日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 107

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一方タイラー補佐官は、海都のオフィスで一段と胃の痛みに耐える日々を送らざるを得ない。

無論、原因の全てはワシントンの反応の鈍さから来るものであって、近頃では遠く東海岸に向かって呪いの言葉を吐き続ける毎日だ。

現にあの魔王自身が、この私に向かって「我が国は、貴国の繁栄とそれに伴う貿易上の相互利益を最も大切なものと考えており、そのためにも一刻も早い貴国政府の決断を求めている。」と仰せになっているのである。

ましてその発言を、「大統領へのメッセージと取ってもらって結構だ。」とまで言ってくれたのだ。

しかし、それでなおワシントンは「決断」をしない。

いや、「しない。」と言うのは正確では無いだろう。

したくとも出来ないでいるのだ。

しかもこの状況は全てワシントンの不作為が招いたものである上に、やつ等がワシントンで呑気に民主主義を謳っている間にも、世紀末を告げる鐘は鳴り続けているのであり、その鐘の音は既に耳を聾せんばかりだ。

ワシントンの薄のろどもの耳には、それが届いていないのだろう。

現に一方であの任那までが完成してしまっており、それに伴い合衆国の新領土からも、怒涛の如く「逃散(ちょうさん)」が始まっているのだ。

今となっては、もう一人も残ってはいないのではないかと言う話すら伝わって来ており、ことは深刻だと言って良い。

我が国がその農地を管理する能力すら持たない以上、ぐずぐずしている内に、彼等が投げ捨てて行った広大な農地の悉くが荒廃してしまうのである。

ちなみに農地と言うものは、雑草がはびこり根を張ってしまうのはあっという間だが、一旦そうなってしまってからでは、元の「農地」に戻すには途方も無いコストが掛かるものなのだ。

一歩間違えれば、全て荒野にかえってしまう恐れすらあり、丹波に移住してからの食糧確保と言う側面から見ても、あだやおろそかにされて良いものでは無い。

この点一つ取っても、ワシントンの反応は鈍すぎるのである。

まったく腹立たしい。

ここ数日、悶々として眠れぬ夜を過ごして来たのはいったい誰のせいだ。

ワシントンに呪いの言葉を吐いても何一つ解決するわけでは無いが、とにかくひたすら腹立たしいのである。

要は愚痴なのだが、ときにあたりワシントンの友人から思わぬ情報が寄せられて多少の慰めにはなった。

それによると、近頃ようやくワシントンの腰が据わり始めたものらしく、州政府の主張などを一旦全て退けた上で、丹波の国土整備事業に関わるグランドデザインと称して、その一本化に成功しつつあると言う。

聞いている限りでは、そのプランにしても十通り以上もあったものを、我が大統領閣下が勇を振るって決断した結果だとは言うが、何よりもその後の作業が猛然と進んでいることだけは確からしい。

ワシントンもことが急を要することは当然認識しており、膨大な航空写真や地質データを前にして連日格闘中であることは確かで、大統領閣下も毎日点滴注射を打ちながら奮闘し、目下その詳細の詰めに入っていると言うのである。

千人を超える専門スタッフを以てしても、その青写真は未だ未だ白紙の部分を数多く残しており、その全てが書き込まれるまでには長い道のりを要すると見るほかは無いが、その未完成の青写真は内陸部における都市計画をも含んでいると聞き及んでおり、そうである以上、ワシントンは有償とされる工事部分も一括で請願するハラを固めたことになるであろう。

尤も、そうでなければ、中露印蒙はおろかアフリカ諸国にさえ追いつくことは不可能だ。

何せ、それらの国々では、無償部分に限定しているとは言いながら、多くの場合その部分の工事を既に終えてしまっており、現在はその他の部分の開発を自力で進めている状況なのだ。

彼等が自力で進める開発スピードが遅々たるものであるとは言いながら、我が国がその開発プランすら定めることが出来ないでいる以上、このままではその差は開くばかりだろう。

しかし、この状況で我が国が詳細かつ大規模な有償部分も一括で申請すれば未だ間に合うのである。

その場合でも概ね百日もあれば目処がついてしまうと聞いており、急げば彼等に追いつくどころか一気に抜き去ってしまうことさえ可能だ。

いきおい、秋津州に発注する有償の工事部分も膨大なものにならざるを得ないが、我が国が既存の競争力を維持して行くためには当然必要とするコストなのだ。

そのコスト算定に関しては、秋津州側との厳しい談判が待ち構えており、いずれにしても空前にして絶後の国債発行を余儀無くされるだろうが、何せあの日本の場合でさえ、日本円換算で千四百兆ほどの算定価額だったと聞いており、それは既に、我が国のGDP総額にも匹敵するほどの巨額なのである。

