日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 089

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さて、話は変わるが、このところのNBSが発信した丹波報道の中に殊更刺激的なものがあり、少なからず世を騒がせることとなった。

目下注目を集めている例の磐余の池(いわれのいけ)に関わる一件であった上、それも最新の映像と言う前宣伝があったこともあり、当然そのドキュメント番組は非常な前評判をとり、多いに大衆の耳目を惹きつけ、放送後にあっても盛んに話題を振り撒くことになるのである。

やがて放送の当日が来て、話題の番組でその冒頭を飾ったのは、広大な「湖面」を静々と進む一艘の和船であった。

そちこちで白波が朝日を映して眩く光り、その湖面は海かと見紛う程広大で、カメラアングルによっては対岸どころか陸地そのものが見えない。

当然、前宣伝で触れていた通り、磐余の池の一風景であっただろう。

どうやら、今、朝日を浴びて湖面を進むこの和船こそ番組の主体となって行くものらしい。

真新しい白木造りのその船は、幅三メートル、長さ二十メートルほどと、そこそこのサイズを具えてはいたが、奇妙なことにどう見回しても船外機どころか櫓も櫂も無い。

いわゆる世間一般で言うところの推進装置を何一つ持っていないことになるのだが、それでも、その船は自在に動いているように見えていた。

ナレーションによると、磐余の池の中ほどに浮かぶ宮島から「漕ぎ」出したものだと言うところを見ると、例の運河の奥の船着き場から出て来たものには違いなかろう。

何せ、その島には島中捜しても桟橋らしきものが他に無いのだ。

和船は淡々と進み、やがて宮島から一キロほども西進したところで動きを止め、今しも何やらセレモニーを始める気配だ。

無論、船上には人がいる。

数えるまでも無く四人だ。

それも、四人全員がうら若き美女であるばかりか、それぞれが華麗な衣装を纏っていたのである。

上半身は純白の衣服を着け、真紅のロングスカートをはいているが、そのスカートはどうやら袴(はかま)と言うものであるらしい。

全ての娘たちが長い黒髪を纏めて後ろに垂らし、それを真っ白な紙のようなもので包み込み、それでなおその髪の根元を紅白の細い紐のようなもので結び留めているが、その紐が僅かに左右に伸びているところなどもまことに鮮やかな光景だ。

中でも舳先に立っている娘などは、小さな金色(こんじき)の冠を朝日に照り輝かせながら、白く薄手の上着を長々と重ね着しており、挙句に黄金造り(こがねづくり)の太刀を腰にして際立った凛々しさを見せている。

後方に片膝を立てて控えている乙女たちが、それぞれ敬虔な面持ちで舳先に立つ娘を見上げているところを見ると、舳先に立って前方を見つめている乙女こそが、このセレモニーの主役を務めることになるのだろう。

ナレーションは言う。

このセレモニーは、宮島の神域で主要な神殿が落成したことを記念して行われるものであり、これにより、その神殿の主体となるものを迎え入れる準備が整う筈だと言う。

その「主体となるもの」とは何なのかは、どうやら今後の取材に待たねばならぬものらしいのだが、少なくとも船上の乙女たちにとっては極めて重要なものであるらしい。

そして今、主役の乙女が後方から差し出された白木の三方(さんぽう)を両手に捧げ持ち、船の前方に向かって恭しく一礼してから、三宝の上の白い供え物を湖面に落とし込んだが、どうやら、それは幾つかの餅であっただろう。

乙女は空になった三方を後方に下げ、湖面を吹き渡る微風に白い頬を嬲らせながら、今きらりと太刀を抜いたところだ。

そして、緩やかな身振りで舞い始めた。

刀身が額を飾る金色(こんじき)の冠とともに陽の光を浴びてきらきらと輝き、裾長のころもを風になびかせているありさまは、見る者全てに、えも言われぬ荘厳な感覚をさえ伝えて来るのである。

