいては大規模な混乱を引き起こしてしまう恐れが強い。

この事態を受けた国井は、一人の政治家として機敏に反応した。

最早躊躇してる場合ではないと判断し、再び秋津州に入り国王は勿論、財団の松川氏からも生の情報を取った上で改めて新田との協議を持ったのだ。

場所は土竜庵である。

無論二人共ことにあたって第一義としているのは、言うまでも無く丹波に於ける領土の確保であったろう。

それなくしては、避難民に対する受け入れ態勢構築の準備すら始められないからだ。

しかし二人共に日本の為政者などではなく、新田に至っては単なる一民間人に過ぎない。

新田は言う。

「こうなれば、岡部君たちを連れて明日にでも彼の地に渡るほかは無いと思っとります。」

新田自らが先発すると言うのだ。

「いや、その役目は私が果たさねばなるまい。新田君には、しばらくこの地にとどまり、あとの取りまとめ役を頼みたい。」

このままでは、やがて途方も無い混乱をきたしてしまうことは目に見えており、その場合秋津州外交を一手に握る新田の役割は、秋津州国王の深い信任を得ているだけに、なおのこと重いものにならざるを得ないだろう。

「しかし・・・」

「殊に米国に対しては少々手荒な先導役が要るだろう。それこそ新田君が適任だよ。私は現地で国土建設の青写真を描く。」

国井としては、先ずその青写真を描き、我が避難民の受け入れ態勢の目処を立てることこそが再優先であり、その上で次の行動に出るつもりでいる。

「いや、そう言われましても・・・。」

「例の五カ国協議を脅しつけてでも取りまとめてもらわねばならず、この役回りは君にしか出来んだろう。」

「しかし・・・」

「それぞれ得手不得手と言うものがあるだろう。国土建設の青写真を描くのは、どう見ても私の方が得意だよ。」

その点では、国井には膨大な実務経験があり、新田にはそれが無いのである。

「已むを得ませんな。それでは是非とも岡部君達をお連れ下さい。」

現在の岡部の配下の中には、当時官邸の対策室に出向していた国交省の俊秀もあまたおり、こう言う場合非常な戦力になってくれる筈だ。

「勿論だ。」

「それと、念の為、米国に対するスタンスを承っておきたいのですが。」

「それは、はっきりしている。」

「はい。」

「先ず、我が国が一国孤立主義を以て生きて行くことは不可能であり、そうである以上、集団としての安全保障を確保せねばならず、当然協調してくれる相手を見定めねばならんだろう。」

「はい。」

「国家の体制から言っても、国力から言っても、やはりそれは米国であるべきだと思っている。」

「・・・。」

新田の表情は複雑である。

「それに、同じ手を組むにしても、中露朝などから見れば、まだしもだろう。」

「・・・。」

「如何なる国も、その時々の環境の変化によっては、我が国との約束事を守らないかも知れないが、あの国の場合中露朝と違って、一旦約束したことは、少なくとも半分くらいは信用してもいいだろう。無論、あの国が我が国との約束を守りやすくするよう、常に援護射撃を行う心がけも必要だが。」

「悔しいが、まったく同感です。」

「どんなに悔しくとも、日本が生きて行くためには感情論で決めてしまえることじゃないからな。」

「はい。」

「あの国があれだけの国力を持つ以上、それは、荘園に移住を果たしたあとも、人類の繁栄にあたり、その力が最大の効果を発揮する筈だよ。」

「また、そうあってもらわねば、人類の未来がその分だけ萎んでしまいますからな。」

「そう、そのためのパートナーです。」

「無論、秋津州こそ第一等のものと考えての上でしょうな。」

「私は、秋津州は身内だと思っている。」

「なるほど、外国だとは思っていないと言うわけですな。」

「君にしてもそうだろう。」

「あはは、岡部君も益々張り切ってお供することでしょう。」

「いずれにしても、我が国にとって米国市場の重要性は他に比類があるまい。」

「でしょうな。」

「我が国が貿易を立国の柱としている以上、マーケットの重要性を忘れてしまえば、その瞬間にも国が滅んでしまう。」

「はい。」

「ワシントンとの協調体制の中で、人類の未来を切り開いて行くよりほかはあるまい。」

「その下地造りをしろとの仰せですな。」

「日本の為に。」

「全て了解しました。」

「それと、この前君が言っていた話では、既に便宜上の国土を現地に策定中だと言うことだったな。」

「はい、国王陛下の直轄領の中で島を一つ拝借し、取り敢えず秋桜(コスモス)と名付けておきました。陛下が直轄領として確保なさった二十パーセントの内側でなら、何をしようと他国から苦情を言われる筋合いは無いでしょうからな。」

