日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 143

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さて、それから半月ほどが経った十月の末である。

東京では、立川みどりが大過無く退院を果たして周囲をほっとさせる一方、六角庁舎の秋桜(こすもす)エリアでは、新田源一が早朝から国王を迎えて貴重なシグナルを受け取ろうとしていた。

何しろ、未だ夜が明けたばかりのことでもあり、連絡を受けた新田も驚きを隠せなかったようだが、とにかくほかのことでは無いのである。

何はさて置き直ちにオフィスの方に席を設けたが、その接遇も、乳飲み子に手の離せない妻に代わって秋元涼がさり気無く勤めてくれており、この点一つ採っても、「彼女」たちの夜(よ)も日(ひ)も無い勤務態勢が非常な戦力となっていることは否めない。

まして、陛下の突然の朝駆け一つ採っても、こっちより先に察知していた気配まであり、そのせいもあってか「彼女」の手によってたちまちにして席が整った。

無論席に酒は無く、陛下は朝茶で口を湿らせるや否や、こちらの目の奥を覗き込むようにして仰せになるのだ。

昨晩はかなり遅かったこともあって今になってしまったが、今ここで出撃すれば当分ゆっくり話す機会も無かろうから、出撃前に是非とも話して置きたいとの御諚であり、自然おっとり刀で伺うことになったのだが、先ずは、ヤサウェのデータの復元に成功したと伺い、この点では事前の期待が満たされたことにはなるのだろう。

予定通り接収した結果、物理的損傷が無かったこともあって、そのデータの復元も至って順調だったと仰り、続いて、人工知能に往古のデータへの物理的接続を命じられたとの仰せだが、当初はその意味するところが理解不能であったものが、忠実な秘書役の「彼女」がついていたこともあり、懇切な説明を得てようやく腑に落ちたのである。

その概要を端折って言えばこうだ。

問題の人工知能は一千年にも及ぶ稼動を続けて来ており、いきおい蓄積して来ているデータも膨大なものにならざるを得ず、しばしば手に余るほどのものになってしまったらしく、往年のデータの多くを切り離して別途収納せざるを得ない事態に度々遭遇して来たと言う。

こう言った切り離し作業は過去においても折りに触れて実行されていたようだが、とにもかくにもその処理機能が、日々増え続けるデータを全て処理するには不足を生じていたと言うのだから、それはそれで苦渋の選択ではあったのだろう。

ところが、ここに来て事態が一変したと仰る。

その人工知能が一挙に三十五台ものスペアマシンを持ったことによって、ハード面での大幅な冗長化が成り、それが運用面における優れた柔軟性を生んだと仰るのだ。

早く言えば、常にその役割を代行し得るスペアを得たことにより、従来からのオーナーマシンですら長時間のシャットダウンはおろか、その本体のハードですら、そっくり新造のものに交換してしまうことまで可能になったと言うのである。

これまで煩瑣な部分交換で凌いで来た人工知能にとって、これは画期的な環境改善を意味していたらしく、その利点を生かして作業を進めた結果、その処理能力を飛躍的に高めることにも成功し、既にそれは従来の数億倍にも達すると言う途方も無いものに成長していたらしい。

詰まり、おふくろさまが劇的な進化を遂げたことになり、その結果、以前なら無謀なものでしか無かった筈のご命令ですら、軽々と処理出来るほどの能力を具えたことにはなるのだろうが、同時に最大の難関を乗り越えなければならなくなったと言う。

それは新旧データ間の論理的な整合性を確保することだったと聞き、専門的な切り口については相も変わらず理解不能だったのだが、要はそのことのために、おふくろさまが大汗をかいたことだけは確かなのだろう。

しかし、専門的な知識は無くとも、別に重要なポイントが潜在していることは言われなくても判っている。

すなわち、人工知能に「記憶」は無く、ただ「記録」だけがあると言う点だ。

詰まり、その記録にアクセス出来なくなった瞬間全く知らなかった状態に陥ってしまうばかりか、再びアクセスするまではその状態が永遠に続かざるを得ないのだ。

我々人間さまのように、ずっと忘れていたことを、僅かなきっかけでふいに思い出すような芸当など出来はしないのである。

一旦切り離してしまった記録装置の中身は、おふくろさまにとっては最初から知らなかったことと同じであり、過去において自分自身が直接行ったことでさえ全く同じことなのだ。

