日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 110

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八月の五日、国王と女帝の通信。

国王は内務省の最上階、女帝は総理官邸の秋津州対策室に所在している。

「少々、お時間いただいてもよろしゅうございましょうか。」

「うむ。」

「お耳にお入れして置きたいことがございます。」

「申せ。」

「ワシントンがだいぶソウルをつつき回しておりまして。」

「そのようだな。」

「メイド・イン・USAの轡(くつわ)を嵌めようと躍起のようでございます。」

あの悍馬に食(は)ませるべき餌は、無論路傍で拾った例の亡命者たちであったろう。

「ふむ。」

「飼い馴らすことは無理でも、手綱(たづな)を着けるくらいなら可能でしょうから。」

そして、その手綱を握れば多少のコントロールは可能となる筈だ。

「・・・。」

「ワシントンからの援助を、米国企業の債務償還に効率良く充当したいところなのでございましょうが。」

ホワイトハウスの主は、財界からの支援を失いたくは無い。

「・・・。」

「あの国の世論をわざわざ敵に回したくは無いでしょうし。」

ちなみに、丹波の朝鮮共和国の国土は現在と同様半島をなしており、その北方で新中国に接している上、その国境線を除けば全ての外郭が海岸線であり大海に接している。

殊に海外の軍事拠点を失う新たな合衆国にとって、地球上で言うインド洋のディエゴガルシアや沖縄などと同様に、その戦略的価値は極めて高いものと言って良い。

ワシントンはその地に本格的な軍事基地を建設することまで夢想しており、それを思えば、なおさらその国の世論を考慮しないわけには行かないのである。

「・・・。」

「豚はあまり痩せさせてしまっても、いいお肉が取れなくなってしまいます。」

その国の経営が先細りになってしまえば、米国企業への債務償還がますます滞ってしまうのである。

「・・・。」

「追い詰められて、ぎりぎりのところに来ておりますようで、」

全て自業自得とは言いながら、その国の世論とワシントンによる挟撃が恐るべき戦果をあげつつあると言う。

ワシントンがもう一押しすれば、その政権の未来はまったく閉ざされ、独裁者はあらゆる悪名を被(こうむ)りながら、汚辱に塗(まみ)れて野垂れ死にするよりほかはあるまい。

その「一押し」が亡命者たちの記者会見である以上、白馬王子の選択肢は自ずと限られて来る。

「ふむ。」

「白馬王子に代わるべき者の用意も出来ているようでございますので。」

ワシントンは、無論その国が壊乱してしまうことを望んでいるわけは無い。

まして、このままではその国は地球に置き去りにされたまま文字通り消滅してしまい、軍事基地を建設するどころか、その国に対して巨大な債権を持つ米国企業の悲鳴が、遠雷のように聞こえて来るばかりなのである。

「・・・。」

「ワシントンでは、男の花道を用意したいと考えておるようでございます。」

「無縁の話だ。」

若者には、興味の無い話柄なのだろう。

「恐れ入りますが、もうしばらくお聞き願いとう存じます。」

「・・・。」

「あの者(白馬王子)を追い詰め、宣戦を布告させようと企てておりますようで。」

「このご時世に、わざわざ宣戦布告など・・・・、いかになんでも、そこまでおろかなことをするとは思えんが。」

「いえ、あの男がそこまで追い詰められている何よりの証拠でございましょう。」

いきさつがいきさつであり、ましてその国のことだ、政権を失えば先ず命は無いと見なければならないが、ワシントンの思惑に忠実であり続ければ、最悪でも公金を拐帯したまま亡命するくらいのことは担保されているのだろう。

