日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 103

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ただ、正規のテーブルにこそ乗らなかったものの、水面下においてはかなりの紛議を呼んだ話柄が存在した。

クルド人問題である。

ちなみに、現在二千五百万とも三千万とも言われるクルド人たちだが、彼等は自らの国家を持たない民族と言われて既に久しい。

祖国を持たない民族と聞けば、かつてはユダヤ人がその代表のように思い浮かんだものだが、今やこのクルド人こそがその典型だと言って良いほどだ。

彼等自身の持つ歴史では、遠い昔にイラン高原において自らの王国を築いたことになってはいるが、それも又遠い昔(BC五百五十年頃か)に、ペルシャのアケメネス朝の手によって滅ぼされてしまい、それ以来彼等は、二千五百年の長きにわたって自らの「統一国家」を持つに至らなかったことになる。

それもこれも、彼等がその時々に勃興して来る近隣諸国の狭間(はざま)で、「相対的に」固有の領土を確保するに足る力を持ち得なかったことに尽きるのだが、日頃この「固有の領土」の重要性に対する意識の希薄な人々にとっては、いかにも象徴的な事例になり得る筈だ。

民族性及び地政学上の宿命的な違いも無いとは言えないにせよ、結局彼等は、自らの国家を持ち得なかったがために、時の異民族政府からさまざまに気に染まぬ扱いを受けながら、自らを守る術(すべ)を持ち得なかったことだけは確かだろう。

なにしろ、その時代時代で、それぞれ多種多様の異民族による支配を受けざるを得ない状況が延々と続いてしまうのである。

古くは、ペルシャやモンゴル、近くは露英仏ソなどの冷徹な国家戦略によって或るときは蹂躙され、また或るときは散々に翻弄され続けた挙句、今では、トルコ、イラン、イラク、シリア、アルメニアなどの国境が交わる地帯を中心に、都合三千万人ほどが暮らしていると聞く。

いや、その言い方自体が、正しいとは言い難(がた)い。

より正確を期すならば、「クルド人たちから見れば、その古来の居住域の中に、他人さまが勝手に入り込んで来て、勝手に多数の国境線を引いてしまった。」と言うべきだったろう。

無論、その領域に棲む者はクルド人だけに限らないが、少なくともそれらの国境線をクルド人自身が望んだことなど一度も無かった筈だ。

自らの国家を持たないと言う負の遺産が彼等に齎したものは決して小さなものとは言えず、難民となって国外に流出して行く例も少なく無いとされ、諸国にとっても頭痛の種となってしまうことも多く、この点では日本なども無縁の問題だとは言い切れない。

現に、庇護を要すると見られるクルド系トルコ人が日本にも少なからず流入して来ており、それを国際法上の難民として受け入れるに際しては、その民の帰属する国家との外交問題に発展してしまう可能性も無視出来ない。

何故かと言えば、現行の難民条約で救済の義務を定めている「難民」とは、概して「人種、宗教、国籍、政治的信条等を理由に、自国政府から迫害を受ける恐れがあるため国外に逃れ出た者」とされており、そこに『経済的困窮者』と言う概念を含まない以上、流入して来る流民(るみん)を不用意に「難民」と認定することが、往々にして相手国の政府及びその国民の神経を逆なでする結果を招いてしまうからだ。

(筆者註:難民の地位に関する条約、第1条「難民」の定義一部抜粋。『人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの。』)

まして、相手国政府によるその流民に対する迫害の事実や「恐れ」など、滅多に立証出来るものでは無い。

当然そのことを公式に認めるような政府など有り得ず、殆どの場合、言わば証拠不十分なのである。

それでなお、迫害の事実ありと認定すると言うことは、例えは悪いが、言わば起訴されて来た刑事被告人に対して、確たる証拠も無いままに有罪判決を下してしまうに似ており、ましてこの場合の刑事被告人に例えている相手はれっきとした一国の政府なのだ。

