日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 156

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ふと思いついて大塚少尉に尋ねて見た。

「この市(いち)についてはお聞き及びであろうか。」

「多少のことは心得おり申す。」

少尉がわざわざ馬首を並べて来ての返答だ。

「ほほう、やはり貴公のお仲間たちの仕事かね。」

「弥左衛(やさえい)さまのお手配かと存ずる。」

しかし、不思議なことに彼等の衣装も外貌も全てローマ人そのものなのだ。

「相当な人数が出張ってるようだが。」

「恐らく二個小隊にござりましょう。」

「と言うことは、二千人以上と言うことになるが。」

「左様にござる。」

「買い取った畜類は例の乗り物に載せて運んで行くように見えるが。」

無論空を飛翔して行くのだ。

「カラヤニス卿のご領内に、牧場(まきば)を設けたとのことにござる。」

一旦そこに収容して置いて、適宜に丹波まで運んでしまう手筈なのだが、若者にそこまでの想像力は働く筈も無い。

「ふうむ、そうすると相当広い牧場(まきば)にござろうな。」

「柵造りに二個中隊を出動させたようでござる。」

「ほう、二個中隊・・・。」

「概ね二十六万と言うところでござろうか。」

二十六万もの男どもが一斉に杭打ちをしている図が目に浮かんだが、その資材にしてもどうせあっと言う間に揃ってしまう筈だから、その作業もあっと言う間に終えてしまったに違いない。

「驚いたな。」

「近々、王家のお直(じ)き領(直轄領)の中にも重ねて設ける手筈にござる。」

無論王家は最大の所領を誇っており、本来それこそが王家の力と富の源泉でもあるのだが、その多くは既にスフランツェスに横領されてしまっている感が深い。

「お直き領には、スフランツェスの手の者が全て代官として居座ってる筈だが。」

「さりながら、最早代官どもに手向かいするほどの気力はござるまい。」

「ふうむ。」

確かに、十万、二十万と言う大軍勢を見れば、それだけで雲を霞と逃げ散ってしまうに違いない。

「いずれにせよ、かなりの牧場(まきば)が幾つも出来上がることになりましょう。」

「されど、それほどのものが必要であろうか。」

「何せ近頃では、数百頭の羊を売りたいと申す者までござるによって、こちらから引き取りに出向く場面まで出始めておるのでござるよ。」

「そこまでなさるのか。」

「不動産以外、彼等の資産価値を須(すべか)らく保全すべしとの御諚にござるゆえ。」

「価値・・・ でござるか。」

「左様、可能な限り減価せずに換金せよとの仰せにござる。」

「なるほど・・・。」

それで、破格の値で買い取っているわけか。

「秋津州通貨であれば、大抵の場所で通用致しますゆえ。」

「秋津州通貨とは、そこまで流通性が高いのか。」

「左様、殊に丹波などでは、いずれの国へ旅しようと支障無く通用してしまうほどでござる。」

「なるほどなあ。」

「とにかく、混乱を最小限に抑えよとのことにござる。」

不動産が無価値となりつつある今、そのことがローマ人に齎しつつある混乱が途方も無いものである上、放置すれば家畜類に関しても同じ運命を辿ることになりかねないのである。

