日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 017

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かくして二千四年九月十三日の朝は来た。

若者は新装成った内務省ビルの最上階で目覚めを迎え、瞬時に覚醒すると同時に受信用に自らのポートを開いた。

睡眠中の情報を京子から受け取り、状況を咀嚼し、己れの政略に照らし、新たなほころびが生じてはいないことを確認しているのである。

その後手馴れた手順で身仕舞いを終えた若者は、おもむろに東側の部屋に進みゆったりと窓際に立ったが、その口元は厳しく引き結ばれ、開け放った窓から未だ明けやらぬ東の空を望んで身じろぎ一つしない。

若者は、今まさに新しい歴史の扉をその手でこじ開けようとしているのかも知れない。

大東亜戦争の停戦以来、いわゆる連合国の手になる支配体制が固定化してより、既に六十年もの歳月を経ているにもかかわらず、奇妙なことに、今以てそのことが続いて来ているのである。

この目立って陳腐な枠組みが、今日を境に明らかに変わることだけは揺るがない。

何となれば、その枠組みが成立した理由が戦争に勝利したことにのみ因っているからであり、その枠組みが今以て続いている以上、勝利者の論理に因って新たな枠組みを成立させることが、今もなお厳然たる正義と見なされているからでもある。

状況から見て若者が負けることはあり得ず、若者自身がどこまで認識しているかはさて置き、結局のところ、世界の枠組みを云々すべき勝利者が交代してしまう可能性は限りなく大きい。

だが現実の若者は遥か東の果てを望みながら、只々その責を果たすべく懸命に政略を練っているに過ぎず、その視線の先では、常と変わらぬ団々とした日輪がゆらゆらと立ち昇って来て、逞しい半身を照らしてくれている。

濃い眉の下で目を細めながら過ぎ去りし日々を想う。

思えば、確かに幾つかの手違いはあった。

その手違いを乗り越え、父祖代々の望みを果たすべき日がやっと到来したことを想うのである。

たった一人の一族であった姉の勝子に見守られながらわずか八歳で即位し、一族の復活だけを幼い胸に誓い、暴虐な異星人の侵攻を凌いで来た過去の道筋を想っている。

耐えに耐え、ひたすら時間を稼ぎ、今日の日を迎えたのだ。

国土の外周一帯に鉄壁の防衛線を張り終えた今、海底の人工融合の残滓を発見される恐れもまずあるまい。

ならばこそ誰に遠慮をすることも無く、「いかなる国からも侮りを受けることのない、ごく普通の国家」を打ち立てようとしているだけなのだ。

そう、これこそが王の望む「実質的な主権国家」の概念であり、その存在なくして、一族の安穏な生活など有り得よう筈も無い。

秋津州人を守ることの出来るものは、唯一「秋津州国」と言う国家機構だけである以上、それを守り切ることが、若者にとっての厳然たる行動規範であり、その想いだけは微動だにしないのである。

振り向くと、居室の壁際には、王の朝食を整え終えた三人の侍女が控えていた。

そのいずれもが、身の丈百八十センチほどもある腰高な体型と白磁の肌の持ち主ばかりだ。

全て新たに配備されて来たものたちで、それぞれのボディはマザーの渾身の力作だと言うが、王家の種子を得ると言う目的のために、不遜にも神の造形の極致にまで踏み込もうとしたものか、以前、「侍女のボディについて一工夫をするので、いましばらくの猶予が欲しい。」と言っていたことが思い起こされて、さすがの若者も苦笑せざるを得ない。

マザーは、まさに至高の美術品と言って良いほどのものを仕上げて来たことにはなるのだろうが、それも、あろうことか言わば出陣の直前に当たってである。

現に、NBSの一部に、この長い黒髪と引き込まれるような黒い瞳を持つ乙女たちと言葉を交わし、取材まで行った者がいるらしく、殊に若い男性クルーの間に、王の荘園からやってきたと言う美しい天使たちの写真が出回り、時ならぬ話題を提供しているらしいが、少年王の目下の関心は当然ながらそこには無い。

