日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 133

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一方で、タイラーもその本拠たるオフィスで刻々と報告を受け続けていた。

作戦の指揮官としては当然のことで、報告者は無論ホテルの責任者クラスであり、殊に獲物が舞姫と二人だけの時を持ちつつあるところからは頻繁に報せを受けており、その報告を信ずる限り、少なくとも最も高価な獲物が今罠に落ちたことだけは確かなのだろう。

要領を得ないところもあるが、二人切りで過ごしたのは精々十五分程度でしかないらしく、魔王が電光石火で打って出たことは確かだ。

未だ若いんだから無理も無い。

秘書官を通じて「要請」があったと聞いた時点で少なからず成功を想ったが、無論肝心なのは今後の展開だ。

全ては、敵の懐にどの程度まで飛び込めるかに掛かっているのだ。

あの猛獣を骨抜きにして思うさま操縦出来れば理想だが、そこまで甘い相手でもあるまい。

あの男の恐ろしさは、私自身が骨身に沁みているほどであり、こちらの意図など、全て承知の上で動いている筈だ。

その後さまざまに現場とのやり取りを交わし、そして何度目かの報せの中で、王家の使者の到来を知り、今また舞姫とその使者が密談中であることを知った。

誰も入室させないと言う。

そう聞けば、益々ただ事では無い。

期待は膨らむばかりだったが、次の具体的報告までには皮肉にも相当の時を要した。

舞姫は密室から出て来はしたが、密談の内容までは明かさないと言うばかりでまったくいらつくこと甚だしい。

とにかく、使者を帰した後の舞姫の様子が尋常ではないと聞き、当人からの直接の報告を命じたが、いま改めて大和商事から電話が入っていて通話中だと言うばかりで、一向に埒が明かない。

無論、内容などかけらも聞こえて来ない。

非常ないらだちと怒りの中でひたすら待つほかは無かったが、やがて待ちかねたその相手から直接電話が入ったのは灯ともしごろになってからであった。

しかも、呆れたことに開口一番、任那の秋津州ロイヤルホテルに専用の特別室が必要になったとのたまい、当然のことのように十部屋以上もある最高のスイートをお望みで、それも、まるで宣言しているかのような口振りなのだ。

そのホテルにしてもその名称が語る通り、この八雲の郷のものと同様にワシントンが隠れたオーナーであり、そうである以上どうとでもなると思うのだろうが、それにしてもその自信に満ちた物言いは、昨日までのそれとは明らかに一線を画しており、その点でもこの戦士が成功の端緒を掴んでいることは想像に難くないのである。

戦士の口から明白な勝利宣言こそ出て来ないが、この「谷間の百合作戦」が一大戦果を齎しつつあることだけは、最早疑いようの無い事実ではあるのだろう。

それにしても、その物言いはいちいち天から降ってくるような勢いだ。

苦々しい思いで一杯だが、ハイスクールさえ満足に出てない筈のこの小娘に、まるで女王さまのような物言いをされてもひたすら耐えるほかは無い。

何せ、王家の使者からの電話があってその直後のことである。

戦果の詳細は不詳であるにしても、薄暗い谷間に鮮やかに花開いた鬼百合が毒々しい花粉を撒き散らしつつ、とりあえず任那のロイヤルホテルに舞台が変わるだけだと高々と宣言しておいでだ。

そのホテルは、任那の大和商事ビルにも程近いところにあって、既に一年の余も営業を続けて来ている今、この世界でも十指に入るほどのステータスを誇るまでになって来ており、誰が見ても堂々たる高級ホテルだ。

その最高級スィートともなると、予約にしても相当先まで埋まってしまっている筈で、しかも長期間押さえるとなるとそのコストも尋常なものではないが、そんなことを言ってる場合では無いのである。

女王さまの要求通り、早速手を打つことにしよう。

何せ、嫌なら別にいいのよ、と言わんばかりの口振りで、その場合は、こっちとの契約を断ち切って、敵の陣営に転がり込むとでも言いたげだが、敵さんだってそこまで甘くは無いだろう。

何せ、あの女帝が仕切ってる筈なのだ。

百歩譲って敵さんがそこまでの甘ちゃんであったにしても、こっちの女王さまには、売春ばかりか度重なる窃盗と言う極めて反社会的な前歴まであり、しかも自ら積極的に応募した工作員なのだ。