新田は傍らから地図を取り出して来て、おもむろに掘り炬燵の上に広げて見せた。

無論それは丹波の世界地図であり、新田の指し示した新垣島(秋桜)はそこの北半球にその姿を見せている。

それは、北緯二十五度あたりから四十五度付近にかけて南北に伸びており、現在の日本列島が存在する緯度に比定しても、ほぼ同程度の緯度にあたると言って良い。

但し、陸地の面積だけは現在の日本の二倍近いのだ。

「確か、マダガスカルよりも若干大きいと言う話だったね。」

ここで言うマダガスカルは五十八万七千平方キロと、日本の一.六倍ほどの広さを持ち、概ね二千万弱の人々が棲み暮らしている国であり、対してこの新垣島(あらがきじま)は六十万平方キロと記載されており、国井の熱い視線は当然そこに集中した。

そして、その東方には若者がこれも直轄領として確保したと言う大陸と二つの島、玉垣島と八雲島が描かれている。

「こっちの国王陛下の大陸は旧ソ連以上の広さです。」

「ほう、何度見ても広いねえ。」

「これ一つで、二千五百万平方キロほどありますからな。」

「確かに旧ソ連領よりも広いことになるな。尤も、考えて見れば、元々この天体全てが陛下の領土だったんだからな。」

過去において旧ソ連は、概ね二千二百四十万平方キロにも及ぶ広大な領土を誇っていたが、今回若者が直轄領の一部として確保している大陸は、それ一つで旧ソ連領よりもなお十パーセント以上も広いのだ。

ちなみに、現在のロシア領は千七百七万平方キロほどである。

「この大き目の二つの島が玉垣島と八雲島になります。そのほかにもこの通り小さな島々がありますが、中でも玉垣島と八雲島については、電力とか道路とか港湾ほかの基本的なインフラがほぼ完成している模様ですし、それに直轄領の全ての陸地が海底ケーブルでとっくに繋がってますから。」

丹波世界地図  (サムネイル画像をクリックし、別窓が開いたら、地図上でもう一度クリックして拡大してからご覧下さい。)

Mapsyoki


「ほほう、そこまでとは思っていなかったよ。」

「とにかく、陛下の仕事の場合、いつもとんでもないペースですからなあ。」

「確か陛下ご自身は、八雲島にお住まいを設けられたと仰っておられたと思うが。」

「そうだそうです。これ北海道よりも少し大きめの島でして、秋桜からは海上三百キロほど東に離れてるみたいですが、そこじゃ新しい海都が大々的に建設中でした。」

「ほほう、もう見てきたのか。」

「はい、未だ一度だけですが。」

「新しい海都はどんな構成だね?」

「国民議会とかホテルや賃貸マンションなんかも、こっちのものの数倍の規模になるようです。」

「ほほう。」

「殊に内務省ビルと秋津州ビルは、完成予想図も見ましたが、とにかくでかかったですわ。」

「それは楽しみだな。」

「それに、行政省庁用のビルも複数建設されるようですし、首都圏の市街化予定地自体が今の十倍の規模にはなるでしょう。」

「確かに今後はそうでなくてはなるまい。何せ全てにおいて世界の中心になる筈だからな。」

「はい。通信関連にしても、上下水道にしてもとうに完備しておりました。」

「空港や港湾なども早くこの目で見てみたいものだな。」

「港湾なんかは大規模なものだけでも三ヶ所ほどが完成してましたし、少なくとも現在の秋津州にある程度のものは全部揃う筈です。」

「ふむ、農地についてはどうだ?」

「灌漑設備も含め農耕地関係は、陛下の直轄領以外でも、丹波全域がかなり前から整備されてたようです。」

「なるほどなあ、はるか昔から陛下の荘園だったのだから、それも当然か。」

「まあ、地域差も無いわけじゃありませんが、相当だだっ広い農園が多いみたいですわ。」

「そうすると、農耕作業を担う民が暮らしている筈だが、およそどの程度の人口なんだい?」

「驚いちゃいけませんよ。実は、ヒューマノイド軍団以外誰もいないのです。私が行ったときは、王妃の兄君が例の三人の侍女たちに囲まれるようにして暮らしておいででしたが、今はもうこっちに引き上げて来てる筈ですから。」

