日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 013

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二千四年九月三日、大統領選の嵐の真っ只中に、国王は米国政府の度重なる招きに応じワシントンを訪れていた。

事前の打ち合わせの段階で、「二機の国王専用機を以て直接ワシントンを訪れ、兵士型ヒューマノイド二体を乗せた一機はそのまま供与する。」旨の申し出を受けた米国側の期待はすこぶる大きい。

とにかく、秋津州の先端技術は米国当局にとって、軍事的な意味からも重大な関心事であり、万全と言って良いほどの受け入れ態勢を布いていたのである。

自然、厳重な保安体制が布かれ、現地は一種異様な雰囲気に包まれた。

到着予定時刻は午前九時(現地サマータイム)であり、到着予定地はポトマック河畔のタイダルベイスンだ。

政府関係者や各メディアが固唾を飲んで待つ内、問題の二機が揃いも揃ってタイダルベイスンの湖面にその姿を現したのは、予定時刻きっかりであった。

全く唐突に、その湖面上わずか数メートルの空間に、ぽっかりと出現して見せたのだ。

秋津州から同乗してきた米国務省官僚二名が直接米国側と交信し、ナショナル空港の離発着を停止させる中、米側のレーダーにも全く捕捉されないままでの到着である。

米国側の希望により、この訪問者はエリプス広場までの空間を、静々と、まるで滑るように移動してその芝生に降り立った。

随員なぞは全くおらず文字通りの単身であり、二機の国王専用機には同乗の米国人以外には、二名ずつのヒューマノイド兵士が搭乗しているだけと言う思い切った身軽さだ。

ホワイトハウスにおける儀礼的なトップ会談の後、中庭で二国間の友好と協調をふんだんに盛り込んだ共同コミニュケが発表され、かつて秋津州湖で国王に救われた米軍兵士の幼い娘による花束贈呈のセレモニーなどが行われ、多いにその場を盛り上げることとなった。

昼食後の時間は、専ら軍関係者への円盤型航空機の引き渡し作業に費やされる運びだ。

米国側としては、ことに対処すべく大掛かりなプロジェクトティームを立ち上げており、あとはこのティームがカネと時間をかけて徹底的に分解して調べるだけであろう。

現実にはいくら調べたところで、使いこなすことも、またコピーを作ることも不可能ではあろうが、こちらの目的はあくまで取りあえずの時間稼ぎなのであり、しばらくしてから悲鳴のような問い合わせが殺到するに違いない。

それで、米国に対しては充分一ヶ月は稼げる。

一国の元首が全くの単身での訪問のことでもあり、その事自体、訪問先での身の危険を感じていないことの表れであり、今後もまた手軽に招きに応ずることの容易さをも強く印象付けたことは事実だ。

超先進的な兵器をそのまま提供すると言うことは、美辞麗句を連ねた外交辞令の千万言にも勝るものであった事は確かで、この手土産には、それほど巨大な価値がある。

そしてこのまことに風変わりな訪問は、あっさりと終了し、多忙な王は一旦戻していた暦を慌しくめくり直して去ったのだが、そのあとには、またしても新たに巨大な謎が生まれることになる。

それは、秋津州から同乗していった米国官僚の証言によるものであった。

その証言によると、深夜の秋津州内務省の前で国王専用機に乗り込み、それからポトマック河畔上空に到達するまでほんの瞬く間だったと言うのだ。

シャワーは勿論トイレすら無い小型機で、ワシントンまで一気に飛ぶと知って驚いたのは、特別に設えられた無線機を以てワシントンと交信させられた時であり、もうその時は目的地上空に着いていたのだと言う。


