日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 108

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二月の十八日に至り、例のサンノショウで秋津州ロイヤルホテルが竣工し、その落成の宴はさこそと思わせる顔ぶれで賑わったと言うが、その中に肝心の魔王の姿を見ることは無かったと言う。

そもそもサンノショウと言えば今や高名な歓楽地で、秋津州の慣習法が売春や賭博行為を禁じていないことを良いことに、膨大な観光客を集めながら、今なお急速な発展を続けている街だと言って良い。

そこは強固な岩盤が標高三百メートルほどの台地を形成し、しかも一千平方キロにもわたって広がっており、自然水周りが悪く元々農耕には不向きだったことも重なり、長らく人の棲まない場所だったと聞く。

ところが、ここに来て八雲の郷が丹波世界の中心として俄かに脚光を浴びるに至り、その首邑に近接する割りに格安の地価が人気を呼び、多くの海外資本が急激に進出を果たした結果、立ち並ぶ不夜城が昼夜を分かたず煌びやかなネオンを輝かせ、類例の無い一大歓楽街を成立させたと言って良い。

そこに遅れて進出して来たのがこの秋津州ロイヤルホテルであり、その施工は大和商事が担い、驚くほどの短期間で仕上げてしまったことで多少の話題とはなった。

その瀟洒なホテルは独特の高級感を持ち、高額の料金体系を打ち出しているにもかかわらず、それが逆に一種のステイタスと看做されて相当の前評判を呼んでいたが、一方で同業他社とは一線を画す営業目的を持つのである。

それが魔王を誘い込み篭絡することにある以上、あらん限りの趣向を凝らし、美味なる餌をふんだんにまいており、今回の落成式にしても魔王の来臨を願ってさまざまな働き掛けを行って来ていた。

タイラーにしても、女神さまを通じて丁重な招待状を送付してはいたが、実はそれ以上に美味と思われる餌の用意も無いわけではない。

本国にいるミス・ヒューイットのことだ。

タイラーの所管の内で充分に保護を加え、今も三人の女性スタッフに付きっ切りで世話をさせながら、懇切極まりない意識誘導を施しているところなのだが、そこに来ての秋津州ロイヤルホテル作戦であり、辛うじて今回は退けたが、下僚の中にはその出動をさえ献策して来る者がいたほどだ。

その少女は未だ十五歳に過ぎないが、その学区の学制のあれこれもあって当時五歳で入学を果たした上飛び級まで経験したため、既に堂々たる十二年生であり、今年の夏にはハイスクールを卒業して進学を目指していると聞く。

だが、近々移住して行く先は未開の原野と原生林が広がるばかりで、総合大学どころかエレメンタリースクールすら存在してはいない。

国家が未曾有の危機を迎えてしまっているのである。

今後、合衆国は数々の苦難を乗り越えて行かなければならず、全てはそのための「作戦」である以上、全国民が一致協力してことにあたらねばならないのは当然だが、この秋津州ロイヤルホテル作戦は恒常的に継続されるべき作戦の一つに過ぎず、その一環としての落成記念レセプションでしかない以上、タイラーとしてはそればかりにこだわっているわけにも行かなかったのだ。

しかも、今はそれ以上に重大な任務を遂行中だ。

実は、未だ非公式の扱いではあるが、秋津州の外事部に我が国の国土建設プランを提示して、そのコスト算定に関する反応を待っているところなのだ。

言い切ってしまえば、工事に関する見積りと納期の提示を待っていることになるが、仮にその納期が十年後であっては、見積価額が多少低廉であってもほとんど無意味であり、そのくらいなら、全て自国の建設業者に発注した方がはるかに国益に合致することは言うまでも無い。

然るに、こちらから提示した青写真は、デジタル化されているとは言いながら膨大なものであり、目下秋津州側の確認作業が続いている筈だが、我が国の専門家と称する者の見通しでは、そのデータを全て確認して建設コストを算定するには最短でも二ヶ月は掛かる筈だとされている。

何しろその青写真には全土にわたって精緻な書き込みがなされており、その内容に関して説明を求められることまで想定し、即座に対応し得るような技術陣も多数待機させているほどで、その建設工事の巨大さから見ても膨大なコストを覚悟せねばならない。