その点、国家に父母を殺されて突然孤児にされてしまった挙句、工作員として一方的に利用されかかった美少女の場合とは根本的に違うのである。

仮にあの女が秋津州の翼に抱かれて表舞台に躍り出ようとすれば、社会的に葬ってしまうことも容易であり、そのことを知れば流石の魔王もリスクを恐れて及び腰にならざるを得まい。

但し、世継ぎを生んで国母の地位につけば又話は変わってくる。

そうなれば、負の歴史を全て帳消しにして余りあるほどの大逆転劇を演じることも可能だが、先日他の数人と共に強制的に受診させた特別の健康診断の結果が今届き、その特別の私信によれば、先天的か後天的かまではさて置き、哀れにもその可能性が全面否定されてしまっている。

妊娠する能力そのものが全否定されてしまっている以上、世紀の大逆転劇への途も完全に閉ざされたと言う他は無い。

まったく、運命とは皮肉なもので、問題の私信もつい今しがた秘書が持ってきたばかりで、その鬼百合自身と通話のかたわら、ざっと目を通して驚いてしまったほどなのだ。

まあ、いつかは耳に入るだろうが、いまわざわざその闘志を無駄に殺いでしまうのも得策では無いだろう。

一瞬でさまざまなことが胸をよぎっていったが、何も知らない女王さまの鼻息は相変わらずで次々と要求が飛び出してくる。

いきおい備品や舞台衣装についてもさまざまなお申し付けを頂戴し、女王様は意気軒昂たるものがある。

演舞用のスペースなどは今度の場所にも当然用意されるべきものであり、バックダンサーなどの要員にしても望みに任せよう。

お気に入りらしいフロア係りの女どもなどは、女王さまから見れば付き人扱いなのだろうが、付き人自身が満々たる闘志を抱(いだ)く戦士である以上、こればかりは直ぐにも反乱が起きてしまうことは目に見えている。

しかし、それらの道具立ては、全て世界の帝王が望んでいるものだと示唆されればぐうの音も出ないのだ。

特別なソファや奇妙な家具や道具までいちいちオーダーが出揃い、女王さまのイメージが途方もなく隠微に膨らんでいることを知ったが、基本的には作戦の企図に沿ったものばかりであり、指揮官としては文句のつけようも無い。

中でも特殊で風変わりなデザインの机や椅子の場合など、その使用場面を想像して思わずにんまりしてしまったほどで、あの鬼百合がイメージするひたすら隠微な戦術が偲ばれていよいよ頼もしい。

流石に豊富な経験を持つだけのことはある。

十四・五歳の頃からいろんな趣味のヤツを相手にしてきたんだろうが、よくもまあこれだけのツールを思いつくもんだ。

さっきからFAXで送られてくる下手な絵を見てると、見たことも聞いたこともないようなものまで飛び出して来る。

恐らく、CIAから出向してきてる連中を通すのが早道だろうが、九割方揃えるだけで半月はかかるだろうし、残りなんかはオーダーメイドでやるしかあるまい。

しかしまあ、これだけのものを駆使してお相手をしようと言うのだから、一線級の戦士であることだけは確かだ。

さまざまな小道具が並ぶその戦場はさながらオトコの楽園そのものであり、世界の帝王が尻尾を振って通い詰めてくれることを願って、コードネームは「皇帝の間」と名付けることにしよう。

流石に運転手付きのリムジンまで要求されたときにはムカッと来て、一瞬怒鳴りつけたい衝動に駆られはしたが、必死に堪(こら)える他はなかったのである。

いずれにしても、こう言う女だ。

そのうち何を言い出すか知れたものではないが、叩けばいくらでもほこりが出て来る体だ。

いくらばかでも、決定的な裏切り行為に繋がるようなことでもあれば、帰国させられることは勿論、一切の特権的条件を全て失った上に、陰に陽にさまざまな報復的手段が講じられて、しまいには路頭に迷うくらいは知ってるだろう。

国家の安全保障に関わるほどの案件で祖国を裏切れば、抹殺されることすら珍しく無いのである。

あのばか女にいざと言う場合の人質になるような係累が無いことだけが不安材料ではあるが、報酬の出し惜しみさえしなければ、この「谷間の百合作戦」の行く手には洋々たる前途が待ち受けている筈であり、遠大な「荒野の薔薇作戦」など今や地平線の彼方に遠く消えて行ってしまった。

