日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 112

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少女は、次の日の朝には早くも女性秘書官に直接連絡を入れてしまっていた。

無論、ピクニックに行きたいと申し入れたのだ。

せめて二・三日は様子を見てからと言う大人たちのアドバイスも、その胸に溢れて来る思いには勝てなかったことになる。

尤も、少女にして見ればさまざまな不安がある。

いろいろな不確定要素を考え過ぎてその胸が打ち震えてしまっており、今回の秘書官の反応一つとってもその例外では無かった筈だ。

ところが、いざ思い切って連絡を取ってみると、その応対が意外なほどに懇切なものだったことが、少女の心の負担を著しく軽減してくれた。

少なくとも電話口の秘書官が少女の申し出を大いに喜んでくれて、王家が自分を歓迎してくれていることを、はっきりと感じさせてくれたからだ。

心配していた服装に関してもかえってラフなものを勧められたくらいで、食事の用意も一切不要とされ、その我が侭な望みは軽々と叶えられることになり、しかも、即日決行と聞かされたことが更に少女を勇気付けてくれた。

とにかく、夢のようなピクニックが、あっと言う間に現実のものとなったのだ。

だが、十五歳の乙女にして見れば、憧れの人とのピクニックに付き添いなど邪魔ものに過ぎない。

当然、大人たちの同行を全て忌避した。

それも、かなり強硬に主張したのだ。

無論タイラーは大いに困惑したが、結局戦士の主張を聞くほかは無い。

已む無く少女一人を内務省に送り届け、全てを秋津州側の手に委ねざるを得なくなり、期待の戦士に持たせることが出来た武器は、花束とビデオカメラだけになってしまった。

しかし、如何に準備不足とは言え現実に実戦部隊が出動した以上、「荒野の薔薇」と名付けられたこの作戦は、実戦として動き出してしまったのである。

何せ唯一の実戦部隊であるこの戦士自身、肝心の作戦目的ですら満足に理解出来ておらず、タイラーにして見れば不安だらけだったろうが、あとは運を天に任せるより仕方が無い。

無論ワシントンにも報告を済ませたが、成功の端緒だと受け取るものが多く、その反応にしても決して悪いものでは無かったのである。


さて、少女の旅は、献花のために一旦旧王宮に立ち寄っただけで、一瞬の内に見知らぬ惑星に到着して始まった。

例によって漆黒のSS六は二機の編成だが、少なくとも少女の乗る旗艦にはそれなりの近代設備が整い、迫水秘書官はもとより、井上司令官ほか数名の部下たちの姿まであって何の不自由も無い。

何しろ、王の臣下である彼等は、タイラーたちと違って、少女の行動を掣肘するなどあり得ないことなのだ。

秘書官は常に最良のサポートを心掛け続け、医務室には優しそうな女医さんが二人も待機しており、聞けば盲腸炎の手術くらいなら軽々とこなせる用意があると言う。

国王は少女の期待をいささかも裏切ること無く、終始優しく庇護してくれており、少女はほとんどストレスを感じることの無いままに、さまざまな風景に接することを得た。

山中では王が山菜を採り野兔を追う姿に接し、大海に移動しては大魚を追ったのである。

心優しい庇護者の表現によれば、この但馬と言う名の惑星全体がその人の言う隠し沢だったのだ。

その海も山も川も全てが自然の宝庫であり、その人のご先祖さまが、少しずつ地球から運んで来た生物たちで満ち溢れていると言う。

現に大草原で草を食む野牛などは数億頭もの多くを数え、熊や狼のたぐいも数え切れないほどだと言うし、見知らぬ大陸を少し南下しただけで、象やライオンなどの姿にも数多く接することが出来た。

大海原では、群れを成して回遊するクジラもたくさん見かけたし、奇妙な道具を使ってそれを捕獲する「秋津州人」たちの姿も数多く目撃した。

彼等は飛行するばかりか、海に潜ることも出来るらしく、その中の一部は四メートルもありそうな細長い棒を持ち、クジラの頭部を真上から刺し貫いて一瞬で仕留めているのである。

大群の場合には一度に七・八頭も捕獲してしまうらしいけど、このときは三頭だけを一瞬で仕留め、尾鰭に太いロープを掛けて寄ってたかって海面を引いて行く。

引いている人の全員が空中を飛行して行くのだ。

空中から機内のモニタで見ていると、前方の空中をとても大きなものが近付いて来て、やがて数キロの彼方でゆっくりと着水するのを見た。

近付いて見ると長さ千メートルもありそうな船で、見れば見るほどずんぐりした形をしていて、おまけに船尾の方には大きな滑り台のような装置がある所を見ると、前に写真で見た捕鯨母船のようなものだったらしく、さっき捕獲したばかりの三頭が、見る見るうちにそこから引っ張り上げられて行く。

