日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 056

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クラブ碧は今日も早い内から大繁盛で、大勢の女の子たちが活き活きと立ち働いていた。

もっとも、そのほとんどはヒューマノイドなのだけれど、そのことを隠すようなことは一切していないのである。

「彼女」たちは、このあたしが調達してくる衣装や装身具に身を固め、今も優雅な身ごなしでフロアを泳ぎ廻っていてくれる。

それが今では三十体もの多くを数え、以前より遥かに上品で華やいだ雰囲気をもたらしてくれており、最初のうちこそ多少の不安も無いわけじゃなかったけど、このごろではつくづく良かったと思うようになっている。

店内の配置にしても、ゆったりとしたスペースを確保することに拘って来たし、調度類にしても十分予算をかけて重厚な造りを心がけてきた。

一つには、あの方の恥になってはいけないと考えたからだ。

そのせいもあってか、ここ数ヶ月のあいだに、いわゆる客ダネと言うものもがらりと変わり、お店のステータスも飛躍的に上がったと言われるようになったし、最近では、この銀座でも一流とまで言ってくれる人も出てきてるけど、その点ではちょっと不思議な気もしないではない。

ほんとの女の子なんか、それこそ理沙と理恵の二人しか置いていないのだ。

あとは、超高級品の動くマネキン人形ばかりで、それも、若くて綺麗で、その上スタイル抜群の子ばかりだ。

そのことが、却って一部のお客さまのお気に召すのかも知れないけれど、呆れたことに、中には本気でお人形を口説くヒトまでいて、盛んに同伴やアフターに誘ってるけど、マネキン人形がそんなものに付き合う筈が無いでしょ。

特にご執心のお客さまなんかは、高額のペイを覚悟の上で貸し出しを申し入れてきたりしてるし、それも、半年とか一年とかかなり長期を仰る方が多いのには本当に驚いてしまう。

借りていってどうなさるつもりなのか聞いてみたら、亡くされたお嬢さまの代わりに家にいて欲しいだけだ、なんて言う方もいらしたし、娘さんのお写真も見せられたけど、確かにヒューマノイドの一人に似ているような気もして、多少お気の毒な気はしたけどどうすることも出来ない。

中には、ご自分の秘書として本気で欲しがる方までいらした。

記憶力が抜群でまるで動くデータベースだなんて言ってたけど、別の方なんかは通訳としても立派に使えるって言ってたくらいで、現にあの子たちはみんな五ヶ国語ぐらいは話せるらしいのだ。

事務所に座らせてる子なんかは、実際にちゃんとした簿記までこなしていて、神宮前からやってくる税務署の偉い人が驚いたくらいだし、試しにやらせてみた毛筆を使ったお清書なんか、すごく立派な字だったのには本当に驚いちゃった。

千代さんに教えてもらうまで、そんなことまで出来るなんて少しも知らなかったのだ。

お客さまには、又貸しは禁止されてるからと説明して諦めてもらうようにはしているけど、ひょっとしたら直接神宮前の方に申し込んでるかも知れない。

それでも諦めずに、店外デートに引っ張り出そうとするヒトが絶えないと言うことは、それだけご好評いただけてるわけでお店としても決して悪い話じゃない。

尤も、最近では、同伴だろうが何だろうが、その手の店外デートのお手当ては全く考慮していないのだ。

女の子の売り上げに対する責任制度も全部止めてしまったくらいだから、理沙でさえその手のお付き合いには応じてはいない筈で、その上、ツケのお客さまは一切遠慮させていただいたから、最近はその点とても気が楽だ。

以前はあたしも女の子も、自分の責任分の集金には散々苦労させられて、多少の焦げ付きも覚悟しなければならなかったし、正直それが一番辛いことだったのだ。

勿論、その場合の焦げ付き分は、担当の女の子の自己責任だったから、そのリスクに見合うだけの高率の歩合も支払ってきたけど、その点、今の二人に見てやってるのは指名の分だけで、その代わり固定給の分には相当色を付けて払ってるつもりでいる。