当然、膨大な家畜類が換金される流れであることに違いは無い。

「そうか、そのために牧場も余分に・・・。」

「如何にも。」

「されば、あの者どもの場合はどうか。」

今しも目の前を奴隷らしき少女を連れて通り掛かるものがあり、現にその方向には奴隷ばかり重点的に買い取ろうとする一団が待ち構えているのだ。

その奴隷らしき女の子は未だ幼く精々十歳ほどのようだが、どうやら足に傷を負っているらしく、血の滲んだ足を引きずりながら懸命に主の後を追って行くところだ。

「奴隷のことにござりましょうか。」

「左様。」

「これも又、保全すべき資産価値の一つにござりましょう。」

だからこそ、買い付けを行っていると言いたいのだろう。

「いや、その行き先のことを尋ねておる。」

「そのことでございましたら、概ね海上の船と承っており申す。」

例の改造捕鯨船の一部が既に悠然と沖合いに浮かんでいるのだが、無論若者には想像することも出来ない。

「ほう、海上に・・・。」

尤も、海上などと言ったところで、実際には琵琶湖の十数倍の広さでしか無いのである。

「如何にも、船内には何不自由無く暮らせる設えが整っている上、一艘で一万もの収容が可能と伺っており申す。」

「一万・・・・。」

「左様にござる。」

「ふうむ・・・。」

自分の知り得る限り、我が国の船などどんなに大型であっても五十人乗りが精々であるだけに、実に想像を絶するほどの巨船ではあるまいか。

「それを三艘ほど用意する手筈と承っており申す。」

「果たして、それほどのものが必要になるであろうか。」

それが事実なら、単純に言って、三万を超える収容を考慮していることになる。

「あり得ないことではござるまい。」

「確かに、見掛けた分だけでも既に百人を超えておるからな。」

眼前で、その「商品」が幾つもの列を成して並んでいるのである。

「殊に病(やまい)持ちの場合などは、足手纏いになると見て換金しようとする者が殺到しており申す。」

なるほど、先ほど足を引きずっていた少女などは、買い取ってくれるものが無ければ、早晩主に置き捨てられて荒野をさ迷った挙句行き倒れになるよりほかはあるまい。

「やはりそうか。」

ちなみに現実の国王はこの者たちに食と医療と情報を与え、しかも教育まで施そうと企図しているのだが、何せ相手は識字率数パーセントと言う手合いなのである。

その教育係にはローマ人を充てるよう命ぜられている今、ヤサウェがその処置に窮するのも当然のことであり、ヤサウェ自身さまざまな企図を抱きつつあるにしても、少なくとも数年単位の対応だけは覚悟しておくべきだろう。

「昨日などは、不埒にも腰の立たない老母を奴隷と偽って売りに参った者がござってな。」

悲惨極まりない話柄であるにもかかわらず、大塚少尉の口振りは相変わらず冷静そのものなのだ。

「なんと、実母をか。」

「さようにござる。尤も、直ぐにひっとらえられた挙句、カラヤニス卿のお指図で笞打ちの刑に処されたようでござるが。」

「老母が口を割ったのであろうか。」

「いえ、老母自身は息子をかばって頑として奴隷であると言い張ったと聞いており申す。」

「それで、よく偽りだと見抜けたものだ。」

「弥左衛さまがローマ人の動静を殆ど掴んでおられますゆえ、奴隷かそうでないかなど一目瞭然にござる。」

「なんと・・・。」

「オヤカタサマのご存念が全員の救出におありになるだけに、ローマ人の動静を悉く押さえて置くことこそ最大の勘所(かんどころ)にござるゆえ。」

「悉くと申されたか。」

「左様にございます。」

「悉くと仰せではあっても、まさか我が領内のことまではご存知あるまい。」

その地では、敵方による虐殺と略奪が既に血煙を上げて進行してしまっているのではあるまいか。

じいの消息とともに、いま最も心を悩ませていることなのである。

「あらかたのことは承知しており申す。」

「ほほう・・・。」

「ご懸念のほどお察し申し上げるが、今のところさしたることはなかろうかと存ずる。」

「なんと、そこまでお判りになるのか。」

「如何にも。」

「しからばお尋ね申すが、目下の我が領内の動静や如何に。」

「概して平穏にござる。」

「概して・・とは。」

「一部を除けばと言う意味にござる。」

「ほほう、一部とは・・・。」

「マカリオス・マエケナス殿が、館(やかた)に篭城して必戦のお覚悟のようにお見受け仕る。」

マカリオス・マエケナスはじいの一人息子の名であり、館とは我が父祖伝来の居館であって、小なりと言えど堀を穿ち堅固に城壁をめぐらせてある。

「ならば、父が討たれたことは伝わっているわけか。」

「お父上が亡くなられて二日の後にはお耳に届いてござる。」

「そこまで判るのか。」

「ついでに申せば、お母君のご実家のこともござりましょう。」

母の実家はカンタクゼノス家と言い、我が知行地から離れること五十キロほどの地にある。

「うむ。」

「ご実家の方々も、概ね篭城のお覚悟のように見てとり申した。」

やはり今回の変事が伝わった結果、我が父に連座して城地召し上げになることを恐れてのことに違いない。

「やはりな。」

「寄り親どのも落命されたことになっておるようにござる。」

「なんと、私まで死んだことになっておるのか。」

「左様にござる。」

カンタクゼノス家としても、それではとりあえず篭城して様子を見るよりほかに手はあるまい。

「何とか、知らせてやる手立てはないものか。」

無論、自分が新政権の軍団長の一人となって立派に生きていることをだ。

確実にそれが伝われば、彼等の行動にとって重要な指針となり得るのである。

「簡単なことにござる。」

「やはり、ポッドに乗って空を飛んで参るのか。」

「左様、ものの三十分もあれば着き申そう。」

「三十分・・・。」

一瞬絶句してしまったが、何せカンタクゼノス家の館までは、地上を旅する場合、東回りで百四十キロ、西回りなら百六十キロ以上もの行程なのである。

「文(ふみ)だけでござれば五分も掛からずに届き申そう。」

「しかし、文(ふみ)だけでは、かえって先方に疑念を生じさせる恐れがあろう。」

危急存亡のときを迎えているだけに、カンタクゼノス家でもその去就に関して家中一統紛糾せざるを得まい。

スフランツェス方の謀略に付いてもなおのこと神経質にならざるを得ず、唐突に手紙だけが届けば疑心暗鬼の虜となってしまうに違いない。

かと言ってルキアノスやミルトスでは先方に馴染みも薄く、彼等を使者として送っても結果は大同小異だろうが、ここにじいがいてくれれば俄然話が違って来るのである。

何せじいの場合、筆頭重臣として母の輿入れの折りも迎えの使者に立ってるくらいで、それ以来幾たびも往来して先方に知り合いも少なくないだけに、じいが出向けば如何なる疑団も瞬時に氷解してしまう筈なのだ。

