日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 159

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さて、十一月の十三日(秋津島暦日)と言う日は、ローマ人にとっては特別な一日になったかも知れない。

津々浦々にまで立てられた高札によって、遂に脱出の実行日が明らかにされたからだ。

その高札は皇帝の名において全国民の一斉退去を高々と謳い、退去時の集合場所を例の神域に限定して見せた上で、その決行日を十一月三十日としており、余すところ僅か十七日しか無いのだから、現地に設けた相談所などはたちまちの内に大賑わいで、自然ヤサウェの繁忙振りも尋常なものではない。

何せ、その日の内に全員が一斉に退去することを宣言しているのである。

誰にしても、うかうかすれば置き去りにされてしまいかねず、神域に近い地域ならまだしも、遠距離の地域にあっては大混乱を招くと見て、空飛ぶポッドを直行便となし、前日までに相談所に集まりさえすれば間に合うことを伝えさせることにしてあるが、そうは言ってもそれだけのことで全ての混乱が収まってくれる筈も無い。

現に、出産を間近に控えた妊婦や重篤の病人の問題もあり、早期収容を期して医療用ポッドの配備まで予定しているが、各領主がどこまで積極性を示せるかも重要な課題の一つなのだ。

実際ゼノビオスなどは、百所帯七百人ほどの領民の避難にあたって、一世帯当たり百円と言う一時金の支給まで企図しており、ことが長引けば自身が破産してしまう恐れすらある有様なのだから、王家はもとより、カラヤニス家やウェルギリウス家の出費などは、それこそ途方も無いものになってしまう。

まして、今次の政変で論功行賞の果実にありつけなかった者の中には、領民のことどころではないと言って嘆く者も少なくないのである。

莫大な予算を手にしている執政にしてもそのことを重く見て、各豪族たちにそれなりの支援金を支給すべく検討に入ったと伝えられる今、既に神域には三万を超えるローマ人が居住し、昼間人口に限れば四万に迫る勢いなのだから、多目的店舗は言うに及ばず、神の馬場から神門に至る目抜き通りなどは大賑わいだ。

域外の地でも例の市が相も変わらず盛っているところにもって来て、この日を境に家畜や奴隷などの売却の動きが一層激化すると予想されるだけに、弥左衛にしてみれば手許から出て行く財貨も尋常なものではないのである。

尤も、それもオヤカタサマの財政規模から見ればさほどのことでは無いのだが、かと言っておふくろさまから齎される指示に照らしても、好ましいこととはされていないのだから、現地指揮官の身としては緻密な財政運営を求められていることに変わりは無い。

一方で主(あるじ)は席の暖まる暇も無いほどに駆け回り、今も各荘園から丹波や月に、ありとあらゆる資源を搬入し続けており、丹波の宙空に浮かぶ基地などはとうに満杯だとされ、大々的な拡張工事に入っているほどだと言う。

それは、各荘園で備蓄させていた資源を全て丹波付近に集中させてしまうほどの勢いであり、主の側近を通して届くデータから見ても、その異様なほどの物量には何らかの意図を察するべきなのだろう。

しかも、主が集めつつある資源には理解に苦しむようなものも少なくないと言う。

一例を挙げれば、複数の巨岩が丹波の天空の基地付近で新たな小衛星になっていると言い、中でも佐渡から運ばれて来たと言うものなどは、映像で見る限りまるで鯛焼きのような形状をしており、詰まりは、壮大な鯛焼きが宇宙空間にただただ漂っている構図なのである。

何せ、頭から尻尾の先までの長さが五百キロもある上、胴体の厚みが三百キロにも及ぼうかと言う代物であり、遅かれ早かれ何らかの意図を以て手を加えることにはなるのだろうが、おふくろさまも未だにその下知には接してはいないらしく、専ら「佐渡の鯛焼き」と呼び習わしているのだと言う。