以前は、言わばヘルプ扱いの理恵と違って、理沙の場合、固定給は全くのゼロだったのだ。

それこそ、クラブ碧のスペースの一部を借りて、個人営業をしているようなものだったのだ。

今度の新しい方式は、理沙にとってはあまり大きな稼ぎには繋がらず、近々辞めて行くことになるかも知れないけど、逆に現役女子大生の理恵にとっては、かなりお気に入りのルールみたいで、その金額こそそれほど大きくはないけれど、まじめに出勤さえしていれば、確実にそこそこの身入りにはなるからだ。

この状況でも、あの理沙が辞めないでいるたった一つの理由は、間違いなくあの方の存在にあると思う。

あたしとあの方のあいだに、男女の関係が無いことを良いことに、虎視眈々とそのチャンスを狙っているとしか思えないし、理沙から見れば、これ以上の鴨は他に見当たらないだろう。

いつかも国井さんが言ってたけど、あの方は世界一の大金持ちで、独身で若くてその上とても逞しいし、その辺の二枚目スターよりよっぽど素敵だと言う子までいたくらいなのだ。

でも、あたしの見るところ、理沙の目論みは先ず外れると思う。

肝心のあの方の方に、全くその気が無いことがはっきりと見えているのだもの。

第一、つい最近判ったことだけど、あの方が夜逃げ寸前のあたしを援けてくれて、おまけに懐いてくれているのは、お色気とは全然関係が無いことなのだ。

自分でもほんとに驚いちゃったけど、このあたしが、あの方のご生母さまにそっくりだったことが一番の理由だったのだ。

神宮前の千代さんから、そっと教えられたのだけれど、あの方が産まれたときには、そのお母さまはもう亡くなられていたらしい。

だからあの方は、写真でしか母親の顔を知らないのだと言うし、それを知ってから、自分のあの方に対する思いも随分変わったと思う。

まるで、大昔に泣く泣く手放さなければならなかった一人息子が、立派に成長して戻ってきてくれたようなそんな気持ちなのだ。

ほんとは一人も産めなかった人生だったけど、今まで眠っていた母性が突然目覚めてしまったらしい。

それは自分でも不思議なほどの内面の変化で、最近では相手が懐いてくればくるほど、我ながら益々強い愛情を覚えるようになってしまっている。

勿論、その愛情には恋愛感情なんて含まれてはいない。

その頼もしく成長した一人息子が、大メシを喰らって帰って行ったのはほんの数日前のことなのだ。

それが、つい先ほど又しても元気な顔を見せてくれている。

そう言えばこの前、「疲れて無くても顔は見せなさいよ。」と言っておいたのが相当効いたのかしら。

どっちにしても、顔さえ見れば何故か安心出来てしまうから不思議だ。

今夜は、息子専用の特別席にはわざと理沙を付けてある。

理沙が小躍りして、それこそ腕によりをかけてサービスしたからって、特別な嫉妬心なんか感じないし、ましてうちの息子に限って、ヘンなことになっちゃう心配なんか無いもの。

それにしても、折角来てくれてるのに、落ち着いて話も出来やしない。

やっぱり、その特別席に顔を出したがるお客さまがほとんどなのだ。

かと言って、むげにお断りするわけにも行かず、またまたこの前の騒ぎの二の舞になってしまいそう。

それに、まるで儀式のようなそのお引き合わせの進行を司るお役目はあたしだけのものなのだ。

言わば、あたしの許し無しには何方も奥の席に入ることは出来ないのだし、皆さん、必死の想いであたしの顔を見ながら順番をお待ちになってるけど、今日はもう打ち切りにさせていただこうかしら。

だけど、理沙と理恵も口を揃えて言う通り、うちの店の一番の売りはこれであることも判っている。

贅沢言ったら罰が当たるって、言われちゃったくらいなのだ。

これがあるからこそ、高いお勘定を覚悟してまで、こんなにたくさんのお客さまに毎日お出でいただけることぐらいは、わざわざ言われなくても判っているのだ。

うちの息子にしても、折角くつろぎたくて来てるのに、今日も大勢のお客さまのお名刺を機嫌よく受けてくれて、全くありがたくて涙が出ちゃう。

息子にしてみれば、親孝行してくれてるつもりなんだろうが、今日は、この前みたいに自分のボトルからお酒を振舞うようなことはなさらず、ほんのご挨拶程度で切り上げるようにして大分スピードアップはしてるみたい。

