日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 117

 ◆ 目次ページに戻る

二千十年の七月二十日は、秋津州が丹波において迎える初めての建国記念日である。

八雲の郷のグラウンドには、いつものハーフドームが据え着けられて記念式典が行われ、秋津州が人類社会の中で国家として歩んだこの六年の年月(としつき)を祝った。

いわゆる大和文化圏を除けば、世界は依然として混乱の中にあると言わざるを得ないが、それにもかかわらず各国首脳が競うようにして参列しており、秋津州の国威はいやが上にも発揚されて行く。

合衆国大統領も威儀を正して参列しており、実際には公式の招待状など一切発出されていなかったことが知られるに連れ、元首自らがわざわざ訪問したケースに対しては、後に世上の顰蹙を買う場面も少なく無いだろう。

日本などは、滞在中の相葉幸太郎が、首相代理の資格で参列しただけで済ませてしまっているくらいなのだ。

しかも、この日秋津州国王が自ら式典に姿を見せたのは、ほんの五分ほどのものでしか無く、例の漆黒の騎馬隊を引き連れて現れ、あの八咫烏を肩に国旗掲揚を指揮しただけで、あっと言う間に消え失せてしまったと言う。

無論、会場のグラウンドには多数のメディアがカメラの放列を布いており、その多くが従来に無い何事かを期待していたことも確かだ。

NBSのビルが、あるイベントを行うよう若者を焚き付けていた事から、事前に囁かれていた注目すべき事柄があったからだ。

例の馬酔木の龍である。

ビルが、せめてそのくらいのサービスはあって良いと言ったところ、若者は拒否しなかったと言う。

その結果、若者が近衛軍と共に姿を消す直前にそれは現れてくれた。

東の空から素晴らしい速度で飛来し、上空一杯に広がった龍の群れだ。

一斉にカメラが捉えたその映像には、数百もの怪物の姿があったと言う。

無論大小さまざまではあったが、大きいものは優に百メートルを超えており、それらが爛々と金色(こんじき)のまなこを見開き、陽の光りに鱗を輝かせながら、中空でその身をうねらせて見せてくれている。

異変に気付いた参列者たちがハーフドームから飛び出した頃には、怪物たちは一斉に東に向けて飛び去るところであり、観衆が呆然と見送る中、全てのイベントが終了してしまった。

その後の午餐会どころかスピーチ一つ行われず、式典の幕があっさりと降りてしまったのである。

まったく、それだけだったのだ。

ただ、その国王も個人的には忙しかったと言えなくも無い。

何せ、この日六歳の誕生日を迎えた有紀子のために任那まで出かけた上、その地のビーチでのどかに遊んだからだ。

尤も、出かけたと言っても一瞬で移動するだけの話なのだが、自国領内のこととは言え優に一万キロ以上も離れた浜辺で、陽の光を浴びて過ごしたことは確かであり、近頃元気の無い田中盛重のために多くの美女を伴っていたとする報道まで出るに至った。

だが、みどりや葉月を除けば、例の後宮に部屋を持つ二人の美女だけだったと言う説もあり、これも王の公務でない以上公式な発表があるわけでも無く、全ては藪の中だと言うほかは無い。

