日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 038

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さて、師走に入り、アジア情勢の一部がただならぬ緊迫感を漂わせ始めていた。

殊に、反秋津州感情を剥き出しにして狂騒してしまっている国の情勢こそが問題であった。

無論、韓国である。

北部朝鮮の占領状態が依然として続いていることに加え、かつて秋津州に対する一方的な領有宣言を行った挙句、とどのつまりは、国辱外交とまで酷評された外交政策を採らざるを得なかったことに対する、激しい反動が起きているのかも知れない。

当時の韓国は一旦発した領有宣言を引っ込めた上、大統領がわざわざ来秋し平謝りに謝って、二千億ドルと言う巨額の枠組みの特別融資を引き出すことによって、その崩壊の瀬戸際から危うく救われることが出来た。

そののちに更に一千億ドルの無償援助を受けることによって、最初の枠組みについては、結局五百億ドルを消化することで一旦は危機を回避することが出来たのである。

加えて、その危機的な状況において、秋津州の膨大な一次産品の数々までも、無償で受け取っていた筈なのだ。

それがどこでどう間違えたものか、彼の国の世論では、これ等莫大な秋津州からの支援の全てが、強大な軍事力を背景にして、無理やり押し付けられたものになってしまっていた。

世界一優秀な筈の我が朝鮮民族が、よりにもよってあの日本人の成れの果ての秋津州人などに救われるなど、あり得ないことだと言うのである。

挙句に、大幅に支持率を落としてしまった現政権は、いたずらにその世論に迎合することによって、必死でその延命を図っている気配が濃厚だ。

なにせ、GDPがたかだか日本の一般会計と辛うじて拮抗するかどうかと言う程度の国のことであり、諸外国から注がれる視線も今では極めて冷めたものに変わりつつある。

にも拘らず、当事者であるべき政権担当者たちは、相も変わらぬ威勢の良い反秋津州的言動を繰り返している。

国際世論の論調では、彼の政府の政権担当能力については既に見放してしまっており、次に来るべき崩壊のシナリオまで滲ませ始めているほどだ。

恩を仇で返すと言う点において、絵に描いたような見本を見る思いがするとまで評するものもいる。

結局、最初の特別融資の償還能力を危惧した秋津州側の親切心から、のちの無償援助一千億ドルが生まれた筈なのだが、そのときの話では確か最初の特別融資を全額償還することが、その条件として付されていた筈なのだ。

その償還の期限は十一月の末日であったものが、師走に入った今もいまだにその約束が履行された気配が無い。

その件においては、単に秋津州側が沈黙を守っているだけなのだ。

秋津州側がその契約不履行を問題視する風を見せていないことで、辛うじて平穏が保たれているに過ぎないのである。

国際社会は、その推移を固唾を飲んで見守っており、殊にマーケットにおいてはとうにその腰が引けてしまっており、当然、そこから漂ってくる不気味な先行き不透明感が、ますます彼の国の景気の足を引っ張り続けていることは明らかだ。

ほとんどの観測筋では、彼の国には最早秋津州に対する償還能力が失われてしまっており、かつ自由貿易圏におけるメンバーとしての資格まで危ういと見ているようだ。

あとは、日本側の出方も充分に注目を浴びる対象である。

彼の国の工業生産の大いなる部分は、日本から主要な部品の供給を受けることによって成立しており、いまや彼の国の法人税の二割を占めるとまで言われる、サムシン電子などがその典型例であろう。

サムシン電子は主に家電製品を低価格で海外に輸出している韓国有数の企業であるが、この企業も、主に日本から主要部品の供給を受けて操業しており、それを止められてしまえば瞬時に息の根を止められてしまうと言う背景を持つ。

尤も、それを実行してしまえば、これまで供給を続けていた日本側の企業も、大なり小なり痛手を蒙ることは避けられない。

いわば販売先が倒産して、その売掛け代金の回収が絶望的になってしまうのと同じことなのだ。

サムシン電子は、ただでさえその資金繰りが逼迫し、既に買い掛け代金の決済が滞り始めており、この状況では、このまま日本側が黙って部品の供給を続けても、反って日本側の傷口が広がるばかりだ。