この意味でも、短絡的な正義感や人情論を以てしては、到底埋め尽くせない問題を内在していることを忘れてはなるまい。

国家と言う装置が負わされている責務の一つが、対外的に自国の国益を守ることである以上、それは常に他国民の福祉にはるかに優先することは明らかで、外見上その流民が如何に哀れに見えたからと言って、無原則に庇護を加えたりすれば自国の国益にそぐわない事も出て来てしまう。

いずれの国であろうと、『自国の国益を大きく損なってまで』、他国の民を保護することなどあり得ないのである。

何を以て真の国益とするかは、人それぞれによって意見の分かれるところではあろうが、民意の最大公約数は、少なくとも、この国際社会の中の日本が、大きく国益を損なうことの無いよう務めることを政府に求めていることだけは確かであり、筆者にしても、出来ることなら、悲惨な運命に翻弄される「難民」には、無条件で手を差し伸べてやれるだけの国力をこそ持ちたいと願っているところではある。

詰まり、その「難民」を庇護した結果、その帰属国との関係が大いに悪化してしまったとしても、いちいち怯えずに済むだけの総合的な国力を具えることが望まれるのであり、単に口先だけで「社会正義」を叫ぶだけなら幼児にでも出来るが、それだけでは所詮空念仏に過ぎない。

いや、万一それが国益を度外視してのものであったなら、低次元の薄汚れた自己満足に過ぎないと言って良い。

とにかく、現実の国際環境の中で「正義」を行うにあたっては、最低限の総合的な国力と言うものが厳然として必要になって来るのだ。

国力と言う「力」の意味するところにはさまざまな響きがあり、中には真っ先に軍事力を思い浮かべてしまうヒトさえいそうだが、ことはそう単純なものでは無いだろう。

筆者が、国力を表現するにあたり、わざわざ「総合的」と言う修飾を用いたのはほかでも無い。

その「力」を支えるべきものが、まことに広やかな裾野を持ち、そこには一言や二言では言い尽くせないほど多くの要素が介在し、かつ複雑に絡み合ってしまっているからだ。

殊に現実の日本などは、周知の通りほとんど全ての重要資源を海外に求めざるを得ない自然環境を有し、この地政学上の宿命は我が国にとって凄まじいばかりのハンディキャップとなってしまっており、ときに、関係諸国との関係悪化によって「致命的な損失」を蒙ることさえあり、まして、この場合の「致命的な損失」の中には、戦争を以てしか突破口を見出せないほど深刻な事態が含まれることを忘れてはならない。

実際に、滅亡を賭して立ち上がらざるを得ないところにまで、追い詰められてしまってからでは遅いのだ。

無論筆者は、我が日本が、そのような戦慄すべき事態を招かざるよう願って已まない者の一人だが、ときとして、クルド人流民に対して難民認定を避け続ける日本政府のスタンスを捉え、闇雲に口撃を加える手合いを見るたびに、身震いするほどの怒りを覚えてしまうことがある。

その殆どは我が日本の弱体化を願う外国人の仕業だとは思うが、万一それが日本人であった場合などは、その者の掲げる正義の旗の裏側からは、売国奴の文字が透けて見えてしまうからであり、さもなくばその日本人が、意識すらせずに国を危うくしている余程の愚か者としか思えないからなのである。

さて、何れにしても余談が過ぎた。

要はこのクルド人たちが、ここに来て自ら固有の国家を持つことを前提としてさまざまに動いたことが重大であった。

国家を建設するためには、無論その領土無しに語ることは出来ないが、一方で、このたび丹波において、西サハラ等複数のアフリカ諸国やパレスティナ、台湾、イロコイ連邦などが、目出度く固有の領土を手に入れ、新たに通常の国家主権を持つに至っており、このことを契機として激しく動く者が多数を数えたのである。

無論、それらの動きに倣おうとしたものに違いない。

ときにあたり、日米欧の各地において、その政府や世論に大いに訴えたいところだったろうが、イスラエル建国の際のユダヤ人たちの場合とは大いにこと違い、彼等にそこまでの力は無い。