隣の喫茶の方にまで何人か順番待ちをなさってらした方も、皆さん入れ代わりに入店出来て、一時間ほどで区切りがついて、これで、あたしも、やっとその席に着いてくつろぐことが出来る。

お代わりを造ってやりながら、改めて顔を見てみるとどうもいつもと様子が違う。

何故か晴れ晴れとした顔で、ここのところしょっちゅう見せていた、あのとても寂しそうな顔は一向に出てこない。

この息子が、何かにずっと苦しんで来ているのは、手に取るように判っていた。

さも楽しげに飲んでるときにも、ときどき、とても寂しそうな顔をして、グラスの中をじっと覗き込むようにしてたことも一度や二度のことじゃなかったもの。

ふっと会話が途切れたときなど、その横顔にとても寂しそうな影を落として、どこか遠いところをぼんやり眺めていることも度々だった。

いつかも、お店に一歩入ったところで仁王立ちになって、固まっちゃったことがあったっけ。

一言も話さず、すごい形相でしばらくあたしの顔を近々と睨(ね)め付けていたくらいで、あの時なんか、今から思えば、針の先でちょっとつついただけで破裂してしまいそうな感じだったのだ。

お店中がいっぺんに静まり返って、まるで凍りついたみたいだったもの。

とにかく、その背中一杯に重い荷物を背負わされて一人で苦しんでるのが、こちらの胸の中までぴりぴり響いてくることが多かったのに、今日はそれがちっとも感じられないのだ。