傍らの陛下にお聞きすると、大量の油を抜いてからほとんどが肥料になるのだと言うし、この空飛ぶ捕鯨母船はほかにもたくさん稼動していて、中には地球に送る食料用に加工している船もあるのだと言う。

なんでも、多いときには、一日で数万頭も獲っちゃうこともあるらしい。

最近はしょっちゅう鯨肉を食べてるから、以前ほどには抵抗感は無かったけど、やっぱりクジラが可哀そうな気がして気軽に聞いてみた。

「そんなにたくさん獲っちゃったら、直ぐにいなくなっちゃうんじゃありません?」

絶滅しちゃうと思ったのだ。

「それがな、この星ではわたしが間引いてやらんと、クジラたちがどんどん増えちゃうんだよ。」

「そうなんですの。」

「あんまり増え過ぎちゃうと、食糧にありつけないクジラがたくさん出て来てしまうのさ。」

「そう言うクジラは餓死しちゃうんですか?」

「そう、死んだらみんな深い海の底に沈んで行ってしまうしな。」

「まあ・・・。」

「丹波や丹後もそうなんだが、どうも、クジラばかり繁殖の勢いが強過ぎるようで、放って置くとほかの魚たちがあまり増えないのだ。」

「ほかのお魚が、クジラに食べられちゃうからなのでしょうか?」

「それもあるが、一部のクジラはプランクトンも大量に食べちゃうからなあ。」

「それじゃ、お魚さんが困りますわよね。」

「ときどき海底をほじくって、栄養分を海面近くに浮かせてやるようにはしてるんだが。」

「まあ、そんなことまで・・・。」

「そうしてやると、海面近くでびっくりするくらいプランクトンが発生して魚の餌になるんだ。」

「そこでお魚が増えてくれるのですね?」

「そう、餌が大量にあれば、それを食べるお魚もたくさん増えることが出来る。」

「そして、そのお魚やプランクトンを餌にしてるクジラもおなか一杯食べられますね。」

「うむ。そう言えば、そなたもクジラを食べてるそうだね?」

「はい、最近は嫌いじゃなくなりました。」

「ほほう、やはり以前は食べなかったのか?」

「ええ、なんですか、以前はクジラは食べものじゃないと思ってましたし、それにクジラって高等生物だって聞いてましたから。」

「わっはっはっ、高等生物とはうまいことを言う。」

「でも、クジラの知能は牛とおんなじくらいだって聞いちゃいましたし、それだと牛も食べちゃいけなくなってしまいますから。」

「第一、人間の食料に知能の高い低いは関係無かろう。」

「ほんとにそうですわね。」

「植物だって、良い音楽を聞かせてやると良く育つと言ってる研究者もいるようだし、そう言う意味では植物も知能を持ってるのかも知れんぞ。」

「まあ、じゃ小麦なんかも知能を持ってるのかしら。」

「わっはっはっ。そうかも知れんな。」

「おほほほ。」

「わたしなどは、あまり牛を食べない方だが、その代わり牛の糞を大いに利用させてもらってるよ。」

「牛の糞でございますか?」

「うん、粉末にしたクジラと牛の糞を稲藁に混ぜてしばらく寝かせてやると、素晴らしい肥料になってくれるのさ。」

「あ、じゃ、その肥料が穀物を育ててくれるんですね?」

「そう、たくさん育ててくれる。」

「でも、野牛の糞を集めてくるのが大仕事でございましょう?」

「方法はいろいろあるさ。」

「そりゃあ陛下なら簡単なんでしょうけど。」

「多少工夫は必要だがな。」

「その野牛、お味の方はどうなんでしょう。」

「ちょっと固いかな。」

「でも、わたくしは、やっぱりクジラより牛の肉の方が好きですわ。」

「まあ、世の中には絶対に牛を食べないと言う人もいれば、同じように豚を食べないって言う人もおるし、それもこれもその人たちの自由の筈だからな。」

「ほとんどが宗教上の理由でしょうし。」

「そうだ、どんな宗教を信じようと、人さまに迷惑をかけない限りその人の自由だ。」

「ほんと、そうですわね。」

「同様に、クジラを食べるも食べないも私の自由だ。」

「あたくしも、最近はそう思うようになりました。」

