日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 016

 ◆ 目次ページに戻る

ほどなく秋津州の損害の概要が内務省から発表され、その悲痛な現実がいよいよ歴然として行く。

NBSの中からも十八人もの犠牲者が出ており、中でも女性が十二人、特にマーベラたち六人のティームなどは、派手やかな外貌のせいもあってか、全員が陵辱された上見るも無残な死に様だったのだ。

だが、これだけ多くの被害者を出したNBS側の目から見てさえ、秋津州人の蒙った被害は目を覆いたくなるほどの惨状であった。

昨日まで七千人ほどであった彼らの中で生存者はたったの五十六人であり、その損害率は実に九十九パーセントを上回っている。

何と、一パーセントも生き残れなかったのだ。

秋津州人に対する憐憫の情は、人々の心に刻み込まれた。

まして、数少ない生存者の過半は、公表はされないにせよ事前に王が疎開させていた筈であり、実際の生存率に至っては言うもおろかだろう。

北京政府に反感を抱くような原住民など、新たに得た版図の中では明らかに邪魔者だったのであり、少なくとも、その作戦目的が文字通りの皆殺しにあったと言われても弁明の余地は無い。

何しろ、奇跡的に燃え残ったのは敵軍の司令部として接収されたNBSの支局ビルぐらいのもので、同じNBSでもその宿舎の方は全焼の憂き目を見ており、結局国中の建物が焼け落ちてしまっていたのである。

中には放火を免れた家屋もあったのだが、大火によって巻き起こった激しい火事場風が結局延焼の範囲を広げてしまったのだろう。

しかし、百三十万もの「RC-F」を一斉投入した効果は絶大で、最後までくすぶっていた山林の一部も消火を終えて、今では一筋の煙も立ち昇る気配は無い。

「RC-F」達は目覚しい働きを見せて、湾内に沈んだ艦船も遠く外洋へ排除し、念を入れた浚渫作業までなされており、浮いていたオイルや浮遊物などもやがて見えなくなった。

陽は未だ落ちず、秋津州の空は何事も無かったかのように清々しい青さを取り戻したが、若者にとって最も大切なものは二度と戻ることは無い。

京子の報告は、若者にさまざまな思いを連れて来た。

苦いものが否応無く胸を浸し、何者かの発火に手を貸そうとしている。

それは、まさに例えようも無い憤怒であり、それが地獄の業火と化して、ワシントンを焼き尽くす絵が一瞬脳裏に浮かんだが、振り返れば我が身は一国の統治者なのである。

京子の進言もあり、急遽野戦病院の一郭に設置した執務室で、若者は王としての務めを果たすべく、改めてタイラー補佐官に拝謁を許すことにした。

とにかく、十八人もの合衆国市民が犠牲になっていることは間違いない。

席上異様な空気が漲る中で、国王からは、在留アメリカ人の中から多くの犠牲者を出してしまったことについて、遺憾の意と哀悼の辞が述べられ、遺体を一刻も早くその祖国に帰して差し上げたいと言う発言があった。

タイラーも大統領からの弔意を述べ、かつ在留米国市民の保護のためにごく少数の米軍部隊の駐留を望んだが、それはあっさりと拒絶されてしまった。

タイラーの立場も実に苦しい。

眼前の国王は、既に百三十万もの秋津州軍に堂々全土の守備を固めさせ、しかも敵国本土にまで痛撃を加えつつある今、在留アメリカ人の保護のために米軍の駐留が必要だと主張するのであれば、その在留アメリカ人そのものにお引取りを願うまでだと言うのである。

数少ない同胞を先ほど見舞ったばかりの王は、民意はこの突然仕掛けられた侵略戦争を断固戦い抜くことにあるとし、その民意に従って行動することこそが、王たるものの揺るぎの無い責務であると言う。

つい昨日まで、大声で非武装平和主義とやらを叫んでいた一部の者達も、今ではそれが如何に非現実的な主張であったかを、いやと言うほど思い知らされ、泣いて悔やんでいる光景はつい先ほども目にしたばかりだ。

米軍駐留の名目は「在留米国市民の保護」以外には見当たらず、国王の主張には充分な正当性がある。

確かに秋津州の治安は一旦破られはしたが、ごく短時間でそれを回復出来た以上、米軍の駐留を受け入れる必要なぞ何処を探しても見つかる筈がない。

この場合、相手側にまともな備えが無ければ、国王が何と言おうと外洋の米軍を有無を言わさず上陸させてしまうのだが、今回ばかりはそうは行きそうも無い。

いつものように強行すれば、我が第七艦隊にも相当な損害が発生してしまう筈だ。

補佐官は、話の接ぎ穂を探さなければならない。

「では陛下、わが国の方から軍事同盟を望んだらいかがなさいますか?」

当然、米国と秋津州との軍事同盟と言う意味だ。

「・・・。」

「わが国も十数人の犠牲者を出しております。」

「・・・。」

王は冷めた表情のまま、無言でタイラーの顔を眺めている。

その表情は、中共軍の出兵に裏判を押したのは一体何処のどいつだと言っているようにも思え、脇の下に冷たいものが伝い落ち、思わず陪席の京子の横顔に救いを求めてしまった。

