日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 109

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さて、問題の公表以来、ほとんどの国が惑星間移住に関する話題で持ちきりだが、一方に、秋津州独自の話題も聞こえて来ないわけではない。

その地では昨年の十一月に有名なテロ事件があり、故王妃の実兄が瀕死の重傷を負って入院中であったが、半年にわたる治療の甲斐あって近頃ではなかなかの回復振りが伝えられ、近い将来の記者会見の可能性まで示唆するに至っている。

さまざまな憶測記事が氾濫し、一部にその正嘉氏が病院内を歩く姿なども報じられたが、近々左側頭部の形成外科手術を予定していると伝えられたことにより、それが一段落してからの証人出廷が見込まれていると言う。

尤も、その時期に関しては諸説紛々で、早い時期を言う説においては、五月末にもそれが可能だとする声まであるが、事件を担当する自治体側がこの証人の出廷を待って審理を開始するとしていたこともあり、正嘉氏の回復状況が殊更注目されていたのである。

事実、正嘉氏はこの事件の直接の被害者であり、犯行の一部始終を目撃した貴重な生き証人なのだ。

いずれにしてもその生々しい目撃証言を、罪状の審理に役立てないと言う法は無いだろう。

そのためにこそ余計その回復が待たれているのであり、報道する側にとっても大きな焦点の一つになっていたのだ。

又、もう一つの焦点は、被疑者の弁護人に関する問題だ。

この件では、以前これ見よがしに名乗りを上げた弁護士集団があったが、そのリーダー的人物の破廉恥な犯罪行為が発覚して以来、彼等人権派を標榜するグループは全て口を閉ざしたまま、自ら買って出た筈の無償の支援活動を停止してしまっていた。

卑劣にも、まったく一方的に沈黙してしまったことになる。

これにより弁護人が一人もいなくなったかに見えたが、実は全く別系統の弁護人が多数名乗りを上げていたのだ。

それは、秋津州滞在の外国人ジャーナリストたちであり、秋津州派遣と言う職務上の特性から言っても日本語を解する者ばかりだ。

無論日本人ジャーナリストも多数参画しており、彼等は殊に日本人山内隆雄氏が北欧で殺害された事件を追いかけていると言われる。

ちなみに秋津州側から見たその事件は、「他国の領土(北欧)で外国人が外国人に殺害された事案」であり、自然立件していないのである。

結局、裁判管轄権を主張しているのは実際に殺人が行われた現地国と日本だけなのだ。

秋津州としては、代理処罰を要請されているわけでも無く、勝手に裁いてしまうわけにも行かない。

この件では、日本側は現地に捜査員も派遣して物証も押さえ、立件を視野に入れながら秋津州の審理の行方を見守っている形だが、万一被疑者が釈放されでもしたら、国内法の国外犯規定に則り即刻訴追する意思を固めているとされる。

何せ日本側からすれば、このテロリストに五人もの日本人が全て海外で殺害されたことになるのだ。

万一その犯人が自由の身になったりすれば、放っておけるものではない。

尤も、秋津州側が釈放すると見込んでいるわけでは無く、それどころか日本のメディアなどは、秋津州の慣習法が極刑を否定していないことを根拠に、それに沿った論調で盛んに報じて来ており、日本の世論の多くも自然その延長線上にあると言って良い。

何せ、一人の日本人青年が北欧を旅行中に朴清源と言う外国人に殺害され、その資産を奪われた挙句、朴清源は被害者に成りすまして何度も日本に入国し、さまざまに工作して秋津州に入り、山内隆雄の仮面を被って凶行に及んでいる。

被疑者が我が物顔で費消していた山内隆雄名義の資産にしても、当然故人の物であって被疑者のものではない。

したがって、その銀行口座もとうに凍結されてしまっており、朴清源はほぼ無一文のため、名乗り出たジャーナリストたちは自然手弁当と言うことになる。

その活動中に入手し得るさまざまな情報は全て報道し得ることを以て報酬に代えたと言う説も無いではないが、彼等がかなり良心的かつ精力的に動いたことは確かで、何度も被疑者に面会して聞き取り調査を行い、かつ自治体側が持つ証拠品にも全て目を通し、無論供述調書とやらのコピーも入手した上で、さまざまな検討を加えながら審理の開始を待った。