それに、いくら田中の恋が悲劇的な結末を見たからと言って、国王がその友人の為にわざわざ美女を伴うなどあり得ないとする者も少なくないのだ。

第一、現実の田中自身が既に世界的な著名人になってしまっており、当人が会うことは稀だとは言うが、とにかく公私共に面会を乞う者が引きも切らない。

秋津州国王の側近としてメディアに登場する場面もしばしばであり、この独身男のもとには、若い女性からのファンレターが舞い込むことさえ珍しいことでは無い。

そう言う状況の中、現地の警備陣の許容する範囲ではあるにせよ、田中に接近を果たした者もいたらしく、その全てが若い女性だったことに起因する誤解もあったろう。

何しろ、国王のバカンスとして報じられたその映像の中には多数の女性が写りこんでおり、その中には多様の国籍の女性がいたことも確かな事実なのである。

尤も、大多数のメディアの興味はそこには無い。

その殆どが、予定通り現れてくれた馬酔木の龍に集まっていたと言っても言い過ぎでは無い。


その後一ヶ月近く経った八月の十四日になって、秋津州在留の合衆国大統領特別補佐官はアリアドネの女神さまをそのオフィスに招くことにようやく成功していた。

例の建国記念式典以来ずっとお会いするチャンスが無いままに、満足なレポート一つ書くことが出来ず、秋津州の代弁者としては辛い日々を過ごさざるを得なかったのだ。

ここのところの女神さまはよほどご多忙のようで、お出でを願って再三連絡を入れていたところに、やっとご来臨の報せが入ったのだ。

しかも、今日が女神さまにとっての二十五歳の誕生日だと聞いており、無論、そのプレゼントの用意もある。

「わざわざのお運びを頂戴いたしまして、まことにありがとうございます。」

例によって、うやうやしく小切手を差し出す。

「あら、いつもお心遣いいただいて申し訳ございません。」

女神さまは全く悪びれることも無く、例によってさらさらと領収証を書いて下さっているが、受取人名義は近頃ではずっと大和商事になっており、彼女はその姉たちと共にその企業の無給の顧問として名を連ねていると聞く。

無論、彼女が受け取ったあとで、そのカネがどこへ消えようと、我が合衆国にとっては一切与り知らぬことなのである。

「いえいえ、どうぞお気遣い無く。」

当方としては今回も支障なく受け取ってもらえて、内心ほっとしているくらいで、これが、そっくりそのまま秋桜資金会計に投入されてしまうことなど、タイラーには思いもよらない。

「お役にも立ちませんで。」

「いえいえ、飛んでもありません。このたびも任那入りをお教えいただいて非常に助かりましたし。」

無論、建国記念日の王のバカンスのことだ。

国王自身が幼子と交わしていたと言う約束ごとの内容を、二日も前にキャッチ出来たことにより、戦士たちに戦闘態勢を採らせるに充分な時間が与えられたのだ。

「あら、その程度のことでございましたら、・・・」

任せておけとでも言うのだろう。

「警護の方々にも、お礼を申し上げなければなりませんな。」

アリアドネの条件が妙齢の美女に限っていたことも確かだが、あのビーチに複数のそれを派遣出来たことは勿論、警備陣がその接近を黙認してくれたことを指しているつもりなのだ。

「うまく行きましたか?」

「あはは、なにもかもご存知のくせに。」

「おほほほ。」

「しかし、現地では随分ライバルが多かったようですな。」

そのビーチには、こちらの手配した者以外にも、多数の女性が出現していたと聞いた。

その女たちが英仏独中露あたりの国籍を持つ者であることも掴んでおり、そのほかにも未だに国籍すら掴めない者までいる。

「そのようですわね。」

とぼけてはいるが、それらの国々にリークしたのも確実にこの女神さまだ。

それらの国々からも当然それなりの見返りがある筈で、今回も女神さまの懐には莫大な贈り物が転がり込んだことだろう。

「しかし、陛下はお優しい方でございますなあ。」

「いえ、直前までご存知ありませんでしたわ。」

「ほほう、では・・・・。」

「はい、わたくしどもの一存でございました。」

「なるほど、田中さんが落ち込んでらっしゃるのを見かねたと言うわけですか。」

田中盛重のガールフレンドの話だったのである。

「おほほ、いろいろございますから。」

実は、田中の様子を見かねたのは岡部夫妻だったのだが、無論タイラーには判らない。

岡部夫妻の思いは対策室に詰めている女帝に伝わり、女帝は女帝流に解釈し、その結果、田中はあのビーチで一度に複数の美女をガールフレンドに持つことを得た。

何せ、そのビーチに現れた女たちは、国王には見向きもせずに、田中盛重の方にばかりアプローチをかけていたからだ。

しかも、そのアプローチが極めて露骨なものだったことが、独身の官僚を大いに奮い立たせたことは確かで、その後田中はその多くと交流を持つに至っており、自然その中の一部とは二人切りで食事をする間柄にまでなっていたのである。

