日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 042

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二月二十五日、秋津州は正月以来の大雪だったが、夜来軍が出動してその処理にあたっており、首都圏の大通りなどは驚くほど迅速に除雪が行われ、今では裏通りでさえその作業を終えていたほどだ。

幸い、既に降雪は止んでおり、米国大統領特別補佐官は内務省に向かって勇躍車を走らせていた。

久しぶりに、秋元女史とアポがとれたのである。

最近は多岐に渡る業務に忙殺されているらしく、なかなか会ってもらえず困りきっていたところだったのだ。

頼みの綱は、やっぱり秋元女史であることに変わりは無いのである。

この国は、形式上未だ戦争中であり、現実に占領作戦を実行しているさなかのことでもあり、ワシントンは、その被占領国から降伏の意思表示を引き出す努力を続けているが、結果は相も変わらず空しいままで、講和のための交渉を始めることすら出来ないでいる。

ニューヨーク在留のかの国の代表は、頑として降伏の意思無しとしているのだ。

そうである以上、秋津州もこの戦争を終えることは出来ず、秋津州が戦時体制を解いてくれない限り、SS六改以外の航空機はその領空への侵入を許されず、大統領が政府専用機を以って堂々の入国を果たすなど夢の又夢なのだ。

ワシントンの苦しい立場には、何の変化も無いことになる。

とうに世界が知ってしまっている大統領の秋津州訪問と言う国事行為が、実現出来ないままなのだ。

かと言って、今のままの緊張状態を続けることは、米国の凋落をますます加速させてしまうことは、誰の目にも明らかであったろう。

ワシントンが魔王の無言の圧力を前にして、縮み上がってしまっていると言う観測が、既に国際世論の中で普遍性を持ち始めているのだ。

米国の望みは、秋津州との関係をせめて対等のものとしてデモンストレーションを行い、これ以上の凋落を食い止めたいところにあり、そのためにこその大統領の秋津州訪問なのだ。

だが、現状ではその切なる希望も秋津州によって冷然と無視され続け、大統領就任式をようやく終えたばかりのワシントンは、苛立ちのあまり過酷な訓令ばかり発してくるのである。

かつての堂々たる偉丈夫が、ここのところの気苦労で、見る影も無いほどやつれ果ててしまっており、挙句に、やっと辿り着いた内務省の最上階は火の気も無く、車の中より寒かった。

