日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 087

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当然の事ながら、ワシントンと東京間ではその後盛んなやり取りが交わされ、事務方レベルにおいては、既に十分過ぎるほどの交流が持たれた筈だ。

殊にワシントンから見た日本と言う国家が、ここ数年来同盟国として恐ろしいまでの存在感を示し始めていた上、近頃ではますますその重量感を増して来ているのである。

何せ、合衆国の重要な軍事資産を新天地に運ぶ件一つとっても、東京がその可否の多くを握っていることが改めてあらわになったばかりなのだ。

二千八年三月二十四日、しこうして合衆国大統領が訪日する日が到来した。

即座に両国のトップ会談が行われ、国井総理からは「同盟国の戦力の健全性が維持されることは、我が国の国益にとっても欠くべからざる一大要素である。」と言う意思表明があり、ことのほかワシントンを安堵させることになった。

日本は同盟国として、米国の戦力が「健全」に維持されるよう望んでいてくれると言うのである。

無論、その他にもさまざまな事柄が話柄にのぼったが、ワシントンは、少なくとも日本側の主張に悪意ある背景を感じずに済んだことは確かだろう。

しかし、それでなお、肝心の新天地の分割案については両国の国益の溝は埋まることは無く、遂に合意するまでには至らない。

合衆国にしても必死なのだ。

新田や岡部にとっても、一国の統治者が背負う国益と言う課題の重さが、事更強く感じられたことは確かだったろう。


尤も、日本の提出した分割案に物申したいとする国家は他にも数多く存在しており、例えば中国なども表立って動いてはいないにせよ、台湾の領有権に絡んでさまざまな思惑がある筈だ。

そもそも中国側の根本的な言い分からすれば、「中国の一部であるべき台湾に、新領土の分割を受ける資格などは無い。」とさえ言いたいところなのである。

まして、その分割案において新たな台湾島に比定されている島は、新中国の沿岸から五百キロも離れており、中国側にとってそのことが大いなる不満で無い筈がない。

現在の台湾海峡は、最も狭いところで言えば幅百三十キロほどでしか無く、新たなそれは従前から見れば四倍近くも離れてしまうことになり、その距離の長さが即ち政治的な距離感に通じると受け止めているからだ。

ところが一方の台湾側は、現在の中国全土はおろかモンゴルまで自国領土だと認識しており、到底相容れない。

何せ、現段階でも台湾共和国の正統な首都は大陸側の南京なのである。

尤も、今さらその主張は通らないものであることも認識しており、逆に中国沿岸からはるかに離れた別の島に目をつけて、盛んにデモンストレーションを繰り返していた。

その島は比較的国王の直轄領に近接している上、なおかつ中国沿岸との間には多数の島国が存在して、言わば政治的緩衝地帯を形成していることが、台湾側にとっては一際重大な意味を持つのだろう。

ちなみに、現在の台湾は三.六万平方キロほどのものだが、日本案で当初新台湾島に比定されていたものは概ね四万平方キロもあり、従前のものより十一パーセント以上広いことになる。

それにも拘わらず、中国沿岸から遠く離れてさえいれば、最悪従来のものよりはるかに狭隘なものであっても許容する覚悟を固めているらしく、近頃では新田のところへも猛然とアタックを始めており、女神さまにも頻繁に接触を望んで来ているほどだ。

無論、台湾も必死なのである。

結局、その後も各国それぞれの意図する国益が複雑に錯綜するばかりで、一向に落としどころが見えてこないまま、直轄領の工事ばかりが突出して進行してしまうと言う構図に変化は見られない。

何しろ、若者自身が居所と定めた八雲島などでは新たな海都が壮大な規模を以て完成しつつあり、各地の村落にしても基本的なインフラは勿論、新たな住民用の個別住宅まで全て整い直ぐにでも入居が可能なほどだ。

尤も、最新の情報によれば、そのNew海都を含む一帯は現地では「一の荘」と呼ばれていると言い、諸方の各村落はそれぞれ二の荘から十八の荘に分かれていると言う。

詰まりは、荘園なのである。

だが名前こそ古風なものだったが、その土地土地では幹線道路や空港設備は勿論、近代的な港湾も多数お目見えし、そこには深水深の運河や埠頭が見事な姿を見せており、太平洋上の秋津州港をしのぐほどのドッグや工場群まで具え、既にPME駆動方式の船舶を大量に建造中だと言う。

一方七十万平方キロもある玉垣島では、もともと広大な農地とともに優れた油井をも多く持ち、農産物と原油の備蓄機能を数多く具えているところに、目下更なる拡張工事の真っ最中でもある。

無論、新垣島(秋桜)やその他の諸島に関する工事も極めて順調な進捗振りを見せており、その意味では何の問題も無いと言って良い。

しかし、秋津州大陸だけはほとんど手付かずのままで、港湾どころか満足な道路さえ見当たらない。

そこには豊かな原生林が延々と続き、広大な湿地帯や野牛の大群が豪快に駆け回る原野まで、そっくりそのままに残されており、山岳地帯から流れ出す河川も豊富な水量を誇るものが多く、中には大アマゾンにも匹敵するような大河まで見受けられ、当然それらの水源となるような巨大な内水も数多く散在して当然だ。

