日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 022

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この間、日本の外務本省から秋津州の新田源一宛に度重なる電話が入っている。

本省内部、ひいては日本政府の混乱と焦りは容易に想像出来たが、新田は電話に出ない。

出ないと言うより、出てるいとまが無いのだ。

渡航以来未だほんの僅かな時間しか経たないが、その間頻繁に各所と電話のやり取りを続け、ひたすら多忙を極めており、自らの人脈を駆使して世界各地のロシア人や中国人と連絡を取り合い、短時間のうちにルートをこじ開けて行った。

相手の多くは、その通話の中から秋津州に対する彼の強力な影響力を再認識させられ、なおかつ自国にとって比較的好意的な立場を以って、仲介の労をとってくれるのではないかという期待感を持つに到ったのである。

その上、新田には中露首脳の潜伏中の所在地まで分かってしまっている。

彼らがどこへ移動しようが、全てのターゲットに張り付いているD二やG四によって、その動きは一目瞭然なのだ。

新田は、彼ら首脳たちが潜伏中の場所ばかりか、部屋の中の家具の色まで電話の相手に伝え、とどめにはその部屋の粗末な机をG四の一撃を以て粉砕して見せさえした。

完璧なまでに捕捉追尾されていることが充分に伝わり、彼らが痛切な敗北感を味わったろうことは想像に難くない。

一旦その気になれば、自在に彼らの命を奪うことも出来るのである。

大統領だろうと国家主席だろうと、いつでも容易に逮捕拘禁出来ることは明らかだ。

現に戦争が続いている限り、国王は敵国の全ての人に対して、生殺与奪の権を握っていると言っても過言ではないのである。

言い換えれば秋津州は敵国の首脳はおろか、全ての民をそっくり捕虜にしているようなものなのだ。

しかも、この紛争が長期に亘ったとしても、秋津州はほとんど痛みを感じないことも知れ渡ってしまった。

とにかく、秋津州軍は兵站補給の必要性が極限まで絞られた軍団であり、当然無給の兵員はその交替を全く必要としないのだ。

とどめとしては、必要とする一次資源の全てを、一切他国に頼ることなく賄うことが出来ると言う冷厳な事実まで存在し、このことは秋津州が全世界から一斉に経済封鎖を受けてなお、戦いを続け得るだけの国力を有していることを物語っている。

「敵がその気なら、百年が千年でも相手になってやろう。」

とは、国王の言葉であったと言うが、その理非得失はさて置き、その実行能力に限って言えば、充分可能なことだと言うほかは無い。

いずれにしても、新田源一の全知全能を傾けた活動が続くうち、やがて暗闇の水平線のあたりがうっすらと陽が射して来た。

徐々に反応が良くなって行ったのである。

さまざまの通話のあとで、ついに日本駐在の中露両国の大使から新田宛てに電話が入った。

それは、正式な仲介の依頼の電話であったのだ。

もはや、依頼と言うより懇請に近い。

「降を請いたいので、容れて欲しい。」

「その仲介を請い願う。」

と、言うものであった。

無論、両国首脳陣の意をていしていると言う。

中露両国の方から日本人外交官新田源一に対して、仲介の懇請をさせることに成功した瞬間であった。

この直後、新田源一から本省に連絡が入った。

ごく簡単な概略の報告と同時に、秋津州国王の日本への非公式訪問の申し出を連絡したのである。

中露両国と秋津州との終戦処理についても、驚くべきことに、新田本人がその仲介役を果たすことになり、早速、停戦処理の諸条件についての協議に入るべく、万般のセッティングを完了したと言う。

また、その場所も、神宮前の秋津州商事のオフィスを使用する予定であり、日時に付いては全て即時だと一方的に言い切っている。

本省では当然「即時」と言う物言いに引っかかったが、新田は「即時」は字義通り「即時」だと言うばかりだ。

それでは、準備もへったくれもないではないか。

日本政府にとって驚天動地とでも言うべき事態であり、一時行政府は大混乱をきたしたが、とりあえず秋津州国王の非公式訪問の受け入れについては了承する旨を決定し、新田を通して伝えることになる。

