日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 105

 ◆ 目次ページに戻る

さて、秋津州の天地にも二千九年と言う新たな年が訪れはしたが、海都に滞在中のタイラーは、引き続き苛烈な日々を送らざるを得ない。

運命のガンマ線は容赦無く太陽系に近付いて来ており、少なくともその状況に変化が無い以上、タイラーはもとより、ワシントン自体が益々魔王の生存を歓迎せざるを得ない状況が続くことになる。

だが、そうであるにもかかわらず、かの白馬王子が発した狂気の暗殺指令が取り消された気配が無いのである。

挙句にそれは、朴清源の抹殺指令まで帯びたものであり、そのことに限って言えば、その犯行を秋津州側の仕業と見せかけることによって、国際的にも秋津州非難の声を高めさせ、国内では政権の求心力を強めようと謀ったものであることは間違いない。

加えて、民族の英雄朴清源将軍が死んでしまえば、これ以上困難な対秋津州交渉を続ける必要は消え失せ、その身柄の奪還を叫ぶ民の声も鎮静する筈であり、白馬王子にとって見れば、それこそ一石三鳥とも言うべき妙策なのである。

ワシントンもとうにこの暗殺指令の概要を掴んでおり、タイラーにとってもことは重大であり、早速秋津州の外事部に一報を入れておいた。

そそくさと、ご注進に及んだのである。

万が一にも秋津州側が知らない筈は無いとは思うが、知っていながら口を閉ざしていたと思われるのも業腹(ごうはら)だ。

その後も相応の緊張感を持ってことの推移を見守って来たが、この秋津州に限って取り立てて不穏な動きがあったとも聞かず、平穏のうちに年の瀬を越えたものらしく、少なくとも実際に魔王が危ない目にあうことなど全く無かった筈だ。

あれ以来目出度く側近となったらしい田中盛重の方は、今やすっかり元気を取り戻し、惑星間移動の際のナビゲーターを務めるかたわら、魔王の酒の相手としても貴重な存在となりつつあると言う。

近頃では取材の申し込みも少なく無いと聞くが、あの年若い官僚が応じたと言う話も聞かない。

一方の立川みどりが一旦銀座に戻ったのも、国王の日常が平静を取り戻した証拠だと言う囁きが漏れて来る一方、国王の傍を全く離れてしまったわけではないと言う話も伝わって来ており、結局、その後も頻繁に国王のそばにいることだけは確かなのだろう。

ただ、惜しむらくはそれらの側近たちとはまるで接点が無いのである。

近頃俄かに台頭して来た田中などは、結局あの新田や岡部の腰ぎんちゃくのような人間だったらしく、下僚に命じて接触させて見たが、まるで我が国を敵視しているような気配すらあり、先ず篭絡するのは難しいだろうと言う報告が入っている。

よほど、新田等に感化されてしまっているのだろう。

無論、内務省の官僚たちや、或いは国民議会の議員たちにも散々に手を尽くして来たが、買収も脅迫も、無論ハニートラップも全く功を成さず、結局我が国は、これほどまでの超大国と、今に至るまで満足な人脈を築くことが出来なかったことになる。

唯一、秋元姉妹とのそれを持つのみなのだ。

他の手段が断たれてしまっている以上、あくまで非公式なものであるにせよ、それは一際貴重なものであり、これまでも散々に接触を重ねて来た。

本日六日は重要なアポがあり、もうじきその末娘でもあるアリアドネの女神が訪れる筈だ。

同じフロアの英国代表部付近に配置した属僚から、つい今しがた女神さまご出御(しゅつぎょ)の報せが入ったばかりなのだ。

上品な和風ケーキも用意したし、密かに談ずべきこともある。

無論、我が国にとって重大案件ばかりであり、このためにこそ、今も大層なプレゼントを贈り続けているのである。

程も無く、英国代表部から直行して来たらしい女神さまが鮮やかに降臨してくれて、挨拶もそこそこに本題に入ることを得た。

「早速ですが、半島情勢に付いてご意見を頂戴致したい。」

白馬王子の魔王暗殺指令のことだ。

「だいぶ、きな臭い情勢だと伺っておりますが。」

女神さまは、常と変わらず花のような笑みを見せてくれており、日頃のプレゼント攻勢がそれなりの効果を発揮してくれているに違いない。

「大分煙が立っておりますようで、そろそろ対策が必要となって参ったのでは無いでしょうか?」

「さようでございますか?」

まったく、何処吹く風と言う表情だが、そんな筈はないのである。

「何かと煩(うる)そうございますからな。」

「確かに、煩(わずら)わしく無いことはございませんわね。」

この秋津州ビルに居を構えるその国の代表部の者にしても、昨今その数を増していることは確かであり、そこがれっきとしたその国の出先機関である以上、彼等の全てが本国の訓令を受けて動くのは当然過ぎるほど当然のことだ。