我が国の新たな国土面積が、従前に比せば大幅に縮小してしまったとは言いながら、それでもまだあの敷島の十五倍にも及ぶものである以上、その工事面積にしても我が国の場合が日本の十倍以下になるとは考え難い。

どう見ても、日本の十倍以上の建設コストを覚悟しておかなければならない筈で、無論、この見通しに関しても例のレポートに盛り込んであり、ワシントンが知らない筈は無い。

詰まり、その件も全て承知の上での決断だと見て良いのだが、いずれにしても厳しい交渉を迫られることに違いは無く、例えそれがワシントンの意に染まぬほどの高額であったにせよ、納期が限られている以上、魔王以外に引き受け手はいないのだ。

その意味に限れば、言わば完全な売り手市場なのであり、なおのこと交渉は厳しいものにならざるを得ない。

そして、名目上の交渉担当者が誰であろうと、いきさつから言って実質的にその役目を担うのは自分以外にあり得ず、そのことも胃の痛みに一層拍車を掛けてしまうのだ。

また、この交渉の帰趨を握る者は一(いつ)に土竜庵だとされており、その主宰者たる新田源一と言う男が自分にとっては大の苦手であり、言って見れば天敵のような存在だと言って良いほどで、さまざまないきさつから言っても、この私やワシントンに好意的な感情など持っている筈も無く、あの男の常日頃を見る限り、いざとなって途方も無い高値が提示されたとしても不思議は無い。

それこそGDP総額の二十倍だなどと言われたら、流石の合衆国も破綻してしまうかも知れないのである。

とにかく、あの男なら言いかねない。

当然、それに対抗するためにも、さまざまの補強材料を考慮しておく必要があるが、現状ではあの女神さまだけが頼りだ。

ときにとって、その女神さまの反応も悪く無いのである。

悪くないどころか、例のプレゼント攻勢が功を奏してか、今ではワシントンの苦衷を積極的かつ好意的に汲んでくれており、おかげで、秋津州王家の対米姿勢に新たな悪材料を感じずに済んではいる。

その上、東京にいるミセス・オカベからも同様の感触を得ており、その夫君は知る人ぞ知るあの対策室の実質的な長なのだ。

その夫婦仲も仲睦まじいことで知られており、当然、彼女が夫君の意に背いて行動しているとは考え難い。

詰まり、ミセス・オカベの見せる好意的な対米姿勢にしても、彼女が米国市民であることだけに起因しているわけでは無く、その夫君の仕切る対策室の意を含んでいると見るべきだろう。

しかも、その「対策室」自体が内閣官房の要となって動いている以上、東京政権の対米姿勢にしても推して知るべしであり、「他国の政治姿勢の如何を問わず。」とは言いながら、国井と言う人物の過去の来歴を見る限り、同盟国としての合衆国を見捨てるものでは無い筈だ。

この意味では、残り時間が少な過ぎることこそが問題なのであって、日米間に致命的な軋轢が生じているわけでは無いと見て良い。

残る問題は、カナダや豪州やEU諸国に対する対応だ。

我が国自身が情勢分析を誤って置きながら、それに気付くどころか、かえって大声で主張し、暗黙の協調を求めたことが全ての発端となっており、結局、彼らにも悲運に付きあわせてしまったことになる以上、その彼らを今ここで置き去りにすることは、最大の裏切り行為と看做されてしまうことは避けられず、その全てを同時に敵に回してしまうのは戦略上如何にもまずい。

かと言って、ワシントンは最早自らのことで手一杯で、とてものことに彼等を援護するどころの騒ぎでは無く、ここにもワシントンの苦悩がある。

現に、タイラーのオフィスにも英仏独豪加などの代表部から悲鳴にも似た声が届き始めており、既に対応に窮することもしばしばだ。

彼等からすれば、ワシントンの音頭に合わせて盆踊りを踊っている間に、丹波における開発競争に出遅れてしまったことになり、それが実態である以上、当然言いたいことは山ほどにあるだろう。