かと言って、おふくろさまが暇だと言う話では決してない。

暇どころか全力を挙げて任務を遂行しているのだから、各地の現地指揮官たちもそれなりの負担を強いられることになり、かく言う自分も磐座に座しながらさまざまな下知を受けており、その多くは迫水秘書官を経て齎される場合が殆どだが、殊にオヤカタサマには伏せた状態で伝えられる事例が問題なのだ。

しかもその内密の指令が女性を対象とするものばかりで、中には格別の留意を求められる事例もあって、第一のそれはセオドラの保護と誘導に関するものなのだが、その次に位置するものがこれ又さまざまであり、中でも近頃はマリレナに関する留意点が増えている上、先の皇后アナスタシアに関するものも無視出来ない状況にある。

陰では専ら妖怪と呼ばれているその女性は、例のキャスティングの序列から言っても、もともと上位を占めていたこともあり、少なくとも最近の動静に付いては逐一掴んでしまっており、一時(いっとき)たりとも目を離すことは無いのだから、現在直ぐ近くの街中(まちなか)に潜伏中であることも当然承知している。

既に数日前から、老臣の親族宅に潜んだまま息を殺して様子を窺っているのである。

従う者は今やその老臣夫婦だけになってしまっているようだが、その隠れ家はと言えば例の野天の市からも程近く、先日ゼノビオスの老臣が既(すんで)の所で救われた地点から見れば精々一キロあるかないかであり、詰まり、あの坂道を下り切ってしまえば直ぐそこだと言って良いほどだ。

主は未だ一度もその者に対面する機会が無く、どう仰せになるかは不明だが、おふくろさまの指示にある「留意点」がオヤカタサマとの接触を計ることを意味するだけに、その対応には窮する事も無いではない。

何せ、その「接触」の中身たるや、出来得る限り濃密であることを以て最も望ましいとされているのだ。

いっそ主の座乗艦かその副艦に移送してしまえば簡単なのだが、主に知れれば全てがぶち壊しになってしまうかも知れず、かと言って独断で神域の内部に匿えば、いずれ新政権の側から無用の非難を浴びることは目に見えている。

いずれにせよ好ましからざる結果に繋がると見て、今の今まで手をつかねていたのだが、今日になって妖怪の老臣が単身神門に至り、国璽を差し出した上で新政権の行政責任者に面会を乞う挙に出たのだ。

無論、主人たる妖怪の指図で動いていると申し述べており、新政権側の出方を見ていたが、やがて新帝の勅裁を受ける形で護衛付きの馬車が出されたようだ。

それは当然迎えの馬車であり、妖怪は卒然として結界に入ったことになるのだが、このいきさつでは新政権側としても、まるっきり無視してしまうわけにも行かなかったのだろう。

結局セオドラの意思を以て新たな王宮に迎え入れた上、ネリッサの息の掛かった女官を三人も付けたと言い、王族としての体面を保たせるためには最低限の措置ではあるのだろうが、一方に政権側がセオドラとの対面を厳しく拒んでいる事実があるだけに、結局体(てい)のいいお目付け役だと言うほかは無い。

尤も、当のご本人は未だに内廷の主宰者たる矜持を捨て去ることは無く、自若(じじゃく)として時を過ごしていると言うのだから、政権側の方にも敵ながら天晴れと見る向きもないわけではないのである。

一方、不遇の主を見捨てる事無く最後まで付き従った老臣夫妻には、その忠心を愛でて例の黄金が二袋も下賜されたこともあり、彼等は誰に遠慮すること無く妖怪殿に仕え続けることを得たものの、今後においては、執政の手許からそれなりの内廷費が支出され、全てが例の女官団の手で切り盛りされる手筈であり、その意味では益々ネリッサのペースでことが進められるものと見て良い。

何せ、今やネリッサの勢威は抜きん出たものとなっているのだ。

しかも新帝自身が終始王家の里に居を据えたままであり、即位の式典以来その王宮には二度と足を踏み入れることはないと囁かれるほどで、その後の様子から見ても、王家の直臣が妖怪から名指しで召された場合でも、公用にかこつけて露骨に避ける例が目立つまでになるのである。