そのためには膨大なコストが掛かる上に、出国するに際し厳しく制限を受ける例さえあるのである。

彼等は、多くの場合先進各国の民と比べれば相対的に貧しい上に、無情にも国境線によって幾つもの集団に分断されてしまっているため、なかなか一つに纏まることが出来ないでいることも小さく無い。

結果として丹波における新領土の配分は世界的な合意の下で確定し、彼等の夢見たクルディスタン国は遂にその成立を見ることは無く、クルド人のための固有の領土は一寸尺度も認められることは無かった。

彼等は、これまで通り、現在帰属している諸国家の国民のままだと言うことになり、この状況に納得しない者の一部がワシントンや東京で動きを見せ、多少の世論を喚起することに成功したこともあり、七カ国協議の水面下で密やかな紛議を呼んだのである。

確かに地球上の世界においては彼等の希望を叶えてやることは出来なかったが、新たな枠組みを以て始まる丹波の新世界でならどうだろう。

せっかく世界の領土の枠組みが、言わば一斉にリセットされることになったのだ。

それを機に、何とかならないものだろうか。

そう言う心情を抱く者も少なくなかったのだが、かと言って、せっかく確保した新領土を自ら割譲してまで、その思いを実行しようとする者など無論一人もいない。

秋津州国王が全世界に向けて無償で提供してくれた八十パーセントの陸地は、一坪残らずとうに分配を終えてしまっており、それぞれの領土は、既にそれぞれの国家にとって他に代え難いものとなってしまっている現状では、それはそれで当然の成り行きではあったろう。

それに、彼等の望みを叶えることが、果たしてクルド人を巡る種々の人道的諸問題を解消する道に繋がるかどうかも大いに疑問だと言う声も無いではない。

仮に彼等に固有の領土を分配し得たとして、果たしてどの程度のクルド人がそこへ移住した上、統一国家の建設に情熱を以て邁進するのかも判然としないのである。

最悪の場合、既存の状況より、かえって事態を悪化させてしまう恐れさえあるとする者も出た。

くどいようだが、国家を建設し自立を果たすためには、物心共に莫大なエネルギーを要することは自明のことであり、少なくともそれは、その国の建設を目指す者たち自身が担わなければならないことなのだ。

そうでなければ、仮に新国家の建設が成ったところで、それはいわゆる傀儡国家でしか無く、いったい誰のための新国家なのかわけが判らなくなってしまうだろう。

各国にとってそこのところが最も疑問を呈するところであり、そのことに対する確信を得られない以上、その懸案はなおのこと正規の議論とはなり難い。

現に、独自の国家の樹立を夢見るヒトや民族は、彼等以外にも無数に存在すると言って良いが、その全ての望みを叶えてやる義務など、なんぴとも負わされているわけでは無いのである。

尤も、現実の日本人は、それよりも先ず自らの足元をこそ見るべきであり、無論それは、この日本にもれっきとした民族問題が存在することを以て述べていることなのだが、とにもかくにも本稿では、七カ国協議の舞台裏で行われた秘密会において、クルディスタン建国の夢が泡粒のように弾け飛んだことは確かだ。

ただ、今次活発に動いた在外クルド人の一部が土竜庵を訪れ、新田本人はおろか、相葉や秋津州国王まで交え、ひと時の懇談を持ったと言う噂が流れたことは確かで、やがてその話にはさまざまな尾鰭(おひれ)まで付いて広まって行った。


さて、十二月も十六日になって、興梠律子がいよいよ神宮前を出ることになった。

十日振りなのだ。

さすがにこの頃はマスコミの騒ぎも大分収まって来ており、ワイドショーに派手に登場する場面もとんと見掛け無くなって来ていたが、彼女の美貌と悪名は、それが飛び抜けたものであっただけに、なおのこと多くの人々の記憶に残ってしまった。

無論、彼女に関する報道が全く絶えてしまったわけではないが、秋津州商事の庇護を受けたことが知れ渡り、その巨額の宣伝予算が無言の圧力となって、メディアのスタンスを一変させてしまっており、少なくとも「稀代の悪の華」として、悪意に彩られたまま描かれることだけは無くなった。