タイラーにして見れば、希少な成功例になったことは確かだ。

その中の一人は現にこっちの持ち駒なのである。

当然その持ち駒から、問題の失恋男が俄然元気を取り戻しつつあることも聞いていた。

「どうですか、その後大分お元気になられたとはお聞きしてますが。」

「おほほ、殿方は正直な方が多いようでございますわねえ。」

艶然と笑っている。

大分効果があったことだけは確かなのだろう。

「それはよろしゅうございましたなあ。あはは。」

「平和でよろしゅうございますわ。」

「平和と申せば、あのイワレのドラゴンはどの程度の装備をお持ちなのでしょう?」

英語圏では、馬酔木の龍のことを専らこう呼んでいるらしい。

「装備と仰いますと?」

「兵装のことでございます。」

ワシントンにすれば秋津州の新兵器としか思えない。

「それは申し上げかねますわ。」

「やはり、兵部の管轄でございましょう?」

その部署の管轄であれば間違いなく兵器だ。

「残念ですが、それも申し上げられません。」

「では、よほどの威力を持つものと考えてよろしゅうございますか?」

「陛下のお力は、ご承知かと思いますが。」

「はい、それはもう・・・・。」

現に米軍の大艦隊や航空機はおろか、全人類の端々に至るまでこの丹波に運んでくれたのは、その人の意思によることは間違いの無いところであり、今さらだが、この人に戦いを挑む者があれば、その敵の全てを一瞬のうちに宇宙の彼方に運んでしまうことも出来ることになる。

「でしたら、それ以上お聞きになったところで無意味ではありません?」

これ以上秋津州の武備兵装を調べても無意味だろうという。

「ううむ、確かに仰る通りですなあ。」

仮にその人が突然死などしてしまえば、残された司令官たちが即座に行動を起こして合衆国を襲うと聞いている以上、ワシントンには軍事的な対抗手段が無いのだ。

例外は、白馬王子の件のように、正統な戦争行為でなおかつ相手が歴然としている場合だけに限るだろう。

現にあの騒ぎのときも、謀殺などを疑いようの無い形で国王が戦死してしまうところばかり、夢想していたことは確かなのである。

こうとなれば、荒野の薔薇作戦が一刻も早く実を結ぶことを神に願わざるを得ない。

その結果、アングロサクソン系の世継ぎが生まれ、その人こそが我がワシントンの頭上に光を点してくれる筈だ。

今ではロンドンでさえ、一途にそれを願っている者が多いと聞いているほどなのだ。

このあとの大統領補佐官は本国の訓令に基づいて、新たな案件に付いて女神さまの反応を見ることになるのだが、それはこの時期当然の捕鯨に関する「お伺い」であり、それは、この惑星の事実上の王である人の意思の在り処を探ることと全く同義語だ。

世が世であれば米英連合のエンジンにフルパワーを掛けて、マイペースを守りきりたいところなのだが、哀しいかな現在のアメリカ合衆国としてはこれが精一杯のところだったのである。


女神さまがタイラーのオフィスを辞した直後の王と女帝の通信。

王は、惑星佐渡から大量の資源を天空の基地に届け、今しも噂の田中盛重と共に八雲の郷の国防軍司令部に入ったところだ。

司令官室の重厚な応接セットには王と田中が向かい合って座を占め、井上甚三郎と迫水美智子は勿論、立見鑑二郎までが佇立して控え、女性士官がかつかつと踵を鳴らしながら茶器を捧げて来る。

