日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 125

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その日の田中盛重は喧騒渦巻く大東京にその足を踏み入れたことで、どこか胸躍るような気分を味わっていたと言って良い。

何しろ、久し振りに見る首都東京は従来の倍ほどの面積を誇りつつ見事に完成しており、しかも全ての街路が驚くほど広々としていて、裏通りですら大型車両の擦れ違い走行を楽々と許すものばかりで、従前のような狭い裏路地など始めから存在すらしていないのである。

このこと一つ取っても極めて画期的なことであり、元々敷島の全てが官有地で一人の地権者も存在しなかったことに加え、全て更地からの建設であったためにあらゆるインフラが余裕を持って建設されており、過去の満州国建設の例を引くまでも無く、国土建設の青写真を自由に描けることの有利さを今さらながら思わざるを得ない。

ときにあたって秋津州からさまざまな恩沢を蒙ったことも事実だが、新田さんや岡部先輩たちが血の汗を流しながら日夜奮闘した結果でもあるのだ。

今回の入京にしても、その岡部先輩からのお呼び出しに応えたものであって、用件は例によっての見合い話であり、時節柄不適当だとする声も全く無かったわけではないが、実際には未曾有の大戦争を控えて逆に結婚を急ぐ動きも少なくないのである。

とにもかくにも、日にちまで指定して飛んで来いとの仰せだったこともあり、大きな声では言えないが相手が相手だ、どのみち逃げ回るわけにもいかず、おそるおそる顔を出すと、たちまち明日には見合いの席に出ろと頭ごなしの仰せで、いつもなら若干の反発を覚えるところなのだが、今度ばかりは微妙に心が動いてしまっている。

何しろ先輩がうちの親共から押し付けられた見合い写真のお相手が、ほっぺたを抓ってみたくなるほどの美貌の持主で、見合い写真など、どうせ相当修整されているだろうとは思いつつも、ついつい惹かれてしまう自分がそこにいる。

事前に耳にした大まかなプロフィルからしても、さほど裕福とも思えない平凡な家庭に育ったごく普通の娘さんであり、特段の閨閥などその匂いさえ感じられないのである。

しかも先方はこの私を良く知っていると言い、その上でのこの話だとも聞いた。

そう聞けば、思い当たる節も無いではない。

何と、以前家庭教師代わりに高校受験の手ほどきをしてやった近所の娘さんなのである。

色白で目のくりっとした可憐な少女を思い浮かべながら、不覚にも胸のうちが思いのほかに華やいでしまっており、正直なもので明日は全てこの先輩の筋書きに乗ってみる気になってしまっている。

その筋書きにある見合いの席にしてもこのホテルの一階だと言う話で、まして先輩が用意してくれた今宵のねぐらはその最上階の一室であって、しかも、先ほど招じ入れられたこの部屋の直ぐそばだと仰る。

その室内は思っていた以上に豪勢なもので、いずれも高級感溢れる調度類に目をやっていたが、数人の人声と共に運び込まれて来たものには今さらながら目を見張った。

無論、次室で厳しくチェックを受けたのだろうが、三台のワゴンにてんこ盛りの酒肴の数々だったのだ。

何せ大富豪の奥さまが巣作りなさったこの場所は、官邸からも程近い高級ホテルのスィートのことでもあり、当然居心地が悪かろう筈も無く、勿体無くもその奥さまの酌まで頂戴しながら気楽な酒盛りが始まり、気がつけば、くつろぎきった心にも任せ、肴代わりについ持論を持ち出してしまっていたのである。

言ってみれば日本の国連脱退に伴う秋津州連邦設立論なのだが、それは当初日本と秋津州だけで構成し、それぞれが既存の国家体制を維持したまま強固に連携を組むと言うほどの内容だ。

ここ数年のいきさつから言って、日秋両国はさまざまな意味で飛び抜けた勝ち組となってしまっており、その勝ち組同士が言わば連合国を名乗って、独自の国際組織を立ち上げた上で、それを国際間における中心的存在にまで育て上げようとするものだ。