今では悪女どころか多くの場合悲劇のヒロインでさえあり、記者会見の要望も無かったわけでは無いが、興梠自身、自戒を込めて思うところも少なくは無い。

そんなところへのこのこ出て行っても、一文の得にもならないと思うのである。

何しろ、なんだかんだ二十日間も騒がれちゃってもうこりごりよ。

芸能プロダクションとかも幾つも押し掛けて来たけど、時事ネタ絡みのキワモノ絡みで売り出して見たって先は知れてるだろうし、だいいち、よっぽど売れない限り、いくらももらえないみたいだし、いくらなんだって、そんな話にほいほい乗っちゃうほどバカじゃないわよ。

単に有名になりたいだけなら、とっくの昔に有名人になっちゃってるんだし。

考えてみりゃ笑っちゃうしかないけど、あたしの商売じゃ、いろんなお客さんと知り合いになっちゃうのは仕方の無いことだし、たまたまその中の一人が、とんでもないことを仕出かしてくれただけの話なのだ。

それを、いちいち弁解なんかしてらんないわよ。

ほんと、ばかばかしい。

神宮前に滞在中は、週刊誌やテレビの取材の話だって、全部千代さんに頼んで断ってもらっていたから、ほとんど何にもすることが無かった。

世間では丹波景気とか言って大分盛り上がってるみたいだけど、それに比べて神宮前の暮らしは嘘みたいに静かだったし、毎日、テレビを見たり週刊誌を読んでるほかは、精々敷地内を散歩するくらいで、とても退屈していたところに、かねてスナック葉月に徒歩で通える範囲で捜してもらっていた部屋が見つかったのだ。

1DKで小さなお風呂の付いたその部屋は、今の自分にはとても手頃に思えて、多少家賃は高かったけど一発で気に入ってしまった。

ほんとなら不忍池(しのばずのいけ)が見える立地なのに、実際はほかのビルが視界を遮っちゃってて、まるで見えなかったのにはちょっとがっかりだったけど、それでも一年振りに自分の城を持てたことで、るんるん気分で引っ越しを終えたところなのだ。

引っ越し荷物も運んでもらったし、敷金前家賃のたぐいも全部美智子ちゃんに払ってもらっちゃったし、おまけに、とりあえずの二百万は勿論、おまけの分までちゃんとバッグに収まってるんだから。

流石に保証人だけは葉月ママに頼んだけど、明日からスナック葉月でもう一度頑張ることになってることだし、予想通り気持ちよく引き受けてもらえた。

とにかく、今日から気楽な一人暮らしに戻れたのだ。

神宮前で使っていたあの部屋は、しばらくこのままにして置くから、いつでも戻ってきて良いって言われてるけど、そんなこと言ったって、十日もあそこにいて正直退屈過ぎて困っちゃったわよ。

また、お小遣いをねだりに遊びに行くつもりでいるけど、それにしたって、せいぜい一泊二日が良いとこね。

尤も、その一泊が新しいお小遣いのタネなんだけど。

あの人からの贈り物はドレスとかバッグやアクセサリーだけ届いてたから、全部持って来たけど、成人式用の振り袖一式だけは未だだから、どっちにしてもその内取りに行かなくちゃ。

美智子ちゃんの話なんかじゃ、かなり上物(じょうもの)の振り袖らしいし、仕上がりは年明けになっちゃうって言ってたけど、いくらなんでも本番の成人式には間に合うでしょ。

なにしろ、特別の絹らしいし、なんか良くわかんないけど、テンサン(天蚕)とか言って、「繊維のダイヤモンド」とか呼ばれてるめちゃくちゃ高いものだったみたい。

それが、「天蚕三代(てんさんさんだい)」って言われるほど丈夫で長持ちするらしくて、美智子ちゃんなんか、それだけで一財産だって言ってたくらいだし、その点でもとっても待ち遠しい。

前は成人式なんて興味無かったけど、いざ着て行くものが揃ったとなると、やっぱり着てみたくなっちゃうから不思議よねえ。

先に届いたドレスなんかも、それ系だって言うし、ほんと素晴らしい光沢があって、肌触りなんかとってもしなやかで柔らかくって、試してみたら普通のシルクと違って確かに皺(しわ)になり難くて、もう良いとこだらけで嬉しくなっちゃったわ。