その思索の下敷きに巨大なユーラシア大陸の地図を描きながら、一人黙々と咀嚼し、ときに箸を止めて目を閉じているのは、その政略の最後の点検をしているに過ぎない。

未だ十八歳でしかない若者は、一人の幕僚も持たされること無く、この戦争指導の全てを、たった一人で進めていかなければならないからだ。

マザーの手元に避難させてある一族の者達は全て幼童ばかりであり、一族の長老でもある己れ自身の打つ手にもし誤りがあれば、一族の全ての未来が閉ざされてしまうかも知れず、少年は、一心に瑕疵の無い思索を層々と組み上げながら箸をとっている。

このとき、靴音が響き足早に入って来た者があった。

近衛軍司令官、准将井上甚三郎だ。

腰の長剣を鳴らしながら御前へ進み、踵を揃えて敬礼をする。

穏やかな表情を持つこの親衛隊長は、三十二名の配下を率いて長らく王の身辺を守り続けて来た者で、年のころは二十代後半ぐらいのものか、百七十センチほどのごく標準的なボディを以て王に付き従って来ており、ここしばらくは対外的な配慮からその存在が伏せられて来たが、いよいよ本格的開戦を迎え最早その必要も無くなり、マザーの手元から離れ通常任務に戻っただけの話ではある。

なお、この特別な三十三体は会話能力と共に全て固有の名称を持つ。

「陛下、お時間です。」

「おう、甚三(じんざ)参ったか。」

少年は、この謹直な護衛官の顔を見て、いかにも嬉しそうだ。

ヒューマノイドとは言いながら、井上は若者の全戦闘に参加して来たと言う特異な経歴を有している。

「お供いたします。」

「しばらく、待て。」

「はっ。」

石のように佇立する忠実な護衛を待たせ、残りの朝飯を掻き込んでいる姿は、いまだ少年のそれであったが、程なくして王は侍女の奉げる短か目の指揮刀を吊り、甚三郎を伴って表へ出た。

内務省正面のグラウンドには、戦闘用の漆黒のSS六が朝日を照り返してまばゆく輝いており、三十二名の近衛兵が堵列して迎える中、ゆったりとした足取りを以て搭乗して行く。

秋津州軍の中でも際立って優れた反応速度と会話能力を兼ね備えているのは、この近衛軍だけであり、飛行機能は持ちあわせてはいないが、その代わりとして、飛行を可能とする乗り物がさまざまに与えられてその任に就く。

それは、いま王の座乗する言わば旗艦とも言うべきものに搭載され、王や近衛兵の手足となるときを今や遅しと待っているのだが、実は、この旗艦には同一の装備を持つ姉妹艦が、常道通りもう一艦用意されていて無論互いに連携しており、当然、近衛兵の乗り物も二セット存在し、王は作戦指導中のほとんどをこのどちらかで過ごす事になる筈だ。

なお、王は出陣にあたり、内務省を通じて新たな声明を発している。

「このたび局外中立を通告してきた台湾、チベット、東トルキスタン共和国については、我が国に敵対する意思の無いことを信ずる。」

「また、これ等の三つの地域がそれぞれ独立国家たりうべきかどうかは、その地域の本来の民が自ら決すべき事柄であり、断じて我らが言及すべきことでは無い。」

秋津州国王は自国に敵対しない者の民族自決権には、一切容喙しないと宣言していることになり、この重大声明もほぼ一瞬で世界に喧伝され、やがて大きな波紋を広げて行く。


ついに、予め宣言しておいた時刻零七零零が来た。

王は先ず、全世界に対する攻撃準備態勢を命じ、陸海空全てにわたってその態勢が整ったことを確認する。

全世界の主要な兵器類の捕捉だけは、大分前に完了していた筈なのだ。

陸上ではD二とG四のみがその任務に就き、海中ではそれに加えてベイダイン装備の輜重部隊が、それこそありとあらゆる艦艇に張り付いており、軍港内の艦艇であろうと、北極海の深海の戦略原潜であろうとその例外では有り得ない。

ドック入りしている船や、宙空にある衛星にさえ漏れなくG四が張り付き、歯向かうものがあれば、例えそれが世界の全てであろうと、即座に牙を剥く用意を整えたことになるのである。

