日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 047

 ◆ 目次ページに戻る

この直後に、立川みどりは店の子の一人を通して国王来臨の知らせを受け取り、何か釈然としない気持ちを抱いていた。

その子が例のヒューマノイドであることから、その通信網を使った方が便利なことも充分分かるのだが、それにしても全く味気ない気分なのである。

だが、久し振りに来てくれることだし、悔しいけど怒りたくても怒りきれない。

店のほうは相変わらず大繁盛で、国王陛下にお近づきになりたい客ばかりで溢れ、その切れ目などほとんど無い日が続いていた。

無論、信じられないほどの高収益を上げ続けていて、国王からの借入金に対する金利を設定して、順調に指定の口座に振り込んでもいる。

しかも、その口座のカードは神宮前の方に保管されていて、実際にはいつでもあたしだけが使用することが出来る環境が出来上がっていた。

あくまでその名義は国王陛下なのだけれど、何のことは無い、実質的にはあたしのお金とおんなじじゃないか。

でも、これも節税対策の一環だくらいはあたしにだって分かっている。

その上、不思議なことに神宮前の方に毎日来てる税務署の親玉みたいな偉いお役人が、直接うちの経理も見てくれていて、これも陛下のご判断だと聞いているからそれはそれで文句は無い。

その上、あたし以外の役員は全員無報酬の秋元姉妹なのである。

これで儲からなきゃ、どこか算盤が狂ってることになる。

文句なんて言ったらそれこそ罰が当たっちゃう。

それに、意外だったのはヒューマノイドの女の子たちの評判がなかなかに良いことで、客筋によってはわざわざその子たちを指名してくれるのだ。

ルックスは勿論、知的素養の面でもほかの子たちをはるかに凌ぎ、その上報道された記事などは驚くほど正確に記憶しているため、経済動向やその指標データなどについて、わざわざ質問してメモする人までいる。

無論、お客さまのお名前はおろか、お仕事から過去の来店歴にいたるまで全て記憶した上で接待するのだ。

人気を呼ぶのも無理は無いと思う。

初めの頃こそ、お客さまのご気分を損ねてしまう点で多少の不安は持っていたけれど、それが全くの杞憂に過ぎないことも段々分かってきて、今では欠かせない戦力になり始めている。

この分では、ヒューマノイドの子の比率を、もっと増やしていっても良いのではないかとさえ考え始めているほどだ。

なにせ何時間働かせても嫌な顔一つしないし、ほかの子が喜ばない部類の仕事をさせても、全く従順にこなしてくれて本当に助かってる。

全く気を遣う必要が無い点が一番都合が良い。

今では、収納部屋の予備の子まで店に出すようにしているし、一切新規募集などする必要を感じなくなっているのだ。

この分では、いつか店の子は全部ヒューマノイドに入れ替わってしまうかも知れない気がする。

最近ではツケのお客さまはほとんど無いから、この子達に集金に歩かせる必要も無いし、この点は他所の店とはかなり事情が違う筈だけど、コストの面でも、一体のリース料が月額十万円ぽっきりで済むことだし、店持ちの衣装や化粧品なんかもかなりの部分で使い回しが利くこともあって、思ったより安上がりなことも分かってきた。

お休みの日に全員が二度ばかり、神宮前の方に集合がかかったことがあったけど、帰ってきたときにはあたしの希望したボディサイズに揃えられていて、もうそれからは靴も下着類もみんな同じものが使えるのだ。