その工事には、新たなワシントンDCにおける主要な建造物は勿論、各州政府の官公庁用の建物まで多数含まれており、原野を切り拓いて建設する道路一つとっても、その総延長は数百万キロにも及ぶと言う実に途方も無いものなのだ。

空港や港湾、そしてPMEタイプの発電所にしても、それぞれ膨大な数の建設を含んでおり、当然壮大な資源と作業量を要することから、ワシントンの一部には、あの日本の前例に照らし、その二十倍ほどの価額を予測する者が少なくない。

日米両国の工事内容を客観的に比較検討した結果がそれを主張していると言うが、何しろその決定権の多くが又してもあの新田源一氏の手にあるのだ。

そうである以上、心優しい回答などとても望めないと言う者が多く、その者たちの予測では、日本の場合の三十倍以上の算定値が返って来ることになっており、そうなれば、我が国の財政は到底その負担に耐えることは出来ず、したがってフルヴァージョンの「発注」も出来ないことになると言って嘆くのだ。

そうなれば、無償支援の部分に限定した工事になるか、或いはそれに僅かに上乗せをした発注で済ませるほかは無く、いずれにしても多くの諸国家の後塵を拝さざるを得ない。

くどいようだが、近代国家にとって鉄道や道路や空港等の交通網と電力供給能力などは、情報の伝達手段とも相俟って、経済活動を賦活させる道に直結してしまうことから、それらのインフラ整備に後れを取ると言うことは、国家間の経済競争においても後れを取ることに等しい。

多くの場合、国家の経済力は国力そのものであり、ひいては軍事力一つとっても、その経済力に頼らざるを得ない以上、国家としての死活問題だと言って良いほどなのだ。

新天地においても、せめて秋津州に次ぐ位置を占めたいと願う今、ワシントンにとって、これ以上重大な案件は他に無いことになる。

本国からは、多数の属僚を引き連れて国務長官自らが来訪して、積極的にことにあたる姿勢を見せており、昨日秋津州側と形だけの外相会談を持ったが、いきさつから言って実質的な交渉は全て自分が取り仕切らざるを得ないだろう。

無論全力を挙げて情報収集に当たっており、例の女神さまとも頻繁なやり取りを続けているが、その結果驚くべき感触を得るに至っている。

我が方の技術陣の意見では、秋津州側の第一次回答を得るまでには、少なくとも二ヶ月を要するとされていたものが、直近の女神さまの反応では、程なく概算の算定値が返って来ると言うのである。

算定内容までは不明だとは言うが、それにしても、相手側の情報処理能力が並外れたものであることを、改めて思い知らされることにはなった。

いずれにしても、必死に再考を求めざるを得ないほど厳しい算定値が伝えられる筈で、最低でも日本の二十倍は下らないものになると予想しており、したがってその後も辛抱強く交渉を積み重ねて行くことになるだろう。

タイラーに許されている予算の上限が日本の十倍ほどのものであり、第一次回答でそれが満たされると予測している者など一人もいない。

まして、一日伸びれば一日分だけ他国に後れを取ることになり、本来少しの時間も無駄に出来ない状況にあり、しかも秋津州に依頼するほかに方法が無い以上、誰しもが、国家の存亡を掛けて、ぎりぎりの鍔迫り合い(つばぜりあい)を演じて行く覚悟を固めているのである。

なおかつ、意外な情報も入って来ていた。

何と、東京政権がここ数日かなり積極的な動きを見せていたと言う。

ワシントンに対しても、懇切なアドバイスを添えて一刻も早い「決断」を提言して来ていたと言い、日本政府の対米心象が極めて良好なものであり続けていたことが、ワシントンの消極的な思考法を劇的に払拭してくれたらしく、結果的にそれが今回の「決断」の尻押しになったと言う者も多い。

あの日本が、動きの鈍いワシントンの手綱を握り、強引に引いてくれた結果だと言う者までいるほどで、磐石の日秋関係がある今、東京のこの積極的な動きが、ワシントンにとって心強いエールとなったことだけは確かだ。