中でも、大陸の中ほどに標高五百メートルほどの湖面を持つ際立った大湖があると言い、その名も磐余の池(いわれのいけ)だと報じられた。

それは、十三万平方キロを超えようかと言う実に広大な水域であり、その水深にしても最深部では二千メートルにも及ぶとされ、優れて高い透明度を誇る淡水湖であるらしいが、言わば悠久の古代湖でもあることから、固有の生態系を豊かに育んで来ている筈だとされている。

また、その途方も無く広大な湖面にはそちこちに僅かな島々を浮かべており、その中の一つに際立った特徴があるとされ、名付けて「宮島」だと言う。

長径十キロ、短径八キロほどのその孤島は、磐余の池のほぼ中央部にあってそのほとんどが小高い丘陵を成し、鬱蒼たる樹林に包まれながらなお、僅かな農耕地と人工の構造物を持つことによって優れて異彩を放っていたのである。

のちになって、それこそが秋津州神社だと明かされることになるのだが、そこには紛れも無い「神域」が存在していたのだ。

その島に上陸を果たせば、既に岸辺近くから、両側を樹林に囲まれて参道らしき石畳が苔生(こけむ)したまま冷え冷えと続き、そこを進むとやがて古ぼけた鳥居に出会うことになるだろう。

木製の小振りの鳥居をくぐって弛(たゆ)まず参道を登れば、程なく一際開けた場所に至り、そこでは巨木に囲まれるようにして社務所が立ち並び、神職や巫女(かんなぎ)らしき者にも出会う筈だが、不思議なことにその全てが女性ばかりだと言う。

その奥にも、そこそこの規模を持った拝殿や幣殿らしきものが実に雅びた佇まいを見せており、さらに奥まったところが広々とひらけ、ところどころに巨木を残しながら、いましも土木工事の真っ最中だ。

既に高床式の木造建築が巨大な姿を現しつつあるが、それ等は最も古風な寝殿造りの特徴を具え、その一郭全体を高い塀を以て幾重にも囲む作業が続けられているところから、その中に本殿が含まれていることに疑う余地は無いだろう。

しかも、その他にも言わば別宮と思しき構造物が諸方の森の中に点在し、この島全体が境内だと言って良い風景でありながら、島の一郭にはかなりの水深を具えた幅五十メートルもの運河が走り、その奥まったところにはがっしりとした石組みの桟橋まで築かれており、相当な船舶の接岸にも耐えられそうな趣だ。

いずれにしてもこの宮島は、最も間近な対岸でさえ優に八十キロも離れてしまっており、周囲を満々たる湖水に囲まれた文字通りの孤島なのである。

もしその孤島の頂上に立ち、そこから北方を望めば、晴れた日には、漠々たる湖面のはるか彼方に八千メートル級の山々の頂きが霞んで見える筈で、王の大陸はその山々を越えてなお茫々として連なり、もし北端にまで北上すればその一端は北緯八十度を超え、そこは最早極北の地と言って良いほどで、ホッキョクグマを始め特有の生き物たちが数多く棲息していると言う。

なおそこから六千キロもの距離をひたすら南下すれば、その南端は北緯十八度ほどの極めて温暖な地帯にまで至り、それは地球で言えば、まさにハワイ付近の緯度にも比定することが出来る筈だ。

その大陸は、若者が終始直轄領にすべく強い拘りを示したものだけあって、地球ではとうに滅びてしまったような生物まで共棲している筈だと囁かれ、目下研究者たちにとっては特別な興味を惹く対象となっており、現にその地の内水ではチョウザメなど大型の魚類資源も豊富で、北方の内陸ではトラや日本狼、或いはジャイアントパンダなども数多く棲息すると言われている。

しかも、膨大な地下資源の存在がとうに確認済みでありながら、まったく開発される気配も無いことから、若者の意図するところは、この大陸の自然保護にあることは誰の目にも明らかであったろう。


やがて三月三十一日に至り、日本の第二次分割案がワシントンに齎され、四日後には、七カ国協議のテーブルに提示されると共に各国当局にもその公告がなされた。

その案においては、主として台湾の主張が大きく実現され、その他にも僅かに修正の跡が見られはしたが、従前のものと比べても基本的に大同小異と言って良いもので、それに従えば合衆国の領土などは概ね六割ほどに削減されてしまう以上、無論白頭鷲の賛同を得るものでは無い。

この頃には、既に七カ国それぞれが個別の具体案を提示するに至っていたが、米国のそれが従前の主張ばかりを色濃く反映するものとなっていたことから、殊に仏独中露あたりから強い反発を招いてしまっており、一人英国政府ばかりが間に入って必死に駆け回る構図なのだ。

また、中東諸国に関する配置案についても、新天地におけるイスラエルの地政学上の位置付けがしきりに問題視されはしたが、米英独の弁論は不活発なものばかりであり、日本及び中露の「アラブ諸国とは出来る限り引き離すべし」とする配分案にしても、その評価はあまりはかばかしいものとは言えなかった。

一方アフリカ内部の線引き作業にしても、アフリカ連合(AU:African Union)が中心的役割を果たしつつあるとは言いながら、モロッコとサハラアラブ民主共和国(西サハラ)及びソマリランド共和国などなど、波乱含みの案件を数多く積み残しており、今現在もキャサリンのグループなどが懸命に動いてはいるものの、とてものことに解決の道筋に近づいているとは言い難い状況にある。