ちなみに、秋津州においては制度上の弁護士と言う者が存在しない為、この場合の弁護人もその法的資格を問われることは無い。

しかも、通常は容疑者の親族や友人がその地位に就くことが多いとされ、容疑者との間に直接利害の絡む者であっても、その地位に就くことを妨げないのである。

その上、重大な刑事事件の審理にあたってなお、弁護人の選任を必須要件とはしておらず、言わば自由選択としているため、いきおい弁護人不在で審理が行われる例も少なくないと言う。

そのような環境の中で、一部に被疑者の生の発言とされるモノまで漏れ始めている上、唯一の目撃証人にインタビューを敢行しようと、こそこそと病室に侵入を企てる者まで出るに至っている。

事件の概要については広く報じられているとは言え、正嘉氏の証言内容が、それだけニュースバリューが高いと見られていることの表れではあっただろう。


五月二十七日、日本はもとより、今回の工事の発注者たちも、国内の正規の手続きを経て一斉に国債を発行して秋津州政府に交付した。

予定の通り全て秋津州円建てであり、その総額はドル換算で七十兆ドルを超えると言い、実にそれは全世界のGDP総額の二年分に迫るほどに途方も無い。

その内容も日本の場合に倣って三分割され、五年物が三パーセントの利付き、十年物を四パーセント、十五年物は五パーセントとし、それぞれ年に二回の利払いと言う条件で統一された。

その額面は工事の規模に応じて各国それぞれではあったが、それら個々の国家にとって、その負担は決して軽いものでは無かった筈だ。

しかし、それを純粋に工事の対価として見た場合、不当廉売だとジョークを飛ばした者までいたことを見ても、甚だしく格安であったことは誰もが認めており、現にこの条件で受注したことを以て、秋津州国王の財政破綻を危惧する声まで出たくらいなのだ。

したがって、今回の工事で完成させた鉄道や空港などのインフラを、民間の事業者に譲渡することによって、発行済み国債の相当部分を回収することも可能であり、その方式によっては各国政府に巨大な財源を齎すことも充分あり得るのである。

結局、丹波における一連の開発工事に関し、唯一経済的損失を蒙ったのは秋津州国王只一人だと囁かれる所以だ。


同日、秋津州中央銀行がその本店機能を八雲の郷一の荘に移し、しかも早々と発表したことにより、通貨の発行を含め、さまざまな金融オペレーションを一層強力に推進する筈だと喧伝されるに至った。

無論、全て丹波の直轄領においての話ではある。

その地においては、加茂川銀行を始め外資系のビッグバンクが多数軒を連ね、既に活発な金融業務を執るまでになって来ており、現実に外資系企業の溢れるほどの資金需要に応じている状況があり、まして完全なタックス・パラダイスと言う経済環境があるのだ。

さまざまな外資系産業が続々と産声を上げ、一段と隆盛を極めようとしているのも当然の帰結であったろう。

このような状況下で三パーセントの公定歩合が改めて公表され、巨大短資会社が活発に操業を始めたことにより、銀行間で取引される短期金融市場も立派に機能し始めた。

秋津州円の需要が急拡大し、以後秋津州の通貨供給量ばかりが増大の一途を辿ることになる。

同時に大和商事の借り入れ契約もその八雲の郷において成立し、それは壮大な規模の信用創造が行われたことを意味しており、その後、地球上の資金が悉く丹波へ移動してしまうのではないかと思わせるほどの勢いを示すのである。

具体的な入金先は丹波と地球の加茂川銀行に限られ、最終的な移動先は一の荘の加茂川銀行に設けた大和商事の口座であり、その巨額の資金移動は惑星間においてもそれぞれ一瞬のうちに行われたと言う。

