日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 155

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しばらく無言の行が続いたが、やがて先輩がぽつりと言った。

「先ずは両替をせねばならんな。」

頂戴した為替証書を域内通貨に交換してからでなくては、何一つ購(あがな)うことは出来ないと仰せなのである。

「いかにもさようで。」

「両替屋で口座を拵えてくれる手筈ゆえ、例え駿馬を十頭購うにしても、カネは九分通りそこへ預けておいたがよかろう。」

良い馬はそれなりに高価であって然るべきだが、十頭購うにしても九分通り預けて置けと仰る以上、頂戴した壱百萬円がそれだけ大金だと言うことに他ならない。

「心得申した。」

「いろいろと買い物をすれば相当の小銭も生ずることゆえ、先ずは財布を用意せねばならんだろう。」

先輩の忠言は実に適確だ。

「恐れ入り奉る。」

「ほほう、その口振りはほんに父(てて)ごと瓜二つじゃのう。」

窓の月の画面で、問題の「対決場面」を見せていただいたばかりなのである。

「・・・・。」

胸の中に熱いものが滾(たぎ)って来て、我知らず拳を握り締めてしまったほどだ。

「思えば、そこもとの父(てて)ごは立派な武人でござった。」

先輩が空を見上げてぽつりと仰る。

「千万(せんばん)かたじけなく・・・。」

それ以上、言葉が続かなかったのである。

直ぐ後ろからルキアノスとミルトスの鼻をすする音が聞こえたが、きっと胸を打たれたに違いない。

しばらく無言で歩くうち神の馬場に入ると、幅二百メートルもある平坦な道が神門の向こうまで一直線に延びており、その先で細い坂道を下ることによって、ようやく街中(まちなか)に至る筈なのだが、今いる場所は言わば目抜き通りに当たるのだから相当な人出が目につき、殊に左右に聳え立つ建造物に盛んに出入りする者がいる。

工事中なのである。

「あれが大聖堂だと伺っておる。」

先輩が左を見ながらぼそりと仰った。

道路の東側に面した一棟が、今しもその天辺(てっぺん)に大きな十字架を取り付けている最中であり、数人の人夫が空中に浮かんで作業に手を貸しつつあるところを見ると、これもまたオヤカタサマの軍勢の一員なのだろうが、事情を知らぬ街の者たちがそれを見上げながら口々に言い騒いでいるところだ。

「その奥の建物には既に十字架が付いておりまするな。」

奥とは、無論大聖堂のその又東側のことだ。

「総主教さまの宮殿にござろう。」

「その奥にも同じような建物が並んでおりますようで。」

全てさいころ状の建物が、東西方向に等間隔を保って十棟以上も整然と建ち並んでいるのである。

「東側のものは、おしなべて神職の方々がご使用になられる筈だ。」

「されば、西側の建物がご主君の宮殿にござるか。」

反対側にも同様な建物が西に向かってずらりと並んでいて、やはり盛んに工事がなされている。

「うむ、その奥が政庁や元老院であろう。」

元老院議官のお歴々も行政官の方々と同様に例のお扶持書きを賜ったと聞くが、その額面は自分たち武官のそれと比べれば十分の一にも満たないと聞いているだけに、誕生しつつあるこの政権の中では、武官の序列ばかりが途方も無いものになってしまうのだが、それもこれもこの戦乱のなせる業だと言うほかは無い。

