日本大好きじいさんの落書き帳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告|
  3. トラックバック(-)|
  4. コメント(-)

自立国家の建設 157

 ◆ 目次ページに戻る

「まことか。」

「しかも、直ぐ近くまで来ておいでにござる。」

「なんと。」

「しばし、お待ちあれ。」

虚空を睨んでるところを見ると、話に聞く「通信」とやらをしているのだろう。

「何とした。」

「マエケナス殿の身に危難が迫っており申す。」

「なにっ。」

「急場にござれば、先ずは先駆(さきが)け仕る。ご免そうらえ。」

言うや否や、人馬諸共ふわりと空中に浮かび上がり、南を指して風のように飛んで行く。

それに気付いた者がそちこちで指を指して騒いでいるが、それこそ天馬の本領発揮だと言う他は無いのである。

ことがことだからこっちも遅れじと鞭を入れたが、代え馬を引く二人の方は一歩も二歩も遅れざるを得ないだろう。

既に大塚少尉の姿は視界からは全く消えてしまっていて、前方の空中には漆黒の円盤が飛来して騎馬武者を放出し始めており、やがて左側には高札が立ち、ここでもかなりの人だかりがありはしたが、それを目端(めはし)に掛けながらなおも駆けると、急に道幅が狭まって、しかも下り坂に差し掛かるところだ。

幅七・八メートルほどのその坂道を、だらだらと一キロほども下れば直接街中(まちなか)に出てしまう筈なのだが、幸い人通りが途絶えていて、無辜(むこ)の民を蹄に掛ける恐れは無いとみて、一鞭くれて坂道に差し掛かると眼下はるかに豁然(かつぜん)と眺望が開け、今しも坂の途中に人だかりが出来ているのが見えており、かなりの人数が足止めを食わされているようだ。

いずれにしても、何やら変事が起こっていることだけは確かであり、胸騒ぎを覚えながら駆け下って人垣の中に乗り入れると、予感は見事なほどに的中してしまった。

路上には十人以上の追っ手の姿があり、道の右端には棒切れを構えてそれに対峙している男がいて、よくよく見れば薄汚れた装束の無腰のじいであり、しかもこれほどの危機にありながら、背中に負った剣を抜こうともしていないのだ。

既に少尉のほかにも五騎の騎馬武者が盾になってくれており、無論こっちも夢中でそれに倣ったが、全員徒歩立ちの敵勢の方は弓弦(ゆづる)の切れた弓を手にするやら、鍔本(つばもと)から折れ飛んだ剣を持つやらで、ほとんど茫然たる様子を見せており、幸い一人として打ち掛かってくる気配が無い。

何せ、まともな剣を手にしている者など一人もいないのである。

「じい、大事無いかっ。」

馬上剣を抜き放ち、前面の追っ手を睨み据えながら大声で叫んだが、その多くは顔見知りの連中ばかりだ。

「あっ、若っ。」

背後でじいが叫んでいる。

よほど動転していたのだろうが、己れの主(あるじ)にようやく気付いてくれたようだ。

「何故、剣を抜かぬっ。」

「殿の、殿のお形見っ。」

一瞬で悟った。

父の剣だったのだ。

使うに忍びなかったと言うのだろう。

「許す。直ちにそれを用いよ。」

「心得申したっ。」

主(あるじ)の下知を受けて元気一杯の返答が返って来て、そのくたびれきった身なりから察するに、己れの剣は逃避行の最中に手放してしまったのだろうが、相も変わらず愚直を絵に描いたような為様(しざま)なのである。

見上げるまでも無く頭上間近に巨大円盤が舞い降りて来ており、徒歩立ちの軍兵が背後の木立の中に次々と降り立ち始める中、ルキアノスとミルトスが大声を上げながら駆け入って来るや、すかさず代え馬の一頭にじいを乗せた気配だ。

「お下知を賜りたあし。」

馬首を並べた少尉が前方を見据えたまま大声で言う。

攻撃命令を待っているのだ。

「暫く後詰めを頼む。」

有り余る戦闘力を持つ武官に対して後陣にまわるよう命じたのだ。

「心得申した。」

苦情が出るかと思いきや、かなり冷静な返答が返って来て、少尉の軍が背後の木立の中に一斉に折り敷く気配を感じながら、初めて前面の敵方に声を掛ける余裕が生じたのである。

