日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 019

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雨足が一段と激しくなって、次の間の窓ガラスを流れている。

最早、豪雨と言って良いほどで、タイラーにとっては思いもよらぬことであったが、これこそが魔王が待ち望んでいた恵みの雨であったのだ。

秋津州と言う人工島の出現が近海の海流に影響を与え、その気候にも少なからず影響を及ぼした結果、この陸地が恒常的にどのような気候風土を持ち得るかが王にとっての重大な関心事であり、今回のまとまった雨量が、今後の見通しを立てるにあたって重要な一里塚となることは間違いない。

この陸地にもともと狭小な農耕地しか策定していなかったのも、実際の気候風土を確かめてから本格的な拡大を目指す心づもりであったからに他ならない。

しかし、当然これは秋津州にとって重大な国家機密でもある。

そのこと自体が秋津州が人工島である所以であり、この後も決して公式見解として触れられることは無い。

いずれにしても、部屋のあるじが去った今、客のタイラーは当然王の居室を辞すべきであったろう。

しかし、万策尽きてそれでも去りきれずに呆然としてしまったそのときに、救いの神が入って来てくれた。

秋元京子だ。

彼女は、現時点での唯一のパイプだと言って良い。

この救世主の助けを借りて、困難な職務を果たさなければなるまい。

思えばこの女神は、不思議な力を持っているようだ。

その証拠に、今も三人の侍女たちが充分な敬意を払って迎え入れている。

ここは、間違いなく王の私的な居室の筈なのだ。

にも拘らず彼女は全く臆することも無く、先にたって次室のテーブルにいざなう。

「京子、感謝しているよ。」

タイラーは導かれるままに力なく席に着いて、それでも礼を述べるだけの心の余裕はかろうじて残していた。

彼女の尽力あってこそ、王の朝食に招かれたことだけは確かなのだ。

「結果はあまり良くなかったようね。」

女神は、何でもお見通しのようだ。

「正直、参ったよ。」

「あらあら。」

「このままでは辞表を書かなくちゃならない。」

もっとも、タイラー一人の首が飛んでも何の足しにもなりはしない。

「そんなに深刻なの?」

「お怒りをかってしまった。」

改めて魔王の底光りする眼光を思い出し、又しても恐怖に体が浮き上がるような気がする。

「それは困ったわね。」

ありがたいことに、この女神は同情してくれているようだ。

「何とかならんだろうか?」

「ヒントを上げましょうか。」

「え、是非。」

思わず腰を浮かせてしまった。

「簡単よ。陛下のお望みを正しく理解することよ。」

「は?」

「陛下を誤解してらっしゃることが一番の問題なのよ。」

「と、言うと?」

「未だ分からないの。陛下を脅威とみなして、敵視していることよ。」

「あ。」

言われて見て、改めてその通りであることに気付く。

「だって、陛下が今までお国に対して何かいけないことでもなさったかしら?」

「い、いや。」

ヘリの墜落事故の対応にしても、その後の米国訪問と先進的な武器の供与にしても、秋津州のスタンスは常にアメリカに対して友好的なものであり続けた筈だ。

少なくとも表面上、敵対的な行動など一切とったためしが無い。

京子はそれを言っている。

「それでもなお敵視され続けるとしたら、トムならどうする?」

これでは、どんな男でも立ち上がらざるを得ないだろう。

「う・・・。」

「少なくとも、そういう相手を友邦だとは思えないわよね。」

「いや、ホワイトハウスは敵視してはいないよ。」

「そうかしら。」

「誓うよ。」

「おほほほ、私に誓っても仕方が無いでしょ。」

「あ、・・・。」

「それが事実なら、・・・。」

「え、事実なら?」

「あとは子供にでも分かるでしょ。」

普通、非常な危機から救ってもらったり、その上貴重なプレゼントを贈られたりしたら感謝すべきであろう。

そこが基本だと言っているのだ。

にもかかわらず、米国は侵略者の背中を押した。

言わば、米国政府は恩を仇で返したことになるのは間違いないであろう。

これ以上の裏切り行為などまたとあるまい。

「ど、どうすれば・・・。」

「分かってるでしょ。」

少なくとも、礼を尽くして感謝の意をあらわすべきであろう。

そしてそれは、敵対する意思を打ち消すためにも、最低限必要なことではないのか。

「う・・・。」

「公平に見て、陛下はアメリカをいつ叩き潰しても良い権利をお持ちになったのよ。」

「う・・・。」

「権利どころか、王としての義務かも知れないわ。」

確かに国家に仇(あだ)なす憎(にっく)き敵国を打ち滅ぼすことは、王として国民から負わされている義務の一つでもある筈だ。

仮に、米国がいずれかの国の正規軍にその領土領海を侵され、米本土に暮らす市民が数千人も殺されたとして、大統領がその報復手段も採らずに放置したら、先ず間違いなくその職に留まることは許されないだろう。

