日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 134

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結局それは、大和商事と言う超巨大コングロマリットが行う言わば採用試験であったろう。

しかも、ここ二ヵ月半にわたって度々行われてきたものであり、その採用枠も女性のみの若干名となってはいたが、少なくとも五人や十人で無いことだけは確かだ。

これまでごく一部の特殊な例を除けば、その採用枠は秋津州人限定のように見られていたものが、今回の募集に限って国籍も不問とされていた上、三ヶ月と言う短期契約ながら、更新がなされない場合には半年分の手当てまで保障されていて、労働者側が自侭に退職した場合ですら同様だと言うのだから、ひやかし程度のものも含めればその応募者数は相当なものに上った。

そのありさまは、最早「殺到」と言うべきだったろう。

この動きは、八雲島の本社ばかりか、任那や秋桜や日本支社においても同時に進行し、打たれた募集広告にしてもかなりの回数に上っていたこともあり、多くの秋津州人の目にも留まったはずが、不思議なことに実際の応募者は「外国人」ばかりで、しかもその採用者たるやタイラー言うところの魔王の好むタイプの者が頗る多い。

この状況を見る限り、人工知能の企図するところは最初から明らかで、折角大切な主(あるじ)の本能が蘇りつつあるいま、最早手段など選んではいられないとばかりに、息せき切って露骨な強行策に打って出ていることになり、その結果女たちが配属された本社秘書室第二課の看板の裏側には、「帝王の子種(こだね)採集係りの詰め所」の文字が透けて見えてしまうのだ。

結局、不遜にもハーレムを形成して、少しでもその可能性を広げようとしていることになり、その点人権侵害も甚だしいのだが、ひとたび現実に目を向ければ、そのことをまったく想わずに応募してくる女性など先ず希れであり、それどころか、一度でも多くそのチャンスに恵まれることを望んで已まない者ばかりだ。

少なくとも秋津州国内で打ち出された採用条件には、若き大富豪の秘書として相応しいほどに「極めて容姿端麗」であるべきことが殊更に強調されていたほどであり、その点一つとっても真の職務内容を嗅ぎ分けることも容易であっただけに、応募者はいわゆるプロないしは、それに準ずるようなものが多くを占めざるを得ず、経験の多寡はさて置くにしても、少なくとも応募者の精神風土にそのような傾向が濃厚にあったことだけは否定のしようが無いだろう。

かくして、そのような傾向を持つ女性ばかりが殺到し、呆れたことに、採用者の中にはれっきとした外国政府の息の掛かった者まで多く含み、この点ではまったく見境無しだったと言って良い。

タイラーなども初期のうちから数人の選りすぐりに命じて応募させていたが、まさかタナカ担当のアンまでが、勝手にその路線に乗せられたとまでは知らなかったのである。

とにもかくにも、大和商事側が大量の応募者を受け付けて審査したことに違いは無い。

この動きは、帝王が鬼百合の妖しい魅力に惹かれ始めて以来大きく転がり出しており、当然その真の意図までは伏せられたまま進行したが、人工知能がここまでの方策を実行するのには当然それなりの理由がある。

何よりも、その機械的な演算機能が、大切な主君の大切な本能が再び貝のように閉ざされてしまう危険性ばかりか、永遠に失われてしまう可能性まで導き出しつつあったからであり、いきおい、おふくろさまの企図は不自然なまでにそこに傾斜して行かざるを得ず、その指令がいよいよ異常なものになっていって当然で、その結果普通ならあり得ないほどのことでさえ平然と行われてしまうことになるのである。

かくして数段階の新規採用が繰り返された結果、一時期には五十を超える女性が在籍するまでになったが、中には人工知能の採用基準から見て、多少疑問符の付く者も含まれていなかったわけではない。

現に日本においては法の規制するところもあり、あえて当人の希望に沿って、純然たる能力考課を以て採否を決定したケースもあったのである。

この場合、当人の希望する職種は純然たる事務職であって、少なくとも「帝王の子種採集係り」などでは無いことになり、おふくろさまの企図から見れば単なるロスに過ぎず、当然好むところではないのだが、殊に日本での募集においては、そう言ったカモフラージュも全く無意味であったとは言い難い。

無論その募集要項には時代遅れの「容姿端麗」の文字などは無く、本来の企図など全く伏せられてしまっており、いきおいそれに気付く事無く応募してくる者もあり、その典型例が、第一次募集の時点で早々と門を叩いた山川真奈美と言う二十九歳の婦人であったろう。