また、お客様には絶対お見せしないようきつく言ってあるけど、みんな凄い力持ちばかりで、これにはほんとに驚いてしまった。

ただ、普段はごく普通の腕力しか発揮出来ないモードになっていて、あたしが命令したときだけ何段階かの強力モードに切り変わるところなんかはとても便利だ。

あの方が久しぶりにおいでになると聞いて、つい色々なことが頭に浮かんでしまったけど、きっとそろそろお見えになる頃だと思う。

程なくお見えになったあの方は、何故かとてもご機嫌斜めのようだった。

あの図体で、いつものようにのっそりと入って来られた時には店中がざわついたが、あの方のお顔の色を見て直ぐに静まり返ってしまった。

それも、お店の入り口からちょっと入ったところで、根が生えたように立ち止まってしまわれるのだ。

もう相当聞こし召してらっしゃるようで、少し目付きも据わっておられて、急いで出迎えに立ったあたしの顔を、上から食い入るようにご覧になっている。

何か張り詰めたような顔を近づけて、まじまじと見詰め続けているのである。

その目が、必死に何事かを叫んでいた。

いったい、何があったと言うのだろう。

ほかの人からは、とても怖いと感じられるかも知れないその目も、あたしにはちっとも怖くは無いし、かえってとても哀しそうなものに感じてしまうのだ。

気が付けば今日は軍装のままで、いろいろな匂いに混じって強い香水の香りまで漂わせている。

きっと、女の子のいるよそのお店で飲んできたに違いない。

「少し、お疲れのようですわね。」

その目を見返しながら、穏やかに聞いてみたが返事は返って来なかった。

「じゃ、お風呂お召しになってからにしましょ。」

すると、まるで子供のようにこくりと頷いてくれた。

「それにそんなお顔なさってると、皆さん変にお思いになりますわよ。」

思い切ってそう言ってみたら、お客さまの方を向いてぺこりとおつむをお下げになり、それでいっぺんに店中の空気が和らぎ、お客さま方のお顔にも笑みが戻ったみたいでとても嬉しかった。

別に、こんな商売いつ止めてしまっても良いのだけれど、ほかにやることもないから続けているだけなのだ。

ちいママの理沙に目顔で一つ合図をしてから、大きな子供の腰に両手をかけて回れ右をさせる。

「はい。じゃ上へまいりましょ。」

その子は一言も口を利かなかったが、全く素直にみどりの言うがままであったのだ。

さきほど連絡を受けた際、念のためヒューマノイドの一人に言い付けて、お風呂にお湯を張り、電気釜のスィッチを入れさせてある。

普通の子に部屋の中を触らせるのは絶対に嫌だけど、この子達だと、ほとんど気にならないから不思議だ。

部屋に着くと、その子が入れ替わりに下に降りていったので、直ぐに湯加減を見て、突っ立ったままでいる大きな駄々っ子の服を脱がせてやりながら、相手がひたすら甘えていることだけは、今はもうはっきりと感じ取ることが出来ている。

すっかり脱がせ終えて、その逞しいお尻を平手でぴしゃりと叩きながら「はい、入ってらっしゃい。」と声をかけてやると、「いててっ。」と子供みたいに声を上げ、とても嬉しそうに飛び跳ねるようにして風呂場に駆け込んで行く。

その後ろ姿を眺め、お風呂場のドアが閉まる音を聞いていると、何か胸の内がとても満たされる気がしてくるのだ。

次の春には四十の声を聞くことになるこのあたしが、もしハタチかそこらで子を産んでいたら、調度このくらいの息子がいてもなんにも不思議じゃない。

いろいろあって結婚もしそびれてしまったし、一人の子も持てなかった。

もともと兄弟は無かったし、両親とも幼くして死別してしまっていて、四年ほど前にパパを亡くしてからは、思えばこの世に一人ぼっちで生きてきた。

それが今になって息子のような年下の旦那が出来たと思ったら、その旦那はあたしのことをまるで母親かなんかのように甘えてくるばかりで、枕を交わすどころか口付けさえ求める気配が無い。