二千四年九月四日十七時、王と京子の通信。

王は若衆宿に所在し、京子は神宮前オフィスにいる。

なお、この通信の全てはマザーにも配信されており、数十分後にはマザーも確実に受信することになる。

王は、目覚めて洗顔を済ませたばかりのようだ。

「お目覚めでございますか。」

「うん、よく寝た。」

「では、只今お食事を運ばせましょう。」

睡眠の必要の無い京子には王の就寝中の全ての情報が集中しており、目覚めた王にはその都度報告する必要がある。

そして、その情報は秋津州に配置した京子の配下の者たちにも既にもたらされている筈なのだ。

また、この場合の京子の配下の者とは三人の妹と内務省官僚のことで、当然この者たちへの直接の指揮権は京子が握っている。

「徹夜したようなものだからなあ。」

夕暮れのワシントンから一瞬で戻ったとき、秋津州は朝であった。

「お休み中、マーベラさまと優子さんがお近くまで来ておいででしたわ。」

王が熟睡中と知り、諦めて引き返したと言う。

「ふむ。」

「優子さんは、ちっとも噂になっていないのが、大分ご不満のようでございましたけど。」

例の受付の二人の女性も当然ヒューマノイドであり、指示されない限り噂話なぞする筈も無い。

したがって、金輪際噂なぞにはならないのである。

「只、本日の優子さんの動きで、敵の協力者がもう一人特定することが出来ました。」

国王にとって特別の存在になったと言う意識からか、著しく緊張感を欠くこととなった優子の行動によって、メディアの中で敵に協力する者をもう一名特定出来たと言う。

「そうか。」

「これも優子さんのお陰ですわね。」

「・・・。」

「これで、この他の可能性の有無も確かめることが出来ようかと存じます。」

優子を含めて民間人三名を徹底的にマークすることによって、その他の工作員のあぶり出しも可能になる。

「子供たちを、シェルターの近くから離さぬよう。」

数箇所に地下シェルターを設けてあり、一族六名をそのシェルターの入り口からあまり遠くへやるなと言う。

当然、万一の場合には素早くシェルターに避難させようと言う意味を込めている。

「承知しました。」

「マーベラも、なるべく子供たちと一緒にいるよう誘導してくれ。」

軍事命令は、簡潔明瞭であることを要する。

「なるべく」などと言うあいまいな表現は、既に軍事的な命令にはそぐわない。

「かしこまりました。」

王の読みでは、そろそろ危険レベルが高まりつつあると言う判断なのだろう。

そうなると、誰が考えても王の想い人であるマーベラは、絶好の獲物となってしまうに違いない。

マーベラ本人には、今のところ本当のことは言えないのだ。

「ワシントンでは、潜入部隊の存在を確認したようでございます。」

米国当局が侵略軍の存在に気付いたと言う情報が、大統領のマシーンの殆どに張り付かせてあるG四から入ったのだ。

「・・・。」

「当方に知らせるべきかどうかの議論をしておりました。」

「ふむ、ヤツらは知らせては来ぬだろう。」

折角気付かない振りをしているのに、わざわざ知らせてもらっても却って有りがた迷惑でもある。

「ご賢察でございます。」

「この程度の敵なら、こっちの力を瀬踏みするのにも良い機会だしな。」

秋津州軍は、かつて一度も戦闘シーンを見せたことが無い。

米当局としては、脆弱な侵略軍を言わば「当て駒」に見立て、秋津州軍の実力を推し量って見る良い機会だと思うに違いない。

「万一、秋津州が占領されてしまうような事態になれば、米国の庇護の下に亡命政権を作らせよう、などと言う議論が出ておりました。」

「ふむ、常套手段だな。」

白人列強が採ってきた手法の中でも、古典的と言って良いものなのだ。

「当て駒が少々弱すぎるので、中国をけしかけてみよう、などと言う乱暴な冗談まで出ておりました。」

現に中国当局は秋津州を中国領海東省として領土編入を宣言しており、次にとる行動はその実効支配であることに何の矛盾も無い。

「あながち冗談とばかりも言い切れまい。」

このシナリオでいけば、一旦秋津州を「当て駒」に占領させた後で米国の主導で亡命政権を作らせ、その亡命政権からの懇請を入れる形で出兵、当て駒を追い散らし表面上秋津州の領土を回復してやり、米軍はそのまま居座って秋津州の全てを壟断してしまおうと言うことか。

米国一般大衆の秋津州人気や米国企業のビジネス上の都合から見ても、この「正義の出兵」は可能性充分と見ているのであろう。

あるいはまた、「信託統治」と言う厚化粧の仮面をかぶる手もある。

いずれにしてもワシントンの計算通りに事が進めば、太平洋上の絶好の戦略的海域に巨大な米軍基地が出来上がり、うまくすればその他諸々の旨味まで手に入るのである。

また驚くべきことに、のちにこの「中国をけしかける」と言う「冗談」が、俄然現実味を帯びてくることになる。


二千四年九月八日

神宮前の秋元姉妹は、この日も米国大使館差し回しの車の迎えを受けていた。

米国大統領特別補佐官トーマス・タイラーからの招請だったが、事前の連絡においてもかなりの重要案件であることを匂わせており、彼自身が特別の敬意を払って丁重に出迎えてくれた。