「お帰りなさいませ。」

田中の耳には全く届かない女帝の語り掛けであった。

「うむ、今立ち戻った。」

国王が、大振りの湯飲み茶碗を手にしながら応える。

「また、とんでもない量でございましたこと。」

女帝は、若者が搬入して来た資源の物量を指しているのだ。

「うむ、いくら運んでもどんどん出て行く。」

「やはり、食糧と建築用資材が主でございますか。」

鉄やセメントはもとより、道路舗装用の石油にしてもまだまだ膨大な需要があり、出来る限り佐渡やその他の天体から搬入して来るよう心掛けているのである。

「うむ。ところで何かあったのか?」

「はい、先ほどタイラーから捕鯨に関しての打診がございましたので。」

「そうか。」

「お指図通り、別に不都合は無い旨返答致して置きました。」

無論、D二やG四が活発な情報収集にあたっており、この主従にとってワシントンの動きなど全て手の内にある。

何せ、その国は、常に最も危険な相手でもあるのだ。

「それで良い。」

「それと、田中さんのガールフレンドのことでございますが。」

「女どものおかげで、大分元気が出たようだ。」

大分元気になった田中は、今も眼前で呑気にお茶を啜り込んでくれている。

「はい、彼女達は今のところ感染症の恐れは無いと存じますが、念のためあと一月半ほどはお控えになった方がよろしかろうと存ぜられます。」

最終的な検疫までには、あと一月半ほどを要すると言うのである。

「うむ。」

「それに、全員ひも付きと言う点も、迫水を通じて十分ご説明申し上げてございますから。」

無論、「ひも付き」とは諸外国の工作員の意であり、田中自身それを充分承知した上でデートを楽しんでいると言うことになる。

「殊に悪質な者はおるか?」

「は?」

「ううむ、うまくは申せぬが・・・・・、まあ、良いわ。」

「特に目立つほど練達の者は、見当たらないようでございます。」

外見上の美醜を中心に選抜されたことが、そのような傾向を生んだに違いない。

その上、今回の戦士たちは日本語の会話能力一つとっても揃って片言の域を出ない者ばかりだ。

「やはりな。」

若者は今マーベラを思い出している。

彼女などは、自らをそうとは知らずに活動していたほどだ。

「それと、今日はみどりさまと葉月さまがお見えでございますが。」

今夜は宴会になるのだろう。

この若者は、どう言うわけか、あの葉月の酌で飲むことを好み、既に幾度と無く宴席を共にしているが、その度ごとに実に楽しそうな笑顔を見せるのである。

「うむ、それに咲子に付き合ってやる約束もある。」

「財団ビルの剣道場でございますね。」

「うむ、精進の甲斐あって近頃だいぶ腕を上げておる。」

現実に、高橋師範すら驚くほどの伎倆を発揮し始めているのである。

先日などは、あのダイアンでさえ見事に一本取られたと言う。

優れた指導者に出会ったことで、それまで隠れていた天分が一気に目覚めたのだろうが、それにしても長足の進歩だと言って良い。

「そのようでございますわね。」

「近頃では、大学に剣道部を作りたいなどと申しておるわ。」

「手配致させましょうか?」

早速、その希望に沿うよう手配をすると言うのだ。

学生の多くが未だにヒューマノイドであり、号令一下そのくらいのことならどうとでもなってしまうのである。

「いや、もう少し様子を見てからが良かろう。若い娘のことだ。いつ気が変わるか判らぬからな。」

「ご明察で・・・・・。」

「うむ、未だ何かあるのか?」

「大和商事の借入金の件でございます。」

「それが如何した。」

「そろそろ、元金の返済もお考えいただかないと・・・。」

膨大な金利が発生しているのである。

その上、当方の資金不足の為に起こした借り入れでは無い。

資金など、借りるどころか、逆に貸し付けてやりたいほど潤沢なのだ。

「いましばらくの辛抱が肝要であろう。」

「お言葉ではございますが、金利負担が異常なほどでございます。」

これも、事実だ。

しかし、もともと、人類の惑星間移住と言う大事業にあたって、一気に不安定化する各国の金融資本に安全有利な投資先を提供し、その弱まった足腰を補強してやることを目的とした借り入れであったのだ。