そう言えば、この間佐竹のママに大っぴらでお礼を言ってくれてたのも、今から思えば、ご自分の母親のようなヒトがお世話になったからと言う意味だったに違いない。

お風呂を覗いて見ると、ゆったりと湯船に浸かって、さっきとはまるで別人のようなのんびりしたお顔に変わってらした。

「シャンプーはお分かりになるわよね。」

「分からん。」

今日、始めてまともな口を利いてくれた。

嬉しくなって、足袋を脱ぎ捨てて中に足を踏み入れ、一つ一つ手にとって、これがシャンプーでこれが体を洗うボディソープだと教えてあげると、うんうんと言って頷いている。

この前も一度教えてあるのだから、あとは大丈夫だとは思うけど。

「お出になったら、お食事になさいます?」

「今、満腹だよ。」

モニカの部屋の冷蔵庫を荒らしたのは、つい先ほどのことだ。

「じゃ、あとはこちらでお飲みになりますの?」

「下でいい。」

駄々っ子は、一階の店で飲むと言っている。

「はい、はい。」

どうせ、お化粧直しをするつもりではいたのだけれど、お店に出るとなると、もう一度ちゃんと身仕舞いも整えなくちゃいけないのだ。

ぱりっと糊の利いた真っ白なワイシャツを着せ付け、気に入っていた柄のネクタイをいそいそと締めてやりながら、それだけでとても満ち足りた自分がそこにいたことに気付かされている。

一階でエレベータから降りたときには何度もフラッシュが焚かれ、少し人だかりがしていたけど、これも仕方の無いことと諦めるより仕様が無い。

別に気にしなければいいんだわ。

第一、この駄々っ子自身が、顔を隠すような素振りさえ見せていないのだ。

もっとも今更少しぐらい顔を隠しても、この図体ではかえって逆効果になるくらいがおちだろう。

お店に戻るのに二十分もかからなかったかも知れず、先ほどのお客さまたちはほとんどそのままだった。

あたしの着せ替え人形には、ダークグレーのダブルのスーツを着せてみた。

ちょっぴり心配だった服のサイズも、いざ着せてみるとちゃんと合っていて、自分の見立てながら惚れ惚れするくらい似合っていてうっとりと目を細めてしまう。

中に入るとお客様の一人が拍手をしてくれて、それに釣られる様に盛大な拍手が沸き起こった。

あたしが頭を下げるとこのヒトも下げてくれて、そのままいつもの奥の席に入った。

駄々っ子は機嫌よく飲んでくれてるので、少しの間だけ理沙にお守りを頼んでから、言わば一般席に出てお客さまに改めて頭を下げて回ることにしたのである。

結局、旦那が来たからと言ってお客さまをほったらかしにして、その旦那と一緒に自宅に帰ってしまったことになるわけで、普通に言ったらこんな失礼な話は滅多に無い筈なのだ。

そのお詫びの気持ちも込めて全席笑顔を振り撒いて歩きながら、その反応に意外なものを感じ取っていた。

ママとしての身勝手な振る舞いを非難するどころか、全く別の空気が強い熱気を帯びて伝わって来るのだ。

ふと気が付くと、最近足繁く通ってきてくれる某都市銀行の頭取さんが、カウンター席から縋るような目を向けておいでになる。

ボックスは無論満席で、お可哀そうに小柄なお体で、まるで止まり木にしがみつくようにしてらっしゃるのだ。

聞けば、国王来店の報を聞きつけて急いで駆けつけてらしたらしく、いつもの秘書の方は気の毒にも、入りきれずに外に出てらっしゃるみたいだけどどうしてやることも出来ない。

それでもその頭取さんの目を見ていると、あんまりお気の毒で、つい頷き返してしまってから、ふいと困ってしまった。

頭取さんの思いは、あの方に引き合わせてもらいたい一心なのは、はっきりし過ぎるくらいはっきりしてるのに、肝心のご本尊さまがおむずがりになるかも知れないのだ。

意を決して奥の席に戻りこっそり耳打ちしてみると、意外にも気さくな反応が返ってきて、頭取さんを案内してきて改めてご紹介申し上げることが出来た。

駄々っ子は意外なほど礼儀正しくわざわざ立ち上がって、お名刺を受け取り「秋津州一郎と申します。よろしく願います。」と丁重に握手なさった上、席に請じ入れてご自分のボトルから焼酎まで振舞っている。

