日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 153

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また、例の対決の折り供頭を勤めていたガイウス・カラマンリスと言う男がいた筈だが、皮肉にも、その嫡子を名乗る者が昨晩帰服を願って来ている。

夕闇に紛れ徒歩立ちで家臣二人を伴い、雨に濡れそぼち疲労と空腹のあまり憔悴し切った姿で神門の外に立ったと聞き、哀れに思った老カラヤニスが引見してみると、未だ十八歳ながら見るからに逞しい若者が、ゼノビオス・カラマンリスと名乗って皇女への随順の許しを必死に乞うのである。

聞けば、王宮で父が手討ちにあったと言う報せを受けて取るものも取りあえず駆けつけたところ、供待ち部屋で父の退出を待っていた筈の老臣も行方が知れず、しかもヘラクレイオスが領地の没収ばかりか、若者の斬刑まで口走っていると耳打ちする者があり、父の遺骸を引き取る暇(いとま)も無く退去せざるを得なかったらしいのだが、案の定追っ手が掛かったと言う。

耳打ちしてくれた者の口振りから言っても、その追っ手は「討手(うって)」にほかならないのだから一刻を争う場面だ。

万一を慮って家族の者は王宮近くの路地裏に潜伏させてあり、それが功を奏して連れて逃げることには成功したようだが、如何せん母や弟妹は決定的に足弱である。

進退窮まった若者は家族を泣く泣く山中に隠しておいてから、敵の注意をそらすために全く無関係の地点でわざと姿を現して戦闘に及び、討手の数人を倒して見せてから再び姿を隠したと言うが、家族の潜む地点には二度と近付けなかったと言う。

無論、無理に近付けば家族まで発見されてしまう惧れがあったからなのだが、あとは必死に討手の目を晦ましながら、まる二日も諸方をさ迷い歩いてようやく辿り着いたと言い、憤懣遣る方ない様子であったが、老カラヤニスから見てもその気持ちは判らぬでもない。

そもそもヘラクレイオスは身分の違いこそあれ、亡きカラマンリスから見れば官制上の一上司に過ぎないのである。

全能のご主君ならいざ知らず、高々一上司に過ぎないヘラクレイオス風情が、怒りに任せて手討ちにするなどあって良いものではない。

ゼノビオスの怒りは当然のことなのである。

さぞかし明日(あす)の日の捲土重来を期して来たったのだろうが、取りあえず食と暖を与えながら様子を見ていると、これほどの不遇の中にあってなお二人の従者を見事に統率している上、凛呼たる気迫を以て全き士心を得ていると見るに至り、老カラヤニスがひどく心を惹かれてしまったらしく、一部始終を皇女の耳に入れてしまったから騒ぎだ。

皇女は山中に置き捨てられた家族の身を想い、涙しながら直ちに救えと言ってきかず、すっかり手を焼いた老カラヤニスが泣きつく相手はヤサウェだけである。

当のゼノビオスにとっては、たまたまオヤカタサマが来合わせたことも幸運だったろうが、結局皇女ばかりかヤサウェやオヤカタサマにまで目通りを許された上、その皇女の強力な口添えまで得られたこともあり、即座に目的地へ飛ぶことによって、その望みが呆気なく叶えられることとなる。

家族と女奉公人には手持ちの食糧の殆どを置いて来ていたこともあり、多少雨に濡れてはいたものの元気な姿を発見して一瞬で連れ戻すことを得たのだが、何せその現地は真っ暗闇だったのである。

若者はオヤカタサマの「み業」を身を以て体験したことになり、それが若者をして茫然とさせてしまうほどの出来事であっただけに、驚愕の初体験はその心に一生消えないほどのものを刻み込んでしまったろう。

何せ、ほんの一呼吸する間に現地に到着し、家臣共々家族と抱き合って喜んでる間に再び王家の里へ運ばれてしまっていたのだ。

何もかもが夢のような出来事ではあったが、何はともあれ、そのみ業によって他に代え難い家族の命を危うく拾うことを得たのである。

その心中は察するに余りあるだろう。

何しろここに来た頃の若者は、空腹を満たし僅かの休息をとっただけで直ちに家族の救出に向かうつもりでいたのであり、足弱の家族を連れて走れば十中八九斬り死には免れないにしても、全てを失ってしまった以上、せめてパレオロゴス王朝の臣下として死にたいと願ったのだ。