実は、それらの件に絡んで重要なアポを取ってあり、これから外出の予定だ。

例のサザンクロスに重要人物を招待しており、そろそろ正装してお迎えに出向かねばならない。

いよいよ新たに購入した最高級リムジンの出番であり、正客は例の女神さまとその連れだ。

本来女神さまを通してお誘いしてあったもう一人の正客は例の美貌の秘書官だった筈が、急遽変更となったばかりか、それに勝るとも劣らないほどの重要人物を紹介したいとの仰せだ。

その結果、リムジンにお迎えした客は実に意外な人物で、ハンドルを握るジムも驚いていたが、この私も驚いた。

その「女性」がミス・タキ・アキモトにそっくりの若い女性であって、しかも実に特徴ある軍装を身に着けていたからだ。

それは、昨年の建国記念式典で見かけた目も絢な「かんなぎ」姿そのものであり、それも金色燦然たる太刀を佩いた見るからに颯爽たるものであって、殊に重ね着した薄手の千早との組み合わせは噂の「かんなぎ旅団」の中でも高級仕官専用のものと聞いており、聞けば彼女はこの若さで旅団長職にあるらしく、しかも、その旅団は十個連隊に大規模な輜重部隊が付く編成だと言うのだ。

ちなみに秋津州の軍制における一個連隊とは、それだけで既に二十一億にも及ぶ大兵力であり、彼女の指揮する旅団はそれを十個常備している上に、途方も無い規模の輜重部隊まで併せ持つ大部隊だと言う。

彼女はその名もアキモト中佐だと名乗り、秋元姉妹とは遠い縁類ではあっても、れっきとした秋津州人だと仰るが、それはそれで良いとして、現在彼女に与えられている任務の一端が、ワシントンにとって極めて重大であった。

何と、丹波における全ての工事一切をマネージしていると仰るのだ。

いきおい、サザンクロスのテーブルに着いてからも懸命な接待は続かざるを得ない。

店のマネージャーに命じて、特別ルームを用意させ、充分なプレゼントも準備した。

このレベルの相手なら、少なくとも我が新領土における巨大事業に関しても、信頼すべきデータを持っておられる筈なのだ。

こちらの知りたいことは、偏にその納期とコストなのだが、残念ながらその工事の内容自体が未だ不明なのである。

発注内容が不明では如何なる建設会社であっても、納期やコストなど推し量ることすら出来ないだろう。

したがって、例え非公式なものであっても是非ともその概要は掴んで置きたい。

ジムに耳打ちして現在ワシントンルートに接触させてはいるが、この場には間に合わないだろう。

第一、そのワシントン自身が、それについて未だ確定していない可能性が強いのである。

詰まり、具体的な質問を発するには決定的にデータ不足なのだ。

しかし、今回掴んだこの人脈はワシントンにとっても特別に価値のあるものであり、今後のことを思えば充分な応接を心掛けねばならない。

タイラーの職責から言っても、基本中の基本と言うべきものなのだ。

眼前の旅団長は煌びやかな軍装のまま、終始鷹揚な笑みを湛えながら、実に物静かな応対をしてくれており、並んで座った女神さまとはほぼ対等の言葉遣いを以て接しているように思える。

尤も、こちらの推測通りなら、対等も何も、この秋津州軍人の正体は秋元姉妹の四女であり、今も新田氏の秘書を務めている秋元涼氏の直ぐ下の妹に当たり、目の前の女神さまにとっては一つ違いの姉に当たる筈なのだ。

詰まり、二人はれっきとした日本人姉妹だと言うことになり、まして一つ違いと言うことは、幼い頃から常に最も身近な存在として、濃密な触れ合いの中で成長して来ていることになる。

この意味でも、二人の間に遠慮などある筈がないのである。

また、日本人秋元滝氏になら、女神さまを通じて以前にも高価なプレゼントを贈ってある筈で、要はこのような環境の中で今日のこの席が持たれたものと見て良い。

タイラーは、今まで続けて来た思い切ったプレゼント攻勢が、決して無駄ではなかったことをつくづく思い知るのである。

何故なら、材料不足で確たる返答を期待出来ないと思いつつ発した問いに対してさえ、思いもよらない答えを聞くことが出来たからだ。

無論、「納期」に対してだ。

旅団長閣下(未だ将官では無い以上、閣下と呼ぶには相応しくは無いが)は仰る。

「このたび完工した任那に準ずるレベルの工事なら、貴国の領土の範囲や地域風土に照らして、百か日ほどで竣工させる自信がある。」と言う。

当然、詳細な青写真の提示あっての話ではあるが、その工事の全てをマネージする責任者自身の言葉である以上、その重みはワシントンにとっても軽いものでは無い筈で、早速新たなレポートを起草せねばなるまい。

