日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 102

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秋津州暦日の十二月十日に至り、新田源一が遂に決断を下し、今次の搬送に関わる通常作業は十三日を以て一旦休止する旨が打ち出された。

再開は二十一日に始まる週からとし、かつ毎週秋津州暦日の月曜一日に限ってその請願を受理するとしたのだ。

詰まり、今後は、週に一日だけ与えられた搬送日に向けて全世界がそれぞれに集荷を終え、秋津州の指定する搬送のときを待つ事になる。

それも各国ともに、搬送はその日の内にただ一度の往復に限るとしたことから、作業効率にかなりの向上が見込める筈だとされた。

それぞれが、週一回しか巡って来ない数少ないチャンスに向けて、可能な限り効率的に対象物を集中させるべく精一杯努力するに違いないからだ。

その日のチャンスを逃せば、まるまる一週間を待たねばならない。

これで若者には、少なくとも十四日から二十一日まで八日間の休息が与えられることとなった。

若者自身の体調のこともあるが、みどりや田中のこともあり、それを重く見た新田が、既に限界と判断したことになるのだろうが、田中盛重などは、ふらふらになりながら若者の傍を離れようとせず、少なくとも日に一度はその酒の相手を勤めて来ており、その特殊なパターンの生活が既に半月の余を数えてしまっているのだ。

これ以上無理をせず下船すべしとの命令にも、頑として宜(うべな)わない。

国王の場合十一月の初頭からずっとこの作業を継続して来ており、その期間の長さは自分の比では無い上、ましてその間に不幸な事件まで起きてしまっており、それを考えれば自分だけ下船したいなど口が裂けても言えないらしい。

手を焼いた新田が、岡部から直接説得させてみたが、それでもダメだったのだ。

ただ、この半月あまりの期間で、若い二人の間にはそれなりの交流が始まっており、甚だしく頻繁に行われる移動に際しては、田中盛重が貴重なナビゲーターを務めるまでになっていたのである。

本来、その作業にしても配下の者だけで充分であったのだが、若者の目には、田中の真剣な態度が余程得難いものに写ったに違いない。

その結果、二人はかなり気の会うコンビを組み、極めて煩雑な作業を繰り返す過程で、既に戦友に近い感覚まで芽生え始めており、このことが、これ以後の田中盛重の存在を、多少なりとも重からしめることに繋がったことは確かだったろう。

少なくとも田中は、以後王の心情的結界の内側に身を置くこととなり、その身辺への接近を軽々と許される身とはなったのだ。

結局、新田が強引に設定したこの八日間が、王とその一行に貴重な休息を取らせることを許し、殊にみどりと田中盛重がその体調を回復するに際しては、非常な効果を齎したことだけは間違いない。

だが、肝心の若者の体調に限っては、残念ながらあまり回復の兆しを見せてはくれず、周囲の者の気苦労も絶える事は無かった。

若者は再び内務省の最上階に居所を移し、たまたまNBS支局長のインタビューに応じる機会があったが、その憔悴しきった姿と口数の少なさには、流石のビルもほとんど言葉を失うほどだったと言う。

しかし、若者の意思が、「人類の壮大な移転計画」の実行にあたって確固たるものであり続けていることだけは明瞭に察知出来た筈で、そのインタビューの内容についても協定中の各社に自信を持って配信することを得たのだ。

但し、その「移転計画」を必要とする真の理由に関しては未だに公には出来ないことであり、各メディアは、各国の移転準備が概ね整う事態を胸を躍らせながら待っているところだ。

その間の若者は度々土竜庵に姿を見せ、新田との打ち合わせを兼ねて焼酎を酌み交わし、相葉幸太郎なども大抵同席していた事実が、やがて人口に膾炙(かいしゃ)して行くのである。


さて、この辺でこの頃の丹波を巡る情勢に付いても、多少は触れておく必要があるだろう。

無論その惑星では、諸方において進行する幾多の大規模工事が、地表にさまざまの大変化を齎し、言い換えれば大自然が激烈な破壊を蒙ってしまっていることになる。

そして、その破壊行為は今後も続けざるを得ないものなのだ。

かつて、その全ての領主であった国王にとっては一際悲しむべきことではあったのだが、近未来において数多くの「ヒト」がそこで生活を営むことになる以上、これも又已むを得ないことと哀しく諦めるほかは無かったのである。