平然としている秋元女史に頼んで少し室温を上げてもらい、熱いコーヒーを喉に通してから、やっとコートを脱ぐことが出来たほどだ。

類まれなる美しさを誇る侍女の一人が、甲斐甲斐しくコートを受け取ってくれた。

「この室温で、良く平気でいられるもんだ。」

「ニットを重ね着してますから。」

確かに足元からは寒気は伝わってこず、慣れれば大した寒さには感じないで済むのかも知れない。

「陛下がおいでのときでも、こんな室温設定なのかい。」

この最上階は、基本的には国王陛下のプライベートルームの筈なのだ。

「それより、随分お痩せになったわね。」

事実、二十キロは落ちてしまっている。

「うむ、ご承知の通りのざまだからね。」

自分の苦境は充分知ってる筈だ。

「いっそ、辞表を書いた方が楽になるんじゃないの。」

「いや、一度は書いたんだが、慰留されてしまってね。」

そのときに慰留された理由も、合衆国には自分以上に秋津州に人脈を持つ者がいないためであった。

「知ってるわ。又書けば良いじゃない。」

「私が辞めても何も解決しないしな。」

「・・・。」

京子は黙って笑っている。

「笑ってないで、助け舟を出してくれよ。」

「もう、とっくに出してある筈よ。」

「え?」

「だから、前にも散々言ったでしょ。」

「あ。」

「思い出したかしら?」

「いたずらがばれちゃったんだから、素直に謝るべきだって話か?」

「だって、それが普通でしょ。」

「しかし、我が国はそういう悪事は働いてないつもりなんだがねえ。」

「公式にはね。」

「・・・。」

「それに、大統領閣下が、わざわざお見えになることも無いのに。」

別に秋津州側から、是非にもと言ってるわけではないのだ。

どうしても来たいと言うなら、どうぞと言ってるだけなのである。

「そんな意地悪ばかり言わないでくれよ。」

「だって、私は前から同じことを言ってるだけよ。」

「どうしても公式に謝罪するしか道はないか。」

「まともに、秋津州と付き合うためにはね。」

「まともに付き合わない場合は?」

「ばかねえ、そんなこと当事者でもない私に分かるわけ無いじゃないの。」

「又、そうやって、はぐらかすんだから。」

何もかも分かってるくせにと言いたいらしい。

「一日本人として言えばね。」

「うん。」

「お互い、別々の世界を作って、別々に暮らせばいいんじゃない。」

「うん、その場合、我が国は攻撃を受けないで済むと思うかい?」

ワシントンの根本的な不安はそこにある。

全ての不安定要因が、そこから生まれてきてしまうのだ。

「また、そう言うことを言う。」

「駄目かい。」

「だいたい、去年の九月、あんなひどい攻撃を受けたのは、どっちよ。」

「・・・。」

無論、侵略軍の一方的な攻撃を受けたのは他ならぬこの秋津州だ。

その侵略軍が、米国の尻押しを受けていたことこそが最大の問題なのである。

観測筋によれば、あのときの米国が人民軍の出兵を容認しさえしなければ、あの攻撃は無かったであろうとするものが多い。

まして、あのときの米国の戦略は一旦秋津州を侵略軍に占領させておいて、国王に米国主導の亡命政権を樹立させ、その懇請に基づいて正義の討伐軍を出兵すると言うものであった。

このパターンでなら、当時の米国世論はその「正義の討伐軍」の出兵を諸手を挙げて歓迎した筈だ。

強大な第七艦隊を背景とした外交交渉を以って、脆弱な侵略軍を瞬時に追い散らし、形ばかりの国王の政権を棚の上に祭り上げておいて、治安対策の名目で米軍は堂々と居座ってしまう。