主権国家を現に標榜する者に対し、国家としての承認を与えるか否かは自国の国益の根幹に触れる問題であり、現実にその国家の存立に反対する者がいる以上、往々にして「正義」と言うものが複数あることになってしまう。

諸国民にとって必ずしも「正義」が同一のものにはならないことが、数々の不幸を生み続ける原因だなどと言う者もいるが、そもそも「正義」が複数あること自体、人類にとって上古以来ごく自然のことわりであり、今更そのような抽象論を一席ぶって見たところで何の役にも立たないことは明らかだ。

シエラレオネやリベリアの問題にしても、英米両国の薄汚れた人道主義が多くの不幸を招いていることも確かで、白人たちによる長期にわたる欺瞞と暴力が、アフリカ連合の内部にも未だに複雑な影を落とし続けているのである。

そのアフリカ連合の内部組織である平和安全保障委員会の中にさえ、実にさまざまな見解があり、近頃では、過度的な措置ではあるにせよ、秋津州国王に「アフリカ連合常設平和維持軍」の旗を預けたいとする者まで出る始末だと言うが、無論、秋津州国王の容れるところでは無かった。

尤も、キャサリンなどに言わせれば、それなどは、本来最も大切なものであるべき民族としての自決権を自ら放擲する行為に他ならず、本来民族の自決権は自らの知恵と血を以て購うほかに道は無いことになるのだ。

彼女は、そのためには、外部からの容喙など絶対に許さないと言う確固とした覚悟が必要であり、そのことを以て全ての行動指針の根幹に据えるべきだとしているほどだ。

但し、生きるすべを失ったみどりごが秋津州によって無償の保護を受け、教育を受ける機会まで与えられている現実には、感謝の念を禁じ得ないとしており、殊にまったく見返りを求めること無く、現地の争いにも一切の介入を否とする国王の姿勢には崇敬の念まで抱いてしまうほどだと言う。

だが、現実にはケンタウルスの一件が眼前にある。

民族自決の原則から言って、或いは国家としての根源的な責務から言っても、現在秋津州に引き取られている孤児たちは、全てそれぞれの国家が引き取った上で、来るべき混乱の時に備えるべきだと主張しており、今やアフリカ連合においても同様の意見が多数を占めるまでになったと言う。

しかも、このことを子供たちの母国の冷酷な棄民政策だとしてメディアが競って取り上げるまでになったことから、皮肉なことにそれぞれの政府がその当事者能力について一斉に非難を浴びるに至り、俄然各国政府が当事者能力を持つことを主張し始めた。

国家としての面目もあり、アフリカ以外の国も追随する動きを見せ始め、既に一部については孤児たちの帰国事業が密やかに始まってしまっており、早晩その全てがそれぞれの政府に引き取られて行くことになると報じられてもいる。

だが、それらの国々の政情は必ずしも好転しているわけでは無いのである。

幼い孤児たちには過酷な運命が待っているだけだと見る向きも多く、哀しむべきことに、帰国を果たせたからと言って生き延びる機会が与えられるとは限らないと言う。

国王にして見れば内心憮然たるものがあった筈だが、正統な政権が国家として保護すると言っている以上、秋津州側に表立って異議を唱える資格などは無い。

結局、若者の意に反して、やがて全ての孤児が秋津州を去ってしまうのである。

NBS支局長のビルなどは、国王との会談の席において、意外なほどの悲嘆に接したこともあり、王の意図するところが一つのニュースになった。

何せ、その席でインタビューに応えて若者が述べた言葉がまことに象徴的なものであったからだ。

「ともかく、こどもたちを殺さんでくれ。」

と、嘆いたと言うのである。

若者は、幼い者たちが生き延びてくれることをひたすら願っており、その想いばかりが際立つばかりだ。

まして、若者の庇護を受けた孤児たちは、生年月日どころか本名さえ不明な者ばかりで、判っているのは保護を受けた日時と地点だけであり、唯一の救いは、そのときの状況を克明に記録した映像が残っているだけだ。

無論、その子を保護するに際しては、その国の政府にも明確に公告を為した上で引き取って来ており、秋津州風の姓名と衣食住を与えられた孤児たちは、秋津州の天地と各村落の住民の輪に包まれて伸び伸びと暮らしていた筈であり、自然、一様に別れを悲しむことになる。

そのため、引き取り手である政府によっては、本人に事実を告げない場合もあったらしく、中でも、帰国時において六歳とカウントされていた一人の男児などは、事態を従前通りの一時帰国だと認識していたくらいだ。

何しろ、その子などは既に三年余も秋津州で暮らして来たのである。

東アフリカのある地域において、村中の者が家を焼かれ、そして殺され、悲惨な状況から見てその両親も流血の中で絶命したと思われる中、その子は村の中ほどの地点で多くの遺体に囲まれるようにして発見されたことから、のちに村中太郎と命名されたと言う。

発見時に心拍停止の状態であったものが、現地のアキツシマ学校の教師役を務めていた女性型ヒューマノイドが抱き上げたところ偶然にも蘇生し、その子は危うく一命を取り留めたとされるが、当時、付近一帯に生存者はただの一人もおらず、無論その国の国家機関に通告はしたものの、当然のごとくその反応は鈍いものでしかない。