我ながら粗雑な議論であることも充分弁えており、聞き手がこの人ではなおのこと厳しいご批判を頂戴せざるを得ないだろう。

調子に乗ってひとしきり論じると、案の定、鋭い鏃(やじり)がうなりを生じて飛んできた。

「それ、おまえが考えたのか。」

「そうですよ。」

「嘘をつけ。秋桜ネットワークの面々の中にも同じようなことを言って回る人間が大勢いるぜ。」

鋭い鏃が胸元深く突き立った気がした。

「あは、ばれましたか。」

無念にも、たった一矢(ひとや)で討ち死にしてしまったことにはなるが、それもこれも最初から覚悟の上で喋りたてたのだから致し方も無い。

「あのな、その考えもわからぬじゃねえが、強固に連携を組むも何もそんなこたあとっくのとうに実現しちゃってるじゃねえか。」

「でも、国連から抜ければ、その瞬間に敵国条項に拘束される謂われだけは無くなるんですよ。」

くどいようだが国連憲章の敵国条項には、「米英仏中露の五カ国だけは、いずれも単独で、日本やドイツなどの行為を国連憲章違反だと随意に認定した上、誰憚ること無く一方的に軍事攻撃を行って良い。」と謳ってある。

詰まり、戦勝国連合五カ国のうち仮に一カ国、例えば中国なら中国がこの日本の振る舞いを国連憲章に反すると『認定』しただけで、問答無用で核ミサイルの雨を降らせることが出来ることになり、そうされてもこの日本は、少なくともこの敵国条項が生きている限り、反撃するどころか、苦情を言う資格すら持たないことになり、現実の日本は、そう言う国連憲章を全て受け入れた上で国連に加盟していることになる。

その国連憲章そのものを改正すれば良いではないかと言う人もいるが、国際条約の最たるものとして世界中の国々が批准してしまっている以上、たった一文字変更するにも全世界の国々が揃って国内手続きを済ませる必要があり、一口に改正すると言っても容易ではないのだ。

まして、改正案を現実のものとするためには、国連の制度上、戦勝国(米英仏中露)の全てが、少なくとも拒否権を発動しないことを以て最低条件としているのである。

そもそも日本などが望む敵国条項削除案は彼等戦勝国の既得権を奪うことに直結しており、しかも彼等の全てがそれぞれ単独で完全な拒否権を持つ以上、その実現の困難さは思うだに絶望的だと言って良い。

「たしかにそれはあるな。だが、丹波に移ってからは戦勝国(米英仏中露)の連中だって、それを理由に日本をどうこうするなんざ考えても見ねえだろうよ。」

現に秋津州国籍の戦略型潜水艦が、極北の海から北半球の全域に常時睨みを利かせており、それらの艦(ふね)は全て核ミサイルを装備していると見られている上、秋桜の地において実質的にその指揮を執っているのは、他ならぬ加納少将だとされているのである。

自らの手足をがんじがらめにしていた風変わりな憲法もとうに無く、他国から見たこの日本は、少なくとも外見上は、一方的に核攻撃を受けて黙って引っ込んでる国家ではなくなったことになる。

「そりゃ、そうでしょうが・・・」

「が、なんだ。」

「いえ、でも、日秋両国が連邦の中で言わば常任理事国として振舞えるわけですし。」

「それがどうした。」

「ですから、敵国条項なんか書いてない秋津州憲章を基本にして行動出来るんですよ。」

「おれも何通りかの憲章案を読んで見たが、要は国連憲章の二番煎じじゃねえか。」

無論その全てが、少なくとも敵国条項だけは削除してあった筈だ。

「はい。」

「まあ、そのことだけをとやかく言うつもりはねえが、あの陛下がそんなもんに振り向いてくれるとは思えねえ。」

「そうなんですよ、この前もちらっとお話してみたんですが、笑ってらっしゃるばかりで・・・。」

「そうだろう、あの方のお考えでは、わざわざ手足を縛られるなんて到底あり得ねえ。」

問題の秋津州憲章もれっきとした多国間条約である以上、締結した場合、当然その条文に拘束されるのである。

折角持ち得た完璧なフリーハンドをわざわざ縛ってしまうなど、誰にしても好まないことは明らかだろう。

まして秋津州は、いかなる多国間連合にも加盟することなく完全な一国孤立主義を貫いたとしても、殆ど痛痒を感じないで済むだけの国情を既に持ってしまっているのだ。

無論その「国情」の第一は、真実の国民が若者以外に一人も存在してないことだろう。

「それは判るんですが、諸外国の参加を促す意味でも成文化されたルールが無いと。」

「ふふん、結局本音はそれかい。」

「え。」

「詰まり、国連に代わる世界規模の組織として考えてるわけだ。」

「え・・・、はい。」

「あのアホくさい国連を消滅させたいわけだよな。」

「当たり前じゃないですか。」

「消滅させるに当たって、新たな枠組みを事前に用意しとくってえことだ。」

「だって、この憲章の旗のもとに世界中が集まっちゃえば、所詮戦勝国連合でしかない国連なんて自然消滅しか無いでしょ。」

くどいようだが、国際連合( United Nations )とは日本では意識的に誤訳が流布されたものであって、字義的にも内容的にも本来は第二次大戦の「戦勝国連合」そのものなのだ。