乙女はゆるゆると舞い続け、その動きに連れて船がわずかに揺れ、周囲にさざ波を起こしている。

やがてその舞が一分ほど続いたところで、前方に重大な変化が起こった。

舳先から五百メートルほど離れた湖面が激しく波立ち、巨大な怪物が姿を現したばかりか、やにわに高々と鎌首を擡げて見せたのだ。

言うまでも無くそれは「馬酔木の龍(あしびのりゅう)」に違いなく、その巨大さは噂どおりのもので、水面から出ている部分だけでも優に十五メートルはあっただろう。

そして悠然と泳ぎ寄って来る。

たてがみを靡かせながら近づくに連れ、長い角(つの)と見開かれた眼(まなこ)が如何にも恐ろしげで、気の弱い者ならその場に卒倒してしまったとしても不思議は無い。

その後方からは子供たちででもあろうか、幾分小振りのものが同様に鎌首を擡げたまま多数従って来ており、ざっと数えただけでもその数、百頭ほどにもなるようだ。

中でもカメラが捉え続けた最大の怪物は、やがて舳先付近にまで鼻先を近づけおもむろに鎮まったが、その表情は、見ようによっては哀しげなものに見えなくも無いのである。

巨大な鱗(うろこ)がところどころ、陽の光を照り返して眩いばかりだ。

だが、この式典の主役を務める乙女は、まったく恐れる気配も無く、しばらくの間近々と怪物の表情に見入っていたかと思うと、やがてゆるゆると右手を動かし黄金(おうごん)の剣を高々と天にかざした。

柄頭(つかがしら)から垂れた真紅の刀緒(とうしょ)を風に靡かせながら、その剣先(けんせん)は誤りも無く天空を指し示しており、怪物の視線が明らかにそれを追っていた。

そして、ほどもなく子供たちを引き連れてゆっくりと船を離れ始めた。

波を蹴立てながら、今来た方に整斉と戻って行くのである。

カメラがその軌跡を追う中で、その怪物たちは直ぐに二キロほども離れて行き、再び仰天することが起きた。

全ての怪物が上半身を現したと見る内に、何と、凄まじい水しぶきを上げながら天に向かって昇り始めたのである。

これこそ、世に言う昇り龍の姿であったろう。

乙女の剣先はいまだに天を指しており、あたかもその命に従っているかのようでさえあったのだ。

素晴らしい速度で上昇を続けた怪物たちは、間もなく僅かな点となり、そして見えなくなった。

カメラの視界の中では、式典を終えたらしい船が燦燦たる朝日を浴びながら、今しも湖面を滑るようにして去って行くところなのである。

その船が宮島を目指して徐々に小さくなって行く姿を追いながら、再びナレーションが入った。

あの怪物どもの行動は、偏(ひとえ)に船上の美女の命に因ったものに他ならず、それは美女の命じた遣いをするためのものなのか、それとも或いは何かの慶事のために幽囚の身を解き放たれたものなのか、その何れかであろうと言う。

後者の場合では、「馬酔木の龍」は過去において何らかの罪を得て、この地に封じ込められていたことになるのだろうが、古色蒼然たる中世の話などでは無く、あり得べきか全て現在のことなのだ。

放送後の反響には、無論凄まじいものがあった。

当然冷静な生物学者などは、伝説はあくまで伝説であり、所詮強大な秋津州の国力が生んだ乱世の仇花(あだばな)に過ぎないとしており、至極妥当な見方を示す者が大勢を占めた。

さらには、これほどの大型「生物」が繁殖する為には、食物連鎖の一環として相当な生態系が維持されていなければならないが、そもそもこれほど透明度の高い淡水湖に、それほどの栄養分が確保されているとは思えないと言う見解まで示された。

だが、一方に全く聞く耳を持たない者もいる。

ことは、ロマン溢れる巨大生物の話であり、世の中にはことあれかしと願っている者も少なくは無いのだ。

まして、その「池」は岸辺のそちこちが湿地帯をなしており、全体から見ればほんの一部とは言えそれはそれで相当な規模であり、そこには多様な生物が棲息して一定以上の食物連鎖が認められると反論し、はたまたこれほど巨大な水系である以上、そこにある栄養分も徒ならぬものである筈だと主張して譲らない。

