日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 003

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程も無く、現地には三台の車列がしずしずと現れた。

一見キャンピングカーのような構造のかなり大型の車両が一台と、あとの二台は中型のワゴン風だったが、少なくとも大型の車両の場合、その箱型の荷台の中を窺い見ることは出来ないため、そこに相当の装備を持っていたとしても不思議は無い上に、一個分隊の移動ぐらいには充分耐え得る外見を具えているのだ。

やがて車列は急ぐでもなく静かに近づいて来て、焚き火から五十メートルほどの地点でひっそりと停止したため、地上で注視していた米兵たちに新たな緊張が走ったことは勿論だが、上空からも多数の銃口がそれらに標準を定めつつ、厳重な警戒態勢を採らざるを得ない。

だが、米兵たちの手にある銃は、彼等自身が全く気付かないままに、その全てが射撃不能の状態に陥ってしまっていたのだが、何にせよ米兵たちが固唾を呑んで見守る中、それぞれの車両から降りたったのは男女ともに三人づつの計六人の者たちである。

その何れをとっても日常的な服装の者ばかりで、武器を携行している気配は全く感じ取れず、女性のうち二人はパンツスーツに長めの白衣をまとい、一見して医療従事者のようであり、果たせるかな唯一の負傷者をいざない大型車両の後部ドアから車中に消えた。

無論、その治療を施すためであったろう。

また、残りのビジネススーツ姿の女性がリーダー格らしく、これまたスーツ姿の男たちを引き連れて静かに歩み寄り、さもそのあたりの街中(まちなか)で出会ったような雰囲気すら漂わせながら、事態収拾にあたるために派遣されて来た者であるとして、ワゴン車の中で協議することを提案、その言語が上品な英語であったこともときにとって大いに幸いした筈だ。

米兵の中でしかるべき者が三名ほど乗り込んでみると、車の中には、テーブルを挟んで十人ほどが座れる座席が設けられており、早速始まった協議の席上住民の蒙った被害については話題にも上(のぼ)らない。

覚悟していた抗議も出て来ず、逆に熱いコーヒーまで振舞われてしまったことが、住民側に全く武装の気配がなく、万一戦闘状態に立ち至ったとしても瞬時に制圧可能と判断し得ることと相俟って、米兵たちの警戒心を解かせるに充分な役割を果たし、やがて米軍をしてさまざまな情報を得させることに繋がるのだ。

何にしても、平穏のうちに協議は進んだ。

その結果、彼らがこの島を「秋津洲(あきつしま)」と呼んでいることが初めて分明し、その日常言語はいわゆる日本語であって、全てが英語を解するわけでは無いことを知ったが、その言動からは、後にも先にも敵意のかけらすら感じ取れないのである。

今更言うほどのことでも無いのだろうが、未開の地にあって温順な原住民は、合衆国の繁栄にとっては常に貴重なものなのだ。

その間、医師と通訳を乗せたヘリが母艦から飛来し、事故機の乗員は医師に付き添われながら悉く帰還して行き、全員の無事が即座に公表された上、この協議で事故機の引上げ作業の申し合わせまで円満に進捗したことによって、日米両国の世論は親秋津州論一色で沸き立ってしまった。

先ず、米国政府が正式な親善大使として前職大統領を任命した上、なおかつその準備のためとして、国務次官補級の秋津州訪問を電光石火で決定、随員数名と共に急遽日本に向けて出発させるに至るのだが、無論、このような性急な政策決定の裏には、一般の親秋津州論とは全く次元の異なる理由がある。

当然それは、ワシントンの描く太平洋戦略構想にとっての重要性にこそあったのであり、現時点でワシントンの思惑に蹉跌はない。

ただ、事故直後の報道画面に映し出される小船に、櫓も櫂もましてや船外機も見あたらず、それにもかかわらず、湖面を自在に動いていることに不審を覚えた人もいないわけでは無かったが、それも大多数の熱気に圧倒されるようにして沈黙してしまった。

そして新島「秋津州」が、世界の諸国民の前に姿を現した記念すべきその日の夜には、陸上の建物の窓からも多くの灯りが漏れ、また幾多の巨大望楼の屋上からは眩いばかりの光芒が放たれて、自然、秋津州における大容量電力の存在が確信されて行くのである。