とにかく、凄まじいばかりの自然破壊が今も圧倒的な勢いを以て進行中であることは確かだ。

その直轄領に限っただけでも、任那の郷が今以て最大級の工事の真っ最中であることに加え、その他の直轄領においてなどは既にその作業が完了しつつあり、巨大な近代建築が数多く姿を見せているほどなのだ。

中でも、王宮の所在地とされる八雲の郷と、別名秋桜と呼ばれる新垣の郷においてなどは、種々の取引所が他に先駆けてその姿を見せており、任那の郷や敷島においても、俄然それに追随する動きが加速しているほどだ。

その結果、證券、穀物、工業品(金属、ゴム、原油等を含む)などの取引が細々と開始され、秋津州円と日本円を中心に、小規模ながら外国為替市場と呼べるものまでが産声を上げていると言う。

当然の事ながら、数多くの金融資本も続々と進出して来ており、そこから提供される資金により、さまざまの経済活動がその緒に就いていたことになるのだ。

殊に八雲の郷においては、二十パーセントの売り上げ消費税と僅かな印紙税のみとする基本税制が改めて打ち出され、その上、外国人や外資系企業に対しても不動産の所有が解禁された結果、数多くの外国資本による猛烈な進出劇の幕が開いてしまっていた。

何よりも、国王の優れた統治能力が評価された結果だとする者も少なくはないが、いずれにせよ、その地が、現在の丹波において、最も治安の良いことで広く知られていたことだけは確かだ。

何せ、他の領域とはこと違い、そこでは兇暴な猛獣に襲われる危険などまったく無いことに加え、一応以上の消防救護及び警察機能まで働いており、その治安の良さを以て鳴り響いていたのである。

かつて各国が、丹波に上陸を果たした時点で既に敷設済みであった海底ケーブルを先を争って活用し、八雲の郷との通信を確保することを揃って第一義としたことと言い、或いは又、立派に稼動している通信衛星が全て秋津州の所有であることと言い、その惑星においては、八雲の郷が全世界を結ぶ情報網の中心点となっていたことも頗る大きい。

八雲の郷は秋津州の首邑を持つことに加え、優れた社会的インフラが既に完成を見ていたこととも相俟って、その屹立した存在感は誰の目からも圧倒的でさえあったのだ。

尤も、先を争って進出してくる各企業にとって、この八雲の郷が真に重要な理由は別のところにあるとする声も無かったわけでは無い。

来たるべき混乱に際し、秋津州国王の本拠たるその場所に画然と進出を果たしているか否かが、その企業の評価を大きく左右すると見る者がいるのだ。

既に多くの業界では、地球からの脱出行が必然性を帯びつつあることを鋭敏に嗅ぎ取ってしまっており、新天地におけるビジネスモデルを事前に確立していることが、企業の評価にとって、取り分け重要な岐路になると認識されているからに他ならない。

なかんずく、先頃八雲の郷に設立された証券取引所の意義は途方も無く大きいとされており、事前にそこに上場し得るか否かが、事後の評価を大きく左右すると囁かれているのだ。

ただ、一方で秋津州独特の自然の慣習法による対応の不備を指摘する声もあり、各国の叡智を集めて、世界標準を謳う監視委員会を合同で運営しようとする動きが活発化するに至っており、既に「証券取引等監視委員会を設立するための特別委員会」なるものまで七カ国協議の構成国の手によって立ち上げられているほどだ。

不思議なことに、それは秋津州側の容認するところとなっており、一説によればそこには、その他数カ国から派出されるメンバーも今後数多く参入する見通しだと言う。

既にその地には、ビッグバンクや巨大メディアなどもつつがなく進出を終え、一の荘の目抜き通りなどには数多くの店舗が堂々たる軒を連ね、ネオンサインが華やかな輝きを放っており、中でも大和商事や加茂川銀行の存在感は飛び抜けたものではあるにせよ、コーギルやトヨベを始め、エクソンモービル、GE、マイクロソフトはおろか、ロシアのガスプロムまでが大和商事所有のテナントビルに競うようにして看板を掲げ、それこそ世界の大企業と呼ばれるものの全てが参入を果たしたと言っても過言ではない。