なお、建設工事のコスト算定に関しては、「本職の責めにあらず。」とのことで、当然と言えば当然のお答えではあった。


さて、敷島の開発事業が二月の十五日になって完了し、少なくとも一般の日本人の間では、その報せは驚きを以て迎えられた筈だ。

その大事業は近頃爆発的に進捗していることで知られてはいたが、その規模から言って、実際の完成は未だ先のことだと思われていたからだ。

それにしても、秋津州軍団の威力は凄まじい。

しかも、今回は高々四十万平方キロでしかないところに、二個兵団と言う途方も無い兵力を一挙に増派したのである。

その威力たるや、想像を絶するものがあったに違いない。

国井政権が描き切った青写真が、無限の資源を消費しながら、まるで箱庭を造るような手軽さで見る見るうちに実現されて行くさまは、ただただ圧巻と言うよりほかは無かったろう。

その模様は、舞い上がる砂塵に遮られて不鮮明ではあったにせよ、これまで散々に報じられて来ていたのである。

例によって秋津州商事の巨額の宣伝予算が大いに功を奏し、一般庶民にもその情報がふんだんに提供されていたところに聞こえて来た完成の報だ。

熾烈な国際競争の中にあって、王の直轄領を除けば世界に先んじたことだけは確かであり、敷島に翻る日の丸に接し、地鳴りのような大歓声が列島の空を覆ったのも当然のことであったろう。

新たに日本が持つことになったこの領土は、任那ほど完璧な完成度は持ちあわせてはいなかったが、その代わり民需用と思しき更地(さらち)が、首都圏においてさえ全体の九割以上を占めて広がっていたのである。

それらの更地は全て整然と区画整理がなされ、その隅々に至るまで舗装道路が伸びている上、その全てに地番が打たれていたことにより、行政側の態勢が整い次第、即刻怒涛の払い下げが始まったとしても不思議は無い状況にあると言う。

それも、敷島本島から遠く隔たった離島であっても同様だと言うからには、取りも直さず、敷島では山深い山間地から津々浦々に至るまで、それこそ一筆残らず地籍図と地籍簿が完成していたことになるであろう。

事実、この地籍調査は離島の端々に至るまで実施済みだったことが、のちになっていよいよ明らかになって来るのだ。

現実に大地の担保価値が急激に上昇しつつある首都圏においてなどは、いきおい土地に対する活発な需要が喚起され、それに対する投機熱が異常なほど高まって来ていることは確かで、殊に事情を良く知る者の目には、ことが本格的に動き出したあとに起こる急速な発展劇は既に自明のことだった筈だ。

その新たな首都圏の都市計画は将来の更なる発展に重きを置いているとされ、ましてその領域が既存のものに倍する面積を持つこともあって、全てにわたって実に余裕のある設計がなされていた。

その領域における主要幹線道路と橋梁などは、戦車の行軍にも立派に耐え得るほど頑丈な構造を持ち、環状道路を除けばほとんどの道路が直線を以て基調としている上、例え裏路地にあっても、大型の消防車が余裕を持って通行出来るだけの道幅を要求しているほどだ。

何しろ、全て原野か原生林だったところを切り拓いて建設されたものばかりであり、その上首都圏ばかりか全土が官有地だ。

道路をどこに通そうと、どんなに広い道幅を確保しようと、どこからも苦情の出る恐れは無いのである。

農地の畦道や山間地の杣道(そまみち)を除けば、道路と言う道路が、全て充分な道幅を具えているのも当然のことであったろう。

空港や港湾などさまざまな公共施設がそれぞれ目を見張るほどの威容を誇っており、無論官公庁用のビルや皇居と目されるものも立派に竣工している上、噂では各地の官公庁の地下深くには、核シェルターを兼ねるほどの機能を持った巨大設備まで整っていると囁かれた。

全国の繁華街候補地付近には、それぞれ壮大な規模を以て地下駐車場が完成しており、首都圏に至ってはそれが数百箇所もの多くを数え、曲がりなりにも都市部の駐車場不足に対策が打たれようとしているほどだ。