身から出た錆とは言うものの、妖怪の政治的影響力が全く失われ、その立場が新政権のお荷物以外の何ものでも無いことが既に明らかになってしまったのだ。

だが、その妖艶な美貌だけは依然衰えを見せないのだから、おふくろさまの求めるものも決して影を潜めることは無いだろう。

ただ、妖怪はかつて皇后の位に就くことを条件にスフランツェスと婚姻の密約を交わしてしまっており、そのことが世に顕れてしまうことを恐れ、スフランツェスの生存情報を耳にするたびにしきりに気に病む様子がありありと見えているが、この密約の件だけは新政権側に伝える予定は全く無い。

作戦上、百害あって一利も無いからだ。

しかも、皮肉なことに主はスフランツェスの処置方には触れようともなさらず、お尋ねしてもはきとしたご回答に接する事が無い以上、結局、ローマ人のことはローマ人に任せよと言うことになるのだろう。

尤も、主の意向の如何に関わらず一方に予想外のことも起きつつある。

かつて宮島で皇帝の侍女となった三人のかんなぎたちがいたが、そこから思わぬ副産物が生まれつつあったのだ。

彼女達は無論最初からセオドラのお気に入りであり、常にその傍(かたわら)にあって意見を求められることが少なくなかったのだが、それが高じて今ではその情報が格段に珍重されるまでになって来ており、皇帝に対する影響力が既に無視出来ないほどのものに成長しつつある。

それも皇帝本人の求めに沿っている点が「みそ」なのだが、今や王家にとっても貴重な情報源となってしまっており、窓の月と言うツールが存分に活用された結果、丹波の政治経済宗教等に関する基礎情報はおろか、オヤカタサマの周辺事情までが、皇帝とその側近たちに急速に認知され始めたのだ。

ヤマトサロンの主宰者たる女性などは、王家の内部では、恐るべき権力を有する怪物的存在として既に立派な有名人である。

とにもかくにも、窓の月の齎す動画映像の威力には凄まじいものがあったらしく、殊に人類の現代風俗に関してなどは、皇帝にとっても格別に興味の対象となり始めたことから、求めに応じて現代風の服飾品なども多様なものを献上して見た結果、彼女たちがその多くを試着するまでになって来ているほどだ。

しかも、老カラヤニスまでが同調しているほどなのだから、いきおいその他の側近たちにもその輪を広げ始めており、少なくとも皇帝の周辺では和装洋装ともにその着心地を知らぬ者は無いと言うほどの状況に立ち至り、遂には画面のオヤカタサマが用いる日本語にまで興味を示し、皇帝や側近たちが積極的に学び始める始末なのである。

この分では、少なくとも年若の者に限れば、片言の日本語を話し始めるのにさほどの時間は要すまいと思わせるほどだ。

だが、全てが順調だと言っているわけではない。

現に、最大の難関が別のところに生まれてしまっており、それが彼等に対して種々の予防接種を施すことを意味するだけに、その説得には苦慮するところが少なく無い上に、主の意図する目標自体が異常に高過ぎるのだ。

何せ、接種率の下限を五割となし、九割の実施を目指せと仰せになるのだから、その点強制的な実施まで想定して掛かる必要があり、相手が相手だけに一歩間違えれば大暴動に発展してしまうだろう。

尤も、かつて総主教が点滴治療によって短期間に非常な回復振りを見せたと言う実績があり、そのことが唯一の光明ではあるのだが、情け無いことにそれもこれも例のかんなぎたちの弁舌に頼るほかは無い状況なのである。

また、ここ数日のうちに実行予定の工事の一件もある。

その概要は言ってみれば神域における上下水道管の埋設工事のことなのだが、仰せの趣によれば胆沢城に移動したあとの恒常的な使用を慮ってのことのようだ。

遅かれ早かれ彼等は他の荘園に居を構えることになる筈なのだから、そこまでの準備が必要になるとも思えないのだが、主の構想の中では、彼等が移住地に関して結論を下すまでには一年は掛かることになっているらしく、断じて行えと厳命されてしまっている。