若干格落ちとされるような企業まで数えれば、参入を果たし得た外資系企業の総数は万を超えたと言う者もおり、無論、それらの企業に現地採用となった「秋津州人」も又膨大で、その総数は百万とも言われている。

何しろ、現地の秋津州人の識字率は百パーセントに近いと評され、その中には、英語を始め数ヶ国語を自在に操り、数理に明るい者が溢れるほどにいたのである。

ましてその地の労働市場においては、肝心の賃金水準にしてもさして高いものとは言えず、少なくとも先進各国の資本の場合これを使わない手は無いだろう。

また、大和商事の手になる高級ホテル群やショッピングセンター、そして造船ドッグや工場群などでも、数十万の秋津州人が働いていると言われ、加茂川銀行にしても相当な支店を構えていることは事実で、当然その従業員数も少なくは無い。

巨大な秋津州ビルに至っては既に百八十カ国を超える国家が代表部を構え、一の荘を巡る周辺地域には多彩な国の外人墓地が揃い、同様に多様な宗教施設まで数多く出現して、それらの関係者の数だけでもバカにならない状況なのだ。

外国人の滞在者は一の荘だけでも五百万人に上ると言われるに至り、無論、その滞在者の多くが外国企業の関係者であり、その地における消費経済の大部分を担う勢いまで示しているのである。

特徴的なことに、その多くが単身赴任であり、かつ男性が九十パーセントを占める勢いだ。

当然、彼らをターゲットとする歓楽街も立ち上がって来ており、その環境下でさまざまな業をなす女性たちにしても自然続々と入国して来ている。

なにしろ、現在の八雲の郷においては、観光はおろか単純な労働ビザでの長期滞在でさえ許容されており、まして、所得税が法人、個人共にまったくの非課税なのだ。

かてて加えて、その地の慣習法とやらは、古来より賭博や売春を禁じてはおらず、その意味でも結果は見えていただろう。

一の荘の近隣には、既にラスベガスやマカオのそれを凌ぐほどの巨大歓楽街が成立してしまっており、そこには外資系の高級ホテルまで多数進出を果たし、そちこちで煌びやかなイベントなども見受けられるに至り、今では誰言うとなく「サンノショウ」と呼び習わされていると言う。

無論、八雲の郷「三の荘」の謂いなのであろう。

もとより、秋津州商事を中心に進められている大宣伝作戦の威力は凄まじいものがあり、この「サンノショウ」に関しても、既に多くの「地球人」の知るところとなっており、丹波への渡航熱はなおのこと止(とど)まるところを知らない。

地球と丹波間を結ぶ便は、今では週に一度しか飛ばないことを承知の上で、この「サンノショウ」を目当てに、わざわざ地球からやって来る観光客もその地に溢れ始めており、とにかく、八雲の郷ばかりが、あらゆる意味で沸き立つような繁盛振りを見せ始めているのである。

何度も触れて来ていることだが、そもそもこの八雲の郷(八雲島)は、我が国の北海道に毛の生えたような面積でしかなく、丹波の陸地全体から見れば千分の一にも満たない離島でありながら、その島ばかりが独り燦然と輝きを発しているようなものなのだ。

現状では、それに迫るほどのインフラと人口を有する領域と言えば、辛うじて隣接する秋桜ぐらいのもので、それが又若者の直轄領なのである。

このような丹波の状況から見れば、甚だしい一極集中が起こっていると言うべきなのだが、多くの論調において、現在の統治形態と税制が存続する以上、それが一過性のものだとは評されてはいないのだ。

その上、現在は未だ地球上で稼動しているものであるにせよ、秋津州財団の膨大な女性職員の存在がある。

その一部はヒューマノイドだと言われているにせよ、「彼女たち」は諸国の現地支所に隈なく配備され、秋津州国にとっては言わば外務官僚に準ずるような職務に就いており、現地におけるビザの発給事務まで代行しているのだが、例のアキツシマ学校の関係者まで加えれば、その数は百数十万にも及ぶと言われているほどだ。