「いやなら、食わなけりゃ良いのさ。」

「そうですわよねえ。牛だって豚だって、それにクジラだってご本人の好き好きですものね。」

「それに、食べる人の健康にどれだけ有意義かどうかってこともあるな。」

「はい、特にクジラが牛肉よりずっと健康志向だってこともいろいろ教わりましたわ。」

「海都の店でも、売れ行きが好調だと聞いておる。」

「あ、わたくしも食料品売り場でクジラの皮を買いましたけど、あれでスープを作るととてもおいしゅうございましたわ。今度作って差し上げましょうか。」

「おう、それはありがたい。」

庇護者は実に嬉しそうだ。

「では、近々陛下のキッチンをお借りしてお作りしますわ。」

ほんとに作って差し上げたいと思ったのだ。

「うむうむ、楽しみにしておこう。」

にこにこと、ほんとに嬉しそうなご様子だし、絶対作って差し上げることにしよう。

「ところでこの星の方たちは、主にどんなものを食べてらっしゃるのかしら。」

「米、麦、大豆、鳥、猪、クジラ、川魚もたくさんいるし、何でも食べるさ。」

「牛は食べないんでしょうか?」

「あんまり食べないようだねえ。」

「そう言えば、その人たちの姿はたくさんお見掛けしましたけど、未だその集落を見てませんけれど。」

相当な範囲を移動して来た筈なのに、艦(ふね)のモニタにはまったく写らないのである。

「うむ、ではそろそろ村に降りてみるとするか。」

「はい。」

実は、タイラー補佐官から最優先で撮影してくるよう言われていたのが、この原住民の集落の風景だったのだ。

ワシントンは、よほどその様子に興味があるらしい。

その後艦(ふね)は瞬時に移動して、ある集落の上空へ達したが、少女にその位置関係までは判らない。

それこそ、北半球か南半球かの区別すらつかないのだ。

目の前のモニタには、一面の緑に包まれた五十戸ほどの集落が写り込み、見れば建物は和風のものばかりだが、人々の服装は和洋折衷のように見えている。

しかも、突然上空に現れた筈の機影にも驚き騒ぐ者など一人もいない。

子供たちが無邪気に群れ遊び、耕地付近の大人たちも平然としているところを見ると、彼らから見ればよほど見慣れた光景なのだろう。

改めて観察してみると、全ての道路が未舗装で自動車らしいモノは一台も見掛けず、せいぜい馬か牛が引くような荷車を見るばかりで、挙句病院どころか学校も店舗も一切見当たらない。

辛うじて電気だけは通じてはいるものの、未だ上下水道もガスも無く、テレビや冷蔵庫など影も形も無いと聞いた。

のどかな田園に囲まれ、人々は井戸を掘り薪を燃やして煮炊きをしており、木炭はあるがほとんどが暖房用だと言う。

そう言う村落なのだと教えてくれたのだ。

程なくかなりの広さを持つ一軒の庭に着地すると、数人の村人が丁重な物腰で迎えてくれており、初夏を思わせる日差しを浴びながら、王はそのそれぞれに気さくに声を掛けている。

そしてその人は、私が手を握って甘えれば、いつでも優しく応えてくれる理想のボーイフレンドなのである。

実際昨日お目にかかったときも、私との対面をずいぶんと心待ちにしてらっしゃったみたいだし、さっき転びそうになったときなんかも軽々と抱き止めてくれたほどで、嫌いだったらこんなに優しくしてくれる筈は無いのだから、きっと私のことを好きになってくれたに違いない。

この方が付いててくれるんだもの、これからは何でも相談に乗ってくれる筈だから、今までの不安一杯の生活なんかはこれでお仕舞いになるだろうし、もう何もかも安心だと思う。

大好きなその人の介添えまで受けながら、嬉々としてビデオ撮影に励み、最優先と言われて来た任務だけはどうやら果たせそうだし、この任務だって、これが最後になるに違いないのだ。

結局但馬での滞在は三時間ほどで切り上げ、その後丹波と佐渡にも寄り道したけど、丹波では、女性教官たちがマイティ・ヘクサゴンと呼んでいたものも実際に見ることが出来た。