ブラディ・キムが国家の命運より自らの延命の方を重しとする限り、理外のことが起きたとしても何の不思議も無いと言っているのだ。

「・・・。」

「何しろ、ワシントンはそのような状況造りがとてもお上手でいらっしゃいますから。」

確かにその点では、プロ中のプロだと言って良い。

「・・・。」

「宣戦を布告させた上で、国家元首同士の直接対決で決着を付けさせると言うプランが浮上して来ておりますようで。」

「ほほう。余人を交えず、元首同士の対決でと言うことか?」

それは、文字通りの国家代表選手と言うことになろう。

「左様にございます。」

呆れたことに、国家間の戦争をトップ同士の個人的格闘に代えて戦わせ、その勝敗だけで全ての決着を付けさせようと言う話なのだ。

確かに漫画のような話だが、ひとたび国単位の総力戦となれば、あの国には始めから勝ち目が無いことは明らかで、この案は白馬王子側には非常なメリットがある筈だ。

「うまいことを考えるものだ。」

ちなみに、格闘技の伎倆と言う点では、白馬王子は以前から自らの力量を恃むところが強く、他方若者の実力などさほどのものとは思っていないため、一対一で格闘すれば一捻(ひね)りだと考えているくらいで、よもや負けるなどとは思っても見ない。

それが戦争である以上、その闘いに勝利した暁には、敵に城下の盟(ちかい)を強いることは無論のこと、その敵国が飛び抜けた富裕国であることから、多額の賠償を得ることも可能なのである。

したがって、男らしく見事に戦って凱旋すれば、国民の相当数の支持を集め、再びかつての栄光と求心力を取り戻す事が出来ると考えているほどだ。

翻って、ワシントンの見るところ、この勝負の行方は戦う前から決まっており、一旦戦えば魔王は一瞬で敵を仕留める筈で、その上、かの国の民から恨みを買うのは魔王であってワシントンではない。

白馬王子の面子を立てさせてやると同時に、彼を魔王の手で始末させることによって、魔王に積もり積もった私憤を晴らす機会を与えることになるため、うまく持ちかければ双方共に魅力的な案件とすることが出来る。

ワシントンは、充分実現可能なプランだと見ているのである。

しかも、魔王のこれまでの足跡を見る限り、敗戦国に対し常に寛大な姿勢を見せて来ているばかりか、大規模な支援さえ厭わないほどで、最悪でもその独立を脅かすような行動はとらない筈だ。

結局ワシントンは、この方式でなら、敗戦国が敗戦によって不利益を蒙ることは無いと見ており、更に、降伏した敗戦国が丹波への移住を真摯に懇請することによって、魔王の支援を取り付け円滑な移住作業を実現しようと目論んでいることになる。

その結果、米国企業の債権は保全され、その国の新領土に改めて星条旗を打ち立てることも可能となるだろう。

「万一、その流れになった場合の心得を頂戴しておきとう存じます。」

その場合でも、若者が逃げを打ったことにされてしまうのは、少なくとも秋津州の国益にはそぐわない。

まして、おふくろさまの演算作業が若者の完勝を高らかに告げているのである。

「まさか、そのようなことにはなるまい。」

しかし、若者にとっては未だに信じ難いことなのだ。

「いえ、あくまで万が一のことでございます。」

「宣戦布告があれば、まさか逃げまわるわけにもいかんだろう。」

宣戦布告とは、その国が戦争を実行する意思を、世界に向けて広く発信する行為なのだ。

「それが元首同士の直接対決であってもでございますか?」

「一対一の格闘など単なる喧嘩でしか無かろうが、少なくとも兵士たちを無駄に殺さずに済む。」

この場合の「兵士たち」とは、無論敵国の兵士のことなのだ。

したがって若者は、この漫画のようなプランにも特別の嫌悪感は示してはいないと言うことになる。

「承知致しました。」

女帝にすれば、若者の意思だけは確認することが出来たのである。

「最後通牒はワシントン経由か?」

その文書がこれを以て平和的な交渉を打ち切ると謳うものである以上、あとは武力行使以外に残された道は無く、ワシントンの周到な根回しと強力な裏保障が無い限り、この最後通牒の事実が明るみに出た瞬間にもその国の経済は崩壊してしまう筈だ。