「それじゃ、今回のことのために、全てほかの荘園に移住させられたのかい?」

「いや、そうじゃなさそうです。前から一人もいなかったらしいのです。」

「他の荘園はどうなんだ?」

「はっきりしたことは判りませんが、数億人はいることにしといた方が無難だろうとは思いますがね。」

「なに、どういうことだ?」

「どうせ、そこには陛下に連れて行っていただく以外、誰も近づくことすら出来ないんですから、どうせならそっちにも我々の同胞がたくさん住んでてもらった方が、何かと心強いでしょう。あはははっ。」

新田が大笑いしている。

「それじゃ・・・・」

「私もつい最近陛下から直接お聞きして驚いたのですが、一つだけはっきりしてることがあります。」

「・・・。」

国井は無言で聞き入るばかりだ。

「例の秋津州戦争までは、この秋津州にも七人ほどご一族の方がいらしたそうです。それも全て幼童ばかりだったようですが。」

「秋津州戦争まで、とは?」

「全員亡くなったそうです。一人残らず・・・・・」

「すると・・・・」

「ですから、現在は、ご夫妻二人きりのようです。」

秋津州の村落を形成している住民たちの『一部』がヒューマノイドであるらしいことについては、二人共にとうに共通認識としていたところではある。

それにしても、ご夫妻二人きりとは。

「なんとまあ・・・・」

「まあ、そこまではっきりと仰ったわけじゃありませんがね。」

「仮にそうだとしたら、あの国民議会と言うヤツは・・・・」

「世界に秋津州の民意ここにあり、と宣言させるためのツールだと言うことになりましょうな。」

「ふうむ。それじゃ、文字通り陛下の意思が秋津州の民意に等しいことに・・・・」

「まあ、ご夫妻の意思が秋津州の意思であることは確かでしょうな。」

「そう言うことだよなあ。」

「この件は岡部君も一緒に飲んだときに出た話ですから・・・」

「そうか。」

「この話、今のところ、ほかに聞いてるのは秋元姉妹だけのようです。無論王妃は別でしょうが。」

「いや、驚いたよ。」

それが事実なら、秋津州と言う「国家」そのものが、あの若者の個人所有だと言うことになってしまうのである。

「ま、陛下のご気分次第でしょうが、少なくとも国井さんも秋津州一族に入ってるらしいですよ。確か例の潜水艦も、国井さんから陛下にお話があって実現した筈でしたよねえ。」

「うん、そうだった。」

「あれも、国井さんからの依頼だったから実現したようなもんですわ。」

「そうか、私もお仲間に入れていただいてるのか。それは光栄だ。」

「私なんざ、とっくに一族のひとりになっちゃってますがね。」

「今じゃ、側近ナンバーワンかな。」

「いえ、そう言うのとも少し違うかも知れませんよ。ええと、どう言ったらいいか、ちょっと言葉に困りますが、あ、そうだ。陛下のイメージでは仲間なんですわ、これが。」

「ほう、仲間かあ。判るような気がするなあ。」

「でしょう。例えば碧のママとか、それと、ダイアンとかキャサリンとかもそれに近いかも知れません。」

「そう言えば、碧のママのケースなんかは、あの独特の情愛と言うか何と言うか、まさしく親族とか一族とかの世界だからなあ。」

「そうなんですよ。あのママなんか、陛下をつかまえて息子かなんかだと思ってるみたいですし、以前陛下の外遊日程について、えらい剣幕で文句付けられたことがあるくらいですから。」

「そう言えば、ずいぶん、タイトな日程だったからなあ。ママもよほど心配だったんだろう。」

「このままじゃ、陛下が倒れちゃうって言って、ずいぶん強硬な抗議を受けましたよ。」

「私もいつか、陛下がホワイトハウスの晩餐会を蹴飛ばしてお帰りになったとき、ママを通して面会を願ったことがあるが、陛下は今寝たばかりだと言って、思い切り断られたことがあるよ。」