東京の意を体した土竜庵も又機敏に動き、EU諸国や加豪などに対しても好意的な感触を伴うシグナルを発したと言う。

それも、相当強力な光を発するものだったらしく、その結果、それらの国々からも詳細な建設プランが提示されるに至っており、当然それらの国々も足摺りする想いで土竜庵の算定作業を見詰めている。

それらの国々にとっても国運を左右するほどの案件である以上、いずれの国の担当者たちも、当分眠れぬ夜を過ごさざるを得ないだろう。


だが、驚くべきことが起きた。

あり得べきか、土竜庵がたったの二日で結論を下してくれたのである。

しかも、その回答には予想を大幅に下回る数値ばかりが並び、合衆国の場合などあの日本の三倍ほどでしかなかったのだ。

大方の予想の十分の一程度であり、どう考えても魔王の好意としか思えない。

他の国の場合も予想を覆す安値ばかりが並び、通常の商取引の場合なられっきとした不当廉売だと呟く者までいたくらいで、少なくとも魔王が、天変地異を利用してビジネスにしようとしているわけでは無いことを知った。

無論、異議を唱える国など一国も無い。

異議を唱えるどころか、これで救われたと叫びながら小躍りして喜んでいる者ばかりであり、ワシントンなどは、あまりの幸運に茫然としてしまったほどなのである。


二月二十日、合衆国はもとより、関係各国が揃って国土建設依頼の請願書を公式に奉ることになり、その願いは即座に受理された上、例によって怒涛のような秋津州軍の進駐に伴い一斉に建設工事が始まった。

「受理」された事実が外事部を通じて公式に伝えられ、その直後にそれが開始されたと言う。

外事部のアナウンスによれば、今次の作業の為に派出された総兵力は六個兵団だとされ、その半数ほどの兵力が合衆国とカナダに派出されている模様で、設計の中途変更さえなければ、少々の雨天が続いても納期が遅れることは無いとされた。

一応の納期は秋津州暦日の六月末日とされてはいるが、それが少しでも前倒しになることを願うばかりだ。

いずれにしても、秋津州軍団が行う建設事業の作業効率は実に恐るべきものであり、そのためには想像を絶するほどの資源が投入されることは必至で、その圧倒的な補給能力が魔王の力の最大の源泉でもある。


その間、予想もしなかった情報まで入り始めている。

なんと、あの大コーギル社が世界中で建築資材を買い漁っていると言うのだ。

無論その総指揮はあのミセス・オカベが執っている筈であり、その買い付け品目は、鉄やセメントの材料を中心に、木材や良質の玉砂利などにも及び、総予算は何と十兆ドルだと言う。

それも、単なる「投機買い」などではない。

少なくとも、膨大な「実需」が発生して、巨額の資金がマーケットに注入されようとしていることだけは確かであり、このことによって危うく窮地を救われた業界も少なく無いとされる。

その納入先は大和商事に違いないと囁かれる中、今度はその大和商事自身が、丹波において膨大な社債を発行するのではないかと言う情報が流れた。

無論秋津州円建てだが、その総額はドル換算で五十兆ドルだとも言われ、このアナウンスに応じようとする者が、一の荘に殺到する筈だと言うアナリストが多かったが、情報が錯綜する中、社債と言うのは誤りで、年利五パーセント付きの単なる借り入れだと言う話にすり変わってしまい、その需要額だけは変わらないとされた。

担保もある。

それは、日米欧諸国が近々秋津州に交付する筈の例の国債であるらしく、秋津州円建ての額面総額はと言えば、どう少なく見積もってもドル換算で五十兆は下らないのである。

それらの国債に多少の値崩れはあるにしても、魔王個人の人的保証も付加されると聞いている今、貸付先としては、これ以上無いほどの相手であり、世界の金融市場が目の色を変えてしまって当然だ。

額が額なのだ。

かつて日本の秋津州商事が、宣伝費用の調達と称して巨額の借り入れ計画を発表して大騒動になったことがあったが、今次の大和商事絡みの話は実にその一千倍にも及ぶ巨額なのである。