「さように存じます。」

「要求内容は、朴清源の身柄引き渡しだな?」

秋津州としては応じるわけには行かない要求だが、それを発してみせることによって、少なくともその国内において白馬王子の株だけは上がるに違いない。

「回答期限は二週間ほどになろうかと。」

当然、秋津州側は無視するか、若しくは拒絶するほかは無い。

しかし、期間内に応諾の回答が得られない場合、宣戦布告があろうと無かろうと、次に来るものは武力行使以外の何ものでもないのである。

「しかし、おろかなものだ。」

主語が抜けている。

「はい?」

「人間は、愚かだと言ったのだ。」

「それも人によりけりでございましょう。」

「第一、かの者一人を打ち殺して見せたところで、あの国のやからが敗戦を認めるとも思えんが。」

「ご賢察でございます。」

「結局は、無駄な殺し合いをしなければならんのか。」

「では、最後通牒の要求をお請けになりますか?」

「馬鹿を申せ。」

要求に応じて朴清源を引き渡したりすれば降伏したに等しい。

まして、その後の要求はますますエスカレートするに違いないのだ。

その後の要求にも全て応じて行けば戦争にはならないだろうが、他国から発せられる理不尽な要求に全て従う場合、既に主権国家とは言えないであろう。

何よりも、第三国の目がある。

秋津州の統治者がその心境に変化を来して、何が何でもひたすら戦争を回避しようとしていると思われてしまうのだ。

秋津州の内情に何かしら重大な変化が起きて、その結果戦争遂行能力を喪失せしめたものと判断され、秋津州に対してなら、戦争を前提に要求すれば何でも通るとなったら最後、結果は目に見えているだろう。

日本を除く多くの国々は、秋津州の戦闘能力が復活してしまわない内に、ここぞとばかりに武装解除を求めて来るに違いない。

武装解除されてしまえば、たちまち安保理が息を吹き返し、秋津州に不利な案件を矢継ぎ早に決議した上、国連への加入を強制して来る可能性は極めて高い。

無論人類が丹波への移住を果たしたあとの話ではあるが、荘園の放棄どころか、直轄領の割譲を求められても不思議は無いのである。

むしろ、そうならない方が不思議なくらいだ。

「では、拒絶なさいますか?」

「言うには及ばん。」

若者は、久し振りに沸々と闘志が漲って来るのを感じていた。

「承知致しました。」

「うむ。」

「それと、別件ではございますが、近々みどりさまがご一緒したい方がおありだそうで・・・。」

「聞いておる。」

みどりの丹波への移住に関しては全面的にフォローするよう命じてはあるが、直近の動向についてはあまり詳しい話は聞いてはいないのだ。

敷島のNew東京の一等地では、既にクラブ碧と喫茶立川の開店準備が進んでおり、みどりの口利きで、その隣のビルにスナック葉月が入ることになっていることも聞いているが、どうやら興梠律子を介して、みどりと横山葉月の間にも濃密な人間関係が出来つつあるらしく、近頃では頻繁な往来が始まっているほどだと言うし、みどりが連れて来たいと言うのもどうせその辺りの女性たちなのであろう。

「よろしゅうございましょうか?」

「どうせ、わしを種馬扱いする気なのだろう。」

「そのようなことはございません。」

「しかし、このたびの迫水の出来栄えは実に素晴らしいものだ。おふくろさまの伎倆も又一段と進歩したものと見える。」

「やはり、一目でお判りでございましたか?」

「いや、モデルの女性の映像を見せられるまでは半信半疑であった。」

「彼女主演の短編映画をたくさんお送りしておきましたが、お悦びいただけましたようでまことに結構なことと存じております。」

「うむ。」

「名演技だと存じますが?」

無論興梠律子が、神宮前に設えられたオフィス・スタイルのスタジオで、散々に艶技を繰り返した映像のことなのだ。

全てが演者の一人遊びのシーンで溢れていたが、迫水美智子の勤務状況のシチュエーションのこともあって、シーンの殆どが事務所形式のロケーションとなっており、孤独な演者は常に衣服を身に着けたままの姿であった。

その衣装はと言えば、あるときは練達の秘書を思わせるようなものであったり、また或るときは、自身がスナック葉月で着用するような実に艶(あで)やかなものであったりもする。

