日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 037

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華やかな宴はほどなくその幕を閉じることとなり、ゲストたちは三々五々帰路につき、日本から招かれた人々もあの大型のポッドに乗って、瞬時に神宮前の秋津州対策室に戻って行った。

結局、この日本人たちの旅程は、当初予定されていた三時間にも満たない短いものであったのだ。

こうして京子のプロデュースによるイベントは成功のうちに終える筈だったのだが、ここで、プロデューサーにとって想定外のことが起きた。

肝心の若者が甚三郎一人を連れて、ゲストたちに同行して神宮前まで行ってしまったのである。

全く必要の無い事でありながら、内務省の屋上で若者がポッドに乗り込んだことを、その付近に配備していたG四からの報告で初めて知ったのだ。

神宮前にいる千代からの通信では、若者は旨い酒を飲みに行くのだと言っていると言うが、対策室では思いもかけずポッドから降り立った若者の姿に、官僚たちは驚きと困惑のあまりすっかり浮き足立ってしまった。

彼らは、帰ってきた日本人たちを、それぞれの自宅に送り届けることで、今回の任務に終止符を打てる心積もりでいたのだ。

ところが、若者の唐突な再訪によって、新たな任務が自動的に発生してしまった。

無論、内閣官房に報告してその指示を待つことになる。

その間、招待客一人一人の本人確認を済ませ、車で送る準備をしている最中に、「碧」のママの一行のうち八人の姿が見えなくなってしまったのだ。

勝手に消えた八人は、全てクラブ碧の女たちばかりだと言う。

気が付けば、肝心の国王陛下の姿も見当たらない。

二階の千代に聞くと、立川さんたちとご一緒のようですわ、と呑気に言うばかりだ。

立川さんとは、クラブ碧のママのことである。

どうやら、若者は碧の女性たちと一緒に出かけてしまったようだ。

結局、このあとが又ひと騒動だった。

碧は今日は臨時休業の筈で、そのための補償も充分にしてある。

急遽ママの携帯に連絡してみると、店は外の灯りを消したまま中は宴会だと言う。

無論、正客は秋津州の国王陛下なのだろう。

当然、官僚たちは顔色を変えて上に報告した。

この夜の国井はたまたま体が空いていたこともあって、かって知ったるクラブ碧に車を走らせながら、一人大笑いしていたと言う。

国井が到着したときには、女性たちは一人も欠けずに若者を囲んで賑やかに飲っていた。

謹直な護衛官は、ただ一人入り口近くのボックスシートにひっそりと座らされていたのである。

ただ、店の内外には広範囲にわたって、膨大なD二とG四がびっしりと配備されていたことは誰も知らない。

さて、これで客は二人になったことになる。

ますます座は華やいで、軽妙なやり取りが縦横に飛び交い、若者は終始上機嫌であった。

若者の左手は常に自分の膝の上にあり、背筋を伸ばしたまま右肘を上げてぐいっと飲む。

かなりの酒量を過ごしている筈なのだが、端然とした姿勢に少しの乱れも見せず、にこやかにただ黙々と飲むばかりだ。

やがて京子の指示を受けて千代も姿を見せ、主の楽しみの邪魔をせぬよう井上と同じ席にしとやかに控えた。

若者は仕舞いには隠し芸まで披露して周囲を驚かせ、終始笑顔を絶やさず実に楽しげであったと言う。

小一時間ほどの楽しげなときを過ごしてから、若者は立ち上がり、すかさず千代が勘定に立ったがママが受け取ろうとしない。

招待を受けたお返しだと言う。

実際には、喉から手が出るほどカネは欲しい状況だったが、そこは銀座の女としての、したたかな計算が働いたであろうことは想像に難くない。

この素晴らしい鴨を、確実にリピーターとするための最も有効な手段と考えてのことであったろう。

