日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 018

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二千四年九月十四日(秋津州暦日)午前一時零零分

王とマザーの通信。

王の所在地は旧満州中露国境付近の上空であり、マザーは依然秋津州のはるか上空にあるが、地表との通信にあたり殆どタイムラグは発生しない位置である。

「陛下、よろしゅうございましょうか?」

「む、なんだ。」

「北米と欧州に対する準備、全て整いましてございます。」

マザーの言う「準備」とは、言うまでも無く占領を含めた攻撃の意図を意味しており、この場合の「北米と欧州」は全世界に対して、と言い換えることも出来るだろう。

「分かっておる。」

「時期を逸してしまいます。」

「・・・。」

「ほんの少しだけ刺激を与えてやりさえすれば、NATO軍は飛び上がるようにして反応して参りましょう。」

ちなみに、カリーニングラードと言うロシアの飛び地領がある。

昨日、ドイツ政府が、秋津州の軍事占領と言う行為に対してこだわりを示した領域であり、バルティック海に接し、ポーランドとリトアニアに挟まれると言う地勢的特長を具えている。

詰まり、ヨーロッパの中にぽつんとロシア(の飛び地領)が存在していることになるのである。

まして、そのロシア連邦までがNATO(北大西洋条約機構)の準加盟国扱いであるこんにち、その飛び地領をコンパスの芯に大規模な騒乱を起こせば、NATOは間違いなく反応して来るだろう。

「・・・。」

「三十分以内で北米と欧州を占領可能でございます。」

反応すれば当然交戦状態となり、戦闘の結果、敵国の全てを占領することに何の矛盾も無い。

「・・・。」

「これほどの好機は二度と巡っては参りません。三十分で陛下の世界帝国が成立致します。」

NATOが合衆国及びカナダと欧州列国の連合軍である以上、中朝露のほかに北米全土と欧州まで版図とすることになり、それは有史以来空前の世界帝国と呼べるものであったろう。

「・・・。」

「いづれにせよ、米英仏は叩いておかなければなりません。であれば、早過ぎることはございません。」

既存の体制を叩き壊す為には、いわゆる主要連合国の全てを一旦敗者の座に着かせることが近道である以上、マザーの見解は教科書通りのものであると言って良い。

「・・・。」

「ご決断を。」

「領土など重荷になるだけだ。」

この「重荷」と言う言葉こそが、王の気持ちを雄弁に物語っていた。

「承知致しました。」

マザーは一瞬で王の方針を受け入れ、それに従ったことになる。

ちなみに、マザーの見解は、マスコミや雷同する国民世論の見解になぞらえて見ることが出来るが、その場合には、国家元首の只一言を以て国民大衆を納得させることなど先ず不可能に近い。

「世界帝国の覇者となる」などと言う耳障りの良い言葉は、往々にして世論の核となってしまいがちであり、このような景気の良いキャッチフレーズで、一旦火のついてしまった国民世論を冷やすのは並大抵のことではないのである。

「それより、現地の居留民の保護に抜かりはあるまいな。」

王は占領地の外国公館の保護に付いては、初期の段階から万全を期すべく厳命してあったのだ。

無論、そのくらいのゆとりは充分にある。

「万全を期しております。」

現に秋津州軍は、駐在公館の警護のためには鉄壁の態勢をとって来ており、それらの公館には一人の暴徒も侵入させてはいない。

その上、出国を希望する居留民の国外脱出まで援護し、送還先を米英日仏独に分類してSS六改で送りつつあるほどで、若獅子の政略は、いまだ破綻の端緒すら見せない。

十四日になると中朝露の国家元首の消息不明と、それぞれの行政機構が機能していないことが知れ渡り、秋津州の一方的な戦勝は最早動かし難いと言う観測が定着して行った。

この三カ国には、いまや役所も無く警察や消防も無い。

住民を守るものは、住民自身の力しか無いと言うことになる。

敵軍に占領され、その統治機構と軍事力を失い、治安を維持することが出来なくなってしまった以上、既に国家としては全く滅んでしまったと言って良い。

しかも、本来であれば、全ての占領地は占領軍の軍政下に置かれるのは常識だろうが、秋津州軍にそのような動きは見られず、ただ、びっしりと占領地の地上と空を埋め尽くしているばかりだ。


一方で、その極めて抑制的な作戦行動が、NATO軍を大混乱の淵から救ったと言って良い。

そのあまりに素早い作戦行動を前にして、なすすべを持たなかった北大西洋理事会(NAC)も、混乱からようやく立ち直り、かろうじて冷静を保てるようになっていたのである。

