日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 163

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年の瀬も押し詰まったある日、新田源一からローマ人に関するメッセージが発せられると聞き、局面が局面であったから、自然大きな波紋を呼ぶこととなり、勢い満場は固唾(かたず)をのんで主役の登場を待つ運びとなったのである。

やがて時が来て、熱い視線を浴びて登壇した新田は、用意のメモを淡々と読み上げて行く。

「ローマ人の移住先については、その国家意思の決定を待っているところだが、遺憾ながら今以てその報に接することが出来ない。従って、なお幾分の時間を要する前提で対応を考慮しているところである。」

当然、会場はざわめいた。

土竜庵の総帥が『国家意思』の決定を待っていると発言しているのであり、言い換えれば秋津州がかつての交戦相手を国家と看做していると宣言したに等しいだけに、何よりも先ず「国土」の問題を脳裏に浮かべる者が殆どだ。

いざ国家が存立しようとすれば必然的にそれを要し、経緯から見てそれは、十五歳の少女が胆沢城に所有すると言う噂の私有地に他ならない以上、僅か五百四十ヘクタールに過ぎないことになってしまう。

尤も、国土が狭小だからと言って、それだけで国際法上の正当性が問われるようなことは起こり得ず、ましてそれは地球時代のモナコ公国やバチカン市国の国土よりは確実に広いのだから、それはそれでいいとしても、新田の発言自体は現下の国際情勢から言っても軽いものとは言い得ず、とりわけ「国家承認」をポイントとする質問の嵐を浴びたが、発言の趣旨が揺らぐことはないまま会見が進行し、やがて彼等は思わぬ人物の登場を迎えることになった。

ビジネススーツに身を固めて登壇したその人物は、明晰な日本語で津田由紀枝と名乗りながらローマ帝国の広報担当官と紹介されたが、その実態は例の珠玉の三日間の最終日に皇帝の侍女に加えられた内の一人であり、しかもその発言は満足な枕一つ無しに一気に核心に入ったと言って良い。

彼女は、近代的な意味合いでと断った上でローマ帝国の国旗の件に触れ、その意匠のサンプルを提示して見せた上、秋津州の協力を得て各国当局へも既に公告を進めているとしたのである。

無論、金地に双頭の黒鷲であり、このようなシチュエーションで公表される以上、その意匠はほどなく世界で最も有名なものの一つになってしまうだろうが、それを国旗であるとしている以上、その国家の存在を公式に主張していることに通じるから、「建国宣言か。」と言う当然の質問が出たが、津田は「我が国は既に悠久の営みを続けて来ている国家でございます。」と応えて見せることを以て、改まった建国宣言など論外だと言う意思を強く滲ませるにとどめた。

詰まり、その国は大昔から存在しているのだから、今更建国宣言などする必要が無いと言ってることになり、ただ近代的な意味合いでの「国旗」を公表しているに過ぎないと言うことになる。

続いて、玉垣島南方の海上において、全長五百キロに迫る自国籍船を八雲の郷暦日の一月二日正午から就航させると言ったから、俄然会場が沸き立ち、その船についての質問が殺到するに及び、現在丹後の洋上にあるとするその「船影」が公開されたのだが、それが例の鯛焼き型の大島(だいとう)だったから尚更大騒ぎだ。

なんにせよ、船舶としては驚くほどの大きさである。

「甲板(かんぱん)」の広さが五万平方キロに達するとされ、事実なら地球時代の九州をはるかに超える面積であり、そのことだけでも途方も無い話だった上に、船影を捉えたとする映像には多数の山や川や湖があり、なかんずく相当規模の耕作地らしきものまで見えていて、船と呼ぶには程遠い代物だ。

拡大映像によれば、一応赤や青の航海灯まで具えているようだが、無論ものの役に立つとは思えない上に、鯛の頭にあたるあたりには円形の水路に囲まれた巨大な目玉まで付いており、そこなどは見事な原生林で覆われていることが窺えるほどで、どう見ても鯛焼きの格好をした自然の大島(だいとう)と言うほかは無い。