その上で、怒涛の反攻作戦が始まった。

敵地の軍事施設の中で、復旧作業が続けられているものには容赦の無い三度目の攻撃が行われ、地上からの迎撃が一切無いままに、それこそ雲霞のようなSS六が中国東北部の上空に姿を現した。

この大編隊は、それまではるかな高高度で待機していたものと見え、次々と舞い降りてくる。

その中には複数のカメラを備えた銀色の機体が百機以上も混じっており、無論各国のメディアが手ぐすねを引いて乗り込んでいた筈だ。

若獅子は、膨大なカメラを前に、たてがみを振り立てて牙を剥いて見せたことになる。

先ず、二個師団に限って地上に投入した。

二個師団と言っても、これだけで既に二兆を超えようかと言う大軍団だ。

次々と、そして整然と女性兵士が舞い降りて行き、ほんの数分の間に、想像を絶する大軍が旧満州の全土を覆いつくし、微弱な抵抗をみるみるうちに制圧して行く。

事前に加えた三次に亘る攻撃で、要塞も軍用機器類も全て壊滅してしまっており、迎撃すべき戦闘機どころか、戦車一両、野砲一門残されてはいない。

これでは敵兵の士気も揚がりようが無かったであろう。

世にも哀れな兵士達の目に映ったのは、天を覆って来襲した無数の敵機であり、噂に聞く怪力無双の空飛ぶ兵士達だ。

自然、その抵抗もか細いものにならざるを得ない。

また、注目の的であった秋津州兵士の戦闘能力が、初めて実戦に登場したことにより、その一部がベールを脱ぐことになった。

まず、通常の機関銃の至近弾や足元で炸裂する手榴弾程度の威力では、外見上多少の傷が残る程度で、基本的な機能には全く影響は無いようだ。

重火器からの被弾については、その実例を見ることが無くさぞや各国当局を落胆させたことだろう。

装備している小型の銃は不思議なことにトリガーを持たず、各兵士の体内から発信されるある種のパルスによって、初めて発射機能が働くもので、仮にこの銃器を敵が奪ったとしても使用することは出来ない。

また、そこから発射されるのは銃弾ではなく肉眼では見えにくい光線のようなもので、それも二千メートル以上の有効射程を有するらしく、目撃談によると、二千メートルほどの距離から分厚いセメントの壁を大きく穿ち、その強大な威力も充分に証明して見せたのである。

だが、この変わった銃の使用場面はほとんど見られず、かすかな抵抗も、多くの場合D二とG四の一瞬の一撃で止んでしまう。

兵士自身が数千メートルもの距離を数秒で飛行し、一瞬で接近戦に持ち込み、複数の敵兵をその四肢だけで苦も無く倒すパワーを持つことも明らかになった。

投降兵の武装解除はその場で行われ、大量の捕虜が直ちに無条件で解放されてもいる。

無言の女性兵士は、武器を接収して破壊するだけなのだ。

敵兵が投降する前に隠匿した武器類も、D二とG四によって全てが捕捉され即座に破壊される運命であり、しかも捕虜の無条件解放は、「戦闘意欲を持つものなら、何度でも反撃しておいでなさい。」と言っているようなものなのだが、実際にはそういうことはほとんど起こらなかった。

それと言うのも、秋津州軍は広大な敵地を点や線としてでは無く、文字通り面として占領してしまっており、指揮系統も寸断されてしまった烏合の衆が、ろくな装備も持たずに反撃しようにも結局何も出来はしないのである。

その後も数個師団が投入され、次々と舞い降りる兵士達は満州の野を怒涛のごとく埋め尽くし、その戦陣の北端は早くも中露国境に迫る勢いを示している。

但し、あくまで国境線を越えることは無いのだが、国境の彼方に集結しつつあるロシア軍を、痛烈に圧迫し続けていることに変わりは無い。

荒れ狂う獅子が、北に向かって凄まじい咆哮を上げたことになるであろう。

無論それは遠くモスクワにまで届き、クレムリンを震撼させた筈だ。

既にロシア軍のMiG-二十九やSu-二十七がスクランブル発進しているが、そのことも、それぞれの基地に張り付いているD二とG四の報告で鮮明に掴んでおり、その第一波が、そろそろ国境線に近づきつつあるのだ。