それは、無論さまざまな経済変動を齎したが、世界中の金融機関が秋津州円を目を血走らせながら買い漁ったことは確かで、中でも秋津州円の急騰振りには取り分け凄まじいものがあった筈だ。

尤も、丹波での国際間取引は、いずれの場合も例外無く秋津州円建てで行われており、少なくとも丹波では、さほどの混乱は起きることは無いと見られている。

ただ、地球上の大口取引における銀行間決済が既に一部停滞してしまっており、その代替手段として丹波での決済が一般化し始めるに至り、自然、丹波では巨額の信用貨幣が活発に流通し始めて、ますますその市場の活性化を加速させるばかりだ。

以後、多くの決済が丹波で行われると言う現象が実績として積み上がって行くに連れ、七カ国協議のテーブルでも、次なる重要課題として、地球上の銀行取引を一旦停止させた上で、全ての口座と資金を一斉に丹波へ移す期日を決定すべくひっそりと協議に入った。

無論それは、人類が一斉移住を果たす頃合であるべきだが、マーケットは日々動いており、七カ国協議が何を唱えようと事態は人智を超えて進んでしまっている。

そして五月の末に至り、大方が予想した通り、丹波において合衆国を始め先進諸国の工事が一段落したことが伝えられ、各国の係員の手になる大々的な納入検査が開始されたと言う。

その検査の結果次第では、公式の納期を待たずして、その引き渡しが可能となったことになるのである。


一方、一月末の完成以来既に四ヶ月を経過している任那でも、巨大資本の多くが競ってその地への進出を目指し、現地で大和商事に発注したさまざまな建築工事にしても、概ね一段落して大規模な入居が始まっており、既に五千万を越える「外国人」が流入したとされるほどだ。

無論、彼等はその地でビジネスを展開するつもりで入国して来ており、既に数多くの商業都市を形成し始めていることから、それが一億に達するまでに一年も要さない筈だとされ、その勢いはとどまるところを知らない。

外国人による犯罪行為が自警団の手によって数多く摘発され、高額の罰金を徴収された挙句国外退去を命じられる事例が目立ち、その者たちは二度と秋津州への入国を許されない筈だと囁かれるに至り、彼等の犯罪は目に見えて減少したようだ。

殊に経済事犯に関してなどは、被害額を上回る罰金が課されることの効果は決して小さくないとされている。

現地の自治体側は民事の訴えを受理する窓口を設け、多数の係員を配置して対応しているが、多くの場合その場で結論が出てしまうと言う。

自然虚偽の訴えをなす者も多かったが、全てその場で暴露されてしまう上に、悪質と判断されれば問答無用で国外退去であり、高額の罰金を課された上、SS六で即刻本国へ送還されてしまうのだ。

当事者たちの過去の行動が全て把握されているとしか思えないほどの素早さであり、無論公開はされないが、その全ての記録が残されている筈だと囁かれている。

傷害や殺人行為などは全て犯行寸前で身柄を拘束されてしまうこともあり、銃器の持ち込みが厳禁されていることと相俟って、その地の治安は立派に確保されていると言って良いほどだ。

何せ、任那は東側が地続きで合衆国と接しており、密かに国境を犯し銃器を持ち込もうとする例が絶えないが、今のところ成功例は皆無だと言う。


一方、欧米や豪州の新領土の工事がそれぞれに検査を終え、次々と引き渡し作業が進み、六月の半ばにはその全ての引き渡し作業が完了して、それぞれの政府によって公式に確認されるに至った。

これによって秋津州が依頼を受けた分の工事は全て完了し、自然それらの領土にも、それぞれの国民が大量に流入し始め、新たな国家の建設に邁進することになり、いきおい家族連れで渡航して行くものが急増して丹波の人口は急速に膨張を始めた。

正確な数は不明ではあったが、一説によればとうに十億を超える「地球人」が丹波に滞在しているとされ、彼等が積極的に経済活動を行うことによって、丹波経済の発展の礎となりつつあることは事実だろう。