目玉の付近に巨大な秋津州国旗が翻っているのも、デスティネーションフラッグ(寄港先の国旗)のつもりなのだろうし、何よりも、尾鰭(おびれ)らしきところには金地に双頭の黒鷲旗が躍っていて、ローマ帝国の国籍を一際大声で主張している風情だが、それ無しに外洋に出て行けば、海賊船と看做されてしまっても文句を言えない国際環境が人類社会にはある。

また、船主(ふなぬし)は皇帝個人、船舶保険の引き受け手が大和商事の保険部門だとされた上、その予定航路の多くが秋津州の排他的経済水域であることから、秋津州当局が既往の海上交通管制域を大幅に拡大することによって、該当する一帯についても航行情報提供を行うと共に管制の任に就くと言う。

殊に該当日の前日の正午以降、その海域に接近する船舶には漏れなく水先案内人が乗船して航路の安全を期すことになると言い、その任に就く者だけでも五千を超える人数が準備中とされたが、さまざまの質疑が飛び交う過程で、津田は、その巨船にローマ人が大挙して「乗船」することまで窺わせており、取りも直さず、ローマ人がその船上で暮らす意思を示したことになるのだろうが、肝心の現地取材に関しては許可が下りる気配も無いことから、秋津州国王とその側近以外、いかなる外国人もその地へ足を踏み入れることが許されないと言う事態が延々と続くことに変わりは無いのである。

結局、国内の実情を公開して見せる意思が示されない以上、それは相も変わらず分厚いカーテンで目隠しをされたままだと言うことになり、諸外国の当局にとっても全く得体の知れない相手を、「国家」として承認するにはためらいがあって当然だろう。

何せ、一旦承認してしまえば、おいそれと取り消すことは許されないのだ。

だが、その「国」の広報官のスタンスに揺るぎはない。

今後は津田自身が六角庁舎に常駐することを以て、適宜(てきぎ)に会見を行う可能性を示唆してはいたものの、他の惑星に移住させられてしまうことについては一切の論評を控えたまま、やがて会見の幕が下ろされてしまうのである。


二千十三年の元旦、土竜庵では新田夫妻が訪客の訪れを今や遅しと待ち構えている。

何しろ、その訪客がそこの掘り炬燵で元旦の屠蘇(とそ)を寿ぐのは恒例のことになっており、その人は本来服喪中であるとは言うものの、その来訪については確認が取れていることもあって、初日の出の昇り切る前から準備を整えていたのだ。

