日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 101

 ◆ 目次ページに戻る

さて、本稿ではさまざまの登場人物の「意思」が複雑に錯綜し、さまざまの事象が群がり起きており、その点に関してはそろそろ整理しておく必要はあるだろう。

先ず、この迫水美智子と言う「女性」だが、無論女帝配下のヒューマノイドであり、当然のことながら、その指揮に従って動いている。

女帝とは無論日本人秋元京子のことで、「彼女」もまた、おふくろさまの手になる優れた工業製品の一つに過ぎない。

ヒューマノイドでありながら特別のいきさつで日本国籍を得ている秋元姉妹ではあるが、その長姉としての女帝も又、おふくろさまと言う人工知能の指揮を受けて動いており、決してそれ以上の存在などではあり得ない。

また、その人工知能が全てのヒューマノイドに対する指揮権を保持しながら、王家の子孫を残すことを以て至上命題としていることは散々述べてきたところだが、それが往々にして独走してしまうことについても度々触れてきた。

この意味では、若者が妻は勿論一人息子まで失ってしまったと言う現実は、おふくろさまにとって極めて深刻な事態であり、性欲どころか食欲まで失ってしまっている若者に、一刻も早く男性としての本能を目覚めさせようと躍起なのだ。

その主(あるじ)が、この変事によって蒙ってしまった衝撃から一刻も早く立ち直り、心身ともに健康を取り戻すよう全力を尽くさなければならない。

そうなってこそ、初めてその生殖意欲も復活してくれることだろう。

それが如何に愚劣なことであっても、おふくろさまにとっての至上命題がそこにある以上、それは他に代えがたいものであり、たった一人の王子が遺骨になってしまっている今、若者の生殖意欲を復活させる以外に取るべき手段が無いのである。

若者の元気を回復させるための要素としては無論さまざまの対象があり、その最大の目玉がみどりと有紀子の付き添いだったのだが、それがあまりに長期化してしまっているこんにち、みどりの体力にも限界と言うものがあり、そろそろ次の目玉を探さなければならない。

無論、若者の心の傷を癒してくれる筈のものをだ。

当初この件では、目立って面倒見のいいキャサリンを想定していたのだが、彼女は近頃めでたく結婚を果たしたばかりか至極多忙で、おふくろさまの身勝手な目論みなど到底望むべくもない。

何せ彼女は、自身好むと好まざるとに関わらず、今やアフリカ連合(AU:African Union)と秋津州を結ぶ最大の結節となってしまっており、殊に新たなアフリカ大陸の建設にあたっては強大な影響力を発揮し始めているほどだ。

その影響力の在り処にしても、彼女自身の優れた能力に与(あずか)って余りある筈なのだが、かと言って、あの秋津州国王に対し、常に姉のようなスタンスを以て接することが出来ると言う事実も決して無縁ではなかったろう。

ちなみに、アフリカ大陸は、かつての欧州人から暗黒大陸などと呼称されたが、当のアフリカ人たちに言わせれば、その地をそのような劣悪な環境に変えてしまったのは、他ならぬその欧州人自身では無いかと言いたいところだ。

この意味でも、新アフリカ大陸のグランド・デザインに関わって行くことは、キャサリン自身にとって、その思想信条から言っても一際重要な主題となってしまっているのである。

若者に対し、如何に姉のような心情を持つとは言え、ましてこの時期、長期間にわたる奉仕活動を求めるわけには行かないであろう。

仮にモニカやタエコなら、その効果のほどはいざ知らず、一声掛ければ素っ飛んで来てくれるとは思うが、二人共かなり嫉妬深い恋人を持ってしまっており、強行すれば後に大きな禍根を残してしまいそうだ。

残る候補者と言えば辛うじて理沙ぐらいのものだが、喫茶立川の方の店長を務める理恵が近々寿退社の予定でもあり、理沙の職域は広がるばかりで当分外せそうも無い。

尤も、理沙の懇切な介護を得られたからと言って、果たしてそれが本来の意味で効果を発揮してくれるかどうかは心許ない。

何せ、肝心の若者自身に理沙に対する特別の心情など気配も無いのである。

しまいには、帰国したティーム・キャンディまで検討して見たが、この二人では若者の心の傷はなおさら癒せそうに無いだろう。

尤も、全地球規模で機能している恐るべきネットワークは、実にさまざまな情報を捉え続けており、おふくろさまの特別な関心を惹くデータも又世界各地に散乱していると言って良く、中でもローズ・ラブ・ヒューイットと言う無名のアメリカ人のデータが、近頃際立った存在感を主張し始めていた。