また、世界の世論は先に手を出したのは秋津州側ではないことをとっくに承認してしまっているため、国連安保理の席上で中露の代表がいかに秋津州の侵略行為を非難して見たところで、ただただ冷笑を浴びるばかりだ。

その上、彼等が背景とすべき本国の政府そのものが、煙のように消滅してしまっている。

それにも拘らず、己れの為して来た侵略行為は棚に上げ、口を極めて秋津州を罵り続けているのである。

しかし、先進国のメディアは嘲笑の嵐を以ってこれに報いた。

中朝露の国連大使クラスの者が口角泡を飛ばして罵る映像の直後には、必ずあの正二兄妹の映像が流れることになる。

冷たくなって行く妹を背負った少年は、血を吐くようにして叫ぶ。

「私に銃を下さい。」

「ヤツらを一人でも殺して死にたいのです。」

この叫びに共感を持たなかった人は先ず希であり、一方的に皆殺しの目にあった秋津州人の怒りと悲しみを、これほど如実に表している場面は他に無い。

この時期に至ってなお、秋津州は被害者としての位置を確保していたのであり、この点においても若者の完勝と言って良いだろう。

その上彼我の間に圧倒的な力の差があることが、ここまで鮮明になってしまった以上、ますます仲介者が現れる環境には程遠い。

その力の差を、ボクシングのヘビー級チャンプに幼児が立ち向かうような例えをするメディアが多く、中には一万人のチャンプに幼児がたった一人で刃向かうようなものだと表現する者までいる。

このチャンプは幼児が銃を向けて来ない限り、ただ粛々と制圧占拠しているだけで、無抵抗の幼児を殺さないし、武器以外は何も奪わない。

唯一つの例外は、占領地の全ての国境を閉じてしまっていることだろう。

物理的に国境線を塞ぎ、蟻一匹その出入りを許さないのである。

この長大な国境線の全てを閉鎖してしまえる国など、秋津州以外に在ろう筈も無い。

天文学的な兵力を以ってして、初めて可能なことなのだ。

港湾は勿論、海岸線や離島の端々に至るまで完璧に塞いでしまっており、難民の国外流出は一切見られない。

だが、その内部では既存の物流がほとんど停止してしまっており、当然のことながら、飢える人が急速に増え始めていることも確かだが、その責めを負うべきは若者で無いことは確かだろう。

何しろ、若者にとっての敵国は自らの意思を以て戦端を開いておきながら、未だに降伏の意思を示さず、それどころかニューヨークあたりで盛んに口撃をさえ加えて来ているのだ。