以前とは違う。

人類が地球で過ごせる時間はあと僅かでしか無いことが、既に明らかになっているのである。

最早丹波に全てを賭けるほかに無いことは、全員が承知していることなのだ。

近頃では毎週月曜日に地球を離れる人数が飛躍的に増加し、中印両国などの広大なアクセスポイントからは、一度に一千万単位の国民が移動するケースまで報告され、その日一日で地球を離れた人間の合計が一億人を超えたとされるに至ったのである。


かくして、地球からの移動が爆発的な勢いで進む中、地球上の秋津州のメディアが衝撃的なニュースを発信した。

七月十五日のことである。

ちなみに海都の秋津州ビルには、他の諸国と同様に朝鮮共和国もその代表部を置いて一応の外交活動を行って来ていたが、何と、その代表部の者の多くが一斉に身柄を拘束された上、直ちに罪状審理に入ったと言うのだ。

その罪状は、非公式に漏れて来る情報によると、外患誘致と殺人未遂だとされ、それも、驚くべきことに、その対象とされたのが一介の平職員などでは無く、総責任者の代表部部長はもとより、一等書記官など主だった者のほとんどだったと言うのである。

問答無用で身柄拘束を受けたと言うからには、ペルソナ・ノン・グラータなどと言う生易しい対応では無かったことだけは確かで、秋津州側は他国の外交官特権など、もともと認めていなかったとは言いながら、徹底して普通の民間人の扱いをしたことになる。

事件を担当する地方自治体側の発表では、単に見過ごすことの出来ない不法行為があったためとされたが、非公式に漏れて来るその実情は決して軽いものでは無かったろう。

かつてその地では高名なテロ事件があったが、全ては、その事件の審理に当たる若衆宿の構成員たちが、その地の治安維持のために、大胆なおとり捜査を敢行した結果だったと言う。

周知の通り、その地においては、彼等自身が自警団や消防団を構成しており、その管内においては捜査権どころか堂々たる検察権や裁判権まで行使出来るのだ。

この環境下で、複数のおとりが活発に動いたのだ。

彼等は、しきりに繁華街の酒場などに出没しては、さも反政府運動の闘士ででもあるかのような言動を繰り返して見せたらしい。

無論、彼等は当該若衆宿の正規の構成員である上、常態として、テロリスト朴清源と同一の建物で寝泊まりしており、無論そのことも喋った。

密やかに喋った。

言わば誘い水だ。

その結果、捜査当局の狙い通りのことが起こった。

まんまと誘いに乗った者がいたのである。

そのものたちが、高額の報酬を提示して、拘留中のテロリストの暗殺を持ちかけて来たことがことの発端だ。

その後おとりたちは巧妙に擬態を積み重ね、依頼された殺人を果たすことを条件に、遂に朝鮮共和国代表部の上層部にまで接触する機会を得、直接その者たちの肉声を以て、秋津州における反政府運動を支援する旨を聞き出し、挙句その過程で、朴清源ばかりか、国王までその暗殺を依頼されるに至ったと言う。

結局、哀れな被疑者たちは、本国からの訓令に追い立てられ、窮するあまり、遂に具体的な行動に出てしまったことになる。

犯罪の意図を隠し持つだけでなく、故意に、かつ具体的に動いた以上、何れの国家においてもれっきとした犯罪要件を構成することは明白であり、そのことが発覚して身柄を拘束されたと言うのだ。

尤も、実際の秋津州はおとりなど使わなくとも、それらの動きを探知することは容易であり、現に全てを掴んでいたのである。

だが、彼等の身辺に終始多数のG四を貼り付けている事実など当然伏せておきたいがため、その便法としておとりを使ったまでのことだ。

尤も、この哀れ過ぎる獲物たちは、白馬王子の叱責を恐れるあまり、背中から火で炙られるような焦りを感じていたことは確かで、そのため実に安直なトラップに、これほどまでに易々と嵌まってしまったことになるのだろう。