聞けば、胆沢城の方ではこれとの接続を前提とした工事が既に始まっているとのことで、結局否も応も無いことになるから、これについても早速準備に掛からなければならないのである。


そして問題の当日を迎えいよいよ待望の避難作業が行われたが、潜伏していたスフランツェス親子が自ら命を断ったのはその前日のこととされ、その知らせは妖怪殿を一人狂喜させたろうが、G四によってローマ人の全てが確実に捕捉され続けて来ているだけに、一人の置き去りもなかったことだけは確かなのである。

とにもかくにも、多数のローマ人を収容した神域は文字通り瞬時に移動させられ、胆沢城の受け入れ態勢にしても言うまでも無く完璧だ。

着地予定の領域には神域がすっぽりと収まるだけの大穴が掘られており、磐座の基部が収まる部分などは五百メートルに迫る深さであったために、湧き出す水も相当なものがありはしたが、ベイトンを用いた据付工事は瞬く間に完了してしまい、周囲の結界付近に僅かに開いた間隙にしても完全に埋め戻され、しかも領域の内外ともに大規模な植林作業まで開始され、避難民がそれぞれの部屋から出られるまでにものの五分と掛からなかった筈だ。

しかも、到着の数時間後には殆どの振動が収まってしまい、合図と共に全戸一斉に水道の蛇口を捻り、しばらく水を出しっ放しにするよう達せられており、その後各所で女性指導員が駆け回って無事に確認作業を終えたことにより、例の上下水道管の接続にしても殆ど瞬時になされてしまったことになるのである。

設置の概要を点描すればきりが無いが、方角に関して言えば、磐座の方角が真北に、神門が真南を向いており、その神門から直線で十キロほど南下したところが内堀の海岸に当たり、その海岸に沿って例の巨大プールが多数完成しているのだが、その中の十箇所ほどには既に悠然と先客が浮かんでいる。

監獄用の一棟にしても今度は神門の内側に設置されていて、神門の直ぐ外には新たな屯所が設けられ、既に多数の守備兵が姿を見せているが、その直ぐ南側はサッカーが出来るほどの草原であり、ローマ人たちが市を開くにしても何の不足も無いだろう。

結界の周囲一帯には相も変わらず膨大な軍兵がびっしりと配備され、域内への出入りを厳然と拒んでおり、その出入りに当たっては神門以外に方法が無いことを告げているが、外部からの攻撃はあり得ない今、その軍事目的は以前とは明らかに異なると言って良い。

また、王家の里に並び立つ建物の屋上に立ってはるかに北方を望めば、磐座の裏側の木立越しに二千メートル級の山が聳え立ち、その頂上付近などは既に白雪に覆われており、その豊かな保水能力が充分な生活用水を齎してくれる筈なのだが、無論その山には重大な秘密がある。

何せ主は、その中腹をくり抜いて巨大な地下施設を構築してしまっており、その施設は数十万の人間の暮らしに耐え得るほどの規模と同時に近代的な機能をも併せ持ち、一旦その中に入ってのち更に階層深く降って行けば、遂にはおふくろさまの分身に出会うことすら出来てしまう。

その施設の本来の使用目的に付いては定かでは無いものの、今も多数の軍兵が常駐して維持管理に当たっているところから見れば、いざとなれば即座にその威力を発揮し得る筈なのだ。

そもそもこの胆沢城と言うものは、本丸だけを取り上げても、地球時代の福岡県に劣らぬほどの面積を持つ堂々たる大地であり、しかも二の丸や内水をも含めた全体像として捉えるならば、例のピザ島に比べてもはるかに広大だと言って良い。

加えて、五割程度の山地率を保ちながら相当な農地がかなりの収穫高を誇っている上に、漁港らしきものまで散見され、多数の農家はもとより文教施設や浄水場や下水処理場があり、近代建造物を具えたポッドの発着所らしきものまで見えているだけに、トランジットキャンプとしての使用が長期化すると予測してらっしゃる主にとっては、既に全てが整ったと言うべきなのであろう。

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  1. 2008/12/24(水) 09:39:14|
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