しかし、若者の一言でけりがついた、

支払いをさせてもらわないと、次に来難くなると言うのだ。

国井の「今更だが、陛下は世界一の金持ちなんだぞ。」の一言が止めを刺したのである。


そして、数日後のごく早い時間にクラブ碧の電話が鳴った。

驚いたことにそれは直接若者からの電話であり、これから飲みに行きたいが都合はどうかと言う。

みどりは胸のうちで、密かに快哉を叫んだことは言うまでも無い。

鴨は、確実に引き寄せられつつあるのだ。

一般のお客様もおいでですが、それでよろしければ喜んでお待ち申し上げますと応えると、では五分後にと言って電話は切れた。

無論、みどりにも事の重大さは分かっている。

即座に国井の秘書に連絡を入れ、奥まった席にリザーブの札を立ててその到着を待った。

我にもなく胸の動悸が激しい。

その客は自分の半分の年齢でもあり、最初から自分自身の色恋沙汰とは全く無縁の存在だと言う確信はある。

高鳴る動悸はその為ではないのだ。

その相手は、いやしくも今や世界一と言われる強国の専制君主であり、群を抜く大富豪でもある。

大仰で窮屈な警備体制や無用の騒ぎさえ起こらなければ、これ以上の客種など滅多にあるものでは無い。

ただただ、一般の客との大き過ぎる違いを意識せざるを得ないだけなのだ。

たまたま、早い時間帯であったこともあり、ほかに客はいない。

外では今頃、目立たぬようひっそりと警備態勢が布かれつつあるのだろう。

待つほども無く、外は未だ小雨が降る中を、濡れた気配も感じさせずにダークグレーのスーツ姿のその人がのっそりと入ってきた。

この頭抜けた長身で街を歩けば、もうそれだけで人目に立って仕方が無いだろう。

にこやかに迎え入れると、全員の嬌声に包まれながら若者は嬉しそうに席に着いて飲み始めた。

それも、相変わらず焼酎の一本やりだ。

女の子に言って、そっと外の様子を窺わせて見ると、先日と同じ護衛さんが若者と同じようなスーツ姿で、街の灯を避けながらひっそりと佇んでいると言う。

少なくとも、客の出入りの邪魔になるような位置では無いようだ。

あとで、ビニールのレインコートでも届けさせることにしよう。

気の毒な護衛さんは、先日のときもどんなに勧めても只の一滴も飲まなかったのだ。

今日は、構わずに放って置くことにしよう。

一瞬、貸切りにしてしまおうかとも思ったが、先日と違って若者はスーツ姿でもあり、他の客が入ってきてもあまり目立たないで済むかも知れない。

そうそう臨時休業や貸切りにするわけにもいかないのである。

こう見えても、常連さんだって少しはいるのだ。

また、電話が鳴って今度は当局からだった。

肝心の相手が着いているかどうかを尋ねられ、さきほどご到着ですと応えると、何かあれば、直ぐ外に止めてあるグレーのワゴンに連絡してくれるようにとのことで、もう相当な警備体制が布かれていることを窺わせた。

当局としても、賓客の折角のご気分を害さぬようひたすら努めているのは間違いなさそうだ。

鴨は楽しそうに、今日も端然とした姿勢を保ちながら飲んでいる。

いったい、どの子がお目当てなのだろう。

ほかの客の場合なら一発で分かるのに、それが今度だけは、いくら目を光らせて見ても見当も付かないのである。

当の若者は、どの子に対しても特別目に付くような素振りなど見せず、全くくったく無さそうにひたすら楽しんでいる様子なのだ。

この分では、鴨はきっとまた飛んで来てくれるに違いない。

店の子たちにしても、ほとんど先日の顔ぶれが揃っており、この特殊な状況については良く心得ていてくれる筈なのだ。

それに先日の勘定にしても、あのいきさつで少し意地にもなって二百万だと言ってみたのだが、あの千代と言う女性は領収書も不要だと言って、帯封の付いたまま平然と支払って行った。