ただ、それらの者たちにしても、出入国に際しては、多くの場合SS六のチャーター便を用いている以上、不審な武器類の搬入など物理的に不可能だと言って良い。

タイラーの目に映る過去の「実績」が、それを如実に物語っていたのである。

その上、SS六を利用する場合、いずれの国籍を持つ者であっても入国審査が一切不要なのだ。

但し、民間人を装って上陸してくる者の中には船便を利用するケースがあり、女神さまは、その場合の入国審査が煩(わずら)わしいと言っているに違いない。

何せ、あのテロリストの例を見るまでも無く、その国の者は他国の国籍を名乗って入って来るケースがほとんどであり、現に上陸すら許されず追い返される例があとを絶たないと聞いているほどで、女神さまはその対応が煩わしいと言っていることになる。

「だからこそ、具体策が必要なのでは?」

「は?」

女神さまは怪訝な表情を見せてとぼけてはいるが、何もかも承知している筈なのだ。

「いや、何も申し上げますまい。既にその準備もほぼ終えておりますので。」

その地においては、ワシントンの意を体した者が、大枚のドルを費やしながら密かに「活動中」であることは確かだ。

「あら、何の準備なのでございましょう?」

判ってない筈が無いのだ。

「いや、それはお聞きにならない方がお為でしょう。全てお任せ頂ければよろしいかと。」

聞かなければ、何が起きても全て知らなかったで済む話なのだ。

「おほほほ、ずいぶん強引なお話でございますこと。」

「いえ、私どもは秋津州のお為にならないようなことは決して致しませんから。」

「念のため申し上げておきますが、国王陛下は暗殺などと言う手段は決して好んではおられませんので、そのことだけはお忘れなく。」

表向きだけなら、どんな奇麗事でも言えるのだ。

「勿論、承知しております。」

結局、本音と建前と言うことだ。

魔王にしたって、いざ劣勢に立たされれば、そんな奇麗事は言ってられない筈だ。

現に、過去において丹波が異星人に襲われた際も、敵の不意を衝くことによって辛うじて勝ちを拾ったと聞いており、滅びの恐怖を前にして、そんな奇麗事を並べるヤツがいたら、そいつは明らかな偽善者だ。

情け無いことに、現在のワシントンはそのような綺麗事を言っている余裕は無いのである。

「それならよろしゅうございますけれど、陛下の場合、どうしても必要とあれば、太陽の下(もと)で堂々と雌雄を決することの方をお好みでございますので、是非ともこれだけはお含みおき下さいますよう。」

「なるほど、陛下ならその通りでございましょうな。」

「さようでございます。」

「ふうむ、その手がございましたなあ。」

一瞬、ひらめいたことがある。

万一、白馬王子が自暴自棄の作戦ではあるにせよ、国内対策の一環として国王暗殺指令を公然と認めてしまうほど狂ってしまった場合のことだ。

「はい?」

「いえ。お気になさらずに。」

こっちの話なのだ。

「あらあら。」

「つきましては、未だ仮の話ではありますが、もう一点重大な御相談がございます。」

「お伺いしますわ。」

「これは、あくまでも仮の話なのですが。」

何しろ、未だワシントンの統一見解にまでは至っていない案件なのだ。

「承知しておりますので、お気遣い無く。」

「では、申し上げます。」

「どうぞ。」

「実は丹波の新領土の開発計画のことなんでございますが、陛下にご支援をお願いすれば、今現在でもお聞き届け頂けますでしょうか?」

ワシントンの積極派が第一に心を悩ませているのはこのことであり、いざ懇願して断られたとなると、ワシントンは一方的に恥をかくことになるのだ。

現に丹波では、あの恐るべき大軍団が他国の為に大量に動員されてしまっており、如何な秋津州軍団の大兵力でも、これ以上の大量動員は困難だと見る向きも多いため、いずれにせよワシントンの願いは叶えられることは無く、その結果僅かに残ったプライドのかけらまで粉砕されてしまうのを、ひたすら恐れ立ち竦んでしまっている者が目立つのである。