現に漢字圏の台湾や中国では、この「United Nations」には「联合国(連合国)」を宛てており、実態は、その「戦勝国連合」に敗戦国である日本があとから頼み込んでようやく入れてもらっているに過ぎない。

無論、その方がトータルでは日本の国益に適うと当時の日本政府が判断したからに他ならないのだが、かと言ってそう言う「国連」の決定に、今後日本自身の「軍事行動」の是非を無条件に委ねようと言い募るやからなどは、筆者の感受性から見れば最早狂ったとしか思えないのである。

如何なる国家であれ、自国の軍事行動の是非は、あくまで自国の「トータルでの」国益をこそ唯一の判断基準となすべきだと信じて疑わないからなのだが、少なくとも現今においては、客観的に「侵略行為」と看做されてしまうような軍事行動など、「トータルでの」国益に適わないことは言うまでもない。

「大筋は反対しねえが、それもこれも陛下次第ってことになるわけだから所詮夢物語さ。」

確かに、最大の目玉である秋津州が参画していなければ、苦労して大舞台を作って見せたところで客を呼べないのである。

結局、自分の粗雑な議論はここで潰えざるを得ないのだ。

「やっぱり無理でしょうかねえ。」

「こっちに都合のいいことばかり考えてると疲れるばかりだぞ。」

「えへへ。」

「それより、場合によっちゃもっと大変なことが起きちゃうかも知れねえ。」

人の悪い先輩の頬は崩れっぱなしだ。

「え。」

「未だ気がつかねえのか。」

「どう言うことですか。」

「ご退位だよ。」

「陛下のですか、まさかあ。」

「まあ、世が治まればの話だろうがな。」

「しかし、後継者が・・・」

「うん、それだ。」

「え。」

「あははは。」

先輩は大口を開けて笑っている。

「なんなんすか、意地悪しないで教えてくださいよ。」

「あのなあ、例えば国家がなくなれば後継者もくそもねえだろう。」

「無くなればって、秋津州がですかあ。」

「なにも、ご自分の為に国家主権が欲しかったわけじゃねえんだぜ。」

「あ。」

「な。」

「ご一族を保護するために・・・。」

そのご一族は既に一人もいないのだ。

尤も、その事実を知る者は未だ数えるほどでしか無い。

「ふふん。」

「それじゃあ、この先どう言うことになっちゃうんでしょう。」

「さあなあ、それこそ、こっちの方が聞きてえくらいだよ。」

口ではそう言いながら、にやにや笑っているのである。

「しかし、これ(退位)ばかりはお諌めしなければなりません。」

つい、大見得を切ってしまっていたのである。

向こう正面の奥さまの視線が心なし頬に痛い。

何せこの奥様は、今やあのヤマトサロンの重鎮中の重鎮だ。

「何故だよ。」

「だって・・・」

「日本の足場を強化する為だろうが。」

「は、はい。」

「それこそ身勝手な話だな。」

「それはそうなんですが・・・」

「仮に秋津州って言う国家が消滅したって、あの方はれっきとした日本人なんだからな。ちっともこまりゃあしねえやな。」

事実なのである。

不思議なことに若者は秋津州の国王でありつつも、例の大帰化決議によって合法的に日本国民の一人となってしまっており、現に敷島と言う日本の領土内に住民登録まで済ませてあるのだ。

そうである以上、一たびその人を滅ぼそうとする相手が出現し、しかもその敵が他国の政府若しくはそれに準ずるほどの相手であった場合、日本政府はその日本国民を断じて守るべき義務を負う。

尤も、義務を負っているからと言って、常にそれが叶うかどうかは又別の問題ではある。

「しかし・・・」

「その上、荘園の隠し沢があるし、遊び場所にも不自由しねえと来てらあ。」

「・・・。」

「近頃じゃ、馬酔木の湖(あしびのうみ)に絶妙のおもちゃまでお持ちだって言うじゃあねえか。」

ここで言う馬酔木の湖とは、馬酔木の山斎(あしびのしま)の西側一帯を大きく占めている湾のことなのだが、高空から見れば完全に内海(うちうみ)の観を呈しており、その巨大さは、地球上のオーストラリア大陸をそっくりそこに浮かべても余りあるほどのものであり、そうである以上、それは湾とは言いながら既に堂々たる海洋だと言って良い。