何せ、国中が大動乱のさなかであり、保護を要するような孤児などそこらじゅうに溢れてしまっており、赤子の一人や二人にかかずりあってる余裕などある筈も無かったろう。

とにかく、その子の引き取り手など只の一人も現れなかったことだけは確かで、放置すれば幼い生命は間違いなく途絶えていたことになるのだ。

そのような経緯で引き取られた孤児は、その後数年に及ぶ秋津州での生活を体験し、その間国王夫妻の膝で甘える機会さえ多く持ち、僅かではあっても立川みどりや佐竹有紀子とも接触する機会があっただろう。

そして直ぐに戻って来るつもりで帰国して行ったことになるのだが、いつの日にかきっと事実を知るときが来るに違いない。


キャサリンは、不幸にもこれ等の件において主導的な役割を果たすことになってしまったが、若者の悲嘆についてもとりわけ重く受け止めざるを得ず、さまざまに思い悩んだ末、改めて国王との面会を求めるに至った。

既に触れてきた通り、彼女は若者との間に、ここ数年来さまざまな「えにし」を持ち、一時はメディアから王妃候補の一人として扱われることすらあったほどで、男女間のあれこれこそ無かったが、純粋に人としての濃密な交わりがあったのであり、少なくとも二人の間に通い合う何ものかがあったことは事実だ。

それこそが、人としての情と言うものであり、だからこそ彼女は心から詫びねばならぬと思い定めたのであろう。

何せ、彼女にとっての若者は尊敬すべき一国の指導者でありつつも、ときに愛すべき弟のような顔まで併せ持っていたのである。

彼女はその弟に詫びるべく入国したことになるのだが、外事部にダイヤルしただけで即座に王宮の掘り炬燵に招かれたことが、極めて特徴的だったろう。

タイラーなどが聞けば身を震わせて怒ったところだろうが、これも彼女が若者の設定していたある種の「結界」の内側に棲んでいたからに他ならない。

無論その結界は、あくまで精神上のものであり、目に見えるもので無いことは勿論なのだが、その内側に棲む者こそ若者にとって確かな友人であったのだ。

その結果、彼女を苦しめていた慚愧の念は著しく軽減されることになった。

王妃の接遇を受けながら僅かな会話を持っただけで、若者が彼女の一連の行為を、言わば当然のことと受け止めていたことが判然としたからだ。

その上、近頃の奔走振りについても、よほど好意的な評価を下してくれていることが伝わり、丹波の状況に関してもさまざまに情報を与えてくれた上、丹波の現地をさえ案内してくれたのである。

その情報のひとつひとつが、彼女の以後の活動において極めて有意義なものになったことは確かだろう。


二千八年四月十日、王と女帝(秋元京子)との特殊な通信。

王は妻子と共に王宮にあり、女帝は東京の総理官邸に所在している。

王宮の居間の床の間には、例の「蝿叩き」と「山姥」があり、夫妻の傍らには満ち足りて眠る王子真人の寝顔も見ることが出来るだろう。

「恐れ入りますが、いささかご報告がございまして。」

「申せ。」

「このたび、特別旅団の編成が完了致しましたので、この辺でご覧に入れて置きたく存じます。」

「ふむ、ならば、そろそろ配備に移るとするか。」

その新生旅団は未だ地球上空のファクトリーにあり、丹波への配備に当たっては、無論若者が自分で移送して行くよりほかは無い。

「装備に少々工夫をさせていただいておりますので。」

「しばらく待て。いま準備をしておる。」

微細なトラフィックを通じてさまざまな映像情報が送られて来ていたが、かたわらの王妃には何一つ感得出来ないため、若者はその映像の美麗さ故に王妃にも見せたいと思ったのだ。

そして「準備」とは、掘り炬燵の上で妻のノートパソコンを起動させることだ。

最近日本で買い求めたそのマシンは、かなり高機能のグラフィックボードを具えており、精細な表示能力が一段と彼女のお気に入りでもある。

「承知致しました。」

今しもそのマシンのUSBポートに差し込まれたものがあったが、これだけはいずれのショップに出掛けても決して購うことは出来ないものであり、無論天空のファクトリーで独自に造られたものなのだ。

以前にも触れたがその機器には微細なポートが備わっていて、今、一体のG四が導体となるべくぴったりと嵌まり込んだところだが、マシンのOS側からは、一般に市販されているごくありふれた周辺機器の一つだと認識され、待つほども無く、東京から送られて来る情報が、この何の変哲も無いマシンのモニタ上に映し出される。

「まあ、綺麗ですこと。」

それを見て王妃が無邪気に声を上げた。

モニタが、年若い「かんなぎ」たちが軽やかに身動きする姿を流麗に映し出していたからである。

その少女達は、ご多分に洩れず白衣をまとい緋の袴を着けており、中の一人などは白衣の上に広い袖口を持った白の「千早」を長々と重ね、その腰には黄金(こがね)造りの太刀まで佩いていた。

墨で描いた八咫烏を浮かべた千早は透けるほどに薄く、その袖口や長めの裾が少女の身動きに連れてときに軽やかに舞いあがるところなどは、まるで華麗なファッションショーを見るようだ。

言わばモデルを演じている娘たちは計ったように色白の美女揃いで、長い黒髪を紅白の水引を以て後ろで束ね、その先を和紙で包んでいるところまでは皆同様であったが、太刀を佩いている娘が着けているのはどう見ても馬乗袴(うまのりばかま)であり、よほどしっかりした襠(まち)を入れているらしく、その立ち居振る舞いをなおのこと凛々しく見せている。