まして、いきさつから言ってあの魔王は合衆国の滅びをこそ望んでいるのであり、そうである以上、我が国の懇請になど聞く耳を持たない筈だと叫ぶ者がおり、この期に及んでその魔王に頼みごとをするなど、所詮赤恥をかかされるだけに過ぎないとまで叫ぶのだ。

現にタイラー自身が、同様の恐怖に怯えていたのである。

「陛下の動員能力に関してのご懸念(けねん)なのでございますか?」

「はっきり申せばそうなります。」

「おほほほ、その点でございましたら、ご懸念には及ばないと申し上げておきますわ。」

「では、未だ余力をお残しだと・・・・」

「現在丹波で即刻動員可能な部隊だけでも、二個兵団もございますもの。」

「だけでも、と仰いますと?」

「地球と他の荘園からも派出すれば、そのほかにも三個兵団の増援が可能ですわ。」

地球の守備兵力として一個軍団を残したとしても、残りの六十三個軍団を動員することは充分可能であり、あとの荘園の守備兵力に付いても同様なのだが、タイラーにはそこまでのことは判らない。

「と仰いますと、現段階でも未だ五個兵団の予備兵力をお持ちだと?」

「はい、それに新アフリカ大陸の無償の基礎部分だけなら、そろそろ終了間近だと伺っておりますので、その分の一個兵団がまるまる手すきになる見込みでございますから。」

秋津州軍団に休息は不要だ。

即刻、他の戦場に投入が可能なのである。

「そう言えば確かあの任那の大工事が、まるまる一個兵団で賄われていると聞きましたが。」

その地では、ニューヨークやロサンゼルスをも凌ぐ近代都市群の建設工事が砂塵を巻いて驀進中であり、港湾建設や地下工事は勿論、大動脈の役割を果たす道路網などはとうに目鼻がついてしまっていると聞く。

呆れたことに、各都市部では地下鉄の走行実験まで完了していると言い、事実とすれば、既に大容量電力の供給まで実現されているに違いないのだ。

「そのようですわね。それも思ったより余剰戦力がありそうですので、あと一個兵団の投入をお考えのようですが。」

「ほほう、そう致しますと、任那の完成予定もずいぶん前倒しになる見通しが立ったと言うことでしょうか。」

新天地における米本土に地続きの領域の話でもあり、とてものことに無関心ではおられない。

「現状では、今月いっぱいの完成を目指してらっしゃると伺っております。」

「それはすごいですなあ。」

それが事実なら、総面積百万平方キロにも及ぶ広大な領土の近代設備が、僅か三ケ月で完成してしまうことになる。

その面積は現在の日本の三倍にも及ぶのである。

「もう一個兵団を増強すれば、任那全土の植林事業まで完了してしまうと伺っております。」

「いやもう、驚くばかりです。」

「でも、今さらこの程度のことで驚かれることは無いのでは・・・・」

「では、我が国の新領土建設にまるまる一個兵団のご支援を賜ることも可能だと仰る?」

「充分可能かと存じますが。」

「充分・・・・ですか?」

「はい、充分でございます。」

「以前、外事部から伺ったところによりますと、基本的な支援工事以外は全て有償だと言うお話でしたが、日本などの場合、どのような方式をお採りになってらっしゃるのでしょうか?」

かつて、新田源一が策定したその基本原則は、諸国家から寄せられる無制限の懇請を無原則に応諾してしまえば、当然その全てに応じるほどの余力は無いため、結局不公平な対応にならざるを得ないことから定められたものであった。