しかもその大和商事なる企業は、あの新天地においてとうに活発な経済活動を展開している上、その規模は算定すら躊躇させるほど巨大であり、そのオーナーも知れている。

この意味では、秋津州帝国の国営企業だと言っても誤りでは無いほどで、現に、日米欧各国が発行する新国土建設国債を担保にすると言っているのだ。

世界の金融資本が来るべき大異変を大過無くやり過ごす意味でも、この資金需要に応じて少しでも大きく貸し込むことによって、膨大な資金を安全かつ有利に新天地に移すことが可能となるのである。

やがて先進各国の金融資本の全てが、それぞれに巨大なシンジケートを組み始めるに違いない。

何しろ、一円でも多く貸し込むことが出来れば、その分だけその銀行の格付けが上昇してしまうような、一種摩訶不思議な市場環境が出来上がってしまっているのだ。

一方で秋津州円の通貨供給量が極大化しつつあるとは言うが、為替市場におけるその独歩高傾向が一向に衰えを見せない現実がある以上、秋津州円建ての国債の担保価値がさほど下落するとも思えない。

尤も、日米欧の諸国が経済的に破綻してしまえば、その国債も只の紙くずになってしまうのだが、その場合でも魔王個人の人的保証と言う強力な担保だけは残り、その魔王自身が破産してしまうことなどあり得ないとするアナリストは溢れるほどにいる。

最悪のケースでも返済期日を延長しさえすれば、最後は荘園の生み出す際限も無い資源が、新たな価値を次々と生み出してくれると言うのだ。

貸し出し元は、その間も悠々と利ざやを稼ぎ続けることが出来るのである。

銀行団にとって、これほどまでに好条件のビジネスチャンスなど二度と巡っては来ないと言う。

例によってメディアなどは、このビジネスチャンスをひたすら価値あるものと論評してマーケットを煽りに煽っており、その上コーギル社の買い付け騒ぎに関しても、さまざまに解釈する者が頻出した。

一つには、国王陛下があの荘園を持つ以上、今さらこのような買い付けをしなければならない理由は希薄であり、そうである以上、かのお人の真の目的は別のところにあるとする見解がある。

あるどころか、近頃は、その見解が主流となりつつあるくらいだ。

結局、国王陛下はひたすら世界経済の活性化を図っておられるとする、好意的な解釈ばかりで報道が溢れ返り、タイラーの目にさえ、魔王が世界経済の足腰を少しでも強化しようとしていることが、最早紛れも無い真実に見えてしまうほどだ。


さて、丹波での工事がいよいよ以て爆発的な勢いを示すに連れ、当然のことながら、地球上ではその模様がうるさいほどに報じられることとなった。

一つには、今回一斉に「受注」した工事区域が、北米とEU及び豪州と言う、どちらかと言えば工業先進国ばかりに集中していたこともあって、その報道価値が極めて高いと看做されたこともあっただろう。

視聴者の数からして、途上国とは天地ほどに違うのである。

元々その事業は、工業先進国の間では当初から注目を集めて来ており、したがってその認知度もなかなかのものだった筈で、殊に道路や港湾などのインフラが目に見えて形になり始めてからと言うものは、各国共に熱狂的な報道振りで、やがてそれらの国々でそれを知らぬ者はいないと言うほどの状況になった。

先進各国の新領土が居住に適する環境を具え始めていることを、数多くの実写映像を見ることによって国民自身が視覚的に捉えたことになる。

視覚と言うものが伝えて来る情報は理屈抜きに直感的なところがあり、それらの実写映像が齎した効果も推して知るべしであったろうが、庶民にとって未来の夢に過ぎなかったものが一躍現実味を帯びて来たことだけは確かで、期待に胸を膨らませる者も少なく無かった筈だ。

それぞれの政府が国民に告げたその納期は六月末であったが、やがて多くのメディアによって、その日程がかなり前倒しになる見込みだと報じられ始め、中には、五月中の完成もあり得るのではないかと言い騒ぐ者まで出るに至った。