かと言って、傷口の拡大を恐れるあまり部品の供給を止めれば、その一瞬で、それまで滞った売り掛け代金が全て吹っ飛ぶ可能性が高い。

詰まり、日本側の企業にとっては、行くも地獄、退くも地獄の辛い状況にあることになり、せめて、彼の国の金詰りが解消されるように、日本側の銀行に融資を緩めてやって欲しいのだが、破綻寸前の企業に貸し出すほど銀行だって馬鹿じゃ無い。

あとは、日秋どちらかのいわゆる公的資金だけが、頼みの綱と言うことになってくる。

とにかくどんな名目でも良いから、どちらかの政府を動かして彼の国への支援を行わせ、その結果そのカネが回りまわって彼の国の景気の底入れを促すことによって、問題の解決を図りたい。

この構図の中で苦悶している日本企業は数多く存在し、この条件に当てはまる企業リストの中では、久我電子工業の名前が上位に挙げられていたのである。


さて、このころの先進五カ国会議では、米国を中心に英仏独の動きがある一点に向かって集約されつつあった。

その一点とは、北部朝鮮から公式な降伏の意思表示を引き出し、秋津州との講和を正式に果たさせることによって、その戦時体制を解かせることにある。

残る日本に対しても、より積極的に参加する姿勢が求められたが、最近の日本外交は、秋津州との協調姿勢がますます強まる気配があり、米英仏独四カ国の路線とは明らかに一線を画しつつある。

ニューヨーク辺りでは、北部朝鮮の国連代表の活動資金が枯渇し始めていると見て、これ等四カ国は、その資金を援助しながら専ら説得に努めているところだ。

彼らの口から、潜伏中の国家首脳に対して降伏の勧告をさせたいのである。

秋朝戦争の勝敗の帰趨などは、秋津州軍が本格的な反攻作戦を開始してから、ほんの一時間ほどで確定してしまっている筈であり、そのことに疑義を唱えるものなど、当事国以外にいる筈がない。

それにも拘らず、本来完璧な敗戦国の筈の首脳が降伏の意思表示をしないのには、それなりの理由がある。

その敗戦国の王たるものが、降伏することが自らの政治生命どころか、本当の命まで失われてしまうことを恐れているからだ。

要するに、恐怖に身がすくんでしまって出て来られないのであり、そこを何とかうまく引っ張り出して来なくてはならない。

そこで、先進五カ国会議が世界の主要国の一大シンジケートを構成してみせることによって、その影響力を行使しようとしているのだが、その中で日本だけが腰が引けていて、どう見ても本気で乗って来ようとしない。

いまや、日秋両国の外交政策に途方も無い影響力を持つとされる、新田源一自身が少しも乗ってこないのである。

タイラーが秋元女史との接触において得ている感触では、秋津州側が特別に講和を嫌っているようには思えないのだ。

だが、日本国の堂々たる官僚でもある新田の様子からは、日本政府が和平工作を急がない意思を持つことが見え隠れする。

その理由も、タイラーには分かっているつもりだ。

例の拉致被害者の捜査捜索に、思いの他手間取っているからであろう。

以前この問題について解決の見通しを尋ねると、新田の応えはにべも無いものであった。

「そんなことは、こっちが聞きたいくらいだ。分かるものなら教えてくれ。」と言ったのだ。

あるいは、「拉致した方に行って聞いてくれ。」と言い放つ始末で、そのときの新田が震えるほど怒っているのが分かった。

挙句の果てに「今になってこの件をそこまで問題にするくらいなら、米国の国連がもっと早く本気で問題にしてくれていれば、とうに片付いていた筈だろう。てめえの都合で好き勝手言ってんじゃねえ。」と声を荒げて憤ったのだ。

