日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 162

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さて、唐突だが暦をヤマト合意が為された頃に戻させていただこう。

その頃、山川真奈美と言う日本人に思いもよらぬ大金が転がり込んでいたからであり、全ては彼女の財政状況に配慮した人工知能の判断ではあったが、あろうことか百万円と言う巨額の臨時ボーナスが支給されたのである。

百万と言っても無論秋津州円であり、日本円に換算すれば十億に垂んとするものだったから、受け取った当人ですら茫然としてしまったほどだったが、多いからと言って邪魔になるものではない。

無論使い道は腐るほどにあったのだが、女は先ず借財を整理することを優先させたようだ。

かつて日本で作ってしまった例の借財のことであり、その性質上金利が途方も無いものに膨らんでしまってはいたものの、それが日本円建てである以上、例え債権者の言うがままに支払ったとしても今となってはたかが知れていると言って良い。

ただ、長期にわたって放置して来たと言う経緯もあり、女はその処理に万全を期すことを望んだものと見え、ある日本人女性に連絡を取って全てを依頼している。

その日本人は、かつての離婚係争の折りに女の信頼を一度も裏切らなかった弁護士だったのだが、この依頼に関しても適確に動き、かつ誠実に処理してくれたから、日本での債務は全て解消することを得た。

その上、秋津州におけるカード債務など論外なほどの資産まで残すことを得ており、それもこれも特別賞与あってのことなのだ。

例によって本人は全て社主の個人的想いから出たものと解釈しており、その点胸の中を一際甘い嵐が吹き荒れていた筈だが、「禍福は糾(あざな)える縄の如し」とはよく言ったもので、直ぐに別の問題が持ち上がってしまっており、異星人到着の大ニュースが流れる中で、いっぺんに肝を冷やす羽目に立ち至っていたのである。

それと言うのも、あの前夫に所在を知られてしまったからであり、そればかりか、突然勤務先へ電話を掛けて来たのだから最も恐れていた事態だと言って良い。

それもこれも、日本の業界誌に女の記事が載ってしまったからであり、無名の日本人女性があの大和商事に勤務していて、しかも日本人として唯一社主秘書室と言う部署にいることに特段の話題性を求めた結果ではあったのだろうが、女にしてみれば取材一つ受けた覚えは無い。

当時名指しの電話があったことを思い出しはしたが、その相手は東京工業品取引所の関係者であるかのような口振りで、大和商事の取り扱い品目の確認とも取れる言い回しをしながら、女の国籍にもさりげなく触れて来ていたのだ。

格別機密にかかわる話柄も出ず、しかもほんの二分程度の通話だったから気にも留めずにいたようだが、結局それが取材代わりの確認電話だったことになる。

いずれにしても、その情報が前夫の耳に入った結果がこの始末であり、その前歴から言っても、執拗に繰り返される恐れが高いのだから、女が最悪の事態まで思ってしまうのも無理は無い。

とにかく、普通の相手ではないのだ。

相手側の都合など委細構わず押しかけて来て、傍若無人の振る舞いに及ぶような手合いであるだけに、普通に考えれば勤務先に迷惑を掛けた挙句、良くて配置転換、悪くすれば解雇まであり得る事態なのである。

しかも、前記の記事に触発されたものか、相前後して他のメディアまで取材を申し込んでくる事態であり、その身辺は俄かに風雲急を告げ始めていると言って良い。

大和商事が世界的な規模で事業を展開する巨大商社である以上、相手がまともなメディアである限り、応分の対応が要求されるくらいのことは、その所属部署から言っても覚悟しておく必要があるのだ。

尤も、久保室長の判断が無理に取材に応える必要は無いとしており、現状ではそのいずれにも応じてはいないものの、そのこと自体がやがて少なく無い憶測記事を呼んでしまうのだから、痛し痒しと言うところではあったろう。

現に、日本では任那御別宅を守る謎の女性として、その顔写真まで掲載するメディアまで登場し、顔写真に施された目隠しはあるにしても、見る人が見れば当人を特定出来る程度のものである上に、一部の業界では「任那御別宅のおん方」と言う呼び方まで既に定着しつつあるほどだ。

同時に前夫からの電話も繰り返され、遂には任那支社の正面玄関において入館を断られたことから騒動を起こし、直ちに検挙された挙句退去強制処分を受けるに至ったが、久保室長の口吻(こうふん)が、以後その人物の入国は認められないことを示唆するばかりで、女に対する懲罰的人事など行われる気配も無い。

前夫からの電話だけは代理の女性を用いてその後も折に触れて続くのだが、少なくともそれ以上の攻撃は国境が守ってくれている上、三十歳の誕生日には久保室長を通して豪華な祝いの品まで到来し、それが和洋取り混ぜて多様のフォーマルウェアであったことから、懲罰的人事には至らないと言う確信を得るまでになっているようだ。

