日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 174

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「おいおい、ぼけるにゃ未だ早えだろう。」

「へ・・・・。」

「例の馬酔木の湖(あしびのうみ)の一件だよ。」

秋桜海の件が潰れた今、配慮すべき対象そのものが無くなってしまったと言って良い。

「あっ、そうか。」

現金なもので、鍾馗さまの声に再び張りが戻って来たようだ。

「物凄い工事んなるぜ。なんつったって、持って来る島だけで八百万平方キロはかてえって言うからな。」

遅かれ早かれ途方も無い工事になってしまうだろうが、その工事現場が外国船の航行実績を全く持たない内水である以上、かつての日本が八郎潟(はちろうがた)を干拓したのと同様、その中で何をしようと少なくとも外国から文句を言われる筋合いは無いのである。

「ぞくぞくしてきた。」

「俺も最初に聞いたときゃあ鳥肌が立ったくれえだ。」

移設する対象物がそれほどまでに巨大なのだ。

「奥津日子(おきつひこ)って言ったっけか。」

問題の大島(だいとう)の呼称である。

「確か竈(かまど)の神さまだんべえ。」

「そこで何をなさりたいんだろう。」

「うちの大将は、竈の神さまがお好きなのさ。」

「じゃ、本線は農地経営か。」

竈と言うものに、穀物や惣菜を煮炊きするイメージを抱く以上、それを連想してしまうのも無理はない。

「もともと相当の穀倉地帯だとは聞いちゃいるが、こっちへ持って来りゃあどうなるかわからねえだろう。」

少なくとも緯度については、もとのそれに倣うよう配慮されるとは言うものの、気候風土が激変してしまう可能性は否定出来ないのである。

「そりゃそうだ。」

「どっちにしたって大仕事になることだけは間違い無えんだから、俺はそれだけで納得だ。」

「その間は張り合いをお持ちになれるだろうしな。」

鍾馗さまは陛下の胸中を慮って又しても涙声だ。

「まあ体調の方だって、うちのかみさんがしゃかりきんなって心配するほどのこたあ無えだろう。」

「そうなのか。」

「今朝だって、味噌汁を旨そうに召し上がってらしたからな。」

「そいつぁ良かった。」

「とにかく、女どもは騒ぎ過ぎなんだよ。」

「確かに、その傾向はあるな。」

「俺なんか、お話を伺ってる限り、今度の騒動で一段と成長なさったと見てるくらいだ。」

少なくとも陛下にとっては、一年に垂んとする戦闘体制だったのである。

「ほほう・・・。」

「おめえも、あんまり心配しねえほうがいいぜ。」

「うん、分かった。」

「俺たちゃあ、男の仕事をしなくっちゃな。」

こんな言い草が耳に入れば、またしても女どもに睨まれてしまうに違いない。

「秋桜維新か。」

「最重要課題だろう。」

「そりゃそうだ。」

「うちの大将は大将で、ご自分の仕事に汗をおかきになるだけさ。」

移設後の奥津日子(おきつひこ)で、捻じり鉢巻で張り切る親友の姿が目に浮かぶ。

「じゃ、いよいよ工事の方が楽しみだ。結局広大な農地が出来上がるんだろうからな。」

「ふふん、例え都(みやこ)をお遷(うつ)しになろうが、単なる暇潰しだろうが文句はあるめえ。」

「文句なんて飛んでもねえが、どうせなら史上空前の都(みやこ)を作って見せてもらいてえ。」

岡部は目をぎらつかせてしまっている。

「田中もそんなことを言ってたな。」

「陛下にか。」

「むふっ。」

新田は含み笑いを漏らしているが、モニタに写るその表情は少なくとも否定の意は表してはいないのだ。

「それで、反応はどうだったんだ。」

「笑ってらしたよ。」

「それだけか。」

「それだけだ。」

「兄貴にも分からねえのか。」

「分からねえ。」

「ほんとかよ。」

岡部はよほど興味がありそうだ。

「いいプランでもありゃあ、(秋元)女史にでも見せて様子を見るってえのも手だぜ。」

「じゃ、奥津日子(おきつひこ)の設置位置と地勢図が欲しいところだな。」

