日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 171

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「おい、勘違いすんなよ、誰も戦争んなるまで締め上げるなんて言ってねえだろう。第一、相手側にとっちゃプラスになることばかりなんだぞ。実際取り上げるんじゃなくて与えるんだから、そこんとこが戦前のワシントンのやり方とは根本的に違うんだ。」

「じゃ、与えるだけで奪うことはしないのね。」

「そうだ。次の一手にゃ例の債権の放棄まで考えてるんだ。これ以上のプレゼントなんて滅多にあるもんじゃあねえ。」

「例の債権って何よ。」

「二千九年の五月に、やっこさんたちが雁首(がんくび)揃えて秋津州へ交付した公債だよ。」

NATO先進諸国群が揃ってワシントンに右へ倣えをしたのだが、その諸国群の中には、不本意な政策判断を強いられたとしてワシントンにつばを吐く高官まで出ていると言う。

「あ、新領土のインフラ建設の対価ね。」

「全部秋津州円建てのやつだ。」

元々、五年物、十年物、十五年物と言うふうに分割されて発行に至ったものだったが、その後発生した激烈な為替変動により、今では債務国側の負担ばかりが際限も無いほどに膨らんでしまっており、彼等の景気の足を引っ張る元凶の一つになってしまっているのである。

「それを全部棒引きにしてやろうって言うの。」

「全部だなんてとんでもねえ。そんなことしたら付け上がる一方だろ。」

「じゃ・・・。」

「取りあえず、目先の五年物に限定して考えてるところだ。」

「ええと、五年物って言うと、確か来年の春に償還期限が来ちゃう分よね。」

その償還に充てるために、米英仏独加豪等は例外なく莫大な借金をする羽目になるのだから、その時期が近づくにつれ、マーケットがどういう反応を示すかは言うまでも無いことなのである。