いきさつがいきさつだとは言いながら、文字通り決死の覚悟を固めていたと言って良い。

ところが、その直後鮮やかに運命が転換した。

あれよあれよと言う間に家族が救出されたばかりか、皇女への随身の願いがその肉声を以て容れられ、騎士に列せられた上、与騎(よりき)として大層な配下まで与えられる身となってしまったのである。

歴々たる直臣に取り立てられたことになるから、当面の賄い料として黄金入りの皮袋五つと大層な為替証書まで頂戴することになったが、その証書の文面はご主君のご署名以外見知らぬ文字ばかり並んでいて理解が届く筈もない。

当初はいわゆる「親任状」の一種とでも思った気配まであったが、何もかも経験済みのヤニとデニスから懇切な説明を受けてそれが堂々たる金券であることを悟り、しかもその額面は数百頭の駿馬を購って余りあるほどのものだと言う。

驚くほどの大金なのである。

その通貨単位は秋津州円だとされたが、この地においてはそれを「域内通貨」とする定めが既に触れ出されていて、所定の店舗に出向きさえすれば軍馬や武具はおろか食糧その他の生活用品の類(たぐい)まで全て購えると知るに至り、家族や家臣の扶養に関しても少なからず自信を深めたようだ。

その上、頂戴した黄金に至っては、たかが五袋とは言いながら、それを運ぶにあたって延べ五人もの男手を要したほど持ち重りのするものであり、その価値の重さを実感させるに充分なものだったと言って良い。

とにもかくにも、思いもよらぬこの厚遇にゼノビオスは半ば夢見心地であっただろう。

しかも、新しいご主君の口添えもあって、ヤニとデニスと言う先輩が付きっ切りで世話を焼いてくれるのだ。

血と泥に汚れた弊衣にしても借り着を調達してくれた上に、さまざまに得難い情報まで与えてくれており、二人ともここでの暮らしがよほど長いと見えて、その遠慮の無い忠言が実に適確なものばかりなのである。

しかも母と妹には、ネリッサさまと仰る女官長がわざわざお命じ下されて、侍女の方々が直接その任にあたって下さり、家族専用の部屋ばかりか、別途に個別の従者の分まで過分に頂戴してしまった。

結局、なに不自由の無い夜を迎えたばかりか、家族揃って久方振りの安眠まで貪ることを得た若者が、この地に辿り着くまでの絶望的な逃避行のあれこれを想うにつけ、ご主君への忠誠を改めて心に誓ったのも当然のことではあったろう。


そして一夜明けた今、若者は今後の職責を果たすためにも必然であるとして、デニスの案内を受けて改めて域内を検分中だが、心中密かに期するところも無いではない。

何しろ、つい先ほども上空からの領域視察を命ぜられ、その重責をまざまざと実感させられたばかりであり、お寒い限りの借り着姿ではあっても、胸の中では熾んに燃え上がるものを覚えてさえいるのだ。

思えば追っ手の目を逃れて散々に山野を経巡る内、武具どころか愛馬まで失ってしまっていた上、家臣に至ってはその足元まで借り物であり、主(あるじ)としてはあれもこれも買い揃えてやらねばなるまい。

一方で、供待ち部屋から姿を消したじいの身の上がひとしお気に掛かるところだが、今は如何ともし難い。

幼い頃からじいと呼んで慣れ親しんで来たキュリアコス・マエケナスは、祖父の代から変わらず仕えてくれていて、累代の重臣とでも言うべき存在であり、もう五十の坂を超えたとは言え未だ未だ矍鑠(かくしゃく)たるものだ。

絵に描いたような一徹者でつむじを曲げると少々手強いところも無いとは言えないが、一途に主家のことを想ってくれている忠義者であることに変わりは無く、何とか生き延びていてくれることを願うばかりだ。

変事に遭遇した政庁では危険を察知して身を隠したのだろうが、もともとこの私に剣の手ほどきをしてくれたほどの遣い手でもあり、その点、今も後ろからついて来ているルキアノスとミルトスから見ても言わば師匠格にあたり、それほどの男が身一つで逃げる気になれば、葉武者風情にむざむざ不覚を取るとも思えない。

この私とも未だに互角に渡り合うだけの腕を持っているだけに、きっと斬り抜けていてくれるとは思うものの、先ほどからしきりに胸が波立ってしまっており、領地で留守を守るじいの家族の為にも無事を祈らずにはいられない。