美智子ちゃんなんか、着物にしても洋服にしても、それ系のもの、いっぱい持ってるらしいし、あたしももっと頑張らなくっちゃ。

夕べ最後だと思って、美智子ちゃんにはあたしの気持ちを伝えてあるけど、ほんとにあの人にお礼に行かなくていいのかしらねえ。

彼女の話では、あの人もみどりママもとても忙しくて当分無理らしいけど、テレビなんかで見たら、むちゃくちゃ忙しいって言うのもほんとらしいし、でも、あんまり忙し過ぎて体調崩しちゃったみたいで、今週中はどっかで静養だって言ってたから、お見舞いに行きたいって頼んでみたけど、やっぱりダメなんですって。

あたしの方は、あの人が呼んでくれれば行っても良い気でいることだけは、はっきり言ってあるんだし、あの人となら、なるようになっちゃったってちっとも構わないってことまで匂わせたつもりなんだけど、ちゃんと伝わってるかしら。

その点、相当気になることも言ってたっけ。

ちょっとびっくりしちゃったけど、近いうち美智子ちゃん自身が、あの人のお側付きになるみたい。

なんでも、あののっぽで有名な三人組の秘書さんたちと交替で、秋津州財団総裁秘書のお仕事に専任されるみたいで、何気にさらりと言ってたけど、ほんとはうれしくてたまらないに決まってるわ。

だって、あの人のお国では憧れの職業だって自分で言ってたくらいなんだもの。

でも、何から何まであたしとそっくりで、おまけに二つも若いんだもの、そんな子があの人の側に、日がな一日じゅう、べったりくっついてるだなんて、どう考えたって引っ掛かるわよねえ。

そのくらいなら、いっそこのあたしがって思わないことも無かったけど、そうすると又あのお勉強の話がぶり返しちゃいそうだし、そう言えば、あの人がオーナーやってる会社に勤めるとか言う話、あれっきり全然出てこなかったなあ。

月給百十万ってとこだけは魅力あるんだけど、どうやら難しいお勉強させられちゃいそうだし、それだけは絶対ご免だわ。

だいいち、今さら小難(こむずか)しいお勉強だなんて、考えただけで寒気がして来ちゃうわよ。

前にその話になったとき、勉強は絶対嫌だって言ってあったのが効いたのかしら、誰も二度と言い出さなかったし。

まあ、こっちとしては、それで助かったんだけど。

でも、美智子ちゃんには参ったわ。

からかい半分に「お側付きになったとき、あの人に手でも握られたらどうすんの。」って聞いてみたら、とたんに耳たぶまで真っ赤になったと思ったら、逆に抜け抜けと「どうしたらそうなれるか教えて欲しい。」だって。

憎らしいったらありゃしない。

まったく、聞いて損しちゃったわよ。

それに、美智子ちゃんったら、あんまり真剣なんだもの、こっちの方が困っちゃったくらいだわ。

話だと、美智子ちゃんのうちは相当のお金持ちだったらしくて、教えてくれたらちゃんとお礼するって言うし、ほんと考えちゃうわよねえ。

でも、考えてみればまるまる十日間も付きっ切りで面倒見てくれたんだし、話によっちゃ相談に乗るわよって言ってあげたら、大喜びで乗って来たっけ。

こないだの、あと一億でも二億でもって話だって、この流れだと今後は美智子ちゃんちでそっくり持つことになるみたいだし、親御さんの方もよっぽど入れ込んじゃってるみたいなのよねえ。