くどいようだが、彼女はごく普通の意味で純粋に職を求めて応募したことになるのである。

彼女は日本において日本語による採用試験を受け、その最終学歴が商業高校でありながら筆記試験において一人飛び抜けた成績を残した上、海外勤務に関しても最初から積極的に受容しており、ふた月ほど前に特別研修を終えて任那支社への赴任を果たしていたことになるが、その原籍はあくまで本社秘書室第一課とされ、この点秋津州人以外では唯一の例を示し、他の新人たちが全て第二課配属だったことからも一人気を吐く結果とはなった。

その個人宿舎も広大な支社ビルの中に洋風のものが豊富な家具付きで割り振られ、この点に限れば他の新人たちと肩を並べることになるとは言いながら、その職務内容はまったく異なるものだったのである。

他の新人たちは単なるお茶汲み程度の戦力としてしか看做されず、しかも日本語の読み書きどころか会話能力一つ取っても疑問符の付く者が少なく無い上に、日本人女性も二名採用されてはいたものの、いずれも輝くような若さと並外れたルックスを併せ持ちながら、折角の日本語が敬語一つ満足に使いこなせないため、来客の応接どころか、電話応対一つ任せられず無論満足な書類など作れよう筈も無い。

そのため全員がただひたすら艶麗に着飾って待機しているばかりで、普通の会社だったら、それこそ何しに出勤して来たのかと罵られても仕方の無いような状況があるが、結局独特の採用基準が優先される第二課本来の任務を想わざるを得ないだろう。

何せ、その看板の裏側には目には見えないながらも、一際墨痕鮮やかに、「帝王の子種採集係りの詰め所」と書かれてしまっているのである。

詰まりその「詰め所」に配属された者は、全て「その」専従要員と言って良い。

但し、万一その潜在的特殊任務を忌避しようと思えば、月棒の半年分の手当てを受けて直ちに退職することも可能とされており、決して強制されているわけではない。

まして、会社側からその「任務」の特殊な部分は一切明示されたことはなく、彼女達自身が勝手に忖度(そんたく)しているだけであって、明示的に達せられる任務は、只「待機」だけなのだ。

ひたすら美を磨き、艶麗に着飾って待機あるのみだ。

そして待機のさなかに齎される密やかな内部情報が、社主たる者のおおまかな所在情報を含むことがあり、その所在がそれぞれの赴任先の自社ビルであった場合などに、単に待機の義務が解除され移動の自由が与えられることにより、彼女達自身が自らの意思で自由に「移動」するだけなのだ。

現に、一部にその好機に「移動」を望まず、まったく移動しなかったケースもあり、それでなおそのことが本人の不利益に繋がることが無い以上、そこにも一切の強制性は存在しないことになる。

周囲を見渡しておのれの競争力の劣弱性を想って自ら辞表を出した者もおり、ひどい例ではたかだか一週間ほどの勤務実績しか持たなかったにもかかわらず、退職手当てとして月棒の六倍の手当てを受給した者までいたが、その場合ですら会社側からは何の干渉も受けた形跡は見当たらず、それを見て二十数人もが一斉に辞めて行ったほどだが、おふくろさまにとっては全て予定通りだったと言って良い。

詰まり、その専従者たちがいよいよ精鋭ばかりに絞られつつあることになり、それぞれの地の詰め所には戦闘意欲の希薄な者など既に数えるほどでしかない。

一方で唯一の例外である山川真奈美の場合、一般的な事務処理能力にかけては初期のうちでさえ優れた能力を発揮して見せた上、直後には同じ任那支社の中でもその最上階に位置する、社主室の次室詰めを仰せつかるまでになっていたのである。

社内的な正式名称は「社主秘書室」とされているが、その一風変わったオフィスは二百平方メートルものフロアを持ち、大小の個人用事務机が多数配備されており、その数だけで優に二十を超えていた上に、部屋の中心部を占領するようにして応接セットが四つも居座っている。

これだけの企業である以上、訪れる外来者をいざなうべき応接室など当然別にあり、それも、各階毎に少なくないものが用意されており、少なくとも現状でそれが不足することなどあり得ないのだ。

