日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 041

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東京では、一月の末になって、立川みどりがやっと新居に引き移ることが出来たが、それは、衣装の収納のための一室まで具えた、自分には不釣り合いなほど豪奢なものであった。

もともと千代さんのアドバイスから生まれたその部屋は、あの方の衣服を収納するためのもので、豪勢な家具調度にしても、当然そうなんだろうと理解していたけれど、どうやら少し違ったかも知れない。

肝心のご本人が、全く訪れる気配も無いのである。

あたしだって、毎日流れているニュースくらいは見てるんだから、あの方がとてもお忙しいことも分かってはいる。

分かってはいるけれど、一度くらいはお出でになれる筈だとも思うのだ。

それとなく神宮前に様子伺いをしてみても、さすがの千代さんもあの方のお気持ちまでは、知らされてはいないらしい。

その点は、やっぱりあの方に直接伺ってみるしかないみたい。

お国でお正月の集まりがあったのもニュースで見たけれど、例え前から知っていたとしても、あたしの場合は遠慮しておくのが筋だとも思う。

そのニュースでは、お妃候補だとか言う外人の娘さんたちが綺麗に着飾って、何人もしてあの方を取り囲んでいたっけ。

その派手な輪の中には、振袖姿の日本の娘さんたちも大勢混じってらした。

マスコミでは、有力候補の番付け表まで作って面白おかしくネタにしてるけど、ほんと、いったいどなたが一番手なんだろう。

やっぱり、あの二メートルもありそうなダイアンさまなのかしら。

それとも、アフリカの真っ黒なお嬢さまとかアラブ系のお綺麗な方なのかしらねえ。

どなただろうと、あたしには関係ないけれど、確か、お振袖の久我さまのお嬢さまもいらしてたみたい。

それにしても、お店の方が毎日目が回るほど忙しい。

今までのお客様には悪いけど、客ダネ自体ひどく変わっちゃったみたい。

前だったらうちの店になんか、とても来てくれそうも無い方ばっかりで満席になっちゃうことが多くなって、そのくせ不思議と回転は悪くないのである。

結局、あの方にご挨拶なさりたい方ばっかりみたい。

どうせ、お名刺だけでもあの方に通して置きたいんでしょ。

こないだ、秋津州国王の隠された女性関係とか何とか銘打って、あたしの顔写真がでかでかと週刊誌に載った事があって、そのあとしばらくの間、取材だとか何だだとかうるさかったけど、別に悪いことしてるわけじゃあるまいし、クラブ碧のママと大事なお客さまのお一人としての関係ですとしか言うわけないでしょ。