「ならば、おん自らお出向きになられましょうや。」

無論自分が自ら出向いて行ければ理想だが、場合が場合であるだけに到着後直ぐに引き返して来るわけにも行かないだろう。

どんなに急いでも、行って帰って半日は見ておかねばならず、場合によっては数日にわたって留守にすることになってしまうのである。

「しかし、公辺への聞こえは如何であろうか。」

「ご裁可を仰ぐ必要だけはあろうかと存ずる。」

現に、カラヤニス卿から「動くな。」と申し渡されているのだ。

「矢張り無断と言うわけには行くまいな。」

「然らば、早速に申し出られませ。」

簡単に言ってくれるが、些かの功労があるどころか、謀反を事としたとされてしまっても仕方の無いいきさつを持つだけに、そのような自侭な願いなど口にするのも憚られる現実がある。

「・・・。」

一瞬、言葉に詰まってしまったのである。

「お察し申す。」

「うむ。」

「ご領内の仕置きのこともござりましょう。」

無論自領を始末するに当たって、家臣たちの成敗(せいばい:賞罰の判定)一つとっても捨て置くわけには行かないのである。

「されば、我が館の様子はどうか。」

「ただいま、ご領内の荒らし子を十人がほども駆り催し、盛んに兵糧を運び入れておられるようでござる。」

荒らし子とは、百姓どもの中でも特に元気盛んな連中のことを指しているのだろうが、兵糧を運び入れていると言うからには、マカリオスは累代の主人の居館に籠もって、敵わぬまでも弔い合戦を試みるつもりでいるに違いない。

「やはりそうか。」

「されど、兵糧の必要はなかろうかと存ずる。」

意外なことに兵糧の必要は無いと言う。

「そりゃ何ゆえか。」

「敵方には、城地召し上げの使者を出すゆとりなどござらぬゆえ。」

相手の抵抗が予想される以上、この場合の使者にはそれなりの兵力の具えが欠かせない筈なのだ。

「まことか。」

「政庁の守りを固めるだけで四苦八苦にござるゆえ、地方に向けて征討軍を出すなど最早夢の又夢にござろう。」

「それほどまでに難渋(なんじゅう)致しおるか。」

「今朝ほどアルセニオス・カラヤニス殿の軍勢が目の前を行軍して見せた折りも、門を閉ざし、ひたすら息を潜めていたほどでござるゆえ、兵どもの動揺いよいよただならず、今宵あたりは闇に紛れて相当数の脱走がある筈でござる。」

カラヤニス卿のご子息は、ヤニ殿を率い全てポッドに乗って飛翔して行かれたと聞いており、それと知っていれば当然従軍を願うところだったのだが、目覚めたときには既に出立された後だったのである。

「それでは、首都付近を通過する折りに、わざわざ地上を行軍して見せたのか。」

ヤニ殿の一個小隊が加わっている以上少なくとも千を越す大軍であり、それだけの大軍が足音もとどろに近くを行軍して行ったとなれば、敵兵どももさぞ肝を潰したことだろう。

「如何にも。しかも別に十三万ほどの軍勢が舞い降りて鯨波(げいは:ときの声)まで上げて通過して行ったと承っており申す。」

「なんと・・・。」

一千でも大軍であるところに持って来て、あろうことか新たに十三万だと言うのだ。

その行軍の足音は天地に轟き、しかも鯨波まで上げたと言うのだから、政庁に籠もる敵兵どもの顔が目に見えるようだ。

「それもこれも、陽動作戦と言うものにござりましょう。」

「されば、ウェルギリウス領入りも陽動作戦だと・・・。」

カラヤニス軍の主たる作戦目的は、ウェルギリウス領の奪還にあると聞いていたのだ。

「如何にも。」

「ふうむ。」

「現に、我が軍容を見ただけでウェルギリウス城の敵勢は一戦も交える事無く逃げ散ってしまい、入れ代わりにアンドレアス殿が今しがた堂々の入城を終えたとのことにござる。」

皆殺しにあった一族の命は二度と戻らないにせよ、ウェルギリウス家の蒙った恥辱だけは見事に雪がれたことにはなるのだろう。

居住区全体が滅びてしまう今、今更領地など取り返して見ても無意味だとは言うものの、それもこれも武門の意地と言うほかは無いのである。

「ほほう、無血入城にござるか。」

「左様にござる。」

「立ち向かう者は一人もおらなんだか。」

「如何にも。」

「いや、驚いたな。」

「ところで、今一つのご懸念はキュリアコス・マエケナス殿の身の上にござりましょうな。」

「さよう、なにかお聞き及びでござろうか。」

「ご無事にござるよ。」

当然のことながら、後ろで聞き耳を立てていた二人が途端に大騒ぎを始めてしまっている。

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  1. 2008/12/03(水) 13:14:14|
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