何はともあれ、懲罰人事さえなければ前夫の電話攻勢など恐るるに足りないのである。

しかも財政上の苦境からも脱することを得ている今、その日常の多くは従来から継続中の勉学に充てられており、国策会社の社員としての新人研修と言う一面はあるものの、雇用主に対する思慕の情がモチベーションの源泉ともなって、政治経済の分野においても長足の進歩を遂げるまでになって来ており、任那御別宅の奥の間の一件を除けば、かなりストイックな暮らしぶりだと言えなくも無い。

一方、秘書室第二課の連中などは髀肉の嘆(たん)をかこつことが益々多くなって来ており、自然櫛の歯を引くようにしてその数を減じ始め、既に全社併せても十人を数えるのがやっとと言う状況ではあったが、その陣容はいよいよ粒揃いのものとなりつつあり、その「粒揃い」の意味合いが外見上のものに偏重されているだけに、人工知能の最もよしとする事態ではあったろう。

しかも、残った女たちのモチベーションは驚くほど高く、それは人工知能の描くキャスティングの役割を果たすに十分なものであり、そのチャンスの到来をひたすら辛抱強く待つものばかりなのである。


一方、問題の胆沢城への取材許可が未だに下りてないこともあって、多くのメディアが漂流者たちの哀れさを殊更に強調する機会が増え、いたいけなローマ人の子供達の映像がテレビ画面に頻繁に登場するまでになって来ており、彼等の全てが他の惑星に遺棄されてしまうことの悲惨さをしきりに思わせてしまっている。

全ての元凶が秋津州の遺棄政策にあるとする論調が巷に溢れ、自然大衆の間にもローマ人擁護の声が上がり始めており、その柱が遺棄政策の破棄を求めるものであるだけに、とりわけ議会制民主主義を唱える国々においては、政治家たちの立つ位置も微妙に揺れ動いていると言って良い。

無論、彼等の本音は全く別のところにあり、それはジェームズ・リヴィングストンと言う人物にとっても同じことだ。

彼にとって未だ見ぬローマ人の運命などそれこそ興味の外であり、まして近頃知り合った米国人ダンサーなどただの政争の具に過ぎず、そのことのために優しげな顔を見せているだけなのだ。

自らアリゾナのガイドを買って出たのもそのためであり、数時間のガイド役を務めた後、ダンサーには秘書を付けてメサのホテルへ帰し、その部屋には例の政敵を招待してあるのだから、既に準備は万全と言って良い。

あとは秘書の報告を待つばかりだ。

その結果、重大な使命を帯びたその秘書は、今その部屋で問題の政敵と二人だけで対峙しているのである。

「リヴィングストン君は未だかね。」

顔一杯に老醜を浮かべた上院議員が不機嫌そうに言う。

「急用が出来てしまって、失礼するとのことです。」

「ふうむ、秘書だけでことを済まそうと言うのかね。」

予想が違ったようだ。

「いえ、お馴染みの女性を呼んでありますから。」

秘書が次室に続くドアを見やっている。

「昨日の電話で聞いたよ。」

しかも、その内容が尋常ではない。

だからこそ、秘書も連れずに呼び出しに応じたのである。

「しかし、十三歳の少女とはまずかったですなあ。」

「何が言いたい。」

「しかも、百ドルの約束で釣って置いて、実際払ったのは二十ドルだったと言うのでは救われませんからなあ。」

「夢でも見たんだろうよ。」

「女の排泄物まで口にされたそうですが、それも夢ですかな。」

「いい加減なことを言うな。」

「電話でも申し上げた通り、その件での証人なら他にもあると聞いとりますから。」

「・・・・。」

老人は凄まじい表情を見せた。

「何でも、ジェシカの友達だそうですよ。」

「要求を言え。」

膝の上の拳が小刻みに震えている。

「要求などと、飛んでもないことです。」

「じゃ、なんだ。」

「ただ政治家たるもの、常に正義を行うべきと思うのみです。」

正義が聞いて呆れるだろう。

「・・・。」

「では、当人をお呼びしましょう。」

秘書が立って次室のドアをノックするとジェシカが嬋娟たる姿を見せたのだが、全て打ち合わせ通りなのである。

老人は眼前に立ったジェシカをまじまじと見詰めていたが、明らかに見覚えがあると言う表情を浮かべており、その一部始終は秘書の背後に据えつけられた隠しカメラが全て捉えてしまっている。