「それを、元利ともに棒引きにしてやろうって話よ。」

「あ、それって、物凄い景気浮揚策になるわよね。」

全ての当事国が財政面で劇的に救われる話であるだけに、そのニュースが流れただけで、景気上昇の機運を大いに呼び込むことに繋がるだろう。

「しかし、破産しそうんなって借金の棒引きを願うんだから、普通の感覚で行けば子々孫々まで屈辱感が残るだろうよ。」

カネと引き換えに「誇り」を失うのである。

「誇り高いアメリカ人が恵んでもらうことに反発しないかしら。」

「全て神のお恵みだって思うかもなあ。」

「日本人だったら、もの凄く傷付いちゃうわよねえ。」

「あ、その話で思い出した。」

「え・・・。」

「日露戦の戦時公債の話だ。」

「あら、また突拍子も無いことを思い出したものねえ。」

何せ日露戦は、千九百四年から翌年に掛けて戦われた大戦であり、そこから数えれば既に一世紀の余を経てしまっているのである。

「んにゃ、同じ対外公債の話だぜ。」

「あ、そうか。日本は確か当時の国家予算以上の外債を発行したんだったわよね。それでもって、大ロシア帝国の圧力をはねのけて辛くも独立を保ったんだったっけか。」

「そうだ。とにかく物凄い借金だから、その後延々と払い続けたんだが、その後どうなったか知ってるか。」

「ええと、確か昭和中期まで返済を続けて、とうとう完済したんだったわよねえ。」

実に、東京オリンピックのあとまでかかったのである。

「俺たちゃあニッポンジンなんだぜえ。」

「ほんと、借金返しながら大東亜戦を戦ってたのよねえ。」

「当時の日本人たちは、借金背負ってほんとエラかったろうなあ。」

「あっ・・・・。」

妻は目を真ん丸くして見つめてくる。

「なんだ、どうした。」

「私も今の話で思い出しちゃった。」

妻の顔に花が咲いている。

「ん・・・。」

「岡部さんがネーミングを聞いただけで躍り上がって喜んだって言うオレンジプラン。」

「ほほう・・・。」

「それも、あっちのほうのヤツ・・・・。」

「ああ、本家本元の方のオレンジプランか。」

「そう、それって、確か初代のルーズベルトの頃、あの手この手で日本をへこませようって図った作戦の名前だったわよね。」

史実なのである。

「うん、日本が日露戦に予想外の勝ちを収めちゃったからな。」

「だいたい米英から見れば、アジアにおける彼等の権益を守るって意味じゃ、言わば米英の代理戦争って側面もあったのよね。」

無論、日露戦の裏面を評してるつもりなのだろうが、当たらずといえども遠からずと言うところだろう。

「うん、ロシアの採って来る無茶苦茶な南進策は、米英のアジア権益にとっても最大級の脅威だったからな。」

現に当時のロシアは、無法に占領した満州から兵をひくどころか、余勢を駆って朝鮮半島にまで触手を伸ばし始めており、しかも露韓密約によって大韓帝国は既にロシアの走狗と化してしまっていたのである。

なんにせよ、ロシアの南下圧力はどんどん増してくる。

誰かが立ち上がって押し返さない限り、日本はもとより極東の全てがロシアのものになってしまう状況なのだが、米英にしても遠方の極東にそれに当たれるほどの軍事力を派出するまでの余裕は無い。

「だから日本を応援したのよね。」

「まあ、そう単純なもんじゃあねえが、少なくとも米英仏独露が互いに牽制しあった結果だったことは確かだろうな。」

「でも、最終的には米英は日本側だったんでしょ。」

一つには、日英同盟と言うものがある。

「敵(かな)わぬまでも、日本が大ロシアに抵抗していてくれれば、その分だけロシアの強盗のような南進策が停滞して、米英の国益に適ったってわけさ。」

「ところが案に相違して、日本がロシア艦隊を見事に全部日本海に叩き込んじゃったわけだ。」

この時、ロシアの極東配備艦隊は既に日本海軍に殲滅されてしまっているのだが、そうなる前にロシアは、はるばるバルティック艦隊を派遣して極東配備艦隊との合流を目指したのである。

「うん、当時の日本陸軍は大陸でロシア陸軍と四つに組んで闘ってる最中だ。ロシア艦隊を少しでも討ち洩らしたりすれば、そいつ等が日本海をうろつきまわって日本の補給船をどんどん沈めちまうから、大陸の日本軍はたちまち日干しにされちまうんだ。だから日本海軍はただ勝っただけじゃ使命が果たせねえ。文字通り全滅させなくちゃならねえんだからそれこそ必死だぜ。その結果、戦史にも希なパーフェクトゲームをやらかしてくれたんだから世界中が腰を抜かしたんだ。」

このときの海戦は世界の注視の下(もと)に行われており、世界は日本海軍の奇跡的な圧勝を例外無く認めるに至ったのだが、それはそうだろう。

何せ、この「日本海海戦」時、ロシアの主力艦(当時の主力艦はあくまで戦艦である)数は日本の倍であったにもかかわらず、文字通り艦隊ごと全滅してしまっていたことに引き比べ、日本側はと言えば、小型漁船に毛の生えた程度の水雷艇がたったの三艘沈んだだけだったのだ。

日本海軍の飛び抜けた操艦能力が机上の戦術を鮮やかに実現せしめ、しかも圧倒的な威力を誇る火薬を開発していたことが功を奏した結果だとは言うものの、とにもかくにもこの千九百五年の五月二十七日と言う日は、言わば日本が必死の思いで独立を保った記念すべき日であり、日本人にとって忘れてはならない日となった筈なのである。

現に、秋津州の歴史教科書には、この「五.二七(ごうてんにいなな)」が特別の項目となって掲げられており、少なくとも秋津州人である以上、年少者であっても「東郷元帥」と「五.二七」を知らぬ者など一人もいないとされているほどであり、国井政権下の日本でも、この「五.二七」がようやく国民の祝日として日の目を見ようとしている今日この頃なのだ。