中には、この生物の本来の巣は、まったく別のところにあるのかも知れないと言うものも出た。

その上、不幸にもその出来栄えがあまりに優れていたこともあり、到底作り物とは思えないとする声が多かったことも確かだ。

いずれにしても娯楽色の強い番組ならいざ知らず、お堅いニュース番組までが取り上げるまでになったのだ。

その後NBS側が他のビッグメディアにもこの映像を配信したことにより、やがて各国語のナレーション付きのものが広く報道されるに及び、その正体の如何を問わず、「馬酔木の龍(あしびのりゅう)」、若しくは「イワレのドラゴン」の名は、やがて知らぬものの無い存在となって行くのである。


二千八年六月十五日、王と女帝の通信。

この通信は、王が海都に、一方は東京の首相官邸に所在してのものだが、特徴的であったのは、珍しくも若者の方からの呼び出しだったことだろう。

「問い質したき儀がある。」

若者の口調は、いつに無く厳しい。

「謹んで承ります。」

無二の主(あるじ)からの詰問であり、女帝の方も至極神妙だ。

「例の磐余の池の一件だが。」

「龍を用いた式典のことでございましょうか?」

「うむ、虚仮威(こけおど)しにもほどがあろう。」

国王は、言わば愚かしい子供騙しをするなと叱責していることになる。

「お言葉ではございますが、遷宮は遷都に繋がるものでもございますので、アピールしておく必要はあろうかと存ぜられます。」

「ふむ。」

「充分なゆとりを持って国遷し(くにうつし)の準備が進んでいることを、諸外国の政府筋には明瞭に示しておくべし、と言う新田さんのご方針でもございますので。」

秋津州が、かくも余裕のある「作業」を行っていることを広く示すべきだと言う。

「そうであっても、あのような虚仮威(こけおど)しは反って世の嘲りを招こう。」

少しでも冷静に考えれば、龍が実在するなどとは誰しも思わない筈なのだ。

「ただいま、反応を見ておるところでございますが、学者などの間でも、一概に否定することは出来ないと言う見解が出ているくらいでございまして。」

「そんな筈はあるまい。そなたらが裏で手を回したに相違無かろう。」

「夢をご覧になりたいと仰る方もいらっしゃいますわ。」

若者が叱責した裏工作に対し、その行為自体は否定していないのだ。

「真人のオモチャだと申しておいたではないか。」

「陛下は、あの節、冗談だと仰せでございました。」

「あのままにしておけば、そちのことだ。本気でキャノピーを取り付けかねなかったであろうが。」

「ご命令とあらば、いつにても・・・。」

「折角苦労して拵えたものを惜しいではないか。」

ようやく、若者の本音が出た。

結局、息子のオモチャにする前に自分のオモチャにしたかったことになるであろう。

「お指図通りの見事な仕上がりでございましたから、やはり、愛着がおありなのですわね。」

「ばかを申せ。あれは子供のころのことだ。」

若者は渋い顔をしてみせてはいるが、内心くすぐったい想いでいることは隠しようがないのである。

「申し訳もございません。」

「それにしても、いつの間に指示を与えた?」

あの湖上の式典プログラムは、地球上から発信された命令に従ったものであることは確かなのだ。

現地のものだけで、勝手に行えることではない。

まして、その映像記録までがNBSの手に渡った事実がある。

「丹波ツアーの第一陣の折に伝えさせていただきました。」

案内係と称して百人ほどの女性が帯同したはずなのだ。

無論、そのものたちは乗客と共に全て帰って来たことになってはいる。

「やはりな。」

「次のシナリオも用意してございます。」

無論遷宮に関わる式典のことなのだ。

「まさか、龍は出て来ぬであろうな。」

現に若者が丹波に運んだのはその一部であって、おふくろさまのファクトリーには未だ相当数の怪物が残されている上、さらなる「生産」まで行われているのである。

黙っていれば、式典の当日、それが飛来して来ない保証は無い。

「それではお申し付けに従い、龍の出現する部分は削除させていただきます。」

「うむ、それで良い。」

「承知致しました。」

「ところでどう言うシナリオだ。」

「台座に櫃を載せて、かんなぎどもに担がせる予定でございます。」