結局、おふくろさまは自らが製作した筈の巨艦のことは勿論、ネメシスやローマ人たちのことについても、全く「記録」を失ってしまっていたことになるのだろう。

そもそもそうでなければ、かつてローマ人たちの襲撃を受けた際、陛下は一旦丹後に飛んでおられる筈なのだから、当時丹後に留まっていた人工知能が、襲撃のデータに接した瞬間にも全てが氷解していた筈なのだ。

ところが、今おふくろさまは往古の記録に全て接続することを得たと言う。

人間さまに例えれば、失われていた「記憶」を一挙に取り戻したようなものだったろう。

それも、千年も昔のことでさえ、まるで昨日のことの様に鮮明に認識することが出来るのだ。

人間のように記憶が薄れてしまうことなど無いと言って良い。

しかも、人工知能と言うこの「機械」は、あるじからの問い合わせに対して、少なくとも嘘は言えない仕組みになっていると言うのである。

あるじである陛下は、当然さまざまな「問い合わせ」をなさったろう。

その結果、かつて推測に過ぎなかったことの多くがれっきとした事実に変わったと仰り、少なくともその骨子だけは事前の予想を裏切らないものばかりだったらしく、かつてビザンチン陥落の際にローマ人を救ったオヤカタサマが、秋津州の三十六代さまだったことは勿論、ネメシス滅亡の折りに彼らをドリフターに救い揚げた方が、ご当代の実の父君だった事実まで確定したと仰る。