銀行さんが陛下とお近づきになって、どう言うメリットがあるのかさっぱり分からないけれど、頭取さんが大感謝のご様子でお帰りになったことだけは確かなのだ。

取りあえずほっとしたのも束の間、これが大失敗の始まりだったことに気付き、つくづく後悔する羽目になってしまった。

ほとんどのお客さまは、みんな同じ目的を持った方たちばかりなのだから、一人だけ特別扱いになど出来るわけが無いことぐらい、ちょっと考えてみれば最初から分かっていた筈なのだ。

何のことは無い、結局、その場のお客さまだけじゃなく後から押しかけてきた人たちまで、同じようにお引き合わせしなくちゃならなくなりそうな勢いなのだ。

幸い、駄々っ子のご本尊さまはたいして気にする様子も無く、五十組、六十人ほどのお客さまをお引き合わせして、ようやく一区切りがついた頃には、こっちの方が気疲れしてぐったりしてしまった。

それに比べてご当人は、お付き合いの分だけでも相当お飲みになってる筈なのに、けろりとして上機嫌でいてくれることだけがせめてもの救いだった。

その姿が、まるで後光が射してる仏様のように見えてくる。

とにもかくにも、このあたしの義理にここまで付き合ってくれたことは確かで、もうそれだけで有り難さ申し訳無さで胸が一杯になり、それこそ手を合わせて拝んでしまったくらいだ。

気が付けば、ご本尊様の前にはお名刺とかパンフレットの山が出来ちゃってるのをしみじみと見ながら、あとでちゃんと整理しておこうと思っていると、ご自分でさっさとポケットにねじ込んでおしまいになった。

お店の灯はとっくに落としていて、普段なら女の子たちはみんな帰ってるころなのに誰一人帰ろうとはしない。

きっと、はっきりした魂胆があるのか、それとも何やら面白そうなことが起こるのを密かに期待しているのだろう。

こっちのボックスに一番近い席に陣取って、物好きにもこそこそと様子を窺っているようだ。

ヒューマノイドの子たちはとっくに後片付けを済ませ、床の掃除を始めるのだけは遠慮して、入り口近くの席にひっそりと固まって待機している。

「ほんとにご免なさいね。お疲れになったでしょう。」

「大丈夫さ。」

どうやら未だ上機嫌が続いているようで、密かに胸を撫で下ろすことが出来た。

「じゃ、そろそろ上でおやすみになります?」

今日は、さらりとお聞きすることが出来て、実は自分でも少しびっくりしている。

この駄々っ子が一晩泊まったからと言って、何も起きないことはとっくに分かってるし、それはそれでちっとも構わないと言う心境になってることが自分でも不思議なくらいだ。

「今日は、そうもしてられないんだ。もう一杯だけにしておこう。」

「あら、これからお帰りになるんですの?」

もう、二時半を過ぎてしまっている。

「いや、少し遠くまで出掛けることになってるから。」

「アフリカとかですか。」

最後になるらしい一杯を作りながら、のんびりと聞いてみた。

「ふむ、もっとずうっと遠くだよ。」

「じゃ・・・。」

「うん、三つの星全部回って来なくちゃいけないんだ。」

「あら、荘園って言うのは星が三つもだったんですか。」

今までの賑やかな観測報道によれば、地球外の天体と言う表現はあっても、それが複数だなんて一言も触れられてはいない。

「うん。」

「それって、危ないことは無いんでしょうね?」

「敵が襲って来なければ危なくは無いよ。」

「敵って?」

「最初から敵だと分かるようにして近づいてくるヤツは少ないし、味方の振りをしながら近づいてくるヤツの方が多いからなあ。」

「まあ、怖い。そんな危ないところに行くのは、やめるわけにはいかないんですか。」

「いや、行って現地の者たちにいろいろ指図しとかなくちゃいけないんだ。」

「代わりに、ほかの人に行っていただくわけには・・・。」

「そうすると、今度はその人が危ない目に会うことになっちゃうよ。」

「でも・・・。」

「心配してくれるのはありがたいが、みんながみんな危ないことを押し付けあうようになると、それをやる人が一人もいなくなっちゃって、しまいには国が滅んじゃうことになるんだ。」