「日露戦って、本当は辛勝するだけでも難しいくらい、敵の方が優勢だったんでしょ。」

「そうだ。普通に見たらロシアが片手一本で勝って当然と思うほどの戦力差があったんだ。」

陸軍も海軍も、いや国力そのものに雲泥の開きがあったのである。

「本来負けるはずの無いロシアが単に負けちゃっただけじゃなくて、海軍力を見事に全部なくしちゃったわけだから、その領域から日本に対抗出来る海上勢力が突然消滅しちゃって、普通に行けば極東の海は勿論、東シナ海からインド洋にかけては、全部日本の庭みたいになっちゃうわよね。」

「うん、立地(りっち)から言えばそうなるわな。現に米英の目にはそう映った。元々本音で言やあ、日露がくんずほぐれつの死闘を繰り返して、双方ともへとへとになってくれるのが理想だったんだ。」

少なくとも、米英の狙いはその一点にあったことだけは間違いない。

実際、当時の日本は勝利したとは言え、その国力を既に使い果たしてしまっていたのである。

「ロシアを牽制する為のツールとして見ていた筈の日本が圧勝しちゃって、今度は日本が危険な仮想敵国に姿を変えちゃったわけね。」

「ルーズベルトの視界の中ではな。」

何せ日本の艦隊だけが殆ど無傷で生き残ってしまったのである。

「そこでオレンジプラン・・・・。」

無論、ワシントンの描くプランだ。

「うん、そのものずばりの対日戦争遂行計画だ。」

「そっかあ・・・・。」

「本(もと)を糺(ただ)せば、日本が日清戦に圧勝しちゃった頃に始まった対日戦争計画だったんだけどな。」

「それが、日露戦にまで勝っちゃった。」

「うん、ルーズベルトはそれで大幅に書き直す必要に迫られたっちゅうところだろう。」

当時の米国は既にメキシコの北側半分(テキサス・アリゾナ・カリフォルニア・コロラド・ニューメキシコ・ネバダ・ユタ・ワイオミング)を盗り、ハワイ王国を奪い、キューバを抑え、プエルトルコと共にフィリピン、グアムまで手にして、アジアへの足掛かりを着々と築きつつあったのだが、日露戦の結果強大な日本海軍がその針路に大きく立ちはだかる形になったのだ。

「あっちはあっちできっと必死だったんでしょうね。」

「そりゃあ、どこだって同じだ。」

既に退潮著しいスペイン・ポルトガルならいざ知らず、米英露仏独蘭などはそのいずれもが血相を変えて競い合っていたことになる。

競い合いと言えば聞こえは良いが、実際は白人列強によるアフリカ・アジア・南北アメリカ大陸への武力侵略に他ならなず、やがて、アジアにおける独立国などは、日本を除けばシャム(タイ)一国と言う事態を迎えるまでになるのだが、それらの地を奪ったのは誰あろう全て白人列強なのだ。

「それで、田中君のオレンジプラン。」

「うん、向こうさんのは War Plan Orange だが、こっちのはただのオレンジプランだ。」

戦略ではなくて、あくまで「政略」だと言いたい。

「だから岡部さんが躍り上がって喜んだのね。」

何せ、のちの大東亜戦争においては、ワシントンの描いた War Plan Orange の筋書き通りにやられてしまったと言う経緯がある。

「債権放棄を言い出したのはその岡部だぜ。」

「そっか、アブラと借金と二段構えなのか。」

「判ったか。取り上げるどころか与えるばっかりだってことが。」

「でも、せっかく漁業中心で回り始めた地域経済がご破算になっちゃうわ。」

オレンジプランが実行され秋桜海が陸地になってしまえば、少なくとも、日本の東海岸を根拠地とする漁業は一旦店じまいを余儀なくされるのである。

「うん、それなんだよな。」

「心が痛まないの。」

「だからこそ、べらぼうな予算を組んでるんだ。」

「お金の問題なの。」

「まったく・・・、おまえの言う通りだよ。」

「判ってるんなら、いい。」

「とにかく、地域住民が経済的に苦しむようなやり方だけはしないと誓うよ。」

「判ったわ。」

「それと、これは極秘中の極秘なんだが、日本側の準備が整い次第、秋桜島も日本へ割譲することになりそうだ。」

この場合の「準備」とは無論秋桜維新のことを指すが、それが成っておりさえすれば秋桜島の外資系企業にしても動揺は少ない筈であり、少なくとも急激な資本逃避が起きることだけは避けられるに違いない。