これ等の秋津州人たちもまた、いずれ八雲の郷に引き上げる筈だと囁かれており、そうなれば、結局八雲の郷の居住者は軽く二千万を突破すると見る向きが多いのである。

更に加えて、一部アナリストなどによれば、秋津州は食糧やオイルや工業品の自給率においても数千パーセントもの高率を誇っており、丹後や但馬、挙句に佐渡と言う荘園の存在を踏まえれば、その数値は最早無限でさえあると言う。

まして、秋津州が産み出す工業製品は、その技術面や生産性においても圧倒的な優位性を保ち続けていることは事実で、その象徴的な存在として各種のPMEとベイトンがあり、加えて、丹波の空を駆け巡る無数のSS六の存在は途方も無く大きい。

その他にも、八雲島の巨大造船所では、各種のPME型船舶が大量に進水を果たし続けており、これなどは、とうに凄まじい買い付け競争が始まってしまっていると言う。

何しろ、王の直轄領に限らず、既に台湾やアフリカの各地などでは、大型の商港が続々と開港し始めており、その他の地域においても、その流れが一段と加速して行く見通しなのだ。

これ等の事実を踏まえ、八雲の郷の一の荘は、将来においても丹波随一の金融・商業都市としての地位を保ち続けると予測する者も少なくないが、例え地球の運命がどうあろうと、人類社会が丹波において、多様な経済取引を可能とする環境と実効性のある決済手段を持ち得たことは、今後に向けて決して軽いものでは無かった筈だ。


一方七カ国協議の席上などでも、当然これ等の状況を踏まえた議論が戦わされることになる。

丹波ではSS六のチャーター便によって相互の移動手段が確保されている上、大和文化圏と称される領域に限って、既にさまざまな市場が立ち上がりつつあり、その安定した優位性が近い将来強烈なメッセージを発するだろうと、揃って各国が見ているのである。

ケンタウルスの一件がある以上、そのメッセージは、地球上のマーケットにとって身震いするほどに凄まじい効果を発揮するに違いない。

それで無くとも、そのマーケット自身が、その市場原理に基づき既に激しく反応してしまっているくらいなのだ。

まして、丹波市場における基軸通貨の座は今や明らかに秋津州円のものであり、辛うじてではあるにせよ、それに続くものは唯一日本円なのである。

加えて、新たな日本領である敷島だけが、早くも大和文化圏と称する経済圏に歴然と参画するまでに成長して来ており、その先行性が各国にとって真に恐るべきものだと言って良い。

現状では、国土建設工事の進捗状況だけを捉えて見れば、日本に続くものは台湾共和国とアフリカ諸国だと言うことになり、その他の国々は置き去りにされてしまう構図すら見え始めており、このままでは、丹波における市場の生み出す果実は、全て秋津州と日本に独占されてしまうかも知れない。

自由貿易万能の現代における国力が、なおのことその経済力に依存せざるを得ない以上、この実情は各国にとって見過ごすことの出来ない重大問題だと言って良い。

詰まり、丹波市場へのこれ以上の出遅れは、各国共に致命的な損失を招いてしまう恐れが高いのだ。

七カ国協議において、日本以外の六カ国は、全てこのような焦りを感じながら意見を戦わせていることになる。

ちなみに現今の七カ国協議では、ケンタウルスの真実とその対応策を同時に発表し得ることを殊更重く見る意見が圧倒的であり、ここに来て各国の新領土が確定したことによって既に対策の目処は立ったと見て、残る問題はその公表の時期に絞られると言う流れになりつつある。

しかも近頃では、一刻を争うと言う見解と、より多くの時間が必要だとする見解が拮抗し、それぞれの見解に国家の利益が重くのしかかって来ており、いずれもが簡単に引き下がる事は当然ながら出来ない。

混乱を防ぐ意味でもその公表は一刻を争うと言う見解は中露が主張し、より多くの時間が必要だとしているのは米英両国だ。

仏独両国は言わば日和見を決め込み、残った日本はほとんど議論には参加せず超然としている。

無論、日本が逃げているわけではない。

例によって、例え他の六カ国が何を決議しようと、日本は既に「他国の政治姿勢の如何を問わず。」なのである。

但し、日本としても事態は痛切だ。

殊に物価や人件費の高い日本の場合、この未曾有の危機を突破して行くためには、群を抜いて莫大な資金が必要でありながら、正規の公債は発行するわけには行かないのである。

それも、十兆や二十兆ではとても済まないほどの巨額になることも目に見えており、それほどの危機的状況にありながら、公債を発行するにしても、その必要性を正直に公表することが許されない以上、制度上から言ってもどうすることも出来ない。