「パレードをやるつもりか?」

「それほど大げさなものではございませんが。」

「うむ、それならば良い。」

「かしこまりました。」

「ほかに企んではおるまいな。」

「台座には、奥さまと真人さまにもお乗りいただく手筈になっております。」

「本人が嫌がるだろう。」

王妃が嫌がるだろうと言う。

「既にお許しを頂戴してございます。」

「ふうむ、相変わらず手回しの良い事よ。」

「恐れ入りましてございます。」

「良く承知したものだ。」

「秋津州と言う国家の一大事であることを、充分ご理解を願って置きましたから。」

遷宮と言う式典が、国遷し(くにうつし)と同義語であることを前提に気長に説得したのであろう。

まして王妃にとっての女帝は、みどりと並んで今以て特別の存在であり続けている筈だ。

「ふうむ。」

「実施時期につきましては、予定通りでよろしゅうございましょうか?」

それは、七月二十日の建国記念日のことであり、今日は六月十五日なのである。

「うむ。」

「諸外国への公告は、いかが取り計らいましょう?」

「今回は、やめておこうよ。」

公告を控えると言う以上国際的には非公式なものとなるが、ケンタウルスの一件を控え新領土分割案のあれこれのこともあり、公告はせずとも、各国政府からの問い合わせが殺到してしまうことも目に見えている。

「承知致しました。それではメディアの方はいかがいたしましょう?」

「メディアは排除すべきではあるまい。」

秋津州神社の遷宮と言う式典が、少なくとも、例の宣伝作戦の一環であることは間違いないのである。

そのためにも、報道陣の取材活動を阻害すべきでは無いだろう。

「かしこまりました。それでは一応内務省広報からの発表と言うことで参りたいと存じます。」

「うむ。」

「念の為、参列者用のお席も前回のものを手配させていただくつもりでございます。」

参列者用のお席とは、あの小型のドーム球場を半分に断ち割ったような施設のことを指しているに違いない。

いずれにしても、おふくろさまとその配下たちが鋭意準備を進めているこのイベントまでには、あますところあとひと月強でしか無い。

「うむ、期日が近づいたら、近くまで運んできておいてやろう。」

「恐れ入ります。」

「上湖(かみこ)の上空あたりなら大して人目にもつくまい。」

上湖とは、龍神の滝の北側の部分のことだ。

「はい、そのあたりからなら直ぐでございますから。」

ドームが自力で移動するにも何かと便利だ。

「うむ。」

「ところで、先ごろより兄上様の工房に参っている者のことでございますが。」

無論、山内隆雄と言う日本人のことであったろう。

師匠が王宮を訪れる際にその供をしてくることがあり、国王夫妻も既に二度ほど会う機会があったが、師匠共々実に無口な男で、ひたすら作刀の学習に勤しんでいると聞いている。

「ふむ、何か出て来たか?」

何か不審な点でも出て来たのかと言う。

「いえ、何も出ては参りませんが、あの男も物好きでございますね。」

「うむ、朝から晩まで炭を切っておるな。」

修行の第一歩なのであろう。

たたら吹きによる「玉はがね」とともに、厳選した木炭まで荘園から運んで来てやっているのは誰あろう国王自身なのである。

「お二人とも口も利かずに。」

「近頃では、父御にまで可愛がられておるようだ。」

王妃兄妹の両親は内務省の五階に滞在中だが、ときに息子の工房を訪れることがある。

近侍している者に望めば、即座に屋上でポッドに乗り込むことが出来る上、片道五分もあれば充分なのだ。

そしてそこには不肖の息子に黙々と従ってくれる若者の姿があり、それもあろうことか無給だと言うのである。

なにしろこの息子は、かつて久我電子工業の破綻劇に際し、経営上の失策だけにとどまらず、妻にまで一方的に去られてしまったこともあり、ひどく傷ついてしまったことは確かだ。

それ以来、人に会うことを嫌うようになり、たまたま当人の趣味にも合致するところがあったことから、その後丹波で過ごす日が長かった。

それがやっとこの地へ戻ったと思えば、親たちとも碌に口も利かず、ひたすら鉄と向き合う日々を送っており、娘婿の力を借りていなかったら今頃どうなっていたか判らないほどだ。