現実に、ワシントンは中共軍の動きも逐一掴んでいて、居留民を避難させる余裕は充分にあったにもかかわらず、それすらも実行しなかったのである。

近海で待機していた複数の米国艦艇には、二十機以上のヘリがスタンバイしていながら、ワシントンは明確な意思を以って多数の同胞を見殺しにしたことは事実であり、タイラーにとって息詰まるような時が流れたが、期待した援軍は得られず、京子は端麗な横顔を見せて黙したままだ。

「いかがでございましょう。」

「仮定の話にいちいち返答など、そもそも無意味であろう。」

王は米当局が本気で同盟を望むのなら、そのときに改めて検討しようと言っているのか。

だいいち、議会制民主主義を標榜する米国が参戦必至の前提で、かつ戦争実行中の国家との軍事同盟なのである。

ましてその敵国の一つに至っては、常任理事国であり、核保有国でもあるのだ。

そんな簡単に意思決定など出来るわけも無い。

タイラーは同席の属僚に目配せして、別室で本国当局からの新たな訓令を受けさせるしか無かったのである。

「しかし、わが国としてもこれほどのことを座して看過することは出来ません。」

行きがかり上、思わず見得を切ってしまった。

「ほお、それでは貴国も参戦すると仰るのか?」

若者は冷然とした目のまま、にやりと笑って見せた。

「いえ、直接軍事行動を意味するものとは限りません。」

「・・・。」

王は、相変わらず冷めた表情を見せている。

「例えば国連安保理に・・。」

タイラー自身、途中で自分の発言の愚かしさに気付いた。

「・・・。」

王は、わずかに頬を崩して笑っている。

国連など何の役に立つのかと、その目は嘲笑ってさえいたのである。

タイラーとしては、京子との間でさえ主導権を握れたことなど一度も無いのだ。

まして相手が国王とあっては、自らの無力感を益々感じざるを得ない。

とにかく、ほとんどの案件でその選択権が常に相手側にだけ存在しているのである。

先ほどからの表情からすれば、眼前の若き君主はもはや孤立すら恐れず、全く怖いほどに落ち着き払っている。

その国民にしても、ごく僅かなものになってしまったからには、伝え聞く王の荘園の実力から見ても、彼等を食べさせていくのはた易いことだろう。

また、強大な軍事力は、敵を殲滅するにも充分なものなのかも知れない。

あの人造人間の大軍団は、放射能だろうが細菌兵器だろうが全く恐れず、赤道直下のジャングルだろうが、ブリザード吹きすさぶシベリアの永久凍土の上だろうが、全く苦にしないことは数々の実験の結果からも容易に察しがつくのである。

手元の資料からも、我が国の工業生産環境を以ってしても、サンプルのコピーすら作れずにいる理由の一端が、情け無いほどに浮かび上がってきているのだ。

最大の壁は、それらのサンプルに用いられている数々の特殊合金にあるのだと言う。

本来金属にとって、強度や硬度、靱性及び弾性、そして組織安定性や耐酸化性等などの特性こそが重要なポイントであって、種々の金属をそれぞれ特定の条件のもとで組み合わせることによって、さまざまな特徴の合金が作られることは周知の通りだ。

だが、秋津州の特殊合金はいずれもその特性において飛び抜けており、中には摂氏八千度の耐熱試験でさえ軽くクリアして、優れた組織安定性と耐酸化性を実証したものまであった。

超高温環境から極低温に亘って、その熱膨張係数や弾性係数が一定に保たれることが、一層の驚きを呼んだのだ。

サンプルを調査すればするほど、その技術力の高さばかりが浮かび上がってきて、どう足掻いても同一のものを作ることが出来ない。

我がティームは、永久原動機一つとっても、添付文書に書かれている作業工程をまっとうすることが出来ず、結局全てのサンプルが一部を解体したまま、二度と復旧出来そうに無いのだと言う。

兵器の性能についても、肝心なところが不明のままにこの度の実戦を迎え、その兵装や実力に多いに刮目してデータ収集に狂奔した。

そのデータによれば、秋津州の兵器は深深度の海中でさえ自在に戦闘行動をとっていたふしさえあり、不確実ながら「SS六」は九十ノット以上の水中速力が観測されてもいる。

最強のシーウルフ型原潜ですらせいぜい三十ノットであることからも、驚くべき快速ぶりが窺える。

まして、あの船型なのだ。

データを見たワシントンのお偉方で、九ノットの間違いじゃないのかと言った人までいるのである。

小型のD二やG四に至っては、高速過ぎて計測不能とされているほどだ。

中朝各地の軍事施設をごく短時間で沈黙させてしまったのも、恐らくD二とG四だと思われるが、あの「SS六」どころかヒューマノイド兵士でさえ、未だに敵の本土に姿を見せておらず、この点も不可解極まりない。

目の前の若者は相当の余力を残して、敵地の膨大な近代兵装を壊滅させたものと思われるのだが、もしこれが全力で戦っていたらどれほどの破壊力を発揮するものか、考えてみただけでも空恐ろしい気がしてくる。