あるとこには、あるものよねえ。

それに、話を聞いてて一番不思議だったのは、そこまで入れ込んでるわりに、正式な奥さんになってやろうって気構えが全然感じられないことだ。

美智子ちゃんはお国ではちゃんとした家のお嬢さんで、それも未だ十八なのに、どうやら最初から諦めちゃってるみたい。

どうも、親御さんの言い付けもあるらしくて、ただもう、ひたすらあの人の子供を産みたいだけみたいに聞こえちゃうし、考えて見ると、ひどい親もあったもんだわ。

いったい全体、自分の娘をなんだと思ってるんだろ。

まったく、信じらんない。

これだけは、どうにも納得出来ないわ。

それで、多少いらいらしながら聞いてみた。

「要するに、どんな風にやったらあの人をその気にさせられるか、教えてあげればいいのよね。」

「はい。」

「でも、今のあの人は、遺骨の入ったロケットを身に付けていて、しょっちゅうご免ねご免ねって謝ってばかりいるんでしょ。」

王さま本人は、とっても純情なのよねえ。

あたしなんかから見たら、そこんとこが一番好きなんだけどなあ。

「そうなんです。」

「やっぱり、あんたじゃ難しいと思うわ。」

腹立ち紛れに、少し冷たく突き放してやったわ。

「やっぱり、あたしなんかじゃ無理なんでしょうか?」

そうよ、あんたじゃ無理なのよ。

おやおや、この子、しょんぼりしちゃったよ。

「でも、そう言ってても話は進まないわよねえ。」

お礼だって欲しいしさ。

「はい。」

「結局、その遺骨を手放す気持ちに持って行くまでがたいへんなのよねえ。」

「はい。あたしもそうだと思います。」

この子はもう、バカ正直に目を輝かしちゃってるのだ。

「あたしだったら、あの人のお母さんになったつもりで、ほんと、痒いところに手が届くって言うか、とにかく一生懸命お世話してあげてさ、ほんわかムードで優しく包み込んであげるわね。あんまりお色気ムードは出さないでさ。」

「あら、お色気はダメなんですか?」

「そりゃそうよ。相手がそんな気分でいるんだもの、中途半端なお色気なんかじゃ、かえってダメんなっちゃうと思うのよね。」

「え?」

「それより、二人っきりになれることなんてあるのかしら?」

そこんところが肝心だ。

「それは、だいじょぶだと思います。」

「そうか、まわりの協力体制もとっくに出来ちゃってるってわけかあ。」

美智子ちゃんちじゃ、あっちこっちお金ばらまいて、きっと必死なんだろなあ。

どっちみち、ばっちり準備が出来ちゃってるみたいな感じだし。

「はい。」

あらあら、ほんとに正直なんだから。

「じゃ、そんときに思いっ切りお色気ムードで迫るのよ。だって、正式な奥さんになるわけじゃないんでしょ?」

「そんなの最初から諦めてますから。」

そりゃそうよ、絶対諦めるべきなのよ。

「だったら、思いっ切りやってもだいじょぶでしょ。」

「普段はお母さんで、二人っきりのときは・・・・」

「そう、思いっ切り。」

「例えば・・・・」

真剣な目をするのである。

「ふうん、美智子ちゃんに出来るかしらねえ。あたしなら簡単なんだけど。」

「教えて頂ければ、あたし、どんなことでもするつもりでいるんです。」

まったく十八かそこらでいい根性してるわ。

でも考えてみたら、あたしなんか十六のときにゃ、もう立派に一人前のオンナやってたし、とてもヒトのことなんか言ってられないと思ったら、途端に可笑しくなっちゃったけど。

それから、いろんなテクニックを教えてあげたんだけど、究極のテクはさすがに美智子ちゃんの見てる前じゃ恥ずかしいし、やりにくいし、どうしようかと思ったら、席を外すから窓の月で撮影させて欲しいって言われちゃった。

でも、撮影なんかされちゃった日にゃ、それこそあとが大変だし、やっぱり考えちゃうわよねえ。

そしたら、見るのは自分とあの人の二人だけだからって言われて、もう一度考えちゃったわよ。

お礼だって魅力だし、おまけに、このあたしの自信の艶技を見たら、美智子ちゃんよりあたしの方にご指名がかかるに決まってるんだし、こっちは、いつだってオーケーなんだから。

なにしろ、相手は世界でもダントツの大金持ちで、若くてたくましくて、その上顔だってあたしの好みなんだし、お妃さまだなんて窮屈なものにはなりたくもないけど、気楽な隠し妻なら大歓迎よ。