民間の個別工事は全て事後の課題として残ることになるが、それは国民個々の今後の経済活動に俟つよりほかは無い。

そこにも又膨大な実需が発生して、国家経済の発展に大きく寄与してくれることを願うばかりだ。


こうなると各国政府にとっての残る課題は、やはりケンタウルスの真実を公表するタイミングと言うことになる。

七カ国協議では、とうから最大の議題となってはいたが、各国間で新天地における受け入れ態勢に大差があることが障害となって、これまで結論を出すに至らなかったのだ。

従来の状況においては、王の直轄領と敷島(日本)の完成度ばかりが突出してしまっており、それに続くものは、支援工事を無償の範囲に限定していたとは言いながら、アフリカ諸国や中露などを始めとする途上国ばかりであった。

欧米などの工業先進国だけが、揃って足踏み状態だったのである。

問題の公表時期が早まれば早まるほど、受け入れ態勢造りに後れをとってしまった分だけ、欧米諸国にとっての不利益ばかりが一層拡大する構図だったことになる。

ところが、近頃その背景事情が一変してしまった。

今回それら先進諸国において凄まじい勢いで建設工事が進行し、避難民の受け入れ態勢の実現性がいよいよ歴然とし始めたのである。

これによって、先進各国側も問題を公表するための条件が整い始めたことになる。

彼等にとって、これまで議論の障害となっていた部分が見事に消し飛んでしまったことになり、今や公表時期を遅らせたいと主張する先進国は一国も無い。

合衆国の新領土における進捗振りには殊に目覚ましいものがあり、既に多数の空港や道路はもとより、港湾などは二千を越えるものが形になり始めて来ており、高空写真などでその実態が騒々しいほどに報じられるに至り、国民の大多数がそれを目にするまでになっていたのである。

英仏独などにおいても大同小異の状況が進行しつつあり、自然、七カ国協議の議論は順調に推移した。

土竜庵に秋津州の意図を瀬踏みしようと非公式の問い合わせが殺到する中、五月の初頭に至り、先ず七カ国協議が公表時期を当月二十日と決定し、国際舞台の裏側でさまざまに調整が進められた結果、当の二十日に開かれた安保理の決議を経て遂に一斉公表の運びとなったのだ。

各国共にその国民に向けて全てを公表したことにより、全人類がケンタウルスの真実を知ったことになるが、同時にその対策がそれなりに講じられつつあることも知る事を得た。

この地球を捨てざるを得なくなった諸国民が、その全員の避難移住を許すほどの新天地の実在性を以前から知らされていたことは、決して小さなことでは無かったろう。

何せその新天地の大地は、百億の民の生活にも立派に耐え得るだろうと評されているのである。

加えて、大和文化圏ではさまざまな市場が急速に拡大成長し、市場経済に関する事柄に限れば既に相当な分野で地ならしを終えているとされ、大和文化圏に限れば、現実に、地球上の企業の多くがとうに進出を果たすまでに至っているのだ。

大和商事の巨額の借り入れに関しても仮調印を終えていると報じられ、各国の国債発行を待って本調印が結ばれることが確実視されるに至り、世界の金融資本は、言わば秋津州の保障を得た形となり、そのことを拠り所として丹波世界に生き残る道を捜すことになる。

自然、大和文化圏に向けた猛烈な進出劇が一層加速されて行く。

大和商事に対する激烈な貸し込み競争の中、シンジケートに参加を許されなかった金融機関は、元々以前から経営不安を囁かれていたものばかりであり、国家による預金の全額保障宣言を得てもなお、軒並み取り付け騒ぎが発生して瞬時に崩壊してしまった。

地球上における公開市場は強制的に閉鎖され、銀行間のコール市場でさえ滞った。

かねてよりマーケットが長い時を掛けて問題の多くを織り込み続けて来ていたとは言え、地球上の経済規模は著しく縮小せざるを得ない。

縮小どころか、近未来において完全に消滅してしまうことが公式に発表されたも同然なのだ。

対応を誤った企業が数多く破綻し、それは否応無く連鎖的な広がりを見せ、市中に失業者が溢れることは必至で、合衆国を始め工業先進国の大多数において、やがて多くの庶民が食糧の入手にすら困窮する事態が発生する筈なのだ。

壊乱を恐れ、各国で国民を闇雲に丹波に移送してしまおうとする動きが拡大しており、その企図の粗雑さ故に、その状況は新たな被害を拡大再生産してしまうことも目に見えている。