だが、問題のネメシスの滅亡が、小惑星の激突によって齎されたものだったと聞くに至って、思わず不遜な声をあげてしまっていたのである。

「しかし陛下、小惑星の一つや二つ、ご先代さまがついておられて、どうにもならなかったのでしょうか。」

現に目の前のご当代なら、瞬時に吹き飛ばしてしまわれるだろう。

「申し難いことですが、父と私とでは力の差が相当大きかったようなのです。おふくろさまの申すには、それも数百万倍もの差だったと言いますから。」

「ほほう、それほどまでに・・・。」

しかも、現代のオヤカタサマの異能は今以て進化を続けていると聞いているのである。

「はい、わたくしの十七歳頃の力が、概ね父君の絶頂期のそれに相当すると聞いております。」

「なるほど、そう言うことですか。」

「系譜に繋がる者の間にも個人差と言うものがございまして、今にして思えば、私の姉なども全盛期であってさえ、月一つ動かすのも容易で無かったろうと思われますから。」

しかも、異星人の襲来時は彼女にとって八十代終盤と言う最晩年のことでもあり、その「力」は著しく衰亡してしまっていたと聞いているのである。

「ほほう。」

「尤も、この場合、全盛期の姉を以てしても無理だったろうと思われます。」

「では、問題の小惑星は月よりも大きかったと仰る。」

「いえ、質量から言っても寸法から言っても地球よりはるかに大きかったそうです。」

「なんと・・・・。」

そんなに大きかったら小惑星だなんて言ってられないだろうし、例え直撃は免れたにしても、それこそ付近を通過されただけでも想像を絶する大惨事になってしまうに違いない。

「尤も、その軌道がネメシスのそれと重なっていることに気付いて、ローマ人に初めて伝えた頃の話ではありますが。」

「と、申されますと。」

「ローマ人たちがなかなか信じないものですから、父君は懸命に破砕しようとなさったようです。」

「なるほど、相当小さくしてからなら、どうとでもなるでしょうからな。」

「はい、質量から言って、破片の一つ一つが、ドリフターの百倍ぐらいになるまで破砕しようとなさったようです。」

「ほほう、そのくらいの物なら処理が可能だったわけですか。」

「充分だったそうです。」

「ところが、それが上手く運ばなかったと・・・・・。」

「はい、結局ごく一部の破片だけがネメシスの地表に落下してしまったと言います。」

無論、ローマ人たちを天空のドリフターに救い上げたあとのことだ。

「ごく一部でございますか。」

「一部とは申しましても、長径で一千キロを超え、質量に至ってはドリフターの十万倍は下らなかったと言いますから・・・・。」

「そんなでかいヤツが地表に突っ込んだんですか。」

「北半球に激突したそうです。」

「相当な衝撃だったでしょうなあ。」

「一瞬で深さ数千メートルもの大穴を穿ったでしょうから、想像を絶する衝撃だったでしょう。」

「クレーターの大きさは数千キロでしょうなあ。」

「はい、その上、地表付近の岩盤を悉く溶かしながら捲り上げ続け、その動きはまるで津波のようにしてネメシス全域に及んだと言います。」

「溶かしながら・・・。」

「少々乱暴な言い方ではありますが、基本的にはマグマと同じような状況になったのでしょう。」

「と言うことは、地表一帯が全て活火山の噴火口の中と同じ状態になったと仰る。」

「はい、それも全面隙間も無く。」

「では、海洋の水も・・・。」

「無論一滴残らず蒸発したでしょう。」

「深海もでしょうか。」

「勿論です。」

「その結果、成層圏は全て舞い上がる粉塵に覆われてしまったと言うわけですか。」

「それも超高温の粉塵です。」

「それが太陽光線をすっかり遮ってしまって、永遠の夜が来たわけですな。」

「太陽光線と言う熱源を失ったのですから、地表は急速に冷えて行ったでしょう。」

「その結果が全球凍結に・・・。」

「はい。」

「百三十年経った今はどうなってるのでしょう。」

「実際に確かめて参りましたが、各地で火山の巨大噴火は見られるものの、上空の粉塵はほとんど残ってはおりませんでした。」

「おお、それではローマ人たちの故郷が復活してることになりますか。」

「一応、極地付近を除けば概ね氷も解けて、多くの海洋まで出来てはおりましたが・・・、そこに戻るのはやはり無理かと思われます。」

「やはり駄目ですか。」

「何せ、地上は溶岩が冷えて固まったあとに数十メートルにも及ぶ火山灰が堆積しておりますし、草木一本生えてはおりません。」

陸と言い、海と言い、その全てが透き間も無くマグマに覆われたことによって、文字通り全生物が悉く死滅してしまったのだろう。

「ふうむ。」

確かに、モニタに写るその風景は想像を絶するほど荒涼たるものであり、しかも、至るところで豪雨が降りしきり、大規模な泥流や土石流が各地に発生して、諸方の大河も頻繁に流れを変えてしまうほどだと言う。

「それに、大気中の酸素濃度が人間にはとても足りないようですし。」

「窒息してしまうんじゃ住めませんなあ。」

「そのほかにも、決定的なことがございました。」

「未だあるんですか。」

「ネメシスの公転軌道に微妙にずれが生じて来ているようでして、数十年後にはそれが加速度的に大きくなってしまいそうな雲行きなのです。そうなってしまえば、最早死の星に化すばかりですし、最悪太陽に飲み込まれてしまう可能性までありますから。」

同じ太陽でも、それとの距離が適正に保たれ続けなければ、たったそれだけのことで人類はその生存すら危うい。

近過ぎても太陽の熱を浴び過ぎてしまい、又遠過ぎれば遠過ぎたで受ける熱量が決定的に不足してしまうのである。

「しかし、そのずれと言うヤツは陛下のお力で何とかならんもんでしょうか。」

「いえ、どこでもいいから飛ばしてしまえと言う話なら別なのですが、天体間の微妙なバランスを保ったまま動かすほどの自信はありません。」

「どうしても駄目ですか。」

「残念ですが。」

やはり絶望のようだが、その後のやり取りでもさまざまな「事実」が確定したとの仰せで、ご先代さまがローマ人を置き去りになさった経緯についても、その詳細を伺ってあまりのことに改めて驚かされてしまったのである。

ネメシスの滅亡にあたり、当時のローマ人たちはネメシスのはるかな上空に浮かぶドリフターに退避していて、彼等がその後の行動方針に関して激しく争ったことまでは伺っていたのだが、ことはそれだけでは済まなかったらしく、一部の過激派があろうことか先王に刃をさえ向けたと仰るのだ。