彼等は、戦争の続行の意思を示し続けていることになる。

しかし占領軍は、歯向かって来ない限り軍人であろうと一般市民であろうと、その行動に対して一切掣肘を加えてはいない。

占領地の人々は、国内での移動、通信、報道、集会、全て何らの制限も受けていないのである。

驚くべきことに、住民たちの大規模集会ですら制限されてはいない。

その結果、各地で始まった小規模の集会が、徐々に膨れ上がりつつあるようだ。


占領二日目の夜が明けた。

占領軍は攻撃を受けたときですらこれを殺さず、軽がると生け捕りにして武装解除をする。

無論、武装解除の後には即座に解放しているのだが、問題なのは、武装解除を受けて解放される敗残兵の行動であった。

彼等の戻るべき衛戍地には、破壊され尽くして兵営すら残っていないのだ。

当然、武器どころか食糧の補給も受けられない。

生き物である以上、敗残兵と言えども腹は空く。

出身の村が近い兵はまだ良いとして、それが遠距離だった場合故郷に戻りたくてもその費用にも困る。

自然、敗残兵の相当な部分が浮浪化し、数人単位で集団を形成して暴徒化して行く。

彼らの中で力あるものが他の小集団を吸収し、見る見るうちに数千人規模の匪賊集団が各地に生まれて行った。

ある意味で無責任ともとれる占領政策が続く中、これらの集団は短期間のうちに合従連衡を繰り返し、やがて最大規模のものは数十万を数えるまでに膨張して行くことになる。

既に一部の大規模集団は劫掠を徴税と言い換え始めており、強盗、強姦、殺人、誘拐、放火とお定まりの行為が頻発して、その光景の多くが取材カメラに収められていく。

自国の敗残兵が、自国民に乱暴狼藉の限りを尽くすのである。

略奪され放火され全てを失った農民達や、失職した警官までが暴徒に加わっていると言う。

但し、銃火器を装備する集団が見当たらないのは、武装解除がそこまで徹底している証拠でもあったろう。

この点、中朝露三カ国とも基本的には変わらない。

秋津州の女性兵士は、それぞれの国境を閉じて、ただただ静観している。

自国の匪賊集団が自国民を虐殺、劫掠する場面が数多く報道され、特にネット上には目を覆いたくなるような残虐なものが溢れかえって行く。

戦争に敗れ、その国家としての仕組みを失うと言うことは、全ての既存のルールが失われ、無法地帯が生まれてくることだと知るべきなのだ。

この十四日に起きたことで特に目立ったのは、中朝露の全ての潜水艦が地球上から消滅したことであったろう。

それ等は、艦橋以外のハッチが全て接着されてしまい、全く開閉出来ない動く鉄屑であった。

それが文字通り消滅してしまい、そのかけらすら残ってはいない。

乗組員を退艦させてから、はるか宇宙の彼方にまで運ばれてしまったのだ。

殊に退役原潜をも消滅させたことは、各国にとっても、その労を多とするところであったに違いない。

このロシアの軍港に繋留されていた、鉄屑よりひどい退役原潜群はロシア自身は勿論、その近隣諸国にとっても長らく頭痛の種であり続けた。

ロシア自身の財政難のため、解体作業がほとんど進捗せず、その放射能漏れが取りざたされるようになって既に久しい。

近年に至りロシア政府は、「日本海に投棄されるのが嫌ならカネ(解体費用)を出せ。」などと日本政府を恐喝までしているのだ。

日本海に大量の原潜を投棄されたりしたら、近隣諸国はそれこそ子々孫々まで汚染の影響を受けざるを得ない。


日付が変わって十五日の秋津州は、夜半から強い雨が降り続きかなりの雨量を記録していた。

豪雨の中、若者は内務省最上階の自室で目覚めを迎え、例によって、就寝中のデータを収集し、かつ吟味しながら朝食のテーブルについているが、占領地を含め取り立てて変事は発生していない。

少なくとも、軍事的には大きな変事など起きようがないのである。

思えば少年は、一晩まるまるの徹夜で、戦争の総指揮を執っていたのだ。

そのため、指揮権をマザーに委ね充分な睡眠を確保したようだ。

尤も、重大な変事があれば当然叩き起こされていたことだろう。

しかし、さいわいにも王の睡眠を妨げるほどの戦局の変化は起きなかった。

おかげでその横顔には若々しい気力が横溢し、開戦前に見られたあの迷いの影も無い。

さて、今朝の食卓には、珍しくも白人の客がいる。

滞在中の米大統領特別補佐官トーマス・タイラーだ。

王の就寝中、京子を通じて必死に接見を願っていたのだろう。

当然、本国政府は手探り状態の秋津州情報にひどく飢(かつ)えている。

秋津州の中長期的な政策や国王個人の体調から個人的思想に至るまで、とにかく米国政府の政策決定のための判断材料となるものを、足摺りするほどに求めており、いづれにせよ、現状では王個人の考えがそのまま秋津州政府の方針と見るほかは無く、とにかく、王の考えを知りたい。

いまや、王に関する情報の重要度は、冷戦時のソ連当局に関するものをはるかに超えていると言って良い。

何しろワシントンにとって、当時とは状況が大幅に違ってしまっているのだ。

当時のワシントンは対ソ戦を想定した場合でも、最悪でも相討ちに持っていける自信だけはあったのだ。

数限りない代理戦争は行って来たが、少なくとも直接の激突を抑制するだけの国力を、アメリカは保持することが出来ていたことになる。

だが、今回は明らかに違う。

どの様に楽観的に考えても、秋津州は米国を一方的に壊滅させて完全占領することも可能であり、翻って米国側から見た場合、米国は秋津州のほんの一部を叩くことしか出来そうにないのである。

肝心な王の荘園どころか、宇宙空間にある中間拠点の規模すら分かっていないのだ。

米国政府としては、第二次大戦の終結以来、いや、建国以来の難局を迎えたと言って良いだろう。

他国の顔色を見て、一方的に国益を放棄せざるを得ないような屈辱的な政策判断を強いられたことなぞ、あのキューバ危機のときですら一度として無いのだ。

それはひとえに、いざと言うときには悪くても敵と相討ちに持っていけるだけの国力を保ち続けることが出来ていたからに他ならない。

米国を筆頭に並み居る列強は他を圧伏するに足る国力を背景にして、常に自国の対外政策を正当化してきたが、今次の状況は、嗤うべき事にその立場が突然逆転してしまったに過ぎないのだ。