王妃が興味津々に見入っているうちに、千早を着けている方の娘が小さな金色(こんじき)の冠を着けた姿で登場し、ふわりと宙空に浮かび上がったと見るや、やにわに腰をひねりざまきらりと太刀を抜いた。

細身の刀身が打ち振られるたびに眩いばかりの光芒を放ち、黄金の柄頭(つかがしら)から伸びた真紅の刀緒(とうしょ)が舞い踊り、如何にも目に鮮やかであった。

「ふうむ。」

「如何でございましょう?」

「何も、ここまでこだわることもあるまいに。」

若者自身はあまり乗り気では無いようだ。

「この装束につきましては、全て陛下ご自身のお指図から発展した意匠ばかりでございます。」

「ほい、そうだったか。」

照れくさそうに苦笑いをしている。

「さようでございますとも。」

幼い頃の若者は日本の地誌風俗に非常な興味を示し、さまざまな資料に目を通す機会もふんだんにあった筈で、この派手やかな装束一つとっても、その基本形だけは間違いなくその資料の中にあったものなのだ。

成人した今とは違い、資料の中に登場する舞女(まいひめ)たちの、目も絢(あや)な衣装に強く惹かれたのも当然の事であったろう。

「しかし、衣服として機能的なものとは言え無かろう。」

「それは、その通りかと存じます。」

「それに、汚損分の補充がまた苦労であろうが。」

その装束は、少なくとも丹波の大自然の中で身動きするには、到底ふさわしいものとは言えないだろう。

「その点、今後は全て丹波でのことでございますから。」

無論丹波には広大な直轄領があり、天空のファクトリーもその付近の空に常駐する筈で、それ以後は資源の確保自体、若者の移送能力に拠らなくとも済むのである。

「ふむ。それにしても無駄ではあるまいか。」

そのとき、再び王妃から声が掛かった。

「ほんとに綺麗ですこと。」

鶴の一声であったろう。

若者のクレームはぴたりと已み、その後、美しいモデル嬢の装束は多彩なバリエーションを見せた挙句、見事な剣舞まで披露するに至ったのだが、その舞の最中(さなか)に驚くべきことが起きた。

彼女の頭上に一羽の烏(からす)が現れ、極めて自然な動きを見せながらその肩先にとまったのだ。

良く見れば足が三本ついており、それから見れば秋津州の国鳥とも言うべき八咫烏そのものなのである。

「ふうむ、マザーもよほど頑張ったと見えるな。」

その八咫烏は、今も空中で自在に停止したりしてさまざまな動きを見せているが、若者の目にさえ生きているとしか思えないほどの出来栄えなのだ。

「はい、大分ご苦労なさったと聞いております。」

「さもあろう。」

超小型のPMEと柔軟かつ頑健な腱を数多く組み合わせ、それらをコントロールするために持てる技術の粋を集めたものと言って良い。

鳥類が飛び続ける際に消費するエネルギーには膨大なものがあり、ロボット単体でそれだけのものを継続して確保することなど最初から無理があり過ぎる上、一部の鳥類は空中で羽ばたきながら停止することが出来るが、左右の羽ばたきを以て「機械」にそれをさせ続けることは先ず不可能に近い。

それほどまでに飛行する鳥類のロボット化には困難な点が多いが、秋津州には高機能かつ耐久性に優れたPMEがあり、超先進的な技術があると言うことなのだろう。

「ところで、そのマザーと言う呼び方もそろそろお改め下さったほうがよろしいのでは。」

そもそも、この人工知能の呼び名は、若者自身がそう呼び始める前までは「マザー」などでは無かったのである。

「ふむ、そう言えば前にも言われたことがあったな。」

少なくとも、若者の即位以前はずっと『おふくろさま』だったのだ。

「新田さんなども、『おふくろさま』の方がよほどしっくり来ると言っておられましたわ。」

「うん、私も最近そんな気がしていたよ。」

未だ幼なかった若者が英語と言う外国語教育を受け始めた頃だったためか、単に「マザー」と言う呼び方を好んだからに他ならないが、秋津州戦争を戦ったあとの若者は格段に成長の跡を見せ、著しい変貌を遂げてこんにちに至っており、堂々たる主権国家の元首として既に幼さなど微塵も残してはいない。

「それでは、これも御覧いただきましょう。」

新たな映像が送り込まれ唐突にモニタを飾ったが、それは、長さが百六十センチ、幅と高さがそれぞれ八十センチほどの金色燦然(こんじきさんぜん)たる黄金(おうごん)の櫃(ひつ:箱)だったのだ。

豪奢な装飾を与えられ、その四隅に重厚な造りの脚部を見せているが、これにしても全て黄金製なのだろう、高々十五インチほどの画面上でさえ圧倒的な存在感に溢れ、荘厳なまでの輝きを放っている。