胴震いまでして来たが、とにかく、悠然と大海を泳ぐ大魚がいま餌に喰い付いたのである。

餌自体の功績は認めるが、それなりの対価も支払って来てる筈で、餌は餌としての分を弁え、あくまで日陰の存在のままに、我がワシントンの行く手に少しでも多くの光を灯してくれさえすればそれで良いのだ。

早速にも緊急レポートの作成に取り掛からねばならないが、あの鬼百合の花弁が禍々しく口を開いて、獲物を見事に銜え込んだことは欠くべからざる一項になるだろう。

自らキーボードを叩きながらその光景を想像し、密かにほくそ笑まずにはおられなかったのだが、なんと言っても久々の大戦果なのだ。

それを思えば、大抵のことには目を瞑らざるを得ないだろうし、流石は磐石の自信を持って起用した鬼百合だ。

あの凄まじいばかりの色香にかかれば、流石の魔王も形無しだったとみえる。

タイラーはその威力にひたする感服するばかりだったが、実際には、その鬼百合がご披露申し上げた特別の演舞が、ヤマトサロンの総帥たるものの危機感を煽りに煽った挙句、それが廻りまわって天女の背中を強力に押しやる効果を発揮したなどとは、思いもよらないことだったのである。


更に言えば、近頃はある重要な課題を抱えて懸命の交渉に望む段取りを構えつつあり、先ほどから例の女神さまとやり取りを交わした結果、明日のご来駕が確実視されるに至っているのだ。

何せ、我が国は国軍の司令部機能をごっそりとこの地に移してしまおうと言う構想を持ち、ホワイトハウス自身がいよいよその腹を固めつつあるところなのだ。

それが実質的に国連軍の中枢を兼ねているものである以上、本来米本土に腰を据えているべきものなのだが、この際それを思い切って秋津州国防軍の身近に置かせてもらうことによって、その指揮下に置きたいと考えたからに他ならない。

我が栄光の国防軍が秋津州軍の指揮下に入るのだ。

それが実現すれば、そこから米本土の形式上の国連軍総司令部に直接作戦命令を発することになるのである。

迫り来る宇宙戦争において実効ある迎撃戦を行い得るものは、天下広しといえども秋津州軍のほかに無いことは、専門家の間ではとうに常識となっている今、この件ではペンタゴンはもとより、ワシントンでもほとんどの要人が歩調を揃え、魔王の心中を推し量って恐れ戦いていた連中までが近頃では賛成にまわっているほどで、最早反対論は制服組の中にごく少数を残すのみだとされているのだ。

中露その他の衛星圏に至っては、駐屯中の秋津州軍の指揮を仰いでいる実態が既にあるとされており、そこに来て我が国のこの動きが知れ渡れば、英仏独軍なども雪崩を打ってそれに倣うだろう。

何しろ、いずれもが単独では対抗し得ないほどの強敵が、それこそいつなんどき押し寄せてくるか判らない事態を迎えているのである。

先日日本の地を訪れた国防相が洩らしてくれたが、あの特異な同盟国が驚くほど毅然とした対応を見せたばかりか、その国は国家警務隊と言う軍を持ち、その麾下に最も風変わりな女性軍を従え、領空と言う概念をはるかに超えるほどの高空にまで既に警戒網を張り巡らせていると聞いた。

その風変わりな女性軍は、その国の法制度上、一人の日本人青年が寄贈した機械設備と言う体裁を取っているとは言うが、いずれにせよ、恐るべきあの強敵に対抗し得ると言う視点に立てば、あの同盟国は今や秋津州とともに希少な存在になっており、その鼻息も一段と荒くなって当然だろう。

我が国も、いつまでも過去の栄光にばかり縋っていては、いずれ典型的な亡国への道筋を辿らざるを得ないことは明らかで、全ては女神さまの反応を見てからのことになるにせよ、少なくとも秋津州の翼下に抱かれることを自ら進んで望んでみせるのだ。

その反応が悪かろう筈は無いのである。

とつおいつしながら、ワシントンに最新のレポートを送信し終えたとき、新たな電話が入った。

鬼百合本人からだと言う。

出てみると、女王さまは直ぐにでも任那にお移りになりたいらしく、聞けばこの八雲の郷にいては陛下のお渡りが望めないからだと主張しており、例の帝王の間の準備が整うまでは、多少レベルは落ちても同じホテルの別の部屋で臨時営業するお覚悟のようだ。