通常、一定以上に整備された国家ならば、その行政は全て予算を執行することによって動くものなのだが、日本においては、秋津州対策室に付与されたもの以外その予算が無いのである。

国井は、秋津州対策室の経費に関しては本予算はもとより、補正の段階においてもかなり甘めの数字を計上しており、その上、日本人秋津州一郎氏の協力に基づく例の隠れ予算も有るにはあるのだが、それにしても到底足りる筈は無い。

先頃までの国井は已むを得ぬこととは言いながら、数多くの脱法行為に手を染め、既に年金会計にまで手を突っ込んでしまっており、この意味一つ取っても、目前の危機を回避するためには不退転の決意を固めていたことは確かだ。

ただ、ことここに至って従来であれば想像も出来ないほどのことが起きたのである。

なんと、各省庁から相葉を通じて、合わせて十五兆を超える資金の拠出があったのだ。

各行政官がぎりぎりの国家目標を共有するに至っていたことが、図らずも証明されたことにはなるだろう。

続いて、土竜庵からも巨大な拠出があった。

それも、日本円に換算して八十兆もの巨額であり、既にそれだけで一般会計の総額に匹敵するほどのものである。

無論、原資は秋桜資金であり、新田としても悩ましいところであったのだ。

なにせ、この資金のそもそもの原資はその殆どが秋元姉妹の拠出によるものである上に、その用途は「秋桜国」の樹立と運営を安からしむるためとしていたことは既に述べた。

また、この場合秋元姉妹の拠出とは言うものの、その実態は全て国王であることも承知しており、そうである以上、このケースで新田の独断で費消してしまうことには問題無しとはしないであろう。

第一、使用目的が違うのだ。

思い悩んだ挙句、思い切ってかの若者にぶちまけて見たところ、その反応には更に驚かされてしまった。

若者は、元来秋桜国の建設自体、いったい何のためのものだろう、と言うのだ。

はっと、気付かされたのだ。

自分が、いい年をして明らかに冷静さを欠いてしまっていたことをだ。

秋桜国の建設にしても、その目的は全て日本国の存続のためであって、ことにあたって、その日本国が滅んでしまえば、秋桜もへったくれも無いではないか。

新田はその意思を女帝に連絡し、運用中の資金の中で早期に手仕舞い出来る分だけを急遽取り崩し、そのまま国井内閣に渡したのである。

無論、その金は内閣の掴み金として扱われ、地球脱出のための言わばステーションとなる諸方のアクセスポイント関連と、丹波における新領土の国土建設の費用として使われて行く。

それも、一切小出しになどせずに、思い切り大胆に使っている。

その結果、地球脱出のための準備作業に関しても他国に抜きんでる勢いを示しており、新領土である敷島のインフラ整備も、既に大規模な部分に限っては完成間近だと言って良いほどだ。


何せ、国井が相葉や新田と共に作り上げてきた新国家の国土建設プランがあり、国王の最大級の協力体制を得られたのだ。

挙句、既にほぼ完成を見た秋桜(新垣の郷)の存在が途方も無く大きい。

既に、一時的なものに限れば、秋桜だけでも全国民の収容が可能なのである。

今はもう、新たな日本となるべき敷島のより高い完成度をただ黙々と目指すのみなのだ。

かと言って国井が、世界貿易の相互補完の重要性を軽視しているわけではなく、出来る限り豊かで安定感のある市場が丹波において復活してくれることを望んでおり、だからこそ北米やEUの早期の参画を願っているのである。

時が流れる中一方で中露両国の場合、蒙、印、チベット、東トリキスタンなどとも駒を並べ、国王に請願して大規模な秋津州軍の投入を得たことにより、猛然たる勢いで新国土の建設が進んでおり、既に相当な部分で見通しが立つことから、ケンタウルスの件の公表を急ぐのだ。