不覚にも彼等は数多くの物証を残した挙句、おとりたちに殺人を直接指示する場面まで数多く記録されてしまった。

そこでの会話は元々は全て日本語であったが、問題のシーンはハングルや英語の字幕付きの動画ファイルに編集された上、瞬時に世界を駆け巡ることになる。

そのほとんどがネット上だ。

在秋朝鮮共和国代表部の最高幹部たちが直接暗殺を指示している場面は、ワシントンや東京は勿論、当の半島に至るまで実に多くの人間が見る事になってしまった。

何せ、その場面で被疑者たちが指示を下している暗殺対象は、重大なテロ事件の被疑者ばかりか、その国のれっきとした元首まで含むのだ。

即刻開戦の火蓋が切られたとしても不思議は無い。

まさか、たかが一国の出先機関が、独自の判断で、これほどの凶行を企図したなどと思う者はいないだろう。

全て白馬王子の意思だと思わない方がどうかしている。

当然、世界がそう見た。

ところが、ここに小さくない問題がある。

朝鮮共和国の国内事情だ。

その国の民の多くは、自国の政府が秋津州国王を殺害しようと謀ったことに関しては大喝采を送るだろうが、一方の朴清源に関してはまったく逆なのである。

何せ、彼らにとってそのテロリストは、秋津州の王族を多数殺害することによって、彼等に代わって恨みを晴らしてくれた民族の誇りそのものであり、輝ける英雄「朴清源将軍」さまなのだ。

あろうことか、それを殺そうと企むなど、最早民族の敵(てき)そのものでは無いか。

事実なら足元から轟々たる非難を浴びることは避けられず、対抗上白馬王子は、全ては秋津州側の捏造であり、悪辣極まりない陰謀だと主張するほかに手は無い。

当然、そうした。

声を荒げて叫び続けると共に、秋津州財団ソウル支部を急襲して、その職員を拘束しようと図った。

無論スパイ行為の嫌疑であり、あからさまな報復であったが、そのテナントビルの周囲は民衆に囲まれ投石を受けるに至っており、既に騒乱の極みにある。

しかも、反撃を恐れるあまり厳重に武装した彼等が踏み込んだときには、その内部は既に綺麗に片付けられていて、もぬけの殻だったと言う。

全て覚悟の上の自主退去であり、その後の足取りは杳(よう)として知れない。

かの白馬王子は、完膚なきまでに翻弄されてしまったと言うほかは無い。

一方海都には身柄拘束を免れた代表部の職員が数人いたが、彼等自身はもとより、滞在中の民間人の端々に至るまで、その国の人間は身の危険を感じ全員船便を以て帰国の途に就いた。

これらは全て自主的な出国ではあったが、いずれにしても、拘束されている人間のほかは、秋津州から朝鮮共和国の人間が一斉に姿を消してしまったことに違いは無い。

まして、彼等が現地の秋津州人に領事事務を委嘱するような手段も採っていない以上、かくして海都からその国の出先機関の一切が姿を消し、その国の方からは、何事によらず秋津州側に伝える手段が失われた。

無論、秋津州の方からはアクションをとることが無い以上、両国間は事実上の断交状態に陥らざるを得ない。

直接の、かつ公式の政府間通信が全く途絶えてしまったことになるのだ。

同時に、その国からの惑星間移送の申請もまったく途絶えた。

いきさつが、いきさつなのだ。

秋津州側にしてみても、頼まれもしない「移送」など出来るわけも無い。

したがって、その国と丹波の新領土との間を繋ぐ便も失われたことになり、その結果、丹波に送り込んでいたその国の国民は本国との絆を見失い、現地で細々と自活するほかは無くなってしまった。

現にその国の新領土には、既に百万を越す国民が移送済みだったのだ。

幸い現地には、本国から搬入した食糧や生活物資が多少なりとも備蓄されていた上、最近秋津州人が放り捨てていった農地もあり、それがそれなりの食糧を恵んではくれるだろうが、かと言って本国から全く放置されてしまえば、本来の活動目的だけはやがて立ち枯れてしまうに違いない。