新田が、典雅さを売り物にするごく普通の外交官モードで話すとしたら、「我が国の国益は、必ずしも貴国の国益とは合致しないこともあり得る。」とか、言った筈だ。

特に、この時の「米国の国連」と言う新田の言い草が、各方面に波紋を広げ、のちのちまでさまざまな意味で影を落としていくことになる。

要するに新田は、「日本には日本の都合がある。」と言いたかったに過ぎないのだ。

現に「米国の国連」においては、表面上の奇麗事は別として、詰まるところ「そんな問題は当事国の間で直接解決しろよ。」と言うのが実質的な結論だったことは間違いない。

無論、日本には直接解決しようとする積極的な意欲が無かった。

いまだに国連憲章の中に敵国条項が謳われたままで、なおかつ実に風変わりな憲法があるのだ。

その憲法の規定では、自国の民が例え百万人さらわれてしまっても実力を行使すべき国防軍を持てないことになっており、そうである以上、身代金を支払う以外いかなる方策が残されていたと言うのか。

だが、その日本にもやっと実力行使を行える国際環境が整いつつあり、既に過去の日本では無い。

まして、この時の新田の目に大粒の涙が盛り上がってきているのを見るに及び、タイラーもそれ以上の攻勢をかけることを控えねばならなかったのだ。


同時に、ワシントンが積極的に取り組んだのは、例によって諸国のマスメディアを使うことであった。

何しろワシントンには、戦争の終結と言う実に美しい大義名分がある。

「和平」と書きさえすれば、ワシントンの掲げる旗印は光り輝いて見せることが出来るのである。

そして、いずれのメディアにせよ、基本的には戦争状態の延引を主張する筈は無い。

当然、戦争の終結と言う機運を盛り上げていくことについては、各メディアが諸手を上げて賛同するであろう。

ところが、実態は微妙に異なるものであった。

主要なメディアの全てが被占領地に入り、敗戦国の市民たちに対する情報開示に努めていて、そのことに相当な情熱を傾けていたのだ。

これこそが、ジャーナリスト本来の責務であると意気込んでいる者も多いと言う。

幸いにも、秋津州軍の人道的な占領政策がいまだに続いており、現地の栄養と衛生問題についても、秋津州自身が莫大なコストを負担しつつほぼ担保されている。

被占領地における生活物資などは、実際に開戦前の数倍もの量が流通しており、現地の住民たち自身も、以前とは比較にならないほど生活物資が豊かになったことを実感している筈だ。

その上、メディアに対する情報統制が全くなされない。

それどころか、メディアに対してさえ生活物資の無償配布が保障されている。

このような戦場が実在すること自体稀有なことであり、こういうケースで、真の意味のメディア活動が許されていることを、神に感謝しているとまで発言するジャーナリスたちがいたのだ。

その上彼等は、かつて「敗戦国の国造りはその人民自身の手に委ねられるべきだ。」と言う若者の言を聞いており、その実現の為に、これほどの支援が行われているものと信じている。

詰まり、ジャーナリストたちの大半が、秋津州国王の方針に全面的に賛同し、その延長線上で情熱を燃やしていることになる。

そのため、米国一流の恣意的な講和促進策には必ずしも賛同出来ないと言うメディアが多かったのだ。

結局、米国の身勝手な思惑は、ここでも打ち砕かれてしまったことになる。

無論、秋津州の戦時体制の解除などは望むべくも無く、タイラーが奔走する真の目的であるところの、政府専用機を以っての大統領の訪秋など実現する気配も無い。

そのストレスから来る胃の痛みは、当分収まりそうも無いことも目に見えている。


一方では、台中露三カ国の主導権争いが相も変わらぬデッドヒートの様相を呈し、その波紋が各方面にさまざまな影響を見せ始めていた。

当初から、台湾共和国が熱狂的に提唱していた「秋津州体制」と言う名称が、徐々に中露及びその政治的周辺国からも叫ばれるようになり、諸国のメディアの間ですら、ごく普遍的な用語としてひんぱんに登場してくるまでになった。