「それにしても、この資材の量には心底驚かされまする。」

天空から舞い降りたポッドから、今しも大量の資材が運び出されている最中だ。

「姫さまからオヤカタサマに願い出られた結果だと伺っておる。」

現に、地上でもオヤカタサマの軍兵らしき者が大挙して手を貸しつつあるのである。

「この様子では、工事のほうの仕上がりも相当早まりそうですな。」

「ネリッサさまから伺ったところでは、室内の大まかな造作だけは初めから出来上がっていたらしゅうござる。」

「なんと・・・。」

「オヤカタサマのみ業はいちいち驚くことばかりじゃ。」

次々と天空から降りてくる巨大ポッドを見上げながらしばらく行くと、道路の左側に巨大な高札が立ちその前に人だかりが出来ていた。

「なんの騒ぎでござろうか。」

「一つには、暦(こよみ)を掲示しておるのでござるよ。」

「ほほう。」

「この域内においては通貨と同様に、暦もオヤカタサマのものを用いるとのことにござる。」

「遅かれ早かれいずれご領内に引き移ることになる以上、已むを得ぬ仕儀かと存ずるが。」

「日々書き換えられておるようじゃが、それによると本日は二千十二年の十一月五日と言うことになるようだな。」

「今後はその暦に従えと・・・。」

「いや、必ずしも従えとは申されてはおらぬようじゃ。要はその基準に則って退去の日程を触れ出されるおつもりなのでござろう。」

「なるほど、そう言うことでござるか。」

「今のところ退去の日は、この暦で言うところの十一月末になると伺っており申す。」

「されば、あと一月(ひとつき)もござらぬな。」

「左様、その準備に遺漏無きよう致さねばならぬ。」

「如何にも。」

「神門の外にも同じものが立っておるゆえ、最早知らぬものは少のうござろう。」

「退去日の公表はいつごろになりましょうか。」

「その前に、この天地が崩れ去ってしまうことを公表せねばなるまいが、いずれにせよ遠い日ではござるまい。」

この居住区全体が崩壊してしまうと言う噂は、逃避行の最中(さなか)でさえ盛んに耳にしていたほどであり、既に知る人ぞ知る話だと言って良い。

うしろで家臣どもがしきりに囁きあっている通り、それまでに領民と親類縁者の全てをこの神域に集結させて置かなければならないが、当主となった今、そのことが最優先の課題となったことを改めて思わざるを得ないのである。

「さて着き申した。」

今しも先輩が、さっさと左に折れて大型の建物の方に導いて行く。

いよいよ、話に聞いた店舗なのだ。

胸を躍らせながら踏み入ると、中央に幅七メートルほどの通路が東西方向に八百メートルも伸びて、両側にたくさんの店舗が広々と間口を開けており、同様の光景は全てのフロアにわたっていたのだが、実はこのような仕様の建物はこれ一つでは無かったのである。

結局都合三つもの巨大な多目的商店館が軒を連ね、そこには銀行と言う名の両替商があるかと思えば、多種多様の食料品売り場はもとより、大規模な衣料品店や鍛冶屋や木工屋まで出店している上、馬や馬具を重点的に商う建物まで別に存在し、若者は四つの建物の間を何度も行き来しながら、五頭の馬を含めさまざまの「商品」を買い込むことになるのだが、これ等の商店館はそのいずれもが驚くべき品揃えを誇っており、家臣の分も含め、欲しいものの全てが手に入った。

その上、馬専門の建物の一階では、通路の左右にずらりと厩を並べたフロアに売り子を兼ねた馬丁が大勢詰めていて、購った馬は馬具と共にそのまま預かってもらえる仕組みだと言い、本格的な運動を除けば馬の世話一切を一日二円ほどで引き受けてくれると言う。

聞けば、売り物の馬だけでも五百頭を超えていると言い、そのさまは実に壮観と言うほかは無いが、一方から言えばあまりに多すぎて目移りして困るほどの状況であり、しばらくご主君やカラヤニス卿のご料馬の見事さに目を奪われてしまっていたが、気が付けば先輩は委細構わずご自身の持ち馬の前に足を運び、愛馬の鼻面を撫ぜて回りながらすっかりご満悦の呈なのである。

結局半日近く掛けて売り場を見て回っていたことになるが、それでも凡そのことを掴んだに過ぎず、その広大なことと言ったら、うかうかすれば建物の中で迷子になってしまいかねないほどであり、いずれの館内でも立派な拵えの電動昇降機がそちこちで稼動し、案内人と称する秋津州人女性が大勢配置されていたが、その数だけで既に客のそれを上回ってしまってるように見えており、それを見る限りとても採算がとれているとは思えない。

さまざまな売り場を徘徊する道すがら母たちにも出会ったが、聞けば例の皮袋の中身をほんの一掴みだけ両替屋に持ち込んでみたところ、それだけで一万円以上に換金出来たと言うのだが、何しろ、女奉公人と家族全員が一日に食すべきパンが概ね二円ほどで購える上に、大麦製のパンに至ってはその半額ほどであり、思い切って副食物やワインなどに大盤振る舞いをしたところで精々十円止まりだろうと言う。

そこから見ても、あの皮袋一つで大層な値打ちがあることは確かであり、同じ皮袋を二人の家臣にも一袋づつ与えてあるだけに、彼等が近々呼び寄せる筈の家族を養うにあたっても、必ずや存分の働きをしてくれるに違いない。

いずれにせよ今日は既に存分に購って、主従共々身なりも充分整った。

新たに手に入れた武具甲冑の類(たぐい)もそこそこに気に入っており、無論、家臣のものにも不足は無い。

しかも、かさばる物は自室まで直接届けてくれると言い、とにもかくにも、全てが順調だったのだから、案内役の先輩は目出度くその役目を果たし終えたことになり、愛馬に跨って今颯爽と神門を出て行かれるところだが、与騎(よりき)頭取の中村少尉も今度ばかりは遠慮なく騎乗してその後に続く。