ちなみに近頃の日本では、内燃機関を持つ車両は既に市場から淘汰されつつあり、少なくともそのタイプの車両の新規生産はほとんど行われてはいない。

現に、街中(まちなか)のガソリンスタンド経営などとうにペイしなくなって来ており、このままではその産業の斜陽化に益々拍車が掛かることは明らかで、数年後には壊滅してしまうだろうとまで言われているほどだ。

詰まり、石油燃料を使用する内燃機関を持つ車両はうっかり遠出などすれば、給油が出来なくなってしまう事態が待ち受けているのである。

そのような車両をわざわざ生産するバカはいないだろう。

何せ、秋津州から出荷されるPMEのパリエーションは益々多様化の一途を辿り、既に二輪車用ですら万全の品揃えを誇っており、ガソリンエンジンの退潮は決定的だと言われているほどだ。

このような状況から、敷島において新規に出店されるガソリンスタンドの数は、極めて僅かなものにならざるを得ず、したがって、排気ガスを放出する自動車そのものが激減すると予測されている以上、近未来の地下駐車場の利用価値も益々高まって来るに違いない。

また、敷島自身が天然ウランの鉱脈は勿論、優秀な油田地帯まで豊富に持ちながら、驚いたことに、原発や火力発電所などは只の一箇所も見当たらないと言う。

発電所と言う発電所はPMEタイプのものばかりであり、その発電能力も日本列島の例と比べれば三倍ほどにあたる上、中でも優れて特徴的であったのは、それらの設備の大多数を将来市街地となるべき地域に集中的に配置することによって、送電中のロスを大幅に防いでいることだったろう。

その上、大規模な公共施設がそれぞれに個別の発電設備を初めから具えていると言う。

無論、予備電源のことでは無い。

変電機能をも併せ持つ、本格的な発電所と言って良いほどのものばかりなのだ。

周知の通りPME型の発電設備は大した場所も取らず、騒音はもとより特別の高熱も発生させないのである。

首都圏だけを見ても、首相官邸はもとより、行政官庁や都庁と思しき建造物までが、そのそれぞれに複数のPME型発電機を備え、地方においても同様だ。

その上、王の直轄領と同様に、多くの場合地上に電柱と言うものが見当たらない。

少なくとも市街地とその周辺には長大な地下坑道が随所に走り、地下鉄は勿論、ガス管や上下水道や通信ケーブルなどと共に、全ての送電線が地下にあることになる。

まして、公開されている映像だけでも、治水用の巨大な地下水槽などが幾つも登場して来るありさまで、近代都市としての基礎的な機能は極めて高いと評価されるに至っている。

それに、肝心の国土防衛に関してもそれなりの手当てがなされ、充分な滑走路を具えた軍事基地と演習場が各地に余裕を持って確保されており、既に先遣隊が駐屯しているところさえあり、一部の拠点では、例の飛行するポッドに格納された戦車の姿まで散見されると言う。

無論制空権を握っていればの話だが、これによって、ごく短時間で数百キロの彼方にまで戦車部隊を展開することが可能とされ、それはまさに、少数の戦力を以て広範囲の守備を担うにあたり、欠かすことの出来ない機能だとされている。

統合幕僚監部においては、この戦車自体のPME化を目指していると言われるが、大馬力化と軽量化を同時に実現し、おまけに燃料が不要である利点を持つそのマシンこそ、究極の戦車だと語る制服組が多い。

何せ戦車と言う兵器は、僅かな移動においてすら、ドラム缶単位の燃料を消費してしまうものであり、万全の燃料補給態勢無しには、単独での長距離移動には耐えられない宿命を持つ。

多少短絡的な言い方ではあるが、直ぐにガス欠になってしまうのだ。

無論各国共に研究に余念が無いが、そこに現れた秋津州のPMEだ。

放っておけるモノではないだろう。

現に欧州の一部などでは、PME型原動機を用いることで、フル装備で五十トンと言う軽量化に成功し、平均時速百二十キロと言う猛スピードを保ちながら、三十六時間ものノンストップ走行を実現して見せた試作車まで存在しているのである。

統合幕僚監部にしても、予算さえ許せば戦車に限らず全ての軍用車両に採用したいところだったろうが、そこに持ち上がったガンマ線バースト問題であり、新領土の国土防衛問題である。