「最早、無益な争いは無用に致さぬか。」

「・・・。」

口を開く余裕すら失ってしまっているのだろう、追っ手の面々は、いずれも顔を引きつらせながらじりじりと後ずさりしはしたが、誰一人応えようとはしない。

「それがしの敵はスフランツェスであって、断じて各々方ではござらぬぞ。」

「・・・。」

「手出しは控えるゆえ、今日のところは清く引き取られるがよろしかろう。」

わざわざ剣を鞘(さや)に収めて見せながら、我ながら冷静な声音で説いたつもりだったのだが、考えてみれば追っ手たちも哀れだ。

清く帰陣して行くにしても、そこに待っている相手が相手なのだ、事実を報告するわけにも行くまい。

皆が皆、進退窮まったと言う素振りで顔を見合わせているのである。

「おおい、いま行くぞおお。」

今度は、デニス殿の大声だ。

今しも坂下から駆け上がって来る気配であり、しかもその方向の空中には、千余の軍兵が真っ黒になって飛行して来る姿まで見えているのだから、もうひとたまりも無かったろう。

追っ手どもは揃って背後の木立の中に脱兎の如く飛び込んで行ってしまったが、それを目端に掛けるようにして騎乗のデニス殿が猛然と飛び込んで来て叫んだ。

「大事ござらぬかっ。」

「おかげをもちまして無事にござる。」

「十人以上おったようだが。」

「いえ、敵兵どもは悉く得物(えもの:武器)を失ってござったゆえ。」

「ほほう・・・。」

見れば、路上に十数本もの剣が折れ飛んでいるのである。

「それがしにも、わけのわからぬ仕儀にござる。」

「若っ。」

背後でじいが叫んでいる。

「どうした。」

「あやつらに囲まれようとした折り、連中の弓弦も剣もあっと言う間に・・・。」

結局、大塚少尉の仕業であることだけは確かなのだ。


さて一夜明けて翌日のことだ。

俄かに大号令が発せられ、元老院議官や行政官、そして大勢の神職の者が居並ぶ中、新装成った大聖堂において新帝戴冠の儀と先帝の葬礼がいたって簡素に執り行われた。

女官団を引き連れて玉座に着いた皇女は目出度くセオドラ一世となり、その直後に発せられた勅令が、今後一年間に限って全ての徴税を停止(ちょうじ:禁止)する旨を高らかに宣言していた上に、スフランツェスの罷免ばかりか総主教猊下の執政就任をも謳い上げており、主立った行政官が支障無く親任を受けたことが、この劇的な一大政変をなおのこと鮮明なものにしたと言って良い。

しかも残り十ヶ月に及ぶ今年度(七千五百十一年度)の予算額を一億円と見積もった上に、皇帝から執政官にその全額が交付される運びだと言うのだから、その決算報告に関しても、執政官は一意に皇帝に奉る責めを負うことになるのである。

ゼノビオスもデニスと共に凛然と警衛の任に就いており、その式典の一部始終を目の当たりにすることによって、既往の秩序が完全に崩壊し去ったことを今更ながら確信させられたほどだ。

現に、多くが革まった。

一例を挙げれば、老カラヤニスなどは最高位尊厳侯の称号を得た上に、新帝から改めて二億円の俸禄を賜り、この場にいないアンドレアスに至っては僅か十四歳の身で一億円もの高禄を食むことになったほか、本来陪臣の身でありながらステファノプロスが五百万円、ネリッサが二百万円、ヤニとデニスが百万円、トニアとアウラでさえ五十万円と言う破格の扱いを受けて、直臣の身分を兼ねることを承認された上、主家カラヤニス家からも別途に俸禄を頂戴することとなる。

それらの人事案件は、老カラヤニスと総主教の描いた原案に沿ったものばかりだったのだが、例外的に新帝が老人達の意向に背いてまで押し通した案件も無いではない。

何しろ、原案では無給となっていたものを強引に覆してしまったのだ。

それは新帝にとって従姉妹にあたるマリレナに対するものだったのだが、三百万もの賄い料を支給すると言い出して、しかも堂々と実行してしまったのである。

十五歳の少女が皇帝としての専制権を初めて行使して見せたことになるが、ことが内廷の話だけに大勢(たいせい)には影響が無いと見て、老カラヤニスも苦笑して口を閉ざすほかに無かったのだろうが、とにもかくにも皇帝の勅裁人事であったことは確かだ。