「個別の契約内容は、申し上げるわけには参りませんわ。」

「なるほど、その国の名誉にも係わることでしょうからな。それでは一般例として改めてお尋ねしたい。」

「あくまで一般例として申し上げますが、一つには国債を発行してそれを秋津州政府に交付すると言う手がございます。全て秋津州円建てで。」

「ほほう、秋津州円建てですか。」

利払いも元金の償還も、全て秋津州円で決済されることになる。

「発行は、丹波への移住の必然性を民に知らしめたあとになろうかと。」

「なるほど、その国債発行の必然性を堂々と主張することの出来る政治的環境が必要だと仰るわけですな。」

「五年物を三パーセントの利付き債で二兆円ほど、十年物を四パーセントで二兆円、十五年物を五パーセントでこれまた二兆円あたりになりましょうか。」

「ほほう、利払いも入れれば日本円で概算千四百兆ほどになりますな。合衆国の場合、いかほどになりましょうな?」

「おほほほ、お国の場合建設内容が明示されない以上、どうにも計算のしようもございませんわ。」

秋津州は、あくまで相手国が提出して来る国土建設の設計図に基づいて工事を行うに過ぎず、それが無ければコスト計算さえ出来ないことは子供にでも判ることなのである。

「ご尤もでございますな。それでは仮に、質的に敷島と同程度のレベルを想定しての話ならいかがでしょう?」

敷島の場合、PME型発電設備など大型のものが既に二百を超えて稼動し始め、地方に至るまで道路や鉄道用軌道が整備されたと聞く。

その上、中央官庁用の各施設は勿論、皇居や国会まで完成間近だと聞いているのである。

例の敷島特会の威力は凄まじく、種々の民間企業の現地進出が進み、トヨベを始めさまざまな大規模工場の建設までがその支援を受けていると言われ、秋津州軍が直接その建設を行う事例まで散見されているのだ。

そのため、敷島の先行性ばかりが益々強調され、自然現地の不動産価値が高まるに連れ、その多くが官有地であることから、いよいよ敷島特会の金庫を潤す勢いを加速させているのも当然のことなのである。

その点から見ても、現地の領域における経済基盤の完成度と先行性が殊更に重要なものとなって来ることは明らかで、これ以上の出遅れは、我が国の領域における未開の「原野」が二束三文にしかならないと言う悲惨な状況を招いてしまうのだ。

その結果、国家再建に関わる貴重な財源が無為に失われてしまい、我が国の凋落は止め処も無いものとなってしまうだろう。

既に、マーケットがそう見てしまっている気配まである。

我がワシントンにおいても、ことの重大さにようやく気付いたと言って良いが、時既に遅く、我が国は最早形振り(なりふり)など構ってはいられないところにまで追い込まれてしまっている。

「それですと、量的に十倍以上の工事になりますわね。」

「やはり、費用の方も十倍以上と言うことになりましょうか?」

「勿論精密な国土計画の設計図が必要ですが、その代わり百日もあれば立派に完成してしまいますわよ。」

「ひゃ、百日・・・・ですか。そうすると概ね中露には追いつけることになりますなあ。」

中露両国に対してだけは、何としてでも追い付き追い越さなければならないのだ。

幸か不幸か、その二カ国の場合、有償の部分に関してはあまり多くを依頼していないため、自力で開発を行う部分を数多く積み残しており、その進捗振りが脅威となる可能性は極めて低い。

「はい、そのケースなら、最初から二個兵団を一挙投入と言うことになりましょうから、ひと月もあれば、道路や空港や港湾まで実物を捉えた高空写真で国民に報告出来るようになりますし。」

「ひと月ですかあ。」

「はい、ひと月ですわ。」

「しかし、費用の方が・・・」

「PME発電所の数を考慮するとか、コストカットの方法はいろいろおありになろうかと。」

「道路とか空港とかを削減する手もありますな。」

「はい。そもそも主要な港湾とそこから内陸を結ぶ道路だけなら、一切無償と言う前提でございますから、無償の分だけ陛下に請願すると言う方法もございますわ。」

多くの国家が採用した方法がこれであり、この場合のコストは全額秋津州の負担となるのである。

今以てこの無償部分の支援の申請すら行っていない国家は、合衆国とカナダ、そして豪州とEU諸国を除けば、朝鮮共和国を含むほんの僅かなものでしかない。

「いえ、それでは歴然と後れを取ることになってしまいますから。」

「では、完成に至るまでの貴重な時間そのものをお購(もと)めになると仰るのですね?」

「私個人としましては、結局、出遅れた分を取り戻すには、それしか無いと思っておるところです。」

「あとは、お国の方が国家レベルでどうなさるか、でございますわね。」

「はい、こうしている間にも他国の領域だけが、どんどん進んでしまっているわけですし。」

「結局、時は金なりでございますか。」

「今から考えますと、最初の時点で真っ先にお願いしておくべきだったとは思いますが、当時は、まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかったわけでして。」