タイラーの任務は米国の興亡にそのまま直結してしまっており、この様な状況下で彼が受ける訓令は、悲痛極まりないものであったろう。

全権委任状を持っているわけでもない彼の立場は、単なる諜報員か工作員でしかないのだ。

それも、少しでも迂闊な動きをすれば、軍陣に在る王の怒りに触れてしまう恐れがあり、そうなれば、あっさりと追放されてしまうだろう。

国連にも加盟せず、いづれの国とも条約を結んでいない秋津州にとって、国際法と言う概念そのものが存在していないことになり、従って、何者にも拘束されるいわれが無い。

一主権国家として孤立を恐れない以上、全くのフリーハンドを持ったと言って良いのである。

そうである以上、国外追放どころか、秋津州の慣習法に照らして重大な利敵行為と看做される恐れすらあり、その結果極刑に処されても一切苦情の言いようが無い。

尤も、弱国である米国が強国である秋津州に対して、仮に苦情を申し立てたところで国王は相手にする必要すら無いであろう。

そこへ持ってきて、目の前に並んだ朝食の献立は、これはもう見るのも苦痛であった。

黒ずんだ麦飯と味噌汁、たっぷりとした生野菜、どんぶり一杯の納豆、梅干に漬物、そして一キロはありそうな鯨肉のステーキがメインなのだ。

この哀れな白人は、納豆と麦飯は勿論、ステーキの正体が鯨肉だと知った途端、もう完全にお手上げであった。

しかし、この場合嫌な顔一つするだけでも非常な非礼に当たるであろう。

これが、秋津州国王のれっきとした朝食メニューなのだ。

つまりは、秋津州の風俗習慣なのである。

固有の食文化と言い換えても良い。

断っておくが、タイラーは別に招待を受けて入国して来ているわけでは無い。

自分から願って、この国を訪れて来ているのだ。

その上、この接見を必死に願ったのも又自分自身なのだ。

嫌なら国へ帰れば良いだけの話だ。

もっとも、いざ帰ろうにも、おいそれとは出国することすらままならない。

航空便は勿論、船便でさえ開通していないのだ。

どうにも仕方が無い。

結局、残りの新鮮な生野菜を、ほんの少々お付き合いするほかは無かったが、正面の喰べ盛りの少年は、この哀れな白人の困惑にも全く頓着しなかった。

みるみるうちに平らげて行き、後方にお盆を持って控えている美しい侍女達に麦飯のお代わりまで要求するありさまだ。

その健啖ぶりを見ても、一族の指導者としての責務を果たしつつあると言う、揺るぎのない自信さえ垣間見えて腹立たしい。

それにしても、目の前の見事なまでに美しい乙女たちは噂以上に魅力的であった。

タイラーの審美眼から見ても、典雅な挙措と言い、その外見と言い、ハリウッドで美貌を売り物としているいかなる女優にも決して引けはとらないと思えるほどだ。

京子の情報によれば、全て王の侍妾となることを前提として、本人の強い希望のもとに選ばれた者ばかりだと言うが、肝心の若者が全く関心を示さないらしい。

聞けば、一族中の一番の悩みは少年のこの恬淡たる性欲にあるようで、あれほど騒がれたマーベラとの間柄においてさえ、ついにプラトニックなものに終わってしまっているようだ。

なお、今日は王にとって十九才の誕生日にあたるのだが、言うまでも無く祝い事の予定なぞは一切聞こえては来ない。

秋津州では、男子は十六才で立派な成人として扱うことになるそうだから、十九才と言えば最早堂々たる成人男子だ。

それなのにこれほどの美女たちを前にして箸を取ろうともしないとは、いかに降りかかる国難の中とは言え、単身赴任のタイラーからすればひとごとながら実に歯がゆいことではある。

後方に数歩下がって謹直そのものの姿勢を以て佇立している親衛隊長か、或いはこの美しい侍女達のいづれかに、諜報の突破口を求めることは出来ないものか、タイラーの重い思案はとりとめも無い。