さて、一夜明けて、改めて米軍の引上げ作業が開始され、ヘリを以て搬入された多数の人員とボートによる湖の測量が始まったが、状況から言っても特別に慌てる様子は無い。

作業に当たる兵士たちは時に談笑し、郊外の湖に遊びに来たような気配まで漂わせながら、実にのどやかな様子を見せていたが、やがて時を経るに従い、現場付近の水深が三百メートルにも達することが判明し作業は一頓挫してしまった。

これほどの水深からの引き上げともなると、新たに大規模な機材を準備する必要もあり、その又翌日には、早くも引き揚げ断念の空気さえ漂い始めたのだが、ちょうどそのころになって先に本国を出発した特使一行が到着し、彼等が首都に入ることによって事態は急展開を見せることになる。

折衝の結果、第一に今回の墜落事故による賠償が不要とされたことは小さくない。

負傷したのは国王一人であって、一般国民には負傷者が出てないことから、それを国王自身が決断したと言うのだが、そうである以上、あの右腕を負傷した若者がこの島の王ということになる。

第二に、目下米軍が困惑している事故機の処理については、国王自身がつい今しがた引き揚げ作業を終え、あとは分解して空輸するばかりだと言う。

目撃した米兵たちによると、目に留まるような機材を使用することも無く、国王の指揮を受けた部下たちが素潜りで潜って、ごく短時間の内に引き揚げてしまったと言うのだが、それも水深三百メートルにも及ぶ湖底からなのだから、米兵たちは信じられないものを見たと言い騒いで已まない。

第三に、秋津州が国家として存在していることを、米国政府は公式に認めるべきこと。

国王と国民議会議長が署名した大縮尺海図を米国政府に附託し、それに伴い、当然に領海十二海里、接続水域二十四海里及び排他的経済水域二百海里、それに加えて領空についても宣言することになる。

尤も、これ等のことは、この時点で秋津州「政府」からワシントンに向けて公告されたことにはなるのだろうが、ワシントンがそれを「政府」と認めればの話ではある。

第四に、近日出発予定の親善大使を秋津州は公式に受け入れ、種々の懸案について協議を行う。

第五に、秋津州は米国に貴重な技術を開示し、サンプルとしてその実用品を二機供与する、としたが、三項については当然に懸案となり、大縮尺海図と第五項のサンプルを携え特使は去った。


さて、米国側はこのサンプルの付属文書を読み、実用サンプルとやらを操作してもなお軽く考えていたものが、テストを繰り返す内やがて驚天動地とでも言うべき事実が明らかになってきた。

その正体は、世に言う「永久原動機」と呼べる代物だったのだ。

「永久原動機」とは一口で言ってしまえば「燃料不要のエンジン」、若しくは「ごく僅かな入力を以て巨大な出力を得られる原動機」とでも言うべきものであって、人類史においては、いわゆる「トンデモ発明品」のビッグスリーにランクインするものであったろう。

要するに非現実的な夢のようなモノであって、所詮夢は夢でしか無いのである。

だからこそ、付属文書が如何に詳細を極めていても、技術者たちは理解しようともしなかったのだが、テストの結果導き出されてくる結果の全てが、このサンプルの異様な出力を疑うことを大声で拒否していた。

全くそれは、異様なまでの大出力を発生して見せるのである。

加えて、外部から入力すべきエネルギーはごく僅かな電力だけだと言い、しかも、それを必要とするのは起動時のほんの一瞬だけであり、一旦起動してしまえば、原動機自身が発電して継続的にそれを自給すると言う。

ご丁寧にも起動用として、ごく小型の手動発電機まで同梱されており、これを用いれば所要の電力を容易に得ることが可能で、それもサバイバル用品として普通に市販されているごく安価なもので充分代用出来るのである。