その国土建設プランにしてもかなり大雑把なものではあったが、あと一月も経てば、移転先の状況についてもそれなりの説明が可能になる見込みがあり、地球脱出作戦を公表した後は例によってその国民を大声で叱咤するばかりなのだろう。

殊に中露両国においては、国王にその眉を顰(ひそ)めさせるような光景も見られなかったわけではない。

なんと彼らは、巨大アクセスポイントの建設にあたって、その用地を全て既存の鉄道に沿って求めたのである。

それも、主要な路線が多数乗り入れているところにばかりであり、道路なども既に立派に通っているところばかりだ。

そうである以上その地は無論茫漠たる原野などではない。

人間にしても物にしても各地から膨大な量を集積する必要がある以上、そこへの交通の便と言う観点から見れば当然と言えば当然なのだが、生憎その用地の候補地となったところには、それぞれかなりの数の住民がいたのだ。

結局、彼らがやったことと言えば反対住民の圧殺と排除であり、銃剣を以て公収された各用地では、数万とも数十万とも言われる犠牲者の屍を踏み越えながら、ひたすら強引にそれが行われたことになる。

国家的な危機を前にしても、日本などでは如何に交通の便が悪くても、用地として住民のいない自衛隊の演習地などを選び、巨大なコストを負いながら改めてそこに鉄道を引き、道路を建設し、なおかつ種々の施設を設けた。

とにかく、膨大な費用を掛けたのである。

だが、翻って中露などの方式では、その費用も時間もはるかに少なくて済むことは確かだが、負の要素として人道上の問題が発生してしまうことは覆うべくも無い。

反対住民たちの膨大な死体の山を前にして、各国メディアの轟々たる非難を浴びてしまったのも当然だ。

だが、両国の当局者に言わせれば、数億もの民を救うためには「この程度の犠牲」は已むを得ないと言うに違いない。

何せ、残された時間は過小であり、その上潤沢な予算を掛けられないことも衆目の一致する所なのだ。

もたもたしていたのでは到底間に合わないことも判ってはいるのだが、それにしてもあまりに酷い現実に接して、若き王は「他国の施政」に介入することこそ無かったものの、「統治」について生きた修行をさせてもらったと洩らすばかりだったと言う。

ことほど左様に各国の対応にはさまざまな状況がある。

アフリカ諸国などは、キャサリンと言う貴重なパイプを持ち得たことを奇貨として、明らかに一歩先んじており、その他中南米や東南アジア、そして南太平洋の諸国なども中露に遅れじと走り出している。

無論その全てが、王に懇請して秋津州軍の派出を求めているのである。

若干出遅れたとは言いながら、中東や中央アジアの諸国からもインドなどの顰(ひそ)みに倣い、一斉に秋津州軍の派遣を懇請して来ており、見渡したところ国境線は別にして、丹波において秋津州軍の旗が立たない領域は北米とEU諸国と豪州くらいなものなのだ。

この三つの領域では、議論百出して未だに国土建設に関する総合的なプランは完成を見ておらず、新田などに言わせれば衆愚政治の典型例を見る想いだ。

殊に合衆国などでは、各州それぞれの間でさえ利害が対立してしまうケースが目立ち、州知事の中には、ケンタウルスの真実を先に公表しない限り、自州のプランすら成り立たないと嘆く者さえいる。

民主主義政治の最大の弱点がここにあることは明白で、制度上の民意を問うている余裕が無い以上、結局為政者自身が殺される覚悟で決断するほかは無いのだが、無論、その決断が米国民の全てを喜ばせることなど出来る道理が無いからだ。

その決断の基準は真の意味の国益であり、この場合の国益が、国民にとって最終的な利益であることは言うまでも無いが、それにしても、民主主義政治を謳い、合衆国憲法によって各州の自主性が手厚く守られているその国では、種々の問題が起こるべくして起こってしまっていると言って良い。

公式には上下両院どころか、州議会にすら諮れない以上、使える予算もままならず、ワシントンで作成された独自案一つ取ってもその実行は覚束ない。

人類の滅びに向かうタイムテーブルが容赦なく回り続けているにもかかわらず、本来獰猛な性向を持つ筈の白頭鷲が、手乗り文鳥に変じたまま、ただ力無く囀っていることになるのである。