「演技とばかりも申せまい。」

「確かにご自身の世界に没入していらっしゃいました。」

着衣に隠して局所までは見せていなかったことが、かえって不思議なエロティシズムを醸し出し、その恍惚たる表情と言い、身悶えしながらの微妙なあえぎと言い、まさに入神(にゅうしん)の名演技と言って良いものばかりだったのだ。

「まるで天女の舞いを見るような心持ちであったわ。」

「ご当人もお目通りを願っておいででございますが。」

「好きに致せ。」

「承知致しました。」


同八月五日、タイラーは例によって女神さまをそのオフィスに招いていた。

無論、ワシントンの訓令に基づいて行動を起こしたのである。

「早速で恐縮ですが、極めて重大な文書を入手致しましたので、取り急ぎご覧に入れたいと思いまして。」

タイラーは、英文とハングルで書かれた二通の文書をテーブルに並べて見せた。

無論、コピーだ。

「・・・。」

女神さまは無言でそれを眺めている。

それは、朝鮮共和国政府から秋津州政府に宛てたものであり、これを以て通常の外交交渉を打ち切ると謳っている以上、いわゆる最後通牒と呼べる文書だと思うほかは無い。

内容的には無条件で朴清源の身柄引き渡しを要求し、発出日は来月の一日とし、かつ回答期限を九月十六日の正午と謳っており、それが堂々たる公文である以上、いざ発出してしまえば、すべてが公式に動き出してしまう。