まともな企業が二百万も、領収書が要らないなんて今どき考えられないのである。

少なくとも、私企業ではあり得ないことだと思う。

次回からは、神宮前にいる自分にまで請求して欲しいとも言い残していた。

ほんと、領収書なしで現金と言うのは、正直言ってかなり助かる。

まして自分には、最近大きな災厄が降りかかってきている最中であり、このままでは、今住んでる部屋まで出なくちゃならなくなりそうなのだ。

この店だって、持ちこたえられないかも知れない。

とにかく、人生最大の苦境に立ってしまっていることを、ひしひしと感じているこの頃だったのだ。

この大ピンチの折りも折り、降って湧いたような最上客のご到来だ。

この最上の鴨をみすみす逃がすようなことがあっては、銀座の女としてはそれこそ末代までの名折れであろう。

とりあえずは、そこに全力を注ぐことだ。

どの子がお目当てなのか、その子のアレにもよるけど。

見れば、女の子たちは例外なく猛烈な攻勢をかけており、殊に、客の左隣に寄り添った、ちいママの理沙のアタックには少なからず見るべきものがあった。

今も、濃厚な色香を振りまきながら、若者の左腕を抱え込むようにして、自分の豊満な胸元に擦り付けるような仕草を繰り返している。

他の客には、絶対にあそこまでサービスはしない子なのに。

とにかくみんな、本気じるしのようだ。

客は独身の大富豪で若く逞しく、その上すらりとした長身で、実に男らしい風貌の持ち主なのだ。

店の子たちの無遠慮な評によれば、ハリウッドのアクションスターなんて目じゃないそうだ。

これを放っておく手はないだろう。

客の方も実に楽しそうに、相変わらずとても鷹揚な飲み方を続けている。

でも、あれだけは本当に不思議だ。

この間、初めて来たときに、若者は国井や女の子にせがまれて余興をやったのだ。

その余興が又すごいもので、その手品のタネが誰にも見破れない。

若者は全員の目の前で、テーブルの上にあったグラスを一瞬でカウンターの上まで動かして見せ、みんな、何が起きたのか分からず呆気にとられているうちに、今度はそのグラスをテーブルの元の位置まで戻して見せたのだ。

そのあいだ、若者は指先一つ動かした形跡が無い。

その場が静まり返り、みんな互いに顔を見合わせている前で、若者はもう一度それを繰り返して見せた。

今度こそ、観客は大いに沸いて拍手と歓声が起こり、そのあとで官房長官とその隣の理恵が、そのグラスを手に取って散々点検していたっけ。

ほかの子たちも、みんな手にとって首を捻るばかりだったのだ。

挙句の果てに、そのときの自分は若者と一緒に、秋津州の内務省ビルの屋上にまで行って来たのである。

あれっと思ったときには、つい一時間ほど前に、あの真っ黒な乗り物に乗り込んだ場所に立っていたのだ。

その屋上には、多少風はあったが雨は降っておらず、満天の星空をほんの数秒だけ眺めることが出来た。

ほんの数秒で又お店に戻ってきてから聞いて見ると、自分と若者の姿がその間消えていたと言うのだ。

結局、全員の秋津州への行き帰りと言い、神宮前からこのクラブ碧まで一瞬で移動してきたことと言い、全部これだったんだと改めて思った。

尤も、秋津州のこの特別な技術については何度もメディアを賑わせて来ており、それこそ、最速のジェット戦闘機をはるかに越える高速で移動しながら、それでなお急激な加速度を感じることの無い不思議さなどが散々騒がれてきていたのだ。

みどりにしても、そのくらいのレベルの話題なら随分耳にしていたが、まさか自分自身がその体験をするとは思わなかっただけなのだ。

店の子たちにしても、そのことに気付いていることは間違いない。

ただ、国井長官ひとりはあのあとにこにこ笑っているだけで、特別な反応は示さなかったところを見ると、やはり何か知っているのかも知れない。


数日後、秋津州内務省の最上階では、京子が自らに課せられた任務の中でも、極めて優先度の高いものと向き合っていた。

無論大切な若者の異性問題に関するものである。

新たに集められたデータの中でも、特に重要度の高いものが急速に増えつつあったことは確かだ。

若者は、その後立て続けにクラブ碧に通い詰めていて、あのモニカに匹敵するほど危険な香りを放つ標的が新たに生まれつつあったのだ。

これが久我京子であれば万々歳なのだが、そうは問屋が卸さないようだ。

久我京子については、別途に策を講じる必要があると思われ、それはそれでいろいろと思案の最中なのだ。

それより何より現在最も要注意なのは、本来想定外であった筈のクラブ碧の女たちの存在だ。

先日のレセプションにやってきた十名のうち、二人はみどりの友人で別の店に勤務しており、若者の関心はそちらには向いていない。

結局、残りの七人が最も要注意であろう。

碧には、この七人の他にも数人の女性たちが勤務しており、総勢十六人ほどが現在のターゲットだが、無論、その全員が毎日店に出るわけではない。

その全ての者に関する情報収集に動員されたD二やG四は、天文学的な数量であったことは確かで、その結果集められてくるデータも又膨大なものになった。

困ったことに、若者の言動からはたいしたデータは上がって来ず、誰を目当てに碧に通おうとするのか全く分からないのだ。

ご本人に直接尋ねてみても、「気にするな。」と言うばかりで一向に埒が明かない。

いきおい、女たちのデータから推し量って対応の間口を広げておく以外に無い。

先ほどから京子の電子回路の中で繰り返される演算の結果、導き出されてくる回答は複数だ。

その複数の回答の中でも、飛び抜けて高い確率を指し示しているのが、山岸理沙、本名山岸理沙子なのである。

年齢二十六歳、離婚歴一回、出産歴ゼロ、店ではちいママと呼ばれる言わばサブリーダーの役目を果たしている。

自他共に許す店一番の容姿を誇り、その体つきと言い身なりと言い、常に最も客の目を惹いており、営業上ここ数年来ずっと二十二歳で通していると言う。

この女性が最も積極的な姿勢を見せており、あわよくば自分の住まいにまで獲物を誘い込もうとしているようで、隠された同居人はいないらしく、現在のところ未だその存在は確認されてはいない。