最低でも、一生贅沢していられることは間違いないだろうし。

念のため、窓の月も未だ持ってることだし、何かあったら美智子ちゃんが知らせてくれるって言ってたし、でも、いつごろになったら、あの人が見ることになるのかしら。

美智子ちゃんがいくら真似したって、絶対あたしの勝ちなんだから。

そうしたら、きっとあたしの方にお座敷が掛かるに決まってるんだし、ちょっと考えただけで、ほんと、うずうずしてきちゃう。

でも聞いたら、あの人と二人きりになるって言ったって、別にあの人の寝室に呼ばれるってわけじゃ無さそうだし、昼間のお仕事中の話だったらしい。

要するに、最初は文字通りのオフィスワイフを狙い目にしてるってわけよね。

結局、その前提でいろいろ教えてあげないといけなくなっちゃったし、とりあえず、来週までにいろいろお洋服とかも用意しといてもらって、早速日曜日にでも行って来なくちゃ。

話の様子だと、あたしの舞台用に本格的なオフィスみたいな部屋を用意する気でいるみたいだから、きっと明日から模様替えで大騒ぎになっちゃうんだろう。

普通、そこまでやるかあ。

まあ、どっちみちあたしのお金が減るわけじゃないんだし、どうせ美智子ちゃんじゃ無理に決まってるんだから、結局最後はあたしの出番だわよね。

今度行くときは、それこそ腕によりを掛けて名艶技をご披露しなくっちゃ。

美智子ちゃんの場合、耳学問ばっかりでほんとなんにも知らないんだから、とにかく脱ぐことばっかり考えてちゃダメよって言ってやったらきょとんとしてたっけ。

脱がない方がかえって色っぽく出来るんだってとこ、実際やって見せるしかないわね、きっと。

だいいち、そう言うシーンほど撮影したがるんだろうし、ま、こっちとしても、それだけいい稼ぎになるんだから、悪い話じゃないんだし。

ほんとは、あたしがあの人んところへ出かけて行って、じかにやって見せちゃった方が話が早いのに、ああっ、じれったいわねえ。

それに一回も会ったこと無いのに、こんなにたくさんもらっちゃったんだし、いくらなんでもお礼ぐらい言わなくちゃ申し訳ないだろうし、それと、話だとみどりママも体調崩しちゃってるって言ってたけど、相当悪いのかしらねえ。

どっちにしても、お見舞いは当分無理だって言われちゃってるしなあ。

あとは二・三日うちに、理沙姉さんにお礼かたがた挨拶しに行っとかなくちゃ。

一応、何日か前に電話でお礼と近況報告は済ませてあるけど、なんてったって、今度のことでは、取っ掛かりは全部理沙姉さんにお世話になってるんだもの。

新しい携帯の番号は、今のところ葉月ママと美智子ちゃんにしか教えてないけど、出来たらあの人にも教えておけたらなあ。

でも、あの人からメールが来ちゃったらどうしよう。

そう考えただけで、体の芯に火が着いちゃったみたい。

営業用のもう一本には、もう五十人くらい登録済ませちゃったし、とりあえずあとは、すこしばかり食材とか調味料とか、あと台所用品とかも揃えなくちゃ。

クローゼットハンガーなんか、神宮前で使ってた立派なヤツをそのまま貰ってきちゃったことだし、それと、テレビと冷蔵庫と洗濯機と、ええとエアコンと掃除機も要るわよねえ。

ドレッサーと炊飯器だけは、葉月ママがお引っ越し祝いにくれるって言ってたから、あとはレンジと、ちょっと狭くなるけど出来たら乾燥機も欲しいところだし、ちょっくら秋葉原まで行って来るとするかあ。

律子の懐は、しごくあったかいのである。


顔を直してるところに、まことに賑やかなお客さんだった。

外の通路から聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、もう業者さんがさっさとドレッサーを運び込み、その後ろからママと娘の咲ちゃんが両手にいっぱい持って来てくれたのだ。