現実には、今日から今月一杯までが裏側で折衝出来る実質的な期限となる筈で、秋津州側の反応次第で、ワシントンが即座に対応しようとしていることは明らかだ。

「いかがでしょう。」

万一秋津州側がその要求を受け入れでもすれば、白馬王子が民族の英雄の身柄を見事奪還したことになる。

そうなれば、白馬王子は国内で大喝采を浴びることになるのだろうが、一方の秋津州は他国の政府から発せられた理不尽な要求の前に屈したことになってしまうのである。

「そう申されましても、一民間人には手に余る代物でございますわ。」

「いえいえ、何を仰ることやら。」

この女神さまが、魔王の意を体して動いていることは紛れも無い。

「おほほ。」

「とにかく、おおよそのシナリオをお聞き取りいただきましょう。」

「あらあら、相変わらず手回しのよろしいことで。」

実際は、タイラーの言わんとすることなどとうに判ってしまっているのだ。

勿論この最後通牒は拒絶するより他は無く、拒絶された白馬王子は宣戦を布告して見せることになっている筈だ。

問題なのはそのあとのことであり、タイラーはさも意味ありげに国家元首同士の直接戦闘と言う話題に触れて来た。

本来不思議な話ではあるが、言ってみれば、当事国が双方共に納得ずくで行う限定戦争の話なのだ。

戦闘を行う領域と戦闘員、或いはその武備兵装などを限定しようと言うのだが、当然、その条件内容を双方が承認しなければ成立する話ではない。

今回の事例では、戦闘員を互いの元首のみとする提案が弱国側からなされようとしているが、言わば圧倒的な強者である秋津州側が受けて立つ義理は全く無い。

通常の世界ではあり得ない話なのだが、今回は成立し得る筈だと、ワシントンが勝手に判断してしまっているだけなのである。

「これなら、陛下がお恨みを晴らすいい機会にもなりましょうから。」

何しろその国からは、散々恩を仇で返された挙句、あまつさえ命まで狙われてしまっているのだ。

王妃や王子が暗殺されてしまっているいきさつから言っても、秋津州国王が白馬王子を憎む理由は山ほどにあり、魔王は虎視眈々と報復の機会を窺っているに違いない。

だからこそ、ワシントンは実現が可能だと判断したのである。

「申し上げておきますが、陛下は個人的なお恨みなどお持ちではございませんわ。」

口は重宝なものである。

「これは失礼申し上げました。では論点を変えさせていただきますが、単純に元首同士の直接戦闘の申し出がありました場合、お受けいただけますでしょうか?」

通常、そんな申し出など無視してしまって構わない。

構わないどころか、普通誰でも無視するだろう。

まして、相手側が公式に宣戦を布告する以上、敵軍を一瞬で殲滅してしまえばそれで済む話なのだ。

しかし、秋津州が総力戦に打って出れば、一対一の挑戦を受けて逃げを打ったと見られてしまうことは避けられない。

ワシントンは、魔王はそうはしないだろうと読みきってしまっている。

「ほほほ、陛下のご気性を逆手(さかて)に取るなんてずるいですわ。」

「しかし、紛争に決着を付けると言う点には意味があると考えておりまして。」

「でも、陛下の方は紛争の当事者だとは思ってらっしゃいませんもの。」

実際、一方的に喧嘩を売られているに過ぎないのである。

「しかし、現実に紛争はありますから。」

そうは言うが、相手側の言い分など全て「言い掛かり」と言って良いものばかりだ。

「それに、その方式で闘って勝利したとしても、あの国がそれで負けを認めるとは思えませんし、困りましたわねえ。」

「いえ、今度こそ認めさせましょう。」

「無理だと思いますけど。」

「しかし、この方式でなら、あの国の民は一人も死なずに済みますし、ブラディ・キムが討ち死にしてくれればみんな大喜びする筈ですから、今度こそ大丈夫でしょう。」

「まあ、その当座だけは収まるかも知れませんが、どうせ二・三年もすれば又ぞろ、我が国の国家元首を謀略にかけて殺害した、とか何とか言い出すに決まってますわ。」

「いや、そんなことは言わせませんよ。」

「おほほほ、その頃になったら、あの国の歴史教科書には我が国は被害者である、と書かれてますわよ、きっと。」

「いや、その点交換公文で明確に致しておきますから、そんなことは出来ないでしょう。」

「おほほ、あの国に交換公文など無意味だと思いますけど。」

「いや・・・。」

「現に、日本との堂々たる条約ですら、あとになったら、無理矢理結ばされたとか言ってますからねえ。」

事実なのである。

「しかし、世界平和の達成のために紛争を終息させる必要はありますよねえ。」

「真の意味の終息なら意味があるでしょうね。」

「え?」

「あの国と恒久的な意味で紛争解決を望めば、こちら側が大和民族を標榜する以上、あちら様の属国になるほかは無いと思いますわ。尤も属国になってからは、一層苛められるとは思いますけれど。」

この場合の属国とは、それこそ、外交権も予算編成権も或いは立法権ですら、全て宗主国さまに預けてしまうことを意味しており、国家としては名ばかりのものに成り下がることなのだ。