「・・・。」

「そうは思わない?」

「い、いや・・・。」

「立場を変えて見たら、そうなるでしょ?」

全くその通りであろう。

「う・・・。」

一言も無い。

「でも、問題視してるのは、秋津州が自分より強いかどうかだけなんでしょ?」

米国は、いかなる国であれ、自国と肩を並べるほどの強大な国力を持つことを許さない。

とにかく、世界の主導権を常に自分が握っていないと気が済まないのだ。

「わ、分かった。」

秋津州の強大な国力、言い換えれば言語に絶するほどの軍事力の存在は今や隠れも無い。

「いーい、陛下はこの秋津州と荘園だけで充分なのよ。」

「その荘園って、ほかの天体のことなんだろ?」

「それがどうかしたの?」

「だって、宇宙条約って言う取り決めもあるじゃないか。」

確かに宇宙条約と言うものもあるにはある。

その第二条では、宇宙における地球外の天体の領有を禁じている。

「おほほほ、秋津州は一切の条約を結んでいないわ。」

「しかし・・・。」

「それに、荘園は陛下個人の所有なのよ。」

「あ・・・。」

その宇宙条約では、国家の領有を禁じてはいるが、個人や法人の所有までは禁じていないのだ。

現に、月や火星の土地などはその売買さえ行われているのである。

「それに前にも言ったでしょ。その所有を主張する人がほかに誰もいないじゃないの。」

「しかし・・・。」

「万一、誰かがその所有を主張したければ、最低でもその存在を確認してからになるわよね。」

「うん。」

「誰か、その存在を確認できた人でもいるの?」

その物の存在を認識すら出来ずに所有するもへちまも無いだろう。

「いや。」

「とにかく、ほかに領土なんか要らないのよ。」

「ほんとか?」

「ほんとよ。その根拠だってあるわ。」

「え?」

ここで、この美しい女神は、例の恐るべき作戦案の存在を明かした。

NATOの混乱に乗じて、一気に北米と欧州を占領してしまうと言う、あの作戦案のことである。

それも、王が命じれば即座に実行に移され、それが完了するまでに三十分とかからないと言う。

と言うことは、北米や欧州の地表付近にも、膨大なD二やG四が既に配備されていることを意味しているのか。

そして、そのD二やG四は捕捉不能だと言うことなのか。

ただ、これ等が強大な戦闘能力を有していることだけは、今次の紛争で見る限り既に確定的なのだ。

王が却下したから良かったものの、もし、その案が採用されていたら、今頃パリやロンドンはおろか、ワシントンにさえ秋津州の国旗が揚がっていたに違いない。

その上、世界のマーケットはほとんど停止してしまったことだろう。

「領土など重荷になるだけだ。」

魔王が、その作戦案を却下したときの言葉であったと言う。

領土など欲してはいないのだ。

「分かった?」

「分かった。」

タイラーは、ひとまず安堵の胸を撫で下ろすことが出来た。

「でも、ひとつだけ、気がかりなことがあるわ。」

「え?」

「陛下が急死してしまうことよ。」

「あ。」

「そうしたら、この作戦案が形を変えて実施される公算はかなり高いと思うわ。」

「形を変えてって・・・。」

「要するに、全軍を統御する者が居なくなって、一瞬で報復戦になるってことよ。」

「報復って?」

「覚えはあるでしょ?」

「う・・・。」

「八人の司令官たちは、中共の背中を押したのが誰だか知ってるわ。」

「い、いや、それは、」

「どんなに大声で否定しても無駄よ。今更下手な弁解なんて利かないわよ。」

「そっ、そんな・・。」

「だって、いままでアメリカ自身がそうして来たでしょ。」

「う・・。」

「とにかく、陛下以外に誰も止められないってことよ。」

「う・・・。」

「ま、私がアメリカの大統領だったら、せいぜい陛下のご無事を神に祈るわね。」

「しかし、ステイツとは無関係のテロと言う可能性も・・。」

「同じことよ。司令官たちの憤懣のはけ口はアメリカに向かうに決まってるわ。少なくとも、アメリカをこのまま見逃すことだけは絶対に無いわね。」

これ以上の恫喝は、滅多にあるまい。