最近、やっとその騒ぎも収まってきて、少しだけ静かになったみたいだけど、当時はお店の子にまで付き纏って、ほんとにうるさくて困っちゃったわ。

一番若い理恵ちゃんなんかは、逆にほんとのところを聞きたがって仕方がなかったくらいなんだもの。

この仕事をしてる女は、あんまりお客さまのことに首を突っ込みたがるものではないのだけれど、今の子に分からせるのはほんと難しいと思う。

あの子はけっこう良いところのお嬢さんで、育ちも悪くないし本物の女子大生なのに、よっぽどこの仕事が好きみたい。

お客さまの受けが悪く無いのも、きっとあの素人くさいところが気に入られているに違いない。

きっと、これからはああいう子の方が、この世界でうまくやっていけるのかも知れない。

そう言えば、あたしが社長さんをする会社も正式に出来上がって、重役さんはみんな秋元姉妹の名前がずらっと並んでいたっけ。

会社の名前も立川商事に決まって、その会社の住所は、じきに開店の準備を終えそうな新しいお店の方になっていた。

その開店祝いの招待状も刷り上って来て、念のため、招待状をお出しする名簿を見せたら、千代さんにそんな必要は無いでしょって言われてしまった。

お店のお引越しの日にちを、口コミでちょっとしゃべっておけばそれだけで充分だと仰るのだ。

それと、どうせなら新しいお店では一番奥の席を、あの方専用にキープしておきたいと言ったら、しばらく考えてからそれは良いアイデアかも知れないと仰っていた。

カウンターをぐるっと回り込んだ影になるところに、別に三坪ほどスペースをとっておいてほんと良かったわ。

そこに、ゆったりとしたあの方専用のシートを置いてお出でをお待ちしよう。

一般のお客さま用のボックスからは、死角になっていて全然見えない場所なのだ。

そこには、いつもリザーブの札を立てておこう。

そうしてても、お店のスペースは充分過ぎるほどなのだから。


二月十四日、新しいお店の開店の日が来た。

早い時間から張り切って準備にかかっていると、続々とお祝いの品が届き始め、開店を待ちきれない風のお客さま方が次々と来て下さった。

お客さまが入り切れないほどの大盛況が一晩中続いたので、まあ、初日だからこれくらいは普通なのかとも思ったが、それがその週いっぱいずっと続いたのだ。

理沙が見かねて、ボックスを二つほど増やして、もっとお客さまをお入れした方がいいと言い出したけど、そんなことをする気はさらさら無い。

ちょっと詰めれば、あと四つや五つは楽にボックスを並べられるくらいゆったりとした配置にしてあるのだ。

それに、そんなにいっぱいいっぱいにしちゃったら、それこそファミリーレストランみたいになっちゃうじゃないの。

どだい、もうそんなガツガツした商売なんかする気にはなれないのである。

どうせ、大部分のお客さまたちのお目当ては分かりきってるし、その証拠に、ほとんどのご指名があたしにばっかり集中してしまうのだ。

相変わらずお客の回転は良過ぎるくらいで、あまり長っ尻りのお客さまはいないし、自然、特定の子がお目当てのお客さまの長っ尻りばかりが目立つようにもなってくる。

あの方目当てのお客さまの場合、大抵秘書か運転手さん付きだし、表に車を止めさせて席の空くのを待っていてくれる人もいるくらいで、一組お帰りになると又直ぐに空席が埋まってしまう。