世界の株式市場は消滅し、代わって大和文化圏のマーケットが爆発的に肥大化することも明らかであり、いずれにしても地球上の世界経済は極度に収縮してしまった。

問題の公表と同時に、日本は世界に先んじて敷島の造成地の払い下げを開始したが、民間大手などは実質的な用地決定を既に済ませており、時を同じくして、とうに設計を完了していた本社ビルや工場や社宅などの建設に取り掛かった。

殊に大規模建築に限っては丹波の大和商事に発注するケースが目立ったが、早々と拠点を移していた日本資本の建築業者に発注する例も当然に多い。

PME発電所の多くが電力会社に移譲され、長大な路線を持つ鉄道設備も各電鉄会社の手に移りつつあり、各所に完成していた空港設備や高速道路設備にしてもまた然りだ。

種々の鉱山や油田地帯の採掘権が委譲され、これもまた敷島特会の金庫を潤しながら猛烈な勢いで事業化が進んでおり、この意味では敷島の産業が早くも勃興し始めたものと見て良いだろう。

敷島特会の活発な財政出動を背に、金型製造工場や工作機械メーカーなどが、移住に当たって揃って好条件を与えられたと言うが、優れた技術力を持つ場合、例えそれが零細規模の企業であっても積極的な支援を受けることが可能なのである。

この敷島特会はその後も凄まじい威力を発揮し続け、日本人の現地に向かう流れを激流に変えつつあり、それは既に圧倒的ですらあると報じられるに至っており、この点でも日本の飛び抜けた先行振りが目立ち、ワシントンの更なる焦りを呼んでいると囁かれた。

国井は獅子奮迅の動きを見せ、既に「ガンマ線バーストに対処する為の緊急事態法(略称、ガンマ線対処法)」が、左派系政党の抵抗を粉砕する勢いで成立して、内閣総理大臣に、この未曾有の災害に迅速かつ柔軟に対処するための非常事態権を付与するに至っている。

この事態に際して現憲法が対抗手段を持ち得ず、なおかつその改正を行っている時間的余裕も無いのである。

このことを以て、この「ガンマ線対処法」を憲法に優先して運用し得ることまで具体的な国会承認を得た。

そもそもこの法は、避難移住を成功させるためとあらば、総理の違憲的政策判断を大幅に認める構成になっており、そうである以上、この「ガンマ線対処法」を国家基本法の上位に置いていることになる。

歴然たる憲法違反であり、国井は、このこと一つとっても違憲と言われれば否定のしようも無かったろう。

かつて国井が「憲法を守るために国民が存在するのではなく、国民を守るためにこそ憲法がある。」と発言して大いに物議を醸したことがあるが、そのことですら、今は懐かしく思い起こすと語る声がしきりであったのだ。

憲法を後生大事に守っているうちに国家国民が滅んでしまえば、一体何のための憲法なのか本末転倒も甚だしいことは明らかで、国井の思想信条が、「守るべきは憲法などでは無く、国民なのだ。」と叫んで已まない筈だ。

更に国井は、とうに準備済みだった「陸海空軍軍法会議法」を成立させ、即座に「軍法会議」を設けた。

その法は、最高裁は勿論一般法廷の判断を一切仰がないことを謳っているため、「特別裁判所」の設置を否定している憲法第七十六条に触れると言う者も出たが、国井は迷うことなく押し切った。

現状のままでは、軍人が軍事作戦中に起こした過失案件が、過失致死罪などで一般法廷で裁かれることになってしまうのである。

これでは、いざと言う場合発砲すら躊躇わざるを得ないだろう。

非常時なのである。

今後、いかなる混乱が待ち受けているか知れたものでは無いのだ。

今や国井は、「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」の適用を命じ、それを根拠として、地方自治体への財政出動を強力に推し進めつつある。

既に九割にあたる自治体に向けて、合わせて二百兆円もの支出があったと伝えられ、しかもその数倍の求めにも応じる構えだと語って見せることで、高まりつつあった不安感を見事に払拭してしまった。

