日本大好きじいさんの落書き帳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告|
  3. トラックバック(-)|
  4. コメント(-)

自立国家の建設 147

 ◆ 目次ページに戻る

「うむ、無法者と言うものはいずこの地にもおるものと見ゆる。」

オヤカタサマが若々しい眉を顰(ひそ)めながらの仰せだけど、いったい何のお話だろうと拝見していると、奇妙なほど薄手の箱を取り出しておもむろにその蓋をお開けになった。

ヤサウェに窓の月と言うのだと教えていただいたけど本当に不思議な箱で、蓋の裏側がまるで鏡のようになっていて、そこに映り込んでいたのは、よくよく見れば懐かしいカラヤニス領の田園風景なのである。

しかも、そこに大勢の暴漢に襲われている馬車の一行が映り、その上車上の顔ぶれが懐かしいものばかりだったから途端に大騒ぎになった。

様子ではお城の女たちが行楽の途中で待ち伏せにあってしまったものらしく、実力で馬車が止められてしまっており、映像の動きに連れて彼女達の悲鳴まで聞こえていて、その緊迫感がひしひしと伝わってくる。

一行の中の男どもは、年配の御者(ぎょしゃ)と随行の士が三騎だけだったようだが、それが四人とも矢傷を受けて倒れてしまっており、馬車の上には幼いニコメデスを必死の形相で抱きしめているネオマとセレナがいて、ネオマの妹たちが二人して主(あるじ)のマリレナを懸命にかばっている様子までありありと見えているのだ。

一方襲った方の暴漢たちは十人以上で、今しも中の数人が馬車に乗り移り、剣を抜いて脅し付けながら女たちを縛り上げようとしているから、じいは勿論侍女たちも大声を上げてしまっており、ヤニとデニスに至っては今にも剣を抜かんばかりの勢いなのである。

現に暴漢の一人が御者台に移って、慣れた手付きで手綱を捌いたところであり、このままではみんな揃ってどこかへ連れ去られてしまうのだ。

「みな、存知よりの者たちであろうな。」

オヤカタサマがすっくとお立ちになりながらのお尋ねだ。

「みながみな、我等が家の者たちに相違ござりませぬ。」

じいが声を震わせながら奉答すると、すかさずお凛然たるお下知が下った。

「今助けてつかわすが、わし一人で出向かばおんなどもが怯えるであろう。顔つなぎにじい一人が供をせい。」

無論、ヤニとデニスが承伏せず、大声でお供をせがんだのだが、案の定一喝されてお仕舞いだった。

「その方どもには、ここの女どもを守る役目があろう。」

お声もろとも目の前からオヤカタサマの姿がかき消えて、気が付けばじいの姿も無い。

一瞬その場が騒然となりかけたけど、ヤサウェに促されて見てみれば、そのお姿は既に窓の月の中に移ってしまっていて、しかもそこは問題の馬車の上なのだ。

今やオヤカタサマの握る手綱によって馬車自体が走りを止めつつある上、不思議なことに暴漢たちが空中で手足をばたつかせている始末で、それはどう考えてもオヤカタサマのみ業(わざ)としか思えない。

全てあっという間の出来事だったのだ。

ほどなくして、じいが女たちの縄を解きニコメデスを大切そうに抱き取ったところを見るや、洞穴一杯に歓声が沸き起こったが、中でもネリッサなどは大粒の涙を流しながら狂わんばかりに叫んでしまっているほどで、よほど感激していたに違いない。

その後、オヤカタサマは怪我人を収容して一瞬でカラヤニス城にお入りになり、幸い怪我人は手当てが早かったためか四人とも命を取り留めたと聞いたけど、全員生け捕りにした暴漢の取り調べなんかは、当然峻烈を極めることになるだろう。

また、このご時世に女たちが大挙して行楽に出るなど、如何に領内のこととは言え不謹慎の謗りは免れまいと思わないでもなかったのだが、よくよく聞いてみるとそこにはそれなりの事情があったらしい。

そもそも行楽などではなく、郊外で療養中の大切な人を見舞った帰り道だったと言うのだ。

その人は元々マリレナの乳母として長らく城内に仕えていたこともあり、この私とも顔馴染みの人ではあるけれど、ネオマの輿入れにあたっても一方(ひとかた)ならぬ貢献を果たしていたこともあって、殊にマリレナとネオマにとってはかけがえの無い人だったようで、それが、一年ほど前に体調を崩して郊外の息子夫婦の元へ退いていたのだが、いよいよ命旦夕(めいたんせき)に迫れりと言う報に接しての切ない見舞いだったと言う。