「食が細いようですな。」

このとき、野太い声ではっと我に返った。

「はっ、いえ、昨晩遅くに食事したものですから。」

「では、お茶にしましょう。」

「ありがとうございます。」

コーヒーが運ばれてきて、救われたような気分だ。

なんとしてでも、崩れたった態勢を立て直さなければならない。

「お京の話では、何かお話がおありのようですな。」

王は、はるかに年上の筈の秋元女史を、完全に目下の扱いで呼び捨てにしている。

それも、ごく自然にであった。

つい先日までは、年長の京子に対する配慮が少なからず感じ取れていたが、もはや、その必要も無くなったと言うことか。

また、自分の方からは特段の話なぞは無いのだが、言いたいことがあるのなら聞いてやろうと言っているようだ。

「はっ、申し上げます。」

例えどうあろうと、既に言葉遣いからして従属的な物言いになってしまっている自分自身が腹立たしい。

「・・・。」

その目が「早く言え。」と言っているように感じてしまうのだ。

「今次の紛争について、陛下のお見通しをお聞かせ願いたいのです。」

思い切って踏み込んで見た。

誕生日の祝辞など言っている余裕は無い。

「実は、見通しなぞ無いのです。」

王は実にさらりと言ってのけた。

「お言葉ですが、そうは思えませんが。」

「全て、相手のあることだ。」

今度は、かなりぞんざいな返答が返ってきた。

先制攻撃は全て中朝露側からなされていることも事実であり、国王は受けて立っただけだと言いたいのであろう。

「紛争終結のために必要なことは何でございましょう?」

「敵味方双方が終結を望むことだろうな。」

片方だけが、終結を望んでも駄目だと言う。

子供にでも分かることだ。

「陛下はそれをお望みですか。」

「我が秋津州は、戦いを望んだことは無い。」

その口調が当然に荒い。

「中朝露三国に何を望まれますか?」

「いまさら何を申しても、無駄だろう。」

「長期戦をなさるおつもりでしょうか?」

言ってしまってから、その場が凍りつくのを覚えた。

正面の王が、無言のままじっと見据えて来る。

その濃い眉の下の鋭い眼光に射すくめられ、全身がすくみ上がりそうになる。

「申しておく。」

思い切り低い声がずしりと響いた。

「はっ。」

「皆殺しの戦を仕掛けておるのはヤツらの方だ。」

眼前に居るのは現に戦闘中の一国の総司令官であり、その漲る憤怒が存分に込められた言葉であった。

「・・・。」

「そこを間違えてもらっては困る。」

「申し訳ございません。」

この年端もいかぬ年少者に、非常な圧迫感を感じざるを得ない。

「現にヤツらは、未だに我らを罵り続けておるではないか。」

事実その通りなのである。

殊に国連ビルの中からなどは、中朝露の名を以て未だに口汚い罵声が飛んで来ている。

「・・・。」

「どちらかが消えて無くなれば、否が応でも戦(いくさ)は終わる。」

実戦経験の無いタイラーは震え上がってしまった。

「・・・。」

「ヤツらが望む以上、百年が千年でも相手になってやる。」

眼前の若獅子が鬣(たてがみ)を逆立てて咆哮したような気がした。

大統領特別補佐官は、確かにその耳で地響きするような咆哮を聞いたのである。

最早それは魔王であったろう。

「そっ、それは・・・。」

やはり、自分の踏み込み方に完全な誤りがあったことを、痛切に悔やまざるを得ない。

これでは、かえって逆効果ではないか。

しかし、魔王の発言が全て本音であったなら事は重大だ。

彼我の戦力に懸絶した開きがあることが、ここまで歴然としてしまっているにもかかわらず、王は敵地の国境を完璧に閉ざし、占領地を制御しようともせずに放任しているのだ。

自然、それぞれの内戦騒乱を招き、秋津州軍はそれを静観している。

それぞれの国境内部で、同一国民同士が奪い合い、そして殺しあっているのだ。

それでも、諸国から非難の声が上がって来ないのは、それぞれの地の外国公館を魔王が完璧に保護しているからに他ならない。

なおかつ、居留民の出国希望者は秋津州の輸送機で敏速に出国させてもいる。

これほどの余裕を持った完全占領など、過去の戦史にも見当たらないほどなのだ。

いったい、王の本音はどの辺りにあるのだろう。

「甚三(じんざ)。」

王が忠実な護衛官を呼んだ。

「はっ。」

「出かける。」

最早、タイラーなぞ眼中にないと言わんばかりに、たくましい背中を見せて若者は出て行ってしまった。

哀れな白人は、止む無く立ち上がり最敬礼を以って見送るほかは無かったのである。

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  1. 2005/11/02(水) 17:40:15|
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