日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 154

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現に昨夜自室に戻って母に話したところ、感激のあまり涙で口も利けないほどの有様だったのだ。

母にして見れば、突然夫ばかりか伝来の所領まで失ってしまった挙句、追捕まで受ける身となって漂泊の暮らしすら覚悟させられた直後のことだ。

この思いもよらぬ大抜擢に度を失ってしまったのだろうが、しまいには、未だ十四歳のエレナの話まで持ち出して来て、これで胸を張って嫁に出せると言ってさめざめと泣くのである。

我が妹ながらエレナはなかなかの器量良しに生まれついていることもあり、世が世であれば縁談に不自由することなど無かった筈なのだが、現実に身分内婚が常態化してしまっている以上、卑賤の身となり果ててしまえば全てが夢と散ってしまうのだから無理も無い。

また、弟のイウリオスにしても現に山中で二昼夜を過ごして来ているだけに、容易ならぬ事態だと言う自覚だけは持ってくれたろうが、如何せん未だ十二歳になったばかりだ。

何をどう言おうと、問題のあの時父がヘラクレイオスの供頭を勤めていたと言うれっきとした事実がある以上、ここの人たちの視界の中では、普通敵側の人間と映ってしまって当然なのである。

本来なら逆賊の一味としてお手討ちにもなるべきところ、逆に堂々たる武官としてご登用いただいたばかりか、これほどまでのご厚恩を蒙ってしまったのだ。

臣下として我が家(いえ)の負うべき責めは、他家のものとは根本的に異なると言うべきであり、殊に戦場では常にヤニ殿やデニス殿よりよほど前を駆け、お二方の盾ともなる覚悟で働かねば人の道にも背くことになる。

その心掛けを持たねばそれこそ犬畜生にも劣ると訓戒し、「兄亡きあとのカラマンリス家を守る者はそなたを措いてほかに無いのだ。」と申し聞かせた時などは、流石に必死の面持ちを見せてくれたところを見ると、それなりに理解はしてくれたのだろう。

多少哀れと思わないでもなかったが、今後のことを想えば、如何に幼かろうとカラマンリス家の男子として奮い立ってもらわなければならず、こんこんと教え諭しながら、一方でこれで父亡き後の長子としてその重責を果たせると感じていたことを思い出す。

「身の引き締まる想いにございます。」

「なればこそ、共に励もうではござらぬか。」

先輩もきっと勇み立っておられるに違いない。

「お言葉、肝に銘じおるところにござる。」

「肝に銘じると申さば、昨夜のご貴殿のお振る舞いにはいささか感じ入り申した。」

「いや、ひたすら恥じ入り申す。」

「何も、恥じることはござるまい。」

「・・・。」

「そこもとは、大殿さまにご家臣の保護を願い出ておられた。」

二人の先輩も同席の上で、カラヤニス卿のご引見を賜っていたときのことだ。

「はい。」

「ご家臣をここに預けて、単身突出なさるおつもりでおられたであろう。」

後ろで年長のルキアノスが「若は水臭い。」と呟き、その隣のミルトスが「万一そのようなことにでもなれば、最早大手を振って外を歩けぬわい。」と、さも聞こえよがしに吠えている。

臣下として主(あるじ)を只一人死地に赴かせるなど、恥の恥だと言っているつもりなのだろうが、二人共逃避行の間中、物見(ものみ:斥候)やら見張りやらで一睡もしてない筈なのだ。

ちなみにルキアノスは三十六、ミルトスは三十一で共に妻子持ちであり、知行地で父の帰りを待つその子等はいずれもが未だいたいけない。

「いや・・・。」

一瞬、言葉に窮してしまったが、確かにそのときは、疲労困憊の二人を残して再び死地に赴くつもりでいたのだ。

無論、目的は山中に残して来た者たちの救出に他ならないが、所詮三人で行ったところで生還は覚束ない以上、わざわざ全員が死ぬことは無い。

斬り死にするのは、一人身の自分一人でたくさんだと思ったまでなのである。

「お覚悟のほど、実に感じ入り申した。」

「そのように申されますと、いよいよ以て面映ゆうござる。」

先輩の広い背中に目を遣りながらさまざまのことを想ったが、じいのことがある上、知行地や母の実家のこともあり、胸の中の屈託が全て解消したわけではないのである。

王家の里を出て参道はゆるゆると下りつつあり、今しも前方に鳥居が迫って来ているところだが、見渡せば左右の斜面にそれぞれ六段づつの巨大階段がまるで段々畑のような姿を見せており、結局左右併せて十二区画もの平地が造成されていることになるのだが、その一段一段に具わる矩形の広さが並大抵ではない。