「忘れちゃいないようね。」

ジェシカが艶然と微笑みながら言った。

「いくらだ、いくら欲しい。」

老人の様子は常軌を逸してしまっていると言って良いが、その言動は既に全てを認めたに等しい上に、それを記録すべくカメラが回ってしまっているのだ。

「あら、いただけるの、おカネ。」

「早く言え。」

「一億。」

「よし、口座を言え。」

「但し、秋津州円よ。」

「ぐ・・・。」

秋津州円での一億は一千億ドルに匹敵するのだから、到底無理な話だ。

「あはは、冗談よ。」

「・・・。」

老人は青くなったり赤くなったりで忙しい。

「お友達を紹介して欲しいのよ。」

「誰をだ。」

「市長。それと市警のヘッド。」

「何をする気だ。」

「優秀な警官を一人クビにしてやりたいだけよ。」

「何故だ。」

「かっぱらいで捕まったあたしを強姦したのよ。それも警察の中で。」

「ほんとうか。」

「そんときのあたしは十三になったばかりで、おまけに手錠掛けられてたのよ。そんなケダモノが今でものうのうと警官やってるとしたらどうなのよ。」

「立証出来るのか。」

「出来ないから口惜しいんじゃないの。」

「そうか、それでか。」

「年金が飛んでっちゃったことを、あたしの口から知らせてやりたいだけなのよ。」

「ほんとにそれだけでいいんだな。」

「お金払ってもいいわよ。」

「・・・。」

「但し、二十ドル。」

「ぐ・・・。」

「あはは。」

女は大口を開けて笑っていたのである。

「ところで、もう一人の証人とやらはどこにいる。」

「調べてもらったわ。」

「・・・。」

老人の顔には極限の緊張感が張り付いている。

「一昨年(おととし)の暴動で死んじゃってたわ。」

丹波に移住したあとの米国は、各地で暴動の嵐に見舞われていたのだ。

無論、それは米国だけにとどまらないが。

「そうか。」

「一緒に施設を逃げ出した仲だったけど、結局何一ついいことのない人生だったみたいね。」

ジェシカが、今天井を見上げている。

「・・・。」

「せめて、祈ってやってよ。」

「判った。」


同じホテルに一泊した女は、翌朝唐突な電話を受けることとなった。

電話の相手はアリゾナ州知事本人だと言い、面会を諾するやヘリで飛んで来たものらしく、一時間もしないうちに到着した上、初対面の挨拶もそこそこに切り出された用件がこれまた珍妙なものと言うほかは無い。

どうやら州発行の借用書の引き受け手を探しているらしく、秋津州財団ニューヨーク支部の存在を念頭に、しきりに国王との接点を求めて来ており、聞けば、年が明ければ州政府の支払いを全面的に停止せざるを得なくなるほどの苦境にあると言う。

その場合債権者にはカネの代わりに借用書を渡すことになると言うが、似たような財政危機など各州で既に起きてしまっている現実があり、そのくらいのことは無知な女にも判っていたのだから、知事の哀訴に応える術(すべ)を持たないでいるのである。

しかも、知事と入れ替わりにやって来たメサ市長などは、未だ救われていると言うではないか。

何しろこのメサ市は、連邦破産法第九条に基づいて公式に破綻した結果、高コスト体質を徹底的に改めることを得つつあると言うのだが、現実に眼前でしおれている市長の話は深刻と言うほかは無い。

実際その国は、景気後退から来る税収減を受け、積み重ねられたドルの増刷が際限も無いインフレーションを招いてしまっている上、凄まじいまでの高コストを背負った製造業などは、ビッグスリーの例を引くまでも無く、既にその多くが市場から淘汰されてしまっていて既に影も形も無いと言う。

急速にスラム化が進みつつある各地には失業者が溢れかえり、暴動が頻発してその犠牲者ばかりか大量の凍死者や餓死者まで出すに至っている上、軍事面で見ても、世界の海を支配していた筈の大海軍も既にその実態を失いつつあり、海外に設けた軍港一つとっても朝鮮半島のものを残すのみとなってしまっているこんにち、その展開を物理的に阻まれてしまっており、このネイヴィ出身の市長は、国防と治安を欠けば国家の存立は期し難いと言って嘆くのである。

全く情け無いことに、多数の大艦隊が予算不足でモスボール一つ受けることも出来ずに、各軍港に徒(いたずら)に浮かべられたまま、只々朽ちて行くのを待つばかりだと聞くに至っては、さすがの女の心情にも変化の兆しが訪れて当然だったろう。

(筆者註:モスボールとは、使用を中断した兵器を、再使用に考慮して劣化対策を施した上で保管して置くことを指すのだが、軍艦などに本格的な処理を施す場合、内部に隈なく窒素を充填して完全密閉を計るなど、その作業にはそれなりのコストを要求されることになる。)

何しろ、かつて勇猛果敢を謳われた海兵隊員が、目の前で薄い白髪(しらが)を振り乱しながら力説して已まないのである。

以前白頭鷲が手乗り文鳥になったと盛んに評されたことがあったが、今度はその手乗り文鳥までが今まさに餓死しようとしていると言って嘆き、聞き様によっては餌をくれる飼い主を求めていると見えなくも無いほどなのだから、少なくとも、祖国が眼前で滅亡の瀬戸際に立っていることだけは確実に実感出来たのだ。

その後の女は警察署長の挨拶にも笑顔で応え、問題の警察官の入室は拒んだまま、その悪行(あくぎょう)を小声で告げただけで唐突に面会を打ち切ることによって、訪客たちを茫然とさせてしまうのである。

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  1. 2009/01/21(水) 17:59:54|
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