何しろ、この敷島が新たな日本領となったのが昨年の十一月のことであり、新領土に割り振れる戦力は依然として僅かでしかない以上、ひたすら効率的な配備が求められており、統合幕僚監部にとって実に頭の痛い課題となってしまっているのだ。

とにかく、無い袖は振れない。

しかし、統合幕僚監部の権限外のところで政治的に配備を削られた領域も無いではない。

現に、敷島と言う国土の最南端に位置する琉球島には、ごく小規模の駐屯地はあるにせよ、本格的な軍事拠点は設けられてはおらず、その計画すら無いと言うのである。

その地の緯度と気候風土から見て、その島が専ら現在の沖縄地方に擬せられていることに鑑み、敢えてその配備を政治的な配慮から避けたのだろうと言う者もいるが、一方に敷島の琉球島の場合、現在の沖縄とは違い、単に地政学的に軍事基地の必要性が薄いだけのことだと言う者もいる。

何せ、一旦丹波の世界地図を開いて見れば、琉球島の西南方面には秋津州連邦の中核を以て自ら任じている台湾共和国があるだけで、その国が親日秋路線を以て国是としている現実がある以上、その方面に日本にとって脅威となるような存在などまったく見当たらないのだ。

新日本にとって重要なシーレーンは少なくとも南方には存在せず、単に軍事上の要求が乏しいだけの話だと言って良い。

国井総理は、「防衛戦力」と言う限られたリソースを有効に使用しようと努めているに過ぎず、その結果琉球島に本格的な軍事施設を配備しなかったまでのことで、現実の沖縄県民の基地撤去要求の声が大きいからでは無いのだ。

結局、その島に仮に現在の沖縄県民が移住することになったとして、彼等は今後、基地経済とは全く無縁の日常生活を送らねばならなくなるのだが、そのことこそが、真に重大な問題だとする声が聞こえて来るほどなのである。

詰まり、その地の経済がそのままでは立ち行かなくなることを懸念して、その根本的な解決策の必要性を提議していることになるのだが、いずれにしても、その地域が基地抜きで立って行けるだけの経済力を持つためには、相当の覚悟を以てことにあたる必要があり、観念的な理想論を唱えているだけで地域経済が成り立つほどなら、誰も苦労はしないと説くのである。

また、敷島全体を見渡せば、今のところ殆どが官営だとは言いながら、近代的な高層集合住宅が各地に多数姿を見せており、その周辺の文教及び医療施設なども大いに整い、加えて秋桜の緊急避難用の住宅設備が別途控えている今、少なくとも、これで最低限の受け入れ態勢は整ったと見る者が多い。

これによって、官邸と土竜庵の抱える次なる課題は、いよいよケンタウルスの真実に関する公式発表の一件を残すのみとなり、詰まりはその実施時期の判断だと言うことになって来た。

現状における新領土の存在意義は、事情を知らない一般の日本人にとっては言わば未来の別荘地のようなものでしか無いが、実際には辛い現実が目前に迫っているのだ。

彼らにとって文字通り明日の居住区とせざるを得ない現実であり、まして、その公式発表が行われて、初めて敷島への移住の必然性を覚悟させてくれるのである。

丹波への移住プログラムの詳細については、問題の公式発表と同時に全て国民に明示する方針でおり、そのときには敷島特会の資金調達能力に頼らざるを得ない現実がある。

何せ、国民の全てが同時に最大級の激甚災害に見舞われることになるのである。

税収を云々する前に、膨大な災害対策費を必要とする現実があり、ときにあたって、敷島特会の財政出動が国家の復興に大きく寄与してくれるに違いない。

かてて加えて、膨大な秋津州人の医療スタッフが敷島に配備され、充分な医療施設と備蓄食糧の用意まで終えようとしている今、先発させる自衛官と共に、警察官や消防官の配備が順調に進めば、治安の乱れと言う最大の懸念も払拭出来る筈だ。

無論、岡部の指揮する「対策室」も万全の態勢を以てことに臨み、舞台裏から移住作戦を強力に支えようとしており、そのための戦力を語るにあたり、日本人秋津州一郎氏の存在が途方も無く大きい。

その人物の指令によって、官邸は初めて優れて実効的な戦力を持ち得るのだ。

それは全て秋元京子氏の指揮するヒューマノイド部隊であり、現に、その一部が敷島の農地の管理の任にも就いており、問題の真実が公表された暁には、日本人に対する農地の分配作業を黙々と下支えすることになる。