詰まり、その応接セットは通常の外来者用ではないことになり、赴任直後の真奈美が途惑ったのも無理は無いが、やがてしばらくしてからそこに座を占める者が何ものであるかを知った。

なんと、うわさに聞く第二課の連中だったのである。

妙齢のご婦人たちが、真っ昼間から例外なく厚化粧に際どい形(なり)で武装してぞろぞろとやって来るのである。

しかも、それは隣接する社主室にその主が入ったときに限られており、その連中は用も無いのにやって来て、井上閣下や迫水秘書官の厳然たる立ち姿を尻目に、ひどく怠惰な店を開いて見せるのだ。

その店で商う商品は言うまでも無いが、それぞれの商品は妖艶に磨き上げられて高値が付くのを今か今かと待っている風情であり、中には正視するだけで頬が火照ってしまうような実に挑発的な身なりの者までいて、内心驚いてしまったくらいだ。

唯一の顧客に売り込みを掛けようとして入室を申し出る者が殆どだが、それを黙って通してしまったのではこっちの仕事にはならない。

当然隣室にお伺いを立てることになるが、現時点で長時間の在室を許されたものは一人もおらず、みな揃って精々五分程度にとどまっているものの、連中は出来る限り単独での入室を望んで已まず、他の競争者と一緒に扱われることを極端に嫌ってさえいる。

湯茶を捧げて恭しく接遇するのは専ら新人の自分の役目だ。

自然いろんなシーンにぶつかったが、社主はご自分のデスクからお立ちになる気配すらお見せにならず、さまざまに羽ばたいてみせる派手なゴクラクチョウの姿を、ひたすら眺めておいでなのである。

中には怪しからぬ振る舞いに及ぶゴクラクチョウもおり、社主の直ぐ隣にまで身を寄せて、大胆にもその手を握る者さえいて、こちらが湯茶を捧げて入って行っても放そうともしない。

口惜しいけど、まさか熱いお茶を引っ掛けてやるわけにも行かず、ただ無性に腹が立ってしまって、その怒りがなかなか収まってくれないことも度々だが、それさえなければまったく理想的な職場なのだ。

実際の職務も未だごく簡単な書類作りを任されるだけで、滅多に鳴らない内線電話にすら出るチャンスは少なく、大抵の場合特別研修の際に配布を受けた教本を読み返す毎日だ。

その教本も一種独特なもので、聞けば秋津州の教育現場で用いられている歴史教科書をベースに作られたものらしく、秋津州の自然の慣習法や倫理感などもその骨子となっていて、殊に秋津州と日本の歴史に触れているページが目立ち、そこに記述されている事柄は、国策会社の社員たるものが斉しく身に着けるべき最低限の基本教養だとされている上、歴史を苦手としていた身には興味深い記述がふんだんにあって、改めて真剣に学び直しているが、現場研修と言う意味合いもあってか、その手の時間がたっぷりと与えられている環境ではある。

ただ、社主の在室が長引いてしまう場合若干名が居残りとなるが、職務上それも当然のことだ。

尤も、これまで極端に遅くなったことは一度も無く、本来の意味で勤務上の悩みは無いと言って良いが、近頃の自分にはそれ以外の特別の悩みが始まってしまっているのである。

それも、誰にも相談出来ない性質のものなのだ。

それこそ相談どころか、口にすることすら憚られることであり、自分にとって最大の悩みだと言って良い。


さて、それはそれとして、彼女の周辺事情に関しても多少の説明は必要だろう。

第一に、この大和商事任那支社の最上階の風景だ。

ざっと見渡したところで、この日本人女性とデスクを並べる者は二十人ほどのもので、しかも皆優秀で若く美しい秋津州人ばかりと来ている。

その上、特別のポジショニングを誇るその部署は社内でも憧れる者が多いとされており、そこに移った真奈美自身の給与待遇にしても、少なくとも新入社員のものとしては破格と言って良いレベルで、しかも採用時の三ヶ月契約と言う条件まで解除されてしまっている。

言わば、本採用になったことになるが、この人事も真奈美の持つ何ものかが若き雇用主の目に留まったことにより、若者自身がそれを希望したからに他ならず、そのことが真奈美の耳に入ったときには文字通り鶴の一声だったことになっており、いずれにしても、雇用主による恣意的な抜擢人事であることは明らかだ。

尤も、実際は必ずしもそこに深い意味があったわけでは無く、少なくとも真奈美が赴任したばかりのその頃は、支社において王の身辺を固めるものは、全てヒューマノイドばかりだったからに他ならない。