これこそが、ワシントンの最大の失策だったと言って良い。

「それはそうでしょうねえ。」

「今さら後悔しても始まりませんがね。」

「おほほほ。」

「ところで、建設に関わるもろもろの資材についてですが、その辺の余力の方はいかがでしょう?」

「おほほほ、確かにお国のご計画にもよりましょうが、でもそれにしたって、たかだか米国一国分のことでございましょう?」

たかだか米国一国分だと仰る。

まあ、そう言われてしまっても止むを得ない実情ではあるのだが。

「では、そのくらいなら問題外だと?」

「陛下には荘園がございます。」

「ほほう、それでは鉄やセメントなども・・・・」

「はい、充分に備蓄してございますから。」

実際に、秋桜や敷島においても既に大規模な製鉄設備やセメント工場が多数稼動しており、その生産量も日に日に増しているほどなのだ。

無論天空に浮かぶ宇宙基地においては、それを上回るほどの実力を誇っている。

「では、懸念(けねん)は無用だと?」

「はい。」

「それでは、その運びで参りました場合、せめて来月いっぱいくらいは、例の公表問題をご猶予いただけるものと理解してよろしゅうございましょうか?」

例の公表問題とは、中露両国が主張する早期の「ケンタウルスの真実の公表」のことであり、現状でそれが公表されてしまえば、全てにおいて我が国の完敗に繋がることは明らかなのだ。

「さあ、こればかりは迂闊なことは申し上げられませんわ。だってお国の国策が定まらない以上、いつまでお待ちしたら良いものやら、それこそ見当もつきませんもの。」

「それは確かにその通りでしょうな。」

それぞれの国家が独自の主権を持つからには、いかなる国策を定めようと本来その国の自由の筈であり、そうである以上、全ては、我が国の国策決定が遅れていることに起因しているのである。

あのワシントンの腰をどやしつけてでも奮起させなければならず、早速に、タイラーレポートを作成しなければならない。

さもなくば、合衆国の繁栄の歴史は、いよいよ以て終焉を迎えるばかりだ。

古来、国策を誤り、悲惨な終焉を迎えた国家が数限り無く存在したことだけは紛れも無い事実であり、そのためにこそ賢明な国策の策定が必要であることは言うを俟たないのである。


一月の第二月曜は十二日にあたり、日本では新成人の門出を祝う祝日とされているが、今年はそれがなかなかの好天に恵まれ、各地で行われるイベントなどにも相当の人出があったと言う。

あの興梠律子も目出度く成人式を迎え、イベント会場に豪華な大振り袖で登場して、盛んにフラッシュを浴びる姿が数多く報道画面を飾った。

メディアが、ネタに不自由していたこともあっただろうが、その分、余計に注目を浴びてしまったことは確かで、かなりのカメラが絢爛たる姿を執拗に追ったことは事実だ。

その衣装一式は無論みどりから贈られたもので、繊維のダイヤモンドと呼ばれる例の天蚕絹で織り上げたものであり、織りと言い、染めと言い、着付けに手を貸した葉月ママのため息を誘うほど見事な出来映えだったのである。

生来の優れた美貌も加わり、その艶姿(あですがた)は多くの新成人の中でも格段に立ち勝っており、まさしくそれは鶏群の一鶴とはこのことかと思わせるほどで、メディアにとっても垂涎の画材となったことだろう。

そのさまを見るに付け、又ぞろ芸能プロダクションの名刺を持った連中が、数多く登場して来ることになるのだろうが、肝心の彼女自身にまったくその気が無いのである。

現在、彼女の日常はスナック葉月に通う毎日であり、その店のスーパースターとして煌びやかにフロアを泳ぎまわる日々を送っており、美麗な深海魚のようなそのホステスを目当てに通って来る客も当然少なく無い。

又神宮前に一泊しながらのアルバイトにも精を出しており、立派な事務所形式に改装されたその場所がその場合の「勤務地」となり、そして又スタジオともなって数多くの「作品」を生んでいたのだ。

この限りにおいては、既にかなりのギャラを稼ぐ女優であったとも言えよう。

その上、とうに充分過ぎるほどの有名人になってしまっており、その辺の芸能プロダクションの臭い話などには興味を示さないのも尤もだ。

また、この「女優」にとって幸いだったことは、新成人を祝う式典の後、喫茶立川にまで出向いて行き、みどりに直接挨拶出来たことである。

二人にとって、言わば、これが感激のご対面となったのだ。

双方共に長らく会いたいと思いつつ、ようやく会えたと言う心境でもあったのだが、わざわざこの日に出向いたのも、振り袖の礼を兼ねてその艶姿(あですがた)を直接見せるためであり、或いは又、体調を崩したと聞いたことによる見舞いの意味でもあっただろう。

直接顔を合わせて話をするのは初めてのことだったが、窓の月を通してのことなら何度も会話する機会があって、初対面のような気がしないことも共通しており、思いのほか意気投合して話が弾み、傍目(はため)にはまるで親子のように見えたと言う目撃談まであったほどだ。