彼らにとって隣接する新中国領だけが頼みの綱であったが、その反応は冷然たるものでしかない上、越境者は悉く追い返される始末だ。

何しろ、丹波に新たに引かれた国境線の全ては、秋津州軍の手によって隈なく警備されているのである。

それこそ、蟻一匹這い出る隙も無い。

翻って本国では、青瓦台が北京やモスクワに支援を泣訴したが冷然と無視されるに至り、ことの深刻さはいや増すばかりだ。

しまいには丹波との連絡を担う者を厳選して、言わば特務工作員となし、それを密かに越境させてまで、中露側のアクセスポイントに潜入させようと謀った。

白馬王子も必死だろうが、潜入者たちの運命は一層悲惨だ。

哀れにもその多くが、中露両国の手によって摘発された上、即座に処刑されてしまうのである。

尤も、捕らえた特務工作員の身元を朝鮮共和国側に照会して見たところで、どうせまともな返答が返ってくるわけも無い。

北京とモスクワにとって、非情と言われようと何と言われようと、秋津州国王の怒りと言うリスクを踏んでまで、その国の肩を持っても今さら得るものは何一つ無いことは明らかだ。

秋津州側からは何一つ言って来ているわけでは無いが、中露両国にとって、今さら白馬王子の利用価値など問題外であり、迂闊に動けば国家的な損失が見えるだけなのである。

朝鮮共和国は、又しても袋小路に追い詰められてしまったと言うべきか、いずれにしても、まったく出口が見えて来ないのだ。

従前の国際環境でなら、秋津州の軍事攻撃まで予測する国民が頻出し、恐怖のあまり、それだけでその国の体制が瓦解してしまったかも知れないが、しかし世界は、過去において王の極めて抑制的な行動パターンを数多く見て来ており、この程度のことで魔王の軍事攻勢を予想する者など一人もいない。

その点に限ってだけは、その国にとって僅かに幸いしたと言って良いだろう。


二千九年の七月二十日、秋津州では建国五周年を祝う記念式典が、特別の招待客も無いままに極めて簡素に執り行われたと言う。

式典会場はいつものグラウンドであったが、そこには例の奇妙なドームに代わって、二百人ばかりの大衆とメディアの姿を見るばかりだ。

一部に、例の馬酔木(あしび)の龍が一団となって飛来し、式典に花を添えるのではないかと言う噂が流れたが、結局それも単なる噂に終わってしまった。

しかも、何よりもこの日は月曜日だ。

国王にとっては、惑星間の往復移送と言う極めて公共的な任務に就く日なのである。

詰まり今日は、王がそのことに忙殺されてしまう日であり、現にその座乗する艦影が世界中で目撃される筈なのだ。

したがって、この記念すべき式典も、一部の官僚と長老格の議員が参列して、国旗掲揚を行うだけで全てを済ませてしまったと言う。

意気込んで集まったメディアにとっては腰砕けもいいところだったろうが、かと言って次なる目玉が無いわけではない。

粛々と審理が進む朝鮮共和国代表部の一件だ。

その犯行があまりに歴然としてしまっているため、程なく結審する筈だと囁かれており、現下の政治的背景のあれこれから、その審理のあり方が特段の注目を浴びていたのだ。

そしてその翌々日の二十二日に至り、件(くだん)の審理があっさり結審したばかりか、驚くべきことにその場で禁固十年の刑が言い渡され、続いて特赦令が発せられて直ちに国外に追放されたと言う。