「申し訳ないんですけど、それでもあなたにだけはそんな危ないことには近付いて欲しくないんですもの。」

「でもねえ、みんなが逃げてるうちに、こう言う風に安心して酒も飲めないような国になっちゃうよ。」

「ほんとにそんな風になっちゃうんですの?」

そんなこと、とても信じられないのだ。

「国王である以上、私が逃げちゃうわけにはいかないんだ。私が逃げればみんな逃げちゃうからね。」

「何だか難しいんですね。」

「まあ、簡単だと思えば簡単なんだけどねえ。」

「わかりました。じゃ、ちょっとだけ待っていただけます?」

「ん?」

「すぐ着替えてきますから。」

「うん?」

今度はこっちが駄々っ子みたいになって、小走りに部屋に戻り大急ぎで着替えてから、かねて用意のボストンバッグを転がして店に戻った。

実は、あんまり長いことおいでが無かったので、近々こっちから押し掛けて行こうかと思い、それに備えて必要なもの一式をバッグに詰めてあったのだ。

それが、思わぬところで役に立ったことになる。

「じゃ、参りましょ。」

Gパンにスポーツシューズ姿で息を弾ませてるあたしを、圧倒されたようにご覧になってるけど、まだまだGパンだって履きこなせるんだから。

「一緒に来る気か。」

「当たり前。」

我ながら、それが当然のような気がしてくる。

「店はどうするんだ。」

「お休みしますから。」

「しかし・・・。」

「どうせ土日はお休みですし・・。」

今日は金曜だ。

「危ないことがあるかも知れないんだぞ。」

「だから、ご一緒するんですの。ここで心配してるくらいなら、そばにいた方がずっと安心ですもの。」

「う・・。」

「理沙ちゃん、聞こえてたでしょ。」

「はい、でも、ママ・・・。」

理沙も突然の休業宣言には驚いてしまって、どう反応して良いか分からず言い淀んでしまっている。

三つの天体を全部回って来ると言う風に聞こえているのだから、それこそ大宇宙旅行をイメージして当然だろう。

みどりも理沙も、下手をすれば数週間、いやそれ以上の期間をイメージしたとしても無理は無い。

「帰ってきたら、連絡するから。」

「そんなあ。」

理沙も当惑するばかりだ。

「わかった、わかった。大丈夫、お店は休まなくて済む様にするから。」

見かねて、そう出るよりしようが無かったのである。

「はい。ありがとうございます。」

さぞかし理沙もほっとしたことだろう。

「じゃ、みんな行って来るわね。」

「ママ、お土産待ってますからあ。」

女の子たちは口々に土産をせがんでいる。

「観光旅行じゃないんだから、それにお土産屋さんなんてあるのかしら。」

みどり自身も、何の予備知識も持ち合わせてはいないのだ。

「ふうむ、土産かあ。」

若者は、遠くを見ながらぽつりと呟いた。

女の子たちは顔を輝かせて期待したようで、それぞれが顔を見合わせている。

そのとき、外で何時間も待機していた井上さんが音も無く入ってきて、無言のまま大きなバッグを持ってくれた。

入り口のドアは中から鍵が掛けてあったのだから、普通なら誰も入って来れない筈なのだ。


一方の神宮前では、国王が今回も日帰りで帰国する旨の報に接し、充分予想していたことでもあり、居残り組が全員揃って待ち構えていた。

二階からつい先ほどその確報が入り、深夜であるにも拘わらず、内心ほっとしているものがほとんどだったのだ。

この重要人物の出国をきちんとお見送りしさえすれば、今回の変則業務もひとまず決着を見ることになるからだ。

その知らせによると、お帰りの節は女性を同伴しての出国になると言う。