分厚い蓋の上部には何やら羽を広げた二羽の鳥像が立っており、金色の体を三十センチほど離れた位置で互いに向き合う構図で、良く々々見ればこれもまた八咫烏なのだ。

さらに側面には見覚えのある武神像と八頭の逞しい獣の姿が刻まれ、見る者全てに秋津州の象徴の如き印象を与えずには置かないだろう。

「ほほう、わざわざ新調致したか。」

「はい。先日荘園から大量に補充していただきましたので、早速に。」

近頃大量の金が、資源の一部としてファクトリーに補充されたと言う。

周知の通り、金(きん)は多種多様の工業生産において多用されるものであり、若者が輸送してくる諸物資の中にも常態として含まれているものでもある。

産出元の荘園では、現に巨大な埋蔵量を誇る優れた金鉱山が多数存在し、必要に応じて膨大なヒューマノイド兵が投入されて採掘と精錬の作業を担う。

新しく領土とした第四の天体などでは、トン当たり一キロなどと言う途方も無い含有量を誇る金鉱脈まで発見されるに至り、いみじくもその天体は「佐渡」と名付けられ、大規模な作業部隊が送り込まれた結果、かつて地球から搬入された「もの」のほとんどを消滅させてしまった。

「今度のは、多少は丈夫に致したか?」

周知の通り金は、金属としては異様なほどに柔らかい。

「純度を落とさぬようになさったようで、四トンを超えてしまったようでございます。」

金そのものの純度を落とさずに頑丈さを追求した結果、その分だけさらに重量が増してしまったと言うのだろう。

「何だ、又しても純度にこだわったのか?」

話の様子では、何度目かの新調だったようだ。

詰まり、過去において複数回破損の憂き目を見たことになる。

このとき、王妃がぽつりと呟いた。

「これが八咫烏の長櫃(ながびつ)なのですね。」

この「八咫烏の長櫃」が初代君主の亡き後に造られ、その後秋津州代々の至宝であり続けたことは王妃も聞き及んでいたのである。

「うん、昔、私が思い切り壊してしまったヤツさ。」

「確か、滝つぼに落としてしまわれたとか・・・・」

八歳で即位した直後、当時未だ丹後にあった秋津州で、不遜にもあの洞穴の奥から持ち出そうとして、龍神の滝の滝つぼに落としてしまったものなのだ。

一族にとって最も大切に扱われるべき宝物(ほうもつ)が、落ちて行く途中、崖の岩盤に何度も打ちつけられ、ひどく変容してしまったのだが、当時のものでさえ優に三トンは超えていたとされ、未だ瞬間移動の特殊能力が未発達であった幼童にとっては、さぞかし手に余るものがあったに違いない。

「二度目は地震で台座から落ちてしまって、それ以来さ。」

このときは、丹波が異星人に襲われ苦労して撃退した直後のことでもあり、王自身は不在であったが、やはり丹後の秋津州の洞穴で木製の台座が地震で崩れ、載せてあった長櫃が落下してしまったケースなのだ。

素材が純金と呼んで良いほどのものであったため、たった一メートルほどの高さから落ちただけで無惨に変形してしまい、その後長いことファクトリーで眠っていたが今新たに蘇ったと言うのである。

「大切な剣(つるぎ)が納められていたそうですわね。」

王妃の顔は笑いで一杯だ。

「うん、あれは一生の不覚であったわ。あっはっはっはっ。」

その「宝剣」は、初代の君主が佩用したものと言う伝承があり、幼い王が数百キロもある蓋を開けて持ち出した挙句紛失してしまったのだが、何処で紛失したものかまったく記憶が無い。

尤も、実際に引き抜いてみたところ、少年の記憶に残るその刀身は何のことは無い、只の赤錆びた細い鉄の棒であったのだ。

無論、純然たる儀仗用のものであったに違いない。

王妃愛用のマシンのスピーカーは東京からの音声情報を齎し、新たに女帝の言葉を伝えて来ていた。

王妃の耳にも直接聞こえるよう配慮して、わざわざ声に出して話しているのだろう。

「今までのものの中でも最高の純度で、これ以上のものは無いと伺っております。」

無論、長櫃の素材である金の純度のことであったろう。

「重くなるはずだ。」

ちなみに、純金の比重は大雑把に言って二十に近い。

詰まり、同じ体積の水と比べ、純金は二十倍近い重量があることになる。

「台座用に、このようなものを用意してございます。」

再びモニタの映像が切り替わり、続けて映し出されたのは、江戸時代の旅人(たびびと)が川を渡る際に用いたとされる輦台(れんだい)のようなものであり、正方形の桟敷席の四方を欄干を以て隈なく囲み、輦台を担うための太い棒が前後左右にそれぞれ二本ずつ長々と突き出していた。

まして白木造りに見えるその輦台自体が二間(にけん)四方もあり、肝心の長櫃と比べて如何にも不釣り合いな大きさなのである。

「ふうむ、これは木製か?」

そこには、現に素朴な木目(もくめ)模様が見えているのだ。

「いえ、木製に見せかけた合金製でございます。強度のこともございますので。」

何せ、四トンを超えようかと言う重量物を載せるのである。

「直に長櫃を載せるのか?」

「その折りには、二尺ほどの台座を別に設えたものを用いることにしてございます。」

「移動の折りには相当揺れることもあろう。まさか崩れ落ちることはあるまいな。」

現に王自身が落としてしまった経験を持っているくらいだ。

「その場合の台座は輦台と一体成型でございますし、大事をとりまして台座の上部には長櫃の脚部に合わせた窪みを設けてございますので、相当傾けましてもずれ落ちるようなことはございません。」