詰まり、これさえあればアマゾンのジャングルだろうが、サハラ砂漠のど真ん中だろうが、一切の燃料を持たずに巨大な出力を継続的に得られると言うわけだ。

技術者たちによると、計算上に限れば、直径二十センチ、長さ三十センチほどのこの装置一機で、こともあろうに原子力空母の全動力をまかなって余りあるとされた上に、平和利用の最たるものとしては、原子力発電の代替としても理想的だろうし、自動車、船舶、航空機と何でもござれだ。

とにかく燃料を使わないのだから煙も出さないし、駆動音も聞こえず全く静かだ。

しかも二個のサンプルのうちの一つは、前後に突き出ているシャフトも太く、ブラケットも巨大なものが付いており、もう一方はシャフトやフランジ、またはブラケットなども幾分小さめではあったが基本的な機能に変わりはない。

だが、ボルトやブラケット、そしてシャフトやフランジの強度が、ほとんど常識を超えるほどのものであったため、その材質についての精密な分析結果を踏まえて、同様のものを作ろうと試みるのだがどうしてもうまくいかないと言う。

何と、合衆国の誇る最先端の工業生産環境を以てしても、同じ物は作れそうにないことが判ったのだ。

あの秋津州に出来ることが、我が合衆国には出来ないのである。

当初、如何にも軽く扱われていたこのサンプルが俄然重大な国家機密扱いとなり、それに伴い秋津州の重要性ばかりが格段に重いものとなっていったのも当然のことであったろう。

ワシントンの政策は、秋津州との接近を果たす方向に一気に傾き、「懸案の第三項目」を積極的に受け入れることによって、全力を挙げて新たな情報の獲得を目指すことにならざるを得ない。

親善大使の随員には、特にこのサンプルの実験に関わった専門家やその他の調査員が加わり、大幅に増員されて出発したのである。


二千四年七月の二十日を迎え、秋津州の首都において特段に重要な式典が行われることとなったが、その重要性は単に秋津州にとってのものだけで無く、合衆国にとっても無論特別の意味を持つ。

その意味合いの中身こそ互いに天と地ほども掛け違っていたにせよ、ワシントンが相当の期待を込めて親善大使を送ったことだけは確かだ。

やがて両国の想いを背負った式典が挙行され、米国親善大使の立会いのもと、盾と矛を持ち三本の足を踏みしめる八咫烏(やたがらす)を象(かたど)った国旗掲揚とともに、「秋津州」の建国が高らかに宣言されたのである。

ワシントンはすかさず声明を発してこれを承認、親善大使は新たなサンプル二機と、収集したデータを携えて勇躍帰国の途に就くのだが、その直後には、ワシントンの暗黙の了解を得た日本も親善使節を派遣、その結果秋津州側には日本との同祖同族意識が強いことが伝わり、日本政府とその国民をますます喜ばせることになる。

やがてこれらの交流によって、秋津州全体を覆っていた言わば神秘のベールが薄紙を剥ぐようにしてその景色を見せ始め、メディアはそれを競って取り上げ、事の真偽はさて置き、さまざまの論が登場するのも致し方の無いところだったろう。

第一に、地上に送電設備が見えないのは、各地域或いは各建物ごとに発電設備を具えているからであり、その発電設備の正体も永久原動機だと言う。

自動車の原動機もまたこれであり、秋津州ではすでにこの永久原動機を実用化しており、そのことがあらゆる産業に衝撃的な影響を与える可能性が出て来たことになる。

なにしろ、この原動機は一切の燃料を必要とせず、その上極めて静粛なのだ。

当然、排気ガスなぞ出すわけが無い。

最近では豊富な地下資源を埋蔵する可能性まで喧伝され、一部商社に至っては、あろうことかそのサンプルまで入手済みだと囁かれ始めた。

また、その人口は七千人ほどとされているが、耕地面積から見ても、国民の食糧自給には明らかな不足を生じてしまうと言い、それにもかかわらず食糧の流入経路が不明なのだ。

なにしろ、秋津州の外郭は全て切り立った岸壁が三十メートルもそそり立っていて、船舶が接岸出来そうな場所なぞ全く見当たらないのである。

その上、滑走路を具えた空港設備も見当たらず、航空機の離着陸にも充分な幅員を持った直線道路は有るにせよ、その両側と中央分離帯には見事な大木が繁茂してしまっており、到底滑走路として用いることは出来ない。