また、今までのところ秋津州軍は火薬類を一切使用しておらず、ただひたすら、その超高速を活かして膨大な兵器を移動させることに力点をおいており、その末端に位置するD二やG四などは、文字通りのピンポイント攻撃を可能にしていることに加え、中でもD二などは一旦近代的な砲台を攻撃するにあたり、その砲身や砲じゅんを一瞬で貫いたあとでさえ、その機体にはかすり傷一つ残さないほどの強度を具えていると言う情報まである。

最も理解に苦しむ現象は、その本土がこれほどまでの痛撃を受けているにもかかわらず、中国の潜水艦が一切反撃もせずに一斉に退却し始めていることで、北極海で作戦中の戦略原潜ですら、一発も撃たずに母国に向かっていると言う奇妙な現象まで報告されているのである。

我が海軍の海中音響探査ネットワークは少なくとも北半球の全域をカバーしており、北半球の海中兵器の全てを捕捉追尾していることから、中国潜水艦のこの不思議な動きも手に取るように判るのだ。

無論、その原因は全て秋津州軍にある筈だ。

そして、それほど強大な秋津州軍団の頂点に立っているのが、目の前のこの年若い王なのだ。

タイラーにしても考え込まざるを得ない。


そのとき隣室で数人の言い争う声が響き、属僚の制止を振り切って執務室に入ってきたのは、ほかならぬNBS支局長のビルとその部下たちであった。

そのビルが、見るからに興奮した様子で若者の前に立ったのである。

「陛下っ。」

若者とこの男には、何度も顔を合わせる機会があり、それなりに気心も知れており、それだけに、お互い余り遠慮と言うものが無い。

「うむ、何かありましたか?」

「今、聞いたんですが、我々は国外退去になるんですか?」

ビルは「今、聞いた」と言っているが、その話題はつい先ほど出たばかりなのだ。

その話題が出てから部屋を出た者は、タイラーの属僚だけだ。

だが、タイラーにとって不利益に繋がる情報をその属僚が洩らす可能性は極めて少ない。

無論、王の意を受けた京子から指示された妹がリークした結果なのだが、その通信は、目の前のタイラーにさえ全く感知されることは無い。

「はい。」

「何故ですか?」

ビルは、憤懣やるかたないと言った様子である。

ジャーナリストとしては、さあこれからと言う段になってから追い返されたのでは堪ったものではない。

「あなた方民間人を、これ以上危険な目に合わせるわけには参りません。」

「しかし、これがジャーナリストとしての使命ですから。」

「ほかの方はどうなんですか?」

「この時点で逃げて帰りたいジャーナリストなんて、いるわけありませんよ。」

「もし、お一人でもおられるようなら直ぐにお送りしますよ。」

「いや、残留の意思確認をペーパーでとりますから。」

実際、ボスであるこの男のこの勢いでは、とてものことにその部下たちも危険だから帰国したいなどとは言い出しにくいであろう。

「わかりました。あとはお国の当局のかたのご了解をお取り下さい。やはり同胞の方々の身の安全についてはご責任がおありでしょうから。」

若者は、さりげなくタイラーの方へ視線を走らせながら言うが、これにしても、聞き様によっては相当な皮肉であると言えなくもない。

「いや、そんな必要ありませんよ。」

「しかし、あなた方の保護の名目でお国の軍隊がわが国に駐留するのは困るのです。」

舞台裏を暴露してしまう。

途端にビルはタイラーの方に向き直り、わざわざ日本語で言った。

その語気は、当然にすこぶる荒い。

「補佐官っ、中国の出兵にゴーサインを出したのは誰なのか、我々は掴んでるんですよっ。」

「何のことだ。」

「その上、我々を作為的に見殺しにしたぐらいはバカでも判るんだっ。」

ワシントンの本音は、真の意味で米国市民の身を案じているのではないことも分かっているし、敵の攻撃を全て知っていながら、その米国市民を見殺しにしたのは誰だと言っているのだ。

ワシントンの戦略が、本来の国益との間に甚だしい乖離を生み、結果として恥ずべきものであったことを、後になって世界に曝け出してしまうことはさほど珍しい事ではない。

今回も、中朝の露骨な侵略の意図を事前に掴んでいたことを秘匿しようとした結果、マーベラたちがその犠牲となってしまったのである。

現に若者が得ていた情報でも、サランダインが前以て受けていた訓令は「如何に何でもれっきとした正規軍が、合衆国の民間人をいたずらに殺傷する筈は無いから、侵略者の上陸の意図を秘匿せよ。」として、「最悪の場合でも必ず救出のヘリを出すから、NBSの拠点からは絶対に離れぬように。」と言う内容だった筈だ。

サランダインはその訓令を守り、配下のマーベラたちにも一切を秘匿したまま遭難してしまったことになる。

ところが、現在のワシントンでは、『米国市民からも多数の犠牲者を出してしまったが、それは米国の世論を沸き立たせてくれることに優れて功があり、その後の米軍の戦略的出兵にあたっても、その「正義の旗」の輝きを一段と増してくれるだろう。』と言う点にばかり議論が集中してしまい、中には初めから明らかな作為を持っていた者すらいたことを、若者の情報網が明瞭に察知してしまっている。