かつて陛下が世界に示した丹波の大縮尺海図があったが、その湾はある意味奇妙な特徴を持っていた。

第一に、その西端に開いた唯一の湾口が極端に狭く、そのことを以てこの馬酔木の湖は国際法上からもれっきとした「内水」と看做されており、今では内陸に散在する多くの湖沼群と全く同等の扱いを受けるに至っているほどだ。

尤も、湾口が狭いと言っても、あくまで湾の規模に比しての話であり、概ね五百キロほどの幅はあることから、如何なる巨船であろうと物理的には航行を許すのだが、国際法上の内水であるため他国の船舶の侵入を一切許さなくとも、非難を受ける謂れは無いのである。

そしてその馬酔木の湖には数隻の巨船が浮かんでいると報じられ、それぞれが千メートルもの長さを持つことが近頃話題の一つに上がっており、その船主(ふなぬし)がどなたかは今さら言うまでも無いことなのだ。

「はい、私も二度ばかりお供しましたが、あのばかでかい船も元々はクジラ獲りに使ってたものらしいですよ。」

「捕鯨母船だよな。」

かつてローズが但馬の海で目撃したあの空飛ぶ巨船なのである。

「今は捕鯨船としては操業してませんけどね。」

「丹波では全面的に中断してらっしゃるからな。」

「だって、丹後や但馬のクジラだけで充分ですから。」

「こないだ公表なさった映像を見ると、なかなか変わった船もお持ちのようだが。」

「ああ、大和(やまと)のことですね。」

船名も既に報道されていた筈で、機密でもなんでもないことなのだ。

「うん、それだよ。」

「捕鯨船よりふた回りは大きいですけど、要はクルーザーのようなもんですわ。尤も、大分前に竣工してたみたいですがね。」

「相当豪華な設備が揃ってるって話だが。」

「いえ、あの大きさから言ったら、たいしたことは無かったですよ。でかいパーティールームとかプールとかはありますけど、身内用のものは別にして客室みたいなのは精々五百室くらいのもんですから。」

通常世界の豪華客船を想えば、それこそ数千の客室を具えていても不思議はないほどの威容であり、結局、先輩の言う「おもちゃ」とは、この点を指して言っていることになるのだろう。

「報道だと、大規模な医療設備があるって言うな。」

専任の医療関係者は勿論、数百にも及ぶと言う女性乗組員の存在まで目にしているのだ。

「はい、強いて言えば娯楽室と、あとはでっかい倉庫ばっかりでした。」

「おめえ、なんか聞いてねえのか。」

「え。」

「例えば、どなたかをご招待なさりたいご希望とか。」

「あ。」

「心当たりがあるんだな。」

「そう言えば、異星人騒ぎが起こる前だったか、ご皇室の皆さまを・・・。」

「やはりな。」

詰まり、洋上の迎賓館と言うことになる。

「この騒ぎさえ無けりゃ、今頃実現してたかも判りませんね。」

「ひょっとしたら、日本人秋津州一郎氏個人としての形式になってたかもなあ。」

「しかし、それじゃあ困っちゃいますよ。」

「ふふん。」

「第一、秋津州軍はどうすんですか。」

「あっさり消滅させちゃうか、若しくは立見大将に国家元首を名乗らせるってえ手もありかな。誰も文句は言えねえだろう。」

「じゃ、陛下ご自身は・・・」

「日本人秋津州一郎氏として生きる。」

尤も、仮に陛下が表面上一日本人としてお暮らしになるとしても、秋津州という国家が存続する場合、依然としてその国家の唯一無二の潜在的主権者であり続けることに変わりは無い。

何せ、マイティ・ヘクサゴンに「命令」を伝えさえすれば良いのだ。

但し、それはあくまで非公式なものであって、国際法上の整合性だけは失われてしまうが、その場合でも、秋津州の新たな国家元首が、若者の意思をそのまま国家の意思であると認めれば結果は同じことだ。

これ以上無いほど完璧な傀儡国家が、見事に一つ完成するだけの話なのである。

「う・・・。」

「あっはっはっはっ、ちょっとおどかし過ぎたかな。」

「まったく、人が悪いんだから。」

「わりい、わりい。」

「まったく・・・・、若いもんをからかっちゃいけませんよ。」

いましも隣室から戻って見えた夫人が上品に笑ってらっしゃるが、この方はいつお会いしてもほんとにお美しい。

その隣室では、あのメアリーおばさんが大二郎ちゃんのお相手をしてやってるらしく、先ほども元気一杯の男の子の声が聞こえたばかりだ。

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  1. 2008/05/18(日) 15:21:05|
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