そのために発生する膨大なコスト負担など、最初から覚悟していたことだ。

「あと一年がほどは、金利を払っていてやろう。」

大和商事に貸し込むことを得ている金融資本は、その間、確実に稼ぎ続けることが出来るだろう。

その上、秋津州に対する巨額の融資実績はその格付けにすら関わって来る問題であり、彼らからすれば、その足元を固め切れていない段階で返済されてしまっては困るのである。

既に壮大な設備投資ブームが世界中で加熱しており、その膨大な資金需要が各金融資本の台所を潤しつつあり、各種産業も猛然と立ち上がり始めたことを見れば、あと一年も経てば、この丹波経済全体が繁栄の足掛かりを築くことが出来ていよう。

それまではじっと辛抱するよりほかは無い。

「承知致しました。」

「うむ、世界経済がその繁栄を取り戻すことが何よりも大切なことだ。」

「言わずもがなのことではございましょうが、その間は市場で運用させていただいておりますのでご承知置き下さいますよう。」

巨額の資金を運用し得るほどのマーケットが、いよいよ多数立ち上がって来ており、女帝は腕を撫していたのだろう。

「うむ。」

「それでは、一汗おかきあそばしますよう。」

若者は通信を終え、正面で日本茶を喫している友人の顔に視線を移したが、数ヶ月前とは事違い、そこには若々しい生気が蘇って来ているようだ。

やはり、女の力とは恐ろしい。

「お話は終わりましたか。」

その顔が様子を察して語り掛けてくる。

「うむ、いま終わった。」

「それでは、そろそろお出掛けになりませんと。」

無論、田中は王と咲子の約束を承知している。

「それより、今夜のお相手はどの女性かな?」

田中が今夜もデートの約束があることは、既に本人の口から自慢げに聞いていたことだ。

「今日は、ロシアのかたとでございます。」

田中の方も、悪びれるどころか嬉しそうな顔を隠そうともしていない。

「ほほう、あれもなかなかの美形であったな。」

王自身も一度だけとは言いながら、任那のビーチでその見事な水着姿まで間近に見ているのだ。

「いずれ、あやめかカキツバタと言うところでございましょうな。」

田中はしきりににやついている。

「あはは、言うわ、言うわ。」

「言うだけなら税金も掛かりませんし。」

「しかし、いったい何人とデートしたんだい?」

「今のところ、五人でございますが、勘定を持たせるわけにも参りませんので、これ以上は控えて置こうかと。」

今のところ、デートの際の勘定は全て田中持ちであることも承知しているが、いくら独身で貯えがあると言っても、このままではその懐具合もやがて切なくなって来るだろう。

敵はそれを待っているのだ。

恐らく始めは僅かなデート費用を負担する申し出をして来るだろうが、それを受けてしまえば、やがてそれが大きな金額に繋がって行く。

彼女たちとベッドインしてしまえば、更に大きなモノが手渡されるようになり、やがてそれが巨大な借りに繋がってしまうのだ。

当然のことながら、敵は田中の知り得る機密情報にこそ最大の価値を見出しているのであり、利用価値を失ったあとの田中が破滅してしまうことなど意にも介さない。

トラップは益々強力な効果を発揮するモノになって行くに違いない。

無論田中もバカではない。

彼女たちが一度でも勝手に勘定したりしたら、二度とデートには応じないと堂々宣言しているほどだと言う。

その上、彼女たちの縄張りらしいところにはどんなに誘われても一切近付かず、こちらの縄張りでしかデートはしないと決めているらしい。

まして、女たちの中にさしたる者はいないことも判っている。

みんな、素人に毛の生えたようなレベルの者ばかりだ。

万一、金銭的に弱みになってしまいそうな展開になったら、内緒で補填してやるから直ぐに申し出るよう言ってあることだし、この分なら先ず心配は無かろう。

張本人のお京にも言って置いたが、一旦こう言う絵図面を書いてしまったからには、田中本人が不幸な目に会うことだけは、絶対に防いでやらなければならないのである。

現実には、官僚たる者が外国の女性工作員と交際するなど決して褒められた事ではない。

一歩間違えればそれだけで身の破滅に繋がってしまうことであり、出来ることなら、岡部がわざわざ手配してくれた日本人女性に絞って交際してもらいたいくらいだ。

だが、その日本人女性の外貌は、惜しむらくはあまり美しいものとは言えず、あのビーチでもアグレッシブな様子を見せなかったため、田中の歓心を得るには至らなかったものらしい。