なかんずく、その最も愚劣な「作為」をいだいていた者の中に、大統領の名前までがリストアップされている始末なのだ。

若者がそのことを認識するに至ったのは、つい今しがたのことであったが、その瞬間髪の毛が逆立つほどの憎悪と憤怒を覚え、いっそ、そいつ等の首を捻じ切ってくれようかとさえ想ってしまったほどだ。

ビルが怒り狂ったとしても何の不思議も無いのである。

「おいおい、滅多なことを言うもんじゃないよ。」

タイラーとしても、ここは惚けておくより仕方が無いだろう。

ビルは再び王に向き直った。

「陛下お願いです。従軍のお許しを頂きたい。」

従軍と言っても、当然報道記者としての意味だ。

「・・・。」

「是非お願いします。」

「しかし、戦地は危険が多いですよ。」

「そんなこと、分かってますよ。」

それはそうだ。

危険な環境で取材したネタであればあるほど、高い評価を受けることなど普通常識であろう。

「しかし、そうまでして虎の尾を踏む必要もないでしょうに。」

「いや、我々は歴史が大転換する現場で、その生証人となるのです。」

ビルのジャーナリスト魂は昂揚しきっているようだ。

「分かりました。そうまで仰るなら致し方もないでしょう。あとは内務省と打ち合わせて下さい。」

秋津州の王としては、あくまで相手の熱意に負けて従軍を許す形をとったことになり、なおかつ同席しているのは他でもない米大統領特別補佐官なのである。

陪席の京子から見れば、事態は恐ろしいほど王の見込み通りに進展して行っているようだ。

しかも、この頃のファクトリーでは、SS六を生身の人間用に改造した機体が既に大量に完成し、その機内では冷蔵庫や調理器具、それにシャワーやトイレ、機内からコントロール可能な機外カメラまで立派に動作している。

その改造SS六も、そろそろ、その一部が到着してもおかしくないころだ。

クルーたちはその取材用のSS六の中で、大張り切りで打ち合わせに入る筈であり、カメラの扱い方の訓練にしても今夜中には目鼻がついてしまうに違いない。

また、そのほかにも様々な設備を準備中であり、中には難民の衣食住を賄う巨大集落用設備まで完成間近だ。

そのためもあって、マザーの備蓄資材が急激に底を突く事態を招き、その資材確保のためにも王がはるかな荘園に赴いたのだ。

現地では、王の命じた集積作業が明後日には完了する筈であり、若者はその巨大ウェハウスの搬送のために再び現地に向かう予定でいるのである。

「ありがとうございます。ご配慮に感謝します。」

ビルは喜び勇んで部屋を出て行き、タイラーはじっとりと冷や汗をかいていることに気付かされた。

恐るべき若者は、自らの口からは必要最小限の事しか発言せず、肝心の事は全て米国メディアの口から言わせている。

まして彼等は、いまや自国の政府より秋津州の方にはるかに強いシンパシーを感じているようで、真の恐ろしさはその辺にもあるのだ。

先ほどのやり取りでは、近く敵地に攻め入ることまで暗示しており、本格的な戦線の拡大はいまや眼前にあると言って良い。

一旦そうなってしまえば、敵はあの広大な国土を持つ相手なのだ。

恐らく、泥沼の長期戦は避けられないだろう。

そして、その政略の全てを握っているのは、紛れも無く目の前の国王その人なのだ。

今まさに、これ程の相手を向こうに回している現実に改めて思い至り、この若き君主を、決してその若さ故に侮ってはなるまいと強く心に刻んでいたのである。

「陛下、私に出来ることはございませんでしょうか?」

タイラーとしては、崩れたった陣形を多少なりとも立て直し、少しでも実の有る情報や言質を引き出さねばならない。

「いや、どこまで自力でやれるかやってみましょう。」

若者は他を恃みにはしないと明確に宣言している。

まして、相手は侵略者の背中を押した国だ。

そんな国に一体何を頼めと言うのか。

「しかし・・・。」

「ご心痛もおありでしょうから、お望みでしたらごゆっくりご滞在下さい。」

この「ご心痛」と言う言葉もまた、タイラーにとっては痛烈な皮肉になった事であろう。

また、タイラーたちの滞在中の宿舎としては、NBSのメンバーと同じ建物の中に充分に余裕がある。

「ありがとうございます。」

結局、この特別補佐官の千軍万馬のキャリアも、僅か十八歳でしか無い筈のこの若者の前では何の役にも立たず、全く得るところ無く空しく引き下がるほかは無かったのである。


特別補佐官との会談を終えた国王は、カメラの放列の中、剣帯を着け指揮刀を吊り、グラウンドの名も無い夏草を摘み取り、手ずから黙々と草の冠を編んだ。

次いで遺体安置施設の氷点下の室温の中で、居留民被害者の遺体の傍らで佇立し続け、刀の礼を以って十八人の犠牲者の霊に心から哀悼の意を表し、長い佇立のあと、マーベラの遺体に手作りの冠を奉げる姿などは、多くの米国大衆の心に深く焼き付けられたことであったろう。

米国の大衆紙などは、これを国王が死せるマーベラに王妃としての処遇を与えた象徴的場面と解して、かなりセンセーショナルな取り上げ方をしてその部数を伸ばし、結果として米国大衆に秋津州人との連帯感を一層高める役割を果たして行った。