結局、辛うじてその臨終に立ち会うことを得て、早々に帰途に着いたところだったと聞き、憤慨していたネリッサがようやく納得したほどなのだ。

一方オヤカタサマは城に着いた直後にそっと姿を消しておしまいになり、じいと女たちから交々(こもごも)に経緯(いきさつ)を聞くことになった叔父さまが、どんなお気持ちだったかは聞くまでも無いけれど、肝心のオヤカタサマのお姿はそれ以来一度も見えないのである。


ただ、その直後ヤサウェから本日に限り一切の供御は無用にせよとの厳命が下り、しかも危険だから小屋から離れるなとの仰せだ。

已む無く小屋に引きとって様子を窺っていたところ、しばらくしてから地鳴りのような物音を聞いたので、戸外に出て様子を見ていると、磐座付近の上空に盛んな動きがあり、轟音に連れて高々と舞い上がる粉塵の中に、大勢の人影と共に奇妙な機械のようなものまでうっすらと目にした上、かなり大きな地響きまで起きていたから、さぞかしオヤカタサマの「み業」であろうと囁き合っていたのだが、そうこうする内、それが裏山の中腹にある小さな湖の方にまで広がって行った。

顔馴染みの街の者が血相を変えてやって来て、やかましく言い騒ぐまでになったのも、この天変地異によほど驚いたからなのだろう。

ネリッサが、全てはあのオヤカタサマの「み業」なのだから心配するなと言い聞かせたところ、その後古老たちから大層なお供物が届くまでになったけど、本当のことを言えば、私たちだって何が起きたのかはまるで判っていなかったのである。

やがて舞い上がる粉塵は神の馬場よりもっと下の方にまで広がって行き、しまいには足元からも相当な震動を感じるまでになったけど、それも日暮れまでにはすっかり影を潜めいつも通りの静寂が訪れる中、みんなでいろいろと推量してみたけど無論何も判らない。

ネリッサが例の結界が張り巡らされた証しなのかも知れないと言ってたけど、いずれにしても黙って夜明けを待つほかは無く、朝になって恐る恐るヤサウェを訪ねてみて改めて驚いてしまった。

なんとこれまでの二つの部屋が大きく拡張されていたばかりか、その他にも幾つかのお部屋が出来上がっていて、通路も部屋も全部ぴかぴかに磨き上げられていた上に、さまざまな家具まで運び込まれていたのである。

かつて私が誂えさせた寝台なんかも別の部屋に移されてしまっており、しかも、それぞれの部屋や通路には通風孔と言うものが多数通じていて、そこから相当な風が入って来る気配まで感じるのだ。

お話によると、以前から小さな穴だけは複数通じていたらしいのだが、従来に無く大勢の人間が出入りするとお考えになった結果、その機能も大幅に強化したと仰る。

しかも、磐座の裏側には見上げるような円塔まで立ち並んでいて、凡そ水回りに関係する装置だと伺い揃って感心しているさなか、じいと叔父さまが息せき切って参着したのだ。

二人は夜明け前にお城を出てから汗みずくになって駆け通して来たと言い、途中で数頭の代え馬まで乗り潰した挙句、全て置き捨てにするほど急いだらしい。

しかもお城で暴漢たちを取り調べた結果、ただ一人を除けば紅灯の巷に巣食うごろつきばかりだったらしいけど、残りの一人の身許が際立って警戒を要すると言う。

何せ、この男が賊どもの首領格であった上に、最近までスフランツェス家の食客だったと言うのだから、詳しい自供は得られなくとも自然その目的も察しが付く。

少なくとも、カラヤニスの家族が大挙して乳母の家を訪れていると言う情報を得た彼等が、その帰途を待ちうけ十羽一からげにしようとしたことだけは確かなのだから、定めしその人質を盾に城地没収を通告して来る手筈だったに違いない。

万が一にもそれが図に当たっていれば、文字通り身を切られるような窮地に陥るところだった筈で、それほどまでの危機を救われた親子が、そのお礼を言上するにあたりヤサウェの前にひれ伏す気になるのも自然のことだったろう。

その後ネリッサの意を受けてトニアたちが茶菓を運び込み、一段と和やかな雰囲気の中で和気藹々とした懇談に移り、ヤサウェのお話にいちいち驚かされはしたものの、いろいろと貴重なお教えにも接することを得たのである。

自然オヤカタサマについてもいろいろとお教えをいただくことになり、ネメシス滅亡の折りにお救い下さったお方がお父君だったことや、ローマ軍の奇襲を受けて奮戦の上撃破なさったのが、当時十四・五歳に過ぎなかったご当代さまだったとお聞きしてただもう驚くばかりだ。