「ふうむ、五人相手ではかなり忙しいだろう。」

「いえいえ、おかげさまで良い思いをさせていただいておりますから。」

田中にして見れば、派手なピンナップガールととっかえひっかえデートしているのである。

楽しくない筈が無い。

「気の毒だが、あと一月半は辛抱した方が良さそうだな。」

「ほほう、あと一月半でございますか。」

「うむ、それまでは赤信号が消えないそうだ。」

「心得ました。」

「そうなれば、専用のベッドルームが必要になるかな。」

大和商事経営の最高級ホテルがあることだし、そこに専用のスィーツを用意させることにするか。

「あっちの部屋に入るのは危険ですし、まさか秋桜エリヤに連れ込むわけにも参りませんから、いまのところ辛抱しとるんですわ。」

「あっはっはっ、辛抱と言えば私なぞも大分辛抱しとるからな。」

考えてみれば、その意味では妻を失って以来女体には一指だに触れていないのだ。

「あらら、陛下の場合は、例の一番区域にお出かけになれば、直ぐにでも解消する話でしょ。いったいどちらの方がお好みなんですか?」

「ううむ、そう聞かれてもなあ、まあ正直に言えば、どちらも女として見るには未だ抵抗があるからなあ。」

それに、純な娘たちを一時的な慰みものにだけは絶対にしたくは無い。

それこそ、将来好きな男でも出来たら、我が王家から嫁がせてやりたいと思うこともしばしばで、この意味では二人共愛していると言うほかは無いのだ。

「ほほう、未だって仰るからには、その内にとか、将来はって言う含みがありそうですな。」

「そりゃ将来って話なら、君だってどんな奥さんをもらうことになるか判らんだろう。」

「それはそうですが、陛下とは立場が違いますから。」

「残念ながら私の場合、迂闊なことは出来んからな。」

「しかし、あのお二人はどちらもお綺麗ですなあ。殊に最近の咲子ちゃんには吃驚させられますわ。」

「うむ、随分大人になって参ったようだ。」

「こないだキッチンの咲子ちゃんを見たときなんざ、その美しさに思わず息を呑んじゃったほどですからねえ。」

「ローズだって、負けてはおらんだろう。」

「確かに。しかし陛下は二人をいつまで待たせるおつもりですか?」

「ふむ。」

「秋元女史から聞いたんですが、二人には陛下のお体のことも、全部説明済みだって言うじゃありませんか。」

遠い祖先が日本を逐われた原因のことだ。

そして今は、その異能こそが人類を救済したものだと言う事実がひそひそと語られ始めている。

「らしいな。」

「それで、私も二人に聞いてみたんですが、最近協定まで結んでるようですよ。」

「協定か。」

実は、それもお京から耳にしている。

「そうです。単なるライバルじゃなくて、協力し合おうって話し合ったって言うんですわ。」

「ほう。」

「つまり、いざとなったら陛下を独占しようなんて考えは捨てて、何から何まで二人平等に扱ってもらえるように協力しようって決めたらしいですよ。」

「なかなか、そううまくは参らぬだろう。」

人間である以上、男女を問わず嫉妬と言う感情がある。

「いや、だから、陛下さえ二人を平等に扱ってあげれば、二人共それで納得するって言ってるんです。」

「確かに最初のうち、多少ギクシャクしてたからなあ。」

それが、最近妙に仲が良いのである。

二人が作る王の食事の献立にしても、二人交代で決定権を持つような定めになっていると言うが、二人の間ではしょっちゅう討論が繰り広げられると聞く。

「秋元女史から、陛下は世界の秩序の大本なんだから、その血筋を絶やしちゃったらえらいことになるって言われて、二人共すっかりその気になっちゃってますよ。」

「ほう。」

「ほうじゃありませんよ。二人共そこに使命感まで共有しちゃってるみたいですから。」

「使命感ですることではあるまい。」

「いや、勿論使命感だけじゃありませんがね。とにかく本人たちが望んでるんですから二人共奥さんにしちゃえばいいんですよ。秋津州の慣習法とやらも、それを妨げてるわけじゃ無いんでしょ。」