そうしなければ、自治体そのものが破綻してしまうのである。

何せ、そのほとんどが赤字まみれで実に脆弱な財務体質しか持ち合わせていないのだ。

自治体が完璧に破綻してしまえば、急病人が出ても救急車も来てくれず、火事があっても消防車が来ない。

無論人殺しがあっても、パトカーすら来てくれなくなるのだ。

万一そうなってしまえば、住民が自ら自警団や消防団を組織してことに当たるほかは無くなってしまうのである。

無論、全て手弁当だ。

現実に医師や看護士の不足から、各地で病院の業務が遅滞し始めており、国井は秋津州人の医師に限り、日本国内での無資格診療を認める決定を行った。

無資格と言っても誰でも良いと言うわけではない。

秋津州が発行した医師や看護士の免許に限り、日本国内でも有効としたのだ。

その上、歯科医師、薬剤師の資格についても同様とした。

その結果、百万人以上の医療技術者が秋津州から渡来して、彼女達個人は全て無報酬でことに当たることになり、それこそ離島の端々に至るまで配備される見通しだが、その医療技術者集団が全て女性であったことも、民心を鎮める上で大きな意味を持ったと言って良い。

国井が、その非常事態権を用いて行った施策は枚挙に暇が無いが、その中でも最も危ういとされたのが、全国を一括して所管する「国家警務隊」の創設であったろう。

本来警務隊とは、自衛隊の内部組織の一つだ。

隊内の秩序維持を主任務とするいわゆる「憲兵」のことであり、その職掌柄、隊員の全てが特別司法警察職員若しくは司法警察員の資格を持ち、今も陸海空のそれぞれに実態として存在し、日々厳しい隊務に服しているれっきとした自衛官なのである。

しかし、今回創設された国家警務隊の場合それとは全くの別組織であって、その隊員は自衛官とは言いながら、元々民間人に対しても捜査権と逮捕権を具えていることから、戦前の憲兵と特高警察を兼ねたようなものになるのではないかと見る者がいたのだ。

そのための反対意見なのである。

だが、国井は断固として押し通した。

何せこの部隊は、既に八ヶ月の余も練成して来た精鋭であり、国井にして見れば、総理就任直後から営々と準備して来たことの一環でもあるのだ。

しかも現在の状況では、陸海空の自衛隊戦力は一刻も早く敷島の防衛に振り向ける必要があり、中央即応集団五千などは既に渡航を終えており、敷島において新たな任務に就かせている上、各方面隊も続々と渡航させる予定でいる。

(筆者註:中央即応集団とは、新防衛大綱により、新たに創設された防衛大臣直轄の機動運用部隊のことである。既存の各方面隊にはそのいずれにも属さないことから、全く独自の作戦行動をとらせることが出来る、言わば国家としての予備兵力、若しくは遊撃部隊だと言って良いだろう。)

とにかく国井は、限られたリソースである国防戦力を、いかに効率良く新領土に振り向けるか日々考え抜いて来ており、海上保安庁や警察庁、消防庁にしてもまた然りで、列島の治安維持に問題無しとはしない状況が生まれつつあると言って良い。

ときにあたって、この国家警務隊の任務は明らかだろう。

それらの任務を全て肩替りしながら、最後までこの日本列島に残留すると言う使命を帯びており、日本軍と言うより、全日本の殿(しんがり)を務めることこそ最大の任務だと言って良い。

しかし、それにしてはその隊員数は少数で、僅か七百名に過ぎない。

ちなみに、その部隊を八ヶ月にわたって練成して来た正副指揮官が、奇しくも鹿島一佐の対馬時代に特例的に副官を務めた与田二佐(三佐から昇進)と中井三佐(一尉から昇進)であったことも、単なる偶然などではなかったのだ。

それこそが、人事の妙と言えるものだったであろう。

そしてその部隊が、ケンタウルスの真実に関する正式発表に伴い、編成を拡充して「国家警務隊」と名称を変えることになったのだが、拡充とは言うが、新たに加えられた戦力が飛行する女性型ヒューマノイドであり、それも三千三百万もの多くを数える二個大隊だと言う。

