日本大好きじいさんの落書き帳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告|
  3. トラックバック(-)|
  4. コメント(-)

自立国家の建設 164

 ◆ 目次ページに戻る

見送りを終えて掘り炬燵に戻ると、妻の方は一際深刻そうな顔色だ。

「やっぱり元気無いみたいねえ。お酒もすすまないみたいだし。」

「俺は、オトコとして一皮剥けたと見るけどな。」

苦難を乗り越えて一段と成長したと見るのである。

「男って、これだから駄目なのよねえ。」

妻はこっちの目の奥を覗き込むようにしながら、まともに浴びせかけてくるが、我が妻ながらその表情は常に千変万化して実に美しい。

子供を二人も産み、しかも三十七歳の今になってなお、かつてのミス外務省の容貌は依然衰えを見せず、惚れた欲目とは言いながら非の打ち所が無いと言って良いほどだ。

「何がだ。」

「だって、あなた、副交感神経の機能不全の疑いがあるって言ってたじゃない。」

国王の健康状態の話なのである。

「こら、それを口にするんじゃない。」

「バカねえ、よそで話す筈無いじゃない。中途半端にみどりさんの耳に入ったりしたらそれこそことだわよ。」

「ワシントンの耳に入れば国益が損なわれる。」

この場合の国益の意味は単純なものとは言い難いが、それもこれも、新田の胸中で日秋両国の国益が渾然一体のものとなってしまっているからに他ならないのだ。

「みどりさんに隠し続けるわけにも行かないし・・・。」

「最近は体調も悪くないみたいだからな。」

ヤマトサロンの主宰者たるその人物は、王家を襲った大いなる不幸の後、衝撃のあまり体調を崩して入院さえしていたのだが、幸いにも大事には至らず無事に退院を果たした上、近頃では稼業に精を出していると耳にしているのである。

「今日は来れるみたいだから、ちゃんと話しとかなくちゃ。」

午後からは恒例の賀詞交歓会が形を変えて催される予定だが、その後の時間帯にはサロンの顔合わせ総会のようなものがある筈だ。

「判ってるとは思うが、くれぐれも外へは漏れないようにな。」

「無理でしょうね。」

「みどりママに国益を説いてもしようがないか。」

「そうでもないわよ。陛下が迷惑するって言えば判ってはくれるわ。」

「判ってはもらえても、大声で突撃しちゃうからなあ。」

典型的な直情径行型なのである。

「それが人情ってもんよ。」

「何せ、裏も表も無い人だもんな。」

苦笑するよりほかは無い。

「人情に篤いって言ってもらいたいわね。」

「判った、判った。」

「確か、ことの起こりは岡部さんが秋元女史から聞いた話だったわよね。」

無論、国王の健康問題にかかわる一件のことである。

「うん、宇宙空間での活動が長期化しちゃった結果、ホルモンのバランスが微妙に崩れてるらしい。」

過酷な戦時体制が一年近く続いてしまったことは確かだが、かと言って生身の体である以上、少々の体調不良ぐらい誰にでも起きがちなことであって、そこまで大騒ぎするほどのこととも思えない。

まして、自分や岡部が密かに危惧していたものと比べればまだしもなのである。

「あら、ダイアンから聞いた話だと、ちょっと違うみたいよ。」

「何処が違うんだ。」

「ううん、うまく言えないんだけど、要するにあれよ。」

「あれか。」

例によって例の通りだから、すぐにぴんときた。

「うん、男のあれよ。」

「要するに、おまえらがいつも問題にする、あっちの方が淡白過ぎるって言う件だよな。」

「そ、陛下はそれを無理矢理抑え付けてらっしゃって、そのことが災いして、ホルモンのバランスを崩しちゃってるんだって。」

「秋元女史がそう言ってるのか。」

女帝は十数人の配下を引き連れたまま絶えず総理官邸に詰めてくれているが、配下共々その身分は民間のボランティアのままであり、内閣官房戦略管制室次長岡部大樹の私設秘書の建前を採る以上人事院の監査対象にも含まれず、その意味では極めて異質な存在だと言うほかはないが、果たしつつある任務はと言えば無論尋常なものではない。