王が死んでしまったりしたら、理由の如何を問わず、必ずアメリカを潰すと言っているのだ。

国王を暗殺するなどは、アメリカにとって自殺行為に等しいことになる。

タイラーは、まさしく止めを刺されてしまったのである。

「そっ、そんな・・。」

「八つ当たりだと言おうと何と言おうと、所詮ごまめの歯軋りよね。」

ここで言う「ごまめ」とは、いわゆるイワシの一種で、成魚でも十センチほどの小魚のことである。

京子は、秋津州から見れば、アメリカなどこの「ごまめ」のように無力な存在であると言う。

事実そうであったろう。

アメリカなぞ、「ごまめ」同様取るに足りない。

その取るに足りないアメリカが、歯軋りして悔しがってみたところで全て後の祭りなのだ。

それに、アメリカはそうされても仕方の無い行為を積み重ねてきている筈だ。

ただ今までは、アメリカの敵側が報復する能力を持っていなかったに過ぎない。

「分かったよ。」

タイラーの声は一段と小さい。

「ま、私は一日本人として言ったまでだから。」

「いや、非常に参考になったよ。」

「さ、本業に戻るか。」

本業とは、株式会社秋津州商事の代表としての仕事のことなのか、それとも、巷間流布されている秋津州国王の筆頭政治顧問としてのそれを意味しているのか。

「忙しそうだね。」

「今日中に、日本との海底ケーブルが開通するのよ。」

「手早いね。」

「陸揚局の準備は、とっくに終わってますからね。」

秋津州の外周堰堤部の六箇所に、新しく立体倉庫施設が設けられたことは既に述べた。

その先進的な施設の内部には二十四の陸揚局が初手から用意されており、それらの陸揚局から内陸部に至る基幹回線は無論のこと、首都圏などに至っては、既に末端に及ぶ回線まで敷設工事を終えているのである。

現在、西方から外周堰堤部の直ぐ近くにまで敷設工事船が到達し、あと数キロで陸揚局からのパイピングの末端にまで届くのだ。

大容量のケーブルを日本との間で、それぞれ別ルートで三本以上、その他の国との間にも多数敷設する予定でおり、今回開通するのはその最初の一本目なのである。

無論、二本目、三本目も直ぐ後に続いている。

もっとも、それは若者とその周囲の「特別な者たち」にとっては直接必要な物では無い。

全く独自の通信手段を別に持っているからだ。

しかし、金融システムその他の事業のための通信インフラとして、一般の世界と共通の手段をも併せて用意することになるのだろう。

同時に、中央銀行や民間銀行についても立ち上げる用意が出来ていると言うが、成文法を持たない秋津州においては、内務省の裁量権ばかりが途方も無く突出したものにならざるを得ず、その意味では、個々の契約の履行については、よほど誠実な対応が求められることになる筈だ。

「外貨準備はどれくらい?」

これも大事な要件の一つだ。

「ドルで、五兆ほどかしらね。」

「ほう、予想以上だね。」

「そのほか、売り掛け債権もかなりのものよね。」

「しかし、それにしてもすごいよな。正直言ってその百分の一ぐらいを予想してたよ。」

「このくらいの用意がないと、ちょっと揺さぶられただけでお手上げになっちゃうでしょ。」

「やはり、最初はドルにペッグ(固定)するんだろ?」

金融システムの根幹を立ち上げ、いよいよ秋津州通貨が国際市場に登場することになるが、その場合、秋津州円を米ドルに対して固定相場制をとるのかと聞いているのだ。

「あら、まだこの後も基軸通貨でいられるつもりなの?」

痛烈な皮肉であった。

「あ・・。」

「まあ当分は、ドルの権威を守っていてもらいたいものだわね。」

余りに急激にその権威を失墜させてしまえば、世界のマーケットに大混乱を来たしてしまう。

「う・・・。」

「陛下の荘園の資源は、そりゃもう壮大としか言いようが無いわ。」

京子は艶然と微笑んで見せた。

秋津州通貨の背景には、王の荘園の膨大な資源が控えていると言っているのだ。

ここに来て、永久原動機やベイトンなどの工業製品も本格的な出荷が始まっており、今次の対中朝露戦にしても、ごく僅かな戦費負担を以て鮮やかな完勝を得ることも最早決定的と言って良い。