当然、敵機の全てに複数のD二とG四が余裕を以て張り付いている。


なお、この若き司令官には隠された意図があった。

ちなみに、秋津州の建国に冷淡なスタンスをとる国の中で最大の軍事大国がロシアであり、秋津州の承認なぞする筈も無い。

このルーシーの国にとって、秋津州はこの世に存在しないことになっているのだ。

若者にして見れば、およその国情は掴んでいるにせよ、ことのついでに、その対応振りも小当たりに当たっておきたい。

先ず、その国境線を痛烈に圧迫して見せることによって、相手の出方を見ることが出来る。

相手が反応しなければ、取りも直さず秋津州軍に屈服したことになる。

存在しない筈の秋津州軍に屈服したことにされてしまうのである。

少なくとも、世界はそう見る。

その屈辱や恐怖に耐えきれずに手を出してくれれば、これ幸いとほんのついでに叩いてしまう。

後患の憂いを失くすためにも、徹底的に、それこそ完膚なきまでに叩きのめしてしまう。

一旦火蓋を切った以上、全地球規模の戦闘をいとも軽々と行い、その全てを楽々と占領してしまえるほどの恐るべき軍事力の存在を、はっきりと見せ付けておく必要があるのだ。

しかも、SS六改のほとんどが戦場の空に在って、その全てのカメラがこの光景を捉えている。

獅子の咆哮を存分に捉えるがいい。

かと言って若者は、領土など全く欲っしてはいないのだ。

二度と秋津州に刃を向けるものがいなくなれば、それだけで良いのである。

ましてや下手に深入りして、その尻拭いに手間取るような愚は絶対に犯したくは無い。

王にとっての最大の懸念は、やはり敵の核攻撃だ。

先制攻撃が許されれば全ての対応が数秒で済んでしまうのだが、この場合、まさかそういうわけにもいかない。

仮想敵国に対し、当方から先制攻撃を行ったことには絶対にしたくないのである。

どちらが先に撃ったのかは、世界の世論にその判断を委ねたい。

所詮、各国の政府当局など自国に都合のいいことしか言わないからだ。

そのためにこそ、各国メディアを優遇し絶好の砂被り席を提供してもいる。

単に核ミサイルから国土を守るだけであれば、ことは簡単だ。

ミサイルの発射装置の全てには、とうにD二とG四を張り付かせており、敵が発射した瞬間に、発射装置もミサイルも破壊してしまうことはいともたやすい。

だが、自国領土だけを守っても、地球と言う天体自体がひどく汚染されてしまう恐れがあり、陸地のみならず、海や空が大量に汚染されてしまえば、それこそ元も子も無くなってしまのだ。

核爆発そのものは何としてでも阻止したい。

したがって、核ミサイルが一万発発射されれば、一万発に対応しなければならないのだ。

次の懸念は、ロシアと言う国がその軍事的国境線が明らかでないことにある。

ソ連崩壊後の現在でも不徹底ながら連邦制を敷いており、軍事境界線などに至っては更に曖昧なままになっている上に、カリーニングラードのような立ち枯れた飛び地領まで存在し、包含するさまざまな特殊事情を全て織り込まなくてはならない。

若者は、前線の指揮官であると同時に国家元首でもあるのだ。

前線の指揮官としての王は、今、万全の態勢で第一波のミグを待ち構えており、そのあとには、Su-二十七の編隊が続いていることも充分に承知している。

我が方のSS六の先頭の位置は、国境線より二十キロ以上も手前ではあるが、王の座乗艦も報道陣のチャーター機も、全て高度一千メートル以下で静止しており、敵機からすれば絶好の標的となってしまうに違いない。