「あはは、やはりあのママの場合なんかは、一途に息子の体を心配してるだけなんだから、もう、それこそ最強ですわ。」

「あはは、さすがの君でも勝てないか。」

「いやあ、親子の情愛には勝てませんわ。何せ、欲得づくじゃありませんからな。」

「うむ、欲得と言えば、陛下と言うお人は、何一つ要求をお出しにならない方だからなあ。」

「いえ、たった一つだけ要求なさってることがありますぜ。」

新田の表情は思い切り笑み崩れていたが、無論それは、日本人が日本人であることに対して誇りを失わないでいることなのだ。

「ほい、そうだった。」

「ま、逆の言い方をすれば、陛下ご自身が日本人そのものなんでしょうな。」

「うん、私もそう思うよ。」

「いつかも、仰ってましたよ。日本人自身が日本人であることを見失わないでいさえすれば、例えどんな逆境に落ちても必ず復活することが出来る筈だ、と。」

「うーむ、日本人自身が日本人であることを見失わないでいさえすれば、か。考えさせられる言葉だなあ。」

「ここは一番、日本人の根性を見せてやるところですな。」

「そうだなあ。」

「そう言えば、岡部君はダイアンをお供に連れて参加するって言い出すかも知れませんぜ。」

「ほう。」

「最近、あの二人、臭いんですわ。」

無論、男女関係のことを言っているのだ。

「それはまた不思議な組み合わせだな。」

「どうも、道場で稽古をつけてやってるうちに、どうにかなっちゃったらしいんですわ。先日も二人揃ってここへ飲みに来てるくらいですから。まあ、一応含んでおいてやって下さい。」

国井にしても岡部にしても、互いに非常な機密事項を共有することになるのだ。

「じゃ、結婚まで行きそうかね。」

「その可能性、大かと思われますな。」

新田の表情は思い切り緩んでしまっている。

「ダイアン嬢は、確かあの大コーギルグループの唯一の後継者の筈だよなあ。」

「そうなんですよ。二人にとって最大のハードルになるかも知れませんな。」

「まあ、岡部君の幸せを願うのは勿論だが、それより君の方はどうなんだ。大分マスコミにも騒がれてるようだが。」

「実は私もそろそろ身を固めようとは思ってたんですが、何せここへ来てのこの騒ぎですから、少々躊躇しとるんですわ。」

「と言うことは、相手は決まってるわけだな。」

「ま、一応。」

「無論、本人のオーケーはとってあるんだろうな。」

「この騒ぎですから、ちょっと早まったかなとは思うんですが、一応プロポーズは済ませてあります。」

「おいおい、そんなこと言っちゃあ、相手に失礼だろう。誰なんだい、私の知ってる人なのか?」

「ちょっと言い難いんですが、上杉君なんですわ。」

女性を君づけで呼ぶところを見ると、普通、仕事上の人間関係を思うのが妥当であろう。

そうなると、その名前から脳裏に浮かぶ対象者は一人しかいない。

かつて秋津州在留の日本代表部の職員だった女性で、一時週刊誌などで取り上げられたこともある相手なのだ。

「ほほう、それなら私も知っとる。ミス外務省じゃないか。」

外務省準キャリアで、挙句、花と謳われたほどの容姿を誇る上杉菜穂子その人であろう。

新田の退官の折り、ともに職を辞した中の一人でもあり、年齢にしても新田より一回り以上若い筈だ。

「いえいえ、それほどのものじゃありませんがね。」

「こりゃ、いかん。だいぶ鼻の下が伸びておるわい。」

「えへへ、勘弁して下さいよ。」

「いや、勘弁出来ん。直ぐに結婚しろ。」

「あっちもそうは言うんですが、この騒ぎでは、なんとも・・・」

「それはそれ、これはこれだろう。それとも何か。相手側のご両親かなんかの反対でもあるのか。それならそれで、この私が話をつけに行って来るが。」

「ありがとうございます。でも彼女の両親はとっくに亡くなっとりまして、今じゃ特別気を遣わなくちゃならんような親族もいないんですわ。」

「それなら、なおのことすぐさま結婚しろ。じゃないと、きっと後悔することになるぞ。」

「そうですかなあ。」

「そうに決まっとる。」

いや、もう、流石の新田もたじたじの態である。

その後国井の一行は、若者の船に乗って勇躍丹波に向かったのは言うまでも無い。

無論、その旅程は秋桜(新垣島)に日本人の受け入れ態勢を準備するためのもので、さまざまな技術者集団を率い何度も往来を重ねながら、全て日本人自身の手によって貴重な青写真を仕上げることになる。