そのほかにも、二十代前半の数人の者の確率が高いと言う演算結果が出ていて、結局その回答は複数だということになる。

店の経営者でもある立川みどりの確率は一パーセント未満となっており、はっきり言って対象外と見て良い。

ただ、彼女はこの女性たちのリーダーでもあり、当然そのデータだけはかなり詳細に集めており、この三十八歳の女性が、財政的に大きな問題を抱えていることも分かっている。

それは、今の店を出す際に、大きく援助を受けた三十歳も年長の愛人に関わる問題であった。

この愛人は三年ほど前に病死してしまっているのだが、生前その愛人がみどり名義の資産を、己れの経営する企業の借財に対する担保として設定していたのだと言う。

担保物権は、店の権利と住まいにしているマンションで、これがその企業の二億ほどの負債に対する担保の一部に充当されていた。

無論、これだけでは担保不足であり、不足分についてはその企業の資産がそれに充てられてはいる。

当時のみどり自身が全て納得ずくのことであり、そこに問題は無いのだが、肝心の愛人が亡くなってからも、その担保は外されること無く残り、挙句に近年その企業の業績が思わしくないことが問題なのだ。

もともとクラブ碧の利益など、まともに納税していたら一銭も手元には残らないかも知れない程度なのだ。

そこへ持ってきてお定まりのコースである。

先日、その企業が二回目の不渡り事故を起こし万事休すとなってしまった。

今回、臨時休業してまで急遽レセプションに参加したのも、そのギャラの支払いがキャッシュで、かつ相当な金額でのオファーであったからだ。

一時的に、キャッシュに詰まっていたこともあっただろう。

みどり本人は、その三十歳も年の離れた相手に対して、多少の愛情も感じていたようで恨んでいるような気配は無い。

もともと、今回失うことになりそうな物件にしても、その相手から只でもらったような物だからでもあったろうが、生来ののん気な性格にもよるのだろう。

ただ、個人保証の判を押していなかったことだけが、不幸中の幸いだったらしい。

いずれにしても若者の興味がこの女性にあるとは思えない。

若者には、みどりのことは勿論、理沙のことも全て忠実に報告してあるが、この理沙の件などは変に苦言を呈してみたところで、おそらく逆効果にしかならないだろう。

京子にとって何よりも大切なこの若者は、思春期以降休む間もなく働きづめに働いて来ており、若者にとっては、さまざまな事業がやっと一段落したこの時期こそ、その思春期の実質的な入り口かも知れないのだ。

とにかく、このような境遇は全くの初体験のことでもあり、これは言わば麻疹のようなもので、その免疫抗体だけは絶対に必要なものなのだ。

あとになればなるほど、その症状も重度のものにならざるを得ないだろう。

早いうちに、このような局面も体験してもらわなければならないことを充分に意識すればこそ、例のアメリカ娘たちが待ち受ける酒場にも、随分誘導しようと努めても来たのだ。

考えて見れば、その誘導先が銀座に変わっただけのことであり、それはそれで良いのである。

まして、今回は若者自身の意思で積極的に出掛けており、京子の誘導など全く必要が無いのだ。

あとの問題は、恐らく理沙と言う女性についてのものであろう。

この女性の蠱惑的な外見やその仕草が、村上優子のそれに相通ずるものが感じ取れるのだ。

いや、理沙の美貌は村上優子のそれを充分に凌いでもいる。

しかし、図らずもこうなってしまった以上、この女のデータを収集した上で、これはこれできちんとフォローしていかなければならない。

とりあえず、日本に居る千代には、株式会社秋津州商事の預かり金勘定を、少々膨らませておくよう指示を出してある。

早く言えば、国王から一時預かっているものと言う形式のカネを、増やして置けということだ。

今までと違って、国王自身が直かに日本国内で動くとなれば、事と次第によっては相当な額の現金も必要になるかも知れず、当然そのような場面も想定して置くにしくは無いのである。

当の若者は、つい今しがた実に活き活きとした表情で荘園の巡検に出て行ったが、帰路には、定めし大量の物資を搬送してくることであろう。

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  1. 2005/11/03(木) 13:42:42|
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