詰まり暗殺を謀ったと言うのである。

そのローマ人にもさまざまの人がいたらしく、中でもネメシスの復活を想い、時期を待って地上に戻るべしと主張する連中にとっては、一刻も早くそれを捨てるべしと諭すオヤカタサマの存在は非常な障害になった筈だ。

無論その対極にいた者も数多く存在し、両者が激しく衝突してしばしば流血の惨事を招いており、オヤカタサマの言説を信じて地球への再移住を叫ぶ側にとっても、それはそれで貴重な神輿(みこし)だったのだろうが、その中には、オヤカタサマと言う旗を自らの陣営に立てるべく、その身柄を拘束しようと謀るものまで現れたと言う。

尤も、暴徒たちが如何に執拗につけ狙おうとも、王に例の異能がある限り、無論出来ることでは無いのだが、そうかと言って騒ぎは収まるどころか益々激化の一途を辿り、オヤカタサマの身辺はいよいよ騒然とするばかりで、収拾のつかない状況が続いたらしい。

オヤカタサマがほとほと呆れ返っておられたことは確かだろうが、何度も襲われながらオヤカタサマは暴徒たちを一切殺さず、ただ哀しみのあまり無言で去っただけだったと言う。

先王とはそう言う方だったらしい。

今にして思えば、千九百三十四年に九十二歳で亡くなられたとするその方は、千八百四十二年のご生年の筈だから、それは、あの有名なペリー来航に先立つこと実に十一年にもなるのだ。

しかも、ご当代のご生年は千九百八十五年の筈だから、ご先代の没後五十一年もの長きを経ており、ご当代が人工子宮からのご出生と言う哀しい宿命を背負っておられることに改めて思いを致すことにもなったのだが、しかし、実際には呑気に感傷に浸っている余裕は無かったのである。

陛下が続けて触れて来られたことが、かつてご自身が最も興味深いと仰せになった事柄だったからだ。

詰まり、ネメシスの滅亡に際し、先王が飄然と去った後で為されたヤサウェの指導方針のことにほかならない。

ちなみにヤサウェの本名も井口弥左衛門と判明したそうで、代々の主からは往々にして「やさえい」と呼ばれることが多く、どうやらそれが転じて「ヤサウェ」となったらしいが、とにもかくにも当時の「やさえい」にとって先王のお下知こそ全てであったことは確かであり、それに沿って為された筈のローマ人への指導の内容こそ「それ」だったのである。

なお、この場合の先王はこの丹波にあの胆沢城を作ったほどの方だと伺っており、その点一つ採ってもそう言うお方がローマ人たちの武力侵攻など望まれる筈も無く、この意味でも大きな矛盾があったと言って良い。

ところが、改めて接続された往古のデータと弥左衛(やさえい)のデータが全てを明らかにしてくれた。

それによれば、オヤカタサマは磐座の洞穴に巨石を以て封印を施してから去ったと言い、その中に籠もって長期間沈黙した弥左衛(やさえい)は、ローマ人たちには知る由も無いことだろうが、れっきとしたヒューマノイドなのである。

とどのつまりに彼等が結論らしきものを下したのが、それから二年近くも経ってからであり、その間の彼等はシャトル便を使って頻繁に地上付近に降りて行き、血眼になってその状況を観察し続けたと言う。

その結果永遠の夜と全球凍結と言う異常気象がその後も長く続き、地表付近の気温に至っては益々下がり続け、遂にはマイナス二百三十度にまで達したことが、彼等のか細い希望をようやく打ち砕いてくれたのだろう。

結局、彼等のネメシスは、彼らを受け入れる素振りさえ見せなかったことになり、こうとなれば、最早他の天体を目指すより仕方が無いが、大恩あるオヤカタサマはとうに去ってしまっており、そのためにはその眷属(けんぞく)たるヤサウェの力が是非とも必要だ。

だが、肝心の洞穴の入り口は巨大な岩石で塞がれてしまっていて、押せども引けどもびくともするものではないのである。

彼等が巨石の前でその助けを乞うて泣かんばかりに哀訴した結果、ようやく中から応諾の返事があり、その後数分で巨石が破砕されたと言うが、無論、弥左衛(やさえい)麾下のタカミムスビの矢が活躍した結果だ。