一部の保守色の強い団体などでは、秋津州を援ける義勇軍の募集の動きまで出て来ていると言い、この様な国民感情は大統領選の只中でもあり、当然現政権の手足を多かれ少なかれ拘束していくに違いない。


さて、若者が黙々と夏草を摘んでいた頃、一部復旧を目指した中朝両国の軍事施設が再び攻撃を受け、完膚なきまでに叩き潰されてしまっていた。

前に数倍するほどのD二やG四が襲ったのだ。

中国の場合など、帰還して来る潜水艦を修復すべきドックさえ失われてしまうほどであったが、相変わらず中朝両国軍の人的損害は軽微であり、一般市民の被害は依然として発生してはいない。

国王の戦争指導方針は相変わらず、流血は出来る限り避けたいもののようだ。

そして、秋津州内務省から「わが国は、戦争状態に入った。」との声明が出され、かつ六十時間後の総攻撃をも示唆することで、中朝二国内の居留民の早急な国外脱出を促したのである。

また、この六十時間と言う時間は、中朝二カ国に与えられた降伏の為の準備期間と見ることも出来よう。

いづれにしても、六十時間後と言えば秋津州時間で十三日の午前七時零分だ。


一夜明けての十一日早朝から、神宮前は大勢の人間で溢れかえっていた。

とにかく、ここが数々の秋津州情報の発信源になっていることはとうに知れ渡っており、皆が皆それを目当てに集まって来るのもしごく当然のことだ。

最近では、当局の懸命のガードも空しく、マスコミの直接取材まで行われるに至っている。

一階フロアでは、村上優子とその周辺の動きを捉えた映像が、公安組を中心に夜を徹して検証されており、その結果今朝になって、突然与党の重鎮吉崎大二郎の議員辞職が報じられるに至り、数十名の吉崎派は他派閥の草刈場の様相を呈し始めた。

尤も、この吉崎と言う男は、もともと現政権とは対極を為す存在として知られており、その失脚は反って政権の足場を固めるに功があったとも囁かれたが、いずれにしても、政財官界の全てに激震が走ったことは確かだ。

社会的生命の危機を囁かれる各界の大立者が右往左往しているうちに、中朝の近代的軍事施設が全て潰えてしまったとする確報が、その騒乱に更に追い討ちをかけることになった。

中露国境付近のロシア側では、その兵力が著しく増強されつつあると報じられ、先行きに対する不透明感は愈々高まるばかりだ。

少なくとも、東アジアの軍事バランスは根底から覆ってしまった。

日本政府としても、新しいアジアの体制をどう見極めていくべきかが大きな課題となったことは間違いない。

まして、明後日の朝方には秋津州の一大反攻作戦が実施される公算は極めて高く、既に外務省からは、中朝両国からの退避勧告を、台湾、ロシア及び韓国全土に対する渡航延期を推奨するアナウンスが発せられ、それぞれ現地の空港は出国希望者で溢れていると言う。

一連の騒動の中で、村上優子本人については、ごく普通の一般旅行者の扱いで、不慮の災害事故死として処理される模様だ。

唯一の日本人被害者である優子の遺体は、昨晩の内にポッドに載せられひっそりと到着しており、引き取って行った親元は今後厳重な監視下に置かれることだろう。

そもそもが、今回の優子の死亡は本人の行動そのものがその遠因の一つとなったもので、その上言わば味方の手に掛かったことになるのだ。

この辺のいきさつについて、そのポイントとなるような決定的な場面の映像を数多く突きつけられた親元は、ひたすら恐縮するほかは無かったろう。

とにかく、秋津州商事から提供された情報(その殆どは音声付き動画ファイル)は、プライバシー保護の観点から言えば多いに問題のある物ばかりであったが、その内容に限って言えば衝撃的なもので溢れかえっていたのだ。

それは、北の工作活動家たちの相関図の一部を想起させるに充分なものであり、その内容分析を突き詰めていけば、やがては税務処理上の特別待遇問題も含め、いわゆる政官財の奥の院の暗黒面までが表面化する可能性をも秘めていたのである。

ただ、優子と吉崎周辺に関してだけは未だマスコミには流れておらず、そのため日本の一般大衆にまでは与える影響が少なかったと言えよう。

だが、与党の重鎮吉崎大二郎の政治生命を永遠に絶ってしまったことだけは確かだ。

世界的にも珍しい事に、公人と違い民間人村上優子の行為に対し、刑事罰を加えるような刑法規定がこの日本には見当たらない。

あの国は誰の目からも歴然たる敵性国家であることは確かであり、その国の指令を受けてさまざまに活動していたことが判明したにもかかわらず、仮に本人が生きて帰国したとしても、せいぜい渡航目的を偽っていたことが問題になるくらいのもので、現実には処罰されるようなことは起こらない。

しかし、秋津州のいわゆる自然の慣習法によれば彼女は間違いなく極刑だ。

秋津州国内で、その敵国の侵略作戦の手助けをしたと言うことが明白な利敵行為である以上、それ以外の選択肢は無いのだ。

普通の国にとって、「公」に対するこれ以上の反逆行為など無いのである。

この意味でも、我が日本は到底普通の国とは言えないであろう。

一方の米国内では、政府が中共軍の出兵にお墨付きを与え、なおかつその作戦行動を知りながら同胞居留民を見殺しにしたことは単なる憶測情報として扱われ、大統領選に重大な影響を与えるまでには至らない。