とにかく、自分でも信じられないくらいの大入りが続いており、忙しさにかまけて気を紛らしてはいるけど、肝心のあの方は一度もお出でにならない。

これじゃ、お礼のご挨拶も出来ないじゃないの。

まさか、まるっきりお忘れの筈は無いだろうし、きっと相変わらずお忙しいのだろう。

いろいろ思い巡らし、そろそろ苛立ち始めたころ、あの方専用に用意した携帯電話が鳴った。

この電話だけは、普通に鳴るようにしてあるのだ。

未だ開店直後の早い時間帯なのに、意地の悪いことに満席になってしまってる。

その番号はほかの客には一切教えてないし、着メロも秋津州の国歌をわざわざ理恵に頼んで登録させたくらいで聞き間違える筈が無い。

きっとあの方に違いないのだ。

「はい。みどりでございます。」

飛び立つようにして専用ボックスに移り、わくわくしながら出てみると、二ヶ月振りの懐かしい声がして、途端に涙が出そうになってしまった。

「今、寄っていいかな。」

「・・・。」

一瞬、言葉に詰まってしまい、いっぺんに胸の中の恨み言が吹き出してきそうになった。

「どうした。」

「ずっとお待ちしておりましたのに・・・。」

「うむ。三十分後に。」

あっけなく通話が切れてから、改めて大変だと思った。

そうだ、やっぱりお部屋の方でお待ちしてなくちゃ。

理恵ちゃんなんか、例の着メロに反応してきょろきょろしちゃってるし、ほかの子も何人かは感づいてるに違いない。

理沙を目顔で呼んであとを頼むと、急いでエレベーターに乗って部屋に戻り、大慌てで顔を直し身繕いをしていた。

もう、てっきりこの部屋の方にお出でになるものとばかり思い込んでしまったのだ。

あの方は、あんなにお若いのだし、お風呂にお入りになる余裕も無いかも知れないけれど、とりあえずお湯を張っておかなくちゃ。

もう、ほかのお客さまのことなど、どこかに飛んで行ってしまっていて、ただただわくわくと、何をどうしていいか分からないほどうろたえてしまっている。

エアコンを入れながら部屋の空気を入れ替え、特大のベッドも改めて直した。

炊飯器は二つ買ってある。

その内の一つは、いつでもスィッチを入れるばかりに用意してあり、直ぐにスィッチを入れた。

無駄になったってかまやしない。

自分でも呆れるくらい自然に体が動いて、お味噌汁の出汁をとろうとしたとき部屋の電話が鳴った。

留守を任せた理沙からで、あの方がお店の方に見えていると言う。

もう、ほんとに慌てちゃった。

なんでこっちじゃないのよ。

それでも、姿見に写る我が身を点検して又エレベーターに乗ったのだ。

お店に入ったときは、きっと血相が変わっていたに違いない。

気を取り直して、それでもお出でになったばかりのお客様にご挨拶することだけは忘れずに済んだ。

理沙がそこにもお客さまをお入れした方がいいと言い続けた特別席は、一切ほかのお客さまに開放したことは無く、頑なに守り続けてきてほんとに良かったと思う。

その奥に入ると、あの方の隣にいた理沙がさりげなく立って席を替わった。

ちゃんとご挨拶しなくちゃいけないとは思うものの、それが言葉になって出てこないのだ。

もう一人の子も気を利かせて立って行ってくれて、もう周りには誰もいない。

無言のまま改めて男らしい横顔を見つめながら、何から話そうか、まるまる二ヶ月もほったらかしにされた恨み言を言ってやろうかと思う内に、つい涙ぐんでしまったのである。

「未だ何か困っておるのか?」

見れば、ご自分の方が、よほど困った顔をしてらっしゃる。

いい気味だわ。

「・・・。」

「何か、悪いことでもしてしまったかな?」

「たくさん、なさいましたわ。」

「私がか?」

若者はきょとんとしている。

「でも、もう許して差し上げます。」

充分に気が済んだのだ。

「そうか、それはありがたい。」

「あの、このたびは、ほんとにありがとうございました。」

思えば、未だ一言の礼も言ってなかったのである。

「何か不自由はないか?」

「一つだけ、ありますわ。」

「何かな?」

分からないのかしら、憎らしい。

「陛下のお出でが無いことでございますっ。」

語尾につい力が入った。

「・・・。」

人の気も知らないで、にこにこ笑っているのだ。

全く憎らしい。

「でも、もうよろしいんですの。」

「うむ、何でも神宮前の方に相談しなさい。」

「はい。たいへん良くしていただいておりますわ。」

実際、千代さんのすることには何から何まで全くそつが無いのである。

「それは、良かった。」

「それより、今夜はこれからどうなさいますの?」

「うむ、あまり時間が無い。」

それじゃ大変だ。

「それじゃ、あの、直ぐにお部屋に参りましょ。あの、お風呂も沸いておりますから。」

言ってしまってから、小娘のように真っ赤になってしまった。

これじゃ、女のあたしの方から、お床入りをせがんだことになっちゃう。

若者は、無言でこっちの顔を見ている。

「いやっ、恥ずかしいっ。」

これじゃ、どっちが年上か分からないじゃないの。

しばらく、顔があげられなかったのである。

仕方が無いから、若者のグラスをとって黙ってお代わりを作り、ついでに自分の分も作った。

我ながら動悸が激しい。

男の耳にまで、それが届いてしまっているような気がしてきて、益々鼓動が激しさを加えて行く。

もう少し、しっかりしているつもりだったのに。

気がつけば、若者はグラスを掲げて待ってくれている。

慌ててグラスを合わせると、逞しい顔がどこか寂しそうに微笑んでいた。

「何か、ございましたの?」

「いや・・・。」

今、国王陛下のお顔が、少年のそれに戻ってグラスの中の小宇宙をじっと見つめている。

それは、どこか遠くを見ているような、言いようも無い寂しさを漂わせた横顔だった。

若者のこんな顔を見るのは始めてのことでもあり、こっちの胸まで息苦しくなってくる。

いったい、何があったのだろう。

おっしゃらなくてもいい、きっと、とてもお辛いことがおありになるのね。

この方の悩みが何なのか判ったとしても、あたしなんかじゃとてもお役には立てないとは思うけど。

若者は二十分ほどの短いときを過ごしただけで、又あっさりと帰っていってしまった。

お見送りのときにびっくりしたのは、女の子たちばかりかお客さままで外に出て、腰をかがめて丁重にお辞儀をしてくれたことだった。

それに気付いたあの方も、同じように丁寧なお辞儀をなさっていたけど、次の日のワイドショーでは、このお見送りのシーンが何度も流れ、あの方がお辞儀をしてからいつものお供の方と一緒に、いきなり姿を消しておしまいになる場面ばかり繰り返していた。

こんなの、前からいる子なんか、あの時の余興も目の前で見てたくらいだし、もう大喜びで拍手してたくらいだわ。

あのあとは、とにかく訳ありのお名刺が殺到して困ったけど、今一番頭の痛いことはほかにある。

一流と言われてるお店のママさんたちが、おエラい方々を次々と案内してきてくれることだ。

前の店のときなんか、それこそ鼻も引っ掛けてくれなかった筈なのに。

普通、今度はこちらもお客さまを連れてお返しに行かなくちゃいけないことになるのだ。

お客様に一言頼めば、たいていの人は喜んで付き合ってくれるとは思うけど、こちらから頼めば頼んだでそこには又ヘンな義理が出来ちゃう。

まさか、あの方に頼めるはずも無いし。

今じゃ、こういうお付き合いもほとんど気が重いだけだし、ただ、どうしても義理を返して置きたい相手もいないこともないのだ。

それは、「佐竹」と言うこの世界でも超一流と言われてるお店で、そこのママには、昔随分お世話になったこともあるし、出来れば一度だけでもあの方をお連れすることが出来たら、きっと良いご恩返しになるのだけれど。