その後、十代のオヤカタサマが数々の敵襲を受けてなお、それを全て打ち破られたことや、今では知らぬものが無いと言う「潮入り湾の決闘」などは、その実写映像まで拝見出来たのだけれど、その卓越した格闘技術を目の当たりにして、ヤニとデニスなんかはお弟子になりたいと口走るほどだったが、一方でまことに不幸なお話も否応なく耳にしてしまった。

なんとオヤカタサマは、卑劣な手段でご家族を奪われてしまっていて、今では全くのお一人身だと知り、それを伺うや、じいと叔父さまが何やらひそひそと耳打ちをしていたのが少し気になっていたけど、結局オヤカタサマのお身の回りのお世話係りの話だったらしく、じいと叔父さまがマリレナお姉さまに白羽の矢を立てたのが実にこのときのことだったらしい。

勿論、この私の介添えと言う役割りだろうけど、お姉さまにはデイアネイラとオルティアが付いてくる筈だから、もし実現すれば私の回りも相当賑やかにはなるだろう。


そのあと窓の月から格段に重要な情報を頂戴出来ることになり、一同揃って拝見することになったのだが、それは他ならぬ十二年前の出来事を収録した映像であって、しかもそこには自軍の征旅のあれこれまで含まれていると仰るから、興味を持たない者など一人もいない。

何しろ当時のローマ帝国は、タンバ攻略を目指して万に余る軍を出征させていた筈なのだから、多かれ少なかれ身内に出征者を持たない者など殆どいないのだ。

自然食い入るようにして拝見したのだが、昨日の今日のことでもあり、そこに映し出されるくさぐさを疑いの目で見るものなど一人もいるわけが無い。

しかもその映像は、ドリフターで留守を守る者がお味方の惨敗を全く知らない状況から始まっていて、そのさまを克明に描写してくれていたばかりか、驚くべきことにそれは、これまで知らされていたものとは全くかけ離れたストーリーで溢れていたのである。

そのストーリーに登場して来る中心人物は、若き日のアレクシオス・スフランツェスその人であり、当時のその男が待機中のドリフターで留守部隊を預かる要職にあって、軍事を総攬していたところまでは容易に理解出来るのだが、到底理解し難ったのはその男の採った異様な行動だったろう。

それは先ず、ドリフターの管制室に近接する通信室で行われていて、見る者全てを仰天させてしまったほどだ。

画面に映る彼は息子のヘラクレイオスと僅かな腹心の者だけを伴い、なんと、通信室の当直者を斬殺してまでその全てを抑えてしまっており、どうも、その様子では、通信室が外部からのか細い信号をキャッチしていたらしく、その報告を管制室で排他的に受領した彼が、直ちに行動を起こした結果だったとしか言いようが無い。

しかも、その外部からの通信とは、流れから言って皇帝陛下の座乗艦からのものであったとしか思えない上に、他の者たちはそのことを全く知らされないまま、自軍の健在どころか勝利をさえ想っていた頃のことなのだ。

だが、画面の中のスフランツェスは、秘密裏に戦艦と交信した結果、乗り組みの同胞たちが息も絶え絶えの窮状にあることを察知するや即座に決断しており、息子一人を連れて密かに発艦し、一直線に戦艦に向かい、しかもほどなく到着しているところを見ると、その飛行距離にしてもいくばくも無かった筈だ。

それから見れば、皇帝陛下は比較的近くにまで撤収して来ておられたことになるのだが、艦に受けたダメージから航行不能の状況にあり、通信機能一つとってもようやく修理が成ったばかりであった上に、食糧や水分の貯蔵庫を失って既に旬日を経ており、全乗員が飢えと渇きに苦しんでいる最中だったのだ。

少なくとも、スフランツェス親子が着艦した折りには、息も絶え絶えではあったにしても、その生存者も未だ八千を下まわることは無かった筈で、ドリフター自身が直ちに救助に向かってさえいれば、生存者の多くが命を取り留めた可能性は否定出来ないと仰る。

ちなみに父親のアレクシオスは従来から豪勇無双を以て聞こえており、息子のヘラクレイオスは未だ十六歳の身とは言え、その身の丈も二メートルを超え、腕力や剣技は父をも凌ぐと囁かれ始めていて既に並の十六歳では無い。

詰まり親子揃って帝国きっての大豪傑と謳われていた事になるのだが、窓の月に写る彼等は、丁閘門(ていこうもん)から居住区に入るや重い宇宙服をかなぐり捨て、あろうことか救助を待ち侘びていた同胞を次々と殺戮して行くのだ。

いの一番に司令室に飛び込み、皇帝陛下はもとより、近侍する者や管制室に詰めていた者を殆ど手に掛けてしまっており、足元も定まらぬほど衰弱していた者が殆どだったにもかかわらず、冷酷無惨に殺し尽くしていると言って良い。