「ほんとなの、それ。」

「全て予定通りに進めばの話だ。」

「へええ・・・。」

「その結果日本は、地続きの部分だけで三百万平方キロもの領土を確保出来るようになるんだ。」

「地球時代の十倍近いわね。」

「農地基準で比べれば二百倍を目標にしてるし、個々の農地面積で言えば平均して一千倍を目指すのさ。」

その場合の新領土では、個々の農地の一区画の広さと言う点では世界一のレベルのものを企図しており、その生産性の高さを極限まで追求しようと言うのが田中の主張の本旨なのである。

「それで、どのくらい競争力がつくのかしら。」

「その時の国際経済の動向にもよるだろうが、少なくとも、保護政策を採らなくても、世界と五分に渡り合えるようにはなるだろうよ。」

平成初頭の例で言っても、経済大国である日本の農業従事者は途上国の民の数百倍もの所得を必要としており、もしそれが得られないとなれば、保護政策無くしてそもそも生業(なりわい)として成り立たないのである。

「でも、やってみなくちゃ判らないんでしょ。」

「あとは、農業技術の一層の進歩に期待するさ。」

「ふうん、期待なのね。」

「それに、秋桜島の割譲が本決まりになれば、その東海岸に例の漁協の皆さんが揃って店開き出来るしな。」

「その頃の日本本島は、北方と南方と両方に長大な海岸線を持つ事になるのね。」

「勿論、そこにも新たな沿岸漁業のチャンスがある。」

「それは、判ったわよ。でも・・・。」

「んっ・・・。」

「さっきのオイルの話だけど、そんなにばらまいちゃったらきっと暴落しちゃうわよね。」

「当然さ、だから出荷調整だ。」

「え、・・・。」

「秋津州が出荷を止めるのさ。それと秋桜海の農地が軌道に乗ったら、そっちの方も相当分が出荷調整になるだろうな。」

この場合の「そっちの方」とは無論穀物のことなのだが、但し、国王陛下の損害は甚大だろう。

「へええ・・・、そこまで考えてるんだ。」

「考えなきゃあ単なるアホだろが。」

「そりゃそうね。」

「あとは、国井さん次第さ。」

「あら、総理は反対しそうなの。」

「なんとも言えねえな。」

岡部のいる戦略管制室の司(つかさ)は例のブルドックのことでもあり、その性向から言っても大乗り気だと聞いてはいるが、現時点では、未だそのヒトの賛同を得ただけだと耳にしているのである。

「そうなんだ。」

「何せ、かなりの潔癖性だからな。」

総理は政治的に潔癖過ぎるのだ。

だから、いまだに借金抱えて貧乏暮らしを続けていると耳にするのだが、政界で頭抜けた権力を握る国井が個人的には一切貪ろうとはせず、ひたすら清貧に甘んじている姿がそこにある。

尤も、それがまた国井の個人的人気の源泉ともなっており、殊に秋桜ネットワークの面々の間に、国井への個人献金を呼び掛ける動きが活発化していると報じられているほどだ。

「ふうん・・・。」

「ま、何があってもいいように準備だけはしとくさ。」

「そう言えば陛下も、全部が無駄になっても後悔しないって仰ってたわね。」

「うん。」

陛下も仰ってる通り全て相手のある話であり、さまざまのケースに備えて胸の中の想いは火のように燃えているが、既に記念すべき元日の朝日が鮮やかに昇りきってしまっており、別室では愛児たちが勇ましく目覚めた気配がする。

妻は直ちに母の顔を取り戻して愛児のもとへと向かい、夫婦の会話にもようやくピリオドが打たれようとしていたのである。

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  1. 2009/04/22(水) 14:31:22|
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