例の航空機の技術解明に関して、助力を乞うための迎えであることは分かっており、なおのことこちらの機嫌を損ずるわけには行かないのだろう。

姉妹は、過去数度に亘って共に交渉のテーブルに着いてきた経緯もあり、タイラーとはかなりの親近感を漂わせながらの会談とはなったが、美しい姉妹は相変わらず出されたお茶に手を付けようともしない。

米国側は、コーヒーや紅茶それに日本茶にまで工夫をこらしてみたが結果は変わらず、その理由について尋ねても姉妹はあでやかに微笑むばかりで応えない。

いずれにしても全ての交渉は常に姉妹の方に主導権があり、タイラーとしてはたかがお茶一つとってもこれほどに気を使うことになってしまう。

とにかく、ノーと言う機会は姉妹の方にだけあって、タイラーは常に相手にお願いせざるを得ない立場では、とてものことに対等な交渉など出来るわけも無い。

まして、秋津州の先進的技術の情報開示を米国だけに限定させたいなどと、いかに身勝手な米国と言えども、さすがにそこまで虫の良いことは言える筈も無い。

実際ワシントンでは、秋津州からのもろもろの供与品の調査の過程で、さまざまの壁に突き当たっていて、担当ティームは頭を抱えてしまっていたのである。

より多くのサンプルの供与及び技術者の派遣を請いたいのはやまやまだが、中でも技術者の派遣の懇請などは、スーパーパワーのプライドが少なからず邪魔をしてしまうようだ。

今までなら他国の兵器の現物さえ入手出来れば、その現物そのものを分解し徹底的に調べることによって全てを解明し、同等以上のレベルのものを製造することも充分に可能であった。

だが、前回の永久原動機にしても今回の特殊な航空機にしても、全くと言って良いほどお手上げ状態なのだ。

スーパーパワーとしての自尊心そのものが、既に危機に瀕してしまっているにもかかわらず、本国からの訓令によって許された権限には、余りに屈辱的なスタンスをとることまでは含まれてはいない。

京子の方から見れば、このころには米国大使館の関係者にも配下のG四を張り付けてあり、当然タイラーの苦しい立場なども筒抜けであって、交渉ごととしては圧倒的に有利だ。

それでもほど良いところで、新たなサンプル供与の用意がある旨を気軽に言及して、ひとまずタイラーを安堵させることにした。

ここは米国側の面子を立て、従来からの親米路線に更に駄目を押して置くつもりもあって、その品目は前回と同一セットの供与を即決で快諾しておくことにしたのである。

但し、その準備には一ヶ月ほどの時間が必要であることを前提としておく。

これもごく常識程度の所用期間であり、相手に否やのあろう筈も無く、補佐官の満面の笑みに送られて姉妹は帰途についた。

秋津州側のこれ以上無いほどの好意は、充分に伝わったことだろう。

この予測された問題についての方針も、例の時間稼ぎの一環として、既に国王からの指示も受けており即断即決しても何の支障も無い。

これで、少なくとも九月一杯は、ワシントンがつくり笑顔を見せ続けることは確実だ。

姉妹が帰るのを待ちかねていた「東太平洋問題準備室」の官僚たちは、早速話を聞きたがって二階のオフィスに推し掛けて来て盛んに機嫌を取り結ぶ。

とにかく彼らとしては、日本人秋元京子の片言隻句からもほんの少しでも何かを汲み取ろうと必死なのである。

先日の王の訪米の模様が散々報道されたときも、「一言くらい事前に教えてくれても・・・」と、恨めしそうに泣かれたこともあり、先ほど米国大使館でしてきたお約束の内容を少々リップサービスしてやると、たったそれだけのことで大騒ぎになった。

このことからも、日本政府が如何に米国の情報の海から切り離された存在かが改めて感じとれる。

試しに、米国高官が中国大使館からの問いかけに対し、非公式とは言え「米国政府は海東島(秋津州のこと)問題に関しては、中国の内政問題として捉えており、その治安維持のための中国軍の出兵に異議を唱える事は無い。」旨の示唆を与えたと言う情報について触れてみると、さすがにこれは知っていたようだ。