「なんだ、もうすっかり片付いちゃってるじゃないの。」

「だって、ハンガーにみんな掛けちゃったから、あっと言う間に済んじゃったわよ。」

なにしろ荷物ったって、ほとんど衣装と靴ばっかりなんだもの。

「おやあ、ずいぶん立派なクローゼットハンガーじゃないか。どっから、かっぱらってきたのよ。」

「あはは、けっこう上物でしょ。ついでに貰ってきちゃったのよ。」

「そかそか、じゃ、雑巾いっぱい持って来てやったから、さっさとやっつけちまうか。」

ママったら、ほんとに働き者なんだから。

咲ちゃんを追い立てるみたいにして、あっという間に雑巾がけが終わっちゃったと思ったら、今度はメジャーを取り出してあちこち計り始めた。

咲ちゃんが長い手足を伸ばして寸法を取り、そばでママがいちいち指示を飛ばしながらメモしてる。

きっと、冷蔵庫とか洗濯機だとかの置き場所のサイズなのよね。

でも咲ちゃんには、おどろかされたわ。

一年ちょっと見ないうちに、あたしよりおっきくなっちゃってて、おまけに見事な娘に成長しててほんとにびっくりしちゃった。

この前会った時は、確か未だ十五だった筈で、聞いたら丁度昨日が十七歳の誕生日だったらしいけど、それにしても、まるで蛹(さなぎ)が羽化して、鮮やかな揚羽蝶になっていきなり飛んで来たような気分だ。

女のあたしから見てさえ、まったく素晴らしい美人になっちゃってて、あたしだって未だ負けてないとは思うけど、これじゃもうちょっと経ったら判んないわよね。

つくづく見直しちゃったわよ。

未だ腰や胸なんかがイマイチ育ちきって無いのは仕方ないけど、プロポーションなんかもう信じらんないくらい。

ほんと、こう言う子見ちゃうと、あたしもそろそろ引退かなあ。

ま、いろいろお手伝いもしてくれたことだし、ようし、一日遅れのバースデイプレゼントにお寿司でも奮発するとするかあ。

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  1. 2007/10/01(月) 17:17:20|
  2. 妄想小説 主権国家|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:4
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コメント

|(:D)| ̄|_...ん?

昨日TVで 北様と南様はにこやかにしてた・・・なんかシックリこない・・・USAの内部にはいったい誰が入り込んでいたのだろう? 本当に核無力化って信じる人が居るのだろうか? 少なくとも唯一の被爆国は信じないと思うのだけど・・・

( ゚д゚)あ・・・妄想小説とは外れたけど( ̄ー ̄;)ゞわりぃわりぃ 
  1. 2007/10/05(金) 16:31:41 |
  2. URL |
  3. ほたる #-
  4. [ 編集]

 ^_^

>興梠姫さま

そりゃ、被爆国じゃなくたって信じないよ。

それより本質的な問題は、別のところにありそうな気がするよなあ。

核拡散防止条約のあれこれを別にすれば、いずれの国も核武装する「権利」は持ってる筈だよなあ。

但し、それがその国にとって真の国益に結びつくかどうか、それが問題だし。

勿論、日本が唯一の被爆国だなんちゅうことは、核武装の是非にとって、基本的に判断基準とはなり得ないしな~。

尤も、現在の日本にとって、核武装は国益にそぐわないと思うけど。

詳しくは、#017の「国井の徴兵制と核武装に関する見解」のところで、国井の口を借りて語らせている通りなのさあ。^^
  1. 2007/10/05(金) 19:52:05 |
  2. URL |
  3. あんくるじいじ #-
  4. [ 編集]

#17?

┣¨┣¨┣¨≡ヘ(*ⓛДⓛ)ノ┣¨┣¨┣¨
行ってくらぁ~~!  
  1. 2007/10/06(土) 14:42:04 |
  2. URL |
  3. ほたる #-
  4. [ 編集]

 ^_^

>こおろぎさまさま

行って来~~い。^^
  1. 2007/10/06(土) 19:41:05 |
  2. URL |
  3. あんくるじいじ #-
  4. [ 編集]

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