「うむ、取り立てて禁じてはおらんな。」

尤も、その慣習法とやらも若者がただ一人の秋津州人である限り、それこそどうとでもなってしまうのである。

「だったら、問題ないじゃありませんか。」

「そうは言うが、ローズは未だ十六歳だぞ。」

「やはり、そちらの方がお好みですか?」

「おいおい、本題は君の彼女の話だよ。」

「私のことより陛下のほうが問題ですよ。」

「まあ、そう苛めるなよ。」

「新田さんからも岡部先輩からも、うるさく言われて困るんですけど。」

事情を知った彼等が王家の異能が絶えてしまうことを恐れていることも、お京から耳にしてはいる。

「ほほう、そんなにうるさいか。」

「だいたい、葉月のおばさんのお酌で飲んでたって、永久に子供なんて出来ませんからって言ってますよ。」

「へえ、あの二人がそこまで言うのか?」

「いや、これは秋元女史の受け売りですがね。」

「うん、昔からあれが一番うるさい。」

「へえ、そんな昔からだったんですか。」

「十五・六の頃からずっとそうだ。」

何か、ほろ苦いものが沸いてくる。

「結局陛下が堅物過ぎるから余計心配するんですよ。陛下も少しぐらい遊んだらどうです。」

「うん、大仕事もひと段落着いたことだし、そろそろ君を見習って夜遊びに出かけてみるとするか。」

「待ってましたあ、そう来なくっちゃ。そうすれば陛下も少しは元気が出るっちゅうもんですわ。」

「私は元気のつもりなんだが。」

「いや、あっちの方の元気ですよ。みどりママだってそう言ってますよ。」

「しかし、怖い女たちが揃ったもんだ。」

「言い付けますよ。」

「いや勘弁してくれ。」

王も、この言葉遊びを充分楽しんでいる。

「そう言えば、陛下の元気の出るような、面白いとこがあるってアンが言ってましたよ。」

「アン?」

「あ、この前デートした女です。デカパイのアメリカ娘で、当然タイラーの兵隊ですけどね。」

「ほほう、あの、胸が特別に大きいヒトか。顔は忘れたがあの胸だけは覚えておる。」

「そうです、そうです。でもあれ本物じゃありませんがね。」

「え?」

「整形ですよ整形。絶対そうですよ。」

実際、独身の官僚にそう思わせずには置かないほど豊満な胸の持主なのだ。

「ほう、そうなのかあ。」

「その子が、三の荘のロイヤルホテルが絶対面白いって言うんですわ。ワシントンのダミーがやってるところですけどね。」

「うん、そこなら何度も招待状が来てるって話だ。」

「そらそうでしょう。あっちは陛下の呼び込みに必死でしょうからね。」

「前に、お京も気晴らしに行けってうるさかったことがある。」

「じゃ、行っても大丈夫なんでしょう?」

「ふむ。」

若者は、にんまりとして応えている。

「それに、陛下の専用ルームまであるって話ですよ。」

「本格的だなあ。」

「いろいろ揃ってるそうですし。」

「いろいろとは?」

「あらら、男の遊びって言やあ、飲む、打つ、買うが不動の三本柱でしょうが。」

その三つが全て揃っているとでも言いたいのだろう。

「そりゃそうだな。」

「それにショウダンスがあって、これが又魅せるらしいですよ。」

若い者同士の会話はとどまるところを知らなかったのだが、一方で咲子が防具を着けたまま痺れを切らせていたことだろう。

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  1. 2007/12/20(木) 11:10:21|
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女帝『エンペラー』」

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  1. 2007/12/22(土) 09:10:57 |
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