敵機に張り付いているD二とG四からは刻々と情報が入り、ターゲットが最短距離で進んで来ていることを伝えて来ており、そろそろ旗艦のモニタに現れる筈なのだ。

固唾を飲んで見つめる内、モニタの中に遂に見えた。

国境の彼方にぽつりと現れたかすかな点が、みるみるうちに接近して来る。

そして次の瞬間、四十機ほどのミグの編隊が、あっという間に国境を越えながら問答無用で撃ってきた。

R-二十七R一セミアクティブレーダー誘導空対空ミサイル六発が発射され、その直後十発以上のR-六十MK赤外線誘導空対空ミサイルがそれを追いかけてくる。

この明らかな先制攻撃を、報道陣のカメラが充分に捉えた筈であり、この直後から世界に流れる報道映像も、明らかにそれを認めるに違いない。

先頭のミグが撃った瞬間、幸運にもロシアは若者にとって明らかな敵国となったのだ。

若者は、この新たな敵国に対する攻撃命令を瞬時に発した。

その結果、敵機の撃ったミサイルは勿論、敵機そのものまでが全て空中で霧散してしまい、ただの一発も届いて来ない。

一瞬肝を冷やした報道陣も、これには驚いているだろう。

視界の中のロシア軍機は全て消滅し、あとに続いていたSu-二十七の編隊などは、報道陣の視界に入る前に一瞬にして消滅してしまったのである。

懸念の一つは去った。

全く幸運にも、敵は核攻撃をする前にその旗幟を明らかにしてくれたのだ。

既に発せられた攻撃命令は、素晴らしいスピードで末端まで逓伝されて行き、敵の潜水艦の発射管は数秒で接着され、海上の敵艦艇の艦底には複数の大穴が開けられ、あっさりと沈んでしまうことになる。

同時に、衛星や陸地の軍事施設に貼り付けてあったD二とG四がそれこそ余裕をもって任務を果たし、ロシア軍は何が起きたのかも分からずに沈黙してしまった。

王は第六兵団麾下の六十四個軍団の内、一個軍団(五百十二個師団)をロシア方面に配備しており、それは、機外に出て稼動する兵員だけでもおよそ五百五十兆もの大兵力なのである。