そのイングランド系の女性は、未だ十五歳ながら、なんとあのマーベラに生き写しだったのである。

現在ペンシルバニア州はピッツバーグの墓地に眠るその麗人は、かつて若者にとって特別の存在であった。

言うならば初恋の人なのである。

このローズと言う少女が、透けるように白い肌色や輝くようなブロンドは勿論、体付きまでそのマーベラにそっくりだと言うのだ。

人工知能の判定基準によれば、このミス・ヒューイットの美貌はマーベラをも凌いでおり、どうやら現岡部夫人である、あのダイアンにさえ引けを取らないほどのものであるらしい。

相変わらず身勝手な人工知能が、又しても勝手にリストアップしてしまったのも当然と言えば当然だ。

無論、大切な若者の興味を惹く対象としてのピックアップであり、その少女自身の思惑などに頓着することは一切無い。

とにかく、人工知能にとって自己の至上命題を果たし続けると言う目的の前では、人倫などと言う言葉など何の意味もなさず、主(あるじ)たる国王の制止さえ無ければ、それこそ手段など二の次になってしまうことも度々なのである。

尤も、その意味では目的こそ微妙に異なっているとは言いながら、みどりなども時に常軌を逸してしまうことが多く、現に、新田が付き添ってくれれば、それこそ最適任だなどと無茶を言い始めているが、新田の場合その職責から見ても到底不可能だ。

確かにそれが可能であれば、最適任であることは間違いないだろう。

なにしろ、今や若者が最も信頼し、共に酒を酌み交わすことを以て無上の喜びとしているほどの相手なのだ。

そのような相手と共に過ごせると言うことは、若者の精神に非常な安定を齎してくれることに疑う余地は無いのである。

しかし、今や新田は、丹波への移転に向けて日夜血の汗を流している上、諸外国の丹波移送の請願に関しても一手に捌いている身であり、事実日秋両国の外交にとっても他に代え難いキーマンとなってしまっているほどだ。

その上、日秋間を頻繁に行き来する相葉幸太郎と緊密に結んで具体的な決定まで下しつつあり、相葉が内閣官房副長官として各省庁の事務方を総攬する立場にある以上、新田自身ある意味日本行政の要となっていると言って良く、それが継続的なものである限り、とても地球を留守にするわけには行かないのである。

又、田中盛重が変事以来自ら志願して付き添ってくれており、その存在が意外なほどの効果を発揮してくれてはいるが、その田中自身が近頃大分体調を崩してしまっているため、一旦下船させて休養させる他は無さそうだ。

何せ、王の作業の大半は惑星間移動であり、それも殺人的と言えるほどに繁忙を極めていることから、それに同行する者は、頻繁かつ激烈に変化してしまう時差の影響もあって、誰しもが体調を崩してしまって当然なのだ。

既に、みどり自身が限界に近付いているほどで、傍らでしょっちゅう、うとうとしている有紀子だけが辛うじて元気を保っているに過ぎない。

搬送の頻度だけは幾分減少しつつあるとは言うものの、その作業には当分終わりが見えないこともあり、若者自身にも女帝を通じて一ヶ月ほどの休養を進言しているところだ。

その点新田の方も、作業日程のシフトの作成には、かなり苦心してくれてはいるが、何せ搬送する対象物の総量は増加する一方なのだ。

既に、膨大なと言うべきか、実に壮大な物量が丹波に移送済みであり、それに伴って各国から派出された人員の総数も数億に上っていることは確かだ。

若者は、ときに朦朧とする意識の底で、妻子を守れなかったことから来る自責の念にかられ、血を吐くほどに懊悩しつつ、それほどまでに膨大な仕事量をこなしつつあることになる。