まあ、その程度の部屋なら何とでもなるだろうからと、早速女王さまお移りの手配を命じたが、そこへ今度は現場責任者から別の報告が入ったのである。

どうやら女王さまは重大情報を隠蔽している気配だ。

何でも、つい今しがた例のお使者が再び訪れ、今度は鬼百合自身の部屋へ直行したばかりか、何やら重大な届け物をした筈だと言う。

何せ、あの美貌のお使者が、入室の際には意味ありげなアタッシュケースを提げていたのに、帰途には手ぶらだったと言うのだから騒ぐのも当然だろう。

現場管理者は直ぐに鬼百合本人を問い質したが、案の定言を左右にしてさっぱり要領を得ないので慌ててご注進に及んだものらしい。

報告者はまさか拷問に掛けるわけにもいきませんしと言うので、早速鬼百合本人に連絡したところ、流石に観念したと見えて意外に素直だったのにはいささか驚かされた。

その結果、現場責任者にアタッシュケースの内容を開示させることを得た。

例の窓の月が入っていたのはほぼ予想通りだったが、そのほかにも実に奇妙なモノが出て来たと言う。

直ちに送らせた実写映像もこの目で確かめたが、真っ黒で不気味な無機質感を湛えたその直方体は、見た目と違って驚くほどに軽く、念のために計測してみると不思議なことにその重量が一定せず、五百グラムかかるかと思えば、甚だしくは二十グラム以下でしかない。

ひたすらのっぺりした表面には何処を捜しても鍵穴や蝶番(ちょうつがい)どころか、繋ぎ目すら見当たらず、耳元で揺すってみても何の音も聞こえないし、自然中身を見ることも出来ないと言う。

言わば大き目のティッシュペーパーの箱のようなもので、前後の二面だけが一辺を十センチほどとする正方形を成し、箱としての長さが三十センチほどもあり、無論何かの容器ではあるのだろうが、鬼百合自身はその開け方さえ知らないと言うから、そんな筈はないだろうとつい声を荒げてしまった。

だが、改めて聞いてみると、開け方なんか知らなくても、箱も中身も全部自律的に作動するからまったく支障は無いと言われていると言う。

結局、謎は謎のままなのである。

いずれにしても、秋津州の新兵器には違いあるまい。

直ぐにでも現物をワシントンに送りたいところだが、いきさつから言って得策で無いことは明らかであり、あとは鬼百合の口から吐かせるよりほかは無い。

やがてしぶしぶ白状したところによれば、その箱は密室で魔王と会う場合にはその室内のいずれかに置くべしと指示されており、いざそれが機能するときに途惑う事無く目的を完遂すべく、若干の説明だけは受けていると言う。

一言で言って、その箱の中身は冷凍保存機能を具えた精子採取機であり、新兵器は新兵器でも、信じ難いほどの機能を具えたダッチワイフそのものではないか。

まったくふざけた話ではあるが、その名も「レディ」だと聞いて一瞬爆笑してしまったくらいだ。

しかも、レディは自在に飛行して機能すると聞き、男の一人としてその形状や機能についても大いに興味が湧くが、それを使用することに協力を求められた女はいたくプライドが傷付き、出来れば誰にも知られたくなかっただけのようであり、そこに問題は薄いがこっちの戦術的興味は全く別のところに芽生えることになった。

過去の事例に鑑みて、女帝の意図を濃厚に嗅ぎ分けることが出来ている今、恐るべきことながら、敵がとうの昔に戦士の持つ生殖機能の問題点に気付いていたことを知ったのである。

当然、魔王自身もそれを知っただろう。

その結果が凶と出るか吉と出るか、それによっては餌の価値が著しく減衰してしまうばかりか、作戦自体が根底から変更を余儀無くされることになる。

まったく、今日はことの多い日だ。

隣室に命じてお茶にしようと思ったとき、そこで電話を取った女性秘書が、反感をむき出しにして「でかぱいのアン」だと言う。

その口調からは、軽蔑と言う感情まで匂って来る。

それはそうだろう。

教養のかけらも持たないくせに、妖艶なルックスを鼻に掛けてやたらに色気ばかり振り撒いて歩くような女なのである、胸も腰もがりがりの洗濯板で仕事一筋の女などからはどう考えても好かれる道理がないのである。

だが、アンはある意味特別のオンナであることは間違いない。

抜群のプロポーションを具え、しかもひたすら芳醇なあのボディを見れば、大抵のオトコがよだれを垂らして擦り寄って行く筈で、しかもあの鬼百合に勝るとも劣らぬ雪の肌を持ち、毒々しいまでに真っ赤に塗りたくった口紅やマニュキュアなど、その対象の妙は見ようによっては卑猥そのものと言って良いほどの眺めだ。