南北方向の短辺こそ百メートルほどでしかないが、東西方向の長辺が実に一千メートルに迫る長さを誇っている上に、そのそれぞれの区画に分厚い砂防壁に囲まれるようにして巨大な構造物が高々と据えられていて、左側のものが北から順に東の一番館、東の二番館と言うように六番館まで銘打たれていると聞く。

無論反対側は西の一番館から始まって西の六番館で終わるのだが、とにもかくにもそれらの全てが人の居住に供されるものだと言い、その収容能力も東西併せれば軽く六万を超えると言うのだから只々驚くばかりなのだ。

先ほど上空から見下ろしたときにはさほどのものとは感じなかったのだが、こうして地上から眺めてみるとその規模の壮大さには改めて胸を打つものがあり、しきりに見回していると先輩から再びお声が掛かった。

「全てオヤカタサマのみ業にござろう。」

「しかし、これほどのものでござる。普通ならここの工事だけでも数年は掛かり申そう。」

「それがたったの二日でござるよ。」

只の二日で完成してしまったと言う。

「昨夜は暗くてよく見えませなんだが、朝の光の中で改めて拝見させていただき、いやもう胸が潰れるほどの想いにござる。」

「この砂防壁など実に見事な出来栄えでござろう。」

「いかさまさようで。」

各段差の継ぎ目毎に設けられている堂々たる砂防壁は、無論、崖崩れを防止するためのものであり、地上部分だけでも高さと厚みが共に二メートルもあって、その堅固な出来栄えに驚くばかりだ。

主としてベイトンなるもので構築されているとされ、煉瓦や石灰モルタルを用いた場合に比して強度においてもその比ではないと仰せだが、何れもその白さが朝の光に眩いほどに照り輝いており、その美しさにおいても決して引けを取るものではないと言って良い。

「これでは例え続けざまに大雨が降ってもびくともすまい。」

「たいしたものでござる。」

「とにかく、ローマ人を全て救えとの御諚(ごじょう)でござるゆえ。」

「御諚にござるか。」

それがオヤカタサマの基本方針であると承知はしているが、全てと言われても所詮現実的でない気がして仕方が無いのである。

「左様、オヤカタサマにとっては敵も味方も無いのでござろうよ。」

「しかしながら・・・。」

自分から見ればスフランツェス親子は敵以外の何ものでもないのだから、その点異論が無いわけではないのだ。

「申されたき条々は我等においても同様にござるが、一旦立ち止まって考えてみれば、あの親子に身内を奪われてしまった者は今や国中に溢れんばかりだ。」

「・・・。」

「現にそれがしなども、父と兄が戦艦に搭乗していたのでござるよ。」

「さようでござったか・・・。」

「しかしながら、今はご承知の通りの非常時にござる、何はさておき避難移住を優先すべきと心得るのだが。」

「已むを得ざる仕儀にござる。」

「今は先ず一致して新たな居住地を求めるべきときであり、しかして全ては無事移住を済ませてからのことになり申そう。」

「いかにも・・・。」

込み上げて来るものを無理に押し戻し、しばらく無言が続いたが、やがて先輩ののどやかな声を聞くことになった。

「ところで、昨夜頂戴したお扶持書きはお持ちでござろうな。」

大先輩の仰る「お扶持書き」とは言わば今年度の俸給額を表したものであり、今の場合は言うまでも無く例の証書のことに他ならない。

「もとよりにござる。」

居住区の滅亡に伴い所領と呼ぶべきものを全く持ち得なくなってしまう以上、それ以外に我が身上(しんしょう)を具現するものが無いだけに、それは文字通り家宝にも等しい。

「ふむ。」

「夕べから家族共々拝しおるところにござる。」

「さもあろう。それがしなどもまるで天にも上るような心地にござったわ。」

「それがしなどは、地獄から舞い戻ったような気分でござった。」

現に唐突に差し伸べられた神の御手(みて)によって、文字通り地獄から天上界に救い上げられたような気分だったのである。

今も胸の中に明々と燃え上がるものを感じながら歩を運んでいるが、後ろに続く家臣どもにしてもきっと同様の気分を味わっているに違いない。

程なくして鳥居を潜り、前方が全て平坦に見える場所まで来ると、左右に「鳥居下の詰め所」と呼ばれるさいころ状の屯所が置かれていて、そこにはオヤカタサマと同じような装束の兵が千人の余も立哨(りっしょう)の任に就いており、その全てが大塚少尉と同様の長剣を腰にしているが、これも先輩のお教えによれば日本刀と呼ばれるものであるらしい。