しかも、まるで赤子の手を捻るように易々とだ。

現に、画面には皇帝陛下の側近として詰めていたカラヤニス家の長男アダマンティスや、管制室で必死の抵抗を試みた次男の顔もはっきりと映し出されていて、無論その全てが彼等親子の前にひとたまりも無く切り伏せられてしまっている。

ヘラクレイオスにとっては栄えある初陣の筈が、実際に剣を振るった相手は、こともあろうに飢えと渇きに衰弱し切った同胞だったことになるのだ。

その後の彼等は、血みどろの管制室で自爆装置をセットして置いて悠々と離艦しており、その後の映像は彼等の機内から捉えたもののようだが、皇帝陛下の座乗艦がはるか彼方で大爆発を起こして四散してしまっているのである。

結局、彼等親子は、衰弱しきった同胞たちの助けを求める声を聞きつけるや、単機を以てすぐさま駆けつけはしたが、救うどころか逆に抹殺してしまっていたことになる。

無論、その全てが全くの秘密裏になされたことであり、何食わぬ顔でドリフターに戻った親子が、そのまま知らぬ顔の半兵衛を決め込んだ上、その後個別に帰還して来た攻撃機からお味方惨敗の報を受けてから、何食わぬ顔で皇帝陛下救助の大号令を発してみせているのだ。

当然見つかるはずも無い。

全てはアレクシオス・スフランツェスの権力欲から来ているのだろうが、居合わせた者の口振りで行けば、彼の皇后への横恋慕が隠れた動機だと言うことになるらしい。

皇后自身は直接の関与はしていないようだとは言いながら、それに関する疑惑が完全に払拭されたとも言い切れず、度重なる皇女毒殺未遂の疑惑も絡んで皇后への感情的なしこりは、その場の者の胸にいよいよ深く住み着いてしまった。

いずれにしてもその後の反逆者は捜索続行を叫ぶ世論も考慮せざるを得ず、かなり遠方にまで捜索の手を伸ばし、やがて二年ほどで捜索断念を宣言しており、その後長らく遊弋しながら逡巡していたようだが、この船の悲惨な消耗状況からその滅びを予感したことだけは確かなのだろう。

そのため、一年ほど前になって改めて目的地の攻略と言う大方針を打ち出して航行中と言うのが目下の政治状況であり、その意味では帝国は今もオヤカタサマに敵対方針を採っていることになってしまうのだ。

その後、問題の映像は繰り返し観察され続け、見る者全てに涙と憤激の情を否応無く連れて来てしまうのだが、カラヤニス親子にして見れば、何よりも真っ先に国家の方針を大転換させねばならない。

オヤカタサマがせっかくお救い下さると仰ってくれている今、そのオヤカタサマに公然と牙を剥いて行けば、取りも直さず自らの未来を自ら閉ざしてしまう道に通じてしまうのである。

そして今、華々しく丹波侵攻を唱える者こそ大逆非道のあの男なのだ。

しかも、国中のほとんどが、いや皇后でさえその戦略に与(くみ)している状況がある以上、何よりも一人でも多くの者に「真実」を伝え国論を転換させる必要がある。

いずれにしても、ことは急を要すると見て、アルセニオスは引き連れて来た四騎の中から俊足の二騎を選んで早馬を発し、先ずは自城に急を報せ、そこから各地に向けて改めて檄を飛ばすこととしたが、手許の戦力と言えばヤニとデニスのほかは残りの二騎だけなのだ。

カラヤニス城に女たちを引き取るにしても、その途次のことを考えれば護衛の戦力は少なくとも十騎は欲しいところだが、我が方の戦力不足は目を覆わんばかりなのである。

老カラヤニスはいっそこの地に戦力を集中して、オヤカタサマのお袖の下(もと)で挙兵すべしと言うが、兵糧のこともある上に、堀どころか城壁一つ持たないこの地では、よほどの援軍でも得られない限り一昼夜も支えきれないのは明らかだ。

アルセニオスは、オヤカタサマにもカラヤニス城にお入りいただけないものかと言う望みを胸に、改めてヤサウェの前に出たのだが、何一つ申し上げる暇(いとま)も無い内に、いきなり慮外の報に接することになってしまう。

なんと、既にヘラクレイオス率いるスフランツェス勢が身近に迫っていると仰るのだ。

敵勢は、騎乗の士十二騎に徒歩立ちの二十人ほどを加え、全員帯剣はしているものの平服姿だと伺い、改めて窓の月を見てみると、隊列の中ほどに無人の馬車まで加わり、既に神の馬場近くに差し掛かろうとしていて、最早一刻の猶予も許されない状況なのである。

 ◆ 目次ページに戻る

  1. 2008/09/17(水) 10:08:04|
  2. 妄想小説 主権国家|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:107
前のページ 次のページ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。