余程良いことがあったのね。

見てるだけで、こっちまで心が軽くなったような気がしてきて、ついからかってみたくなる。

「何か、とっても良いことがあったんでしょ。」

「うん、判るか?」

まるで、何かが吹っ切れたような笑顔なのだ。

「そりゃ、判るわよ。当たり前でしょ。」

「そんなに嬉しそうな顔してるかなあ。」

わざとじろじろ見てやると、大きな手で顔を撫ぜまわしている。

「おほほほ、正直な人ねえ。」

「あははは。」

全く、底抜けの笑顔がそこにあった。

「何があったか、当てて見ましょうか。」

「え。」

「ずばり、とても大事なヒトが出来たんでしょ。」

「お。」

「お、じゃありません。さっさと白状なさい。」

「うん。」

「そんなに好きなんですか、その方が。」

「うん。」

「うん、とても素直でよろしい。」

「褒めてくれてありがとう。」

「それで、いつから?」

「今日からさ。」

「うわっ、・・。」

「うわって何だよ。」

「直ぐ連れてらっしゃい。あたしがちゃんと見てあげますから。」

自分の目で品定めをするつもりなのだ。

それまで、おめでとうは言わないでおこう。

「連れてきていいか?」

「当たり前でしょ。」

「じゃ、そうする。」

「どんな人?ひょっとしてあたしの知ってる人?」

「うん、確か一度は会ってる筈だよな。」

「うーん、どこでかなあ。」

「去年、ママと最初に会ったときにさ。」

「あ、あのレセプション。」

あの豪華な会場での華麗なお客さまたちの姿が、数々思い出される。

「そう。」

「まさか、あの二メートルもありそうなヒトじゃないわよね。あのおきれいな方、確かお国にお帰りになったって聞いたけど。」

ダイアンのことであろう。

あの飛び抜けた長身で、ちょっとヒールの高い靴を履いたら、確かに二メートル近くになってしまう。

「うん。」

「だとしたら、もう決まりね。うん。」

「それだけで判っちゃうのか。」

「だって、あとはあのお振袖のお嬢さまくらいしかいないもの。」

「振袖はたくさんいただろ。」

「あのお肌の真っ白な・・、えーと、確か・・、久我さまでしたっけ?」

それに、久我京子の名前は、いっとき王妃候補として日本のマスコミを賑わしたこともあって、その意味では今でもかなりの有名人だと言って良い。

みどりも、女性週刊誌かなんかでそのプロフィルについても、かなりの情報を仕入れていた。

「なんで判るんだ。」

「何ででも、判っちゃうのっ。あ、そう言えば、あの方も随分お背が高かったわよねえ。」

「うん。」

お京よりも大きいのだから、百七十五センチはあるだろう。

「それに、あたしの目から見たら、絶対久我さまの方がお綺麗だし、何て言っても断然可愛らしかったわよ。」

「うん。」

「とてもお似合いだと思うわ。」

「そうか。」

「で、いつ連れてくるの?」

「うん、今外で待たせてる。」

実は、さきほどから、お京といつもの空間通信を使って連絡を取り合い、もうすっかり準備が出来ていたのである。

その上、みどりの様子から、会わせても問題は無いと判断して、たった今松涛から移動させてきたばかりだ。

無論、ひっそりと甚三郎がついている上、膨大なD二やG四がびっしりと遠巻きに警護していて、心配なことは何一つ起こらない。

「うわっ。」

「又、うわっ、かよ。」

「それを早く言いなさいよ。あなた、まさかずっとお外で待たせておいたんじゃないでしょうね。」

みどりは、許すまじき剣幕だ。

「いや、たった今、連れてきたんだ。」

顔を見てにやりとして見せると、どうやら通じたようだ。

「あ、やったのね。」

みどり自身、何度か瞬間移動の経験を持っているところから、直ぐにピンと来るものがあるのだろう。

「うん、やったよ。」

「じゃ、直ぐお部屋の方へ参りましょ。」

最上階の自室に招くつもりのようである。

まさか、この、酔っ払いで一杯のお店の中で対面させるわけにもいくまい。

まして、相手はれっきとしたお嬢さま育ちなのである。

「いや、隣の事務所でいいだろ。」

「だって・・、あ、だったら隣の正面から入って、その奥から回ってもらおうかしら。」

実は、立川のオープンにあたり簡単な造作工事を行い、隣の立川とは互いに店の奥で行き来出来るように繋げてある。

若者の席から見て正面のドアを開けたところがオフィスになっており、そのオフィスに入ると突き当たりにもドアがあり、そこから喫茶立川のフロアに出られるようになっているのだ。

「じゃ。」

若者は気軽に立ち上がり、みどりがそれに続いた。

その間、立川にいるヒューマノイドと路上の甚三郎には若者から素早く指示が飛んで、甚三郎から耳打ちされた京子を出迎えるために、立川の店員が出て行くと言う寸法だ。

一方の京子の方は、喫茶店から迎えに出た女性店員に丁重に導かれるままに、洒落た店内を奥に進み、ドアから招じ入れられると、そこは八坪ほどの事務所になっていた。

それまで少し不安だったけれど、ちゃんとあの方とお母さまが立ったまま待っていてくれて、胸の動悸も少しはおさまったみたい。

でも、お母さまの和服姿はとても品の良い着こなしで、ほんの少しの間見とれてしまいましたわ。

あの方に手招きされておずおずと近寄って行くと、お母さまの方から先に深々とお辞儀をされてしまい、慌ててこちらもお辞儀を返す羽目になってしまった。

始めから判っていたことだけれど、さすがに相手は世慣れていてとても敵わないと思う。

あの方に紹介していただきながら、改めて自己紹介もさせていただき、お茶を飲みながらちょっとやりとりを交わしただけで、とてもきさくな方だと判ってやっと安心することが出来た。

お母さまは、前に何度もテレビでお見かけしましたけど、記者会見のシーンなどで見るより余程お若く見えますのね。

確か、もうすぐ四十歳におなりになるとお聞きしましたのに、とてもそんな風には見えませんでしたわ。

これでは、とてもお母さまとはお呼びしにくいじゃないの。

結局、これからはみどりお姉さまとお呼びすることになり、これで頼もしいお姉さまが二人も出来ちゃった。

明日のお祝いにも、喜んで来ていただけることになって、ほんとに嬉しくてちょっとはしゃいでしまいましたの。

みどりお姉さまは、「とても、お似合いよ。」と優しく言って下さって「世間知らずなものですから、ほんとによろしくお願いします。」と応えると、目を潤ませながら頷いていらした。