米国当局としては、その居留民の被害に対してのみ中朝二国に厳重に抗議するに留め、日本国政府に至っては特別な政治行動は一切とられることはなかった。

ただ、NBSからは男性居留民の死者六名の内の二名は侵略者に加担していた事実が公表され、このことに関する会見が行われることになったが、サランダインのティームに限ってはあくまで通常の民間人として扱われ、いずれからも疑義は出ていない。

この開戦二日目の十一日の時点では、先進各国は明らかに大規模戦争の勃発を予感しながら、いわゆる模様眺めに入ったと言って良いだろう。

この時点で局外中立の意思を伝えて来たのは台湾、チベットそして東トルキスタン共和国だけであった。

いづれもが中国の版図に編入されてしまったか、或いはされそうな地域の名前だが、少なくとも中共当局から見れば全て自国の領土と言うことになる。

これ等の国(地域)を代表していると主張する者達は、「自国」が秋津州に敵対しない意思表示をすることによって、その攻撃を免れ、自らの存立を確保したいのだ。

但し、一部情報によれば、チベットと東トルキスタン内部では、かなりの騒乱状態を招いていると言うが、秋津州側からのコメントは一切出ていない。

いたずらに沈黙を続ければ、益々混乱が広がってしまうばかりだろう。

また、誰かが仲裁に乗り出すような気配も無い。

これほど酷烈暴戻な一方的侵略行為の一部始終が、具体的映像として世界中に溢れてしまっているのだ。

殊に先進各国では、大衆の一方的とも言える秋津州同情論が、暴風のように吹き荒れている最中(さなか)のことでもあり、近日中に行われる筈の本格的な反抗作戦の帰趨を見てからでなければ、講和条件についてのおおよその目処も立たない。

まして、この戦争を誰しもが長期化すると見ており、このような状況では、うかつに仲裁に出ても政治的リスクが高過ぎて、結局誰しもが二の足を踏んでしまうのであろう。


一方で若者は、新たに一個連隊と言う圧倒的な兵力を投入して、国内の土木作業を命じていた。

このことにより、ごく短時間のうちに全土にわたる残骸が見事なまでに片付けられて行き、地下隧道の上下水道設備の補完的な修築作業まで、驚くような短時間のうちにその目鼻を付けてしまった。

前にも触れたように、秋津州軍の編成で一個連隊と言えば百二十八個大隊、機外に出て活動する兵士だけでもおよそ二十一億もの大部隊であり、それを一挙に投入したことによる効果は驚くべきものがあった。

これほどの大部隊が、王の命じた国土復旧のために、整然と土木事業を行うさまは壮観そのもので、その模様もまた広く配信され、この頃には王の兵団の実体がヒューマノイドであることを知らぬものは少ない。

ましてそのヒューマノイドは非常な怪力の持ち主で、空を飛び水中深く潜り、当然食事も睡眠も全く必要とせず、ましてや交替の必要など全く無い、まことに都合のいい兵士ばかりなのだ。

この日一日だけでも膨大な作業が行われ、NBS関係者の遺体は特別製の冷蔵設備にくるまれたまま本国へ移送されて行き、秋津州住民の七千に迫る遺体は、一旦マザーの船団に運ばれて荼毘に付され骨壷に姿を変えて再び降りて来る。

戦没者用の共同墓地が北方の山麓に新たに用意され、国王や生き残った住民の立会いの下に厳かに埋葬されて行ったが、この骨壷の中の人骨らしく見えるものの正体は無論誰も知らない。

その上、議事堂や内務省ほか多様な建物が上空から運ばれて来ていて、本格的な据え付け作業が素晴らしいスピードで進められて行く。

内務省などは以前のものより格段に立ち勝る規模を持ち、巨大な囲いの中で相当な工事が行われた筈で、地上五階建てだとされるその間口は百メートルにも及び、国王の生活空間としてその最上階が宛てられ、その私的な居室や侍従たちの詰め所などが置かれるようになると言う。

また、四階フロアの全てが公的な王宮として設定されたことにより、以前のまことに狭小なものとは全くその趣を異にして、諸外国からの賓客にもかろうじて対応し得る設備と規模が確保されたものと言って良い。

この他にも天空から搬入されてくるものの中には、かなりの高層ビルの原型とも思えるものまで見受けられ、一段とメディアの興味をひいた。

一方の港湾部では乾船渠の本体工場や付属工場などが多数建ち始め、銑鋼一貫工程を持つ製鉄設備がはるかな上空で稼動し、地上との間を結ぶ輸送機の存在まで明らかとなるに連れ、艦船の大規模修復や新規造船のためのハード面が概ね整ったことを物語っている。

しかも、その後船渠や工場それぞれの作業員も配備が完了していることが伝わり、秋津州湾の本格的な開港が間近いことまで予感させるに至った。

驚いたことに、首都の南西に一万メートル四方ほどの用地が確保され、空港の建設まで始まった。

長大な滑走路が複数建設され、大型軍用機であろうがジャンボ機であろうが、数日後にはその使用が可能になる見通しまで立ってしまった。

その作業効率は凄まじい。

例の「SD」の一部には、船舶及び航空機用の種々の燃料供給能力を持つものも紹介され、これで、ごく一般的な海と空の交通手段のインフラがあっという間に整備されたことになる。