この秋津州体制と言う用語は言葉としては同じでも、その主張する中身は各国それぞれで大きく異なっており、中でも台湾共和国の主張が、その先鋭さにおいて一歩抜きん出ている感がある。

無論、台湾は、従来の国際秩序において大きく抑圧された過去を持つ。

その台湾としては、この戦後処理の過程を、これまで課せられてきた望まざる負の遺産を一挙に拭い去る、千載一遇の好機と捉えていることは明らかだ。

そのことが、又強烈なエネルギー源となって、火の様に燃え盛ってしまうのだろう。

このために、その動きが、ときに他国の神経を逆なでしてしまい、水面下の紛議を数多く生んでしまうのである。

近頃、特に各国の眉をひそめさせてしまっているのが、台湾代表の発した「台日秋の三カ国連合が国際秩序の枢軸であるべき」論であった。

今や強力な影響力を世界に及ぼしつつある日秋連合に擦り寄り、そこに自らが密接に関わることによって、自らのプレゼンスを高めようとしているが、それは、考えてみるまでもなく、中露を始め多くの国々が、出来ることなら、我こそはと思っていることなのだ。

殊に中国からすれば、この点で台湾の後塵を拝するなど、行きがかり上からも容認し難いことであり、猛烈に巻き返しを図るのも又当然のことだ。

本来台湾などは、自国領の一部に過ぎないと言いたいところだが、悲しいかなこれも成り行き上公式に言うことは憚られる。

台湾の独立そのものを表立って否定することは無理でも、きたるべき新体制の中では、せめて台湾より上位にランクインすることだけは、絶対に譲れない基本的な国策なのである。

それこそ、秋津州の国策を自国寄りにさせることに成功すれば、台湾に対する領有権を行使することも夢では無くなるのである。

まして、台湾に対する領有宣言を公式に取り消した訳でもなく、ただその問題に直接触れることを避けてきただけなのだ。

また、貧しいながらも北方の王者を名乗りたいロシアとしても、台湾のこの動きを極めて独善的なものと見ており、当然指をくわえて見ている筈は無い。

ロシア側の国益からすれば、無論日秋露の三カ国こそ世界の枢軸であるべきなのだ。

最近では、南樺太や全千島列島に対する領有権を、日本に譲る用意があることを匂わせてまで、巻き返しを図っている節まである。

これ等の領土も、たかだか六十年前に武力を以って日本から奪ったものであり、それを返してやっても良いと匂わせているわけだが、実際問題としてロシア当局がこれ等の領域の経営に失敗して、その維持にさえ苦慮している事実は、既に多くの人々が知ってしまっている。

秋津州と言う飛び抜けた存在が浮上してきて、その圧倒的な軍事力の翼下に好んで抱かれている以上、軍事的な防衛線としての領有価値は失われ、残るはその近海における漁業権くらいなものなのだ。