国王の侍従の者はわずかに四人、しかもその中の三人までが女性だという。

また、新田自身は日本人女性を数名、個人秘書として帯同し、一切の事務を担当させると主張している。

勿論、この個人秘書とは秋元姉妹のことなのだろう。

とにかく、まるで暴風のような新田の動きに、政府当局は一方的に振り回されている思いを持ったが、基本的なところでは結局それに従うほかは無かったのである。

まして、新田はその方針については既に決定済みだとしているのだ。

思えば、新田が本省の許しも受けず、れっきとした公務中に出国したのはこの日の昼少し前であり、現在は未だその同じ夏の日が暮れきってはいないのである。

彼が無謀とも思える行動に出てから、未だ数時間の刻しか経過していないことになる。

この間、日本政府が具体的にやったことと言えば、「東太平洋問題準備室」の看板を「東太平洋問題対策室」と書き換え、大幅に人員を増やしたことくらいであり、儀典室や警備対策室の面々が駆け回っているうちに、十人の一行は二台のポッドに乗って、それこそ音も無く裏庭に着いてしまった。

男性は国王と井上司令官、そして新田の三人だけであり、女性は秋元四姉妹と侍女の三人だ。

その場の法務省出向組は無論のこと、誰一人五人の「外国人」の入国審査なぞしようともしない。

いまや堂々たる一国の元首にして、かつ、これほどまでの重要人物の訪れを、日本国としての体面を保ちながら出迎えるだけの用意など、全く出来てはいなかったのである。

対策室の面々も、確たる指示は何一つ受け取ってはいない。

なにしろ、新田源一から本省に連絡が入ってから、未だほんの数分しか経っていないのだから当然と言えば当然で、ただひたすら丁重に出迎えるほかは無かったろう。

最敬礼の列を尻目に、長身の王は悠揚たる所作をもって通って行く。

いまだ軍陣に在る総司令官として、その腰には例の短めの指揮刀らしきものを帯し、供奉の近衛軍司令官は長刀を吊ったまま悠然と進む。

京子の先導で一行は二階に上がって準備に入り、すぐに国王が侍従の者全員を引き連れて三階に席を移したのも、間も無く中露大使がそれぞれに到着することを察知したためであったろう。

周辺には、徐々に大事を嗅ぎ付けたメディアが集まり始め、騒然たる雰囲気の中を到着した中露大使と属僚たちは、秋元姉妹がそつなく捌いて、それぞれ二階の別々の部屋に通し、新田が直接下交渉に当たった。

妥結をみるまでにたいした時間を要さなかったのは、中露二カ国にとって事前の通話による合意事項以外、一切の条件が付加されなかったためであったろう。

その結果、それぞれが秋津州に対して文書を差し出すことを以て合意した。

それは、極めて簡易な降伏文書だったのである。

先ず、先制攻撃を行ったのは自国であり、自国の敗北を認め降を請うこと。

戦時賠償は百万米ドルとすること。

この二点だけだ。

あとは、一切何も無い。

中露大使が、それぞれ潜伏中の首脳たちとその場で連絡を取り、その合意を確認するや、国王がその迎えのため直ちに数台のポッドを派遣した。

ポッドは、各潜伏地に一瞬にして到達し、数分後にはそれに乗った両国首脳が、驚愕を隠し切れない面持ちのまま続々と到着し、元首を筆頭に各首脳たちが用意された文書に署名をしていった。

外交文書としてはこの上なく珍奇なことに、正副二通ともに文面は全て日本語だけで謳ってあり、宛先名は秋津州の国王と国民になっている。

つまり、一方的に中露が降伏文書を奉呈する形式になっていたのである。

秋津州側からは、一切の文書は交付されない。

秋津州としては、単に中露二国からの降伏の願いを受理したと言う形式なのだ。

前庭にセットした会見場で、初めて出御した国王は報道陣の前で降伏文書を確認の上新田に手渡し、おもむろに腰の剣帯を外し後方の侍女に手渡した。

秋津州の統治者として、或いは全軍の統帥者として、敵国からの降伏の願いを今受け入れる意思を、自ら剣を置くことによって示したものであったろう。

王は悠揚迫らぬ挙措を以て各首脳と握手を交わし、会場からは期せずして拍手の嵐が巻き起こった。

ここでも、鮮やかに取り仕切ったのは新田である。

降伏文書の極めて簡略な文言を、先ず日本語で、次には他の二ヶ国語に訳しながら朗々と読み上げ、秋津州国王が中露二カ国からの降伏の乞いを受け入れたことにより、ここに停戦が成ったことを宣言した。