その特赦は建国五周年の慶賀によるものと発表されたが、極めて高度な政治判断だと報じるものが多く、事実そうであったろう。

いずれにしても彼等は、蹌踉(そうろう)と船上の人となって秋津州を去った。

また、同日、テロリスト朴清源の犯した計画殺人に対する審理が始まり、唯一の生き証人久我正嘉氏が出廷して、弁護人を務めるジャーナリストたちの前で貴重な証言を行った。

証人にして見れば、この殺人者に騙され散々に利用された挙句、目の前で両親と妹とその子まで殺されてしまっており、自分自身も瀕死の重傷を負わされているのだ。

無論憤懣遣る方が無い。

出来るものなら、自分の手で殺してやりたいところであったろう。

何せ、この場合の被害者側には全く非が無い以上、秋津州の慣習法は、必ずしも復讐を禁じてはいないのである。

但し、犯人が容疑者となって追捕されていたり、歴然と公訴がなされた場合にあってはこの限りではない。

とにもかくにも審理は進み、やがて数日後には国王本人まで証言を行って話題を攫ったが、最も注目を浴びたのは人定尋問に対する容疑者本人の応えであったとされる。

と言うのも、身柄拘束後の取り調べに対し、本人が自らの朝鮮共和国籍を主張していたからであり、時節柄その主張の行方が一際注目されていたのである。

当然のことながら、本人は人定尋問においてもその主張を変えることは無く、ことの背景から言って、そのことが最大のニュースとなってしまったほどだ。

挙句、明らかな確信犯であった容疑者がその犯行についても明白に認めているため、争点は専らその精神性にあると報じられるに至った。

その特異な精神性が、果たして責任能力を持つほどのものであったかどうかが唯一の争点だと囁かれたのである。

かつて行われた鑑定だけでは不足だとされ、弁護人の要請で、その鑑定が複数の日本人医師に委嘱され、その結果が出るまでにはなお若干の時間を要する見通しだと言う。


七月二十九日になって、海都のタイラーの元に緊急の連絡が入った。

無論、ワシントンからであったが、タイラーが異様な高揚を覚えるほどの内容だったことは確かだ。

何と、秋津州を逐われた朝鮮共和国代表部の高官たちが本国に帰るに帰れず、哀れにも諸方をうろつきまわった挙句、台湾において米国への亡命を願い出ていると言う。

全て、例の動画ファイルによって、「犯行」を暴露されてしまった幹部たちばかりだと言うが、洗って見れば、世界の晒し者になってしまった者たちであり、証拠隠滅のために口封じを図る本国政府の手が及ぶのを恐れ、死の恐怖にひたすら怯えていると言う。

目下我が国の庇護の下にあると言うが、ワシントンの第一に恐れるところもまた魔王の激怒であり、同時に朝鮮共和国政府に対する幾多の権益が消滅してしまうことだ。

ことにあたりタイラーの負った任務は、そのあたり一切の調整であることは言うを俟たない。

魔王の反応如何では、哀れな逃亡者たちは即座に抹殺される運命にあり、そのためにこそ一切が公表されていないのだ。

ワシントンの行為が魔王を激怒させてしまうものであれば、今度はワシントンが証拠隠滅の必要に迫られることから、その点においてもタイラーの仕事は急ぐのである。

ところが、女神さまが珍しく鋭いレスポンスを返してくれた。

電話ではあったが、ワシントンがその亡命を受け入れることに一切の異論は無いと仰せになるのだ。

少なくとも、魔王の逆鱗に触れてしまう可能性は皆無であると言う確かな感触を得ることは出来た。

「秋津州の友人」は嬉々としてワシントンに一報した。

これで、我がワシントンは必殺のジョーカーを握ったことになる。

テーブルを挟んで対峙する相手は無論白馬王子に他ならない。

ちなみに現在の白馬王子が最も恐れるのは、このジョーカーが反政府的なスタンスを以て口を開くことであり、この者たちに公開の場でべらべらと喋りたてられてしまうのは、彼にとって言わば核攻撃を受けるに等しい。