むしろ、その存在自体が、モスクワにとって重荷になってしまっていると言って良い。

ロシアにとってのその重荷を、恩着せがましくも、日本に返還してあげようと言っているに過ぎない。

無論、只でと言うわけではない。

当然、それ相応の見返りを期待して、その返還を匂わせている。

一時、ロシアの飛び地領カリーニングラードに関して、秋津州側にその経営の意思があるのではないかと囁かれたことがあった。

その噂が流れた遠因としては、ロシアにとって樺太や千島諸島と同様の意味で重荷になってきていることが挙げられる。

軍事的な前線基地としての重要性がますます薄らいできて、その経営にかかるコストの負担ばかりが、重くのしかかって来ているのである。

そのコストの負担を免れ、同時に秋津州国王の覚えを目出度くすると言う、一石二鳥を狙ったことも事実だ。

数日前、国王の朝食に自ら願って招かれたロシア代表部の者が、国王に直接打診していたことも事実であり、それを傍らで聞いていた日本人まで立派に存在していたのである。

その日本人とは、秋元女史の強力な推輓によって、前日の内に招かれていた久我京子のことであり、更にこの娘は充分な英会話能力を有していた。

そのため、目の前で行われたロシア代表と国王の英語を用いた会話を、残らず聞いてしまったのだ。

ロシア代表は、この娘の素性を国王の親族であると秋元女史から聞いていて、無論、それなりの敬意も払っていた。

娘を字義通り王族の一人であると解し、通常なら第三者の耳のあるところでなど、断じて口にすべきで無い話柄にまで触れてしまったことになる。

結局、この時の国王に全くその意思の無いことがはっきりして、ロシア代表は引き下がることになるのだが、久我京子としてはこのとき初めて、若者の君主としての真髄に触れたような気がしたと言う。

国王は、ロシア代表の申し出を謝絶するに際して言ったのだ。

「我が国の民が数千万にもなっておれば、貴国の申し出を前向きに検討することになったかも知れない。」

詰まり、自国の領土など、自国の民が住み暮らすために必要な分さえあれば良いのだと言う意味に繋がるであろう。

裏返せば、領土が不足するほどに国民が増殖してしまえば、当然それに足るだけの領土が必要になるのである。

統治者としての王は、自国民が住み暮らすためには、どのような領土がどれほどの広さで必要になるかを、深く慮って国を統治していると言うことになる。

仮に、秋津州の人口が将来爆発的に増えた場合、いったいどれくらいの人が、この秋津州の大地で済み暮らすことが出来るだろう。

若い京子にとっては、ただの一度も真剣に考えてみたことの無い主題であり、ロシア代表がその場を辞したあとで改めてその疑問をぶつけてみたと言う。

「秋津州の大地で暮らしていける人の限界って、いったい何人くらいなのでしょう。」

全く物怖じしない問いかけだ。

「その設問に答えるためには、沢山の引き数に適確な条件を当てはめてやる必要があるだろうな。」

若者はそれらの前提条件を示さなければ、答えが出てこないと言う。

「例えば、食糧の自給率をゼロとして考えた場合ならどうでしょう。大規模な集合住宅を沢山お造りになれば、一億人ぐらいは暮らしていけるのではないでしょうか。」

国内を全て宅地化して、超高層集合住宅を大量に建設したとしたらどうだろう。

現に若者は首都に限って言えば、ここ数ヶ月の間に相当数の高層建築を完成させている。

「思い違いをしておられる。」

「そうでしょうか。」

娘は、大いに不満のようだ。

「仮に、農耕地の全てを潰して宅地となし、そなたの申すとおり大規模な集合住宅を大量に造れば、一億人分の住宅を用意することも可能であろう。だが、先ずそれだけの民が使用する生活用水のことを考えねばなるまい。」