だが、そうは言っても、合衆国にとっての周辺事態は否応無く進んでしまっており、しかも恐るべきことに丹波への出遅れが決定的なものとなりつつあるのだ。

とにかく、無尽蔵と思わせるほどの資材を伴った秋津州軍の威力があまりに凄まじく、その支援を受ける国々の作業ばかりが予想をはるかに超えて進捗するさまを見るにつけ、今さらながら慌てふためいてしまっていると言うほかは無い。

超長距離の幹線道路や巨大港湾の建設など、本来どれ一つとっても優に五年以上の歳月を要するほどの大土木事業である筈が、それも千も二千も同時進行でほんの数週間で仕上げてしまうなど、ワシントンでは予測出来る筈が無いと叫んだと言うが、秋津州には既に秋津州湾の掘削工事の驚くべき前例があり、それは衆人環視の中で行われた筈なのだ。

多少柔軟な想像力を持ってさえいれば、予測出来ない筈が無いのである。

そうであるにもかかわらず、それでなお、秋津州の動員能力と兵站補給能力を過小に評価した。

それも、甚だしく過小に評価してしまったと言って良い。

タイラーの友人である若手官僚などは、ホワイトハウスの結論にあるその値(あたい)は、秋津州の実態から見れば、驚くべきことに二百分の一に過ぎないとまで言うのだ。

詰まり、秋津州の実力(動員能力と兵站補給能力)を二百分の一に見積もってしまっていたことになり、同時にそのことは、秋津州軍による土木工事の実態が、ワシントンの描くイメージの二百倍の進捗速度を示すことになってしまうのである。

二倍や三倍では無い、二百倍なのだ。

そもそも、ワシントンの描く新国土建設に関するイメージでは、魔王の直轄領と敷島(新日本)を除けば、少なくともその他の領域とは充分に伍して行ける筈であった。

あとは、合衆国の強大な経済力があり、その威力を以て、丹波においても経済的な覇権を充分保持出来ると踏んでいたことになる。

ところが、今になってみると、最早そのイメージは現実とは無残なほどに乖離してしまっており、そのことを否応無く認めざるを得ないところにまで追い詰められてしまった。

なにしろ、合衆国の固有の領土として割り振られた領域では、さまざまなデータ収集に明け暮れるばかりで、具体的かつ本格的な大土木工事など未だ始まってさえいないのである。

いずれにしてもワシントンは、秋津州戦争のときに続いて、又しても大きなミスを犯してしまったことになる。

このことによって、ワシントンの戦略が明らかに破綻しつつある以上、当然ながら、その焦りもいや増すばかりで、ケンタウルスの真実について中露などの主張する早期の公式発表など、なおさら飲める話では無くなってしまった。

それに比べて中露両国のよって立つところは、見事なまでに対照的だったと言って良い。

何せ、それらの国々では、以前ほどでは無いにせよ、一部の指導層が決定しさえすれば、民の一部が泣こうがわめこうが、全てを粉砕するような勢いでことを進めることが可能なのだ。

国王に請願することによって、近頃爆発的な勢いで国土建設が進み、丹波移住の方策について既に具体的な目処が立った今、欧米勢力を一気に抜き去る絶好のチャンスと捉えたのだろう。

欧米勢力がそのプライドに拘るあまり国王軍の駐留を忌避し、かつ遅疑逡巡を繰り返していることを良いことに、ケンタウルスの真実を一気に公表し、地球上のマーケットが壊乱している機に乗じて、丹波のマーケットにおける優位性を決定付けてしまおうと目論んでいるに違いない。

急がねば、丹波の市場が腰の据わった体制作りを完了してしまいかねず、そうなってしまってからでは、例えケンタウルスの真実を公表してみたところで、たいした恐慌は起こりそうに無いのである。

それでなくとも欧米の私企業が八雲島に猛烈な勢いで参入を果たし始めており、欧米側はこの点から言っても時間を稼ぎたいところだ。

自国の新領土の準備が遅れているからばかりでは無いのである。

当然、七カ国協議の議論は膠着するばかりだ。

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  1. 2007/09/27(木) 13:42:54|
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