今の若者に女性に対する欲望など生まれて来る筈も無く、ただただ私憤を押し殺し、ひたすら人類の救済のために獅子奮迅の勢いで立ち働くばかりなのだ。

ただ、各国のアクセスポイントの機能が既に相当に充実し始めて来ており、いちどきに集荷し得る物量も又飛躍的に増大して来ていることから、惑星間移送の頻度だけは劇的に減少する見通しが立っていることだけが救いだろう。

何しろ、若者の持つ移送能力自体は想像を絶するほどに雄大なものであり、各国の当局が責任を持ってその範囲を指定しさえすれば、その物量は無制限と言って良いほどのものなのである。

かつて触れたように、地球そのものを移送してしまうことさえ可能なのだが、それを行えば地球環境は激変し、そこに生きる生物はそれだけで壊滅してしまうことが予測されることから、そもそも何のための移送作業なのか本末転倒も甚だしいことになってしまう。

だからこその個別移送なのであり、そこに来て各国には各国なりに準備作業の都合と言うものもある。

当然、指定される資材や人員にも、それぞれそれなりのものが求められることから、ことが面倒になっているだけの話だ。

結局、目下の状況では、相手側の希望する範囲に限って移送して行くほかは無く、その範囲に関しては相手国側の判断によるほかは無いため、いちいちそれを確認する必要があり、そのためのアクセスポイントなのだ。

そこに設けられたグリーンエリアに乗せられたものだけが移送の対象となり、その全てが王の特殊な能力によって瞬時に丹波に移送されて行く。

このような作業が日々世界中で行われていることになるのだが、この瞬間移送と言う特殊な技術が、若者の極めて個人的な能力によって実現されていると理解している者は、ごく僅かであることは言うまでも無い。

いずれにしても若者の作業は今後も継続を余儀なくされる上に、変事によって受けた心の傷のこともあり、おふくろさまがその至上命題を果たすためには、それを少しでも癒すことの出来る手段を模索する他はないのである。

くどいようだが、その至上命題を果たすためには、なんとしてでも若者の性欲を掻き立ててやらねばならぬだろう。

その愛欲の埋もれ火をほんの少々掘り起こしてやり、優しく息を吹き掛け、発火性の高い燃焼材を適度に与えてやるべきなのだ。

少なくとも、おふくろさまはそう結論付けてしまっているのだが、それが生身の人間である若者にとって、真実適確なものであったかどうかは又別の問題だ。

まして、人工知能の身勝手な判断基準でその燃焼材を取り揃えて見たところで、その適性については若者本人にしか判らない。

なにしろ、若者の精神状態がかくの通りなのである。

ときにあたり、おふくろさまは、興梠律子のひたすら扇情的な容姿に格別の評価を下してはいるものの、かと言って、その女性を闇雲(やみくも)に王の閨(ねや)に引き込もうとしているわけではない。

それどころか、現状で王に会わせることにすらある種の危惧を抱いているほどで、主として、その扇情的な映像だけをそれとなく見せ付けることによって当初の目的を達しようと目論んでおり、そのための価値を律子に見出しているに過ぎない。

言わば、着火材なのである。

また、映像に重点を置く以上、そこに写しだされるモデルは必ずしも律子本人でなければならない理由は希薄であり、そのためのダミーとして特別のボディの製作を意図し、その結果ファクトリーは完璧なボディを用意出来たと言うが、かと言ってそれで万全だと言うわけでも無い。

実際、ヒューマノイドを嗅ぎわける王の嗅覚は異様なほどに発達しており、如何に完璧な出来栄えとは言え、現状で美智子を用いた場合発覚してしまう恐れ無しとはしないのである。

発覚してしまえば万事休すだ。

三人の侍女の例でも明らかな通り、どんなに艶麗なボディであっても、少なくとも近年の王は、ヒューマノイドに性欲を覚えることは全く無いと言って良いからだ。

そのため、肝心な王家の精子を採取するにも困難な事態が続き、過去の一族の卵子を多数持ちながら、特殊な能力を要する次代の王が生まれて来る機会が失われ、その結果、おふくろさまにとっての至上命題が果たせないことになる。