当然、何をされても逆らわず、宗主国さまのご命令に全て従うのだから、そこに紛争の発生する余地は無い。

女神さまは、「こちらが大和民族を標榜する限り」、それしか完全な解決策は無いと言っているのである。

属国になるなど、無論出来ることでは無い。

そうである以上、所詮完全な解決など望むべくも無いと言いたいのだろう。

こちらは普通の国家主権を普通に主張しているだけなのに、あちらはあらん限りの屁理屈を並べ立てて事実を捻じ曲げ、延々と恨み言を言い続けるのだ。

今回の一件にしても、秋津州から受ける脅威が過大であったから起きたことだと主張し始めるに違いない。

詰まり、悪いのは秋津州だと言う話にされてしまうのである。

「では、一時的な和平は無意味だと?」

「おほほほ、わたくしにしたって、一時的だろうとなんだろうと和平を望んでいることに違いはありませんわ。」

尤も、望んだからと言って実現出来るとは限らない。

「そうですよねえ、どうせ永遠の和平などあり得ないのですから。」

その意味では、全ての和平が一時的なものだと言って良い。

「それは仰る通りだと思いますわ。」

「では、今回もその一時的な和平実現の為にご協力いただくとして。」

「それでしたら、この無理難題を引っ込めさせた方が、よっぽど手っ取り早いと存じますが。」

一方的に無理難題を吹っかけて来ているのは、相手側であって秋津州ではないのである。

「命惜しさに必死ですから、先ず引っ込めないでしょうな。」

この辺で得点を稼いで見せなければ、政権ばかりか命まで危ない。

「でも、それにしたって、陛下のご責任ではございませんわ。」

「しかし、あの国の民にとって民族の英雄を返せと要求することは間違いなく正義なのですから。」

「そう言う屁理屈は通りませんわ。」

「いや、あくまで二国間の問題ですから、屁理屈だろうがなんだろうが、結局は言ったもの勝ちでしょうな。」

「迷惑なだけですわ。」

「最後通牒なのですから、迷惑な要求は排除するほかはありますまい。」

「乱暴なお話ですわねえ。」

「乱暴と仰るが、ルールを定めて紳士的に闘うのですから。」

「紳士的にですか。」

「はい、飛び道具や爆発物などは一切使用せず、剣を以て堂々と闘うことにすれば、陛下がお怪我をなさる可能性はゼロだと思いますが。」

「いまどき随分野蛮なお話ですこと。」

「戦争など元々野蛮なものです。」

「でしたら、そんな野蛮な戦争などなさらなければよろしいのに。」

「相手側がそれしか生き延びる道が無いと言うものですから。」

白馬王子にとっては、いちかばちかの延命策なのだと言う。

「ですから、それは陛下のご責任では無いと申し上げている筈ですが。」

そもそも、相手が反日・反秋津州を標榜することによって求心力を得て来た以上、どう考えても全て自業自得としか言いようが無いのである。

「理屈はそうでしょうが、なにごとも紛争を収めるためですから。」

紛争などと言っているが、要は白馬王子が朴清源の身柄を引き渡せと要求し、秋津州側は嫌だと言っているに過ぎないのである。

現に、自国領内で重大な犯罪を犯した被疑者を他国に引き渡す国家などあり得ず、そのことから見ても、秋津州側には露ほどの非も無いことになる。

そこに持って来て、駐秋代表部の高官たちが軒並み逮捕された挙句、追放されてしまったことも小さくない。

「でも、そんな方法で紛争が収まるとも思えませんが。」

「いや、収めなくてはなりません。先方が不正な手段を用いることの無いよう、我が国が全面的にサポート致しますので。」

「それとこれとは別の問題ですわ。それに宣戦布告とは国家レベルの戦争遂行宣言ではありませんか。一対一の格闘など単なる喧嘩でしか無いでしょうに。」

「ふうむ、やはりご裁可いただけませんか?」

「それに陛下がそんな方と命を掛けて闘うことなど考えられませんわ。相手の命が無くなるのですよ。」

「いえ、陛下ならばこそその資格がおありになるのです。万一の場合でも、国家元首には特権免除がございますし。」

確かに、国家元首は現職中に限り、その任務の遂行のためとあらば、公私共に全ての行為が完全な免責を受けるとされており、今回の話の場合、国家元首の任務として戦う以上、例え相手を打ち殺してしまっても非難される謂われは無いと言っていることになる。