でも、そんなの無理に決まってるわ。

そんなこと言ったら、きっと罰が当たっちゃう。

ところが、みどりのこの願いも、あっさりと叶えられることになる。

次の日、神宮前に前日の営業内容を報告するときに、たまたま電話口に出た千代さんに、このお義理の付き合いのことを冗談交じりに話してみたところ、夕方未だ暗くなったばかりのころあの方から電話が入ったのだ。

おまけに、なにもかも機嫌よく承知してくれて、かえってこっちの方が驚いてしまったくらい。

お願いした通り三十分後にはおいでになり、お風呂にも入ってくれてほんとに嬉しかった。

いつものお供の井上さんは、いくら勧めても部屋の中には入ってこないし、外の通路にずっと立っていられるのも結構気になるものだわ。

もっとも、ここは最上階でほかに住人はいないようだし、普通、ここまで上がってくる人もいないだろう。

それでも、せめておにぎりとお茶ぐらいは出して差しあげたいと言ってみたが、あの方に笑って止められてしまった。

お供の方は、出先では一切何も口にしないのだそうだ。

そう言えば、前の碧のときもいくら勧めても一滴も口にしなかったのを思い出した。

でも、ほんとに放っといていいのかしらねえ。

それにしても、あの方はやっぱりお育ちが違うみたい。

お風呂のときも、まるで平気でお脱ぎになるのだ。

きっと、子供のころから大勢のお側の方々の手でお着替えなさってらしたに違いない。

それに、とてもご立派なお体を前にして、お手伝いしてるあたしの方が目をそらしてしまったくらい。

お着替え用の下着も、ワイシャツや靴下も勿論揃えてある。

あの六尺と言う古風な下着も、神宮前に置いてあった物を幾つか分けてもらって、それを見本にしてたくさん用意した。

その真新しい下着も肌触りのことを考えて、わざわざ何度も洗濯をしてからしまっておいたのだ。

今は、その下着ひとつにガウンを羽織っただけのかっこうで、初めてあたしの手料理を食べてくれている。

五合もの炊き立てのご飯をお味噌汁とほんの少しのおかずだけで見事に平らげてくれて、話には聞いていたけれど、その食欲にはほんとびっくりさせられてしまった。

下のお店で少し飲んでもらってから、ちょっと早めに、出かけることに致しましょう。

直ぐ近くだけど、歩くと目立ってしょうがないから車を呼ぼうとしたらそれは止められて、結局あの方のいつもの方法で気がついたらあっという間に「佐竹」の前に着いてしまっていた。

電話してあったので、佐竹のママが女の子を引き連れて表まで出迎えに出てくれていて、随分丁重に案内に立ってくれた。

やっぱり佐竹の女の子たちは躾けが行き届いているようで、あまり派手な騒ぎ方はしないのである。

これがうちの子たちだったら、もう大変な騒ぎになっていた筈だ。

上品な接待を受けながら、一時間ほどで引き上げてきたけど、とにかく佐竹のママにはとても感謝されて、これで義理を立てることが出来てほんとに嬉しかった。

おまけに、あの方ったら佐竹のママに挨拶までしてくれたのだ。

「随分お世話になったそうで、私からも礼を言います。」

と言って、頭まで下げてくれて、あたしの顔を立ててくれるのだ。

少なくとも、陛下ご自身があたしの旦那だと宣言してしまったことになり、もう、これにはありがたくて涙が出そうになっちゃった。

挙句に、ママと二人並んだところを写真に撮るのも気軽に許してくれた。

結局、この日もとうとうお泊りいただけずに、あの方は碧でちょっと飲んだだけで、あっさりお帰りになってしまった。

もう、その足で外国訪問の旅にお出かけになるのだそうで、当分はその予定がぎっしり詰まっているらしい。

でも、佐竹のママにご自分で仰った事だけは直ぐに広まっちゃうだろうし、これからはあの方の恥になるようなことは絶対出来ないと改めて思う。

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  1. 2005/11/04(金) 01:40:05|
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