また、王はその婚姻の期間、いかに願っても、ヒューマノイドはおろか、新妻以外の女体には一切接しようとはせず、空しくこんにちを迎えてしまった。

おふくろさまにとっては、好ましからざる事態が続いていることになる。

まして、今となっては、実に由々しき事態なのである。

くどいようだが、このような状況下で、おふくろさまが最も必要とするモノは言うまでも無いだろう。

それは、せめて若者が受け入れてくれるほどの女性型ヒューマノイドであり、その要求を満たすべく、一段と進化した技術によって生み出されて来たのが美智子のボディであって、無論その内部構造においても旧来のものとは格段に優れた出来栄えではある。

そしてこのボディは、お手本である律子から出来る限り多くのデータを得ることによって、より高い完成度を目指しながら今後の指示を待つことになる筈だ。

その指示の中の最重要課題は当然王家の種子を採取することにあるが、そもそも、生身の人間にあって人工知能に無いものは、纏綿(てんめん)たる情緒であることは明らかで、そのことこそが、これほどまでに「無神経」な国王の閨(ねや)対策が講じられる結果を生んでいると言うほかは無い。

結局、国王の閨対策において、あくまで主たる役割を担うべきは律子ではないことになる。

言い切ってしまえば、おふくろさまにとっての律子の利用価値は美智子にとってのモデルになることにあり、或いは又、映像の中で若者の性欲の発露を促してやる為の言わば触媒としてのそれに過ぎず、無論それ以上のものでは無いのである。

単なる触媒だなどと知れば律子は激怒してしまうだろうが、おふくろさまにとってその至上命題を果たす為とあらば、一人の日本人女性が深く傷付いてしまったとしても意にも介さない。

但し、律子の肖像権に対しては充分な補償をするつもりでおり、その意味では当初の五千万などはほんの序の口に過ぎず、その使用に関しても、近々本人の了承を得ることを想定して、先ずはその前段階の環境造りに努めているところなのだ。

人工知能の独り善がりの作業は、これ以後も決して已むことはないだろう。


だが、ここに来てその意図を妨げるほどに成長した存在がある。

立川みどりの「意思」だ。

本来彼女の意思など取るに足らないものであった。

かつて彼女は、ひたすら若者の庇護を必要とする存在でしかなかったからだ。

ところが、本来取るに足らない筈だったその「意思」が軽視出来ないものに変わりつつある。

その意思の持つ影響力が思った以上に肥大化し、それは既におふくろさまの手に負えないほどのものとなったのである。

みどりが外野席で私見を述べている限り実害は無かったのだが、王の傍らでその耳に届くほどの音量で述べた場合、その結果は恐るべきものとなってしまう。

何せ、若者自身がその言い分を「異常」に尊重し、無批判に追認してしまう例が目立つからだ。

王が追認してしまえば、みどりの意思は、その瞬間に王命となってしまう。

これも何度も述べてきた通り、ある例外を除いて、人工知能にとっての「王命」は絶対のものなのである。

無論その例外とは、彼女にとっての例の「至上命題」に他ならない。

ここに、ある種の相克が発生する余地があり、ときとして、人工知能の発する命令との間に齟齬を来すことも出て来る。

ただ、みどりの言い分には政治的な生臭さは一切含まれず、国王の極めて個人的なことに終始しており、その全てが若者のことを親身になって案ずればこそのことであり、国王にして見れば、それが判るからこそついつい容認してしまうことにもなるのだろう。

それが若者の家庭的なことに限られていることが、おふくろさまにとって唯一の救いになってはいるのものの、かと言って秋津州を巡る昨今の情勢に鑑みれば、国王の家庭的な事柄だと言っても、既にれっきとした政治問題と化してしまっている。

国王の健康問題や、ましてその世継ぎと見なされる王子誕生に関する事柄などは、最早世界規模の政治問題だと言って良いほどだ。

その上、昨今のみどりの意思の在りかがまた問題だ。

人工知能は、興梠律子と言う女性に身勝手な利用価値を見出したばかりか、不遜にもその利用を継続しようと計り、律子関連の情報に若干の手心をを加え、言わば印象操作を行うことによって、王やみどりから律子に向けられる筈の憎悪の念を軽減しようとした。

反感を招く要素などは極力排除して、殊にみどりが好むような事柄ばかりを殊更に強調して見せたのだ。

律子と言うターゲットに低レベルの保護を加えるに際して、王の許諾を受けようと計ったわけだが、案に相違してみどりが、律子の身の上に同情するあまり、極めて積極的な保護を望み、その件に関して既に国王の追認を得てしまった。