なお、質問に答えて、その他の合意事項についても公にされることになる。

占領地の駐屯軍は当事国政府の願いにより、今しばらく駐留を続行すること。

毎月十五日までに当事国政府から、その願いの文書は差し出されるべきこと。

願いの文書が差し出されないときは、駐留軍は即座に撤収すること。

要するに、中露二カ国自身が秋津州軍の駐留を不要と判断した暁には、請願書の新たな奉呈を止めれば良い。

ただ、それだけで事足りることになるのだ。

なお、請願書はその都度日本政府を経由して秋津州国王に奉呈されることになるのだと言う。

この場合の請願書には、中継の責めを負う日本政府の言わば裏書きが必要となり、裏側から見れば日本政府の合意無しには秋津州が自侭に駐留を続けることは、少なくとも法理的には不可能と言うことになる。

つまり、このことからも国王は本心から早期の撤収を望んでいることが強調され、かつ日本政府は労少なくして、強力なキャスティングボードを握ることに成功したと評されることとなった。

ほどなくして両国首脳は、再びポッドに送られて帰国して行き、各国のメディアはこの日本外交の一人舞台を大きく報道することになる。

何よりも新田源一と言うほとんど無名の一外務官僚が、今日一日で一躍時の人となり、日本はおろか世界に対してまでも、途方も無い影響力を持つ重要人物の一人となったことだけは確かだろう。


さて、あれよあれよと言う間にこれほどの重要協議が行われ、その上ご丁寧にもそのホスト国にされてしまった日本政府は、全くただ一人の官僚にその鼻面を引きずりまわされている格好で、官僚たちが慌しく駆け回っているうちに中露首脳は帰国の途についてしまった。

当局がホスト国であることを強く意識するあまり、二カ国首脳に対する接遇のあり方について慎重に検討し、新たに担当ティームを立ち上げたときには、既に全てが終わってしまっていたのである。

彼らはほとんど無意味に駆け回り、奔命に疲れ果ててしまったと言うべきか、何が何だか訳が分からないうちに、すぐ目の前を巨大な機関車が耳をつんざく轟音を轟かせて通過していくようにして、事は進行していってしまった。

現下の情勢分析や、そこから導き出されるべき今後の見通しなどについては、どの上司もただの一人たりとも示してはくれない。

それらについては、名にし負う北米局といえども、何一つ材料を持ち合わせていないことが、改めて露呈されてしまったのである。

目の前を轟々と地響きを立てて通過していく機関車のオペレーターが、省内にたった一人だけ存在していることは誰もが分かってはいる。

今やその希少価値については、口にするのも憚られるほどだ。

ところが、対策室が国王の接遇について茫然と指示を待っている間に、たった半日で大規模紛争に幕を引いた二人の男が、唐突に外出すると言い出したのである。

いまや神宮前オフィスはその敷地の内外を問わず、マスコミを始め雑多な人たちで溢れんばかりなのだ。

テレビカメラは勿論、まるでバズーカ砲のような望遠レンズを構えている者も少なく無い。

国王本人は無論のこと、新田や秋元姉妹、果ては三人の侍女に至る迄取材の申し込みが殺到し、その窓口を勝手にかって出ている官僚たちはもうえらい騒ぎだ。

対策室は、いまや灰神楽が立ってしまっている。

先ほど会見場に姿を見せた三人の侍女などは、特に娯楽性の高いメディアの格好の標的となり、大真面目にその獲得を目指す芸能プロダクションが破格の条件を提示しようとして、二階へ侵入しようとする騒ぎまで起こしている。