国井の手には若者から、現地の精密な測量図とともに、地質学上の膨大な調査データが手渡され、それらはやがて貴重な役割を果たし、技術者たちの作業に驚くほどの勢いをもたらしてくれるのである。

なお、丹波には都合四個兵団と言う膨大な秋津州軍が集結している上、その大部分が日本人技術者の要請に基づいて秋桜(新垣島)の全土に隙間も無く展開し、PME(永久運動機関)型発電所と電力供給施設は勿論、港湾や空港、道路や高架軌道などの重厚な交通網の建設に手を貸しつつあり、例によってその巨大な作業量と無限に与えられる資材が、国井の描く夢想をごく短期間の内に実現して行くに違いない。


さて、合衆国をはじめとする多くの国家にとって、今次の問題の対応策が他の天体への避難以外に無いことがいよいよ明らかになるに連れ、それぞれの国益がさまざまな意味を持ち始め、やがて激しく衝突して、そのせめぎあいが長期化してしまうことは火を見るよりも明らかであった。

ときにとって、新田自身が立案し若者の支持を得ている基本方針においては、しばらくは一切の介入を慎み、諸国間のせめぎあいをひたすら見守ることとなっていたからでもある。

かつてNBS支局長も確実に見通していたことだが、早期にことを進めるにあたり、移住先の土地を提供する側である秋津州が諸国間のせめぎあいに介入し、積極的にイニシャティブをとることによって、移住に関する諸問題の全てを取り仕切ってしまうことは容易であり、なおかつ必須要件でもあった筈だ。

かと言ってそれを実行するタイミングを誤れば、多くの国々から激しい怨嗟の声を浴びてしまうだけの結果に終わり、若者と新田は、そのことが必ずしも本質的な解決に繋がるものでは無いと見ていることになる。

それはそうだろう。

新たな領土の配分に際しては、その面積にしても、或いはその土地々々の地政学上の諸条件にしても、全ての国家が同時に納得出来るほどの完璧な公平性を確保することなど、到底不可能なことだったからである。

まして、事前に秋津州から齎されていた丹波についての各データには、それぞれの地域の特性にまで踏み込み、およその土地柄と地下資源に関するものも豊富に提示されており、その具体的な優劣が議論の対象とならざるを得ないのだ。

現に、土地の提供者である秋津州の意思は、全てを諸国の論議に任せることを明示しており、そうである以上、諸国の全てが、過去において地球上で持ち得ていた自然の既得権の保全に強く拘り、そのことが毀損されてしまうことを恐れるあまり、五カ国協議などでは甲論乙駁してとどまる所を知らない。

新天地におけるそれぞれの土地柄が具える地下資源、殊に石油の埋蔵量に関してなどは、結果によっては即座に国家の死活問題に繋がると捉える向きが多く、簡単に譲歩して良いものでは無いとする意見が多数を占め、五カ国ともに妥協の余地を見出そうとする気配も無い。

また、地球の全陸地から南極大陸を除いた陸地面積は概ね一億三千四百九十四万平方キロほどであり、それに対して露中米加豪伯(ブラジル)と言う六カ国の国土面積の合計は、凡そ六千二百四十八万平方キロにも達してしまう。

詰まり、この六カ国だけで、地球上の実質的な陸地面積の実に四十六パーセントを占めてしまっていることになるのだ。

五カ国協議の構成国は無論米英仏独日であるが、この中で圧倒的な国土面積を持つ者は合衆国だけであり、それに比べて他の四カ国が持つ国土は哀しいほどに小さなものでしかない。

例えば日本を例にとれば、合衆国の四割もの人口を擁しながら、国土面積に至っては実に二十五分の一にも満たないのだ。

加えて地下資源に至っては、日本は哀れなほどに乏しく、そのことがさまざまな意味で国家としての運命を大きく左右してきたほどであり、陸地と言う限られた資源の配分と言う課題には、それほどまでに深刻な難問が山積していたことは確かなのである。

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  1. 2007/08/07(火) 11:59:54|
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