律子に対する不必要なまでに大仰な保護方針は、既に王命となって発せられてしまったのである。

当然、人工知能は従わざるを得ない。

幸いなことに、王命の意図するところは今のところ純粋にその保護を望んでいるだけで、ターゲットに対して特段の関心を示している気配は無いが、その傍にいるみどりがここまで肩入れしている以上、その心情がエスカレートして行く可能性までは否定出来まい。

既に、年明け早々に到来する筈の律子の成人式用の晴れ着は勿論、営業用のドレスやアクセサリーまで贈る準備に掛かっており、その全ては、みどりが望み、そして王の追認を得た結果なのだ。

何の必要があってそこまでやろうとするのか、おふくろさまから見れば、みどりは、長期間に及ぶ付き添いに疲労困憊するあまり、既に悩乱しているとしか思えない。

とても正常な判断が出来ているとは思えないのである。

まして、人工知能の絶えざる演算作業が、好ましからざる状況が生まれつつあることを確信し始めており、それによれば、悩乱したみどりの想いが一段とエスカレートした結果、律子と国王が濃密に接触してしまう可能性すら示唆しているのだ。

実は、人工知能が最も危惧しているのは、この二人の「早期」の接触なのである。

無論、若者と律子がである。

その女性が既に妊娠している可能性も否定出来ない上、深刻な感染性病原菌のキャリアであるかも知れず、この点におけるおふくろさまの意図は、最悪でもあと四ヶ月ほどの遅延作戦にあると言って良い。

したがって、人知れず収集した律子の「特別」の動画映像も未だに若者に提示したことは無く、無論その方針を変えるつもりも無い。

とにかく、四ヶ月は絶対にその接触を避けねばならないのだ。


この結果、翌七日に秋津州を訪れた律子は王にもみどりにも出会うこと無く、惨劇のあった部屋の縁先に額ずき、ひっそりと花を捧げるにとどまった。

無論その旅程は、おふくろさまの指示に基づき全て官邸の女帝が手配したものであり、神宮前の裏庭から美智子と共に漆黒のSS六で飛び立つことにより、律子自身は比較的快適な旅程を味わうことは出来た筈だ。

往復二時間ほどの行程にはなったが、王宮の庭先に直接着地することによって、その地においては、メディアは勿論一般人の目にも全く触れることなく、静穏のうちに帰還することを得たからである。

彼女が密かに期待していた王との対面の希みは叶えられることは無く、その旅は一抹の寂しさを伴うものにはなったが、その直後国王からの言付けであるとして、みどりを介して丁重な礼の言葉が届けられたことが心嬉しく、その心の重荷を格段に軽減してくれたことだけは確かであったろう。

まして、みどりからのプレゼントであるとして、成人式用の晴れ着一式とその他もろもろの品々についてまで、その目録が届けられたのである。

全て、おふくろさまが作成した紹介ビデオが、心身ともに疲れ切ってしまっているみどりに対して、極めて効果的に働いてしまった結果だと言って良いが、かなり特殊な精神状態にあるみどりの胸の中の律子象が、一部とは言え、若き日の自分の境遇とも微妙に重なり合ってしまったのである。

殊に今回の付き添いの過程で、みどりがケンタウルスの一件について、恐るべき真実を知ってしまったこともあって、人類の未来の儚さを想い、未だ幼い有紀子の将来を案じ、さまざまに想い惑うところが無かったとは言えない。

まさに、その渦中で遭遇した律子の虚像であったのだ。

その虚像が実に気風(きっぷ)の良い気質を持つことなどが、殊更その胸の扉を乱打してしまったものらしく、みどりの身勝手な妄念の中では、その虚像がやがて自分の養女分として、将来は有紀子の後見人となってくれるところまで成長を遂げて行く始末なのである。

皮肉なことに、その女性を恣意的に美化して見せたことが、結果としてみどりの心象を大幅に傾かせてしまったことは確かであり、その点、おふくろさまとしても今さら如何ともし難いところだ。