なにしろ現在までの秋津州との外交交渉は、実質的には全て京子を通して進められて来ており、その京子の言葉を秋津州国王が裏切ったことは一度もないことから、日米両国にとって今日のこのことが改めて京子の一諾に千斤の重みを加えることになった。

また、このころには、日台の一部メディアが秋津州側が中朝韓露を仮想敵国と看做して、強硬姿勢を強め、口汚く罵るパターンの報道を連日流し始めた。

これらの報道画面には、不思議なことに、いかにも秋津州の政府高官を思わせる人物が顔を隠して出演していて、種々の刺激的な発言を繰り返し物議を醸していたが、勿論そんな秋津州高官なぞは実在するはずも無かったのである。

とにかく、国際政治の舞台裏には数多くの魑魅魍魎が跳梁跋扈していることだけは間違いのない事実であったろう。


二千四年九月九日の早朝(秋津州時間)、王は急遽マザーの船に入った。

「これより、一族の者とその親族の者たちを預ける。」

これこそは、マザーに対する戦時体制としての命令第一号になっていくのだろう。

王は地上の秋津州から一族の子供たち六人とそれらの親族(と言う役どころをプログラムされたヒューマノイド)を伴って来ており、これで全ての秋津州人がマザーの船団に収容されたことになる。

「承知致しました。」

この六名のほかに、生まれたばかりの一名をその両親役のヒューマノイドと共に、未だ船団内にとどめたまま様子を見ていた経緯もあり、不測の事態に備えて、かなり広いスペースは最初から確保してある。

「いくら大人しくしていても無駄のようだ。」

王は、どんなに低姿勢を示して見せても、最早開戦は避けられないと覚悟して子供たちを疎開させに来たことになる。

「輜重二個師団のあのボリュームを見せ付けておりますのにね。」

港湾開削工事に際して、世界にその姿を曝して見せたのは、別働輜重二個師団の四百億を超える大兵力なのである。

若者は持てるところの壮大な防衛力の一部をわざわざ公開して見せた心算なのであり、一方では秋津州の建国を承認してくれた諸国に対しては、ひたすら笑顔を振りまいてきた。

それにも拘らず、秋津州を一方的に自国領土に編入し、実効支配に及ぼうとする愚かな者たちがいる。

「こうなったら、一旦は、連中のやりたいようにやらせてみることにした。」

王は、平和な手段での立国と言う当初の望みを棄てたのである。

「あまり時間はございませんね。」

地球上からもたらされる直近のデータの殆どが、敵襲による開戦が近いことを告げていた。

以前から山間部に潜入していた敵の兵力が、一気に八十名ほどにまで膨らみ、相当量の弾薬が搬入されている。

そのわりには手持ちの糧食がわずかであることからも、ごく短期の作戦が予想されるが、撤収時には一体どうする心算なのであろう。

また、中国からは兵站補給用と陸戦部隊輸送用の船団が出航したことも確認した。

こちらは、恒常的な完全占領を企図していることは明らかだ。

「肝心なことは、弱者として完璧な被害者を演じ切ることだ。」

せめて諸国の世論だけでも味方につけるためには、なによりも一方的に侵略を受けている哀れな弱者のイメージを以て、ひたすら世論に訴えることを基本戦略とするほかにないであろう。

とにかく、世論と言うものは「弱者」と言う存在に対しては驚くほどに弱い。

自分よりも恵まれない環境にある者を「弱者」と見做し、あるときは同情し、またあるときは憐れみ涙する。

まるで自らを高みに置いて、眼下に「弱者」を見くだし、その上でその「弱者」なるものに憐憫の情をかけている自分自身と言う存在から、快感を得ているようにも見えてしまうほどだ。

「住民のデータの保全に努めます。」

兵士型と違い、現在この住民タイプのヒューマノイドは優れた戦闘能力こそ持たないが、見た目には普通の人体と変わらぬ臓器や骨格を具え、傷つけば出血し大きく損傷すれば死亡したような概観を呈してその機能を停止してしまう。

また、住民タイプの個体はやがて敵襲によって破壊されその機能を停止させられる運命であろうが、機能が停止するまでのデータこそが重要なのであり、そのあとでそのデータを新たなボディに移植することによって、言わば生まれ変わりの個体を再生することが出来るのだ。