待つほども無く二階の千代から内線が入り、慌てて二階に上がってみると、そこには立川みどりを伴った国王陛下が既に到着されていた。

官僚たちの間ではつい今しがたまで、一体どんな女性がお気に召したのだろうと、全く興味本位な話題に花を咲かせていたばかりであり、いずれにせよ若さ溢れる美女であることだけは動かないと言うのが、衆目の一致するところであった。

ところが豈図らんや、もうじき四十に手の届く中年の女性であったことが、彼等の意表をついたことも確かだ。

尤も、この女性は重要人物としてとうに認識はしていた。

ただ、護衛官に大型のバッグを持たせているその女性が、目を見張るような若々しい服装でいるのを見て、その対応に戸惑ってしまったのである。

千代から手荷物検査もちゃんとした方が良いと助け舟が出て、女性係官が別室ですこぶる遠慮がちに検査を行うことになった。

パスポートも確認出来て、これで正規の出国手続きも立派に終えたことになり、係官たちの愁眉を開かせることも出来た。

この賓客の一行は例によって瞬時に移動して行き、官僚たちは、早速内閣官房直属の上部機関に報告を入れることになるのだが、同行した日本人女性の件についての緘口令は布かれない。

店の子たちもみんな知ってしまってる筈であり、無駄だろうと言う。

官邸の方では、既にこのあたりの情報もある程度は掴んでいたようだ。

この秋津州対策室は、昨年末からかなりの組織替えがなされ、出向者の人数も若干増員されており、加えて内閣官房直轄の組織が大規模に動いている。

神宮前の現場は、秋津州国王に対する誤り無き接遇事務をしっかりと担うべき部署と言う扱いになっていて、あとのことは全てその上部機関の方で対応することになったのだ。

神宮前の対策室を下に従えた形で、官邸に新たな対策本部が設置されたことになる。

その本部長職は官房長官の兼務で、実務上は不在の筈の新田源一が総指揮を執ってきていたものが、今般、その次長職に岡部大樹と言う男が就いたのも、新田の強力な推輓によるものと言われていた。

この男がその職に就いたことにより、さまざまな組織改変が進み、その豪腕振りが専ら言の葉種に上るようになってもいる。

新田の五期後輩のこの男が残した、新田に輪をかけたような破天荒振りも又有名なもので、新田の尻にくっついて無茶なことばかりやって歩いた挙句、かなり場違いな部署に飛ばされていたところを、今回改めて呼び戻したのだと言う。

実はこのデコボココンビは、内閣官房内にも相当な影響力を持っていると言われ、いまや外務省は無論のこと、他の省庁の中にまで戦々恐々たるものを巻き起こしているほどだ。

その岡部大樹が、この度アジア大洋州局秋津州課の第一課長のポストをも兼ねることとなり、全く新田の分身のような権力を握りつつあると言われるまでに浮上してきていたのである。

また、この男は若い頃から度外れた剣道好きで鳴らし、防衛庁出向時に出場した全日本でも二回の優勝を飾り、一時は天才を謳われたほどの腕の持ち主であり、その頃の汗臭い道場で培われた、制服組とのさまざまな人脈も数多く持つと言われる。

兄貴分の新田が百六十センチにも満たない短躯であるのと対照的に、優に百八十センチを超す堂々たる体格を誇っているところから、ずっとデコボココンビの名で通っていたのだ。

さらに、二人の共通点はと言えば、酒と剣道が好きなことを除けば未だに独身を通していることであったろう。

通常、エリート官僚の場合、政財界に重きをなす家柄からの縁談が降るほどにある中で、この二人にだけは不思議とこの手の話が来ないのも、よほどその風評が悪かった所以なのだ。