やがて濛々たる粉塵を掻き分けるようにして出御した弥左衛は、ローマ人たちにとって最早神も同然だったろう。

何せこの弥左衛は、洞穴の中で飲まず喰わずで二年近くも過ごしていたことになるのだから無理も無い。

その後の彼等は見違えるほど従順な態度を示すようになり、中にはこの新たな「神」の前にひれ伏す者まで出たほどで、その説くところにも良く耳を傾けるようになったとは言うが、かと言って弥左衛は丹波侵攻など一言も説いてはいなかったと言うのである。

当時の弥左衛にとって見れば、人類の居住を許すほどの自然条件を具えた既知の惑星は数多くあったとは言え、自力で到達が見込まれるものに限れば、後にも先にも一つしか見当たらず、それこそが惑星「丹波」にほかならなかったことから、偏にそこへの移住を勧めたまでなのだ。

ローマ人たちにさまざまの訓練を施し、改めて行き先の座標を教えた上、実際に航行を続けながら、数世代ののちには必ずそこに到達することが出来ると説いただけで、くどいようだが、武力侵攻など勧めたりはしていない。

それどころか、到着後はひたすら「お館さま」のお袖に縋るべしと大声で叱咤した上に、それ以外にローマ人の生き延びる道は無いとまで説いていたと言う。

尤も、それは百二十年前までの話であり、その後弥左衛は機能を失って沈黙し、そして残されたローマ人たちが世代を重ねるに連れ、彼の残したその教えもローマ人たちの無用の誇りがその骨子を次第に変貌させて行った挙句、しまいには武力侵攻を意味するまでになってしまったと見るほかはない。

現に十三年前、彼等が丹波を襲ったことがれっきとした事実である以上、少なくとも結果はそうなってしまったことだけは確かだろう。

しかして、時代はこんにちを迎えたのである。

弥左衛は、最新のボディとデータを与えられて見事に蘇り、さまざまな文明の利器ばかりか、ご当代の直臣としての使命をも付与されて、既にあの磐座(いわくら)の中に戻されたと言う。

無論陛下がご自身で伴われたのだろうが、何はともあれドリフターの中に陛下のご意思を体したヒューマノイドが、あの弥左衛の仮面を被ったまま送り込まれたのである。

しかもオヤカタサマと弥左衛がギリシャ語で会話することに、ローマ人たちが何の違和感も持たないだけの経緯があるばかりか、陛下ご自身が既にギリシャ語の会話能力をお持ちなのだ。

自然、気の昂ぶりを覚えずにはいられない。

その直後、軍陣にある陛下はいつものように颯爽と出立されたが、お見送りに際し、そのお背中が千万言を語ってらしたような気がしてならなかったのだ。

今ここで出撃すれば当分ゆっくり話す機会も無かろうと仰せになる以上、既に、何ごとか壮大な作戦を始めてらっしゃるのではとしきりに思われてならないのである。

早速東京と連絡を取り、握り飯を頬張りながら岡部とやり取りを交わしたのだが、無論、岡部も大興奮の呈だ。

何せ、戦艦とドリフターの設計図まで入手なさっておられるのである。

岡部は、そこからは無限の可能性が広がって来る筈だと叫び、陛下はその作戦を考え抜かれたに違いないと言う。

いずれにしてもあの方のことだ。

非戦闘員にまで被害が及ばないことを一筋に願ってらっしゃるとは思うが、今後の展開に付いてあれを想いこれを想いするうちに、不謹慎にも何やら愉快な気分になってくるから不思議だ。

しかし、我に返って思うことは当然ながら別のところにある。

果たして陛下が、今頃どのようなお気持ちでこの「戦争」を遂行しておられるかと言うことだ。

親子ほども歳の離れたその親友は、不運にも又しても無惨に家族を奪われてしまっており、そのお心のうちはいかばかりかとしきりに思うのである。

その後三十分も経たない内に国井総理から直々の連絡が入り、事実関係に付いて若干の確認を求められたが、肝心の戦艦の行方に関しては何ひとつ手掛かりが掴めない以上、未だ動く時期ではないと仰る。

一時の興奮から醒めた今となって見れば確かに総理の仰る通りであり、今は粛々と陛下の作戦を見守るよりほかは無いのである。

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  1. 2008/08/20(水) 12:50:18|
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