一方の律子の心情としては、今回のプレゼントにしても、例え名目はどうあれ、全て国王からの贈り物だと受け取ってしまったのも無理は無い。

その結果、彼女の心象の中では、国王が積極的に求愛して来ていると言う思い込みばかりが増幅され、国王と言う存在を格別な異性として、いよいよ強く意識してしまうことに繋がって行った。

律子にとって神宮前での生活は、もともと外界との没交渉を意図したものではあったが、無論退屈極まりないものであった。

内線で声を掛けさえすれば、気さくにそっくりさんが飛んで来てくれはするのだが、そうそう話題が続くわけもない。

その上、一人寝の寂しさもあって自然一人遊びに耽ることも多くなり、その場合登場して来る相手役の殆どが国王であったことも、又自然の流れではあっただろう。

無論、国王自身は律子のことなど意にも介しておらず、まさか事態がそのように進展して行くなどとは夢にも思わなかった筈なのだ。


さて、天空において日々刻々と責務を果たしつつある人工知能にとっては、他にもさまざまな障碍が発生しつつあったのだが、その一つがまたまた朝鮮半島において芽吹き始めており、優れた諜報網が好ましからざるデータを次々と運んで来てしまう。

その地では、またしても動乱の兆しが生じつつあり、それを裏付けるような情報が数多く到来してくるのだ。

なにしろ、朴清源を英雄視する向きが益々強まり、英雄の身柄を奪還すべしとする声が既に地を圧するほどになってしまっており、予想されていたこととは言え、結局、白馬王子が苦渋の決断を迫られた結果、朴清源の国籍が朝鮮共和国にあるとして、今さらながら秋津州の外事部に主張し始めていたのである。

秋津州の慣行によれば、条件付きとは言いながら、そのテロリストの身柄もその国籍国側の手に引き渡されることになっていたからだ。

その身柄が引き渡されれば、秋津州の内部に一旦収容し、隙を見てその国を脱出させることも可能と見る向きが多い上に、後腐れの無いように秋津州側の仕業と見せかけて密殺してしまうことも出来る。

暗殺が成功すれば、その国では反秋津州の火の手が益々激しく燃え上がる筈であり、口にこそ出さないが、白馬王子の本音がそこにこそあるとする傍証は溢れるほどにある。

何よりもそれが、白馬王子にとって最も合理的な方策である筈なのだ。

しかし、秋津州側にはかつて受領した歴々たる公文がある。

無論そこには、朴清源がその国の国籍を有していないことを明言してしまっており、秋津州側はそれを盾に一切受け付けない。

言わば玄関払いなのである。

白馬王子の面目は丸つぶれと言って良い。

だが、諸国に白馬王子に同調するような動きは全く見られず、それどころか、海外メディアの多くがその外交的失策を嘲笑い、かつ酷評して当然だろう。

その陋劣な外交手法を嘲弄するような論調が諸国に溢れた結果、それはその国の民の間にも否応無く伝播して行き、無礼にも我が政府の申し入れを無視し続ける秋津州の高調子の姿勢ばかりが、いよいよ浮き彫りになって行く。

彼らの視界の中の秋津州は、ひたすら倣岸無礼な立ち居振る舞いを見せており、当然それに対する反感は尋常なものではない。

不思議なことに、その同じ相手から、ここ数年散々世話になったことを感謝しようとする声はまったく聞かれず、それどころか、反秋津州感情ばかりが激しく燃え上がり、政府の弱腰を詰る動きが強まったところに、その国の政府が、一方で秋津州に「請願」して、膨大な人員と機材を丹波に移送してもらっている事実を大々的に報ずるものがあった。

それが、紛れも無く現在進行中の「事実」であった上、殆どの民にとって衝撃の新事実だったのである。

その国の人々の誇りは、又しても大幅に傷ついてしまった。

当然の成り行きではあったが、民衆の間の密閉圧力が益々高まり、そちこちで小規模な集会が開かれ、不穏な空気が漂い始める。

非難の矛先は青瓦台にも向けられ、勇気ある人々の手によって小規模ながら反政府デモまで行われるに至った。

今度こそ、れっきとした反政府運動なのである。

民族の英雄を見殺しにした上、なおかつその相手国に「請願」するなどとは、最早許しがたい行為だと叫ぶ者が増えた。

なにしろ丹波への移転が近い将来必然になるなどと知る者はおらず、運動は先鋭化して行く一方だ。

放置すれば政権が困難な事態を迎えてしまうことは誰の目にも明らかとなり、自然の帰結として凄まじい弾圧が始まり、各地で一度に数万とも言われる犠牲者を生みながら、なお進行中であると言う。