それを見て、本気で喜んでもらえたと感じることが出来て、この分なら、きっとうまくやって行けると思う。


一夜明けて、今日は国王にとって記念すべき二十歳の誕生日である。

秋津州ではイベントなど一切行われる気配も無く、若者はいつもと変わらず農事に汗していたが、外事部のデスクには王の誕生日を祝うメッセージカードが山をなし、その中にはダイアンからのものもひっそりと埋もれていた。

無論、キャンディとモニカのティームも、直接本人に手渡そうと機会を狙っており、殊にキャンディティームは昼間のうちに獲物をキャッチしようと、広大な農地をせわしなく移動していたが全く成果を上げることは出来なかったようだ。

そこで、一旦帰宅して服装を改めてから内務省に向かったのだが、それも空しい結果に終わってしまい、またまた肩を落とす羽目になった。

初めて獲物に接触した折に、かなり脚色した報告をしてしまっているところから言っても、彼女たちの焦りは想像に余りある。

若者の反応が充分なものだっただけに、よけい自信を持ってしまったのだ。

書き置いてきた電話番号に必ず誘いを掛けて来る筈だと思い、それこそシャワーを浴びている間でさえ、その着信音が聞こえる位置に携帯電話を置いているくらいなのだ。

しかし、予想に反して全く掛かって来ない。

ボスは未だうるさいことは言って来てはいないが、このままの状況があと数日も続けば、必ずプレッシャーをかけてくるに決まっており、そればかりか、自分たちのプライドにも関わって来る。


しかし、一方のタイラーから見ても彼女達に対する評価は揺るがない。

と言うより、他に手が無いのだ。

女性の色香を用いて標的の油断を誘ったり篭絡したりする手法は、古今の諜報工作の一手段として今も立派に有効であり続けており、妻帯していようがいまいが、健常な男子であれば美しい女性の色香を好まない筈は無く、まして、そのことに対する免疫抗体の少ない若者であれば尚更の事だ。

しかも、ワシントンが秋津州情報を求める声は最早悲鳴に近い。

当初、合衆国にとっての秋津州の価値は、太平洋に浮かぶ言わば不沈空母としてのものであって、それ以上でもそれ以下でもなかった。

その不沈空母は、極東はおろか、その周辺の広大な領域を睥睨する絶好の位置にあり、その地に棲む未開の民などは、合衆国にとって単に従順な僕(しもべ)であってくれさえすれば良い。

今までもそれで良かったし、今後もそうあるべきだったのだ。

しかし、秋津州は従順なしもべどころか、合衆国など一口で喰ってしまう猛獣であることが明らかとなり、その過程で大統領の首すらも一つ飛んだ。

公式な謝罪も行い、秋津州国王はそれを受け入れてくれた筈であり、本来、それで良かった筈なのだ。

しかし、現実にはその魔王の怒りが全く静められたとは言い難く、その怒りの鉄槌がいつ下されるか、日夜そればかりを思い悩んでしまうものが少なく無い。

新政権はチャンピオンベルトを奪われたことを認め、それを指針として国防政策を固め直した筈で、政府部内においては、屈辱的な外交姿勢を採ることもやむなしと決断した筈だった。

しかし、それを素直に実行するには至らない。

当局としては、この路線変更は到底大衆の支持を取り付けることは出来ないと見たのである。

米国の大衆自体が、パックスアメリカーナの幻を捨てきれないでいると見ているからだ。

何せ、合衆国には世界に誇る民主主義と言う金看板がある。

勢い、ワシントンは益々中途半端なスタンスを取り続けることになる。

そうならざるを得ない。

米国の威信が大きく傷付いて見えてしまうような対外姿勢は採ることが出来ないのである。

その結果、無理に虚勢を張ろうとして、その分だけ受ける脅威が拡大してしまうことになる。

こと、対秋津州戦略だけに限れば、見栄や虚勢を張るのを止めてしまいさえすれば、その一瞬で脅威の大部分が霧散する筈なのだが、現実にはなかなかそう旨くは運ばないものだ。