ちなみに、この場合の「賄い料」と「俸禄」とでは画然と異なるものがあると言って良い。

この「俸禄」の場合、永続的な「家禄」と言う側面を強く含んだ表現なのだが、「賄い料」にはその色あいが無いに等しく、言わば個人へのお小遣いのような意味合いを持つことから、その継続性においても保障の限りではないのである。

とは言え、俸禄と言い、賄い料と言い、カネに変わりは無い。

皇帝となった少女は、近しい従姉妹にお小遣いを進呈したいと思ったに過ぎないのだが、一つにはその従姉妹には、専任の侍女が二人もついていることに拘った結果でもあったろう。

尤も、その二人の侍女は共にステファノプロスの娘であり、ステファノプロスがカラヤニス家の家宰身分である以上、その娘たちにしてもマリレナにとっては生まれながらの臣下だと言って良いが、マリレナにして見れば、自分の侍女たちには自ら報いたいと思うのが人情だ。

現行では、カラヤニス家の姫の召使いに対しては、カラヤニス家からそれなりの俸給が出ている筈なのだが、皇帝はそれをマリレナ自身の財布から直接支出し得るよう配慮を加えたまでであり、執政にしてもその幼いこだわりに対しては微笑みを以て報いた筈だ。

さて、この件に関してはもう一言触れておかねばなるまい。

殊に俸禄に対する考え方であるが、それが主君から頂戴するものである以上、頂戴する側にもそれなりの義務が発生することをである。

義務の中でも最大のものは無論軍役であり、それは当然俸禄の高に比例し、この政権では俸禄五十万円あたり一人の戦士を伴って参軍すべく規定しており、その規定に照らせばカラヤニス家は四百人の戦士を引き連れて参軍する責めを負い、ウェルギリウス家の場合はその半分の二百人と言うことになる。

一方で百万円の俸禄を頂戴することになったカラマンリス家の場合などは、少なくとも二人の戦士を伴って戦場に立つことを求められるが、翻って五十万未満の禄高の場合は、当主かその代理の者が一人で参軍すれば事足りることになるのだ。

尤も、女官たちの場合は如何なる高禄を頂戴しても軍役の義務を負わないとされており、いきおい戦士としての家臣団も必要とせず、同様の俸禄を受ける武官に比せば格段に裕福だと言って良い内情があり、この意味ではネリッサの場合の二百万は、武官の場合の五百万にも匹敵するほどの厚遇だとも言えるのである。

いずれにせよ、事前にヤサウェから齎されていた諸情報にも鑑み、最高位尊厳侯と執政の間で周到に練られた人事案件は、その全てが陽の目を見ることとなった。

やがて論功行賞(ろんこうこうしよう)はカラヤニス城に入った客将たちの身の上にも及び、それぞれに然るべき禄が宛て行われて直臣たる身分が確定し、そのほかにも、反スフランツェスの旗幟を鮮明にしたことを以て格別の評価を受けた例が少なからずあり、カンタクゼノス家も又、そのことによって五十万円の禄と共に直臣の身分を得ている。

なお、のちになって丹波世界で報じられた内容に照らせば、例の黄金入りの皮袋は一袋で二十キロもの重量があったことになる上、当時のヤサウェの手許にあったそれは都合十トンにも及んだとされ、しかもその多くが惜し気も無く新帝の手許に流れ、その恩恵にあずかった者もまた多数に上った上に、例の野天の市でヤサウェの配下の手から直接支払われたものまで含めれば、どう少なく見積もっても五トンに迫る純金が、ごく短期間の内に市場に放出されたことになるとされ、それがその後のローマ人たちの消費活動に少なからぬ勢いをつけた事にはなるのだろう。

 ◆ 目次ページに戻る
スポンサーサイト


  1. 2008/12/10(水) 12:12:58|
  2. 妄想小説 主権国家|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:0
<<自立国家の建設 156 | ホーム | 自立国家の建設 158>>

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://unclejim.blog4.fc2.com/tb.php/461-344099c1
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。