今のところ、彼等の犯行はあくまで自らの意思によるものとされているが、それをそのまま鵜呑みにする者などいるわけが無い。

その証言によって、青瓦台が民族の英雄に対してまで暗殺指令を発した事実があらわになってしまえば、国内の怨嗟はなおのこと独裁者に集中してしまうのである。

それでなくとも既に国内は騒然として来ており、不穏分子の掃討にはかなりの精力を要する事態を迎えてしまっているのだ。

その上、またしても事態が一変してしまった。

ケンタウルスの真実が公表され、その国の民も既に恐るべき近未来を知ってしまっているのだ。

その近未来においては、人類がこの地球で生き延びる術(すべ)は無いと言う。

その国の政府にしても、或いは民にしても、このまま反秋津州を叫び、魔王との親交を我から拒み続ける以上、自然丹波へ渡る手段を失いこの地球に残らざるを得ない。

他国の民が轡(くつわ)を並べて丹波に避難を終えたそのあと、地球に残った朝鮮共和国人だけが死滅してしまうのである。

流石にその事実に気付かない民は少ないのだろう、例によって、手の平を返すようにして親秋津州を標榜する者が急増していると報じられているのだ。

詰まり、その国の不穏分子の掲げるスローガンに変化が起き始めていると言って良い。

少なくとも、彼等の中に現政権を頭に戴いている以上、生き延びる道が閉ざされてしまうと叫ぶ者が増えていることだけは確かであり、そのスローガンが反秋津州であろうと無かろうと、いずれにせよ反政府運動であることは動かない。

無論、現政権は例の通り血煙りを上げて粛清に努め、全て腕力を以てねじ伏せようとしており、白馬王子の流儀にはいささかの乱れも無いのである。

しかし、現政権にとっての現実は、限り無く厳しいものと言わざるを得ないだろう。

現に密告制度が機能不全に陥ってしまっており、その首都はおろか、地方都市においてさえ反政府デモが頻発し、中には数十万規模のものまであると言うのだ。

騒乱は各所に起こりつつあり、直接軍が鎮圧にあたっているとされ、民衆に向けて実弾の発砲がなされていると報じられるに至っている。

大量の血が流れ、当局発表では死者ゼロを謳ってはいるが、カメラ付きの携帯電話がここまで普及してしまっている今日(こんにち)だ。

流血の現場映像は無数に存在し、多くの人々がそれを目にしている今、政府発表を信じる者などいよう筈も無い。

白馬王子の欲する政治的求心力は、戻ってくるどころか益々失われて行く一方だ。

翻って、ワシントンが必要としているのは、言うまでも無くその地における従順な政権であり、その地の統治者が、血の匂いのする冷血な独裁者であっても一向に構わない。

構わないどころか、場合によっては、その方が、かえってワシントンの利益に繋がることさえあるのだ。

ここに来て、幸運にも極めて有効なカードも手にすることを得た。

例えそれが路傍で拾ったものであろうとなかろうと、一旦手に入れた以上、利用出来るものはとことん利用し尽くすのが現実の外交であることに違いは無い。

このカードによって、青瓦台の主が、好むと好まざるとにかかわらず、ワシントンの囁きに耳を傾けざるを得ない政治状況が生まれて来るのである。

かくして、ワシントンお得意のポーカーゲームが始まった。

今頃、在朝米国大使館は腕を撫している筈であり、そのカードは、必ずや大いなる効果を発揮してくれることだろう。

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  1. 2007/10/25(木) 21:02:14|
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薔薇の愛とは? 
じいじらしからぬ命名^^;;

その正体はこれからかな?

ところでσ(・・*) 胃壊した〓■● バタッ
  1. 2007/10/26(金) 21:08:50 |
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  3. ほたる #-
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^_^

>ほた

薔薇・・・・・ "o(-_-;*) ウゥム…

ローズは未だ十五歳・・・・・  "o(-_-;*) ウゥム…

西洋人の十五歳は、もう立派に成熟しておるじゃろうナ。

え?

ハラ壊したあ? あ、ハモ喰ったのか? (≧◇≦)ぶはははは
  1. 2007/10/26(金) 21:32:56 |
  2. URL |
  3. じいじ #-
  4. [ 編集]

 アナゴや・・・キャハハ(o_ _)彡☆ バンバン!
  1. 2007/10/27(土) 02:01:03 |
  2. URL |
  3. ほたる #-
  4. [ 編集]

^_^


これこれ、アナゴの神さまに怒られるぞ~~。^^
  1. 2007/10/27(土) 09:49:25 |
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  3. じいじ #-
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