全ては、これ等の「背景」をマーケットがどう評価するかにかかっている。

なお、過去に於いて一米ドルが九十銭から一円ほどの気配レートが取りざたされたこともあり、今次戦争前の秋津州では内務省職員の月棒が三千円から五千円ほどであったことから、秋津州円はマーケットからの支持を得られたものと言えなくもない。

「そうらしいね。」

「それとも、ワシントンは秋津州関連の口座凍結だとか、経済封鎖なんてやれるのかしら?」

第一、安保理決議一つとっても、秋津州の国力を目の当たりにした今では、常任理事国の足並みが揃うことはあり得ず、かと言ってそんなことを一国だけで強行しようとすれば、今度こそ、おおっぴらな敵対行為になってしまう。

いまや、王座から転落してしまっているアメリカには、とんでもない災厄が降りかかるに決まっているのだ。

「いや、それは・・・。」

「別に陛下は秋津州通貨を特別な物にしたいなんて思ってないわ。単なる国際通貨にしたいだけなのよ。」

「協力させてくれよ。」

「変な邪魔さえしなけりゃ、それだけでいいのよ。」

「分かった。」

「ロスチャイルドファミリーからも、協調路線をとらせてくれって勝手に言って来てるわ。」

「やはりな。下手に邪魔をしてマーケットを破壊されてしまうよりその方が利口だろうからな。」

秋津州資源の膨大な資産価値は、充分過ぎるほどの威力を秘めていることは間違いない。

既に、荘園の物産についてのごく小さなアナウンスにさえも、マーケットが敏感に反応してしまうところにまで来ているのである。

そしてその情報は、当然秋津州側の独占だ。

他者は、なんぴとたりとも絶対に知り得ない。

その上、最悪、一人のバイヤーもいなくなったとしても秋津州は存立していけるのである。

その気であれば、出荷調整も自由自在なのだ。

「ま、これも一日本人として言ってるんだけどね。うふふっ。」

秋津州国の公式見解ではないと、またしても念を押してくる。

「京子、我が国にも是非協力させてくれよ。」

大統領特別補佐官としては、米国がバスに乗り遅れてしまうことだけは何としてでも避けたいのだろう、どうしても、そのチケットが欲しいと言う。

「その前に、することが有るんじゃないの。」

「え?」

「いたずらっ子が悪さをして、それがばれちゃったときはどうするのよ?」

ワシントンは秋津州を甘く見て、とんでもない悪さをしでかしてしまったのだ。

そして、それが露見してしまっている。

あとは、謝るか、居直るか、惚け通すかのいづれかであろう。

弱者に対してなら、居丈高に居直ったり、或いは知らぬ存ぜぬで惚け通す手もあるが、今回の相手は決して弱者などでは無いのだ。

米国が今まで散々使ってきた強者の論理を、そっくりそのまま秋津州が使わない理由など何処にも無い。

弱者である米国が、いかに「中共軍の背中を押した覚えなど無い。」と言い募ったところで、強者である秋津州としては聞く耳を持つ必要などさらさら無いのだ。

決定権は、常に強者側にのみ存在する。

そのことは、過去の歴史が雄弁に物語っており、何よりも、米国自身が今までずっとそうして来たではないか。

単に従来の強者が、突然その位置から転落してしまったに過ぎないのだ。

「京子が、ワシントンに来てくれないか。」

タイラーは、自分の口からだけでワシントンを説得する自信が無いため、京子の口から直接語らせることを思いついたのだろうが、現在の米国は熾烈な大統領選のさなかにあり、現職大統領にとって、この問題から派生する影響は決して小さなものでは無いはずだ。