その結果、当初からの思惑通り、太平洋上の絶好の位置に巨大な米軍基地が完成することになるのだ。

挙句に、当時秋津州国内で活動していた米国人の命を、救おうとすれば簡単に救えた筈なのに冷然と見捨てた。

国王の方にも、大きな見込み違いがあったことも確かだ。

まさか、米国政府が彼等自身の同胞をここまで冷酷に見捨てるとは思いもよらなかったのだ。

秋津州の近海に遊弋していた米国の艦船群には、二十機以上のヘリが搭載されていて、いつでも飛び立つことが出来た筈だ。

例え、救助活動を行ったとしても、そのタイミングを間違えさえしなければ、米国の戦略に大きな瑕疵は生まれなかった筈なのだ。

結局、侵略軍の攻撃を一切探知していなかったことにしたかったのだろう。

加えて、同胞からも犠牲者を出して見せることによって、そののちの世論操作を安からしめ、「正義の討伐軍」の旗印に、より一層の輝きを加えることを狙ったのは確かだ。

口では米国市民のための自由と民主主義を守ると言いながら、ワシントンの冷酷非情な戦略のために、マーベラを含めた多くの人々が無惨に殺されてしまったのである。

もしこの件が事実として立証されるようなことがあれば、折角再選を勝ち取ったばかりの大統領の首が飛んでしまうほどの重大事なのだ。

「トム。」

「うん。」

「聞くけど、結局アメリカは何をどうしたい訳なの?」

「勿論、通常通りエアフォースワンでプレジデントが入国することさ。」

エアフォースワンとは、知る人ぞ知る米国大統領専用機のことである。

「それは、ほんの枝葉の問題でしょ。」

「・・・。」

「肝心なことは何よ。」

「・・・。」

「結局、自分より強い国があっちゃ困るし、許せないだけなんでしょ。」

「それはひどいよ。我が国は世界の安定と秩序を・・。」

「そんなこと、アメリカさまに誰が頼んだのよ。」

「当然、大多数の国が・・・。」

「あらそう、じゃ大多数の国に頼まれれば、そのお役目はどの国が担うことになってもいい訳よね。」

「う・・・。」

「そうでしょ。」

「・・・。」

タイラーはぐうの音も出ない。

「ほら、ごらんなさい。結局アメリカは自分だけが世界の盟主であり続けたいだけなのよ。」

「・・・。」

「ひとつだけ、はっきりしてることがあるわ。」

「え?」

「陛下は、例え殺されても誰の臣下にもならないと言うことよ。」

「じゃ、秋津州の玉座の前に跪いて、臣礼を取れと言うのか?」

「ほんとにばかねえ。誰もそんなこと言ってないじゃないの。」

「でも、そう聞こえるんだよ。」

「お話にもならないわね。」

「ごめん。あやまるよ。」

「ほらね、そういう風に素直に謝ればどうってこと無いのにね。」

「あ。」

「陛下のお考えに共感を覚えてらっしゃる方が、最近はとても多いと聞いてるわ。」

「・・・。」

これも事実だ。

そのこと自体が、今最もワシントンを悩ませていることの一つでもある。

今や国王の積極外交が大いに功を奏し、このままでは嫌米感情を露わにする国が増えるばかりだ。

米国の不利益は、拡大し続けることになってしまう。

時間は、一方的に秋津州側に有利なのだ。

タイラーは、美しい侍女が新しく淹れてくれたコーヒーを一口啜り込んだ。

苦いものが口いっぱいに広がっていき、遂には心の中まで浸していってしまいそうだ。

実際、こっちの予定通りにことが運んでいれば、今頃は国連で久々の信託統治理事会が開かれて、秋津州は正式に我が特別保護地域として公式に認められている筈だったのだ。

同時に、国際世論を背景に中朝だけを悪者にして大いにその鼻先を叩き、当分は大人しくさせておくことを目論んでいたのに、結局その全てが水泡に帰してしまった。

当時の制服組の間には、秋津州の軍事力についてその恐るべき潜在能力を高く評価し、現に警告を発するものもいたのだ。

それにも拘らず大統領のマシーンは、その警告を無視した。

まさか、秋津州がこれほどまで我に懸絶した軍事力を有するなどとは、夢にも思わなかったのである。

結局、デスクの上だけで立案されたこの戦略が、今になって大きな誤りであったことが、いよいよはっきりしてしまった。

現にこの自分でさえ、哀れな国王が我が合衆国政府に泣きついてくるものと信じて疑わなかったのだ。

目の前の京子の口ぶりでは、やはり大統領が職を辞して謝罪する以外に無いと言うことか。

米国政府が公式に非を認め謝罪すると言うことは、ワシントンが在留米国市民を、意識的に見殺しにしたことをも認めることに繋がり、とてものことに大統領の辞任は避けられないだろう。