SS六は勿論、D二とG四まで伴った秋津州軍そのものであり、人件費や食費はもとより弾薬どころか被服費すら不要なのである。

しかも、その大部隊を引き連れて司令官の職に就いたのが、元対馬駐屯地司令鹿島昭雄一佐であり、防衛相は、まったく異例のことに彼を復帰させた上、陸将補に任じたと言うのだ。

鹿島の復帰に際しては、秋津州国王からも直接懇切極まりない提言がなされたと言うが、与田二佐と中井三佐にとっても、この人事は大歓迎であったに違いない。

また、彼等が懸命に練成して来た部隊は東部方面隊を中心に厳選された者たちだと言うが、国家警務隊の正式発足に伴い、改めてその本務が通達された後も脱落者が出るどころか、かえって志願者が殺到してその後三千名を越えることになるのだ。

幕僚長に与田二佐が、幕僚幹事に中井三佐がそれぞれ就任し、その下に第一部(人事)、第二部(情報)、第三部(作戦)、第四部(兵站)と揃い、総務、会計、施設、通信、医務、監察、法務の体裁も整った。

副官には女性自衛官が十人も配置され、司令部付き隊も車両隊を除けば全員が女性だったところを見ると、その内実は秋津州軍からの配備だったのだろうが、何はともあれ、司令部としての概要だけは固まったと言って良い。

だが、いかんせんその守備範囲が広すぎる。

点在する離島も含め、文字通りの日本全土なのだ。

しかも、その本務はと言えば際限も無い。

本来の国土防衛任務だけならまだしも、実質的には警察、消防、海難救助に始まって、ありとあらゆる混乱に対応して行かなければならないのだ。

ありがたいことに、総理が配備してくれた秋津州の医療技術者たちが、共に最後まで残ってくれるとは聞いたが、その他の任務は途方も無いものになるに違いない。

詰まり、今回拡充を見た秋津州の二個大隊は、そのための超法規的措置だと言うことになる。

無論「彼女達」は鹿島司令官の発する軍命令に服し、あらゆる「戦場」に投入され、優れた戦力となってくれる筈だ。

何せ、自然発生的に司令部が自らの隊に付けた内部呼称が「秋桜(こすもす)隊」だったのである。

なお、その戦場とは、人命救助を優先に警察消防活動に挺身する全ての現場を意味する筈だが、国井がこの部隊に対NBC作戦を含む、純軍事的な任務まで想定していたことは間違いない。(筆者註:NBCとは核兵器、生物兵器、及び化学兵器の意。)

その司令部は神宮前の秋津州対策室の敷地内に置かれたが、その広大な敷地は彼等のための官舎及び兵舎兵営の設置をも楽々と許す筈だ。

何しろ、新たに拡充されたヒューマノイドは大部隊でありながら、それらの設備を全く必要とはしないのである。

車両の塗装も大きく変化した。

これまでは、一般の警務隊に倣いトラックも二輪車も真っ白に塗装していたものを、グリーンとブラウンの二色迷彩塗装に変えつつあり、隷下に入ったSS六やSDもまた同様だ。

兵士たちの軍装も一般の陸自タイプのものになったが、秋津州派遣の二個大隊に限って支給されたのは個人認識票のみであったため、彼女たちの軍装は秋津州軍のままだ。

だが、全員の胸元や肩口には夜目にも鮮やかな日の丸が装着されており、国際法上においても、れっきとした「日本軍」であることを主張していることになる。

ことほど左様に国井の施策は繊細かつ大胆に進み、産業の基盤をなすと見られる業種などは殊に積極的な後押しを受け、既に三割を超える日本人が雪崩を打って丹波に入っているほどで、とにかく急がねば時間が足りなくなってしまうのである。

何しろ、各国政府の発表によればガンマ線バーストの到来は二千十一年の春であり、遅くとも二千十年一杯には移住を済ませておく必要があるとされており、その発表によって、それぞれの政府がそれぞれに懸命の施策を講じつつ、全世界が丹波への移住に向けて一斉に走り出したようなもので、とにかく世界中がえらい騒ぎだ。

それを又、世界のメディアが競って取り上げ続け、かえって混乱に拍車をかけてしまうケースまで見掛けられ、世情騒然たる中で濃密な時間だけが経過して行く。

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  1. 2007/10/20(土) 23:55:04|
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