それらのデータの中から、特段に凄惨なシーンばかりをメディアを通じて公開し、その一方的な被害状況を外部世界に伝えることこそが、最も有効な反撃手段となるに違いない。

「うむ、あとは物資の集荷を命じて来てからのことだ。」

これより王は、三つの荘園の巡検に出発し、幸いにして各現地が平穏のままでありさえすれば、必要な諸物資を集めるよう少なくとも命令を発することは出来る。

だが、現地の状況はあくまでその地の近くにまで直かに行って見なければ、全く判らないことなのである。

今回搬送予定の膨大な諸物資の収集と積み込み作業には、さすがに数日を要するとみなければならないが、かと言ってこのままで時を過ごせば、マザーの管理下の工業生産ラインが原材料の不足からストップしてしまう。

平時であれば地球で入手可能な物資であっても、戦時国際法の制限もあることから、他国からの調達が許されなくなってしまう可能性もある。

開戦が近いことから言っても、諸物資の補給は喫緊の課題なのだ。

「念のためではございますが、マーベラさまのことはいかがなされますか。」

「サランダインには米国当局からある程度の情報も来ておる。あっちで何とかするだろう。」

侵略者たちの動きについて、米国当局はとうに情報を掴んでおり、その米国当局から手配されて入国して来ている以上、少なくともサランダインティームに関しては、ワシントンが万全の手配をして然る可きなのだ。

現に秋津州の周辺には相当数の米国艦船が遊弋しており、そのうちの複数の艦船が多数のヘリコプターを搭載しており、若者の見るところその搬送能力は、滞在中の全アメリカ人を救出するに充分なものなのである。

まさか、みすみす見殺しにする筈はあるまい。

又、秋津州住民には一切の銃火器は持たせてはいないため激しい銃撃戦にはなる筈もなく、個別のテロならいざ知らず、歴とした一国の正規軍が米国の民間人を殺して見たところで何の利益もあるまい。

ただ、メディアとしての情報発信をそのまま許すとまでは思えない。

「承知しました。」

「京子の配下の者たちは全て神宮前に送り届けてある。」

「はい。」

「輜重部隊からベイダイン装備の一個師団を動員。」

軍用ベイダインとは、殆どの金属を溶融させる機能を持つ強力な接着剤のことであり、普段は三つのタンクに分離して搬送する。

いざと言う時に兵士に背負わせて行動させ、その三つのタンクの中身を射出時に混合することによって、強力な溶融機能を発揮するものだ。

しかも、以前から展開中の情報部隊は海中の全潜水艦を完璧に捕捉しており、それらが退役するまで複数のD二とG四が忠実に追尾し続けていることから、ベイダイン装備の部隊は号令一下、敵潜水艦のハッチを接着して、魚雷もミサイルも発射不能にしてしまうことが可能だ。

同様に海上の軍艦であろうが地上の大要塞であろうが、ほんの数分で無力化してしまうことも可能であり、海上に浮かんでいる船なぞは沈めてしまう気なら、その艦底に大穴を開けてしまうのには一瞬で事足りてしまう。

「うち五個連隊は海中の全潜水艦に対応準備。」

「全、でございますか?」

「そうだ、例外は無い。」

王は仮想敵国に限らず、全ての艦がその対象だと言明している。

「一艦に付き一個小隊を当てよ。」

五個連隊では、その小隊の数は八万を超える。

その任務のためには、充分すぎる数であろう。

「残る五個連隊は全衛星を捕捉し、その他は成層圏外で待機。」

王は次々と発令して行く。

「敵が戦端を開いたら、すかさず敵の軍事施設データを更新。」

実際には、別働の情報収集部隊によって地上の軍事施設は全て捕捉済みで、地下施設についても着々とそのデータが集積されてきている。

開戦後は、敵国のデータ収集に際して今までのような遠慮は当然不要になる。

「開戦後の直接戦闘行為は秋津州の住民のみで行い、自国領土内に限定する。」

王の不在の間の軍事行動は情報収集と戦闘準備に限定され、かろうじて秋津州島内で銃を持たない住民だけの応戦が許されたことになる。

この時点では、いわゆる常備の五個兵団には動員準備すら発令されておらず、マザーの大船団の中でひっそりと静まったままだ。

そして王は、多数のウェアハウスを従えはるかな荘園に旅立って行き、丁度その同じ頃には、小型の中国船が複数秋津州湾に入り込み、全く無遠慮に測量を始めていた。

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  1. 2005/11/01(火) 01:01:03|
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