残る可能性としては、せいぜい水上離着陸の可能な航空機を用いることくらいのものだろう。

何せ現地は、房総半島最東端から見てさえ二千キロも離れてしまっており、通常のヘリコプターでは、洋上に中継のための母艦も必要な上に、いくらも搭載出来ず非効率極まりない。

また、専門家の間などでは、最初の米国特使が持ち帰った大縮尺海図の精妙さも大きな謎とされた。

この海図に記されている近海の深深度データなぞは、相当高水準の技術を以って綿密な測量を実施しなければ得られないものであり、当然それはかなり以前から行われていたことをも意味していたからである。

又、事故機の引き揚げ時に見せた秋津州人の異能ぶりについても大いに興味を惹いたが、彼等の駆る小船の動力についても無論かまびすしい。

一方、貨幣流通は未成熟で流通量もごく僅かではあるにせよ、その単位も「円、銭(百銭で一円)、厘(十厘で一銭)」と定められていると言い、そのそれぞれが他国のものと比較しても遜色の無い出来栄えではあったが、現実には経済取引の多くは物々交換が主流であって、近代的な貨幣経済は未だ始まってはいないと言う説を採る者も少なくない。

また、国民議会が過去の成文法を一旦停止し、国家基本法を新たに策定中であるとして、その間国王が専制統治する旨を決議していたことも大いに話題となった。

詰まりは、秋津州は人治国家であると大声で宣言したに等しいのである。

聞けば、国内三個村それぞれが自然の「慣習法」を以って、村役と言う長老と自警団がその自治を行うことになると言う。

若き国王の名は秋津州一郎、年齢十八歳、独身。

少年は一躍大人気となったが、やがて王家についての無責任な憶測情報が氾濫し、例の湖で見せた見事な裸体映像までが大量に出回るまでになり、工業先進国の間では知らぬ者が無いと言うほどの存在になって行った。

何せ、映像の中の少年は、百九十センチを超える長身と見事に均整のとれた四肢を持ち、その全身はまるでアポロの石像に見るような若さと躍動感に満ちており、日本の女性コメンテーターの表現を借りれば、短距離走の覇者のような、鍛え上げた者のみが持つ芸術的な美しさすら感じさせるほどだと言う。

清潔感溢れるその顔貌にしても、眉目秀麗とまでは言えないにせよ、太く濃い眉と黒々とした瞳が殊に印象的で、一部の女性たちからは格別の好意を得る筈だと評されたほどなのである。

かと言ってこの若者を注視しているのは、何も若い女性だけに限らない。

各国の首脳たちの熱い視線があるだろう。

英仏独を初め主として欧州の先進国が、それぞれに使節を派遣して親善友好を謳い、雪崩を打って「秋津州」の承認に向かったのである。

米国は一億ドル、日本も二百億円の無償供与と政府顧問要員の派遣を申し出て、秋津州側が丁重に辞退したとする情報までリークされ、日米両国の隠された真意についての憶測情報が乱れ飛ぶ中、やがて七月も下旬になってから、両国共に噂通りの枠内で無償無条件の信用供与を付与することを一方的に宣言するに至った。

だが、民間の動きは、各国政府のスピードをはるかに超えていたと言って良い。

地下資源開発の利権や、既に公然の秘密となりつつある「永久原動機」を求めて怒涛のような獲得競争が始まってしまっており、枢要な地位にある秋津州王族と特別なコネクションを持つとされる人物までが、どこからか湧いて出てくる始末なのだ。

外洋には大型艦船が数多く遊弋し、ヘリコプターによる無作法な強行着陸があいつぎ、接触を望む「外国人」の応接に手を焼いた秋津州側は、外国民間人との交渉を一時峻拒するとともに、首都の一部にヘリ専用の発着所を設けて外部との正式な接触地点とする一方、日米英等の工業先進国は、秋津州において国家基本法ほかの成文法が整備され、その施行を待って現地事務所を設けることを以て合意が成立し、ようやくその周辺は静謐を取り戻すかに見えたのである。

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  1. 2005/02/07(月) 20:54:47|
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