中でも外務官僚などは、そのほとんどが姻戚関係に連なっていると言われるほどで、この点においてもこの二人は大いに異彩を放っていたことになる。

この岡部大樹が、現地の新田との間で綿密な打ち合わせの必要があるとの理由で、このときたまたま秋津州に渡っていたのだが、チャーターしたSS六改に乗り込む際には、無論、その兄貴の分まで酒と防具を携えていたと言う。

旅立ちにあたり名誉のお供を仰せつかったある若手が、この手土産に奇異の目を向けたのも当然だ。

その酒にしてもワインなどはただの一本も含まれてはおらず、ほとんどが焼酎ばかりだったのである。

そのことについて恐る恐る聞いてみたところ、若手にとっては鬼のように見えたその上司は「防具を着けて焼酎を飲みながらの外交も又面白いものさ。」と答えたと言う。


一方、一瞬で秋津州に到着したみどりが降り立ったのは、内務省の最上階である。

去年訪れた際に入室を許されたのは四階だけであり、国王の私的なスペースとされる最上階を見るのは初めてのことなのだ。

言わば、この階全体が陛下のお住まいと言うことになるのだろう。

散々想像を巡らしてきた陛下のお住まいは、思ってたよりもずっと質素なもので、丁重な物腰の侍女たちに案内されながら、少しの間だけ見て回る余裕があった。

そこは、かなり天井の高い洋風の造りで、相当な部屋数があるらしい。

その上、本来の居間と寝室は新田さんと言う人に明け渡してしまって、ご自分では、決まった寝室も持たずに来客用のものを使っているのだと言う。

ただ、端から端までは百メートルもあるという話で、そのおよその広さくらいは見当がついた。

とにかく、広いのだ。

侍女たちは、このあたしのことをまるで女王さまみたいに扱ってくれて、それはそれで驚きだったのだけれど、何か勘違いしてらっしゃるようにも思えて、妙にくすぐったかったことを覚えている。

でも、お三人ともその素晴らしいスタイルと言い、豊かな黒髪と言い、ほんとにお美しい方ばかりなのだ。

前にテレビでこの方たちの特集をやってたときに、陛下の荘園からとても大勢の中から選ばれてきてらっしゃる方々だと聞いているのだから、それも当然のような気がする。

その番組では、このお三方の美しさを完璧なものだとまで誉めそやしていたことが、改めて思い出される。

その唯一の欠点を背丈が高過ぎることだと言うコメンテーターもいたけど、お歩きになるかっこうまで優雅で美しく、髪の毛一筋の乱れも見せていないのにはほんとに感心しちゃった。

この方たちは陛下がこの真夜中にお戻りになっても、こうしてきちんと身仕舞いをなさって、いちいちお出迎えしなくちゃならないなんて、ちょっぴりお気の毒な気もしてくる。

女には女としての都合だって、いろいろあるんだから。

もう少し見学したかったけど、間も無く井上さんが呼びに来て、軍装にお着替えになった陛下と一緒に慌しい旅立ちだったのだ。


漆黒の旗艦は同型艦一機を帯同し、例によって二機の編成だ。

みどりを伴った王は近衛軍を従えて搭乗し、一行はごく短期間の内にさまざまな風景に接することになる。

少なくとも、王の荘園と呼ばれるものの総てに到達したことだけは確かであり、みどりの驚きに満ちた全旅程は、六時間にも満たない短時間の内に終了し、彼女は土曜日の正午には帰宅出来てしまっていた。

思えば、対策室の官僚たちも、随分忙しい思いをさせられるものだ。

ただ一行の再入国に当たって、若者が無造作にポケットの中身を出して見せた時の、彼等の一瞬の困惑振りが後々までの語り草になったことだけは確かだろう。

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  1. 2005/11/04(金) 07:00:13|
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