ただ、この日を境に二人の間の距離が格段に縮まったことは事実で、その後律子から「お母さん」と呼ばれることを、何よりの楽しみとするみどりの姿が見られるようになるのである。


さて、一月も半ばになって、天皇皇后両陛下の秋津州御訪問がようやくにして実現することとなった。

無論、秋津州王家に弔意を表する為である。

新田や相葉が両陛下の御意思を体し懸命に調整を重ねた結果であり、結局SS六を用いたそのご旅程は四時間ほどのものとなった。

十五日の朝、件(くだん)のSS六は旧王宮に直行し、両陛下は若者の丁重な先導を得て惨劇の現場にまで進まれ、簡略な献花式が執り行われたが、その際皇后陛下が格別にご落涙あそばされた旨が伝えらた。

現に両陛下は亡き真人王子の名付け親でもあり、その襁褓(むつき)の世話までなさったことまでおありになることから、そのお嘆きは想像に余りあると報じられたのも自然のことではあったろう。

その後、内務省ビルの四階に席を移し、若者との間で一時間にもわたってご懇談に及ばれ、その結果、若者の心にも新たな何ものかが芽生えたと言う声も頻(しき)りだ。

後になって若者は、殊に皇后陛下から賜った数々のお諭しが諄々と心に響き、自然と涙が溢れてしまったと洩らしたと言うが、その涙にしても、両陛下の御心(みこころ)に親しく触れたことで、それまで必死に張り詰めて来たものが、知らず知らずに溶かされて行った結果であったには違いない。

中でも、「亡くなられた方々も、あなたが、あなた自身の人生をしっかりと生き抜いて行かれることを、心から望んでおられる筈ですよ。しっかりなさい。」との皇后陛下のお叱りが格別に心に沁みてしまい、滂沱(ぼうだ)として溢れ出る涙を堪(こら)えることが出来なかったと言う。

少なくともその涙がさまざまの過去を洗い清めてくれたと言うのだが、この話にしても、田中盛重だけが直接耳にしたことであり、この頃の田中が既にそれほどの存在になっていた証(あかし)だと見る向きも少なく無い。

結果としてその後の若者が、多少口数が減ったとは言いながら、元来の若者らしさを目に見えて取り戻しつつあることが、新田や岡部にとっても大きな喜びに繋がって行ったことも事実だ。

一つには、国王が彼等の愛児それぞれの名付け親になっていたことも小さなことでは無かったろう。

ちなみに述べれば、客臘(かくろう)二十日に誕生した新田家の長男は源太郎、そして一日遅れで生まれて来た岡部家の長男は大二郎と名付けられ、その上その子等は、若者に抱かれる機会をふんだんに持っており、若者はその子等をあやしながら、そこに亡き真人王子の面影を追っていたのだろうと囁かれ、実際にその表情は歓びと充足感に溢れていたことだけは確かだ。

先日内務省を訪れたキャサリンが、かつて祖国に引き取られて行った孤児達を捉えた映像を土産にくれたときなどは、元気そうに遊びまわる孤児達の姿に接しつい涙ぐんでしまうほどだったのである。

その孤児達が、若者の願いも空しくそれぞれの祖国に引き取られて行ったのは、僅か十ヶ月ほど前のことだったが、その中に村中太郎と名付けられたアフリカ系の六歳児がいた。

例に違わず天涯の孤児で、生年月日どころか本名さえ不明であったものが、祖国の公的機関からも見捨てられ、餓死を待つばかりであったところを危うく秋津州に引き取られ、三年の余も国王の傍らで暮らす平穏な日々を得た。

あの王宮の居間などにも始終上がりこんで、国王の膝で戯れていたほどだ。

漆黒の素肌に愛くるしい瞳を持った子供であったが、それが、祖国の施設で暮らす中で突如病死したと言う。

未だ七歳になるかならずで人生の終焉を迎えてしまったことになるが、キャサリンによれば、その子の口癖が「アキツシマに帰りたい。」だったと言い、それを聞いた国王は、まるまる二日間一言も口を利かなかったらしい。

尤も、孤児たちが引き取られて行った直後に行われたNBSのインタビューに「子供たちを殺さんでくれ。」と応えたことを以て、国王の心のうちが手に取るようだと言った者も多数あったのだが。

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  1. 2007/10/09(火) 11:04:43|
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