この鍾馗さまは、とんでもない規模の首都計画を思い浮かべてしまってるに違いない。

「よし、近々手に入れてやる。」

こっちも興味が無いわけではないのである。

「頼むよ。本気で考えて見るからよ。」

「こらこら、その前にもっと大事(でえじ)なことがあるんじゃねえのか。」

「え・・・。」

「オレンジプランだよ。」

「あ・・・。」

「大幅に書き直さにゃならんだろうが。」

「書き直すったって・・・、ぱあんなっちゃったじゃねえか。」

「ばかやろう、未だネタが残ってるだろうが。」

「債権放棄か・・・・・・。」

何せ、悲観的なアナリストに至っては、「現下の経済情勢がそのままで推移すれば、当該債務国の多くはそのこと(対秋津州債務)だけで破綻を免れまい。」としているほどであり、万一そうなってしまえばその国の発行した債券自体が全て紙くずと化してしまうのだから、自然陛下の手持ち債券にしても同様の運命を辿ることになってしまう。

「これなら国井さんだって文句はねえ筈だ。」

「そうか・・・・、天目山(てんもくざん)に塩を贈るんだな。」

塩は塩でも、凄まじいまでの量なのである。

「その結果、やつらの景気回復に繋がる。」

廻りまわって世界経済に及ぼす影響にも壮大なものがあるに違いない。

「うん・・・・・。」

「そもそも、おめえが言い出しっぺだろうが。」

「それはそうなんだが、そっちの大将はほんとにオッケーなのかあ。」

この話にしても、言って見れば秋津州の大将が直接大損をする話なのである。

「俺たちに任せてくれるってよ。」

「ありがてえ話だ。」

モニタの鍾馗さまが深々と頭を下げている。

「信用してもらってる証拠だろう。」

「お志を無にしちゃならねえな。」

「その通りだ。」

「ところで、五年物だけだったよな。」

「とりあえずはな。」

鍾馗さまは知るまいが、実際には残りの十年物と十五年物の扱いについても概ね一任されてしまってる上に、自分の手元には例の秋津州資金ばかりか、鍾馗さまと連名の秋桜資金まで残しており、そうである以上採り得る選択肢も一つや二つでは無いのである。

「とりあえずって・・・・。」

「いざとなりゃあ、十年物どころか十五年物だって決断しなきゃならなくなるかも知れねえだろうが。」

「げっ、じゃ全部かあ。」

「最悪はな。」

「そうか・・・・。」

鍾馗さまは言葉に詰まりながら、一瞬微妙な表情を見せた。

陛下への身びいきが強い男だけに、内心納得出来ないものがあるに違いない。

「お預かりしてる秋津州資金にしたって、未だ五兆(秋津州円)は残ってるぜ。」

各国へ配分するために用意された、言わばODA資金なのである。

「今の日本円にすりゃあ、五千兆か。」

「そんなとこだろう。」

「しかし、そこまで行くと陛下の金庫が底をついちゃうんじゃねえのか。」

「うちの大将は一文無しになったっていいんだ。」

「え・・・・・。」

目を真ん丸くして見つめて来る。

「分かったか。」

すかさず、おっかぶせるようにして言い聞かせた。

「しかし・・・・・。」

「なんだ。」

「それでいて陛下が要求するものはねえのか。」

交換条件のことを言っているのだ。

「何もねえ。」

「そうか、例によってニッポン人の矜持を示せって仰るだけか。」

「分かってるじゃねえか。」

「だけど、そうすっと鯛焼き島は海上構造物のまんまだぜ。」

詰まり、「領土」としては認められないことになる。

それどころか、世界中から撤去を求められて窮地に陥ることすら考慮して置かなければならない事態だ。

「あ・・・、そのことか。」

かつて、「ことが成った暁には、鯛焼き島もローマ人の領土として大手を振って罷り通るようになる。」と言ったのは確かにこの私なのである。

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  1. 2009/06/10(水) 10:43:26|
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