まして、「正統な」戦争における正規の戦闘行動なのだ。

本来、敵の戦闘員は見付け次第に皆殺しにしてしまって構わないのである。

構わないどころか、それこそ正規戦である以上「見敵必殺」であるべきなのだ。

今さら、特権免除もへちまも無いであろう。

その上、何度も触れている通り、秋津州は既存の国際法になど囚われる必要は無いのである。

「そう言うことを申し上げているのではございません。とにかく陛下は、野蛮な殺し合いなど望んではおられません。」

女神さまは、珍しく断固たる口調だ。

「うーむ、どう申し上げてもお採り上げいただけませんか。」

「はい、陛下は今まで通り、降りかかる火の粉を払いのけるのみでございます。」

「ほほう、それでは・・・・。」

「はい。例え敵国の兵士であっても、出来ることなら死なせたくは無いとの仰せでございますから。」

女神さまが艶然と笑みを浮かべている。

「あっ、ありがとうございます。」

「それには及びませんわ。」

「いえいえ、これで重要案件の一つが無事に済みました。」

「あら、未だほかにもございますの?」

「はい、是非ともご尽力を賜りたいことがあるのです。」

「わたくしに出来ることなのでしょうか?」

「恐らく、ほかにご適任の方はいらっしゃらないと思います。」

タイラーはにんまりと笑った。

女神さまが喜ばない筈は無いと信じているのだ。

「あらあら・・・。」

「実は、我が国の女性が一人、王立大学に入学を希望しておるのです。」

この場合の王立大学とは、今般八雲の郷において開校した総合大学校のことなのだろう。

王立を謳うだけあって既に豊富な教授陣を揃え、その教科内容にしても相当なものだと囁かれているほどだ。

無論その他にも、王の直轄領においては各地に多数の学校が運営されており、膨大な児童が学んでいると報じられてもいる。

「あら、お国にしては珍しいお申し出でございますこと。」

「はい、本人の強い希望がありまして。」

「それでしたら自費留学になりましょう。」

「それが、近頃、両親を亡くしまして気の毒な身の上なのです。」

「それはお気の毒に。」

「彼女の養育に名乗りを上げる親族など全く無いのです。」

「孤児になられたわけですね。」

今度は女神さまが意味ありげな笑みを浮かべた。

「はい、この夏でハイスクールを卒業いたしましたが、ご承知の通りの移住騒動で、我が国は未だ文教施設の多くが整ってはおりません。」

無論丹波においての話である。

「でも、それは皆様同じことではございません?」

そのほかの学生たちにとっても、条件は皆同じだと言っている。

「いえ、このものは十五歳で卒業したことからもお判りいただけると思いますが、なかなか優秀な学生でございまして。」

「そんなに優秀な方なのでございますか。」

「はい、今まで日本語を学習して参りましたのも、秋津州で教育を受ける希望を持っておったからでして・・・。」

「なるほど、それで財団の審査をお受けになりたいと仰る?」

秋津州財団の掲げる目標のひとつは、言うまでも無く恵まれない子供たちに就学の機会を与えることだ。

「はい、何とか望みを叶えてやりたいと思いまして。」

「判りました。」

財団で審査することを承諾したのである。

「ありがとうございます。」

「念のため、その方のお名前を伺っておきましょうか。」

タイラーは、大き目の茶封筒から数葉の写真を取り出してテーブルに並べた。

無論当の女性の写真であり、それが魔王の初恋の女性に生き写しとされるほどの美貌を具えている限り、ワシントンの願いは充分実現可能だと見ている。

可能どころか、飛びついて来るだろう。

「ローズ・ラブ・ヒューイットと申しまして、とうに海都入りさせておりますから、いつでもお呼び出しに応じられる構えでおりますので。」

「あらあら、随分気の早いお話でございますこと。」

その少女が観光客の一員として入国している事実は、とうに秋津州側の知る所となっているのだ。

三人の女性専従者まで同行しており、少女はその環境の中で全て日本語で会話しているほどだと言う。

「なにごとも、善は急げと申しますからな。」

タイラーに又しても笑みがこぼれた。

「おほほほ。」

「つきましては、一度財団総裁にお目通りを願いたいのですが、何とかご尽力いただけないでしょうか?」

何せその少女は、魔王の好むタイプなのである。

タイラーにすれば、直接会わせてしまえば、もうこっちのものだと言う意識が強い。

少女自身も、巧妙な意識誘導を散々に受け続けた結果、超大国秋津州の青年君主に対しては尋常ならざる想いを抱くまでになっていると言う。

増してその国は、世界のヘゲモニーを確実に手にしている空前の強国であり、更に君主個人は群を抜く大富豪だと教えられているのだ。

突然保護者を失った年頃の娘にとって、充分過ぎる動機付けになっているとの報告も受けた。

日本文化の学習に関しても極めて集中的に行い、若いだけにその成果も充分だと聞いており、無論日本語の日常会話にも不自由することは無いと言う。

その結果、ワシントンにとって最強の戦士になるだろうと評価されるに至っているほどなのである。

尤も、秋元姉妹からすれば、それもこれもとうに判っていたことであり、全て思う壺でさえあったのだ。

現にその少女をリストアップするにあたっては、ワシントンの誰よりも先んじていたほどで、彼女に関する個人データなどその両親が健在の内から入手して来ており、今では天空のおふくろさまから積極的なゴーサインまで出てしまっているほどだ。

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  1. 2007/10/28(日) 15:10:19|
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