しかし、大統領のマシーン達に、タイラーの言葉だけで現実感を伴ったイメージを正確に伝えることは至難の業であろう。

彼等にとって、パックス・アメリカーナを基盤とする磐石の思考回路から抜け出すことは、とてつもなく難しいことなのである。

「無理よ。ナウルから撤退の準備もあるし。」

京子は、いままで例のナウル共和国の領海を主な取引き場所として利用して来たが、ナウルの状況が、もはや限界に来ていると判断したのである。

前にも触れたが、その国では唯一の資源のリン鉱石が枯渇寸前であり、国家存亡の危機を迎えている。

そもそもその領土の全域は、もとはと言えば南太平洋上に浮かぶ珊瑚礁であった。

その珊瑚礁に、アホウドリの大群が飛来して大量に糞をする。

長い歳月の間に、その珊瑚礁の表面はアホウドリの糞で埋め尽くされて行き、大量に降り積もった糞が数万年もの間堆積し、やがてリン鉱石となった。

最近の数十年、このリン鉱石が貴重な肥料用資源として輸出され、国家の豊かな財源となっていた。

豊富な財源を持ったその国においては国民の税負担は無く、反って国家から漏れなく給付を受けて来たのだ。

そのため、全ての国民は勤労の必要は無く、長いこと日々遊び暮らして来ることが出来た。

のどかに、文字通り遊び暮らして来たのだ。

自分たちの食べる食事の用意も、或いは身に着ける衣類の洗濯でさえ外国人労働者に任せ、ひたすらその労務を買っていたのである。

肝心の資源が枯渇したからと言って、今更その国民に働けと言っても無理であろう。

ごく一部の公務員のほか誰も働かない国家など、本来成り立つはずがないのだ。

若者は言う、「どんな国家をつくり、どのように運営していくかを定めることは、その国民の最大の権利であり、他者がとやかく口を挟むべきことでは無い。」と。

その結果、ナウル共和国が漂流してしまっているのも、その国民が選択した道だと言って良い。

既に、国家そのものが行方不明だとまで言われてしまっているのだ。

他国から連絡さえとれない。

航空便や船便はおろか、国際電話でさえ不通になってしまっており、唯一の例外として、SS六改のチャーター機だけが自在に出入りしている。

それに、もう遠慮なく秋津州の領土領海が使えるため、他国のそれを使用する必要などさらに無い。

「そうとうひどい状況らしいね。」

正統な国家元首さえ定まらないその国の惨状は、タイラーの耳にも当然伝わって来ている。

「数百万トンの土を置き土産にして、引き払ってくるわ。」

剥きだしのリン鉱石が掘りつくされた珊瑚のなきがらの上に、相当な土壌を運び込み秋津州商事の基地とし、それを秋津州軍の一個小隊がひっそりと守備して来た。

ナウル政府がカネと引き換えに受け入れた難民の暴動など、一歩も近づけるものではない。

実質的な租界として借り受けていたその場所が、もともととても人の生活できるような場所では無く、土壌すら存在しておらず、王の荘園から膨大な土を運び入れて使用していたのだ。

ただ今回、SS六改の借り手たちに対する物資の手配では、特に飲料水の手当てに手間取ってしまった。

無論京子や兵士たちは、もともと飲食の必要は全く無いが、それでも多少の水は必要であり、これまで王の荘園から真水を搬入して使っていたのだ。

そこへ短期間とはいえ数百人にも及ぶマスコミ関係者が、SS六改に乗って集まることになったのである。

そのためにも、SS六の新たな改造が必要になった。

以前から人間の居住性を重視して、大型水槽や浄水機を備えたSS六改もわずかながら保有してはいた。

ビジネス用として使用していたものなのだが、これを機に二百機ほども増産して事態を乗り切ったのだ。

これも、マザーの船団が持つ優れた工業生産能力があってこそ行えることではあるが、いまや秋津州の国家主権が確立し、それにつれてナウルの利用価値も先細りとなり、やがて秋津州商事の実質的な本拠も秋津州国内に移る事になるに違いない。


さて、この辺で時空系列をほんの少しだけ前に戻し、朝鮮半島南部に視線を転じてみたい。

実は、そこにも秋津州の領有を居丈高に宣言した国家が存在した。

国号を大韓民国と言う。

略して韓国。

この国は、かってIMF危機という大きな経済危機に直面したことがある。

それも、わずか数年前、千九百九十七年のことだ。

この経済危機でウォンが半値にまで暴落し、翌年の千九百九十八年には、GDPが三パーセント減と言う大きなマイナスを記録してしまった。

ウォンが半値になったと言うことは、ドルベースで言えばGDPはもっと大きく減少したことになり、金融システムも巨大な不良債権を抱えて一気に不安定となり、IMFや諸外国からの巨額の融資を仰ぐほか、もはや一国の経済が立ち行かないという無惨な状況であった。