「らしいわ。」

「ほんとかな、それ。」

そんなことってあるのかい。

「あたしは信じる。」

「じゃ、なんだ、陛下が女の尻を追い回すようになれば治るって言うのか。」

「うん。」

「ふうむ。」

「ここ一年、忙し過ぎたのよ。」

「じゃ、今後は体があくようんなるから解消するだろ。」

「バカねえ、あの方の性格なのよ。暇んなったからって解決する問題じゃないわ。」

「おまえ、言ってることが無茶苦茶だとは思わねえか。」

「あはは、ほんと。」

「いい加減、ほっといてやれよ。」

「ほっとけないわよ。」

「じゃ、どうするって言うんだ。」

「ううん、難しいわよねえ。」

「あはは、やっぱり手がねえんじゃねえか。」

「よしっ、本気で考えてみるか。」

「こら、余計なことするんじゃねえぞ。にきび面(づら)の中学生じゃねえんだからな。」

現にその人は、去年の九月に満二十七歳の誕生日を迎え、とうに堂々たる成年の域に達している筈なのである。

「あら、余計なことかしら。」

「ま、おまえが陛下の為にならんことをするとも思えんが。」

「当たり前じゃないの。バカにしないでよ。」

「あはは。」

「笑ってる場合じゃないでしょ。」

「それもそうだ。」

「ううん・・・・、あのご様子だと、咲子ちゃんたちのご不幸がよほどこたえてらっしゃるみたいだし。」

「未だ三ヶ月しか経ってねえんだぞ。」

「判ってるわよ。」

「それに、お姫たちは結局バージンのままで終わっちゃったんだろ。」

「うん・・・・。」

改めて涙を拭っている。

「陛下は特別義理堅いからなあ。」

「バカ、義理の問題じゃないでしょ。」

濡れた目を吊り上げて許すまじき剣幕なのだ。

「あ、悪かったよ。」

「まったくっ・・・・、無神経なんだからっ・・・・。」

「・・・。」

「人の情(じょう)ってものが判らないのっ。」

「いや、だって・・・、世の中には女の尻を追っ掛けまわさないオトコだっていないわけじゃねえだろう。」

失言を取り返すためには軌道修正が必要だ。

「程度の問題よ。」

「あ・・・、うん。」

「とにかく、ストイック過ぎるのよ。」

「それは認めるよ。」

「田中君に言って、夜遊びに誘ってもらおうかしら。」

「こら、田中んところはまるっきりの新婚だぞ。」

「あら、佐和子ちゃんに泣かれちゃうわよね。」

佐和子は田中夫人の名前である。

「まったく・・・、そんなことばかり考えてると疲れちゃうぞ。」

「そんなことって・・・、大事なことよ。」

「いや・・・、大事じゃないとは言ってねえよ。」

「あなたは言葉の使い方が雑なのよ。」

「うんうん、判った。それとな、田中は今忙しい最中だからな。」

「そうらしいわね。」

「知ってたか。」

「だって、毎日遅くまでデスクにかじりついてるって聞いたわよ。」

「近頃じゃあ別件だってあるんだ。」

「へええ。」

「なんでも、例のダンサーからご指名の電話があったらしいぜ。」

「なんだってえ・・・、あの野郎、もう浮気しようってのかあ。」

妻は噴火寸前だ。

どうやら、表現方法を間違えてしまったらしい。

「待て、待て、慌てんな。」

「なによ。」

「そうじゃあねえんだ、あっちは数少ない顔馴染みのあいつを拝み倒して、何とか言う上院議員を引き合わせたいんだとよ。」

陛下のお供とは言え、何度もベリーダンスを見に行っていたのは田中ぐらいのものなのである。

「なに、それ。」

「議員外交を望んでるに決まってるだろうが。」

「へええ・・・。」

「それでな、一度顔合わせをさせてみたんだが、どうもこれがツボにはまってきてるんだよ。」

その相手と顔合わせをさせてみたところ、思惑通りにことが運んでいると言う。

「だって、田中君は未だぺえぺえなのよ。」

「うん、だから、少々無責任なことを口走っちゃっても、あとで何とでもなるんだ。」

「向こうは、もっと上の相手と話ししたいんでしょ。」

「そら、そうだ。だけど、こっちは田中しか出さねえ。」

「会いたいって泣き付いて来てるのはあっちの方だもんね。」