古来、「一犬、虚に吠ゆれば万犬実を伝う。」と言うが、主要なメンバーの内、ごく一部の者だけでも無為に吠えたてたりすれば、その空気は恐ろしい勢いで周囲に伝播してしまうだろう。

現に、「虚に吠ゆる」者があとを絶たないのである。

ありもしない秋津州軍の来襲と言う妄想話が、いつの間にか、さも本当のことのようになってしまい、その結果、彼等が秋津州から受ける無言の圧力はいや増すばかりだ。

しかし、ほんの少しだけ冷静に世界史を俯瞰すればすぐに判ることなのだが、秋津州ほど心優しい強国など過去にあったためしが無い。

国王は合衆国を脅したり苛めたりはしておらず、合衆国に対して一切悪事を働いたことも無く、ただ単に愛想笑いをして見せないだけなのだ。

要するにワシントンは、強い相手が自分に笑顔を見せてくれないからと言って、ただ、それだけのことで勝手に怯えきってしまっていることになる。

その心的圧力の過大さに耐え切れず、精神障害を発して入院してしまう高官まで出た。

憐れなその患者の言によれば、モニカティームの持ち込んだ情報を全て肯定するとしたら、合衆国はその仮想敵国の手に生殺与奪の権を握られてしまっていると言う。

国家安全保障会議で論ずべき国策の前提条件を見失ってしまったと言って嘆くのだ。

今までは、政策案件を起案する際に、それを記述するペーパーの色は白と決めていた。

だから、黒色系のインクを使って記述してきたと言う。

もしも、そのペーパーが黒いものであったなら、当然白色系のインクを用いれば良い。

いずれにしても、そのペーパーの色は常に我が合衆国が決定してきたのである。

然るに、最近では全くその決定権を持てなくなってしまった。

その決定権は明らかに日秋両国の手に移ってしまっており、そうである以上、複数の色合いのインクを用意すべきところ、予算その他の制約もあってそれが許されない。

そのために、自分が最も適切だと思う国策を記述することが、出来なくなってしまったと言って嘆くのである。

タイラーに近い一人などは、あの魔王に捕らえられ、銃口を口の中に突き込まれる夢を何度も見るのだそうだ。

強大な力でがっしりと首根っこを掴まれ、全く身動きがとれず、恐怖の余りベッドで失禁してしまうほどだと言うが、無論タイラーにしても胃壁がひどく傷付き、小水に混じる血の色も益々その濃さを増してきて、二度目の辞表を書く日が近いことを予感させるほどであった。

いずれにしても、彼等が悪夢にうなされる夜が増えることはあっても、決して減るような状況には無いのである。


その点、全く皮肉なことに、モニカたち二人は思い切り気楽なときを過ごすことが出来ていた。

何せ彼女たちの意識の中では、とうに過去の特殊任務は解かれたものとなっており、その上最近ではボスからお呼びが掛かることも無い。

まして、あのボスが国王陛下に抱いているような感覚など共有することは出来ないのである。

あの国王陛下が、そんな恐ろしいヒトだなんてどうしても思えないし、それどころか、接触を重ねるうちに、あの若者からは恐怖も反感も感じ取れなくなって来ており、そのため、精神的には極めて健全な日々を過ごすことが出来ていると言って良い。

殊に最近では国境の意識すら希薄になり、自分たち自身もまるで秋津州人になったような気分でいるほどだ。

彼女たちをここまで変えてしまった遠因は、ボスによるいわれの無い差別的処遇にもあっただろうが、そのためもあって、その背後のワシントンに対する帰属意識もとうに見失い、最後に入手したデータも手許に置いたまま渡さずにいるほどだ。

もしその内容をタイラーが知れば、その胃の腑がいよいよ終末を告げる鐘を打ち鳴らすべく、即刻カウントダウンを始めてしまうかも知れない。

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  1. 2005/11/05(土) 06:30:31|
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