なおかつその窪みの表面には、特殊な素材を用いて充分な軟性をも与えている。

「詰まり、嵌まり込むような構造なのだな。」

「さようでございます。その他にもさまざまな構造物を取り付けてございます。」

「ふうむ。」

「例えば、大小の椅子なども取り付けてございまして、ずいぶんとお役に立とうかと存じます。」

「それにしても、この担い棒はひどく長いな。」

それぞれの担い棒には、七・八人の担ぎ手が楽々と肩を入れることが出来そうだ。

「通常は引き抜いて置けるようにしてございますし、そのほかにも少々工夫がしてございます。」

「ほう。」

「例えば、この台座自身が空中を自力で動き回れるような造りにしてございます。」

「また、良からぬことを企んでおるのではあるまいな。」

口振りから言って、ほかにもさまざまな機能を造り込んでいるに違いない。

「先々、必ずお役に立とうかと存じます。」

その後もモニタには大小さまざまな「輦台」に混じって、色鮮やかに彩色されたものまで登場し、そのいずれもが宙空を自在に飛行してみせたのである。

「最後に秘密兵器をご覧いただきとう存じます。」

「未だあるのか。」

「申し訳ございません。」

又してもモニタの映像が切り替わり、そこにはまことに奇怪なものが映し出された。

華麗な装束を纏った美少女のそばに、悠然ととぐろを巻く大蛇である。

それも、途方も無く大きい。

恐らく、牛馬どころか象をもひと飲みに出来るだろう。

ライティングを浴びて不気味に浮かび上がった大蛇には巨大な角(つの)があり、かつ長々と伸びた髭(ひげ)まで生えており、鱗を光らせながら悠然と鎌首をもたげて見せたときには、五本の指を持った足まで見えていた。

何とそれは、伝説の中に生きる怪物、龍だったのだ。

それも如何にも東洋風の姿をしており、体を伸ばせば、恐らく四十メートルはあろうかと思われるほどである。

「なかなかに大きいものだな。」

「これでも小型でございまして、別に大型のものも用意してございます。」

「何、これでも小型だと申すか?」

「さようでございます。大型のものは体長百メートルほどもございましょう。」

「いったい何に使うつもりだ?」

若者は、さも呆れたと言う表情を浮かべている。

「陛下のほうに腹案がおありになれば又別の話でございますが、とりあえずは、磐余の池の守役と言う役どころがよろしかろうと存じます。」

「いつの間に造っておったのか。」

「お申し付けにより、基礎設計だけは十年も前に出来(しゅったい)していたのでございますが、その後さまざまに予期せぬ繁忙期が続き、遂に今日になってしまったとのことでございます。」

つまり、これも又、未だ幼かった頃とは言え、若者自身がおふくろさまに命じたことであったと言う。

無論、その後異星人の大規模侵攻があり、長期にわたる血みどろの防衛戦があった。

甚だしく衰耗してしまった兵団の再建と言う大事業があり、その後秋津州の移転作業をやっとの思いで成し遂げたと思えば、息つく暇も無くあの秋津州戦争があったのだ。

関係諸国に行ってきた壮大な規模の支援にしても、ようやく一段落したばかりだ。

急ぐことではないと命じられていたことであったにせよ、おふくろさまが、やっと積年の使命を果たせるだけの余裕を持てたことにはなるのだろう。

「ふうむ、そう言えば確かに命じたことがあったわ。」

言わば、単に少年の日に抱(いだ)いた、それこそ幼い夢想の中の怪物に過ぎなかったものが、いままさに堂々たる現実感を伴って眼前に現れ出でたことになるであろう。

「わたくしどもは、決して王命を忘れることはございません。」

「そうか。十年も経てば、真人(まひと)のオモチャぐらいにはなるかも知れんな。」

王の口調が弾んでいた。

「それでは、別に頭の上にでもキャノピーを取り付けましょうか?」

キャノピーとは、言わば戦闘機の風防付きの操縦席のようなものであろうが、その口振りでは龍の内側にとうに用意済みであるようだ。

「いや、冗談だ。」

「承知致しました。」

「ところで、この独立旅団は十個連隊に別途輜重部隊が付く編成であったな。」

「はい、全て女性型にせよとのお申し付けでございました。」

「その上、このオモチャまで編入する気か。」

「さようにございます。」

「ふうむ。」

「当座の旅団長職には妹の滝を臨時に宛ててございますが、何か不都合がございましょうか?」

日本人秋元滝は言わずと知れた秋元姉妹の四女だが、当人はとうに丹波に赴任しており、この新たな職責についても、女帝はよほど以前に命じてあったものと見える。

「ふうむ、何から何まで・・・・」

「よろしければ、お直き々々に現地にて補任(ぶにん)をなし下されますよう。」

「うむ。世が落ち着けば、甚三(じんざ)の指揮下におくことになろう。」

なお、甚三(じんざ)とは、無論近衛軍司令官准将井上甚三郎のことだ。

ちなみに、その他にも八人の兵団司令官たちが揃って准将に補されているが、一つ下位の軍団司令官などは高々上級大佐であり、そのまた下位の師団長職に至っては只の大佐でしか無い。