卑近な例で言えば、他の誰かがカネを恵んでくれるか保証人の判を押してくれない限り、国家そのものが破産してしまう状況に立ち至ったことになる。

このときの支援では、その額面一つとっても突出して貢献した国が、ほかでも無い我が日本だ。

当然、日本も単なる善意だけでそれを行ったわけではない。

日本独自の国益にも照らし、日本国民の血税を大量に投入したことも事実だ。

しかるに、その結果はどうであったろう。

これほどまでの大恩を受けた筈の韓国国民から、果たして日本人は感謝されたであろうか。

無論、周知の通り、否である。

彼等は、そのような事実を知識として得ていても、感情としては受け付けることが出来ない人々なのである。

大韓民国とは、面積十万平方キロメートルほどの領土に、概ね四千四百万のこういう人々が住み暮らしている国だ。

一応、議会制民主主義を標榜し、大統領制を採っていると聞く。

改めて言うが、本稿において、このようなれっきとした国家が公式に秋津州の領有を宣言したと言う事実は、それこそ世界中が承知している。

以前、ナウル共和国の話題に触れたときに述べたが、以下がそのときの若き秋津州国王の明確な意思であった。

「どんな国家をつくり、どのように運営していくかを定めることは、その国民の最大の権利であり、他者がとやかく口を挟むべきことでは無い。」

その結果、その国がいかなる運命を辿ろうとも、全てその国民が選択した道だとの謂いであったろう。

つまり、秋津州に対する一方的な領有宣言は、紛れも無く四千四百万の韓国国民が選択した道であり、言い換えれば、全てはその国民の自己責任であると言うべきなのだ。

その国民が、去る十日に秋津州が受けた災厄に関する報に接した時には、こぞって自国政府の立ち遅れをなじり激しく狂騒した。

不思議なことに、秋津州を攻撃した中朝二カ国を非難する風潮は一向に見られず、まして秋津州人の蒙った大いなる災厄を哀れむ声も聞こえては来なかった。

当の秋津州では一方的な攻撃によって、その国民の実に九十九パーセントを超える死者を出しているのだ。

にも拘らず、韓国国民は、ただただ自国政府の立ち遅れのために、折角のおいしい料理を食べ損なったと言って自国政府を非難した。

韓国国民にとっての秋津州は、単にその辺の路傍に転がっているご馳走でしかなかったことになり、遅ればせながら今からでも出兵し、少しでも分け前にあずかろうと言う意見まで出たが、その無謀な意見は米軍の断固たる制止にあって煙のように消えてしまった。

ワシントンの利益にそぐわなかったためだ。

しかし、その日の夕刻には事態は再び一変した。

何と、秋津州軍がその領土を自力で回復し、なおかつ中朝二カ国の本土を痛撃中と言う驚くべきニュースが飛び込んで来たのである。

この時点で、早くも自国政府の発した秋津州領有宣言そのものを非難する声が一部に現れ、国内世論は別の意味で紛糾する。

その後、中朝露が秋津州軍によって占領され、半島の三十八度線以北の地が秋津州軍で満ち満ちていることが知れ渡ったときには、韓国国民の全てが、秋津州の領有宣言にはもともとから反対の意思を持っていたことになってしまっていた。

韓国政府が国民の意思を無視して、他国に対する領有宣言と言う暴挙に出たことになってしまっていたのだ。

あろうことか、この九月十日から十三日までの、たった四日の間にその民衆の声の方向が、百八十度逆転してしまったことになる。

悪いのは全て青瓦台(韓国大統領府)であるとして、国中にその責任を問う声が満ち溢れていく。

既に中朝露は国家としての実質性を失い、当然その通貨は国際的に無価値なものとなってしまい、一方でこの大韓民国からも並みいる外国資本があっという間に遁走した。

その逃げ足の速さは、見事と言うほかは無い。

無軌道に個人消費を煽った結果、カード破産者が巷に溢れていたことも一因となり、国家経済の足元が不安定化してしまい、最悪のシナリオもあり得る事態となったのだ。

その場合、もともと腰の弱い金融システムも一瞬にして崩壊し、ウォンは紙屑同然に成り果ててしまう。

今度ばかりは、IMFも世銀も打つ手は無いだろう。

大韓民国は勝手に舞台に上がり、勝手に踊り狂い、勝手におお転びに転んでしまうことになる。

如何に自業自得とは言え、韓国経済は既に巨大なダメージを受けてしまった。

このままでは、自力で立ち上がることは誰の目にも不可能に見えるほどだ。

今次紛争には複数の当事国があるが、中でも中韓の同時破綻がマーケットに与える衝撃は途方も無く大きい筈だ。

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  1. 2005/11/02(水) 18:00:27|
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