国王の身に危険が及ぶ可能性は、誰しもが否定出来ないであろう。

そして哀れな官僚たちが対応に窮している内に、いつの間にか秋津州人と新田源一の姿が煙のように消えてしまったのである。

居残った秋元姉妹に、必死の思いで確かめてもさっぱり要領を得ない。

泣かんばかりに頼んでも、姉妹の口は堅く王の所在を掴むことは出来ない。

国王の緘口令が、よほど厳しいのであろう。

その場の官僚たちは、上のほうから泣かれるは怒鳴られるはで、全く身の細る想いをしている。

やっとその所在が判明した時には、もう二十二時に近かったのである。

そこが都心の一等地にある外務省官舎の新田の部屋であることが、その隣人である年若い外務官僚からの一本の電話によって判明したのだ。

不在のはずの新田の部屋から、新田本人と複数の人声が聞こえると言うのだ。

早速電話で新田本人に確かめて見ると、国王の一行をお招きしただけだと事も無げに言う。

電話で確認に当たったある外務省幹部は、新田がそばにいたら多分殴っていただろうとのちに語っている。

その野放図な物言いに、体中がわなわなと震えるほど腹がたったそうだ。

この男一人のために、いったいどれだけの人間が振り回されたことか。

しかし、この幹部は声を荒げることすら出来なかったのである。

一時の怒りに任せて感情を激発させてしまえば、あとが面倒になることは目に見えており、事と次第によっては、深刻な国際問題に発展してしまう可能性さえ予見出来る。

まして、どうやら新田と同行しているらしき人物は、目下最大規模の紛争の一方の当事者でもあるのだ。

我が身の一身だけでは、その責めは到底負いきれないことは明らかであった。

沈黙した彼の名は官僚である。


一方で対照的に「らしくない官僚」である新田源一は官舎にいる。

若者にも風呂を勧め、風呂上りには自分の浴衣を着せていた。

浴衣の下は侍女が用意していた洗い晒しの六尺一本であり、借り着の浴衣は、つんつるてんとはこのことかと言わんばかりにとんでもなく寸足らずで、まるっきり膝小僧が出てしまっている。

井上司令官と三人の侍女が、次の間にひっそりと詰めているその目の前で主客二人だけの酒盛りが始まった。

二人とも大あぐらでかなり豪快に飲っている。

酒は焼酎、肴は鯨のベーコンとするめと沢庵だ。

どうやら、その肴は若者の手土産の様子だ。

飲むほどにピッチが上がり、四リットル入りの容器の中身が目に見えて減ってきたころ、電話が鳴って突然の訪客を告げたが、新田はそのことを一切口にせぬまま平然と酒盛りを続けたのである。