そして内務省からは、「これより敵兵の遺体を中朝両国に届ける」旨の発表があり、NBSのネットワークから世界に発信された直後、天安門広場と金日成広場のそれぞれに全ての棺の瞬間移送が実行された。

遺体は丁重に棺に収められ、大量のドライアイスによって保冷措置が図られた状態で移送されたが、大量の届け物のまわりには誰一人見当たらなかったと言う。

この作業の中で最もメディアを驚かせたのは、敵兵の遺体に対するこの丁重な扱い振りであったと言うが、工業先進国の当局者たちが真に瞠目したのは、秋津州の工業生産能力の巨大さと優れた技術力であったかも知れない。

タイラーからさまざまな情報を受けつつあるワシントンでは、自国をすら凌ぎかねない圧倒的な国力の存在を前に議論百出して、本質的な対応を決めかねており、大統領のマシーンの中でも特に先鋭的な者の間からは、一刻も早く核攻撃を加えて殲滅するに如かずとする意見まで出たが、はるかな虚空に一大拠点を有する相手を全滅させることは不可能であり、そうである以上凄まじい報復攻撃を覚悟せざるを得ない。

その一大拠点とやらも、レンズに捉えることが出来たのはほんの一部だけで、秋津州側も何かしらの対抗手段を採っているらしく、その全貌と思われるようなものは一向に捉えることが出来ず、まして王の荘園に至っては、その正体は未知の天体である公算はいよいよ高い。

その未知の天体こそが敵の本拠だなどと言う説まで聞こえてくるありさまでは、仮に上空の秋津州軍と太平洋上の秋津州を殲滅出来たとしても、見えざる本拠はそっくり残ってしまうことになる。

またある者は、秋津州の海底の秘密を暴露してその建国の不当性を突こうと言うが、新たに収集したデータからは以前の不自然なものは、既にきれいさっぱり消え失せてしまっており、仮にその証明を為し得たとしても、今更相手が黙って引っ込む筈も無く、必ずや強大な武力を背景にふてぶてしく居座ってしまうだろう。

いずれにしても、秋津州の生の情報と常に直結しておく必要性が益々強まったことには違い無く、サランダイン方式に代わる諜報手段を急ぎ構築する必要に迫られたのだ。

その結果、やはりその方式に勝るような手段は見当たらず、またしても美女軍団を編成することになり、ダミー会社の仮面を被った当局は大働きに働いて準備を進めている。

カネに糸目をつけずに進められることでもあり、遠からず新メンバーが戦時体制の秋津州に入国する日も近い。


一方国内の後始末に大方の目処をつけた国王は、十二日の夜明けとともに勇躍三つの荘園に向かった。

現地での指示はとうに与えてあり、既に荷積みを終えていた多数のウェアハウスを従えて戻り、膨大な物量の配備を進めて行った。

その結果、マザーはファクトリーのフル稼働を可能にし、ひいては秋津州の銃後を、いよいよ力強く支えていくことになる。

地上の秋津州では、山岳地帯の上空に飛来した膨大な「SD」が、大量に散水する姿が見掛けられた。

一度に千機ほどが編隊を組んで盛んに散水し、その編隊が入れ替わり立ち代り飛来して同じ作業を繰り返して行く。

飛行するドラム缶一機当たりの水量は、そのサイズから見ても優に十万トンを超えており、それほどのものが真っ青な空を背景に、千機もの単位で次々と飛来して来る光景は、見るものの全てを圧倒してくる。

三つの荘園には、自然の湖は無論のこと、過去の治水事業の成果としての人造湖も多数存在しており、王は幾たびも往復して水汲み作業を繰り返していたのだろうが、今回の調達物資の中で最も大量のものは、この清らかな真水であったのかも知れない。

この大規模な散水作業により、北浦(山麓の湖)の水が一時的に濁りを見せたが、程なく元の清らかな水面(みなも)を取り戻し、そこから流れ出る二本の川も水量を増しながら見事に復活し、秋津州湾の哀れな淡水生物のなきがらを押し流して行った。

ちなみに、この二本の川も遠いふるさとを想って名付けられた懐かしい名前を持つ。

東側を流れるのは高野川、その西側を流れるのは加茂川である。

そのいづれもが北浦を源流として、大きく湾曲しつつ南下して秋津州湾に注いでおり、この二本の水流は秋津州の農耕にとっても欠かせないものになる筈だ。

数日後にはたまたま自然の降雨の助けもあって、山岳地帯の樹林と共に新旧の地下水脈も明らかに目を覚まし、肝心の利水事業の根幹の見通しも立ち、それまで常にスタンバイの状態であった外洋深海底の浄水設備も、その役割を終える日も近いのかも知れない。

また、外輪部には二十箇所ほどの望楼がその建物のほとんどを無傷のまま残していたが、これについては全く新しく大規模のものを六箇所に造営し、のちに既存の望楼は全て廃棄されることになると言う。