確かに最近は刀匠として少しは知られるようになって来てはいるが、両親としては頭痛の種であったことには違いは無い。

だが、その息子に無償で仕えてくれるものが現れた上、その者は黙々と学び、小さな手帳に常に心覚えを書き留めるほど真摯な姿勢を見せてくれるのである。

両親から見て可愛く無い筈が無いだろう。

近頃では小遣いまで与えているほどだ。

「さようでございますね。」

「なかなか可愛げのある者だと聞いたが。」

「人気者でございます。」

「ふむ。」

「近頃は、たいそうな女どもが寄ってまいりまして。」

「あはははっ、聞いておる。」

「もう、十人は超えていようかと。」

親密な関係を結んだものだけでも、既に十人を超えていると言う。

「うむ、なかなかのものだ。」

「捨て置きましても、よろしゅうございましょうか?」

王の判断を仰いでいるのは、実にこの点についてであった。

「大事あるまい。」

「ですが、すべて下心のある女どもでございますよ。」

事実である。

その全てが、重大な下心を抱いて近づいて来ている者ばかりであることは明らかだ。

「いまさら物騒なことを企むヤツもおるまい。」

王家に対するテロ行為など、殊に米国にとっては、仮に成功したとしても自殺行為に等しいことは既に述べた。

まして、遣り損じたりすれば、如何なる国であっても只では済まないのである。

一歩間違えれば、瞬時に凄まじい報復攻撃を受け、国家そのものが滅ぼされてしまったとしても不思議は無い。

「危険なのは国家では無く、個別のテロ組織でございましょう。」

「ふむ、あの半島国家と言うものもあろう。ヤツらは常にあとさきを考えずに行動しおるからな。」

「確かに。」

「これ等の筋は見当たらぬのであろう?」

「はい、一向に。」

女性工作員たちの背後に、個別のテロ組織とか朝鮮共和国の影は見当たらないと言う。

「ならば、捨て置いてもよかろう。」

「承知致しました。」

「それにしても、あの漢人の女などは相当なものだな。」

楊歌のことである。

王の目から見ても、その女性はさりげない仕草にさえ一々ぞくりとさせるほどの色気を漂わせ、もし自分が独身時代に出会っていたらと思えば身震いが出てしまうほどなのだ。

「さようでございますわね。おふくろさまが早速参考になさるくらいですから。」

無論、参考にするのはその「色香」に関してであろう。

「なんだと?」

「ですから、おふくろさまが参考にと・・・・」

「ふうむ、ワシントンにでも使うつもりか?」

「ご明察でございます。」

「しかし、(米)連邦議会の過半近くは既に押さえたであろうが。」

D二やG四が縦横無尽に活躍して、個々の議員の政治生命にかかわるほどのスキャンダル情報を握ってしまっていることを指している。

かと言って、未だそれを以て威迫を加えた事は無く、ある意味、最悪の場合を考えての保険のようなものなのだ。

「常に選挙で入れ替わることでもありますし、未だ不足かと存じまして。」

どう捜しても致命的なスキャンダルを発掘できないケースも無いではない。

「ふうむ。」

「英仏独中露などのこともございますので、先ずは二千万体ほどを予定してございます。」

無論、新造の女性型ヒューマノイドのボディのことであろうが、話の様子では、女性であることを最大限活かせるよう徹底して配慮を尽くした個体の筈であり、加えて「先ずは」と言うところを見ると、最終的にはどれほどのものを想定しているものか。

宙空に浮かぶ新造の第二基地の建設ですらとうに目処が立ち、おふくろさまにとって、新たな作業に取り組めるだけの余裕が生まれていたことは決して軽いことで無い。

超近代的な生産システムが質量ともにその能力を一新した上に、相手側からの工作活動がこうまで活発化している現状から見ても、もはや遠慮している場合では無いと言いたいのだろう。