こちらも家臣共々騎乗し二頭の代え馬まで引いて結界の外に出てみたが、そこには昨夜の暗がりの中では全く意識することの無かった風景が広がっていたのである。

結界の内側と同様、幅二百メートルにも及ぶ参道が街に降りる坂道に向かって一直線に延び、その両側には十棟ほどの大型ポッドが整然と立ち並んでおり、その多くが窓を持たないところから見ても、物資を収納しているものなのだろうが、中でも一棟だけ一味違ったものが目に飛び込んできた。

一際異彩を放つその建物には、窓はあってもベランダが無く、しかもいずれの窓にも頑丈そうな鉄格子が嵌められていて、その建物全体が話に聞く監獄であることを物語っていたのだ。

噂通りであれば、その中では既に大勢の獄吏が手ぐすね引いて待ち構えている筈であり、その収容能力は万に迫ると言い、今後においては従来からの通常の監獄にいる者たちも全てここに移される手筈なのである。

既に数人を収監していると耳にしているが、いずれも例の店舗などで怪しからぬ振る舞いに及んだ者ばかりであり、その者たちは直ちに取り押さえられて検断を待つ身となっていると言うが、その検断は我が執政官の手に委ねられると聞いており、オヤカタサマは一切容喙されないらしいから、結局ローマ人の犯罪はローマ人自身に裁かせようとのお考えなのだろう。

現在はカラヤニス卿が執政代行のお立場で取り仕切っておられるが、近日中にもイオハンネス十八世さまがその職に就かれると伺っており、ひたすらそのご回復が待たれるところだ。

また、前(さき)の皇后が宮廷を去ったことが既に庶民の一部で囁かれ始めていると言い、その意味では王宮から王族方のお姿が悉く消え失せてしまったことになり、首都圏の騒乱にいよいよ混迷の度を深めているらしい。

しかも、我がご主君の戴冠の儀も間近いとする観測が広まっていることもあって、旧政権下にあった練達の行政官がひそひそと当方に移りつつある上に、武官に至ってはその多くが露骨に出仕を避けるまでになって来ていて、スフランツェス政権の空洞化に一段と拍車を掛けている筈なのだ。

巨魁の親子は依然政庁に留まって子飼いの武官を身辺に引きつけたまま、狂瀾(きょうらん)を既倒(きとう)にめぐらしていると聞くが、武官などと言ってみたところで洗ってみれば地方の小豪族の当主かその倅たちが殆どであって、ごく一部を除けばスフランツェスの臣下では無いのである。

デニス殿の口振りでは、その兵力も未だ二百に迫る勢いを示してはいるらしいが、その中から斥候が何組も放たれて、あの大軍勢を遠望して肝を潰しながら帰っている筈なのだ。

それを知って攻めかかるものなどいよう筈も無く、そう考えれば合戦には至らずに済んでしまうかも知れず、そうなると戦場で父の無念を晴らす機会も永遠に失われてしまう道理だ。

既に千余の与騎(よりき)を持ち、しかもその分の戦費負担が不要である以上、主従三人分の腰兵糧だけ用意すれば事足りる話であり、カラヤニス卿のお許しさえいただければ、我が一手を以て敵勢を蹴散らして見せるところなのだが、如何せん今のところは手出しは無用と仰せなのだから如何ともし難い。

大恩を蒙ったばかりで、まさか軍令に背いて勝手に突出してしまうわけにも行かず、そのような無謀に走れば母の嘆きは如何ばかりであろうなどと、とつおいつしながら馬を進める内、やがて左右の建物が尽きたあたりで又しても意外な光景に出会ってしまったのである。

左右の広大な空き地に数千もの人間が群れていて、どうやら野天で市が立っているらしく、そちこちでさまざまな商いが盛っており、中でも目に付くのは家畜の市場だ。

とにかく驚くほど大量の家畜が曳かれて来ており、しかもそれを黄金若しくは秋津州円で買い取る者が大勢いる。

その連中が千人の余も買いに走っている上、それぞれがこまかく役割分担がなされていると見えて、売り手の群れに混じって目を光らせている者がいるかと思えば、買い取る者とそれを運ぶ者とが見事に連携していて、その仕事振りに少しも渋滞するところが無い。

しかも、どう見ても破格の値で買い取っているものだから、自然売り手が殺到してしまっており、人ごみに驚いた離れ牛まで出る騒ぎだ。

無論そのほかにも宝飾品や家具などと言った「商品」がしきりに売買されているようだが、一部に奴隷を売買する者がおり、やはりここでも秋津州円がそれを媒介している様子なのである。

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  1. 2008/11/26(水) 11:38:41|
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