間も無く訪れたのは、首相代理の資格を持った国井官房長官その人であり、多くの属僚を外に残し、室内には一人だけを伴って入った。

一行のまるで暴風のような行動パターンを勘案すれば、この非常識ともとれる手段をとったことも宜なるかなではあった。

この訪日があくまで非公式な位置づけとは言え、日本政府としても、やはりそれなりの対応を考える必要があったと言う事だろう。

そのためにこそ、この特殊な賓客の事後の予定を押さえておくことが必要となり、先ずは儀礼的な迎賓のあいさつに名を借りて押しかけてきたのだ。

しかし、訪れた首相代理はあまりのことに言葉を失ってしまった。

彼の視界の中では、あろうことか、自国の一外務官僚が本来国賓待遇を以て遇すべき国家元首と、大あぐらで大酒を喰らっているのだ。

それも、ただの国家元首ではない。

いまや、日本の、いや世界の命運を一手に握るとさえ言われる、かの秋津州の国王陛下なのだ。

それが、見ればこのざまである。

非礼とか無礼とか、もはや言うも愚かであったろう。

目の前の中年の小男は、毛脛をむき出しにして膝を立て団扇まで使っている。

それに引き換え、目の前に見るたくましい若者はまことに礼儀正しかった。

膝小僧が飛び出したままの姿を恥じ入るように、きっちりと畳に座りなおし、首相代理としてのこちらからのあいさつにも、つつましく答礼を返して来る。

また、自らの寛ぎきった借り着姿の無作法を一国の首相代理に詫びてもいる。

先ほどの報道映像で見たあの威風堂々を想えば、全く別人かと思えるほどだ。

国井義人と言う一個人としては、我が息子より年若なこの相手に非常な好意を抱いてしまったのも無理はない。

考えてみればこの若者は、ここ数日それこそ我が身を削るような思いを積み重ねてきている筈なのだ。

この若さで、言語に絶するほどの国難の中、あれほどの大軍団と国民を率いて、獅子奮迅の働きを重ねてきたことはそれこそ世界中が知っている。

そう思って見れば、畏敬の念さえ湧いてきてしまう。

聞けば、ゆっくりした入浴なぞ久しぶりだと言う。

そのためもあって、気のおけない新田の部屋に無理やり押しかけたのだとも言う。

また一方の新田も着の身着のままで秋津州へ出張して、大仕事を携えて戻り、あれほどの重い役割を果たし終えた直後のことでもある。

それを考えれば、大抵のことは大目に見てやってもいいような気分になってくる。

ただ、国井の目には新田源一と言う男が、平時の官僚の枠には到底収まりきれないものに写ったことだけは確かであったろう。

結局、改めて自分も加わって飲み始め、つまみの沢庵を口にしたときには、なにかしら鼻の奥にきな臭いものが走ったような気がした。

思えばここ数日の間、日本丸と言う小船は周辺に巻き起こった大波の波間に揉みに揉まれて来た。

その日本丸の舵取りを担うべき内閣の重鎮として、国井自身人知れぬ苦悩を続けてきたことも事実なのだ。

それが、思いもかけぬことに今この宴を囲んでいる、目の前の二人の手によって収拾されようとしていることを想えば、自然に瞼の奥が潤んでくるのを止められないのである。

伴ってきた秘書は、次室で井上司令官と何やら話しを始め、携帯電話で外部と連絡を取りながら時々小声で報告をくれる。

もっとも、国井自身が直々にこの行動をとることを無謀であるとして危惧する向きもあった。

官房長官ともあろうものが万一玄関払いを喰ったりしたら、内閣そのものに傷がついてしまう。

いや、国井長官その人の政治生命にも影響すると言うのだ。

しかし、相手の今までの行動パターンからして、愚図愚図している余裕などは無い。

「例え、内閣に傷が付くようなことになっても、それは向こう傷である。」として国井は政治家として当然のリスクを踏んだのである。

そしてこの冒険の結果、やはりその判断に誤りが無かったことを思い、とりあえず明日も国王の滞在が続くことを確認して安堵の胸を撫で下ろした。

これで、やっと策を立て、事に備える余裕を持てたからである。

今夜、それに備えるべく駆け回る者達は多分一睡もできないであろう。

車座の小宴に小一時間ほども付き合って、やがて充分に交誼を確かめてから長官は席を辞した。

車に乗り込むや否や、早速総理に報告し、各部局に指示を飛ばしていく。

侍従武官のニュアンスでは、どうやら国王は伊勢神宮参拝に強い希望を持っておられるようだ。

これには、万全の態勢を以ってその接遇に臨まなければなるまい。

彼の頭の中では、既に明日の伊勢神宮参拝のイメージが、走馬灯のように駆け巡ってさえいたのである。


ところが、事態は思わぬ展開を見せることになる。

肝心要の内閣官房から、情報が漏れてしまったのだ。

それも幾つもの穴から、ほとんど同時進行で大量に漏れた。

のちに判明したことだが、外務省大臣官房からでさえ国王の所在情報が流出していた。

国井の車が官邸に着いた頃には、早くも一部のマスコミが閑静な外務省官舎の周りに詰め掛け始め、それから一時間も経たないうちにとんでもない騒ぎになっていった。

神宮前に集まっていた連中が、一斉に移動してきたためもある。

結局、新田の官舎も安住の地ではなかったのだ。

国王は帰国の腹を固め、冷たいシャワーを浴びて再び軍装を着け出立の準備をすることになった。

新田の手元には、先ほど受け取った国井の秘書の名刺がある。

この秘書を通して事情を報告し、自らも秋元姉妹を引き連れて王に随伴する意思のあることを付け加えた。

新田にとっても、今度は着替えや身の回り品の用意をするだけの余裕が出来たことは、せめてもの救いだったと言えよう。

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  1. 2005/11/02(水) 21:11:10|
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