ただ、新設のものには兵舎は付属せず、広大な用地に大規模な本体と灯台標識が併設されて公開されたが、その全てが壮大な立体倉庫として機能していたことも大きなニュースとなった。

それも常温から超低温まで、それぞれの区分毎に見事なコントロール機能を備えており、その壮大な規模とともに見るもの全ての驚きを呼んだのだ。

どうやら王は、変事に備えてさまざまな物資の備蓄に、より一層心を傾ける心算のようだ。

これ等の倉庫も完成と同時に、次々と搬入される物資で自然満ち満ちて行く。

また、この大規模な建造物は、倉庫としての機能の他にも、さまざまな機能を併せ持つことが次第に判明していくのである。

一旦は壊滅的な被害を蒙った筈の秋津州は、前にもまして近代的な姿で甦って行き、やがてNBSの関係者たちも、全て新しくなった専用の宿舎に戻れることだろう。


十二日の午後の時点では、広大なNBSの用地もすっかり整理され、そこには一風変わった六機のSS六が着陸していた。

機体は他のものと異なりジュラルミンのように鈍く輝き、側面にはナウル共和国籍をあらわす国名や国旗が描かれている。

このタイプの「SS六改」は取り急ぎ二百機ほどが用意され、そのうちの六機を乗務員付きでNBSがチャーターしたものであった。

機体外部の三箇所にリトラクタブルタイプの高性能カメラが具わり、その操作方法もしごく単純で、クルーは直ぐに呑み込んでしまったと言う。

機体に付属する乗務員も若い女性型が配備され、このタイプは会話が可能なこともあって、クルーたちの評判も上々であとは本番を待つばかりだ。

当然テスト飛行が繰り返され、上空から撮影された映像が数多く流されたこともあって、秋津州商事には賃貸の申し込みが殺到し、日米英仏独ほかの有力メディアが、相当の陣容でナウル島に乗り込み準備に入ったとされている。


この十二日の夕刻、秋津州内務省は新たな声明を発した。

それは、自国の二百海里防空識別圏の宣言であり、その圏内への侵入は、SS六に限定すると言う一方的な内容であった上、「戦時体制の我が国は、この防空識別圏に侵入するものは警告なしで撃墜する」と言う乱暴極まりない宣言まで内包していたのである。

これによって、二百海里防空識別圏内は、「東京飛行情報区」から除外されることとなったが、秋津州国を普通の独立国家と看做す者にとっては、この宣言も、特別不思議でも何でもないごく当たり前のことではあったろう。

同時に、排他的経済水域内の海中でも大きな変化が起き始めていた。

域内の海中を、それまで我が物顔に闊歩していた各国の潜水艦が、全て一斉に水域外に排除されてしまい、それからは推力全開で侵入しようとしても、海中からは一艦たりとも入れなくなってしまったのだ。

勿論、全てRC-Fとそれに従属するD二とG四が実力で排除しているのだが、各国の海軍には当然分からない。

そのうち、米国海軍が無人の小型潜航艇を多数用いて、深深度からの侵入を試みて見たが、結果は全く同様であった。

とにかく、領域内に入ろうとすると全て押し戻されてしまうのである。

それでも懲りずに、場所を変え多方向から同時侵入を試みているうちに、計ったように全く同時にその全てが破壊されてしまった。

わざと同時に破壊して見せることによって、その毅然たる意思と強大な防衛力を見せ付けたとしか思えない。

これには、世界最強を以って鳴るさすがの米国海軍も苦笑して諦めざるを得ない。

不法な侵入は絶対に許さないと言う断固たる意思が明々白々となり、敢えてその防衛ラインを突破しようとすれば、あっさり撃沈されてしまうだろうと言う見方が否応無く定着していった。

その後は、敢えて海中から侵入を試みるような無謀な艦は自然にいなくなったのだが、これら一連の出来事は全くニュースにはならず、ほとんどの一般大衆には認識すらされることはない。

国際法の概念から言えば、潜水艦と言えども浮上してその正体を明らかにしさえすれば、域内に入ることは可能ではあるが、この場合でも、水域内海上の全ての外国艦船は、只いたずらに遊弋していることは許されず、単に「速やかに通過する」ことが許されているだけで、本来、他国の艦船が無闇に徘徊することは許されないのだ。

しかし、秋津州自身は他の国々が構築した国際法などと言う概念にとらわれる義務など無論負ってはいない。

それを裏側から言えば、秋津州の権利を守るべき国際的な法理も何一つ存在しないことになるのである。

その国際法とやらの「法理」の源泉たるべき国際条約を、いかなる国家とも結んではいないからだ。

また、秋津州港は国際港として開港されておらず、その意味から言っても、当然その入港に際しては秋津州側の許諾を必要とするが、ときにあたって、特に入港を許されたのはNBSの雇った二隻の商船のみであり、二隻は嬉々として新造の桟橋に停泊し、その入港の際には、ごく少数の「RC-F」たちがタグボートの代わりを立派に務めていたと言う。

このように王が忙しく立ち働いている間に、中朝両国から出国を望む者達は、本国からの迎えの便が多数手配され全員が出国を果たしていた。

出国作業のための充分な時間が与えられていたことが、現地における無用の混乱を大幅に防いだことも確かであったろう。

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  1. 2005/11/01(火) 03:26:06|
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