彼女たちはまるで怪物みたいに言ってたけど、実際は陛下のお住まいと中央政庁を兼ねた地上十二階、地下二階造りの白い大きなビルなのだ。

資料にもあったけど、かなり正確な正六角形の形をしていて、その外壁の一辺が三百メートルもあり、その壮大さはまるで現代の神殿を見るような気分にさせられたほどだ。

そこを中心に立派な舗装道路がびっしりと放射状に延びていて、全ての道がそこに通じてるみたいだし、文字通り首都機能の中心になってるのは確かなのだろう。

迫水さんの説明では、それまで他のビルで働いていた官僚がみんな引っ越して来て、最近ではその中だけでも十万人くらいが働いているらしい。

その中にはその人たちの宿舎だってあるって言うし、レストランやコーヒーショップどころか、公衆トイレだけでも千ヶ所以上もあるんだそうだ。

秋津州側は単に王宮とか六角庁舎って呼んでるみたいだけど、少なくとも異邦人はみんなヘクサゴンとかマイティ・ヘクサゴンとしか呼ばないらしい。

殊にマイティ・ヘクサゴンって呼ぶ人なんかは、威圧感を感じてそう呼んでるに決まってるけど、私にはとても美しい建造物に見えてしまう。

広い中庭を持ったそのビルは、正面口らしい南側が広いグラウンドになっていて芝生の緑がとても鮮やかだけど、対照的に東側と西側は完全舗装のパーキングが広がり、今も一万台以上の車が駐車してるくらいで、何しろ秋津州どころか丹波全体の中心だって言うくらいなのだから、このヘクサゴンに用事のある人がそれだけ多いと言うことなのだろう。