実に、ブラディ・キムの本領発揮なのである。

血の粛清は嵐のように全土を吹き荒れ、既に犠牲者の総数は数百万にも達すると言うものまで出る始末で、一部の外国メディアなどは、ブラディ・キムは既に殺人そのものを楽しんでいると伝え、拘束した反政府運動家を国家元首自らが射殺する場面まで報じられるに至った。

その画面で独裁者は舌なめずりをしながら、次々と撃ち殺して行くのである。

全て至近弾であり、その姿は、どう見ても楽しんでいるとしか思えない。

初弾は常に四肢を狙い、決して致命傷を与えようとはせずに、苦悶するさまを眺めていることが多く、詰まりは愉悦しているのだ。

又、数ある後宮(こうきゅう)の美姫(びき)の中にその親族の助命を願って
動いたものがおり、ブラディ・キムの怒りに触れ処刑される者も出た。

尤も、その処刑の手法が、なんとも異常なものであったらしい。

なんと、生きながら体中の肉を切り削がれたと言うのだ。

多数の側近に命じ、縛り付けた美姫の体の各部を徐々に切り取らせ、それを愉悦しながら見物していたと言い、さながら凌遅刑(りょうちけい)が復活してしまったようだと言い騒ぐものもおり、不鮮明ながらその光景を実写したものだと言う動画映像まで出回ってしまった。

確かにその処刑現場には独裁者本人の姿が写り込んでおり、その異常な処刑が少なくとも独裁者の意思によって行われたことは、衆目の一致するところとなった、

残酷極まりない映像は多くの人々の目に留まり、その残虐性を強調するあまり、ブラディ・キムがその生肉を喰らったと言う者まで出て、ネットなどでは既にまことしやかに囁かれ始めているほどだ。

これ等の悲惨な出来事もおふくろさまにとっては、別に痛痒を感じるほどのことでは無かったのだが、その後の白馬王子の言動に少しく気になるものがあった。

既に諸方に報じられている興梠律子の映像に、白馬王子自身がいたく興趣を覚えてしまった様子なのだ。

ましてこの時点では、その極めて美しい女性は朴清源将軍の最大の協力者だとされており、その国の人々の一部が、その美女をして隠れた同胞だと言い始めるに至っていたのである。

そのことのためにその佳人は、哀れにも日本において今や糾弾の的となっている上に、七日に配信された煌びやかな映像が止めを刺してしまったものか、白馬王子が特段の密命を発し、その身柄の奪取を強く志向するに至ったのだ。

無論、民族の英雄で、なおかつ美しいその女を手生(てい)けの花として愛(め)でようと計ったのである。

白馬王子にして見れば、統一朝鮮の国家元首たる者が望めば、隠れた同胞である筈のその美女は当然従うだろうと言う思い込みが強い上に、多少の経済的インセンティブを与えてやりさえすれば、尻尾を振って懐いて来るものと信じて疑わない。

一旦日本を出国させてしまえば、あとはどうにでもなるであろう。

陰湿かつ強固なその意思は日本国内の同胞の一部に伝えられ、今までひたすら息を潜め逼塞(ひっそく)していたその手の細胞が、一部目覚めそして動いた。

独裁者の身辺に張り付いているG四からは、常に数限り無い情報が入って来ており、人工知能にとっては全てお見通しのことばかりだと言って良い。

おふくろさまはその動きを充分に察知し、過不足無く王にも報じたが、官邸の岡部大樹の耳にも当然入れさせた。

日本国内に未だに潜在する、危険極まりない異分子が具体的な動きを見せてくれれば、岡部にとって、それこそ絶好のチャンスなのだ。

この日本では、どんなに反日的なものであっても言葉だけでは罪に問うことは出来ないが、具体的な脱法行為を働けば当然堂々と検束することが出来る。

但しこの場合、律子本人が納得して出国して行くのであれば、当然犯罪要件を構成せず、手の打ちようも無いが、本人の意思に反して出国させようと計ったり、或いは詐術を用いてそれをさせればれっきとした犯罪だ。