その農地自体、従前のものに比して五倍以上の耕地面積を誇っており、分配の方法如何では優れた生産性を確保することも可能とされており、それはそれで決して小さな課題では無いだろう。

また、既存のものに倍するほどの行刑施設まで多数設けており、無論官舎等も用意済みであることから、国井は刑務官たちと共に受刑者たちの移動を真っ先に実施する予定でおり、次いで傷病者や出産を間近に控える妊産婦の移動に移り、そして既に完璧にマーク済みの独居老人たちを移したあとで、自力で集合地に移動して来れる健常者たちと言う手順だ。

官邸の対策室では、日本国籍を有する者及び国籍を有さなくとも、属人的な意味合いで日本人であると認めた者に対しては、それぞれユニークなシリアルナンバーを付して完璧にトレースしているつもりでいる。

そのシリアルナンバーの一つ一つには、それぞれ固有の属性情報が多数付随し、そこには氏名や生年月日、その上顔写真や指紋はおろかDNA情報まで格納されるに及び、いきおいデータの全体量は途方も無く膨大なものにならざるを得ない。

まして、日々刻々と入手するデータによって変更と更新が行われ続け、挙句物故者のデータも以後半世紀は保持する方針であるため、増えることはあっても決して減ることは無い。

この事もまた国井や新田が決断した脱法行為の一つではあったが、不思議なことにそのデータ自体は、官邸のサーバーどころか、いずれのマシンの記憶装置の中にも一バイトも記録されていなかったのだ。

官僚達の解釈によれば、それはどこにも「記録」されること無く、偏に秋元京子女史の脳内に「記憶」されているに過ぎないことになるらしいが、岡部達の発する問い合わせ要求に際しては、女帝の配下のデスクに置かれた窓の月の特大モニタに、瞬時に関連データが展開表示される仕組みだ。

結局、そのデータベースに「国民」とそれに準ずる者として登録された者に限り、優先的に日本政府の「保護」を受けられる態勢が出来上がっていることになるが、その「保護」の意味するところには、例の避難移住に関する一切のサポートをも包含しており、地球を脱出するに際して、例のアクセスポイントのグリーンゾーンへ立ち入る権利一つとっても、このシリアルナンバーがものを言うことになるのである。

その点、よほど厳格に選別して移送しなければ、他国の民を新たな日本領に拉致したと非難されてしまうこともあり得る。

日本政府が、日本人以外の者を自侭に移動させてはならないであろう。

そのためにこそ、彼等のグリーンゾーンへの進入を阻むのだ。

そしてそのグリーンゾーンを含むアクセスポイントの数々は既に完成を見ており、その付帯設備にしても、ようやく完成の目処が立った今、あとは移住レースのスタートを告げる号砲を撃ち鳴らすばかりだ。

国井は、非常事態宣言に伴い国民の管理態勢の確立を目指し、日本人の海外居住者に対する強制帰国まで意図しており、混乱を最小限にとどめるためにも、そのプランは全て現実的な具体策で満ち溢れ、今もなお変更と更新を重ねつつ粛々とその日の訪れを待っているところだ。

だが、全てが順風満帆かと言えば無論障害が無いわけではない。

国井にとって先進各国の足並みの乱れこそ最も懸念とするところであり、殊に北米やEU諸国のこれ以上の出遅れは、巨大市場の喪失に繋がり、このままでは日本経済にとっても大きなマイナス要因となってしまう。

詰まり、日本の為にも彼等の背中を押してやる必要があることになる。

国井の見るところ、ワシントンでもいよいよ独自の青写真を決定しようとしており、大統領の決断さえあれば、少なくとも技術的には、明日にでも国土整備事業の支援要請を出せる状況にある筈だ。

やきもきしながら白頭鷲の出方を見ている豪州やEU各国の動静もあり、いよいよその辺りの調整にも力を貸すときが近づいていると見ている。

現に英仏独などは、とうに堂々たる青写真を用意していることも判って来ており、その点国際間に生じる軋轢も目に見えて高熱を発し始め、既に臨界点に近付きつつあると言って良い。

そのことが国井に更なる決断を迫っており、土竜庵との頻繁なやり取りは、いよいよ日本の立場を鮮明にする時期が近いことを示唆していると言って良いだろう。

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  1. 2007/10/18(木) 14:19:26|
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