しかも、左右の屯所の中に併せて四千もの軍兵が詰めている筈なのだが、それにしては周囲一帯がひたすら粛然としていて、不思議なことにさざめきどころか咳(しわぶき)一つ聞こえては来ず、その静けさはまるで無人を思わせるほどのものなのだ。

「それにしても静かでござるな。」

先輩が辺りを見回しながら語り掛けて来る。

「左様、私語一つ聞こえませぬ。」

私語どころか、立哨の兵たちの間からは衣擦れ一つ聞こえてこないのである。

「ところで、彼等の右腰をご覧になったかな。」

「は・・・。」

「小さな皮袋がござったろう。」

「確かに・・・。」

それは大塚少尉の右腰にもあったものなのだ。

「あの中には恐るべき城崩しが収まっておるのじゃ。」

「城崩し・・・・にござるか。」

「左様、ほんの握りこぶしほどの武器でござるが、たった一丁で易々と城壁を穿ってしまうほどの威力を秘めており申す。」

「なるほど、それで城崩しでござるか。」

「先日神門の外でかなりの大岩が工事の邪魔になっておったのじゃが、それを軽々と打ち砕いてしまうさまを目にしたのでござるよ。あれではレンガ造りの城壁などひとたまりもござるまい。」

「それでは城攻めの折にはさぞ大働きでござろうな。」

「いやいや、いざ城攻めともなれば空から一斉に城中に舞い降りてしまう手筈ゆえ、あれを用いるまでもござるまい。」

「されど、剣技の方は如何でござろう。」

一斉に舞い降りたあとは当然接近戦になるだけに、剣技がものを言うことになるのである。

「彼等の一人を倒すには、十人総掛かりでやっとと言うところでござろうな。」

「十人・・・。」

一瞬絶句してしまった。

「左様、得物を持った敵勢二人を、たった一人でしかも素手で取り押さえてしまうほどでござる。」

「なんと・・・。」

「先日敵の物見が不用意に近付いてきたことがござってな、一人で二人の敵兵を撃退するところを見せてもろうたが、刀も抜かずに軽々とあしろうておったわ。」

「・・・。」

言葉も出ない。

「しかも敵兵を殺すどころか、傷一つ付けずに空を飛んで遠くまで運んでしまうのじゃ。」

「しかし・・・。」

聞いただけでは実感が湧く筈も無い。

「ものは試しに高田少尉に頼み込んで、兄貴(ヤニ)と二人掛かりで挑んでみたのだが、素手の相手にまったく歯が立たんかったわい。」

高田少尉とはヤニ殿付きの頭取の名前なのだ。

「お二人とも剣を抜いてでござるか。」

「如何にも。」

「なんと・・・。」

いずれにしても、接近戦においても驚異的な戦闘能力を発揮し得ることだけは事実なのだろう。

「しかも、直ぐ傍(そば)から射ても矢が立たんときているゆえ、最早毒矢を用いるよりほかに手はあるまい。」

尤も、実際にはヒューマノイドに毒矢など何の意味もなさないのである。

「矢が通りませぬか。」

「左様、僅かに皮膚を傷つけるぐらいが関の山でござる。」

「いや、驚き申した。」

「あの分では、それこそ一個分隊もあれば、この国をたちどころに征服出来てしまう筈じゃ。」

「う・・・。」

一個小隊はすなわち四個分隊であり、詰まりは、高々軍曹(分隊長)風情が指揮する二百五十の部隊だけで、ローマ帝国をそっくり征服してしまえると言っているのだから、後ろで我が家中のものどもが袖を引き合っているのも尤ものことなのだ。

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  1. 2008/11/19(水) 10:24:37|
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