「かしこまりました。」

「この場合の旅団長職は中佐で良かろうな。」

「当分は従前の職制のままでよろしいかと存じます。」

「当分は、と申すか?」

「先々は、丹波において他国軍との交流もございましょう。」

「ふむ、現在でも日本軍と交流をしておる。」

現に便宜上のものとは言いながら、秋津州軍にもれっきとした潜水艦隊が存在しており、その艦長職は同時に一個小隊を統べる「少尉」クラスの者が務めている。

秋津州の正規の軍艦であることを国際的に標榜する為には、秋津州の正規の軍人が乗艦し直接指揮監督に当たる必要があるためだ。

尤も、一部にはこれを以て正規の軍人とは認め難いとする議論もあるにはあるのだが、それはさておき、ひるがえって日本の海自の場合、二佐(中佐)クラスがその職に就いているのが実情だ。

詰まり、その艦内においては、秋津州軍の少尉クラスと海自の二佐(中佐)クラスの者が、奇しくも同一レベルの軍務責任を担うことになるのである。

無論、何れの国の軍隊でも少尉と中佐とでは、その階級と職責の差は天地ほども異なっている。

「はい、互いの階級がかなりアンバランスなものになることは、考慮しておかれるべき問題かと存ぜられます。」

現実の秋津州軍においては、例えば十三万もの大兵を率いる中隊長職が高々中尉であり、一千六百万以上を指揮する大隊長職ですら大尉クラスだ。

まして、彼等の全てが宇宙軍であって、陸海空の区別など一切存在せず、言わば常にその全てを兼ねている事になり、そもそも戦力規模と言い、或いは戦闘能力と言い、他国の軍とはそのレベルからしてかけ離れたものになってしまっているのである。

現に秋津州の一個小隊は、相手が敵対する意思を明らかにしている限り、如何なる国軍といえども、その全軍を相手にしてもなお軽々と沈黙させてしまえるほどの「能力」を持つに至っている。

何せ大量のD二とG四が独自の攻撃力を具えた軍事衛星として自在に先行展開し、優れた通信機能と索敵能力、そして俊敏な機動力を兼ね備えている上、戦闘行動半径がこれまた比較にならないほど懸絶してしまっており、それほどの恐るべき戦闘単位がたかが少尉の指揮する一個小隊なのだ。

いかに国際間の軍事交流を想定しておこうにも、戦力規模から言ってそれぞれの階級を揃えることなど土台無理な話ではある。

「アンバランスであっても、別に問題は無かろう。」

その交流の場合、相互の軍人たちの間では、それぞれの階級を以て儀礼上の位置付けをせざるを得ないのだが、どうやら若者は、国家間の階級上の儀礼など問題にもしていないようだ。

「承知致しました。」

「第一、我が軍が実戦において他国の指揮を受けることなどあり得んのだから、平時のことなど何の問題もあるまい。」

「はい。」

「平時の軍事交流など、通常の外交儀礼と何等変わらん。」

だが、実際には平時の外交儀礼においても職階の上下は大きく関わって来るのである。

「その外交でございますが、ワシントンは相変わらずでございます。」

例によって、新天地の分割構想が愚かにも虚空を彷徨ってしまっている。

「そのようだな。」

「そろそろ残り時間が少のうなって参りましたが。」

「もう少々待つほかは無かろう。」

「お言葉ではございますが、丹波の受け入れ準備には相当な期間を要すると見るべきかと。」

受け入れ準備がなされないと言うことは、最悪の場合、茫漠たる未開の原野に単に彼等を放り捨てるに等しい。

何せ、現代人ほどひ弱な動物は他に例が無い。

実行時の自然環境によっては、半数が生き残れれば未だ良い方だろう。

「だが、この時点で強制すれば、ヤツ等は未来永劫納得すまい。」

若者の基本戦略にとって、このことこそが実に多くの足止めとなっているものなのだ。

「ワシントンでは、近頃、大分、折れて来ている者もおるようでございますし、この辺でそろそろ圧力をお掛けになられた方が・・・・」

「いや、未だ早い。」

「・・・。」

「出来うれば、ヤツ等にも最後のチャンスをくれてやろうと考えておるところだ。」

自らの運命を自らの意思を以て決定し得るチャンスのことを言っている。

「それでは、改めてお指図がございますまではこのままに。」

「それで良い。」

「承知致しました。それでは、これにて失礼させていただきます。」

「うむ。」

海都との通信は切断されたが、女帝の作業は相変わらず繁忙を極めている。

多数の配下を使って今もさまざまな作業を継続しており、主として日本国内に棲む人々のデータの整理に忙殺されていたが、それも既にその概ねを完了させつつあると言って良い。

そのデータの中には、近頃頻繁に王宮を訪れるようになった一人の孤児のものも含まれ、殊更念入りに調査が進んでいたが、彼女にして見ればこれも当然のことだったのだ。

その三歳のおさなごは王妃からも格別に愛されている上、未だ片言も話せぬ王子に対しても姉のような心持ちでいるらしく、既に王の定める「結界」の内に確実に入ってしまっていたからだ。

かつては諸国から引き取って保護を加えていた孤児たちがあったが、王は近頃その全てを失ってしまったばかりでもあり、たまたまその代わりのようにして現れたこの少女には、格別のものを感じている気配さえあるのだ。

まして、国王夫妻の愛情を良いことに、たった三歳の孤児が無邪気に甘えることを覚え、今では実の家族のようだと言うものさえいるのである。

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  1. 2007/08/20(月) 14:38:56|
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