残りの北側には、一キロほど離れて王立大学の敷地が広がり、幾つものビルが建っていて、その中には立派な学生寮まであるのだと言う。

勿論私が入学を希望してる学校だし、結局、国王陛下はこれを見せるためにわざわざ寄り道をして下さったらしい。


八月八日の夕刻、王と女帝の通信。

王は海都の内務省ビルに、女帝は東京の対策室に所在する。

「お帰りなさいませ。」

「うむ。」

「今回は、また随分大量のお持ち帰りだったとお聞きしましたが。」

国王にとって、今回の旅の本来の目的は例によって物資の移送だったのであり、事実、穀物、クジラ、石油ほか大量の資源を運んで来ている。

「佐渡から相当なウェアハウスを持って来たからな。」

天空の第二基地には、膨大な資源を貯蔵してあるのだ。

「ご苦労様でございます。」

「いや、それより今頃タイラーがビデオをチェックしてるころだろう。」

「ただいま、ワシントンに送っているところのようでございます。」

「もはや、知られて困ることもあるまい。」

「ご一族の生存者が皆無であることも隠す必要は無いとの仰せでございますか?」

「わざわざ喋りたてないだけのことだ。」

こちらから吹聴して回らないだけだと言う。

「承知致しました。」

「それに、やつ等が如何に騒ぎ立てようと、今さらどうすることも出来まい。」

「秋津州の主権は、丹波において他国に先んじて確立しておりますから。」

先んじるも何も、古来より丹波全域を秋津州が先占していたのであり、引き比べて、ほかの国などたかだか昨年の十一月になってやっと領土を得たばかりだ。

地球の時と違い、秋津州の主権のあれこれを云々する資格などあろう筈も無い。

「うむ。」

「それに現在の住民型のボディを、全てチェックするのは不可能でございましょうし。」

「そろそろ、入れ替えも完了だな。」

最新型のいわゆる迫水美智子型のボディに入れ替えの最中なのだ。

「はい、あとは丹後を残すのみでございます。」

「うむ。ところで話の本題はなんだ。」

「ヒューイットさまのことでございます。」

「ローズがいかが致した。」

「大分お気に召されたようでございますが、こののち如何取り計らいましょうか。」

若者が、あの少女を大いに気に入った筈だと言っている。

「ふむ。」

「あちらさまも、陛下のことをたいそうお気に召してらっしゃるようでしたが。」

「さようか。」

「さきほどなどは、キスまでなさってお帰りになられましたが。」

娘は帰り際に国王の首に両手を回し、頬にではあったが確かにキスをして帰ったのだ。

積極的な愛情表現であることは確かだろう。

「きっと、失った父親を思い出すのであろう。」

「父親役にしては、お若過ぎると存じますが。」

「それほど若くはあるまい。八つも違う。」

「八つしか違わないと存じますが。」

「・・・。」

「如何したら、よろしゅうございましょう?」

「うーむ、どうしてやったら良いものかのう。」

「お指図を賜りとう存じます。」

「とりあえず、王立大学への入学の手配を致せ。」

「それでよろしゅうございますか?」

「そもそも、先方からのアプローチの本筋がそれだったのではないか?」

「お言葉ですが、ご本人さまにしても、ご入学を特別に願っているわけではございませんでしょう。」

「ん?」

「ですから、それは手段であって目的では無いと申し上げております。」

「判っておる。」

「陛下もお傍に置いておきたいと思われているのでございましょう。それでしたら・・・。」

「いや、この際、広く勉学をさせるのが当人の為であろう。」

「その場合、お住まいの方はどのように?」

「大学の寮があろう。」

「いっそ、王宮に専用のお部屋をお与えになられてはいかがでしょう?」

「寮の方が近くて便利であろうが。」

「でも、王宮からなら通学の便もよろしいかと。」

六角庁舎は、王立大学に比較的近いのである。

「もし本人が強く望むのであれば、そのときに考えれば済むことだ。」

「承知致しました。」

「あとは、不足のものがあれば揃えてやるが良かろう。」

「あの方にとって最も不足しておりますものは、やはり情報でございましょう。」

「ふむ。」

「せめてご両親の事故の真相くらいは、教えて差し上げるべきかと存じますが。」

「ラングレーの跳ねっかえりどもが、謀略を以てあの子を孤児にしてしまったことをか?」

ちなみに、アメリカ中央情報局(CIA)の本部は、バージニア州ラングレーに所在するとされているが、その一部の者たちが、マーベラに瓜二つの少女を戦士として起用するべく、邪魔な両親を非情にも殺害してしまったのだ。

しかも、たまたまそれ以前から少女に目を付けていたおふくろさまが、その全貌を詳細に記録してしまっている。

以前から両親に接触していたエージェントが、あの夜口実をもうけて呼び出し、特殊な薬物を用いて失神させた上、夫妻を車ごと崖から落とした顛末をだ。

その薬物は警察の網に掛かることは無く、既に公式に事故死として処理されてしまってはいるが、万一それが問題視されるような事態にでもなれば、政治力を用いて強引に闇から闇に葬ってしまうつもりだったのだろう。

「さようでございます。」

「しかし、果たしてそれを知ることがあの娘の幸せになるだろうか。それこそ返って苦しませてしまうのではあるまいか?」

祖国に裏切られた哀しさが、その心に大きな傷跡を残してしまうかも知れないのだ。

「お言葉ですが、このままで王妃となさるのは、今後に禍根を残すことになりましょう。」

衝撃的な事実を知れば、彼女がその心に受けるダメージが小さく無い以上、それが世継ぎを生んでからであったりしたら大問題だと言っているに違いない。

「王妃だなどと馬鹿なことを申すな。未だたった十五の子供ではないか。」

「近々、十六歳におなりでございます。」

ちなみに秋津州では、常態として男女とも十六歳で成人と看做すのである。

十一月の二十二日がその娘の十六歳の誕生日なのだが、奇しくもそれは旧王宮で惨劇が起きた日と同じ日なのだ。

「わしは、国家の暴力によって孤児にされてしまったあの娘が哀れでたまらんのだ。これでは、あのアフリカの子供たちと同じではないか。」

若者は、例のアフリカの孤児たちと同様に、その娘の境遇にひたすら同情を覚えるのだろう。

「だからこそ、一刻も早く真実を教えて差し上げるべきかと・・・。」

「それを知ることによって国家への帰属意識を失ってしまえば、なおのこと不幸ではないか。」

少なくともそれを実行した組織は許せるものではないだろう。

そして、それは間違いなく国家の一組織なのだ。

「さようでございましょうか。」

ヒューマノイドに集団に対する帰属意識の重要性など判る筈も無い。

「我が一族も、かつて国を逐われた辛い過去がある。」

「はい。」

「お京には判るまいが、国に裏切られてしまうと言うことはまことに辛いものだ。ときに心の平衡を失ってしまうほどの悲しみや苦しみを伴うのだぞ。何よりも大切なのは本人の幸せなのだから、慎重になって当然であろう。」

人間としての国王の思いには複雑なものがあるが、ヒューマノイドにそのような悩みなどは無い。

「それでは、せめて新田さんにはお伝えして置きたいと存じますが。」

「うむ、知らせておかなければ、いざと言う場合に思わぬ齟齬を来すかもしれぬな。」

女帝は援軍を求めて新田に情報を流し、新田の判断もあってその情報は岡部からその夫人に流れた。

僅か十五歳の同胞がそのような悲運に逢ったことを知り、岡部夫人のワシントンに対する憤りは尋常なものでは無い。

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  1. 2007/11/06(火) 12:33:22|
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