頭蓋骨の中身が全部その胸に移行してしまったような女ではあるが、これはこれで貴重な戦力であり、それが珍しくも直接の報告があると言う以上、ここは聞いて置いてやるべきだろう。

張り付いている相手があのタナカのことでもあり、その点多少の期待感が無いわけでも無い。

ところが、恐れ入ったことに開口一番カネの無心だ。

タナカから魔王を紹介してもらえることになったから、その報酬として日本円で二千万支払うのだと言う。

ばかやろう、あの魔王が側近のお下がりになど食指を動かすもんかと言ってやると、意外にもタナカとは一度もベッドインしたことは無いと言いだした。

以前の報告によると複数の実績があると言ってた筈だが、全てでまかせだったらしい。

しかも、芸の細かいことに小切手は半分づつ二枚にしてくれと言う。

領収書は要求しない建て前でもあるし、どうせ一枚は懐に入れるつもりだろうと思い、苦笑しながら小切手を切ったが、あっと言う間にすっとんで取りに来たのにはいささか驚いた。

でかぱいを弾ませ、真っ白い頬を高潮させながら駆け込んできたゼニの亡者には、くれぐれも話が具体化してから渡せと言って置いたが、大和商事の本社ビルで正体不明の人物と会うと言う点だけは気になった。

場所が場所なのである。

しかも、その相手とはタナカの口利きによって会えることになったと言い、女性であるとしか聞いていないらしい。

名前も知らずにどうやって会うんだと言ってやると、受付けで名乗りさえすればいいようになっていて、カネはその女性に手渡すつもりだと言うが、話の様子ではどうやらタナカからは手厳しく別れを宣告されてしまっている気配だ。

まあ、考えてみればタナカだって男のはしくれだ。

自分に接近して来た女が自分以外の男を紹介しろと言うのだから、そりゃあ、むくれない方が余ほどどうかしてるだろう。

まったく、大笑いだ。

だが話半分に聞いても、あの魔王の好むタイプは、唯一モニカの例を除けば、いずれも薄気味が悪いほど純白の素肌を持つ女ばかりであり、鬼百合の例から言っても満更あり得ない話では無いのである。

前王妃と言い、長らく王宮に部屋を持つ二人の姫君さまと言い、いずれもそうなのだ。

殊に今回の鬼百合の一件で強く感じたことがあるが、モニカやティーム・キャンディの当時の様子から見ても、魔王の性的情感に最も強く訴える女のパターンは、やはり下劣で卑猥な性的魅力であって、単に美しいだけでは最早飽き足らないのだろう。

それが証拠に、近頃専ら魔王の性欲を満たしている筈の女性秘書官のあの姿はどうだ。

以前の三人の侍女たちなどは、それはそれで神秘的な何ものかを感じさせるほどの美の化身ではあったが、惜しむらくは色気と言うものが足りない。

足りないどころか、近寄り難いほどの気品に満ちて神々しいばかりのあの美しさは、獣欲の対称とするには少々疑問が残るのである。

尤も、当時の魔王は未だ若かった。

若いどころか未だ少年と言って良い年だった筈で、そのため、それで充分だったのであろう。

しかし、ヒトは年を取り、同時に良くも悪くも経験を重ねる。

恐らく、若さを失いつつあったこともあり、あの三人では著しく刺激が足りなくなったはずだ。

そこで登場したのが、あの秘書官だ。

美しさばかりか凄艶なまでの色香を湛えたあの姿を見れば全て一目瞭然で、あれほどの女が一旦夜ともなれば、凄まじいほどの変身を遂げてあの男を魅了するかと思えば、胸の中に嫉妬の炎さえ燃え上がってくるほどだ。

その意味では、魔王といえども所詮ただの男でしかないのである。

幸か不幸かあの女が懐妊したと言う話は一向に聞かないが、あの女が秋津州人である以上、結局あの女が世継ぎを産めば誰も恨みっこなしで、それはそれで一番平和な途なのかもしれない。

あれを思いこれを思い、海の猪を肴に久々の美酒に酔いしれたタイラーではあったが、このとき、アンと似たような手法で大和商事の門を叩いた女性が複数あったことまでは無論知らない。

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  1. 2008/06/17(火) 12:38:47|
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