「他国への配備はやめよ。今のところD二とG四だけで充分だ。」

「承知致しました。」

「しかし、最近の滝や雅の所作などを見ても、以前とは比べ物にならぬほどの進歩ではあるな。」

身に着けるもののデザインにしてもそうだが、歩を運ぶ姿一つとっても、従来のものとはかけ離れたほどの色香を発散するまでになっていたのだ。

「既存のものにつきましても、唯今、徐々にボディの入れ替え作業に掛かっているところでございます。」

「ふうむ、」

「滝の特別旅団などにも、既に配備済みでございます。」

新天地ツアーの添乗員の手を大いにわずらわせ、SS六改に相当なものを潜り込ませたに違いない。

「うむ。」

「吉川桜子と配下のものたちにも配備を完了いたしておりますが、これなどはいかが致しましょう?」

銀座の秋津州ビルの四階には秋津州財団の日本支部が置かれ、そこを根城に吉川桜子とその配下のものたちが大活躍の最中なのだ。

無論そのフロアには複数の応接室が設けられ、吉川桜子の配下を以て任じる「女性」たちが、実に細やかな心配りを以て接遇を果たしている筈だ。

「いや、日本ならば良い。」

国王は、日本に対する害意など微塵も持ってはいないのである。

「承知致しました。」

「まさか、いかがわしいことをさせておるのではあるまいな。」

「勿論でございます。ただ訪問客の中には、一方的によからぬ想いをお持ちになるケースも無いわけではございませんが。」

「それは、そうであろうが、断じてならんぞ。」

「その点では初めからお指図をいただいておりますので、誓ってそのようなことはございません。」

どうやら、日本での活動については特に厳しい制限を設けてはいたようだ。

「それならば良い。」

「ただ、このたびのことが、訪れる方々とのコミュニケーションを一層円滑にしていることだけはご理解願いとう存じます。」

現に銀座の財団支部は予想を上回る成果を上げつつあり、新垣の郷(秋桜)の青写真の作成作業にも相当な力を貸しつつある。

「うむ、承知しておる。」

「ありがとう存じます。」

「いずれにしても、おふくろさまの伎倆は近頃長足の進歩を遂げておるようだな。」

「伎倆だけではございません。」

「うむ、生産規模もだな。」

「恐らく、以前の六倍にはなろうかと存じます。」

「規模的には、そろそろ、このあたりで良しとしておこう。」

天空に控えるおふくろさまの基地の建設が大いに進み、技術面はさて置き、備蓄と生産規模の面では予定のレベルに達したと言う認識を示しているのである。

「承知致しました。」

「それにしても、今度のニュータイプのボディには驚かされたな。」

「わたくしなども、ボディの入れ替えを行いまして、一段と機能的になりましてございます。」

実はその機能とやらが問題で無いことも無いのだが、いずれにしてもニュータイプの個体が、従前のものよりはるかに自然で良好な身動きを行わせる実行プログラムと、それを許すだけの機械的構造を持つことだけは間違いないのである。