同時に、それとは別の一個軍団がとうに中朝戦線に振り向けられており、既にそれは有り余るほどの戦力と言って良い。

何せ、敵の兵装はいずれにおいても、とうに脆弱なものしか残っていないのである。

朝鮮半島の三十八度線以北などは、山岳地帯だろうが平地だろうが全て女性型兵士が埋め尽くし、徹底的な武装解除が進行中であり、間も無く完全に沈黙してしまうことだろう。

常備八個兵団のうちの第六兵団のみが動員され、その第六兵団六十四個軍団の内、二個軍団だけが中朝露の侵攻作戦に投入されたのだ。

第六兵団は、一部を秋津州本国に振り向けているとは言え、未だ六十二個軍団と言う膨大な予備兵力を持っていることになる。

無論、そのほかにも別働の情報収集部隊と輜重部隊まで麾下に加えており、若者は、これほどの軍事力を背景に、戦争と言う名の外交を推し進めている心算なのだ。

この圧倒的内容を改めて公開して見せることによって、周辺国に対しても自然にその行動を抑制させたい。

同時に、報道陣が津波のように発信する情報が、秋津州の正義を強力に補強してくれるようさまざまに誘導して行かなければならない。

ただ単に、眼前の敵地を闇雲に蹂躙し尽くしただけでは事は済まないのである。

とうに占領が完了したカリーニングラードについて、ドイツ政府が抗議声明を発し、十五分後には出したばかりの抗議声明を、慌てふためいて撤回するなど混乱を極めている。

この抗議声明に、秋津州側が過敏に反応して来る可能性を重く見ての措置であったろう。

秋津州には、壮大な軍事力があると言う。

公表された通りであれば、その中の一個兵団だけで五百五十兆×六十四を超える兵力であり、挙句、それが八個も常備されていることになってしまう。

万一、現に戦闘中の秋津州軍がこの抗議声明を敵対行為と看做して侵攻してくれば、ロシアの事例から見てもごく短時間で本国領土まで失ってしまう公算が高い。

もっとも、このロシア領カリーニングラードの占領について、ドイツ政府が抗議してくる根拠は、あると言えばある。

そこは、ほんの半世紀前まで七百年の長きにわたってドイツが支配していた東プロイセンの北半分なのである。

ドイツ政府の言い分も判らなくは無い。

ところが、秋津州軍はこのカリーニングラードとよく似たケースの北方四島には未だに一兵も入れていない。

ただ、雲霞のようなD二とG四による攻撃を以って、ロシア軍の軍事施設を全て沈黙させただけなのだ。

日本にとって都合の良い解釈をすれば、北方四島は日本領だと秋津州軍が宣言してくれていることになるであろう。

やがて対露間においても戦争状態に入ったことが内務省から発表されたときには、所謂北方四島を除くロシア全土の実質的占領が完了してしまっており、あとは、ロシア軍の武装解除を粛々と進めて行くばかりである。

その間にも、ロシア国内で復旧作業中の軍事施設がまたもや粉砕され、特に各地の巨大な地下施設などではかなりの死傷者が出ている模様だ。


一方の中国戦線も又似たようなもので、局外中立宣言のあった地域には一兵も入れず、やはりD二とG四によって、チベットと東トルキスタン内部の人民軍の軍事施設を破壊しただけだ。

それらの中でも平穏であったのは台湾だけで、チベットと東トルキスタンでは駐留軍と古来の現地人との間で相当な流血騒動が起きており、地域外に出てきて投降する中国軍兵士があとを絶たない。

秋津州軍は既に中国全土を制圧してしまっており、敵兵から見る秋津州軍は、地上に一個連隊がいる場合、倍の二個連隊がその上空を埋め尽くしていると言うほどのもので、攻撃が始まって一時間の後には中朝露の組織的な反撃は全く沈黙してしまった。

秋津州軍は、いずれの戦闘においてもひたすら武器を接収しては、その武器だけを破壊すると言う単調な作業を繰り返すばかりで、相変わらず継続的な意味の捕虜を一切持とうとしない。

結局、抵抗しない限り身の安全が保たれることが敵兵の間に広まるに連れ、その抵抗を急速に衰えさせていったようだ。

このようにして中朝露の占領が完成し、メディアは存分にその過程を報道出来た筈で、占領地の地元メディアを除けば、最初の一発を放ったのは秋津州側ではないことを明確に認めてしまっていた。

結局、世界のメディアがこれを秋津州の防衛戦であると認めたことになる。

なにしろ先進世界のビッグメディアのほとんどが、SS六をチャーターして現地入りを果たし、その全てがカメラを回していたのであり、そこから発信され続ける生々しい映像が全世界を駆け巡ったのだ。

少なくとも一般大衆の目には、最初に撃ったミグの鮮烈な映像は、まことに効果的に写ったに違いない。

また、秋津州の女性兵士は食事も休息も全く不要であり、当然一切の現地徴発を必要としないため、そこからの攻撃を受けない限り一般の民家の中にまでは踏み込まない。

ひたすら駐屯地の大地と上空に静まって、圧倒的な兵力を見せつけているだけなのだ。

そして、このままの状態で夜を迎え、各地で暗闇に乗じて行われた散発的な抵抗も、全く戦果を挙げること無く簡単に制圧されてしまい、これによって秋津州兵が優れた暗視能力まで具えていることが改めて実証されることになった。

このため次の日の朝が来るまでには、全ての占領地において正規の装備を持った敵部隊は、見事に姿を消してしまっていたのである。


一方の秋津州では王の出撃の直後、内務省の西側に天空から運ばれてきたプレス用の建物が別途用意され、SS六改をチャーターしたメディアが多数受け入れられていた。

急ごしらえの建物は、プレスルームは勿論上下水道が備わり、宿泊設備こそあまり上等とは言えないにせよ五百人以上の収容能力を持ち、食事も量的には不足は無いと言う。

何しろ、近頃稀に見る大規模戦争なのである。

続々と入国して来るメディアは既に五百に迫ろうとしており、そのほとんどが日本に基地を持ち、そこを中継点としている上に、取材ポイントはこの地の内務省を除けば、あとは東京の神宮前くらいのものなのだ。

混雑して当然だったろう。

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  1. 2005/11/01(火) 03:30:53|
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