藁(わら)にも縋る想いでいるのだろう。

「会えば、向こうはいろいろと泣き言を並べるわな。」

「ふんふん。」

「田中もにこにこしながら、優しく聞いてやるのよ。」

「聞いてやるだけなのね。」

「匂いぐらいは嗅がせてやることになるだろうな。」

「どうせ、うしろで糸を引いてるのはあんたなんでしょ。」

「んにゃ、オレより相葉さんと岡部だ。」

相葉幸太郎は言わずと知れた前内閣官房副長官だが、現在は前職を離れ、総理特使としてプロジェクトAティームの総指揮を採っており、以前と比べればかなり自由度の高い動きを見せるに至っているのだ。

「じゃ、総理もご存知なのね。」

「知らねえことになってらあ。」

「そっか。」

「それにな。田中たちは元々とんでもなくでかい仕事に入ってるんだ。」

「へええ・・・。」

「以前な・・・。」

「うん。」

「以前、日本人が全員秋桜島で暮らさざるを得なくなっちゃうケースを想定してたことがあったろう。」

「あ、丹波の新領土の分割の話で収まりがつかなくなっちゃってた頃の話ね。」

地球から脱出するにあたって、各国間のせめぎあいが激化してそれぞれの行き場が定まらなかったのだ。

「そうだ。そんときに、新規に建国する予定だった秋桜国の法体系とか税制とか、大騒ぎで造ってたことは知ってるよな。」

新国家の制度設計だったのだから、それはそれで膨大な作業だったのである。

「なに言ってんのよ、あたしだっていっしょけんめいだったんだから。」

「そう言やあ、そうだったな。」

「まったく・・・、人のことをお茶汲みかなんかだと思ってんだから。」

「うん、まあ、それはそれとしてだなあ。そんときの案が改めて再浮上して来てるんだ。」

「あ、チラッと聞いた。日本の社会制度を全部ご破算にして作り直す考えがあるって・・・。」

「そうだ、そのために新しい枠組みを用意しなきゃならなくなったんだが、俺たちの作ってあったモデルをベースに今大忙しでやっつけてるんだよ。既存の国際条約との整合性であっちゃこっちゃ引っ掛かっちゃってはいるけどな。」

「へええ、じゃ、今になってあれが役に立ったんだ。」

「役に立ったどころか、殆どあれの焼き直しだ。」

「あらまあ・・・。」

「どっちへ転んでも、このまま行けば驚天動地の大変革になっちゃうだろうよ。」

この場合の「どっちへ転んでも」は、その制度案が枝葉末節において大幅に書き直されたとしても、と言う意味なのである。

「第二の維新だって聞いたけど。」

「秋桜維新とか呼んでるヤツもいるようだが、ま、革命的であることに違いはねえ。」

国家のグランドデザインが大幅に書き直されることになる以上、悲喜交々の大騒動が勃発することは避けられまい。

「ちょっと待ってよ。ええと確かあのときの案じゃ憲法は作らないわ、国会は一院制だわ、とにかくかなり大胆な案を作ってたわよねえ。」

「中途半端な憲法なら、いっそ無いほうがいいのさ。」

「じゃ、実現したら、日本に憲法はなくなっちゃうんだ。」

「別に不自由はねえだろう。」

「そういや、イギリスなんかも憲法ないのよね。」

「どうしても憲法が欲しいって言うんなら、あとからじっくり作りゃいい。新規に作るんなら、いつだって作れらあ。」

「憲法制定の手続き規定だけは、ちゃんと作っといたものね。」

「うん。」

「いろんな法律もけっこう簡素化しちゃったわよね。」

「当然だろ。」

「今から思えば、随分忙しい想いさせられたもんね。」

「あんときゃあ、日本人の生き残りのためにみんな必死だったものなあ。」

陛下の直轄領の中に緊急の避難場所を定め、必死の想いで最悪の事態に備えていたのである。

 ◆ 目次ページに戻る

  1. 2009/02/11(水) 00:37:17|
  2. 妄想小説 主権国家|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:0
前のページ 次のページ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。