おさなごたちは別室で安らかな寝息を立てている頃合だが、待ち人は宮島でのセレモニーを終えてやって来て、遅参を詫びながら気さくに箸を取ってくれようとしている。

「申し訳ありません。奥つ城(おくつき:墓所)の掃除をしておりまして、思わぬ遅参をしてしまいました。」

宮島には、一族の墓所があるのだ。

「丁度三ケ月でございますな。」

咲子とローズが米国の地で露と散ってから、ようやく三月(みつき)の時が流れようとしているのである。

「たった十八と二十(はたち)でございました。」

国王は杯を置いて天井を見上げている。

「実にさようでございましたなあ。」

「ここだから申し上げてしまいますが、戦(いくさ)の始末に目処(めど)が立った今、この胸の憤懣を何処にぶつけてよいやら途惑う毎日でございます。」

その人は奥歯を噛み締めるような表情を浮かべているが、要するに全て愚痴であり、この人の口からそれらしいことを耳にするのは初めてのことなのだ。

「お察し致します。」

「真人(まひと)の墓前では、つい死児(しじ)の齢(よわい)を数えてしまいました。お笑い下さい。」

その顔はひたすら淋しげである。

「笑うなどと、とんでもない。」

横で妻が涙を拭ってひっそりと合掌している。

「しかし、これでようやく準備が整いました。」

その人は、思い直したようにきっぱりと言い切った。

「ほう、丹後の方も終わりましたか。」

「はい、予定外のものまで取り揃えましたから、思いのほか手間取りはしましたが。」

「田中が騒いでた件ですな。」

「実際に役に立つかどうかは判りませんが、取り合えず全て用意だけはさせていただきました。」

「申し訳ありませんな。」

田中の粗雑な具申をご採用になったことになるのだ。

「いえ、田中君の仰せの趣もよくよく考えてみれば、成り行き次第では有効な手段になるやも知れません。」

「これはこれは・・・、あいつが聞いたらいっぺんに天狗になりますぞ。」

「尤も、一切が無駄に終わったとしても悔いはございません。」

「いえ、ご苦労を無駄に致さぬよう誓って最善を尽くす所存でございます。」

「・・・。」

国王は僅かに頬を崩しただけで何も言わない。

「しかし、大仕事だったでしょうに。」

「具体的な資料も窓の月に送らせてありますから、のちほどじっくりご検証下さい。」

「ありがとう存じます。」

「いえ。かえって気が紛れて助かりました。」

「それはそうと、ローマ人たちは大分同情を買っておりますな。」

「そのようですな。」

「殊に中露台などからは、ご意向を伺うべく何度も打診の連絡が入っておりますが。」

無論、ローマ帝国の承認に関する魔王のご意向をである。

「・・・・。」

「彼らも必死なのでしょうが。」

「・・・。」

国王は無言のまま杯を干したが、その視線の先は何処か遠くに向かっているようだ。

「いずれに致しましても、全て順調に運んでおりますようで。」

「一寸先は闇と申しますから。」

「早速、国井総理との直接会談をセット致しましょう。」

今後のことに関しては、当然ながら日秋両国間で細部を詰めて置く必要が無いわけではないのである。

「いえ、わたくしの意とするところは既にあなたや岡部氏に充分ご理解を願ってる筈ですから、どうぞよろしいようにお運びを願います。」

少なくとも、日秋共同作業については全権を委譲されたことにはなるのだろう。

「承知しました。岡部もさぞ張り切ることでございましょう。」

余談だが、この頃の岡部夫人は既に日本への帰化を果たし、米国籍からは公式に離脱してしまっている。

「なにごとも、相手のある話しでございますから。」

「そこのところは、心得ておるつもりです。」

「これは、失礼を申し上げました。」

「いえいえ、とんでもない。ところで、件(くだん)の若狭の工事の方は如何でしょう。」

無論若狭とは新たに領有なさった惑星の名前だが、そこで行われている壮大な工事のことを指しての質問であり、かつて実見して来たこともあって、単なる話の接ぎ穂としてでは無く本心から興味深い話柄であったのだ。

「遅くも今月いっぱいには目処が立つ状況です。」

「では、それも予定通りの進捗状況と言っても差し支えはございませんな。」

「現地に土竜庵を作りましたので、近々にもご招待申し上げるつもりでおります。」

「ほほう、囲炉裏を囲んで一杯やれそうなお話ですな。」

「現地の地酒も来年には飲めるようになるでしょう。」

和やかな歓談が続く中、国王は居住まいを正した。

「そろそろ、おいとまを頂戴したいのですが、奥さん、恐縮ですが味噌汁をいっぱい頂戴できませんか。」

「あら、すぐにお持ち致しますわ。」

細君が素っ飛んで行って汁椀を捧げて来る。

「ううむ、やはり奥さんの味噌汁は最高ですなあ。」

国王はお椀を片手に嬉しそうに目を細めている。

「あら、お喜びいただけてとてもうれしゅうございますわ。」

細君も実に嬉しそうな表情だが、亭主の方は又しても固い話に戻ろうとする。

「ところで、馬酔木の湖(あしびのうみ)の埋め立て工事の方は、どのようなご日程をお考えでしょうか。」

例の奥津日子(おきつひこ)の移設工事の話なのである。

「準備は悉皆(しっかい)出来ておりますので、これもオレンジプランの成り行き次第でタイミングを考慮すべきものと考えております。」

少なくとも、そのプランの障害になってしまう事だけは避けようとの意味なのか、或いは又その進捗を後押しすることを願ってのご発言なのか、恐らくその両方であったに違いない。

「なるほど、全てオレンジプランの進捗如何にかかっていると仰るわけですな。」

「ある程度見通しが立った時点で、国井総理には改めてご挨拶させていただくつもりでおりますので、くれぐれもよろしくとお伝え置き願います。」

国王は、いつもより早めに杯を置いて飄然と去った。

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  1. 2009/02/04(水) 09:41:57|
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