だが、今のところはどうしてやりようもないのである。

何せ、今はカラマンリス家のれっきとした当主として日々出仕を求められる身なのだ。

しかもこのご時世だ。

それこそ、今後如何なるお役目を拝命するか知れたものではない。

とりあえずは、いずれへ出ても、ご主君の恥にならないだけの身なりだけは是非とも整えて置かねばなるまい。

振り向けば最後尾に自らの乗馬を引く屈強の秋津州軍人が二人も続いて来ており、その内の一人は大塚少尉と言って、この私に付けられた与騎(よりき)たちの言わば頭取にあたる人物なのだが、その寄親(よりおや)であるべき私の方には情け無いことにその馬さえ無いありさまなのである。

尤も、その頭取の引く馬は只の馬ではないと言う。

水も飼馬も不要である上に、自在に飛翔する恐るべき天馬だと聞いているのだ。

先ほど空の散歩中に耳にしたところによると、何とオヤカタサマの軍団は兵馬ともに飛翔する力を具え、一切の兵糧も無しに長期間の野陣にも立派に耐え得ると言うのだから実に驚きだ。

無論、大塚少尉自身もその例外では無いと言う。

しかも、彼の率いる独立梯団は常に上空にあって、いざともなれば号令一下瞬時に舞い降りて来る手筈だと聞いたが、眩い空を見上げても一向に視界に入らないところをみると、よほどの高空に留まっているに違いない。

いずれにしても、必要と見れば瞬く間に舞い降りてたちどころに配備に就いてしまうと言う。

尤も、そのことを大塚少尉に命じるのはこの私であり、彼と共に天馬を引いているもう一人の頭取にそれを命じるのは、言うまでも無く今悠然と前を行くデニス殿だ。

肩肉の盛り上がったその広い背中に改めて声を掛けてみる。

「デニス殿、早朝よりお手数をお掛けしてまことに相すみませぬ。」

何しろこの先輩は、自分より四つも年長であるばかりか名うての猛者(もさ)だと伺っており、しかも長らく不遇をかこって来られた姫君のお側近くにあって、文字通り命懸けの忠勤を励んで来られたお方だ。

本来陪臣の身であるとは言いながら、実際にはご主君の側近中の側近である上に直臣も同然の扱いを受けておられる上、自分から見れば言わば先任将校の如きお立場にあり、場合によっては戦場で直接の指揮を仰ぐことになるかも知れないお方であるだけに、自然一目も二目も置かなければならない。

「なんの、お気遣いはご無用になされよ。共に騎乗を許されし仲ではないか。」

事実、公式の場においても正式に騎乗が許される身分となったのであり、我がご主君が近々にも帝冠を戴く身と伺っているだけに、この点では亡き父のそれすらも既に凌いでしまっていることになるのである。

「身の誉れと存ずる。」

「姫さまはもとより、大殿(おおとの:老カラヤニスのこと)さまがそこもとをいたくお気に召しておいでですからな。」

振り向いたお顔がまるで邪気の無い笑顔であるだけに、決して皮肉や嫌味で言っておられるのではない筈だ。

「まるで夢のような心地にござる。」

実感だと言って良い。

「夢のようと申さば、先ほどの空の散歩の方はいかがでござった。」

例の大塚少尉の案内を受けながら、二人の従者と共に小型のポッドで空中を飛びまわって来たのである。

「いや、驚き申した。あれほどの大軍など聞いたこともござらぬ。」

眼下に広がる風景は実に壮大なものであり、まったく信じ難いほどの大軍が、話に聞く「結界」に沿って隙間も無く布陣していたのだから驚かないほうがどうかしている。

ご主君はもとより、先輩たちもとうにご覧になっておられるそうだが、蟻の這い出る隙間も無いとはまさにこのことかと思わせるほどのものだったのだ。

「うむ、百二十万を超えると聞いておる。」

「それも、オヤカタサマの軍団のほんの一部だとお伺いしては、最早言葉もござらぬ。」

「しかし、今となっては我等もその軍団の一部をお預かりしている身だ。」

ヤニとデニスのお二方の場合昨日の早朝のことだったと仰るが、それと同様に自分にも与騎(よりき)として一個小隊を与えられたことになるのだ。

一個小隊とは言えそれだけで千を超える大軍のことでもあり、その意味ではお二方と並んで、ご主君の貴重な藩屏と成るべく大いに期待されていることになるのだから、新参の身としてはそれこそ身の震えを覚えるほどの大任には違いない。

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  1. 2008/11/12(水) 10:59:54|
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