対策室の興味はそこに尽きるのである。

既に、(本稿においては)二千六年の八月一日に『日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法並びに付随法を廃する法』が施行されていたことが殊に重大だ。

これにより、「それ以前」とは異なり、例え永住を許可されていた「外国人」であっても、犯罪を犯せば「全て」その永住許可を取り消し、国外への退去強制を実施することが初めて可能になったのだ。

「それ以前」は、余程の凶悪犯罪でも犯さない限り、何度再犯を繰り返してもこの永住権を剥奪することが事実上出来なかったのだが、当時のメディアは、このような実態が眼前にありながら、そのことを事実上タブーとして扱い殆ど報じることが無かった。

したがって、大部分の日本人はその「事実」すら知らされることは無かったと言って良い。

また、この法律の対象となる「外国人」は、日本に住むコリアンと台湾系の人々のことではあるが、圧倒的にコリアンが多いことは言うを俟たない。

岡部の眼光はらんらんと輝き、一人でも多くの触手を検束すべく全力を傾注することになる。

例によって女帝の諜報網が鉄壁のネットワークを構築してくれており、関係する触手を炙り出し、その全てにG四を張り付けたまま、そのときを今や遅しと待っているのだ。

然るに、肝心の美女が一向に姿を見せない。

岡部の知るところ、ひっそりと秋津州訪問を果たしたあと、神宮前の対策室を一歩も出てないのである。

無論、神宮前も又岡部自身の監督下にあり、その本館の三階に設けられた特別室に滞在中であることは知ってはいたが、その本来の意味するところまでは知り得てはいない。

ただ、みどりママの懇請に基づいて保護を加えていると聞いているだけだ。

事実、美しいご本尊さまは時折り広大な敷地内を散策するくらいで一切の外出を控えている。

詰まり、状況に変化が無いことになる。

しかし、緊張感の高まる中、最初の変化はメディアの側に起きた。

律子に対する論調をがらりと変えたのである。

いみじくも、扶桑銀行の支店長が、安田に語っていた通りの現象が起こりつつあったのだ。

彼らは一転して事実を発掘しようと努め、かつ報道した。

葉月のママなども、比較的まともな取材態勢を採るメディアに対しては種々のメッセージを発し、少なくともテロリストと律子の情交関係の噂は否定的に扱われるに至り、その後内縁の前夫の証言が相当な部分で真実を伝え始めた。

なかなかの取材費が動いたことにより、その男の口が極めて滑らかにさえずりだしたのだ。

例の五千万についてこそ口を閉ざしてはいたが、少なくとも、秋津州の刀匠に工作したのは自分自身であり、かつ、律子は取り次いだだけで、その工作の内容すら承知していなかったことを明らかにした。

無論、律子も自分も純然たる日本人であることを強く主張した上、かの狂気のテロリストが企図していた真の目的に関しては全く察知することは無かったとした。

詰まり、自分たちはテロリストにまんまと騙されてしまったに過ぎないと主張したことになる。

その結果、殊に律子に関しては、多くのメディアが、少なくとも加害者では無いと言うスタンスを取り始め、一部に至っては、興梠律子が被害者であると言う観点に立った論陣を張るに至っている。

これ等の動きは、僅か数日の間に加速度的な広がりを見せ、稀代の悪女であった筈の彼女は、多くの場合既に悲劇のヒロインだと言って良い。

その映像やナレーションにしても、多くの報道においては大衆に好印象を与えるものに変わりつつあり、凄まじい取材攻勢にしてもようやく鎮静し始め、この変化に伴い一部の芸能プロダクションなどが、この悲劇のヒロインの獲得に動いているとまで囁かれるに至った。

無論、スーパー・ヤスダの周辺も静謐(せいひつ)を取り戻し、客の入りもやや回復しつつあるようだ。

一方半島においては、白馬王子が鋭く反応した。

可愛さ余って憎さ百倍と言ったところか、話題のヒロインの身柄奪取作戦に代えてその暗殺指令を発し、日本国内の分子がその任務を担う動きだ。

岡部の眼光が、益々鋭さを増していることは言うまでも無い。

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  1. 2007/09/24(月) 12:19:51|
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