結局若者は僅かな時間ではあっても、どうせなら生身の人間にこそ接触したかったまでなのだが、特別の裁断によって行われたこの人事が、この日本人女性に与えた心的影響は決して小さなものでは無かった筈で、さまざまな意味でそのモチベーションを高めさせる上で、絶大な効果を発揮したであろうことは想像に難くない。

何せ、その雇用主たるや、完全無欠な百パーセントオーナーであると同時に秋津州の王でもあるのだ。

今や世界の王と呼んで憚らない人までいるのだから、その女性の心情や想うべしであったろう。

また、その人事に付いて主(あるじ)の意を受けた人工知能が、主君の意に敵った女性と看做したことも軽い結果にはなり得ず、おふくろさまの指示に接した京子の関心もひどく偏向したものにならざるを得ない。

とにかく、その女性は新規に採用された者の中では飛び抜けて高齢だったとは言いながら、一般的な意味では未だ充分な若さを維持した二十九歳であり、しかも、たまたまではあったにせよ、隠れた採用基準で言うところの外見上の特徴も過不足無く具えていたのだ。

その美貌も群を抜くと言うほどのものではないにせよ、目尻の切れ上がったくっきりとした二重瞼がときに独特の色香を放ち、近頃では積極的に装うようにもなって来ており、タイラー言うところの薄気味悪いほど色白であることと相俟って抜群のプロポーションが格段に冴え冴えしい。

胸も腰も充分に実っている上に体型の崩れも見られず、しかも腰のくびれ具合がまた尋常なものではなく、過去の多くを知る女帝が、主君の意に敵った理由はこれであろうと判断してしまったのも無理からぬことであったろう。

若者の舌足らずの物言いにも若干の責任が無かったとは言えないにせよ、秋津州の女帝が、第二課配属の女どもと同様の、特別の目的に沿ったパターンで改めてその身辺調査に乗り出したほどである。

そのときから数えて既に丸二ヶ月が経つ今、ご多分に漏れず膨大なデータが積み上げられ、日本人山川真奈美の身辺は短期間のうちに丸裸にされてしまったと言うべきで、それでなお彼女の来し方に人工知能の基準に反するものは見当たらない。

それどころか、まったく係累の無いところなどは、ある意味理想的でさえあったのである。

とにかく、おふくろさまの身勝手な価値基準は通常のものとは著しく乖離してしまっており、山川真奈美の場合はそのことが反って幸運に繋がったと言って良いほどであり、彼女の場合かなりのトラブルを抱え込んでいたにもかかわらず、それが全く障害とは看做されなかったことだけは確実だ。

その履歴を見てみれば、かつて多少の英会話能力を活かして小規模の貿易商社に勤務経験を持ち、取引先の社長の令息に望まれて結婚を果たしたが、夫の暴力行為が常軌を逸するほどのものであった上、その暴力によって十二週ほどの胎児まで流産させられており、結局たかだか百万ほどの慰謝料を手に婚家を出てしまっているが、その際夫側が婚姻の継続を頑強に主張したため思いの外係争が長引き、法律上の結婚生活は二年ほどにわたったとは言え、実質的なそれは一年そこそこのものであったようだ。

二十六歳にして独身に戻った彼女は、質素なアパート暮らしのかたわら近隣の中小企業に職を求めたが、そこの経営者から度重なるセクハラを受けて已む無く近場のスーパーに転職、そこでも上司から執拗なセクハラを受けて苦しんでいるさなか、別れた前夫が度々店に現れて嫌がらせを繰り返したばかりか、復縁を拒む彼女にあろうことか店内で暴力まで振るうに至った。

結局、不運な女が又しても職を失うことになるのである。

とにかく怨みと憎しみしか残さないような散々な結婚生活を強いられた上、丹波への緊急移住と言う非常事態にも遭遇し、苦痛に溢れた日常を送る中で接した今次の募集広告であったらしく、勤務地を国外に求めた理由もそのあたりにこそあるのだろうが、言わば早々に昇進を果たしたことによって、そこそこの俸給を得ている上に、今の職場ではセクハラにあうことなど皆無であり、一番の頭痛の種だった前夫の暴力からも逃れる事を得ていたのである。

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  1. 2008/06/19(木) 13:24:45|
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