再選されて盛大な就任式を行ってから、未だひと月あまりしか経っておらず、ワシントンにとっては絶対に受け入れ難いことなのである。

まして、ワシントンには悪事を働いたと言う意識は全く無い。

米国の旗印を高々と掲げ、その旗の元に世界の安定と秩序を確立することこそが絶対の正義であり、そのためには多少の犠牲は止むを得ないのである。

しかし、タイラーのこの想いも京子の痛烈な言葉が無惨に打ち砕いてしまった。

「陛下が一声お掛けになれば、北京は公式発表も辞さないと思うわ。」

真の首謀者はワシントンだと連呼する筈だ。

「えっ?」

当事国の一方が大々的にそれをぶちまけてしまえば、なにもかも終わりになってしまう。

それに、中国は今更失うものはほとんど無いことに引き比べ、米国のそれはあまりに大き過ぎる。

「一言も言い訳出来なくなっちゃうような、生々しい映像データもうなるほど存在してるのよ。」

だが、この映像データが秋津州側に存在すると言うことは、秋津州側も全て事前に察知出来ていたことをも同時に物語っている。

「ほ、ほんとかい。」

「中国側には一切渡してないけどね。」

「どの程度のものなんだい?」

「秋津州が攻撃を受けてるときの、あのひどい映像見たわよね。」

そのほとんどが、メディアのカメラが絶対に捉えることの出来ない、生々しい現場の映像ばかりであった。

「うん。」

「あれだけのものを収集しておいて、そっくりメディアに流したのは誰だか分かってるわよね。」

「うん、京子だろ。」

「じゃ、どなたの指図でやったと思う?」

「そりゃ、陛下に決まってるだろ。」

「その辺が少し違うのよね。」

「えっ、どう違うんだい?」

「あの当時、陛下ご自身は全然連絡の取れない場所に行ってらしたのを忘れてるわ。」

それは、かなりぎりぎりの選択をしなければならない悲痛な局面でもあったのだが、国王は物資の補給のために一切の通信の途絶した荘園に行っていた筈だ。

「そうだった。陛下ご自身はご不在だったんだ。」

「そう、ご不在中お留守をお預かりしていた方がいらしたのよ。」

「そっ、それは、どなたなんだい?」

「・・・。」

「頼む。教えてくれっ。」

その者こそが秋津州の副司令官に違いない。

「・・・。」

京子は黙って真上を指差して見せた。

タイラーは上を見上げたが、無論そこには天井があるばかりだ。

ここは最上階であり、天井の上は屋上であろう。

「えっ?」

タイラーは必死で京子の目を見つめなおした。

「もっと、ずーっと上よ。」

「あっ。」

はるか上空に浮かぶ宇宙基地、その予備知識も無論持ち合わせてはいる。

その巨大な宇宙基地の旗艦には、国王の留守を預かる副司令官が座乗していると言うのだろう。

それに、京子の今の様子ではその件ではこれ以上聞いても無駄だと言うことも分かる。

タイラーは黙り込んでしまった。

しばらくして沈黙を破るようにして、京子がぽつりと言った。

「どういう状況になっても、あらゆる情報をキャッチするセクションが、どこかに存在してることになるわよね。」

「・・・。」

「そのセクションではお国の大統領閣下どころか、その側近の方々についても、二十四時間ご覧になってるかも知れませんわ。」

「う・・・。」

「そのセクションは、億兆の目と耳を具えてるって聞いたことがあるのよ。」

「・・・。」

「秋津州に対する核攻撃を今でも主張なさってる、あのお髭の眼鏡の方・・・、えーと、お名前何と仰ったかしら?その方の生の映像もお見せ出来ますわよ。」

中でも、最も激しく先制攻撃を主張しているメンバーの相貌が、たった今京子が表現した通りであることを、当然タイラーも承知している。

「・・・。」

「普通、アメリカはとても危険な国だと思うわよねえ。そしたら、どう反応したら良いのかしら。」

「ちょっと待ってくれ。京子。」

「ひょっとして、核ミサイルを打ち込まれるまで黙って待ってろと仰るのかしら?」

「いや、それはあくまで少数意見なんだ。」

「NATO全域を占領して後患の憂いを絶つべしと言う作戦案を折角陛下が却下なさったのに、それでも核ミサイルを撃ち込もうだなんて・・・。」

「秋津州にだって、そういう少数意見があるじゃないか。」

「あら、最初秋津州はどこから見ても親米路線をとってた筈よ。それなのにあんな汚い手を使って、秋津州を属国にしようと画策したのはどこのどなたよ。」

誰だって、怒るに決まっている。

ただ、米国には太刀打ち出来ないから、みんな我慢しているだけなのだ。

「う・・。」

少なくとも、最初に喧嘩を吹っかけたのは米国側であることだけは、否定のしようの無いところだ。

「日本には昔から、自分で蒔いたタネは自分で刈れと言う言葉があるわ。」

「ちょっと待ってくれ。」

「司令官たちが待ってくれるかしら。」

京子の指先は天を指していた。

「京子、頼む。せめて四週間、いや三週間の時間をくれ。」

「悪いけど、それは請合えないわ。あたくしが決めることじゃ無いもの。」

現に、白頭鷲は八咫烏を獲って喰おうとしていた。

その八咫烏に逆に喰われそうになったからと言って、今更苦情を言うのもおかしな話ではある。

「頼む。この通りだ。」

とうとう、タイラーはテーブルの上に両手をついて深々と頭(こうべ)を垂れてしまった。

「仕様が無いわねえ。約束は出来ないけど、やってみるわ。」

「ありがとう、京子。感謝するよ。」

「ほんとに、三週間だけよ。」

「うん、分かってる。」

「と言うことは、期限は三月十八日ね。」

「とにかく、誠意を以って対処することを約束するよ。」

何か吹っ切れたような表情を浮かべて、タイラーは雪の中を帰って行った。

必死にワシントンを説得するほかは無い。

さもなくば、期限切れの三月十九日の朝にはアメリカは世界地図から削除されてしまう。

なに、これも不思議でも何でも無い、白人列強国が過去に散々やってきたことと何も変わりはしないのである。

単にその立場が逆転してしまったに過ぎないことを、過去の歴史が雄弁に物語ってくれている。

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  1. 2005/11/04(金) 02:45:28|
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