「はい。」

娘ははっとした。

絶対に水は必要になる。

それも、膨大な量が必要になる筈だ。

「全土を宅地化するとなれば、当然舗装面積が増え、いずれ地下水脈も枯れてしまう。」

全土の宅地化のためには、北方の山を切り崩した土砂を以て、その麓の北浦を埋め立てることになる。

北浦は秋津州にとって、二つと無い天然の水がめなのである。

その水源が失われ、加茂川や高野川も干上がってしまう。

その上、国土の舗装率が格段に上がり、その分だけ地表の水がそのまま海に流れていってしまうのである。

せっかく雨が降っても地中に滲み込むことが出来ずに、あっさりと海まで流れていってしまうことになるのだ。

地表の水源や水流が失われてしまえば、あとの頼りは地下水と雨水だけだ。

「はい。」

「地下水脈は貴重なものだ。」

秋津州においては上下水道はおろか農業用水も、全て地下水に頼らずに賄えるよう、盛んに利水事業を進めて来た経緯がある。

地下水脈は大渇水の際に始めて使うことが許されることが、国民議会の全会一致で決議されたほどだ。

現在の秋津州には、燃料用のガスと同様に民間用の井戸は一本も無い。

あるのは、地下水の保水状況の探査のための井戸だけなのだ。

「あ、それで池をたくさんお造りになったのですね。」

王は、相当な数の保水池を造ったと聞いた。

また、池についてはほかにも興味ある話を聞いた覚えがある。

首都部の北側に三千平方メートルほどの窪地があり、なだらかな斜面に周囲を囲まれた底の方に五百平方メートルほどの水溜りがあった。

その中途半端な水溜りを見た外国人の間に、そこも埋め立てて開発造成すべしと言う意見が多く聞かれたときも、王はそこを潰さなかったのだ。

その水溜りが今ではかなり大きな池に成長しており、その保水能力を遺憾なく発揮している。

少しの降雨量でもその雨水は周囲の斜面を勢い良く駆け下り、水溜りに溜まってくれるのだ。

乾季には大分干上がってしまう水溜りも、雨季には大量の雨水が溜まって大きな池となり、その水は少しづつ地下に滲み込み地下水となっていく。

「それに、海水だけでは工業用水にも困る。」

「その場合農業がないのですから、自然、工業の割合が増えてしまいますわね。」

「水と土と日輪が民を育んでくれるのだ。」

「はい。」

「水と土を守ることが私の仕事だと思っている。」

「太陽は?」

「ふむ、二酸化炭素やフロンガスなどの大掃除もかなり進んでおる。」

秋津州財団の二大事業の一つが大気汚染対策であり、この瞬間にも、空気浄化機能を備えた膨大なSDが、各地のはるかな上空で粛々と活動を続けている。

健全な太陽光線を受け続けるためにも、猛スピードで進んでいる地球温暖化現象を阻止することは、人類にとって絶対に必要なことなのだ。

「あら、そうでしたわね。」

「将来は海洋汚染にも対応していきたいものだ。」

「あんなに広い海でも汚れるんでしょうか。」

「汚しているのは我々人間だよ。」

「あ、じゃぁ、人間が増えれば増えるほど海も汚れちゃうんですね。」

「うむ、私は我が一族の生存のために大掃除をしておる。」

「あら、全人類のためではありませんの?」

「それは、それぞれの国の人間がそれぞれでやれば良い。」

「それは必要ですわよね。」

「私は自分の国のことで手一杯だよ。」

若者は、自国民の生存を担保することを最優先としており、娘にしてみてもそれはそれで為政者としてごく当然のことだとは思うが、そうすると、将来、もし秋津州の人口が五千万とか一億とかに増えたときは、積極的に移民政策を採るのかしら。

その移民を受け入れてもらえない場合、国王は他国の領土を侵略してでも、自国民の生活の場を確保する義務を負うことになるのかしら。

それとも、強制的に人口増加を抑えるための非人道的な政策を推し進めることになるのかしら。

そう言えばこの若者は、世界各地に存在する広大な砂漠地帯の譲渡を受けて、その緑化を行う用意があると言ったことがあった。

今にして思えば、平和的な経済取引による領土の割譲が可能であれば、そのときには意欲的にその獲得を目指すと言うのだろうか。

こののち、娘は深く考えるところがあったと言う。

秋元女史の強い意志が、ほんのわずかのあいだに再三に亘って久我京子の来訪を実現させる結果を生み、娘自身もそのことを誇らしく受け止めてもいる。

その上、若者は一度だけとは言え久我家の招きにも応じ、その家の一人娘でもある京子の手料理を振舞われる場面まであったくらいなのだ。

そのときの様子では、娘本人よりもその両親の方が非常な緊張振りを見せていたようで、いずれにしても、この出会ったばかりの若い二人のあいだには、かなりの親近感が生まれていたことだけは確かだ。

だが、各国の報道がいよいよ騒ぎ始めたお妃選びと言う話題の中には、その候補者として久我京子の名は未だ登場せず、ダイアンを筆頭に、アフリカ系やアラブ系の女性の名前ばかりが煌びやかに並んでいたのである。

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  1. 2005/11/03(木) 14:44:55|
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