「ふうむ、ではみどりの店の者などには早速手を打ったと見えるな。」

クラブ碧や喫茶立川で稼動中の者のことなのだ。

「勿論でございます。」

「ふうむ。」

「かなりの人気ぶりかと思われます。」

「だろうな。」

別にいかがわしいサービスをするわけでは無いが、その体つきと言い微妙な所作と言い、やはり男性客からの目を特段に惹き付けるものではあるのだろう。

「殿方の感応手順につきましては、わたくしどもも随分と勉強させられましてございます。」

「殊に歩く姿などは感心するばかりだ。」

「はい、歩行の際の腰の動きなどはずいぶん参考になさったようでございます。」

「さもあろう。」

「雅などが各国代表部を訪う折りにも、近頃では男たちの目付きが違って参ったようでございます。」

「うむ。」

「正直なもので、堅い話もずいぶんスムーズに運んでいるようでございますので。」

「そのようだな。」

「そのせいとばかりは申せませぬが、昨今中露台などから、秋津州連邦とか秋津州憲章などと言う話がしきりでございます。」

この場合の秋津州憲章とは、秋津州連邦とやらに加盟する国が守るべきものとして位置付けられている筈のものだ。

「おおよそは聞いておる。」

ケンタウルスの一件もあり、中露台などが八咫烏の旗の元に結集して緩やかな連邦を形成すべしと主張していると言うが、無論二番煎じであることは否めない。

挙句、チベットや東トルキスタンはおろか、近頃では蒙印両国まで巻き込みつつあるのだと言う。

「捨て置いてよろしゅうございましょうか?」

「ふむ、どうせ同床異夢であろう。まとまる筈が無いわ。」

そのような提案は既に台湾の例を嚆矢(こうし)として古くから存在していたが、全く纏まりを見せぬまま今日に至っており、ましてそれぞれの国が「夢想」する連邦の概念は、肝心のところが全く異なるものであり、王はそんなものが纏まる道理が無いと言う。

当然と言えば当然だが、全ての国家は自国の国益に沿うものにしか興味を示さない。

自国の不利益に繋がると判断した案件に、わざわざ擦り寄って行く馬鹿はいないのである。

但し、如何なる国家と言えども、その存続のために益することを以て最大かつ最優先の国益とせざるを得ず、本来好むところでは無いにもかかわらず、止む無くこの連邦論に加担するものも出始めているに違いない。

畢竟(ひっきょう)、加盟を拒めば、自国の存続が危殆に瀕すると危惧してのことなのだ。

いざ「連邦」ともなれば、程度の差こそあれ、運命共同体として協同歩調をとるよう求められることも出てくる以上、国家としてはその分だけ行動を制限されることも覚悟しなければならない。

そればかりか、その場合、秋津州と言う国家が盟主として頭上に君臨し、強圧的な統制を加えて来る可能性も否定出来ない。

詰まり、巨大な負の効果を背負うことも覚悟せねばならないのである。

それでも連邦を形成しようと考える場合には、それ以上のプラス効果を期待してのことになるが、現状ではわざわざ連邦などを考えずとも、個別に秋津州に結びついていさえすればそれなりのメリットを享受出来ている筈なのだ。

そこのところを勘案すれば、わざわざ連邦などを形成してみたところで、最終的に得られるものはほとんど無いに等しいのだが、今回の移住問題を契機に中台間の領土問題が再び先鋭化し始めたこともあり、連邦の中で優位を占めることが出来ればそれを有利に運べると見ているのだろう。

その結果、露骨な勢力争いの一環として顕在化してしまっているのが、秋津州連邦論の現実の姿だとも言えよう。

「では、纏まれば纏まったでよろしゅうございますか?」

「どうせヤツ等が勝手にやっておることだ。」

「場合によっては、秋津州憲章とやらが纏まる可能性も出てまいりますが。」

憲章などと言うから難しく聞こえてしまうが、要は「取り決めごと」、「ルール」のことであり、それが国際間のものであれば、諸国家がそのルールに基づいて行動することを「誓約」してそれに加わることになる。

無論、主権国家として、加盟するかどうかは各国それぞれの自由だが、「誓約」して一旦加わった以上は、当然そのルールに従う義務が生ずる。

尤も、どうしてもそのルールが気に染まぬ場合、堂々脱盟すればいいだけの話だ。

但し、一方的に脱盟すれば往々にして敵対行為とみなされることが多いことも事実だ。

「そんなことはあるまい。」

「お言葉ではございますが、近頃では国連憲章に代わるものとして議論されることが増えて参りましたので、場合によっては憲章案だけはまとまる可能性があろうかと存じます。」

新天地への移行を果たした後の世界を念頭にそのルール造りを叫ぶ者が多く、現に国連憲章そのものを大幅に改変する考えを示し、それを以て秋津州憲章草案と呼んでいる者も少なくないのである。

その内容もさまざまではあったが、いずれの案においても、少なくとも敵国条項などは存在せず、まして常任理事国に関する規定などはまったく様変わりしたものになってしまっており、中には「特別常任理事国」と称して秋津州を指名している案すら存在する。

その案においては、安保理において唯一秋津州のみが拒否権を有することとされ、万一実現でもすれば、国際的な重要案件について秋津州のみが法理上の決定権を握ることになってしまう。

一部とは言え、そう言う極端な意味を持つ「ルール案」さえ存在するのである。

但し、秋津州国王が望んだわけではない。

第一、そのような取り決めの有る無しにかかわらず、現実の国際環境から見て、事実上秋津州は既に拒否権以上のものを持ったに等しい。

すなわち、国連安保理においても、あらゆる重要案件が秋津州の意思に背いて決議されることが無いためである。

単純に言えば米中露のいずれか一国に拒否権を発動させるだけで済むことであり、それは今の秋津州にとっては容易いことだと言って良い。

尤も、発動させるも何も、近頃では米中露の方から事前にお伺いを立ててくるのが常態となっているほどだ。

それでいて秋津州は、何者にも拘束されることの無いフリーハンドを持ってしまっており、他の国から見てこれ以上の不条理など滅多にあるものでは無い。

「まあ、いずれにせよ、我等が口を挟むことではなかろう。」

「では、捨て置きましてもよろしゅうございますか?」

「うむ、一切口を挟むで無い。」

厳命であっただろう。

全ては、それぞれの主権国家が自らの意思を以て選択すべきことなのである。

尤も、この若者に秋津州連邦の実現を望んでいる気配は無い。

「承知致しました。」

「それより、日本国民の個別的な把握は目処がついたのか?」

日本政府が自国民として責めを負う対象としての「国民」のことだ。

「法理上の日本国民については一応の把握が出来ておりますが、・・・・」

「ふむ。」

「予想通り、日本国民としての証明の無いものが大層おるようでございます。」

「やはりな。」

要は戸籍に記載されていない者たちのことである。

日本人であることを主張したくとも、それに記載されていない以上、無国籍者と言うことになってしまうのだ。

但し、他国の国籍を有していれば歴然たる外国人であり、その者を保護救済する義務を負っているのも当然その者の国籍国の政府だ。

疑問の余地は無い。

ひるがえって日本人が外国に居留している場合においても、無論その責めを負うべきは日本政府であることと同様だ。

「やはりでございます。」

「記録に記載されていないのだから、当然その人数も不明だな。」

データ自体が存在しない以上、当然カウントすることなど出来はしない。

「はい。」

「その中で、明らかに日本人と認定し得るものもおろう。」

「明らかに日本人で無い者もございます。」

明らかに日本人では無いが、かと言って正式な母国を持たない限り、帰国させたくともその宛てが無い事になる。

「問題はどちらとも言えないグレーゾーンにいる者たちだな。」

「(自分自身の国籍を)当人が知らないのですから。」

「ふむ、やはり国家運営とは難しいものだ。」

「いずれに致しましても、その国の国民自身が決めなくてはなりませんでしょう。」

無論、それら日本人で無いものについて、その生命を維持するために必要なコスト負担をであるが、問題はその人数なのだ。

なにせ、百や二百では無いのである。

「かく言う私も、今ではその日本人の一人でもある。」

「さようでございますね。」

「いつかは、ぎりぎりの選択をせずばなるまい。」

無論、選択をすべき当事者は本来日本国民自身だが、制度上、代わって行政府が判断するほかは無い。

「殊に日本人の場合、そのコスト負担を考えずに、可愛そうだ、助けてやるべきだと仰る方が頗る多いようでして。」

「うむ、結局そのカネは自分たちが払わねばならんのだが、いざとなればカネを払うのを渋ることになろう。」

今回の避難移住の件は全人類にとって直接命に関わることであり、無国籍の者の受け入れを「無原則」に許容すれば、待ってましたとばかりに数億もの者が救いを求めてくるかも知れず、それに関する膨大なコスト負担に一般の日本人が黙って耐えるとも思えない。

何せ、その場合のコストを支えるべきはれっきとした公金なのだ。

結局それは国民自身が拠出するものに他ならず、無論総理大臣や国会議員が負担してくれるわけではないのである。

とにもかくにも、行き場の無い無国籍者たちに対処するにあたり、国家としての「原則」を改めて定める必要だけはあるだろう。

くどいようだが、無原則は無制限に繋がるのだ。

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  1. 2007/08/24(金) 11:26:37|
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